説明

液体容器

【課題】
本発明に係る液体容器では、密閉手段によって容器内部を複数区画に分けて液剤を充填し、各液剤を混合する際には無菌状態で安全にかつ十分に混合することができる新規の液体容器を提供することを目的とする。
【解決手段】
液体容器1は、容器本体10と、密閉手段20と、注入口30と、送出口40からなる。容器本体10は、筒状を成し、内部に長さ方向に沿って形成した2つの密閉手段20を有する。密閉手段20を閉じることで筒状の容器本体10の内部を3つの区画A,B,Cに分けることができる。このような構造にすることで、注入口30から区画Aおよび区画Cに液体を貯蔵することができる。また、密閉手段20を所定の引っ張り力により開けると、区画Aおよび区画Cに貯蔵された液体が区画Bに流入し、区画Bにおいて汚染されることなく無菌状態で安全に混合され、区画Bに取り付けられた送出口40より混合液を送出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、腹膜透析に用いられる透析液等の、複数の薬液を混合するために使用される液体容器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、腹膜透析に用いられる透析液は主に2液混合型の薬液が使用されている。これら2液の一方は酸性、他方はアルカリ性など、異なる性状を有する液体であるため、治療の直前に2液を無菌状態で混合して利用している。その際用いられる液体容器は、塩化ビニル素材等の高分子材料のシートを複数の区画に分割するための仕切り部分を熱融着することにより、また注入口、送出口などを各区画ごとに熱融着して組み立てられる。
【0003】
そのような液体容器の複数の区画を連通させる手段としては、まず第1に仕切り部分を切り離すために、前記区画を叩く等の手段で加圧すれば熱融着個所が剥がれるようにしたものがある。そのような例として、米国特許第4458811号明細書(特許文献1参照)、米国特許第4608043号明細書(特許文献2参照)、米国特許第5577369号明細書(特開平7−51342号:特許文献3参照)等が挙げられる。
【0004】
第2に、仕切り部分に破断バルブを取り付けたものがある。そのような例として、特開昭57−52455号公報(特許文献4参照)、米国特許第4396383号明細書(特表昭58−501855号:特許文献5参照)、米国特許第4465488号明細書(特許文献6参照)、米国特許第5431496号明細書(特表平7−505080号:特許文献7参照)等が挙げられる。
【特許文献1】米国特許第4458811号明細書
【特許文献2】米国特許第4608043号明細書
【特許文献3】米国特許第5577369号明細書
【特許文献4】特開昭57−52455号公報
【特許文献5】米国特許第4396383号明細書
【特許文献6】米国特許第4465488号明細書
【特許文献7】米国特許第5431496号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した液体容器では2液混合の過程において、薬剤の混合が十分に行われる前に、送出口が開放されると、薬剤の1成分だけが体内に注入されるなどの原因で医療事故が起きる可能性があった。
【0006】
また、高分子材料製の液体容器の使用後の廃棄処分に当たって、ベンゼン環を含む高分子材料との混合状態で焼却した場合、有機塩素化合物が排出されるため、環境負荷が増大する原因となり、さらに製造過程において高コストになる原因となっていた。さらに、塩化ビニル素材の場合、製造工程の段階で高温蒸気滅菌、紫外線照射などによって高分子の状態が変化すると、フタル酸エステル等の添加剤の溶出が起きるなどの問題があった。
【0007】
そこで、本発明に係る液体容器では、複数の溶液貯蔵区画とこの溶液貯蔵区画に隣接して設けた混合用区画とを備え、溶液貯蔵区画と混合用区画とは密閉手段で仕切られており、前記密閉手段を外部からの引っ張る力によって開くようにして、各液剤を混合する際には無菌状態で安全にかつ十分に混合することができる新規の液体容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために本発明に係る液体容器は、溶液を密封保存する複数の溶液貯蔵区画と、該溶液貯蔵区画に隣接し、複数の溶液を混合する混合用区画とを有する液体容器であって、
前記溶液貯蔵区画と前記混合用区画とは、外力により開放可能な密閉手段により仕切られていることを特徴とするものである。
こうすることによって、必要に応じて外力により開放可能な密閉手段を開放して、複数の溶液貯蔵区画内の溶液を混合用区画内に送り込み、各溶液を混合用区画内で混合することができるようにしたものである(請求項1)。
【0009】
本発明に係る液体容器は、前記混合用区画に、混合溶液を外部に送出する送出口を設けたものであり、混合用区画で混合された溶液を送出口から送り出すようにしたものである(請求項2)。
【0010】
本発明に係る液体容器は、前記外力が、外側方向への張力であり、必要に応じて外力により開放可能な密閉手段を開放して各溶液を混合用区画内で混合することができるようにしたものである(請求項3)。
【0011】
本発明に係る液体容器は、前記密閉手段が、容器の内面に対向配置された凸条部と凹溝部とが着脱自在に嵌合する構成としたものである(請求項4)。
【0012】
本発明に係る液体容器は、前記密閉手段に、複数同時に開放可能な開放手段が設けられたものである(請求項5)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透析液を構成する複数の液体を混合する手続が明快であるため液体混合の失敗に起因する医療事故を未然にふせぐことができる。また、多段階の開放圧力閾値を有する密閉手段を開発する必要がないため、製造工程が簡素化され、成型された形状の異なるエラストマーなる単一の素材によって容器全体を形成することが可能となり、しがって、廃棄にともなう公害が生じる懸念が無い、低環境負荷材料による医療用器材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明に係る液体容器1の組み付け完了前の斜視図である。図示した液体容器1は、容器本体10と、密閉手段20と、注入口30と、送出口40からなる。容器本体10は筒状をなし、内部に長さ方向に沿って形成した2つの密閉手段20を有する。注入口30および送出口40は筒状の容器本体10の開口部11および12を閉じる際に熱融着により取り付けることができる。なお、容器本体10の材質は、高分子シートであり、注入口30および送出口40の材質は軟式エラストマーである。
【0015】
図2(a)は、図1に示した液体容器1の組み付け完了後の斜視図である。図示した液体容器1は、容器本体10と、密閉手段20と、注入口30と、送出口40からなる。容器本体10は、内部に長さ方向に沿って形成した2つの密閉手段20を有する。この密閉手段20を閉じることで筒状の容器本体10の内部を3つの区画A,B,Cに分けている。図1においては、区画A、Cは溶液貯蔵区画、区画Bは混合用区画である。また、25は密閉手段20の外力による開放手段で、2つの密閉手段20にまたがって一端を融着し、他端を自由端としたシート状の融着片を示しており、この融着片25をつまんで外部から引っ張る力を加えることができるようになっている。もちろん、密閉手段20の外力による開放手段であれば、シート状の融着片のみならず、各種のつまみ片、フック、指がかり構造等を採用することができる。
そして、図1に示した筒状の容器本体10の開口部11および12を閉じる際、開口部11において溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画Cの溶着部分13に熱融着により注入口30を取り付け、開口部12において混合用区画Bの溶着部分14に送出口40を熱融着により取り付ける。このような構造にすることで、注入口30から溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画Cに液体を貯蔵することができる。
その上で、図2(b)のように密閉手段20を開放手段25を操作して所定の引っ張り力により開けると、溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画Cに貯蔵された液体が混合用区画Bに流入し、混合用区画Bにおいて汚染されることなく無菌状態で安全に混合され、混合用区画Bに取り付けられた送出口40より混合液を送出することができる。
なお、密閉手段20を開けることで容器本体10の内部圧力が減少するため、送出口40に掛かる圧力が軽減される。したがって、混合が完了していない状態で液体が送出口40のバルブを破って流出してしまうことに起因する医療過誤・事故を防ぐことができる。
【0016】
図3は、図1に示した密閉手段20の開閉操作時の断面図である。図示した密閉手段20は、容器本体10の対向する内部側面にそれぞれ形成された凹溝部21と凸条部22とからなり、互いに噛み合わせることで密着するチャックである。また、前記密閉手段20は、所定の圧力および引っ張り力によって容易に開閉可能である。
【0017】
図4は、本発明に係る液体容器1が溶液貯蔵区画A、および溶液貯蔵区画Cに溶液を貯蔵した状態で二つ折りに折り畳んだ状態を示す斜視図である。図示した液体容器1は、容器本体10の端部に取り付けられた送出口40が容器本体10の混合用区画Bに沿って折り畳まれ、さらに、溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画Cが上記送出口40を覆うように折り畳まれ、溶液貯蔵区画Aの側部15と溶液貯蔵区画Cの側部16がシール50により接続固定されている。
また、この折り畳まれた状態を展開するために、一端部が密閉手段20に接続され、中間部がシール50に貼り付けられた牽引紐51を設けている。
なお、当該液体容器1の輸送は、上述したような折り畳まれた状態で行なわれる。
【0018】
図5は、図4に示した液体容器1の液体混合時の状態を示す斜視図である。図4の折り畳まれた液体容器1において牽引紐51が牽引されると、シール50がやぶれ、図5に示すように、溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画Cと混合用区画Bに沿って折り畳まれていた送出口40が展開される。ここで、牽引紐51をさらに牽引すると、牽引紐51と接続された密閉手段20の一部が開き、溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画Cに貯蔵された液体が混合用区画Bに無菌状態で流入する。この場合、牽引紐51が密閉手段20を開ける手段ともなる。
この状態で、溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画Cに交互に圧力を加えることで混合用区画Bにて液体を十分に混合した後に、送出口40に設けた栓41とピンチコック42を外して液体を流出させる。
なお、ピンチコック42を使用したのは1例であり、液体の流れを制御できる構造であれば他の方法でも何ら問題は生じない。また、栓41によって液体容器1の内部の無菌性が保持されているので、無菌状態で液体を混合し、輸送することができる。
【0019】
図6は、本発明に係る液体容器1の多区画状態を示す斜視図である。図示した液体容器1は、容器本体10と、密閉手段20と、注入口30と、送出口40と、熱融着部分60からなる。容器本体10は、内部に長さ方向に沿って形成した2つの密閉手段20を有する。前記密閉手段20を2つとも閉じることで容器本体1の内部を溶液貯蔵区画Aおよび溶液貯蔵区画C、混合用区画Bに分けている。このとき、溶液貯蔵区画Cの中間部分に熱融着部分60を新たに設けることで、溶液貯蔵区画Cを溶液貯蔵区画Dと溶液貯蔵区画Eに分けることができる。溶液貯蔵区画Aと、溶液貯蔵区画Dおよび溶液貯蔵区画E内の溶液を混合するには、前記密閉手段20を2つとも開けるだけでよい。
このようにすれば、必要に応じて溶液貯蔵区画の増設が可能となる。したがって、多種類の液体の貯蔵と無菌状態での混合が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、腹膜透析に用いられる透析液等の、複数の薬液を混合するために使用される液体容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る液体容器の組み付け完了前の斜視図である。
【図2】(a)は図1に示した液体容器の組み付け完了後の斜視図、(b)は開く操作をする場合の概略断面図である。
【図3】図1に示した密閉手段の開閉操作時の断面図である。
【図4】本発明に係る液体容器の折り畳まれた状態を示す斜視図である。
【図5】図4に示した液体容器の液体混合時の状態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る液体容器の多区画状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 液体容器
10 容器本体
11 開口部
12 開口部
13 溶着部分
14 溶着部分
15 区画Aの側部
16 区画Cの側部
20 密閉手段
21 凹溝部
22 凸条部
25 開放手段
30 注入口
40 送出口
41 栓
42 ピンチコック
50 シール
51 牽引紐
60 熱融着部分
A 溶液貯蔵区画
B 混合用区画
C 溶液貯蔵区画
D 溶液貯蔵区画
E 溶液貯蔵区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液を密封保存する複数の溶液貯蔵区画と、該溶液貯蔵区画に隣接し、複数の溶液を混合する混合用区画とを有する液体容器であって、
前記溶液貯蔵区画と前記混合用区画とは、外力により開放可能な密閉手段により仕切られていることを特徴とする液体容器。
【請求項2】
前記混合用区画は、混合溶液を外部に送出する送出口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体容器。
【請求項3】
前記外力は、外側方向への張力であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体容器。
【請求項4】
前記密閉手段は、容器の内面に対向配置された凸条部と凹溝部とが着脱自在に嵌合する構成であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体容器。
【請求項5】
前記密閉手段には、複数同時に開放可能な開放手段が設けられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−13204(P2008−13204A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185478(P2006−185478)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】