説明

液体封入式防振装置

【課題】建設機械の車体とその上側に配設されるキャブとの間に配設され、車体からキャブに伝達される振動を減衰する液体封入式防振装置において、コンパクトで且つ安価な構成を実現しながら、振動減衰性能の低下防止と耐久性向上との両立を図る。
【解決手段】上記車体に固定されるケース体2と、該ケース体2内に配設され、互いの間に環筒状空間6を形成する中心体8及びその外周を囲む環状体7と、該環筒状空間6内に配設され、当該空間6内に螺旋状の液室21を形成するコイルバネ5と、該コイルバネ5に弾性支持されるとともに、中心体8の上側を覆うように配設され、該中心体8との間に空間部20を形成するボルト支持体4と、液室21及び空間部20を互いに連通する隙間流路40,41と、ボルト支持体4に下端部が連結され、上端部がキャブに固定されるボルト金具3とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液体封入式防振装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば建設機械等のキャブと車体との間に配設され、車体の振動がキャブに伝達されるのを防止する液体封入式防振装置は知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に示す液体封入式防振装置では、粘性液が入ったカップ状のケース体と、該ケース体の開口部を閉塞する弾性体ユニットとを備えている。弾性体ユニットは、スタッドと、スタッドの外周を囲むように配設され、上端部に取付け用のフランジ部が形成された円筒状部材と、円筒状部材とスタッドとに固着して一体化されたゴム弾性体と、スタッドの下端部に装着されて、ケース体内の粘性液に浸るように配設された減衰板とを備えている。ゴム弾性体は、スタッドと円筒状部材との間を連結する内周側部と、円筒状部材の外周面を囲むように配設された外周側部とで構成されており、ゴム弾性体の外周側部は、ケース体の開口部に嵌入して固定されている。上記スタッドは、その上端部が植え込みボルトを介してキャブに固定され、上記ケース体は車体に固定されている。そして、液体封入式防振装置に対して建設機械の作動に伴う振動が入力されると、ケース体とスタッドとが相対的に変位し、この変位により粘性液の粘性抵抗が減衰板に伝達され、これにより入力振動が減衰されるようになっている。
【0004】
また、特許文献2に示す液体封入式防振装置では、ケース体の底面と減衰板との間に圧縮コイルバネを配設して、該圧縮コイルバネとゴム弾性体との双方によって軸方向の入力荷重を支持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−74618号公報
【特許文献2】特開2009−228885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に示す液体封入式防振装置では、軸方向(スタッド軸方向)の入力荷重を支持する部材としてゴム弾性体を使用しているため、コイルバネを使用する場合に比べて繰り返し荷重による経年劣化の進行が速く、耐久性に劣るという問題がある。
【0007】
これに対して、上記特許文献2に示す液体封入式防振装置では、軸方向の入力荷重を支持する部材として、ゴム弾性体とコイルバネとを併用するようにしているため、特許文献1に示すものに比べて、繰り返し荷重に対する耐久性は向上するものの、コイルバネを配設するための空間をゴム弾性体の下方に確保する必要があるため、装置全体が軸方向に長大化するという問題がある。また、この装置では、入力振動を減衰するために減衰板を使用しているため、減衰板を収容可能な比較的広い液室を必要とし、このため、液室内に封入される液量が多くなり、この液量の増加に比例して製品コストも増加してしまうという問題がある。
【0008】
また、上記特許文献1及び2に示す液体封入式防振装置では、スタッドの外周面にゴム弾性体を直接、加硫接着するようにしているため、スタッドの外周面の形状が装置の防振性能に大きく影響してしまう。このため、特許文献1及び2に示すものでは、スタッドの外周面を削り加工により比較的高い形状精度に仕上げる必要があり、この結果、加工コストが嵩むという問題がある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、振動減衰性能を低下させることなく、コンパクトで且つ耐久性に優れた低コストの液体封入式防振装置を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明では、支持体と被支持体との間に介設される液体封入式防振装置において、支持体に固定されるケース体と、該ケース体内に配設され、互いの間に環筒状空間を形成する中心体及びその外周を囲む環状体と、該環筒状空間に配設され、該環筒状空間内に螺旋状の液室を形成する圧縮コイルバネと、該圧縮コイルバネに弾性支持されるとともに、中心体の上側を覆うように配設され、該中心体との間に空間部を形成する空間形成部材と、上記液室及び空間部を互いに連通する連通部と、空間形成部材に下端部が連結され、上端部が被支持体に固定される連結ロッドとを備えるようにした。
【0011】
具体的には、請求項1の発明では、支持体と被支持体との間に介設され、該支持体から該被支持体に伝達される振動を減衰する液体封入式防振装置を対象とする。
【0012】
そして、上記支持体に固定される、上側に開口したカップ状のケース体と、上記ケース体内に配設され、互いの間に上側に開口する環筒状空間を形成する、中心体及び該中心体の外周を囲む環状体と、上記環筒状空間内にその軸心と同軸に配設され、該環筒状空間内に螺旋状の液室を形成する圧縮コイルバネと、上記圧縮コイルバネの上端に支持されるとともに、上記中心体の上側を覆うように配設されて、該中心体との間に所定高さの空間部を形成する空間形成部材と、上記液室と上記空間部とを連通する連通部と、上記空間形成部材に下端部が連結され、上端部が上記被支持体に固定される連結ロッドと、を備えているものとする。
【0013】
この構成によれば、支持体の振動等により該支持体と被支持体との間に上下方向の相対変位が生じた場合には、この振動が連結ロッドを介して防振装置に入力される。ここで、連結ロッドは、その下端部に連結された空間形成部材を介して圧縮コイルバネに支持されているため、上記入力された振動は、該空間形成部材を介して圧縮コイルバネに伝達されて減衰される。このように、本発明では、連結ロッドからの入力振動を、ゴム弾性体等に比べて耐久性に優れた圧縮コイルバネに作用させて減衰することで、防振装置の繰返し荷重に対する耐久性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明では、連結ロッドへの振動入力があった場合には、コイルバネの伸縮に応じて、コイルバネにより形成された螺旋状の液室の体積が変化して、該液室内の液体が上記連通部を介して上記空間部との間で流入及び流出を繰り返すこととなる。したがって、液室内の液体が上記空間部に流入出する際の粘性抵抗(オリフィス抵抗)を利用して、連結ロッドからの入力振動を効果的に減衰することができる。また、上記液室は、コイルバネが配設される空間(環筒状空間)を利用して形成されているため、装置内の空間の有効利用を図って、装置全体をコンパクト化することができる。
【0015】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記環状体の内周面は、上記圧縮コイルバネの外周面に当接するように形成され、上記中心体の外周面は、上記圧縮コイルバネの内周面に当接するように形成されているものとする。
【0016】
この構成によれば、上記環状体の内周面を、上記圧縮コイルバネの外周面に当接させるとともに、上記中心体の外周面を、上記圧縮コイルバネの内周面に当接させるようにしたことで、中心体と環状体と圧縮コイルバネとによって形成される螺旋状の液室のシール性を向上させることができる。これにより、コイルバネの伸縮時に、該螺旋状の液室内の液体を径方向に漏出させることなく上記空間部に流入出させることができ、したがって、該流入出時の液体のオリフィス抵抗を利用した振動減衰効果を確実に得ることができる。
【0017】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記環状体は、弾性体からなるものであって、その外周面が全周に亘って上記ケース体の内周面に当接するように形成されているものとする。
【0018】
この構成によれば、上記環状体を、弾性体で構成するとともに、その外周面を全周に亘って上記ケース体の内周面に当接させるようにしたことで、弾性体の振動減衰作用を利用して、ケース体に作用する水平方向の入力振動を効率良く減衰することができる。
【0019】
請求項4の発明では、請求項1乃至3のいずれか一つの発明において、上記中心体は、弾性体で構成されているものとする。
【0020】
この構成によれば、ケース体に作用する水平方向の入力振動をより一層効率良く減衰することができる。
【0021】
請求項5の発明では、請求項1乃至4のいずれか1つの発明において、上記圧縮コイルバネは、該コイルバネを構成する各素線の断面形状が略矩形状をなす角バネであるものとする。
【0022】
この構成によれば、圧縮コイルバネとして角バネを使用するようにしたことで、コイルバネの内周面及び外周面をそれぞれ、中心体の外周面及び環状体の内周面に対して線接触でなく面接触させることができる。これにより、上記螺旋状の液室のシール性をより一層向上させることができる。
【0023】
請求項6の発明では、請求項1乃至5のいずれか1つの発明において、上記ケース体の上端部に装着され、上記空間形成部材に対して上側から当接することで、該空間形成部材の上側への変位量を規制する押え部材をさらに備えているものとする。
【0024】
この構成によれば、ケース体の上端部に装着された押さえ部材によって、空間形成部材の上側への変位を規制することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の液体封入式防振装置によると、支持体と被支持体との間に介設される液体封入式防振装置において、支持体に固定されるケース体と、該ケース体内に配設され、互いの間に環筒状空間を形成する中心体及びその外周を囲む環状体と、該環筒状空間に配設され、該環筒状空間内に螺旋状の液室を形成する圧縮コイルバネと、該圧縮コイルバネに弾性支持されるとともに、中心体の上側を覆うように配設され、該中心体との間に空間部を形成する空間形成部材と、上記液室及び空間部を互いに連通する連通部と、空間形成部材に下端部が連結され、上端部が被支持体に固定される連結ロッドとを備えるようにしたことで、連結ロッドを空間形成部材を介してコイルバネにより弾性支持することができるとともに、振動入力時には、コイルバネの伸縮に応じて該液室内の液体が上記連通部を介して上記空間部に流出入することにより入力振動を減衰させることができる。これにより、防振装置の振動減衰性能を従来品と比べて低下させることなく、防振装置の耐久性向上及びコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る液体封入式防振装置を示す縦断面図である。
【図2】ボルト支持体とコイルバネとの当接状態を説明するための説明図であり、(a)はコイルバネを軸心方向から見た平面図、(b)はコイルバネの側面図を示している。
【図3】液体封入式防振装置の組み立て手順を示す断面図であり、(a)は接着剤塗布工程、(b)はゴム成形工程及び液体注入工程、(c)はコイルバネ挿入工程、(d)はカシメ工程、(e)は完成工程を示している。
【図4】液体封入式防振装置の圧縮方向の動特性を示すグラフである。
【図5】液体封入式防振装置の圧縮方向の静バネ特性を示すグラフである。
【図6】実施形態2を示す図1相当図である。
【図7】他の実施形態を示す図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る液体封入式防振装置1を示し、この液体封入式防振装置1は、建設機械の車体(支持体に相当)とその上側に配設されたキャブ(被支持体に相当)との間に介装されて、車体からキャブに伝達される振動を減衰するものである。尚、図1は、防振装置1に対する入力荷重が0となる初期状態を示している。
【0028】
液体封入式防振装置1は、上記車体に固定されて上側に開口する有底カップ状のケース体2と、上端部が上記キャブに固定される連結ロッドとしてのボルト金具3と、ボルト金具3の下端部に連結されたボルト支持体(空間形成部材に相当)4と、該ボルト支持体4を介してボルト金具3を弾性支持する圧縮コイルバネ(以下、単にコイルバネという)5と、コイルバネ5がセットされる環筒状空間6を形成する環状体7及び中心体8とを備えている。
【0029】
ケース体2は、板状の金属部材を深絞り加工することにより成形される。ケース体2は、筒状の側壁部15と、側壁部15の下端部を閉塞する底面部16と有している。側壁部15は、下側から上側に向かって緩やかに拡径するコーン状をなしている。
【0030】
ケース体の側壁部15の上端部には、径方向外側に突出するフランジ部17が形成されている。フランジ部17の外周縁部は、曲げ加工により径方向内側にカシメられて、後述する押え金具14の取付け部34に係合している。側壁部15の内周面には、ゴム製の環状体7が加硫接着により固着されている。環状体7の内周面は、略円筒面状に形成されていて、コイルバネ5の外周面に当接(密着)している。環状体7の上端部は、押え金具14がケース体2に装着されることにより径方向内側に弾性変形して、ボルト支持体4のフランジ座部18に係合するようになっている。
【0031】
上記ケース体2の底面部16における中心部には、該底面部16から上側に向かって延びるゴム製の中心体8が加硫接着により固着されている。中心体8は、ボルト金具3と同軸の円柱状に形成されている。中心体8の外周面は、コイルバネ5の内周面に当接(密着)している。中心体8の先端部には、径方向外側に向かって下側に傾斜する面取り部19が形成されている。この面取り部19を設けることによって、コイルバネ5の中心体8への挿入性を向上させるとともに、後述の空間部20と液室21とを連通させることができる。底面部16における中心体8が固着される部分には、プレス加工により隆起面部22が形成されており、これにより当該部分の強度及び平面度の向上を図っている。
【0032】
上記環状体7と中心体8との間には、筒軸方向に延び且つ上側に開放する環筒状空間6が形成され、コイルバネ5は、この環筒状空間6内に所定量だけ圧縮した状態で配設(収容)されている。本実施形態では、コイルバネ5は、素線の断面が略矩形状をなす角バネにより構成されている。そして、上記環筒状空間6内にコイルバネ5が嵌め込まれることにより、環筒状空間6内には、上記筒軸回りに螺旋状の液室21が形成されている。この液室21には、液体が略満タンに充填されている。液体の液位は、コイルバネ5の上端位置以上に設定されていることが好ましく、本実施形態では、コイルバネ5の上端位置と同じ高さに設定されている。
【0033】
上記ボルト支持体4は、下側に開口するカップ状部23と、該カップ状部23の下端部に接続され、上記コイルバネ5の上端に当接支持されるフランジ座部18とを有している。
【0034】
カップ状部23の周壁部24は、下側に向かうほど拡径して末広状に形成されている。上記フランジ座部18は、該カップ状部23の下端部から径方向外側に突出するように全周に亘って形成されている。
【0035】
カップ状部23の上壁部25にはボルト挿通孔26が形成されている。ボルト金具3は、このボルト挿通孔26に下側から挿入されて、その頭部27が上壁部25の下面に溶接されている。そして、ボルト支持体4は、フランジ座部18をコイルバネ5の上端面に載置した状態でセットされて、該ボルト支持体4のカップ状部23と中心体8との間に空間部20を形成するように構成されている。尚、フランジ座部18を、コイルバネ5の上端面に載置するだけでなく溶接固定するようにしてもよい。
【0036】
上記コイルバネ5は螺旋状に形成されているため、フランジ座部18をコイルバネ5の上端面にセットした状態では、図2(a)に示すように、コイルバネ5の上端面のうち周方向の一部(本実施形態では、略5/8周分)のみがフランジ座部18に当接する。図2の斜線で示した部分が、コイルバネ5におけるフランジ座部18との当接部31であり、斜線を施していない部分が非当接部32である。上記空間部20及び液室21は、このコイルバネ5の非当接部32とフランジ座部18との間に形成される隙間流路40を介して連通している。
【0037】
上記ケース体2には、ボルト支持体4がコイルバネ5からの付勢力により上方に飛び出さないように押え金具14が装着されている。押え金具14は、ケース体2のフランジ部17にカシメ固定される円板状の取付け部34と、該取付け部34の内周縁部に接続された押さえ本体部35とで構成されている。押さえ本体部35は、該取付け部34の内周縁部から径方向内側に向かって斜め上側に延びた後、径方向内側に向かって略水平に延びて、その先端部が斜め下側に僅かに折れ曲がって形成されている。上記押さえ本体部35は、押え金具14がケース体2に装着された状態で、環状体7の上端部を径方向内側に弾性変形させて、この弾性変形した部分を介してボルト支持体4のフランジ座部18を上側から押さえ込むように構成されている。
【0038】
ボルト支持体4(カップ状部23)と中心体8との間には、所定高さH1の空間部20が形成されており、ボルト支持体4は、初期位置(図1に示す位置)から所定高さH1分だけ下側に変位したときに、該ボルト支持体4の上壁部25が中心体8に当接するように構成されている。こうして、中心体8は、ボルト支持体4の下方への過度の移動を規制するストッパ部材としても機能する。
【0039】
上記空間部20は、中心体8に面取り部19を形成することで生じる隙間流路41と、ボルト支持体4(フランジ座部18)に上記非当接部32(図2参照)を形成することで生じる隙間流路40とを介して連通している。
【0040】
次に、液体封入式防振装置1の組み立て方法について、図3を参照しながら説明する。
【0041】
先ず、プレス成形されたケース体2の内周面9全体及び底面部16の中心部(図3(a)の二点鎖線で示す領域)に接着剤を塗布する。そうして、接着剤を塗布した後に、加硫接着により、ケース体2の内周面9に環状体7を一体成形し、ケース体2の底面部16に中心体8を一体成形する(図3(b)参照)。環状体7及び中心体8を成形した後は、両者の間に形成された環筒状空間6に所定量の液体を注入し、該液体の注入が完了した環筒状空間6にコイルバネ5を嵌め込む(図3(c)参照)。そして、嵌め込んだコイルバネ5の上端面に、ボルト金具3が溶接されたボルト支持体4をセットし、その状態で、押え金具14をケース体2の上側から被せて、押え金具14の取付け部34とケース体2のフランジ部17とを当接させる(図3(d)参照)。その後、ケース体2のフランジ部17を、径方向内側にカシメて押え金具14の取付け部34に係合させることで、押え金具14がケース体2に固定され、液体封入式防振装置1の組み立てが完了する(図3(e)参照)。尚、上記液体の注入は、環筒状空間6にコイルバネ5を嵌め込んだ後に行うようにしてもよい。
【0042】
上記のように構成された液体封入式防振装置1では、上記建設機械の作動等に伴い、ボルト金具3に軸方向(上下方向)の振動荷重が入力されると、該振動荷重が、ボルト支持体4を介してコイルバネ5に伝達され、この結果、コイルバネ5が上下に伸縮(変位)する。コイルバネ5が下側に変位すると、コイルバネ5により形成された液室21の容積が減少するため、液室21内の液体が、上記隙間流路40,41を介して空間部20内に流出する。一方、コイルバネ5が上方に変位すると、液室21の容積が増加するため、空間部20内の液体が隙間流路40,41を介して液室21内に流入する。このように、液室21内の液体は、コイルバネ5の伸縮に伴い空間部20との間で流入及び流出を繰り返すことで、該流入時及び流出時の粘性抵抗(オリフィス抵抗)により上記入力振動を減衰する。一方、上記建設機械の作動等に伴い、ボルト金具3に作用する水平方向の振動荷重は、主にケース体2の内周面に配設されたゴム製の環状体7の弾性作用により減衰される。
【0043】
図4は、上記液体封入式防振装置1の圧縮方向(上下方向)のバネ特性を示したグラフである。このグラフの横軸は、防振装置1に入力される振動荷重の周波数であり、縦軸は、各周波数で測定したtanδである。この図から分かるように、tanδは周波数10Hzで最大となり、周波数5Hz〜20Hzまでの広い周波数領域で、設計要求値αを上回っていることがわかる。このように、上記実施形態1に係る液体封入式防振装置1では、広い周波数領域で高い減衰力を得ることができ、従来の液体封入式防振装置1と同等若しくはそれ以上の防振性能を得ることができる。
【0044】
また、上記液体封入式防振装置1では、ボルト金具3より入力される入力荷重(振動荷重)を支持する弾性部材として、コイルバネ5を使用するようにしているため、例えばゴム弾性体を使用した場合に比べて、繰り返し荷重による経年劣化を抑制し、防振装置1の耐久性を向上させることができる。また、コイルバネ5を使用することで、軸方向のストロークを大きくとることができ、設計自由度を高めることができる。
【0045】
さらに、上記実施形態1では、環状体7と中心体8との間の環筒状空間6にコイルバネ5を配設することで生じる螺旋状空間を液室21として利用するようにしたことで、コイルバネ5の配設スペースを液室21としても利用することができ、装置全体(特に上下寸法)をコンパクト化することができる。
【0046】
また、上記実施形態1では、コイルバネ5として、角バネを採用するようにしたことで、コイルバネ5の内周面と中心体8の外周面との接触、及び、コイルバネ5の外周面と環状体7の内周面との接触を、線接触ではなく面接触とすることができる。これにより、該接触部分における液体のシール性を向上させて、液体が液室21外に漏出することによる振動減衰性能の低下を防止することができる。
【0047】
また、上記実施形態1では、中心体8及び環状体7をそれぞれ、ゴム部材で構成してコイルバネ5に略密着させるようにしたことで、上記接触部分における液体のシール性をより一層向上させることができる。
【0048】
さらに、上記実施形態1では、上記空間部20と液室21との連通部を、ボルト支持体4(フランジ座部18)に上記非当接部32を形成することで生じる隙間流路40(図2参照)と、上記中心体8に面取り部19を形成することで生じる隙間流路41(図1参照)とで構成するようにしたことで、図5に示すように、コイルバネ5の下方への変位量がh1となる前後で、液体封入式防振装置1の静バネ定数(図の直線の傾き)を異ならせることができる。
【0049】
すなわち、上記実施形態1では、コイルバネ5の下方への変位量がh1を越える前は、空間部20と液室21とが両隙間流路40,41を介して連通している一方、該変位量がh1を越えると、液室21の上端位置が面取り部19よりも下側に沈み込んで、空間部20と液室21とが隙間流路40のみを介して連通するようになる。したがって、コイルバネ5の変位量がh1を越えた以後は、液室21内の液体が空間部20に流出する際のオリフィス抵抗が増加して、防振装置1の圧縮方向の静バネ定数が増加することとなる。
【0050】
よって、例えば、ボルト支持体4(ボルト金具3)を下側に所定量(=上記所定高さH1)以上変位させるような大きな衝撃荷重が入力された場合に、ボルト支持体4が中心体8に衝突する前に、コイルバネ5の変位量がh1を越えた時点で、ボルト支持体4には上記バネ定数の増加による大きな減速力が作用する。これにより、ボルト支持体4を一旦減速させてから中心体8に衝突させることができ、中心体8がボルト支持体4との衝突により破損するのを防止することができる。
【0051】
また、上記実施形態1では、プレス加工及び溶接加工のみで液体封入式防振装置1を製造可能になっている。したがって、従来の防振装置1において必要とされていたスタッドの削り加工等を廃止して、加工コストを大幅に削減することができる。
【0052】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2を示し、コイルバネ5の構成を上記実施形態1とは異ならせたものである。尚、図6と実質的に同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明を適宜省略する。
【0053】
すなわち、本実施形態では、コイルバネ5は、上記実施形態1とは異なり、各素線の断面が略円形状をなすように構成されている。この構成によれば、コイルバネ5を角バネで構成した場合に比べて、コイルバネ5の耐久性を向上させることができる。また、コイルバネ5の内周面と中心体8との接触面積を低減することができるので、コイルバネ5の伸縮に伴う中心体8の摩耗を極力抑制することができる。また、コイルバネ5を角バネで構成した場合に比べて、液室21の入口部21aの流路断面積を大きくとることができる。したがって、上記実施形態1のように面取り部19を形成しなくとも、空間部20と液室21との間で液体をスムーズに流出入させることができる。
【0054】
(他の実施形態)
本発明の構成は、上記各実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、上記各実施形態では、上記液体封入式防振装置1は、建設機械のキャブと車体との間に介設されるものとされているが、これに限ったものではなく、例えば、エンジンと車体との間に介設されるものであってもよい。
【0055】
また、上記各実施形態では、ボルト支持体4を、略カップ状に形成するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば図7に示すように、平板状に形成するようにしてもよい。
【0056】
また、上記各実施形態では、上端側がキャブ(被支持体)に連結固定される連結ロッドとしてボルト金具3を使用した例を示したが、これに限ったものではなく、例えば、軸心部に螺子孔が形成された柱状のスタッドを使用するようにしてもよい。
【0057】
また、上記各実施形態では、ボルト支持体4が中心体8に衝突する前に、面取り部19により生じる隙間流路41が閉塞される(液室21の上端位置が面取り部19よりも下側に沈み込む)例を示したが、ボルト支持体4が中心体8に衝突するのと略同時に隙間流路41が閉塞されるようにしてもよい。
【0058】
また、上記各実施形態では、環状体7をケース体2に対して加硫接着するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、予め成形しておいた別体の環状体7を、ケース体2に接着剤等により固定するようにしてもよい。また、環状体7をケース体2に対して必ずしも接着固定する必要はなく、例えば環状体7をケース体2内にセットして押え金具14で押さえ付けるだけでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、液体封入式防振装置に有用であり、特に、建設機械のキャブと車体との間に装着される液体封入式防振装置に有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 液体封入式防振装置
2 ケース体
3 ボルト金具(連結ロッド)
4 ボルト支持体(空間形成部材)
5 圧縮コイルバネ
6 環筒状空間
7 環状体
8 中心体
14 押え金具
18 フランジ座部
20 空間部
21 液室
23 カップ状部
40 隙間流路(連通部)
41 隙間流路(連通部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と被支持体との間に介設され、該支持体から該被支持体に伝達される振動を減衰する液体封入式防振装置であって、
上記支持体に固定される、上側に開口したカップ状のケース体と、
上記ケース体内に配設され、互いの間に上側に開口する環筒状空間を形成する、中心体及び該中心体の外周を囲む環状体と、
上記環筒状空間内にその軸心と同軸に配設され、該環筒状空間内に螺旋状の液室を形成する圧縮コイルバネと、
上記圧縮コイルバネの上端に支持されるとともに、上記中心体の上側を覆うように配設されて、該中心体との間に所定高さの空間部を形成する空間形成部材と、
上記液室と上記空間部とを連通する連通部と、
上記空間形成部材に下端部が連結され、上端部が上記被支持体に固定される連結ロッドと、を備えていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体封入式防振装置において、
上記環状体の内周面は、上記圧縮コイルバネの外周面に当接するように形成され、
上記中心体の外周面は、上記圧縮コイルバネの内周面に当接するように形成されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液体封入式防振装置において、
上記環状体は、弾性体からなるものであって、その外周面が全周に亘って上記ケース体の内周面に当接するように形成されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液体封入式防振装置において、
上記中心体は、弾性体で構成されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体封入式防振装置において、
上記圧縮コイルバネは、該圧縮コイルバネを構成する各素線の断面形状が略矩形状をなす角バネであることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液体封入式防振装置において、
上記ケース体の上端部に装着され、上記空間形成部材に対して上側から当接することで、該空間形成部材の上側への変位量を規制する押え部材をさらに備えていることを特徴とする液体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−132488(P2012−132488A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283379(P2010−283379)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】