説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】、新たな構造や部材を必要とせず、ダミーノズルへの気泡の移動が効果的に促進される液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を得ること。
【解決手段】クリーニング操作の際、マニホールド24が減圧されると、薄膜部132がマニホールド24の体積を減少させる方向に撓み、インク導入口27からノズル列200の端201および端202にかけて流路B1が形成される。流路B1が形成されることにより、気泡BA移動の通路が確保されるとともにインクの流速を早めることができる。したがって、圧力室23およびノズル開口210への気泡BAの移動が効率的に行なわれ、ノズル開口210から気泡BAが効率的に排出され、排出時のインクの使用量の少ないインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニホールドから液体供給路を介して複数の圧力室へ液体を供給する液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、圧電素子の変位による圧力室内の圧力変化を利用して、ノズル列を構成する複数のノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドが知られている。
具体的には、ノズル開口に連通する圧力室に圧力発生手段である圧電素子を設け、圧電素子に電圧を印加して圧電素子を収縮または膨張させることで、圧力室内を減圧してインクを供給しまたは圧力室内を加圧してノズル開口からインク滴を吐出する。
インクは、インクカートリッジ等のインク供給手段に貯蔵されていて、インク導入路を通過してインク導入口からマニホールドに供給され、インク供給路を介して複数の圧力室へ供給される。
【0003】
インク供給手段に貯蔵されたインクが消費されてインク供給手段が交換されると、インク供給手段の挿脱により、気泡がインク導入路からマニホールド内に侵入し、インクの吐出不良が生ずる。その場合、ノズル開口の形成されたノズルプレートをキャップ部材等で封止し、吸引ポンプの負圧をノズル開口に作用させて、インクとともに気泡を排出する動作、いわゆるクリーニング操作が行われる。
【0004】
マニホールドとしてのリザーバーからインク供給路を介して圧力室にインクを供給するインクジェット式記録ヘッドにおいて、インク導入口からインク供給路としてのノズル供給口に向かう方向のリザーバーに段差を設け、気泡の排除性を低下させることなくリザーバーのコンプライアンスを向上したインクジェット式記録ヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、気泡の排除性に関しては、インク滴を水平に噴射する場合に、重力とは反対方向の上部にダミーノズルを設け、浮力によりダミーノズルに気泡を集め排出する構造が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−121690号公報(5頁、図7)
【特許文献2】特開2002−273870号公報(3頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
気泡の浮力を利用する構造では、気泡の移動が効率的に促進されにくく、ノズル開口から効率的に気泡が排出されにくい。したがって、気泡の排出のための液体の使用量が多くなり無駄が多い。また、気泡の排除性の低下を抑えるために、マニホールドであるリザーバーに段差を設けるには、その段差に気泡が留まる可能性が生じる上、新たな構造や部材を採用する必要があり、製造コストの低減が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題のうち少なくとも一つを解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
液体を噴射する複数のノズル開口からなるノズル列と、前記ノズル開口にそれぞれに対応して連通する圧力室と、前記圧力室の圧力を変化させる圧力発生手段と、複数の前記圧力室に連通する共通の液室であるマニホールドと、前記マニホールドに液体を導入する液体導入口と、前記マニホールドの一部を構成し、撓むことによって、前記液体導入口から前記ノズル列の少なくとも一端に対応する前記圧力室にかけて前記マニホールド内に流路を形成する可撓部材とを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0009】
この適用例によれば、クリーニング操作の際、マニホールドが減圧されると、可撓部材がマニホールドの体積を減少させる方向に撓み、液体導入口からノズル列の端に対応する圧力室にかけて流路が形成される。流路が形成されることにより、気泡移動の通路が確保されるとともに液体の流速が早まる。したがって、圧力室およびノズル開口への気泡の移動が効率的に行なわれ、ノズル開口から気泡が効率的に排出され、排出時の液体の使用量の少ない液体噴射ヘッドが得られる。
また、液体噴射時に圧力室から液体供給路を介してマニホールドに伝わる圧力変化を緩和するために用いる部材を可撓部材として併用できるので、新たな構造や部材の使用を抑え、製造コストを低減した液体噴射ヘッドが得られる。
【0010】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記可撓部材は、前記流路に沿った撓み量の小さい基部と、前記基部と比較して撓み量の大きい撓み部とを備えていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、可撓部材の撓み量の大きい撓み部が撓むことにより、流路に沿った撓み量の小さい基部に沿って、流路と流路でない部分との区画がされ、液体導入口からノズル列の少なくとも一端に対応する圧力室にかけてマニホールド内に流路が形成される。したがって、可撓部材によって流路の大部分が形成され、新たな構造や部材の使用をより抑えた液体噴射ヘッドが得られる。
【0011】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記流路の形成された前記ノズル列の端付近の前記圧力室に前記圧力発生手段が設けられていない、または前記ノズル列の端付近の前記圧力室に設けられた前記圧力発生手段が、前記ノズル列の端付近の前記圧力室とは異なる圧力室に設けられた前記圧力発生手段が駆動しているときに、駆動しないことを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、両側を圧力室で挟まれた圧力室と比較して圧力変化の挙動が異なるノズル列の端付近の圧力室に圧力発生手段を設けないか、または設けられた圧力発生手段を駆動させないことにより、ノズル列内の液体の噴射特性が均一になる。
【0012】
[適用例4]
上記液体噴射ヘッドと、前記ノズル開口の形成されたノズルプレートに密着するキャップ部材と、前記キャップ部材を介し、前記ノズル開口を吸引する吸引ポンプとを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0013】
この適用例によれば、吸引ポンプによりキャップ部材を介し、ノズル開口を吸引することにより、前述の効果を有する液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態におけるインクジェット式記録装置を示す概略斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの図3におけるB−B断面に相当する概略断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドを図2のA−A面から見た部分平面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの概略部分拡大断面図。
【図5】インクジェット式記録ヘッドを図2のA−A面から見た部分平面図。
【図6】第2実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの図7におけるE−E概略部分拡大断面図。
【図7】インクジェット式記録ヘッドを図6のD−D面から見た部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる液体噴射装置の一例としてのインクジェット式記録装置1000を示す概略斜視図である。インクジェット式記録装置1000は、記録媒体である記録シートSに液体としてのインクを吐出して記録を行う装置である。
図1において、インクジェット式記録装置1000は、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド1を有する記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを備えている。記録ヘッドユニット1Aおよび1Bには、インク供給手段を構成するカートリッジ2Aおよび2Bが着脱可能に設けられている。
ここで、インクジェット式記録ヘッド1は、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bの記録シートSと対向する側に設けられており、図1においては図示されていない。
【0016】
記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1Aおよび1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物およびカラーインク組成物を吐出するものである。
【0017】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1Aおよび1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動する。
一方、装置本体4にはキャリッジ3に沿ってプラテン8が設けられている。このプラテン8は図示しない紙送りモーターの駆動力により回転できるようになっており、給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0018】
さらに、インクジェット式記録装置1000には、カートリッジ2Aおよび2Bからインクジェット式記録ヘッド1に向けてインクを強制的に吸引する、クリーニング操作のための吸引ポンプ100が設けられている。
【0019】
以下に、図2および図3を参照して、インクジェット式記録ヘッド1について詳細に説明する。
図2はインクジェット式記録ヘッド1の概略断面図を、図3は図2のA−A面から見た部分平面図を示している。ここで、図2は図3のB−B断面に相当する概略断面図である。
【0020】
図2において、インクジェット式記録ヘッド1は、アクチュエーターユニット10と流路ユニット20とケース30とを備えている。流路ユニット20とケース30とは接合されている。
【0021】
アクチュエーターユニット10は、圧力発生手段としての圧電素子11と第1のプレート12とを備えている。
圧電素子11は、流路ユニット20に形成された圧力室23に第1のプレート12を挟んで対向するようにケース30の収納室31に挿入され、固定用基板32に固定されている。
圧電素子11は、図1に示した記録ヘッドユニット1Aまたは1Bとフレキシブルケーブル9によって接続され、電圧が印加されると第1のプレート12に向かって伸縮し、圧力室23の容積を変化させる。
【0022】
第1のプレート12は、厚さが2〜10μmの弾性体膜13と厚さが数十μmのステンレス板14との2層構造である。弾性体膜13は、PPS(ポリフェニレンサルファイト)やポリイミドなどの高分子膜を用いることができるが、可撓部材であれば高分子膜に限らない。例えば、ガラスファイバー、カーボンファイバー等と高分子との複合物や可撓性を有する無機物であってもよい。
第1のプレート12の圧力室23に対応する部分は、ステンレス板14をエッチング加工して得られる圧電素子11を当接固定するための島部15と島部15の形成されていない弾性体膜13からなる薄膜部131とを備えている。
圧電素子11の伸縮によって島部15が変位して、弾性体膜13からなる薄膜部131が変形し、圧力室23の容積が変化する。
もちろん、ステンレス板14の一部をエッチングなどで薄膜化して、その薄膜化した領域を薄膜部131として用いてもよい。
【0023】
流路ユニット20は、流路基板22を間に挟んで、複数のノズル開口210を有する第2のプレートとしてのノズルプレート21と第1のプレート12とを両側に積層することにより構成されている。
図3において、複数のノズル開口210は、ドット形成密度に対応したピッチで形成され、ノズル列200を構成している。
【0024】
図2および図3において、流路基板22には、ノズル開口210にそれぞれ連通して圧力室隔壁26を隔てて列設された複数の圧力室23と、各圧力室23に供給するインクを貯蔵するマニホールド24と、マニホールド24とそれぞれの圧力室23との間を連通するインク供給路25などが隔壁部によって区画されることにより形成されている。
【0025】
第1のプレート12のマニホールド24のインク供給路25側に対応する大部分の領域は、ステンレス板14をフォトエッチング加工で除去された弾性体膜13のみからなる。これにより、マニホールド24の一方の開口面を封止する可撓部材からなる薄膜部132として機能する。より具体的には、マニホールド24には圧力室23、インク供給路25側の第1の壁面側と後述するインク導入口27の第2の壁面側とが形成されており、マニホールド24の一面を覆う第1のプレート12の弾性体膜13からなる薄膜部131は、第1の壁面側から第2の壁面側に向かう途中まで形成されている。
一方、第1のプレート12のマニホールド24のインク供給路25側(第1の壁面側)とは反対側(第2の壁面側)の壁240に近い領域は、ステンレス板14と弾性体膜13とからなり、薄膜部131とは相対的に厚みが厚くなっている厚膜部121となっている。
また、マニホールド24にインクを導入するインク導入口27が、厚膜部121のノズル列200の中心Cに相当する位置に形成されている。
【0026】
本実施形態では、図3において、厚膜部121は、インク導入口27から壁240に沿ってノズル列200の端201および端202付近に相当するインク供給路25にかけて形成されている。
【0027】
流路基板22にはシリコンウェハーを用い、マニホールド24を異方性フルエッチングにより貫通孔として形成し、また圧力室23やインク供給路25を異方性ハーフエッチングにより凹部として形成することができる。圧力室23の一端にインク供給路25が接続され、このインク供給路25とは反対側の端部近傍にノズル開口210が位置している。
【0028】
なお、流路基板22には、シリコンウェハーの他、エッチング可能でかつ耐食性を持つ金属やガラス等の部材を用いることができる。また、厚み方向に複数の層に分解し、各層の貫通孔に一致する貫通孔を形成したエッチングフィルムを積層することにより構成してもよい。
【0029】
第1のプレート12、流路基板22およびノズルプレート21を積層して流路ユニット20を構成する場合には、流路基板22を間に挟んで、ノズルプレート21を流路基板22の一方の面に接着するとともに、ステンレス板14が外側に位置する状態で第1のプレート12を流路基板22の他方の面に接着する。この様にして流路基板22を組み立てると、流路基板22の各圧力室23およびマニホールド24の一方の開口面がそれぞれ薄膜部131,132により封止されるとともに、インク供給路25の上面開口が弾性体膜13で覆われ、また、各圧力室23およびマニホールド24の他方の開口面がノズルプレート21によって区画される。
【0030】
図2において、ケース30には、流路ユニット20を接合するケース30の表面のうち、マニホールド24の開口部に対応した部分に外部連通孔33により大気に連通された凹部34が形成されている。凹部34によって、薄膜部132がケース30に対して接触しないようにして流路ユニット20がケース30に固定されている。凹部34は、薄膜部132が膨張側に撓んだ場合における移動空間として機能する空部である。
また、ケース30には、図1に示したカートリッジ2Aおよび2Bに連通するインク導入路35が形成され、インク導入口27と連通している。
【0031】
インクジェット式記録ヘッド1は、図1に示したカートリッジ2Aおよび2Bからマニホールド24にインクを供給し、マニホールド24から各圧力室23内にインクを供給して、圧電素子11の伸長により、島部15を押圧して圧力室23内を加圧し、この圧力によりノズル開口210からインク滴を吐出する。
【0032】
ここで、圧電素子11の伸長により、圧力室23内の圧力を高めるとノズル開口210からインク滴が吐出するだけでなく、圧力室23とマニホールド24とを連通しているインク供給路25からマニホールド24側にもインク噴流が生じる。その結果、マニホールド24内の圧力が変動し、隣接したノズルの圧力室23に圧力の変動が伝播して吐出特性が変化してしまい、いわゆるクロストークが発生する。
【0033】
図4に、マニホールド24の一方の開口面を封止する薄膜部132の動きを表す概略部分拡大断面図を示した。
インク噴流によるマニホールド24内の圧力変動は、薄膜部132が凹部34に向かって変形して薄膜部1321となることにより吸収され、圧力変動による吐出特性の変化を緩和することによって隣接ノズル間のクロストークを防止するとともに、印字濃淡の発生を防止している。
【0034】
また、カートリッジ2Aおよび2Bに貯蔵されたインクが消費されて交換されると、カートリッジ2Aおよび2Bの挿脱により気泡BAがインク導入路35からマニホールド24内に侵入する。その場合、ノズルプレート21のノズル開口210が形成された部分にキャップ部材300を密着させ、図1に示した吸引ポンプ100の負圧を作用させてクリーニング操作を行い、気泡BAをノズル開口210から排出させる。キャップ部材300は、吸引ポンプ100とともにインクジェット式記録装置1000に設けられている。
【0035】
本実施形態では、少なくともノズル列200の端201および端202付近のノズル開口210の周りにキャップ部材300を密着させて、流路内のインクをノズル開口210から強制的に吸引するクリーニング操作を行なう。したがって、すべてのノズル開口210またはノズル列200の端201および端202付近のノズル開口210を含んだ一部のノズル開口210の周りにキャップ部材300を密着させて、クリーニング操作を行なってもよい。
キャップ部材300は複数であってもよいし、一つのキャップ部材300が、ノズル列200の端201および端202付近のノズル開口210の周りに密着する構造を有していてもよい。
【0036】
図4において、クリーニング操作を行うと、薄膜部132は、負圧によってマニホールド24の体積を減少させる方向に向かって変形して薄膜部1322となる。ここで、薄膜部132が変形して薄膜部1322になることによって、マニホールド24の薄膜部1322とノズルプレート21との間で挟まれる空間は狭くなる。一方、薄膜部1322とマニホールド24の壁240および厚膜部121との間には、薄膜部132がノズルプレート21側に撓むことで、撓んだ薄膜部132と厚膜部121と壁240とノズルプレート21で形成されるインクの流路B1が形成される。流路B1がマニホールド24に明らかに形成されるには、薄膜部1322は撓めば撓むほどよい。
図5にクリーニング操作時におけるマニホールド24における気泡BAの動きを示す図2のA−A面から見た概略平面図を示した。気泡BAは端201および端202のインク供給路25に向かって進む。
【0037】
ここで、インクジェット式記録ヘッド1のノズル列200を重力方向に向けた使用が予定されている場合は、気泡BAに浮力が加わるので、重力方向とは反対に位置するインク供給路25に気泡BAは向かい易い。したがって、第1のプレート12は、インク導入口27から壁240に沿ってノズル列200の端201または端202のうち重力方向とは反対に位置する端付近に相当するインク供給路25のみにかけて形成されていてもよい。
【0038】
気泡BAの向かうノズル列200の端201および端202に対応するインク供給路25およびこれらに連通する圧力室23、ノズル開口210はダミーの状態であってもよい。
ここで、ダミーの状態とは、図2に示した圧電素子11が圧力室23に当接固定されていないか、印字用に用いる圧力室、圧電素子が駆動している際に、電圧が印加されず駆動しない状態で、圧力室23の圧力が変化しない状態をいう。
インクジェット式記録ヘッド1のノズル列200を重力方向に向けた使用が予定されている場合は、ノズル列200の端201または端202のうち重力方向とは反対に位置する端付近に相当するインク供給路25およびこれらに連通する圧力室23、ノズル開口210のみがダミーであってもよい。
【0039】
本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)クリーニング操作の際、マニホールド24が減圧されると、薄膜部132がマニホールド24の体積を減少させる方向に撓み、インク導入口27からノズル列200の端201および端202に対応するインク供給路25にかけて流路B1が形成される。流路B1が形成されることにより、気泡BA移動の通路が確保されるとともにインクの流速を早めることができる。したがって、インク供給路25、圧力室23およびノズル開口210への気泡BAの移動が効率的に行なわれ、ノズル開口210から気泡BAが効率的に排出され、排出時のインクの使用量の少ないインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。
加えて、ノズル列200の端201および端202に対応するインク供給路25に達した気泡BAは、ノズル列200の端201および端202付近の圧力室23のみを介して排出すれば、排出時のインクの使用量のより少ないインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。
また、インク吐出時に圧力室23からインク供給路25を介してマニホールド24に伝わる圧力変化を緩和するために用いる部材を薄膜部132として併用できるので、新たな構造や部材の使用を抑え、製造コストを低減したインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。
【0040】
(2)両側を圧力室23で挟まれた圧力室23と比較して圧力変化の挙動が異なるノズル列200の端201および端202付近の圧力室23に圧電素子11を設けないかまたは設けられた圧電素子11を駆動させないことにより、ノズル列200内のインクの吐出特性を均一にできる。
【0041】
(3)吸引ポンプ100によりキャップ部材300を介し、ノズル開口210を吸引することにより、前述の効果を有するインクジェット式記録装置1000を得ることができる。
【0042】
(第2実施形態)
図6は本実施形態におけるインクジェット式記録ヘッド1の概略部分拡大断面図を、図7は図6のD−D面から見た部分平面図を示している。ここで、図6は図7のE−E概略部分拡大断面図である。第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付した。
【0043】
本実施形態の第1実施形態と異なる点は、インク導入路35、インク導入口27の位置、マニホールド24、マニホールド24の一方の開口面を封止する第1のプレート12の構成が主に異なる。その他の構成は第1実施形態の構成と同様である。
図6および図7において、本実施形態のインク導入路351は、平面視においてマニホールド241からずれた位置に形成され、インク導入口271は、マニホールド241の壁240に形成されている。
【0044】
マニホールド241の一方の開口面は、薄い薄膜部132と厚い基部133を備えた第1のプレート12となる弾性体膜13によって封止されている。第1実施形態と異なる点は、第1実施形態の厚膜部121の部分が弾性体膜13の基部133で置き換わっている点である。厚膜部121は、ケース30に当接しているため厚膜部121はクリーニング操作時にノズルプレート21側へ撓まないことに対して、当該実施形態の基部133は、厚膜部121と同様に薄膜部132よりも相対的に厚みが厚いものの、ケース30に当接されていない点で異なる。そのため、基部133は、クリーニング操作の際に、ノズルプレート21側へ撓むことになる。但し、基部133の撓む大きさは、薄膜部132が撓む大きさよりも小さい。
また、インク導入路351およびインク導入口271の位置が変更されたのに伴い、マニホールド241の基部133付近の凹部341の形状も異なっている。
【0045】
第1実施形態と同様に、インク噴流によるマニホールド241内の圧力変動は、薄膜部132および基部133が凹部341に向かって変形して第1のプレートとしての弾性体膜1323となることにより吸収され、圧力変動による吐出特性の変化を緩和することによって隣接ノズル間のクロストークを防止するとともに、印字濃淡の発生を防止している。
【0046】
また、クリーニング操作を行うと、薄膜部132および基部133は、負圧によってマニホールド241に向かって変形して弾性体膜1324となる。ここで、薄膜部132がより変形することによって、薄膜部132とマニホールド241の壁240および基部133との間には、インクの流路B2が形成される。流路B2がマニホールド241に明確に形成されるには、薄膜部132は撓めば撓むほどよい。
流路B2が形成されることにより、クリーニング操作によるインクの流れは流路B2で速くなり、気泡BAは両端のインク供給路25に向かって進む。
【0047】
本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて以下の効果がある。
(4)弾性体膜13の撓み量の大きい薄膜部132が撓むことにより、流路B2に沿った撓み量の小さい基部133に沿って、流路B2と流路B2でない部分との区画がされ、インク導入口271からノズル列200の端201または端202のうち少なくとも一端に対応するインク供給路25にかけてマニホールド241内に流路B2を形成できる。したがって、弾性体膜13によって流路B2の大部分が形成され、新たな構造や部材の使用をより抑えたインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。
【0048】
以上、実施形態を説明したが、基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
例えば、実施形態におけるインクジェット式記録ヘッド1は、圧力発生手段として、圧電素子11の伸縮振動を利用して圧力室23の容積を変化させるものであるが、撓み振動を利用して圧力室23の容積を変化させるものであってもよい。
また、圧力発生手段として、圧力室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーター等であってもよい。
また、実施形態では、1列のノズル開口しか示していないが1列に限らず2列以上であってもよい。
【0049】
さらに、マニホールド24,241の一方の面を封止する第1のプレートとしては、上述の実施形態には限定されず、たとえば、複数のプレートからなるように流路基板を積層した場合には、マニホールドが形成されたプレートの一方の面を封止する第1のプレートに圧力を吸収する薄膜部が設けられたものであれば良い。また、その他方の面には、第2のプレートとしてノズルプレート以外のプレートが形成されていてもよい。
【0050】
なお、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド1を挙げて説明したが、その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0051】
1…液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド、11…圧力発生手段としての圧電素子、23…圧力室、24,241…マニホールド、25…液体供給路としてのインク供給路、27,271…液体導入口としてのインク導入口、100…吸引ポンプ、132…可撓部材としての薄膜部、133…可撓部材としての基部、200…ノズル列、201,202…端、210…ノズル開口、300…キャップ部材、1000…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置、B1,B2…流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズル開口からなるノズル列と、
前記ノズル開口にそれぞれに対応して連通する圧力室と、
前記圧力室の圧力を変化させる圧力発生手段と、
複数の前記圧力室に連通する共通の液室であるマニホールドと、
前記マニホールドに液体を導入する液体導入口と、
前記マニホールドの一部を構成し、撓むことによって、前記液体導入口から前記ノズル列の少なくとも一端に対応する前記圧力室にかけて前記マニホールド内に流路を形成する可撓部材とを備えた
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記可撓部材は、前記流路に沿った撓み量の小さい基部と、
前記基部と比較して撓み量の大きい撓み部とを備えている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記流路の形成された前記ノズル列の端付近の前記圧力室に前記圧力発生手段が設けられていない、または前記ノズル列の端付近の前記圧力室に設けられた前記圧力発生手段が、前記ノズル列の端付近の前記圧力室とは異なる圧力室に設けられた前記圧力発生手段が駆動しているときに、駆動しない
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記ノズル開口の形成されたノズルプレートに密着するキャップ部材と、
前記キャップ部材を介し、前記ノズル開口を吸引する吸引ポンプとを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−189599(P2011−189599A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57141(P2010−57141)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】