説明

液体噴射ヘッドの製造方法及び結晶基板のエッチング方法

【課題】異物の発生を確実に防止して信頼性を向上することができる液体噴射ヘッドの製造方法及び結晶基板のエッチング方法を提供する。
【解決手段】流路形成基板の表面に、開口部201を有すると共に、第1の流路12、15の第2の流路14側の端部を覆う被覆部203を有するマスク200を形成する工程と、流路形成基板をマスク200を介して異方性エッチングすることで、被覆部203の下に第1の流路12、15の端部が形成された液体流路を形成する工程と、マスク200を除去する工程とを具備し、マスク200を形成する工程では、被覆部203から流路形成基板の結晶面方位の(111)面方向とは交差する方向に液体流路の並設方向に亘って開口部201を横断する補強マスク部210を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法及び結晶基板のエッチング方法に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及び結晶基板のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドなどのマイクロデバイスの代表的な例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連通する圧力発生室とこの圧力発生室に連通する連通部が形成されると共に、その一方面側に圧電素子が設けられた流路形成基板と、流路形成基板の連通部と共にリザーバの一部を構成するリザーバ部が形成された封止基板とを具備するものがある。そして、流路形成基板及び封止基板としては、例えば、結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板が用いられ、これらの基板は、平行四辺形に開口する開口部を有するマスクを介して異方性エッチング(ウェットエッチング)することによって形成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】国際公開2004/007206号公報(第12図、第24〜25頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、流路形成基板のような結晶基板を異方性エッチングして液体流路を形成した際に、液体流路の形状によっては、マスクを庇状に残すことがあり、残った庇状のマスクが屈曲したり破損することにより、異物としてエッチング面に付着し、異物によるノズル詰まりや、他部材の接合不良、液体流路を保護する保護膜のカバレッジ不良等が発生するという問題がある。
【0005】
これは、異方性エッチングを行った流路形成基板を洗浄液によって洗浄後、乾燥させた際に、洗浄液の蒸発により庇状に残留したマスクが内壁側に折り曲がり、乾燥が終了した段階で庇状のマスクが元に戻ることにより、庇状に残留したマスクの一部が異物となることがあるからである。
【0006】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに限定されず、他のデバイスに用いられる結晶基板のエッチング方法においても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、異物の発生を確実に防止して信頼性を向上することができる液体噴射ヘッドの製造方法及び結晶基板のエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する液体流路がその幅方向に複数並設されていると共に、表面の結晶面方位が(110)面からなる流路形成基板を具備し、前記液体流路が、第1の流路と、該第1の流路に連通して当該第1の流路よりも幅狭の第2の流路とを有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板の表面に、開口部を有すると共に、前記第1の流路の前記第2の流路側の端部を覆う被覆部を有するマスクを形成する工程と、前記流路形成基板を前記マスクを介して異方性エッチングすることで、前記被覆部の下に前記第1の流路の端部が形成された前記液体流路を形成する工程と、前記マスクを除去する工程とを具備し、前記マスクを形成する工程では、前記被覆部から前記流路形成基板の結晶面方位の(111)面方向とは交差する方向に前記液体流路の並設方向に亘って前記開口部を横断する補強マスク部を設けることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、流路形成基板を異方性エッチングして被覆部の下に第1の流路の端部を形成することで、被覆部を庇状に残留させても、補強マスク部によって被覆部が補強されて、被覆部が屈曲したり破損するのを防止して、異物の発生を防止できる。これにより、異物によるノズル詰まりや、他部材との接着不良、液体流路を保護する体液耐性を有する保護膜のカバレッジ不良による流路形成基板の液体による浸食などを防止して、信頼性を向上することができる。
【0009】
ここで、前記マスクを形成する工程では、前記開口部の前記液体流路の幅方向両側の側面に対応する開口縁部を前記流路形成基板の結晶面方位の(111)面に沿って形成することが好ましい。これによれば、液体流路を高精度に且つ高密度に形成することができる。
【0010】
また、前記補強マスク部の幅が、前記流路形成基板の結晶面方位の(111)面方向における幅よりも幅狭となるように形成することが好ましい。これによれば、補強マスク部の下で(111)面が出現することによるエッチングの停止を確実に防止することができ、所望の形状の液体流路を形成することができる。
【0011】
また、前記流路形成基板を異方性エッチングする工程では、前記流路形成基板に前記液体流路を形成した後、当該流路形成基板を洗浄液で洗浄する工程をさらに具備することが好ましい。これによれば、洗浄液の蒸発途中に庇状に残留した被覆部に応力が印加されて被覆部が屈曲するのを防止することができるため、洗浄液が完全に蒸発した際に応力が解法されて被覆部が元に戻ることによる被覆部の一部が破損するのを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の他の態様は、表面の結晶面方位が(110)面からなる結晶基板に第1の溝部と、該第1の溝部に連通して、当該第1の溝部よりも幅狭の第2の溝部とからなる溝部を幅方向に複数並設する結晶基板のエッチング方法であって、前記結晶基板の表面に、開口部を有すると共に、前記第1の溝部の前記第2の溝部側の端部を覆う被覆部を有するマスクを形成する工程と、前記結晶基板を前記マスクを介して異方性エッチングすることで、前記被覆部の下に前記第1の溝部の端部が形成された前記溝部を形成する工程と、前記マスクを除去する工程とを具備し、前記マスクを形成する工程では、前記被覆部から前記結晶基板の結晶面方位の(111)面方向とは交差する方向に前記溝部の並設方向に亘って前記開口部を横断する補強マスク部を設けることを特徴とする結晶基板のエッチング方法にある。
かかる態様では、結晶基板を異方性エッチングして被覆部の下に第1の溝部の端部を形成することで、被覆部を庇状に残留させても、補強マスク部によって被覆部が補強されて、被覆部が屈曲したり破損するのを防止して、異物の発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。図示するように、本実施形態の結晶基板である流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化によって二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0014】
流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板30のリザーバ部31と連通して圧力発生室12の列毎に共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。本実施形態では、インク供給路14は、圧力発生室12及び連通路15の一方の幅を狭めることで形成されているが、特にこれに限定されず、例えば圧力発生室12及び連通路15の両側の幅を狭めることでインク供給路14を形成するようにしてもよい。
【0015】
すなわち、流路形成基板10には、第1の流路として圧力発生室12及び連通路15が設けられ、第2の流路として第1の流路(圧力発生室12及び連通路15)よりも並設方向(短手方向)の幅が幅狭の液体供給路であるインク供給路14が設けられている。そして、本実施形態では、これら圧力発生室12、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が、隔壁11により区画されてその幅方向(短手方向)に複数並設されている。
【0016】
このような圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15は、弾性膜50とは反対側の面から流路形成基板10を異方性エッチングすることによって形成されている。異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。本実施形態では、流路形成基板10が面方位(110)のシリコン単結晶基板からなるため、シリコン単結晶基板の(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。すなわち、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と70.53度の角度をなし且つ上記(110)面に垂直な第2の(111)面とが出現する。かかる異方性エッチングにより、二つの平行する面である第1の(111)面と二つの平行する面である第2の(111)面とで形成される平行四辺形状を基本として精密加工を行うことができ、液体流路を高密度に配列することができる。すなわち、本実施形態の流路を画成する隔壁11は、その短手方向の表面が第1の(111)面となるように形成されている。
【0017】
また、第1の流路である流路形成基板10の圧力発生室12及び連通路15の第2の流路であるインク供給路14側の端面は、詳しくは後述するが、流路形成基板10の結晶面方位の(111)面とは交差する方向に沿って形成されている。この圧力発生室12及び連通路15のインク供給路14側の端面の位置は、エッチング時間により調整されている。
【0018】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0019】
一方、このような流路形成基板10のノズルプレート20とは反対側の面には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55が形成されている。勿論、絶縁体膜55は、酸化ジルコニウムに限定されず、例えば、窒化珪素、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化タングステン、窒化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化タンタルの少なくとも1種を主成分とする材料から形成してもよい。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とが後述するプロセスで積層形成されて圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部320が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50及び絶縁体膜55、またはこれらに下電極膜60を加えて振動板として作用させるがが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用させるようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0020】
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、流路形成基板10のインク供給路14とは反対側の端部近傍まで延設された金(Au)等のリード電極90がそれぞれ接続されている。このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加される。
【0021】
さらに、圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、連通部13に対向する領域にリザーバ部31が設けられた保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、上述したように、流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0022】
また、保護基板30には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。なお、圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。すなわち、流路形成基板10に圧力発生室12とインク供給路14のみを形成してもよい。
【0023】
また、保護基板30上には、圧電素子300を駆動するための駆動回路120が実装されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とはボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0024】
保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料の面方位(110)のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0025】
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する有機絶縁材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0026】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0027】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッド1の製造方法について、図3〜図6を参照して説明する。なお、図3〜図6は、インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【0028】
まず、図3(a)に示すように、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなるシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。
【0029】
次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0030】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。次に、図4(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成した後、図4(b)に示すように、これら圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
【0031】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよい。また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。勿論、圧電体層70の形成方法は、ゾル−ゲル法に限定されるものではなく、例えば、MOD法やスパッタリング法等を用いてもよい。
【0032】
次に、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成後、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0033】
次に、図5(a)に示すように、保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、この保護基板用ウェハ130には、リザーバ部31及び圧電素子保持部32が予め形成されている。なお、この保護基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するため、保護基板用ウェハ130を接合することによって流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
【0034】
次いで、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くする。
【0035】
次に、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク200を新たに形成し、所定形状にパターニングして開口部201を形成する。そして、図6に示すように、このマスク200を介して流路形成基板用ウェハ110をKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、流路形成基板用ウェハ110の開口部201に対応する領域に圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を形成する。
【0036】
ここで、流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングする製造工程について図7〜図11を参照して詳細に説明する。なお、図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す平面図であり、図8は、図7の要部を拡大した図であり、図9は、概略斜視図であり、図10及び図11は、断面図である。
【0037】
まず、図7に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300とは反対側の全面に亘ってマスク200を形成し、マスク200を例えば、レジストを介してパターニングすることで開口部201を形成する。
【0038】
開口部201は、流路形成基板用ウェハ110の圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が形成されるように形成する。本実施形態では、開口部201として、圧力発生室12、インク供給路14及び連通路15の両側の隔壁11の並設方向の側面が、流路形成基板用ウェハ110の結晶面方位の(111)面となるように、開口部201の隔壁11の側面に対応する開口縁部202を流路形成基板用ウェハ110の結晶面方位の(111)面に沿った方向となるように形成した。
【0039】
また、マスク200には、第1の流路である圧力発生室12及び連通路15の第2の流路であるインク供給路14側の端部を覆う被覆部203が設けられている。そして、この被覆部203の液体流路の並設方向とは交差する方向の開口縁部204、すなわち、開口部201の圧力発生室12及び連通路15のインク供給路14側の端部を形成する開口縁部204は、(111)面方向とは交差する方向に設けられている。これは、詳しくは後述するが、流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングした際に、異方性エッチングはマスク200の被覆部203の開口縁部204で止まることなく、被覆部203の下が徐々にエッチングされて、圧力発生室12及び連通路15のインク供給路14側の端面を形成するからである。すなわち、マスク200は、被覆部203によってエッチング時間に応じて圧力発生室12及び連通路15の長さが徐々に長くなると共に、インク供給路14の長さが短くなるように形成されている。そして、被覆部203は、流路形成基板用ウェハ110が異方性エッチングされた際に、図9に示すように庇状に残留する。
【0040】
さらに、マスク200の被覆部203には、補強マスク部210が設けられている。補強マスク部210は、被覆部203から液体流路の並設方向(幅方向)に亘って開口部201を横断するように設けられている。すなわち、補強マスク部210は、第1の流路である圧力発生室12及び連通路15が形成される領域を跨って、被覆部203から相対向する(111)面方向に沿った開口縁部202まで開口部201を横断して形成されている。
【0041】
このような補強マスク部210は、流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングした際に、庇状に残留した被覆部203を、相対向する隔壁11上のマスク200によって補強させて、被覆部203の庇状態を維持させるためのものである。このため、補強マスク部210は、被覆部203の先端側、すなわち、被覆部203の圧力発生室12及び連通路15側に設けるのが好ましい。また、補強マスク部210は、所定の間隔で複数設けることで、庇状になった被覆部203をさらに確実に補強することができる。本実施形態では、各被覆部203に、3つの補強マスク部210を所定間隔で設けるようにした。
【0042】
また、補強マスク部210は、流路形成基板用ウェハ110の結晶面方位の(111)面方向とは交差する方向に設けられている。ここで、補強マスク部210が結晶面方位(111)面方向とは交差する方向に設けられているとは、補強マスク部210によって画成された開口の開口縁部が(111)面方向とは交差する方向に設けられていることを言う。
【0043】
このように、補強マスク部210を流路形成基板用ウェハ110の結晶面方位の(111)面方向とは交差する方向に設けることで、流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングした際に、補強マスク部210によってエッチングが停止することがなく、補強マスク部210の下に液体流路を形成することができる。
【0044】
また、このような補強マスク部210は、図8(a)に示すように、その幅Wが流路形成基板用ウェハ110の結晶面方位の(111)面方向における幅Wmaxよりも幅狭となるように設けられている。
【0045】
すなわち、図8(b)に示すように、補強マスク部210Aの幅Wが、結晶面方位の(111)面方向における幅Wmaxよりも幅広に設けられていると、異方性エッチングした際に、補強マスク部210Aの下に補強マスク部210Aの両側から(111)面を出現させながらエッチングされるが、この2つの(111)面が補強マスク部210Aの下で一致することなく、離れた状態で停止してしまうため、補強マスク部210Aの下に流路形成基板用ウェハ110がエッチングされない領域ができてしまうからである。
【0046】
したがって、補強マスク部210の幅は、補強マスク部210を形成する方向や、インク供給路14の幅などに応じて、(111)面方向の幅Wmaxよりも幅狭となるように適宜決定すればよい。なお、図8には、1つの補強マスク部210、210Aを図示して説明してあるが、実際には3本の補強マスク部210が設けられているものである。
【0047】
なお、本実施形態では、隔壁11となる領域の上に設けられたマスク200の先端、すなわち、連通部13となる領域側の先端は、結晶面方位の(111)面とは交差する方向に設けられており、流路形成基板用ウェハ110をエッチングすると、隔壁11の先端は、マスク200の下に入り込むように徐々にエッチングされる。
【0048】
このようなマスク200を用いて流路形成基板用ウェハ110をKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)を行うと、図7及び図9に示すように、流路形成基板用ウェハ110には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15が形成される。そして、上述したように、圧力発生室12及び連通路15のインク供給路14側の端部は、マスク200の下に形成され、被覆部203が庇状に残留する。
【0049】
このとき、マスク200の被覆部203は、補強マスク部210によって相対向する隔壁11上のマスク200に接続されているため、被覆部203は、補強マスク部210によって接続された相対向する隔壁11上のマスク200に補強されて、被覆部203が折れ曲がり、異物が発生することがない。そして、流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングした後、異方性エッチングに用いたエッチング液を水等の洗浄液により洗浄した際に、被覆部203は、補強マスク部210によって庇状のままで維持されているため、折れ曲がりによる異物の発生を確実に防止することができる。
【0050】
ここで、補強マスク部210を形成していないマスク200Aを用いて流路形成基板用ウェハ110を洗浄した場合について具体的に説明する。図10(a)に示すように、圧力発生室12等の液体流路が設けられた流路形成基板用ウェハ110(保護基板用ウェハ110が接合された状態)を水等の洗浄液401が充填された洗浄槽400に浸漬する。このとき、洗浄液401は、液体流路内に充填されるため、被覆部203に応力が印加されることなく、折れ曲がりや異物が発生することはない。
【0051】
次に、流路形成基板用ウェハ110を洗浄槽400から取り出し乾燥させる。
【0052】
乾燥の初期段階では、図10(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の液体流路はアスペクト比が高いため、液体流路内に洗浄液401が残る。この状態では、マスク200の被覆部203に応力が印加されることなく、折れ曲がりや異物が発生することはない。
【0053】
そして、乾燥が進むと、図10(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の液体流路内の洗浄液401は、隔壁11に沿って残り、洗浄液401の表面張力によって被覆部203が隔壁11側に引き寄せられ、被覆部203は隔壁11側に屈曲された状態となる。その後、液体流路内の洗浄液401が完全に蒸発した際に、被覆部203に印加されていた応力が開放され、被覆部203が元に戻ることにより、被覆部203の一部が破損し、異物となる。
【0054】
このように異物が発生すると、液体流路を保護するための保護膜等を形成した際のカバレッジ不良により流路形成基板10が、インクによって浸食されたり、異物によるノズル詰まりや、ノズルプレート20等の他部材の接合不良が発生する。
【0055】
これに対して、図11に示すように、補強マスク部210を設けたマスク200を用いた場合、洗浄液401の乾燥を行った際に洗浄液401が隔壁11に沿って残り、洗浄液401の表面張力によって被覆部203が隔壁11側に引き寄せられたとしても、被覆部203は補強マスク部210によって補強されているため、被覆部203が折れ曲がることがない。したがって、液体流路内の洗浄液401が完全に蒸発した際に、被覆部203に印加されていた応力が開放されることもなく、被覆部203が元に戻ることにより、被覆部203の一部が破損し、異物が発生するのを防止することができる。
【0056】
このように、流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングして圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15を形成した後は、マスク200を除去する。マスク200の除去は、ウェットエッチング又はドライエッチングなどで行うことができる。
【0057】
ちなみに、補強マスク部210を設けていないマスク200Aの場合、マスク200Aの膜厚を厚くすることで、マスク200A(被覆部203)の折れや破損などの異物の発生や保護膜のカバレッジ不良を低減させることができるものの、マスク200Aを厚く形成するにはコストが高くなってしまう。また、マスク200Aを厚くすると、マスク200Aを除去するためのエッチング時間が長く必要となり、長時間のエッチングにより振動板を構成する他の膜などに影響を及ぼしてしまうため好ましくない。また、マスク200を熱燐酸等のウェットエッチングにより除去することで、液体流路内に破断したマスクが付着した異物を同時に除去することも考えられるが、ウェットエッチングでは、接着剤等の有機物が破壊されてしまうため好ましくない。本実施形態では、上述のように、マスク200に補強マスク部210を設けるだけで、接着剤等の有機物を破壊しないドライエッチングで、エッチング時間を長くすることなく、庇状に残留したマスク200(被覆部203)が屈曲したり、破損するのを防止することができる。
【0058】
その後は、特に図示しないが、流路形成基板用ウェハ110の圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等の流路の内面に耐インク性(耐液体性)を有する保護膜を形成する。そして、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッド1が製造される。
【0059】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1について説明したが、本発明は、もちろん上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、第2の流路であるインク供給路14を、第1の流路である圧力発生室12及び連通路15の一方の幅を狭めることで形成したが、特にこれに限定されず、例えば、インク供給路14を圧力発生室12及び連通路15の両側の幅を狭めることで形成するようにしてもよい。この場合、マスク200の一つの開口部201には、流路形成基板10の面内で相対向する位置に2つの被覆部203が形成されるが、補強マスク部210は、相対向する被覆部203同士を接続するように設けてもよく、また、補強マスク部210を各被覆部203からそれぞれ開口部201を横断して隔壁11となる領域上に設けられたマスク200に接続するようにしてもよい。
【0060】
また、上述した実施形態1では、流路形成基板用ウェハ110を厚さ方向に貫通する圧力発生室12等を形成する際のマスク200及び補強マスク部210を例示したが、結晶基板に厚さ方向に貫通しない溝部を形成する際に補強マスク部210が設けられたマスク200を用いるようにしてもよい。
【0061】
さらに、上述した実施形態1では、マスク200として、窒化シリコンを用いるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板用ウェハ110(結晶基板)を熱酸化したり、CVD法やスパッタリング法等で形成した二酸化シリコン(SiO)などの他材料をマスク200として使用してもよい。
【0062】
また、上述した実施形態1では、ノズル開口21からインク滴を吐出する圧力発生手段として薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエータ装置を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子を有するアクチュエータ装置や、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するアクチュエータ装置や、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータ装置などを使用することができる。
【0063】
さらに、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの製造方法の一例としてインクジェット式記録ヘッド1の製造方法を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッドの製造方法を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0064】
また、本発明は液体噴射ヘッドの製造方法に限定されず、結晶面方位が(110)面の結晶基板を異方性エッチングすることにより微細加工を行う結晶基板のエッチング方法に広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す平面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す要部拡大平面図である。
【図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す概略斜視図である。
【図10】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図11】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板(結晶基板)、 12 圧力発生室(第1の流路、第1の溝部)、 13 連通部(第1の流路、第1の溝部)、 14 インク供給路(第2の流路、第2の溝部)、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 110 流路形成基板用ウェハ、 120 駆動回路、 121 接続配線、 130 保護基板用ウェハ、 200、200A マスク、 201 開口部、 203 被覆部、 210 補強マスク部、 300 圧電素子、 400 洗浄槽、 401 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する液体流路がその幅方向に複数並設されていると共に、表面の結晶面方位が(110)面からなる流路形成基板を具備し、前記液体流路が、第1の流路と、該第1の流路に連通して当該第1の流路よりも幅狭の第2の流路とを有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記流路形成基板の表面に、開口部を有すると共に、前記第1の流路の前記第2の流路側の端部を覆う被覆部を有するマスクを形成する工程と、
前記流路形成基板を前記マスクを介して異方性エッチングすることで、前記被覆部の下に前記第1の流路の端部が形成された前記液体流路を形成する工程と、
前記マスクを除去する工程とを具備し、
前記マスクを形成する工程では、前記被覆部から前記流路形成基板の結晶面方位の(111)面方向とは交差する方向に前記液体流路の並設方向に亘って前記開口部を横断する補強マスク部を設けることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記マスクを形成する工程では、前記開口部の前記液体流路の幅方向両側の側面に対応する開口縁部を前記流路形成基板の結晶面方位の(111)面に沿って形成することを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記補強マスク部の幅が、前記流路形成基板の結晶面方位の(111)面方向における幅よりも幅狭となるように形成することを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記流路形成基板を異方性エッチングする工程では、前記流路形成基板に前記液体流路を形成した後、当該流路形成基板を洗浄液で洗浄する工程をさらに具備することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
表面の結晶面方位が(110)面からなる結晶基板に第1の溝部と、該第1の溝部に連通して、当該第1の溝部よりも幅狭の第2の溝部とからなる溝部を幅方向に複数並設する結晶基板のエッチング方法であって、
前記結晶基板の表面に、開口部を有すると共に、前記第1の溝部の前記第2の溝部側の端部を覆う被覆部を有するマスクを形成する工程と、
前記結晶基板を前記マスクを介して異方性エッチングすることで、前記被覆部の下に前記第1の溝部の端部が形成された前記溝部を形成する工程と、
前記マスクを除去する工程とを具備し、
前記マスクを形成する工程では、前記被覆部から前記結晶基板の結晶面方位の(111)面方向とは交差する方向に前記溝部の並設方向に亘って前記開口部を横断する補強マスク部を設けることを特徴とする結晶基板のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−137133(P2009−137133A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315184(P2007−315184)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】