説明

液体定量吐出装置の液体吐出構造

【課題】液体の吐出量の制御を精度よく行うことができ、かつ高価な高圧供給装置を使用せずに済ますことができる液体定量吐出装置の液体吐出構造を提供する。
【解決手段】グリススプレーディスペンサのディスペンサヘッド2にギヤポンプ27を一体に組み込む。ギヤポンプ27の一対のギヤ29,30が回転すると、流入口側(イン側)に吸引圧が発生し、流出口側(アウト側)に吐出圧がそれぞれ発生する。これにより、グリスタンク内のグリスがギヤポンプ27により引き込まれ、ギヤポンプ27で昇圧された後、グリスがディスペンサヘッド2の吐出口から高圧吐出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定量の液体をワークに塗布する液体定量吐出装置の液体吐出構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークにグリスを塗布する装置として、図9に示すようなグリススプレーディスペンサ81(特許文献1等参照)が広く使用されている。グリススプレーディスペンサ81は、ニードルバルブ82を開状態にして高圧供給装置83からグリスが高圧でスプレーノズル(吐出ヘッド)84に供給されつつ、スプレーノズル84にエアが供給されると、スプレーノズル84の吐出口85からグリスがスプレー状に吐出される。また、ニードルバルブ82を閉状態にするとともにエアを切ると、グリスの吐出が停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−207216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、グリスの吐出量制御には、通常のところ、高圧供給装置83によってグリスを心太方式で押し出すとともに、この押し出しの実行又は停止を時間により制御する時間制御が使用されている。しかし、グリスには、例えば朝夕や異なる季節など、そのときどきの外気温度に影響を受けて、稠度が大きく変わってしまうという特性があるので、時間制御でグリス吐出量を変化させる方式では、外気温度を要因とするそのときどきのグリス稠度の変化によってグリスの吐出量が変わってしまい、グリスを精度よく吐出できないという問題があった。
【0005】
また、グリススプレーディスペンサ81は、高圧供給装置83とスプレーノズル84とが離れて位置するため、これらを長い配管86で接続する必要がある。よって、充分な圧力を満足するレベルでグリスをスプレーノズル84に供給しなければならないので、高圧供給装置83には高価な装置を使用しなければならない問題があった。また、配管86には高圧のグリスが流れるので、配管86として例えば鋼管等の高価な管材を使用しなければならないが、高圧供給装置83とスプレーノズル84との間の距離が長いと、それだけ配管86を長くせねばならず、配管86に要するコストがかさむ問題もあった。
【0006】
さらに、高圧供給装置83とスプレーノズル84との間の距離が長いと、グリスがスプレーノズル84に至るまでの間に、グリスが外気に影響を受けるリスクが高まる。このため、外気温度変化を要因としたグリス稠度の変化によってグリス吐出量が変わってしまう懸念がグリスにあると、吐出量の制御精度悪化に一層悪影響を及ぼすことになる。よって、高圧供給装置83とスプレーノズル84とが長い配管86で接続された場合は、吐出量の制御悪化が一層顕著になってしまう。
【0007】
また、この種のグリススプレーディスペンサ81では、スプレーノズル84のノズル径が大きいと、グリスを均一に吹き飛ばすことができず、グリスが塊となって飛散する懸念がある。この問題を解決するためには、スプレーノズル84のノズル径を小さくすれば対応可能となるが、ノズル径を小さくすると、グリスをより高圧で吹き出させる高圧供給装置で押し出す必要となり、高圧供給装置に大幅なコストを要してしまう問題が顕著になる。
【0008】
本発明の目的は、液体の吐出量の制御を精度よく行うことができ、かつ高価な高圧供給装置を使用せずに済ますことができる液体定量吐出装置の液体吐出構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記問題点を解決するために、本発明では、液体貯留室の液体を吐出ヘッドの吐出口から高圧で吐出してワークに前記液体を塗布する液体定量吐出装置の液体吐出構造において、前記吐出口から前記液体を高圧で吐出させる装置としてギヤポンプを使用するとともに、当該ギヤポンプを前記吐出ヘッドに一体に組み込んだことを要旨とする。
【0010】
この構成によれば、液体を高い定量性で吐出できるという特性を有するギヤポンプを、液体定量吐出装置において液体を高圧吐出するための装置として使用するので、精度よく液体を高圧吐出することが可能となる。また、相対的に安価な部品であるギヤポンプを使用するので、液体を高圧吐出する装置として高価な高圧供給装置を使用せずに済む。よって、液体定量吐出装置に要する部品コストも、低く抑えることが可能となる。
【0011】
また、ギヤポンプを吐出ヘッドに一体に組み込んだので、液体を高圧化する箇所(ギヤポンプの配置箇所)と、吐出ヘッドの液体の吐出口(高圧化後の液体の吐出箇所)とを、より近傍に位置させることが可能となる。よって、高圧化後の液体が直ぐに吐出口から吐出されるので、大きな圧力低下を伴うことなく液体を高圧吐出することが可能となる。
【0012】
本発明では、前記ギヤポンプには、一対のギヤを収納するハウジングが設けられ、当該ハウジングにおいて前記液体が流入する箇所には、当該液体の流れ込みを促進する肉取り部が設けられていることを要旨とする。
【0013】
この構成によれば、ギヤポンプに肉取り部を形成することにより、ギヤポンプの液体の流入口が大きくなるので、液体をスムーズにギヤポンプ内に導くことが可能となる。
本発明では、前記ワークに対する前記液体の塗布パターンを切り換える塗布パターン制御手段を備えたことを要旨とする。
【0014】
この構成によれば、塗布パターン制御手段によって液体の塗布パターンを適宜切り換えることが可能となるので、複数の塗布パターンによりワークに液体を塗布することが可能となる。
【0015】
本発明では、前記ギヤポンプは、前記吐出ヘッドの平面方向に沿う向きに配置されていることを要旨とする。
この構成によれば、ギヤポンプを吐出ヘッドの平面方向に沿う向き、つまり横向きに倒して配置するので、吐出ヘッドにギヤポンプを組み込むにしても、吐出ヘッドをヘッド高さ方向において小型サイズに済ますことが可能となる。
【0016】
本発明では、前記ギヤポンプと、当該ギヤポンプの駆動源と、前記液体を吐出するヘッド部とを、当該吐出ヘッドの高さ方向に沿って配置したことを要旨とする。
この構成によれば、一般的な液体定量吐出装置において吐出ヘッドには、その高さ方向に若干の部品配置スペースが存在する現状がある。よって、本構成のように、ギヤポンプとその駆動源とヘッド部とを吐出ヘッドの高さ方向に配置するようにすれば、元々存在する空きスペースを部品配置スペースとして有効利用することが可能となり、装置の小型化に有益となる。
【0017】
本発明では、前記ギヤポンプは、前記吐出口の直近に配置されていることを要旨とする。
この構成によれば、ギヤポンプが吐出口の直近に配置されるので、ギヤポンプで昇圧した液体を直ぐに吐出口から吐出することが可能となる。よって、昇圧後の液体を、圧力損失を少なく抑えて高圧吐出することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、液体の吐出量の制御を精度よく行うことができ、かつ高価な高圧供給装置を使用せずに済ますことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態のグリススプレーディスペンサのシステム構成を示す構成図。
【図2】ディスペンサヘッド及びワークの搬送構造を示す構成図。
【図3】(a)は点塗布の例示図、(b)はスプレー塗布の例示図、(c)は連続スプレー塗布の例示図。
【図4】(a)は点塗布の工程手順を示す工程図、(b)はスプレー塗布の作業状態を示す工程図。
【図5】ディスペンサヘッドの外観を示す正面図。
【図6】ディスペンサヘッドの部品構成を示す分解斜視図。
【図7】ギヤポンプの構成を示す平面図。
【図8】ギヤポンプでグリスを昇圧する際の状態を示す部分拡大図。
【図9】従来におけるグリススプレーディスペンサの概略構成を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をグリススプレーディスペンサに具体化した液体定量吐出装置の液体吐出構造の一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1に示すように、グリススプレーディスペンサ1は、ディスペンサヘッド2からグリスを高圧で吐出して、グリスをワーク3に塗布する工作機械の一種である。ディスペンサヘッド2には、グリスを貯留するグリスタンク4が配管5を介して接続されている。配管5は、耐圧性の高い鋼管ではなく、例えば汎用的な管材が使用されている。なお、グリスが液体に相当し、グリススプレーディスペンサ1が液体定量吐出装置に相当し、ディスペンサヘッド2が吐出ヘッドに相当し、グリスタンク4が液体貯留室に相当する。
【0021】
グリスタンク4には、分岐点6を介してフィルタレギュレータ7が接続されている。フィルタレギュレータ7は、エア源から工場圧のエアを入力し、このエアを定圧化(減圧)してグリスタンク4に供給する。よって、グリスタンク4は、フィルタレギュレータ7の圧力を利用して、タンク4内のグリスを、配管5を介してディスペンサヘッド2に供給する。なお、フィルタレギュレータ7の圧力は、グリスタンク4内のグリスをディスペンサヘッド2に送ることができればよい程度の値に設定され、タンク4内のグリスを高圧でディスペンサヘッド2に供給するまでの値は持たない。
【0022】
ディスペンサヘッド2には、フィルタレギュレータ7から分岐点6を介して流入したエアが、エアバルブ8及びレギュレータ9により定圧化されて供給されている。エアバルブ8は、例えばソレノイドからなり、ディスペンサヘッド2へのエア流入のオンオフを切り換える。また、レギュレータ9は、エアバルブ8を通して入力されたエアを、グリスをスプレー状(霧状)に塗布できる程度の圧力に減圧してディスペンサヘッド2に供給する。
【0023】
図2に示すように、グリススプレーディスペンサ1には、ディスペンサヘッド2とワーク3との位置関係をX,Y,Zの3軸方向において位置決めする塗布装置12が設けられている。この塗布装置12には、ディスペンサヘッド2をX−Zの2軸方向において位置決めするヘッド搬送機構13が設けられている。ヘッド搬送機構13には、例えばディスペンサヘッド2をX軸方向に直線移動可能に支持するX軸レール14xと、ディスペンサヘッド2をZ軸方向に直線移動可能に支持するZ軸レール14zとが設けられている。このヘッド搬送機構13は、ディスペンサヘッド2をヘッド左右動用モータ15によってX軸レール14xに移動させるとともに、ヘッド上下動用モータ16によってZ軸レール14zに沿って移動させて、ディスペンサヘッド2をX−Z軸方向において位置決めする。
【0024】
また、塗布装置12には、ワーク3を吐出位置まで搬送するワーク搬送機構17が設けられている。ワーク搬送機構17は、ワーク3を乗せる載置台17aが一対のレール17b,17bに沿ってY軸方向に直線移動する機構であって、ワーク3のY軸方向の搬送によって同ワーク3のY軸方向の位置決めも行う。ワーク搬送機構17は、ワーク搬送用モータ18によってグリス吐出可能位置まで搬送するとともに、同ワーク搬送用モータ18によりワーク3をY軸方向に移動して、ワーク3をY軸方向において位置決めする。
【0025】
ワーク3にグリスを塗布する際には、ワーク搬送機構17によってワーク3をディスペンサヘッド2のグリス吐出可能領域まで引き込む。そして、ディスペンサヘッド2をヘッド搬送機構13によりX−Z方向において位置決めするとともに、ワーク搬送機構17によってディスペンサヘッド2とワーク3とをY軸方向において位置決めして、グリスの吐出位置を決める。そして、各点でディスペンサヘッド2からグリスを高圧吐出して、ワーク3の表面にグリスを塗布する。ワーク3へのグリス塗布が完了すると、ワーク搬送機構17によってワーク3を外部に搬送する。
【0026】
ディスペンサヘッド2は、ワーク3への塗布パターンとして、ワーク3にグリスを点状に塗布する点塗布(図3(a)参照)と、ワーク3にグリスをスプレー状に塗布するスプレー塗布(図3(b)参照)とが可能である。点塗布は、図4(a)に示すように、ディスペンサヘッド2を下方に直線移動してワーク3に接近させ、この状態で、エアを噴出せずに単にグリスのみを高圧吐出して、ワーク3にグリスを塗布する方式である。また、スプレー塗布は、図4(b)に示すように、ディスペンサヘッド2をワーク3から離間させ、この状態で、エアを噴出しながらグリスを高圧吐出して、ワーク3にグリスを塗布する方式である。さらに、ディスペンサヘッド2は、ワーク3への塗布パターンとして、スプレー塗布を継続しながら、ディスペンサヘッド2とワーク3との相対位置を動かして、ワーク3にグリスを線状に塗布する連続スプレー塗布(図3(c)参照)も可能である。
【0027】
図5及び図6に示すように、ディスペンサヘッド2には、グリスタンク4からのグリスをディスペンサヘッド2内に流し込むマニホールド19が設けられている。マニホールド19は、上部マニホールド20と下部マニホールド21とに2分割されている。上部マニホールド20には、グリスが流れる通路として、最初はヘッド奥行き方向Y(図5及び図6のY軸方向)に延びつつ途中でヘッド高さ方向Z(図5及び図6のZ軸方向)に曲がって延びる略L字形状のグリス流通路22が形成されている。また、下部マニホールド21にも、グリスが流れる通路として、ヘッド高さ方向Zに沿って直線状に延びるグリス流通路23が形成されている。
【0028】
マニホールド19の下部には、グリスの吐出口24(図5参照)が形成されたヘッド部25が設けられている。ヘッド部25の先端は細長く形成され、この先端に形成された吐出口24からグリスが高圧吐出される。ヘッド部25には、グリスが流れる通路として、ヘッド高さ方向Zに沿って直線状に延びるグリス流通路26が形成されている。このグリス流通路26は、下部マニホールド21のグリス流通路23と導通され、グリス流通路23とともに一直線に延びる通路として形成されている。
【0029】
上部マニホールド20と下部マニホールド21との間には、上部マニホールド20内に取り込んだグリスを所定圧まで昇圧して下部マニホールド21に吐出するギヤポンプ27が設けられている。ギヤポンプ27には、同ギヤポンプ27のケースとして板状のハウジング28が設けられている。ギヤポンプ27は、一対のマニホールド20,21の間にハウジング28を挟み込むようにして、これらマニホールド20,21に一体組み付けされている。このハウジング28の内部には、噛み合い状態の一対のギヤ29,30が摺動可能に収納されている。これらギヤ29,30は、ハウジング28にヘッド高さ方向Zに貫設された収納孔31に収納されている。ギヤポンプ27は、ヘッド高さ方向に直交する面(平面方向R(図5参照):X−Y平面)に沿って、横向きに配置されている。なお、ギヤ29,30が一対のギヤを構成する。
【0030】
図6に示すように、上部マニホールド20の上部には、ギヤポンプ27の駆動源としてグリス吐出モータ32がモータブラケット33(図5参照)を介して取り付けられている。グリス吐出モータ32は、例えばパルスモータが使用され、一対のギヤ29,30のうち、一方のギヤ29のみに連結部材34を介して連結されている。連結部材34の先端には、突条の係止部35が形成される。そして、連結部材34は、上部マニホールド20の通し孔20aに摺動可能に嵌挿されるとともに、係止部35をギヤ29の中央の孔部36に係止することでギヤ29と連結されている。よって、一対のギヤ29,30は、一方のギヤ29がグリス吐出モータ32により自転する駆動ギヤ29となり、他方のギヤ30は駆動ギヤ29と単に連れ回りする従動ギヤ30となっている。従動ギヤ30は、自らは軸を持たず、単に収納孔31に嵌り込んだ収納状態をとる。
【0031】
また、図5及び図6に示すように、本例のヘッド部25とギヤポンプ27とグリス吐出モータ32とは、ヘッド高さ方向Zに沿って並んで配置されている。さらに、本例の場合、ディスペンサヘッド2にギヤポンプ27が組み込まれているので、グリスの昇圧箇所(即ち、ギヤポンプ27)が、グリスの吐出口24と直近する位置状態をとっている。なお、直近とは、昇圧後のグリスの圧力が、吐出されるまでに減じてしまうことのない程度の距離のことを言う。
【0032】
図7に示すように、ギヤポンプ27は、一対のギヤ29,30の噛み合い箇所のうち、回転するギヤ29,30同士が互いに離間していく箇所が、ギヤポンプ27におけるグリスの流入口37となり、回転するギヤ29,30が噛み合い始める箇所が、ギヤポンプ27におけるグリスの流出口38となっている。よって、ギヤポンプ27は、流入口37が上部マニホールド20のグリス流通路22と繋がり、流出口38が下部マニホールド21のグリス流通路23と繋がっている。ギヤポンプ27は、流入口37から取り込んだグリスを歯車で掻き取り、これをギヤ29,30の回転により外周方向に沿って運び、流出口38まで搬送する。そして、このグリスを流出口38においてギヤ29,30により挟んで圧縮し、グリスを下部マニホールド21のグリス流通路23、つまりディスペンサヘッド2の吐出口24から高圧吐出する。
【0033】
また、ギヤポンプ27の流入口37には、流入口37へのグリス流れ込みを促進する肉取り部39が設けられている。肉取り部39は、ギヤポンプ27の流入口37において、上部マニホールド20のグリス流通路22の開口径に合わせてハウジング28を肉取りすることによって形成される。上部マニホールド20のグリス流通路22を通るグリスは、この肉取り部39によってギヤポンプ27の流入口37にスムーズに流入する。
【0034】
図5の円内の拡大図に示すように、ヘッド部25には、グリス流通路26を囲むようにその周囲一帯に亘りエア通路40が設けられている。エア通路40は、配管41(図1参照)を介してレギュレータ9に接続され、レギュレータ9を介した高圧のエアが供給される。エア通路40内の高圧エアは、通路先端のエア供給口42から高圧で吐出される。また、エア供給口42は、グリスの吐出口24よりもヘッド高さ方向Zにおいて、長さL分だけ短く形成されている。これは、高圧吐出されたエアが、径方向の反対側に飛び出さず、外方向にのみエアを向かせるためである。
【0035】
図1に示すように、グリススプレーディスペンサ1には、グリススプレーディスペンサ1を統括制御するシステムコントローラ43が設けられている。システムコントローラ43は、グリススプレーディスペンサ1のシステム全体を管理するコントローラである。システムコントローラ43は、ワーク3へのグリス塗布の際、ワーク3の搬送位置(搬送動作)や、或いはディスペンサヘッド2のワーク3に対する位置、つまりディスペンサヘッド2とワーク3と間の相対位置関係を管理する。なお、システムコントローラ43が塗布パターン制御手段を構成する。
【0036】
また、システムコントローラ43には、ディスペンサヘッド2のグリス吐出動作を制御する吐出制御コントローラ44が接続されている。吐出制御コントローラ44は、同コントローラ44の外部出力端子44aを介してエアバルブ8に接続されるとともに、ドライバ45を介してグリス吐出モータ32に接続されている。吐出制御コントローラ44は、システムコントローラ43からの入力信号を基に、エアバルブ8及びグリス吐出モータ32を制御する。
【0037】
吐出制御コントローラ44は、点塗布の際、エアバルブ8を閉状態としたまま、グリス吐出モータ32のみを回転させてギヤポンプ27のみを動作させることにより、吐出口24からグリスを点状に吐出させる。また、吐出制御コントローラ44は、スプレー塗布や連続スプレー塗布の際、エアバルブ8を開状態にすることにより、エア供給口42からエアを噴出させた状態の下で、グリス吐出モータ32を回転させてギヤポンプ27を駆動させることにより、吐出口24からグリスをスプレー状に吐出させる。なお、吐出制御コントローラ44が塗布パターン制御手段を構成する。
【0038】
次に、本例のグリススプレーディスペンサ1の動作を説明する。
エア源がフィルタレギュレータ7を介してグリスタンク4に供給されると、グリスタンク4内のグリスが、エア源からの圧力により押し出されてディスペンサヘッド2に供給される。このグリスは、上部マニホールド20のグリス流通路22に流れ込み、ギヤポンプ27の流入口37の手前まで至る。そして、この状態でギヤポンプ27が回転すると、上部マニホールド20のグリス流通路22内のグリスがギヤポンプ27の流入口37に流れ込み、各ギヤ29,30のそれぞれの歯の間に入り込む。このとき、ギヤ29,30の回転に伴って、グリスがギヤ29,30の回転方向に導かれ、ギヤ29,30の回りを一周してギヤポンプ27の流出口38に搬送される。
【0039】
グリスがギヤポンプ27の流出口38付近に至ると、図8に示すように、駆動ギヤ29と従動ギヤ30との歯車の間にできる収納室46にグリスが押し込まれ、この収納室46内でグリスの圧力が高められる。そして、グリスがその圧力状態を保ちながら下部マニホールド21のグリス流通路23に押し出される。この一連の動作の結果、ギヤポンプ27の流入口37に吸引圧が発生し、ギヤポンプ27の流出口38に吐出圧が発生し、ディスペンサヘッド2内に流入したグリスが、高圧状態でディスペンサヘッド2の吐出口24から吐出する。
【0040】
ここで、グリス吐出モータ32の回転速度は、ギヤポンプ27の収納室46にグリスが100%充填できる速度、つまり収納室46に対するグリスの充填効率が100%となる速度に設定されている。これは、収納室46にグリスが100%で充填されないと、グリスを高圧吐出することができないためである。また、ディスペンサヘッド2のグリス吐出能力、つまりグリス吐出量を変更するには、例えば、そのときのグリス吐出モータ32の回転速度に合わせて、ギヤポンプ27の吐出効率が100%を維持する状態で、ギヤポンプ27の厚みW(図5参照)を変更することにより可能である。
【0041】
ところで、この種のギヤポンプ27には、ギヤ29,30の回転量に応じた定量の吐出量が得られるという特性、つまり吐出量の定量性が高いという特性がある。よって、装置の外気の温度変化に吐出量が影響され難く、例えば朝夕であっても或いは季節が異なっても、同じ量のグリスが吐出される利点がある。このため、本例においては、グリススプレーディスペンサ1においてグリスを高圧化する装置としてギヤポンプ27を使用したので、精度のよいグリスの定量塗布が可能となる。
【0042】
また、ディスペンサヘッド2にギヤポンプ27を一体に組み込み、グリスを吐出直前にディスペンサヘッド2で高圧化する。よって、グリスタンク4内のグリスを高圧状態でディスペンサヘッド2に供給するための高圧供給装置が不要となり、ひいてはグリスタンク4とディスペンサヘッド2とを繋ぐ配管5を鋼管とする必要もなくなる。このため、このような高圧対応の各種部品を使用せずに済むので、その分だけグリススプレーディスペンサの装置を低コスト化することも可能となる。
【0043】
ヘッド部25のグリス流通路26は、グリスを細かいスプレー状で吐出可能するために小径に形成されている。しかし、グリス流通路26を小径とすると、その分だけグリスを外部に押し出すために高い圧力が必要になる。よって、従来技術のようにグリスタンク4からグリスをディスペンサヘッド2に直に高圧供給する形式の場合、グリスをより高圧吐出可能な高圧供給装置や鋼管を使用せざるを得なくなり、グリススプレーディスペンサ1の高コスト化が顕著になる。しかし、本例の場合は、ディスペンサヘッド2にギヤポンプ27を一体に組み込んで吐出直前にグリスを高圧化するので、この種の高圧供給装置や鋼管が不要となり、このような問題は考えずに済む。
【0044】
また、ヘッド部25のグリス流通路26が高圧化されると、グリスの塗布を停止した際、微量のグリスが吐出口24から露出したままで残ることもあり、これが次塗布の際、グリスの均一塗布に悪影響を及ぼすことも想定される。よって、グリス吐出動作として、例えばグリスの塗布が終了した際、グリス吐出モータ32を逆回転させて、外部に露出してしまったグリスを吐出口24から引き込むようにしてもよい。こうすると、グリスの均一塗布をより確実に実行することが可能となる。
【0045】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)グリススプレーディスペンサ1のグリス高圧供給装置として、グリスを高い定量性で吐出できるという特性を有するギヤポンプ27を使用したので、使用環境下の温度変化(例えば朝夕や季節の違い)を要因にグリスの稠度が変化しても、グリスを精度よく吐出することができる。また、相対的に安価な部品であるギヤポンプ27を使用するので、グリスを高圧吐出する装置として高価な高圧供給装置を使用せずに済む。よって、グリススプレーディスペンサ1に要する部品コストも低く抑えることができる。
【0046】
(2)ギヤポンプ27をディスペンサヘッド2に一体に組み込んだので、グリスを高圧化する箇所であるギヤポンプ27と、ディスペンサヘッド2のグリスの吐出口24とを、より近傍に位置させることが可能となる。よって、このようにギヤポンプ27と吐出口24との間の距離が短く済めば、ギヤポンプ27により昇圧したグリスを直ぐに吐出口24から吐出することが可能となるので、大きな圧力低下を伴うことなくグリスを吐出口24から高圧吐出することができる。
【0047】
(3)ディスペンサヘッド2にグリスを別部品の高圧供給装置によって供給する場合、高圧供給装置からグリスをディスペンサヘッド2まで高圧圧送するために、グリスの通路として鋼管が必要となるので、その分だけ装置に要する部品コストがかさむ問題がある。しかし、本例のように、ギヤポンプ27をディスペンサヘッド2に一体に組み込み、ディスペンサヘッド2内でグリスを高圧化する形式を使用すれば、グリスを高圧圧送するための鋼管を使用せずに済むので、部品コストをより少なく抑えることができる。
【0048】
(4)ギヤポンプ27のハウジング28に肉取り部39を形成したので、ギヤポンプ27におけるグリスの流入口37を広くとることができる。よって、上部マニホールド20から流出するグリスの流れ込みが促進されるので、グリスをスムーズにギヤポンプ27内に導くことができる。
【0049】
(5)グリススプレーディスペンサ1によるグリスの塗布パターンとして、点塗布、スプレー塗布、連続スプレー塗布を可能とした。よって、ワーク3へのグリスの塗布パターンを適宜切り換えることが可能となるので、種々のパターンでワーク3にグリスを塗布することができる。
【0050】
(6)ギヤポンプ27をディスペンサヘッド2に一体に組み込むに際して、ギヤポンプ27をディスペンサヘッド2の平面方向に沿う向き、つまり横向きに倒して配置した。よって、ギヤポンプ27をディスペンサヘッド2に組み込むにしても、ディスペンサヘッド2をヘッド高さ方向Zにおいて小型サイズに済ますことができる。
【0051】
(7)ヘッド部25とギヤポンプ27とグリス吐出モータ32とを、ディスペンサヘッド2のヘッド高さ方向Zに沿って並び配置した。ところで、この種のディスペンサヘッド2には、ヘッド高さ方向Zにおいて若干の部品配置スペースが存在する現状がある。よって、本例の部品配置位置をとれば、この余りスペースを部品配置スペースとして有効利用することができ、結果としてディスペンサヘッド2をヘッド幅方向Xにおいて小型化することができる。
【0052】
(8)ディスペンサヘッド2にギヤポンプ27を一体に組み込んだので、グリスの昇圧箇所がディスペンサヘッド2の吐出口24に直近に位置する。よって、昇圧後のグリスを減圧させることなく吐出口24から吐出可能となるので、グリスを圧力損失することなく高圧吐出することができる。
【0053】
(9)グリスをギヤポンプ27によって吐出口24の直近でグリスを高圧化するので、グリスをより高圧で吐出することができる。よって、結果として、ノズル径を従来の1mmから0.34mmへと大幅に縮径することができ、グリスを均一に吹き飛ばすことができる。
【0054】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・液体は、グリスに限定されず、グリス以外の材質を使用してもよい。
・1つのワーク3にグリスを塗布する際、その途中で塗布パターンを他のパターンに切り換えることも可能である。
【0055】
・ギヤポンプ27のハウジング28は、マニホールド19と別体であることに限定されず、マニホールド19と一体のものでもよい。
・肉取り部39は、グリスの流入口37側のみに設けられることに限定されず、流出口38側に設けてもよい。また、これら肉取り部39は、必ずしも必要ではなく、省略してもよい。
【0056】
・塗布パターンは、点塗布、スプレー塗布、連続スプレー塗布に限定されず、例えば点塗布を連続塗布する形式など、他のパターンが採用可能である。また、塗布パターンの変更は、グリス吐出モータ32の回転速度(回転数)を切り換えることにより行うものでもよい。
【0057】
・グリススプレーディスペンサ1は、複数の塗布パターンでグリスを塗布できることに限らず、一種類の塗布パターンでのみグリス塗布を行うものでもよい。
・ギヤポンプ27は、ディスペンサヘッド2に対して平面方向Rに配置されることに限定されず、例えばディスペンサヘッド2の平面方向Rに対して直交する方向、つまり縦向きに配置してもよい。
【0058】
・ギヤポンプ27の駆動源は、グリス吐出モータ32に限定されず、例えばシリンダ等を使用してもよい。
・各塗布パターンでワーク3へのグリスの塗布位置を変える場合、ディスペンサヘッド2を移動させるのか、或いはワーク3を搬送させるのかは、適宜変更可能である。
【0059】
・吐出制御コントローラ44は、システムコントローラ43からの入力信号を基にエアバルブ8及びグリス吐出モータ32のみを制御できればよいので、簡易な信号で制御することができる。
【0060】
・ディスペンサヘッド2の構造は、2つのマニホールド20,21、ギヤポンプ27、ヘッド部25から構成されることに限らず、適宜変更可能である。
・ヘッド搬送機構13及びワーク搬送機構17は、種々の構造のものが採用可能である。
【0061】
・ギヤポンプ27は、1つに限らず、複数設けてもよい。ギヤポンプ27を複数設けた場合、これらギヤポンプ27,…の繋げ方は、各ギヤポンプ27…ごとにグリスの吐出口24が存在する並列と、これらギヤポンプ27,…をグリスの通路に沿って数珠繋ぎに並べる直列とのどちらを採用してもよい。
【0062】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)請求項1〜6のいずれかにおいて、前記塗布パターン制御手段は、前記液体を前記供給口から単に高圧吐出する点塗布を実行する点塗布実行手段と、前記液体を前記供給口から吐出する際にエアもともに噴出することにより、前記液体をスプレー状に吐出するスプレー塗布を実行するスプレー塗布実行手段とを備えた。この構成によれば、点塗布とスプレー塗布との2種類の塗布パターンにより、ワークに液体を塗布することが可能となる。
【0063】
(ロ)請求項1〜6,前記技術的思想(イ)のいずれかにおいて、前記塗布パターン制御手段は、前記液体を吐出(点塗布及びスプレー塗布の両方を含む)しながら、前記吐出ヘッドと前記ワークとの相対位置を変位させることにより、前記ワーク上に前記液体を連続塗布する連続塗布実行手段を備えた。この構成によれば、連続塗布という塗布パターンにより、ワークに対し広範囲に液体を塗布することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1…液体定量吐出装置としてのグリススプレーディスペンサ、2…吐出ヘッドとしてのディスペンサヘッド、3…ワーク、4…液体貯留室としてのグリスタンク、24…吐出口、25…ヘッド部、27…ギヤポンプ、28…ハウジング、29…一対のギヤを構成する駆動ギヤ、30…一対のギヤを構成する従動ギヤ、32…駆動源としてのグリス吐出モータ、37…グリスが流入する箇所としての流入口、39…肉取り部、43…塗布パターン制御手段を構成するシステムコントローラ、44…塗布パターン制御手段を構成する吐出制御コントローラ、R…平面方向、Z…ヘッド高さ方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体貯留室の液体を吐出ヘッドの吐出口から高圧で吐出してワークに前記液体を塗布する液体定量吐出装置の液体吐出構造において、
前記吐出口から前記液体を高圧で吐出させる装置としてギヤポンプを使用するとともに、当該ギヤポンプを前記吐出ヘッドに一体に組み込んだ
ことを特徴とする液体定量吐出装置の液体吐出構造。
【請求項2】
前記ギヤポンプには、一対のギヤを収納するハウジングが設けられ、当該ハウジングにおいて前記液体が流入する箇所には、当該液体の流れ込みを促進する肉取り部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の液体定量吐出装置の液体吐出構造。
【請求項3】
前記ワークに対する前記液体の塗布パターンを切り換える塗布パターン制御手段を備えた
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体定量吐出装置の液体吐出構造。
【請求項4】
前記ギヤポンプは、前記吐出ヘッドの平面方向に沿う向きに配置されている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の液体定量吐出装置の液体吐出構造。
【請求項5】
前記ギヤポンプと、当該ギヤポンプの駆動源と、前記液体を吐出するヘッド部とを、当該吐出ヘッドの高さ方向に沿って配置した
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の液体定量吐出装置の液体吐出構造。
【請求項6】
前記ギヤポンプは、前記吐出口の直近に配置されている
ことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の液体定量吐出装置の液体吐出構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−147900(P2011−147900A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12208(P2010−12208)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】