説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】長期間に亘ってノズル開口近傍の液体の乾燥を抑制することができると共に装置
の小型化が可能となる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル開口21に連通する圧力発生室12と、該圧力発生室12に圧力変化
を生じさせるアクチュエーター装置300と、を具備し、前記ノズル開口21の吐出面側
には、当該ノズル開口21を開閉する開閉手段200が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特
に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録
装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式プリンターやプロッター等のインクジェット式記録装置に代表される
液体噴射装置は、液体カートリッジや液体タンク等の液体貯留手段に貯留された液体を、
液滴として吐出可能な液体噴射ヘッドを有する。
【0003】
ここで、液体噴射ヘッドとしては、ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧力発生室に
圧力変化を生じさせてノズル開口から液滴を吐出させる圧力発生手段とを具備する。そし
て、液体噴射ヘッドに搭載される圧力発生手段としては、例えば、縦振動型の圧電素子、
撓み振動型の圧電素子、発熱素子及び静電気力を用いたものなどが挙げられる。
【0004】
これらの液体噴射ヘッドでは、液体カートリッジ交換時や液体内に含まれる気泡が流路
内に残留し、ドット抜け等の印刷不良が発生する場合がある。そのため、液体噴射装置に
は、ノズル開口を介して流路内の液体を吸引する吸引装置が接続されたキャップ部材が設
けられている。
【0005】
このキャップ部材によれば、液体噴射ヘッドの端面にキャッピングしてノズル開口から
流路内の液体を吸引する吸引動作を行うことで、流路内にインクを充填してドット抜け等
の印刷不良を防止することができる。
【0006】
しかしながら、液体噴射ヘッドが大型化(ノズル開口が多列化)するに伴い、全てのノ
ズル開口を覆うにはキャップ部材も大型化する必要があり、インクジェット式記録装置が
大型化してしまう。このことから、全てのノズル開口を覆わない小型のキャップ部材を設
け、キャップ部材を移動させながら全てのノズル開口の吸引動作を行う液体噴射装置が提
案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、ノズル開口を不揮発性のシール液体で覆い、ノズル開口近傍の液体の乾燥を抑制
するインクジェット式記録ヘッドが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−12371号公報
【特許文献2】特開2000−127416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の構成では、キャップ部材を小型化することはできるものの
、小型のキャップ部材では、全てのノズル開口を同時に覆うことができず、ノズル開口近
傍の液体の乾燥を抑制することができないという問題がある。
【0010】
また、キャップ部材以外に、全てのノズル開口を覆う保護キャップを設けることで、ノ
ズル開口近傍の液体の乾燥を抑制することができるものの、保護キャップは全てのノズル
開口を覆う大きさが必要であり、装置の小型化を図ることができないという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献2のように、シール液体でノズル開口を覆ったとしても、シール液体
自体の経時変化により長期間の効果を維持することは困難であるという問題がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑み、長期間に亘ってノズル開口近傍の液体の乾燥を抑制す
ることができると共に装置の小型化が可能となる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供
することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、該圧力発生
室に圧力変化を生じさせるアクチュエーター装置と、を具備し、前記ノズル開口の吐出面
側には、当該ノズル開口を開閉する開閉手段が設けられていることを特徴とする液体噴射
ヘッドにある。
かかる態様では、記録装置ではなく、液体噴射ヘッドの開閉手段を設けることで、記録
装置側にノズル開口を覆うキャップ部材が不要となり、装置を小型化することができる。
また、液体噴射ヘッド自体に開閉手段が設けられているため、ノズル開口を開閉するタイ
ミングに制限が無く、確実にノズル開口近傍の液体の乾燥を抑制することができると共に
、ノズル開口の保護を確実に行うことができる。
【0014】
ここで、前記開閉手段は、開閉制御手段によって制御されると共に、該開閉制御手段は
、前記ノズル開口から液体を噴射するときは、前記開閉手段によって前記ノズル開口を開
口し、且つ前記ノズル開口から液体を噴射しないときは、前記開閉手段によって前記ノズ
ル開口を閉口することが好ましい。これによれば、開閉制御手段によって、所望のタイミ
ングで開閉手段によるノズル開口の開閉を行うことができる。
【0015】
また、前記開閉制御手段は、前記アクチュエーター装置を駆動することにより、前記ノ
ズル開口の液体のメニスカスを前記開閉手段とは反対側に後退させた後に、前記開閉手段
を閉口することが好ましい。これによれば、開閉手段がノズル開口を開閉した際に、ノズ
ル開口の液体のメニスカスが破壊されるのを抑制することができる。
【0016】
また、前記開閉手段は、前記ノズル開口の吐出面側を覆う開閉部と、該開閉部を駆動す
る駆動手段とを具備することが好ましい。これによれば、開閉部を駆動手段によって駆動
して確実にノズル開口を閉口することができる。
【0017】
また、前記開閉部の少なくとも前記ノズル開口に相対向する領域は撥水処理されている
ことが好ましい。これによれば、開閉部がノズル開口を覆った際に、撥水処理によって液
体のメニスカスが破壊されるのを低減することができる。
【0018】
また、前記開閉手段は、前記ノズル開口の開口状態及び閉口状態の何れか一方又は両方
を維持するロック機構を有することが好ましい。これによれば、ノズル開口を開口して液
体を吐出している最中に液体噴射ヘッドの移動による慣性力等によってノズル開口が閉口
することがなく、また、電源切断時などに閉口していたノズル開口を開口することがない

【0019】
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射
装置にある。
かかる態様では、ノズル開口を覆うキャップ部材が不要又は小型化することができ、液
体噴射装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1に係る記録装置の概略図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの動作を示す要部拡大断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの制御構成を示すブロック図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
【図9】実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
【図10】実施形態2に係る記録ヘッドの平面図である。
【図11】実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
【図12】実施形態2に係る記録ヘッドの動作を示す要部拡大断面図である。
【図13】実施形態2に係る記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
【図14】実施形態2に係る記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
【図15】実施形態2に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図16】実施形態2に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図17】実施形態2に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図18】実施形態2に係る記録ヘッドの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装
置を示す概略図である。
【0022】
図1に示すように、インクジェット式記録装置Iは、インクジェット式記録ヘッドII
を有するヘッドユニット1A、1Bを有する。インクジェット式記録ヘッドIIは、イン
ク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、このヘッドユニ
ット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸
5に軸方向である主走査方向に移動自在に設けられている。このヘッドユニット1A及び
1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するもの
としている。
【0023】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を
介してキャリッジ3に伝達されることで、ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリ
ッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される(主走査方向)。本実施形態では、キャリッ
ジ3の移動方向である主走査方向に沿ってヘッドユニット1A、1Bが並設されている。
【0024】
一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しな
い給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に
巻き掛けられて主走査方向と交差する副走査方向に搬送されるようになっている。
【0025】
このようなインクジェット式記録装置Iでは、インクカートリッジ2A、2Bの初期装
着時や交換時、印刷動作中のインクに含まれる気泡などにより、流路内に気泡が残留し、
この気泡が流路内(特に後述する圧力発生室)の圧力変動を吸収してしまうことからイン
ク滴の吐出が正常に行われず、ドット抜け等の印刷不良が発生する虞がある。そのため、
インクジェット式記録装置Iの非印刷領域には、後述するノズル開口から流路内のインク
と共に気泡を吸引する吸引手段130が設けられている。
【0026】
吸引手段130は、インクジェット式記録ヘッドIIのノズル開口を覆うキャップ部材
131と、このキャップ部材131にチューブ132を介して接続された、例えば真空ポ
ンプ等の吸引装置133とで構成されている。
【0027】
キャップ部材131は、インクジェット式記録ヘッドIIのインクが吐出される吐出面
に相対向して設けられている。このキャップ部材131は、複数のノズル開口の全てを覆
う大きさではなく、1個から複数個のノズル開口を選択的に覆う大きさで設けられている
。本実施形態では、キャップ部材131は、ヘッドユニット1A、1Bの主走査方向の長
さよりも短くして、キャリッジ3をキャップ部材131に対して主走査方向に移動させる
ことで、幅狭のキャップ部材131によって、全てのノズル開口をキャッピングできるよ
うにしている。これにより、キャップ部材131として、全てのノズル開口を覆う大きさ
が不要となり、インクジェット式記録装置Iの小型化を図ることができる。
【0028】
このような構成の吸引手段130では、キャップ部材131を後述するインクジェット
式記録ヘッドIIの吐出面に当接し、吸引装置133に吸引動作を行わせることでキャッ
プ部材131の内部を負圧として、ノズル開口から流路内のインクを気泡と共に吸引して
吸引動作を行う。そして、上述のように、吸引動作を行いながらキャリッジ3を主走査方
向に移動させることで、吸引手段130によって全てのノズル開口の吸引動作を行うこと
ができる。
【0029】
ここで、このようなインクジェット式記録装置Iに搭載されるインクジェット式記録ヘ
ッドIIについて説明する。なお、図2は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの
一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図3は、イ
ンクジェット式記録ヘッドの吐出面側の平面図であり、図4は、図3のA−A′断面図で
あり、図5は、記録ヘッドの動作を示す要部拡大断面図である。
【0030】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態ではシリコン単結晶基板からなり、
その一方の面には二酸化シリコンを主成分とする弾性膜50が形成されている。
【0031】
流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方
向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域に
は連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設
けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述
する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリ
ザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成さ
れており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持して
いる。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成し
たが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を
絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0032】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反
対側の端部近傍に連通するノズル開口21を有するノズルプレート20が、接着剤や熱溶
着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラ
ミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0033】
ここで、本実施形態のノズルプレート20は、板形状を有するベース部22と、ベース
部22に埋設された段差部23とで構成されている。
【0034】
ベース部22は、板状部材からなり、複数のノズル開口21が設けられる領域に亘って
連続して設けられた厚さ方向に貫通した溝部24が設けられている。この溝部24は、イ
ンク滴が吐出される吐出面側にノズル開口21の並設方向とは交差する方向の幅が幅広な
幅広部24aと、圧力発生室12側に幅広部24aよりも幅狭な幅狭部24bとを有する

【0035】
そして、ベース部22の溝部24の幅広部24aには、段差部23が嵌合している。こ
のような段差部23は、ベース部22の溝部24の幅広部24a内に厚さ方向の一部が埋
設されることで、ベース部22の表面から突出して設けられている。すなわち、段差部2
3は、幅広部24aの深さよりも厚い部材からなり、幅広部24aと略同等の幅を有する
ことで、幅広部24aと幅狭部24bとの間の段差に底面が当接して、その一部がベース
部22よりも突出する。
【0036】
また、段差部23には、厚さ方向に貫通するノズル開口21が設けられている。したが
って、ノズル開口21は、ベース部22の溝部24の幅狭部24bを介して圧力発生室1
2と連通している。
【0037】
このようなベース部22と段差部23とからなるノズルプレート20には、ノズル開口
21の開閉を行う開閉手段200が設けられている。
【0038】
開閉手段200は、本実施形態では、ノズルプレート20の液体吐出面(インク吐出面
)側に設けられた板状部材からなり、ノズル開口21を覆う開閉部210と、開閉部21
0を駆動してノズル開口21の開閉を行う駆動手段220とを具備する。
【0039】
開閉部210は、ベース部22にスペーサー211を介して接合されている。スペーサ
ー211は、図3に示すように、ベース部22上に段差部23を囲むように段差部23と
所定の距離離反した状態で接着剤212を介して固定されている。段差部23と開閉部2
10との間には、スペーサー211によって側面が封止された空間であるチャンバー22
1が画成されている。なお、チャンバー221は、段差部23によって2つに区画されて
いる。
【0040】
開閉部210は、ノズル開口21の並設方向と交差する方向で、ノズル開口21上で分
割された2部材からなる。そして、開閉部210は、スペーサー211に接着剤213を
介して接合されている。また、開閉部210は、段差部23の表面、すなわち、インクの
吐出面には接合されることなく当接した状態で配置されることで、チャンバー221内に
凸状に変形可能となる。
【0041】
このようなチャンバー221には、圧力発生室12の並設方向の一端部側に流路形成基
板10と詳しくは後述する保護基板30とを貫通して設けられた圧力調整孔222が連通
している。圧力調整孔222は、段差部23によって2つに区画されたチャンバー221
のそれぞれに連通するように設けられている。また、圧力調整孔222は、チャンバー2
21とは反対側に圧力調整管223を介してポンプ224が接続されており、チャンバー
221は、圧力調整孔222及び圧力調整管223を介して接続されたポンプ224によ
って内部の圧力が調整可能となっている。
【0042】
チャンバー221内の圧力が常圧(チャンバー221の外部の気圧と同等という意味)
では、図5(a)に示すように、2枚の板状部材で構成される開閉部210は、スペーサ
ー211と段差部23との表面側に平坦な状態で維持されてノズル開口21を覆い閉口す
る。
【0043】
また、ポンプ224によってチャンバー221内の気体を吸引してチャンバー221内
を負圧すると、図5(b)に示すように、開閉部210がチャンバー221内に凸状に変
形する。このとき、開閉部210は、段差部23のチャンバー221側の角部を支点とし
て、ノズル開口21側の端部が外側に移動することで、開閉部210の2枚の板状部材が
付き合わされた部分が開きノズル開口21を開口する。
【0044】
すなわち、本実施形態では、チャンバー221、圧力調整孔222、圧力調整管223
及びポンプ224が開閉部210を駆動する駆動手段220として機能する。
【0045】
なお、本実施形態では、開閉部210を変形させてノズル開口21を開口し、開閉部2
10の弾性変形によってノズル開口21を閉口するため、開閉部210としては、弾性変
形可能な材料を用いるのが好ましく、例えば、樹脂材料や金属材料等を用いることができ
る。
【0046】
このような開閉手段200によってノズル開口21を開口するタイミングは、ノズル開
口21からインクを吐出する際である。すなわち、開閉手段200によってノズル開口2
1を閉口するタイミングは、インクジェット式記録ヘッドIIからインクを吐出していな
いときであり、例えば、印刷中止中や、印刷動作の途中や、インクジェット式記録装置I
の電源切断時などである。
【0047】
なお、開閉手段200がノズル開口21を開閉するタイミングは、詳しくは後述する開
閉制御手段によって制御される。
【0048】
一方、図4に示すように、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述
したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されて
いる。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80と
が、成膜及びリソグラフィー法によって積層形成されて圧電素子300を構成している。
ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分を
いう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び
圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパタ
ーニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加
により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1電極6
0を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としてい
るが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、変位可能
に設けられた圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、
弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定
されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60の
みが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動
板を兼ねるようにしてもよい。
【0049】
圧電体層70は、第1電極60上に形成されるペロブスカイト型構造を有する圧電材料
からなる。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電
体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加
したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン
酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ラン
タン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(
Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,
Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。
【0050】
圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、
且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層7
0を0.5〜2.0μm前後の厚さで形成した。
【0051】
また、圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端
部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からな
るリード電極90が接続されている。
【0052】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60
、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成す
るリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリ
ザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12
の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通さ
れて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、
流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31
のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12の
みを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50
、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設
けるようにしてもよい。
【0053】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻
害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32
は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封
されていても、密封されていなくてもよい。
【0054】
さらに、保護基板30には、流路形成基板10の圧力調整孔に連通する圧力調整連通孔
が設けられている。この保護基板30に設けられた圧力調整連通孔に圧力調整管を介して
圧力ポンプが接続されて、圧力ポンプによってチャンバー内の圧力調整が行われる。
【0055】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例え
ば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板
10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0056】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられて
いる。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔
33内に露出するように設けられている。
【0057】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路12
0が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路
(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボン
ディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続され
ている。
【0058】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプラ
イアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する
材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。ま
た、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー1
00に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザ
ーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0059】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給
手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口2
1に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発
生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性
膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、
各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0060】
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドIIを制御する制御構成について説明
する。なお、図6は、インクジェット式記録ヘッドの制御構成を示すブロック図である。
【0061】
図6に示すように、インクジェット式記録装置Iでは、実際に印刷を行う機構部となる
インクジェット式記録ヘッドIIと、インクジェット式記録ヘッドIIのノズル開口21
からインクを吸引する吸引手段130と、インクジェット式記録ヘッドII、開閉手段2
00及び吸引手段130の動作を制御する制御部400とを具備する。
【0062】
制御部400は、印刷制御手段401、印刷位置制御手段402、吸引制御手段403
及び開閉制御手段404を有する。
【0063】
印刷制御手段401は、インクジェット式記録ヘッドIIの印刷動作を制御し、例えば
、印刷信号の入力に伴ってインクジェット式記録ヘッドIIに設けられた駆動回路120
を介して圧電素子300に駆動パルスを印加して、インクジェット式記録ヘッドにインク
を吐出させる。
【0064】
印刷位置制御手段402は、インクジェット式記録ヘッドIIの印刷時やクリーニング
動作時(キャップ部材131による吸引動作やブレードによるワイピング動作)の主走査
方向及び副走査方向の位置決めを行う。詳しくは、印刷位置制御手段402は、駆動モー
ター6を駆動してキャリッジ3を主走査方向に移動することでインクジェット式記録ヘッ
ドIIの主走査方向の位置決めを行い、図示しない紙送りモーターを駆動してプラテン8
を回転し記録シートSを副走査方向に移動することで記録シートSに対するインクジェッ
ト式記録ヘッドIIの副走査方向の位置決めを行っている。そして、印刷位置制御手段4
02は、印刷時にはインクジェット式記録ヘッドIIが搭載されたキャリッジ3を主走査
方向に移動させながら、記録シートSを副走査方向に移動させる。また、クリーニング動
作時には、インクジェット式記録ヘッドIIが搭載されたキャリッジ3を非印刷領域に設
けられた吸引手段130側に移動させる。なお、ここで言うクリーニング動作とは、上述
した吸引手段130によってノズル開口21から流路内のインクを吸引する吸引動作や、
特に図示していないが、インクジェット式記録ヘッドIIの吐出面をブレードによってワ
イピングするものも含む。
【0065】
吸引制御手段403は、吸引手段130の吸引動作を制御する。すなわち、吸引制御手
段403は、所定のタイミングで吸引手段130の吸引装置133を動作させて、吸引手
段130によるインクジェット式記録ヘッドIIのノズル開口21近傍のインクを吸引す
る吸引動作を行わせる。詳しくは、吸引制御手段403は、印刷位置制御手段402を介
してインクジェット式記録ヘッドIIをキャップ部材131に相対向する位置に移動し、
インクジェット式記録ヘッドIIをキャップ部材131でキャッピングさせて吸引装置1
33を駆動することで吸引動作を行わせる。
【0066】
また、本実施形態では、キャップ部材131は、複数のノズル開口21の全てを覆う大
きさではなく、1個から複数個のノズル開口21を選択的に覆う大きさで設けられている
。したがって、吸引動作時には、キャップ部材131とインクジェット式記録ヘッドII
とをノズル開口21の並設された方向に相対的に移動させながら行う。インクジェット式
記録ヘッドII(キャリッジ3)を主走査方向に移動することで、キャップ部材131に
対して相対移動させる。このような方法によれば、キャップ部材131のキャッピング面
積を小さくすることができるため、キャップ部材131を小型化することができ、インク
ジェット式記録装置Iを小型化することができる。
【0067】
開閉制御手段404は、インクジェット式記録ヘッドIIからインクが吐出されるタイ
ミング、すなわち、印刷制御手段401から印刷信号が出力されるタイミングに合わせて
、開閉手段200のポンプ224を駆動してチャンバー221内を負圧とすることにより
、開閉部210を弾性変形させて、ノズル開口21を開口する(図5(b)参照)。また
、開閉制御手段404は、印刷が行われない時、すなわち、印刷制御手段401から印刷
信号が出力されない時には、ポンプ224の駆動を停止することにより、チャンバー22
1内を常圧にして開閉部210を元に戻し、ノズル開口21を閉口する(図5(a)参照
)。
【0068】
ちなみに、開閉部210によってノズル開口21を閉口する際には、ポンプ224を停
止するだけではなく、大気開放を行うようにすれば、チャンバー221内を容易に常圧(
外気圧と同じ圧力)にすることができる。もちろん、開閉部210によってノズル開口2
1を閉口する際には、ポンプ224によってチャンバー221内を加圧するようにしても
よい。チャンバー221内を加圧することで、開閉部210を迅速に且つ確実に元に戻し
てノズル開口21を閉口することができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態では、ノズル開口21をインクジェット式記録ヘッド
IIに設けられた開閉手段200によって開閉するようにしたため、キャップ部材131
によってノズル開口21を覆わなくても、ノズル開口21近傍のインクの乾燥を抑制して
、乾燥したインクによる目詰まり等のインク吐出不良を抑制することができる。また、キ
ャップ部材131として、全てのノズル開口21を覆わない小型のものを用いることがで
き、また、キャップ部材131とは別に、全てのノズル開口21を覆う保護キャップも不
要となるため、インクジェット式記録装置Iを小型化することができる。
【0070】
さらに、従来のようにキャップ部材131や保護キャップ等を用いることなく、インク
ジェット式記録ヘッドIIに設けられた開閉手段200によってノズル開口21を開閉す
ることができるため、インクを吐出させずにキャリッジ3を移動している際など所望のタ
イミングでノズル開口21を開閉することができる。ちなみに、キャップ部材131や保
護キャップ等でノズル開口21を覆って閉口する場合、キャップ部材131や保護キャッ
プは非印刷領域に設けられているため、キャリッジ3を非印刷領域まで移動しなくてはな
らないが、本実施形態の開閉手段200によれば、キャリッジ3の移動中であっても、ノ
ズル開口21を閉口することができるため、ノズル開口21の保護を確実に行うことがで
きると共にキャップ部材131等に比べて、インクの乾燥をさらに効果的に抑制すること
ができる。
【0071】
なお、本実施形態では、インクを吐出しないときに開閉手段200によってノズル開口
21を閉口し、インクを吐出する際に開閉手段200がノズル開口21を開口するように
したが、この開閉手段200によるノズル開口21の開閉に連動させて、ノズル開口21
のインクのメニスカスを圧力発生室12側に引き込むようにしてもよい。このような例を
図7に示す。なお、図7は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの変
形例を示す要部を拡大した断面図である。
【0072】
図7(a)に示すように、インクを吐出している状態、すなわち、開閉手段200がノ
ズル開口21を開口した状態では、インクのメニスカスAは、ノズル開口21の吐出面側
に存在している。
【0073】
そして、開閉手段200によってノズル開口21を閉口する際には、圧電素子300を
駆動させて、圧力発生室12内の圧力を負圧にする。これにより、図7(b)に示すよう
に、ノズル開口21のインクのメニスカスAが、圧力発生室12側に後退する。このよう
にノズル開口21のインクのメニスカスAを後退させた後に、図7(c)に示すように、
開閉手段200によってノズル開口21を閉口する。また、インクを吐出する際には(開
閉手段200がノズル開口21を開口する際には、ノズル開口21のインクのメニスカス
を図7(a)に示す位置まで戻してからインクの吐出を行わせればよい。
【0074】
このように、開閉手段200によってノズル開口21を閉口する際に、ノズル開口21
のインクのメニスカスAを圧力発生室12側に後退させることで、開閉部210がノズル
開口21のインクのメニスカスAに直接接触してメニスカスAを破壊するのを抑制するこ
とができる。ちなみに、開閉部210がノズル開口21を閉口した際にメニスカスAに接
触すると、開閉部210がノズル開口21を開口した際にメニスカスAが破壊されてしま
う。そして、メニスカスAが破壊されると、所望の大きさのインク滴を所望の方向に吐出
させることができなくなってしまう。本実施形態では、開閉部210がノズル開口21の
インクのメニスカスAに接触するのを低減して、メニスカスAの破壊を抑制することがで
きるため、所望の大きさのインク滴を所望の方向に吐出させることができ、印刷品質を向
上することができる。
【0075】
なお、このようなノズル開口21のインクのメニスカスAの移動は、開閉制御手段40
4が、印刷制御手段401を制御して圧電素子300を駆動させることで行うことができ
る。
【0076】
また、開閉手段200の少なくともノズル開口に相対向する領域に撥水膜214を設け
るようにしてもよい。このような例を図8に示す。なお、図8は、本発明の実施形態1に
係るインクジェット式記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
【0077】
図8に示すように、開閉部210には、ノズル開口21側の全面に亘って連続した撥水
膜214が設けられている。撥水膜214としては、特に限定されないが、例えば、フッ
素系高分子を含む金属膜や、撥水性を有する金属アルコキシドの分子膜などが挙げられる
。もちろん、撥水膜214は、インクの材料や開閉部210の材料等に基づいてその材料
を適宜選択すればよい。
【0078】
このように、開閉部210のノズル開口21に相対向する領域に撥水膜214を設ける
ことによって、開閉部210がノズル開口21を閉口した際に、開閉部210がノズル開
口21のインクのメニスカスに接触したとしても、開閉部210がノズル開口21を開口
した際にノズル開口21のメニスカスが開閉部210によって破壊されるのを抑制するこ
とができる。
【0079】
また、開閉部210に撥水膜214を設けることによって、インクを吐出した際に霧化
したインクが開閉部210に付着し難い。ちなみに、霧化したインクが開閉部210に付
着すると、霧化したインクが乾燥して固体化し、開閉部210がノズル開口21を閉口し
た際にメニスカスを破壊するなどの不具合が発生する虞がある。
【0080】
なお、本実施形態では、撥水膜214を開閉部210のノズル開口21側の全面に亘っ
て連続して設けるようにしたが、撥水膜214は少なくともノズル開口21に相対向する
領域に設けられていればよいため、例えば、撥水膜214を並設されたノズル開口21に
亘って連続して選択的に設けるようにしてもよく、また、撥水膜214を各ノズル開口2
1に相対向するように個別に設けるようにしてもよい。
【0081】
さらに、上述した実施形態1では、開閉部210自体の弾性力によってノズル開口21
の開閉を行うようにしたが、さらに、開閉部210の変形を補助する付勢手段を設けるよ
うにしてもよい。このような例を図9に示す。なお、図9は、本発明の実施形態1に係る
インクジェット式記録ヘッドの変形例を示す断面図である。
【0082】
図9に示すように、ベース部22、段差部23、開閉部210及びスペーサー211に
よって画成されたチャンバー221内には、板ばねからなる付勢手段215が設けられて
いる。
【0083】
付勢手段215は、一端部側がスペーサー211とベース部22との間に挟持され、他
端部側が開閉部210のチャンバー221側の内面近傍まで配置されている。このような
付勢手段215は、図9(b)に示すように、開閉部210がチャンバー221内に凸状
に変形した際に、開閉部210を外側に向かって付勢する。したがって、チャンバー22
1内の圧力を負圧から常圧に戻した際に、付勢手段215の付勢力によって開閉部210
がチャンバー221内に凸状に変形した状態から平坦な状態(図9(a)参照)に戻して
、ノズル開口21を閉口することができる。したがって、ノズル開口21を閉口する際に
、チャンバー221内を正圧にする必要が無く、ポンプ224やバルブ(図示無し)等の
制御を簡略化することができる。
【0084】
また、付勢手段215は、インクジェット式記録装置Iの電源が切断された状態におい
て、開閉部210がノズル開口21を閉口した状態を維持するロック機構としても機能す
る。
【0085】
なお、図9に示す例では、付勢手段215は、開閉部210がチャンバー221内に凸
状に変形した際に、開閉部210を外側に向かって付勢するように配置されているが、特
にこれに限定されず、例えば、付勢手段215として、開閉部210が平坦の状態からチ
ャンバー221内に凸状に変形する方向に向かって付勢するようにしてもよい。このよう
な付勢手段215は、開閉部210のベース部22とは反対側の表面に設けるようにして
もよい。ちなみに、付勢手段215を開閉部210が平坦の状態からチャンバー221内
に凸状に変形する方向に向かって付勢するように設けた場合には、開閉部210がノズル
開口21を開口した状態を維持することができるため、例えば、インクジェット式記録ヘ
ッドIIを搭載したキャリッジ3が主走査方向に移動したとしても、移動の慣性力等によ
って開閉部210がノズル開口21を閉口することがない。
【0086】
また、上述した図9に示す例では、付勢手段215として板ばねを設けるようにしたが
、特にこれに限定されず、例えば、コイルばね等であってもよい。
【0087】
(実施形態2)
図10は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記
録ヘッドの吐出面側の平面図であり、図11は、図10のB−B′断面図であり、図12
は、記録ヘッドの動作を示す要部拡大断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の
部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0088】
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIIは、流路形成基板10
の圧電素子300とは反対側に、ノズル開口21が設けられたノズルプレート20Aが設
けられている。ノズルプレート20Aは、一枚の平板からなり、ノズル開口21は、ノズ
ルプレート20Aに穿設されている。このようなノズルプレート20Aのインク滴の吐出
面側には、開閉手段200Aが設けられている。
【0089】
開閉手段200Aは、ノズルプレート20Aの吐出面に固定されたスペーサー211A
と、スペーサー211Aのノズルプレート20Aとは反対側に固定された保護プレート2
30とを具備する。
【0090】
スペーサー211Aは、並設された複数のノズル開口21に亘って連続して設けられた
貫通孔216が設けられている。
【0091】
保護プレート230は、ノズル開口21に相対向する領域に、並設された複数のノズル
開口21に亘って設けられた厚さ方向に貫通する露出孔231を有する。
【0092】
また、ノズルプレート20Aと保護プレート230との間に画成されたスペーサー21
1Aの貫通孔216内には、開閉部210Aが設けられている。開閉部210Aは、ノズ
ル開口21の並設方向とは交差する方向の幅が、貫通孔216よりも幅狭の板状部材から
なる。また、開閉部210Aには、保護プレート230の露出孔231に連通する露出連
通孔217が設けられている。
【0093】
このような開閉部210Aは、貫通孔216内をノズル開口21の並設方向と交差する
方向に移動可能に設けられている。そして、開閉部210Aが設けられた貫通孔216の
両側(移動方向の両側)に画成された空間が、第1チャンバー221A及び第2チャンバ
ー221Bとなっている。
【0094】
このような第1チャンバー221A及び第2チャンバー221Bには、流路形成基板1
0及び保護基板30を貫通する第1圧力調整孔222A及び第2圧力調整孔222Bがそ
れぞれ連通して設けられている。また、第1圧力調整孔222Aには、第1圧力調整管2
23Aを介して第1ポンプ224Aが接続され、第2圧力調整孔222Bには第2圧力調
整管223Bを介して第2ポンプ224Bが接続されている。
【0095】
そして、第1ポンプ224Aによって第1チャンバー221Aを正圧、第2ポンプ22
4Bによって第2チャンバー221Bを負圧にすると、図12(a)に示すように、開閉
部210Aは、第2チャンバー221B側に移動する。このとき、開閉部210に設けら
れた露出連通孔217が、ノズル開口21に相対向して、露出連通孔217によってノズ
ル開口21が開口される。
【0096】
逆に、第1チャンバー221Aを負圧、第2チャンバー221Bを正圧とすると、図1
2(b)に示すように、開閉部210Aは第1チャンバー221A側に移動する。このと
き、開閉部210Aに設けられた露出連通孔217がノズル開口21に相対向する位置か
らずれて、ノズル開口21は開閉部210Aの露出連通孔217以外の領域で閉口される

【0097】
すなわち、本実施形態では、第1及び第2チャンバー221A、221B、第1及び第
2圧力調整孔222A、222B、第1及び第2圧力調整管223A、223B並びに第
1ポンプ及び第2ポンプ224A、224Bが駆動手段220Aとして機能する。
【0098】
なお、本実施形態では、保護プレート230に、開閉部210Aの移動を規制する規制
突起232を設けることで、開閉部210Aの位置決めを行っている。
【0099】
なお、本実施形態では、開閉部210Aがノズル開口21を覆うことでノズル開口21
を閉口するようにしたため、上述した実施形態1と同様に、開閉手段200Aによるノズ
ル開口21の開閉に連動させて、ノズル開口21のインクのメニスカスを圧力発生室12
側に引き込むようにしてもよい。このような例を図13に示す。なお、図13は、本発明
の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの変形例を示す要部を拡大した断面図で
ある。
【0100】
図13(a)に示すように、インクを吐出している状態、すなわち、開閉手段200A
がノズル開口21を開口した状態では、インクのメニスカスAは、ノズル開口21の吐出
面側に存在している。
【0101】
そして、開閉手段200Aによってノズル開口21を閉口する際には、圧電素子300
を駆動させて、圧力発生室12内の圧力が負圧にする。これにより、図13(b)に示す
ように、ノズル開口21のインクのメニスカスAが、圧力発生室12側に後退する。この
ようにノズル開口21のインクのメニスカスAを後退させた後に、図13(c)に示すよ
うに、開閉手段200Aによってノズル開口21を閉口する。また、インクを吐出する際
には(開閉手段200Aがノズル開口21を開口する際)には、ノズル開口21のインク
のメニスカスを図13(a)に示す位置まで戻してからインクの吐出を行わせればよい。
【0102】
このように、開閉手段200Aによってノズル開口21を閉口する際に、ノズル開口2
1のインクのメニスカスAを圧力発生室12側に後退させることで、開閉部210Aがノ
ズル開口21のインクのメニスカスAに直接接触してメニスカスAを破壊するのを抑制す
ることができる。ちなみに、開閉部210がノズル開口21を閉口した際にメニスカスA
に接触すると、開閉部210がノズル開口21を開口した際にメニスカスAが破壊されて
しまう。そして、メニスカスAが破壊されると、所望の大きさのインク滴を所望の方向に
吐出させることができなくなってしまう。本実施形態では、開閉部210がノズル開口2
1のインクのメニスカスAに接触するのを低減して、メニスカスAの破壊を抑制すること
ができるため、所望の大きさのインク滴を所望の方向に吐出させることができ、印刷品質
を向上することができる。
【0103】
また、開閉手段200Aの少なくともノズル開口21に相対向する領域に撥水膜214
Aを設けるようにしてもよい。このような例を図14に示す。なお、図14は、本発明の
実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
【0104】
図14に示すように、開閉部210Aには、ノズル開口21側の全面に亘って連続した
撥水膜214Aが設けられている。撥水膜214Aとしては、特に限定されないが、例え
ば、フッ素系高分子を含む金属膜や、撥水性を有する金属アルコキシドの分子膜などが挙
げられる。
【0105】
このように、開閉部210Aのノズル開口21に相対向する領域に撥水膜214Aを設
けることによって、開閉部210Aがノズル開口21を開閉した際に、開閉部210Aが
ノズル開口21のインクのメニスカスに接触したとしても、開閉部210Aがノズル開口
21を開口した際にノズル開口21のメニスカスが開閉部210Aによって破壊されるの
を抑制することができる。
【0106】
なお、本実施形態では、撥水膜214Aを開閉部210Aのノズル開口21側の全面に
亘って連続して設けるようにしたが、撥水膜214Aは少なくともノズル開口21に相対
向する領域に設けられていればよいため、例えば、撥水膜214Aを並設されたノズル開
口21に亘って連続して選択的に設けるようにしてもよく、また、撥水膜214Aを各ノ
ズル開口21に相対向するように個別に設けるようにしてもよい。
【0107】
さらに、開閉部210Aを付勢する付勢手段を設けるようにしてもよい。このような例
を図15に示す。なお、図15は、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッ
ドの変形例を示す吐出面側の平面図であり、図16は、開閉部の動作を模式的に示す平面
図である。
【0108】
図15に示すように、開閉部210Aのノズル開口21の並設方向における両端部には
スペーサー211Aに設けられた挿通孔211aを挿通して延設された延設部218が設
けられている。
【0109】
この延設部218には、圧縮コイルばねからなる付勢手段215Aの一端部がそれぞれ
固定されている。また、付勢手段215Aの他端部は、ノズルプレート20Aに回転自在
に支持されている。付勢手段215Aの他端部が固定される位置は、開閉部210Aが移
動する中間部となっている。
【0110】
このような付勢手段215Aによれば、図16(a)に示すように、ノズル開口21を
開閉部210Aが開口した状態から、図16(c)に示すようにノズル開口を閉口した際
に、図16(b)に示すように開閉部210Aが中間地点に移動した際に付勢手段215
Aが最も圧縮される。このような図16(b)に示すような状態では、図16(c)に示
すノズル開口21を閉口する位置まで付勢手段215Aの付勢力によって開閉部210A
を小さな力で移動させることができる。同様に、開閉部210Aを図16(c)に示す状
態のノズル開口21を閉口した状態から、図16(a)に示すノズル開口21を開口する
状態まで移動する際においても、付勢手段215Aの付勢力によって開閉部210Aを移
動させることができる。すなわち、第1チャンバー221A及び第2チャンバー221B
の圧力調整は、図16(b)に示すように開閉部210Aが中間地点を越えるまで行うよ
うにすればよい。
【0111】
このような図15に示す付勢手段215Aは、開閉部210Aを2つの状態(ノズル開
口21を開口及び閉口する状態)に切り替えるトグル機構として機能する。また、本実施
形態の付勢手段215Aは、開閉部210Aを2つの状態(ノズル開口21を開口及び閉
口する状態)でロックするロック機構としても機能するものである。
【0112】
このように、付勢手段215Aを設けることによって、ノズル開口21を開口した状態
又はノズル開口21を閉口した状態を維持することができるため、ノズル開口21を開口
してインクを吐出している最中にキャリッジ3の移動による慣性力等によってノズル開口
21が閉口することがなく、また、インクジェット式記録装置Iの電源切断時に閉口して
いたノズル開口21を開口することがない。
【0113】
なお、付勢手段215Aは特にこれに限定されず、例えば、第1チャンバー221A又
は第2チャンバー221Bの内部にコイルばね、板ばね等の付勢手段を設け、ノズル開口
21を開口した状態又は閉口した状態の何れか一方の状態から他方の状態に向かって付勢
するようにしてもよい。
【0114】
さらに、ロック機構として他の態様も考えられる。ここで、本実施形態のインクジェッ
ト式記録ヘッドIIの変形例を図17及び図18に基づいて説明する。なお、図17は、
実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの変形例を示す吐出面側の平面図であり、
図18は、要部断面図である。
【0115】
図17及び図18に示すように、スペーサー211Aには、ノズル開口21の並設方向
両端部側に貫通孔216に開口する凹部240が設けられている。また、凹部240内に
は、球形状を有するボール部材241と、ボール部材241を貫通孔216側に付勢する
付勢ばね242とが設けられている。
【0116】
一方、開閉部210Aには、図18(a)に示すように、ノズル開口21を開口した状
態で、凹部240に連通する第1嵌合孔243と、図18(c)に示すように、ノズル開
口21を閉口した状態で凹部240に連通する第2嵌合孔244とが設けられている。そ
して、図18(a)に示すように、開閉部210Aがノズル開口21を開口する位置に移
動すると、ボール部材241が第1嵌合孔243内に嵌合し、開閉部210Aの移動がロ
ックされる。また、図18(b)に示すように、開閉部210Aが移動すると、開閉部2
10Aの側面によってボール部材241は凹部240内に押し込まれる。さらに、図18
(c)に示すように、開閉部210Aがノズル開口21を閉口する位置に移動すると、ボ
ール部材241が第2嵌合孔244内に嵌合し、開閉部210Aの移動がロックされる。
【0117】
このように、凹部240、ボール部材241、付勢ばね242、第1嵌合孔243及び
第2嵌合孔244からなるロック機構を設けることによっても、ノズル開口21を開口し
てインクを吐出している最中にキャリッジ3の移動による慣性力等によってノズル開口2
1が閉口することがなく、また、インクジェット式記録装置Iの電源切断時に閉口してい
たノズル開口21を開口することを抑制することができる。
【0118】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに
限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び2では、チャンバー221、
第1チャンバー221A及び第2チャンバー221B内の圧力調整を行うことで、開閉部
210、210Aを駆動するようにしたが、チャンバー221、221A、221Bの圧
力調整に用いるものは、気体、液体等特に限定されるものではない。また、開閉部210
及び210Aを駆動する駆動手段としては、圧力調整以外に、例えば、圧電素子、電磁石
、モーター等を用いることができる。
【0119】
また、上述した実施形態1及び2では、開閉部210、210Aに撥水膜214、21
4Aを設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、開閉部210、210A自
体が撥水性を有するものであってもよい。
【0120】
上述した実施形態1及び2では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段
として、薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエーター装置を用いて説明したが、特
にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜
型のアクチュエーター装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸
縮させる縦振動型のアクチュエーター装置などを使用することができる。また、圧力発生
手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによ
ってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、
静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式ア
クチュエーターなどを使用することができる。
【0121】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、インクジェット式記録ヘッドII(
ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例
示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIIが固定され
て、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録
装置にも本発明を適用することができる。
【0122】
なお、上述した実施形態1及び2では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式
記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであ
り、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他
の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記
録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、
有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極
材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる

【符号の説明】
【0123】
I インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 II インクジェット式記録ヘッ
ド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、
14 インク供給路、 15 連通路、 20、20A ノズルプレート、 21 ノ
ズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40
コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 7
0 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 リザーバー、 12
0 駆動回路、 121 接続配線、 200、200A 開閉手段、 210、210
A 開閉部、 220、220A 駆動手段、 214、214A 撥水膜、 215、
215A 付勢手段、 300 圧電素子(アクチュエーター装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせるアクチュエ
ーター装置と、を具備し、
前記ノズル開口の吐出面側には、当該ノズル開口を開閉する開閉手段が設けられている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。

【請求項2】
前記開閉手段は、開閉制御手段によって制御されると共に、該開閉制御手段は、前記ノ
ズル開口から液体を噴射するときは、前記開閉手段によって前記ノズル開口を開口し、且
つ前記ノズル開口から液体を噴射しないときは、前記開閉手段によって前記ノズル開口を
閉口することを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記開閉制御手段は、前記アクチュエーター装置を駆動することにより、前記ノズル開
口の液体のメニスカスを前記開閉手段とは反対側に後退させた後に、前記開閉手段を閉口
することを特徴とする請求項2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記開閉手段は、前記ノズル開口の吐出面側を覆う開閉部と、該開閉部を駆動する駆動
手段とを具備することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記開閉部の少なくとも前記ノズル開口に相対向する領域は撥水処理されていることを
特徴とする請求項4記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記開閉手段は、前記ノズル開口の開口状態及び閉口状態の何れか一方又は両方を維持
するロック機構を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘ
ッド。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴
射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−93137(P2011−93137A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247419(P2009−247419)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】