説明

液体封入式防振装置

【課題】液体封入式防振装置の製造時に液体を注入する際に蓋体の肉抜き部内の気体を排除することが可能な液体封入式防振装置を提供する。
【解決手段】主流体室5を形成する樹脂製の蓋体9は、外筒体2の内周面に沿うように形成された周壁部9aと、この周壁部9aに上側に突出するように形成されていると共に、上記両筒体1,2の上下方向の相対移動時にゴム弾性体3が当接する上面9dと4つの側面9e,9e,…とを有するストッパ部9bと、を有していて、主流体室5と周壁部9aの外周側とに連通する連通孔9f,9f,…が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン等を支持するための液体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車のエンジン等を支持するための液体封入式防振装置が知られている。この種の液体封入式防振装置は、例えば特許文献1に開示されており、筒軸が横向きに配置された内筒体と、この内筒体の周囲を囲む外筒体と、この外筒体と上記内筒体とを互いに連結するゴム弾性体と、内筒体の下側位置のゴム弾性体中に画成された主流体室と、内筒体の上側位置に画成された副流体室と、これら主流体室及び副流体室に封入された液体及び気体と、主流体室と副流体室とを互いに連通するオリフィスとを備えていて、主流体室は、ゴム弾性体の下面と、外筒体の内周面に沿って嵌め込まれた蓋体とによって画成されている。この蓋体には、主流体室側に突出するストッパ部が形成されており、このストッパ部は、ゴム弾性体の下部と当接することによって内筒体の下方変位を所定量に制限するようになっている。
【0003】
上記液体封入式防振装置を製造する場合には、例えば、ゴム弾性体と蓋体とを組み合わせて外筒体に途中まで圧入し、この圧入したものを筒軸方向が上下方向に一致する状態にして気体としての空気の封入量を考慮して主流体室及び副流体室に規定量の液体を注入した後に、最後まで圧入して外筒体の筒軸方向の両端部をかしめることによってなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3676025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蓋体には軽量化のために肉抜き部が設けられる場合がある。図7は、そのような蓋体の一例を示す図であって、同図(a)は斜視図であり、同図(b)は同図(a)の矢印VIIb方向から見た側面図であり、同図(c)は同図(a)のVIIc−VIIc線矢視断面図である。
【0006】
この蓋体90は、樹脂製であって、外筒体の内周面に沿うように形成された周壁部90aと、この周壁部90aに上側に突出するように形成された直方体状のストッパ部90bと、を有している。そして、このストッパ部90bは、上記ゴム弾性体に当接する上面90cと、その周囲に設けられた4つの側面90e,90e,…とを有している。肉抜き部である4つの穴部90f,90f,…は、筒軸方向に対向する一対の側面90e,90eにそれぞれ開口していて、ストッパ部90bの筒軸方向の中央部まで延びている。
【0007】
しかしながら、この蓋体90を備える液体封入式防振装置の製造時に液体を注入する際に、下側の一対の穴部90f,90fの上部にそれぞれ気体が溜まってしまうため、液体封入式防振装置に封入される液体が規定量よりも穴部90f,90fに溜まった気体の体積分だけ少なくなってしまう。従って、液体封入式防振装置が所望の性能を発揮できなくなるという課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液体封入式防振装置の製造時に液体を注入する際に蓋体の肉抜き部内の気体を排除することが可能な液体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、蓋体に、主流体室と周壁部の外周側とに連通する連通孔が形成されていることを特徴とする。
【0010】
具体的には、本発明は、筒軸を横向きにして配置される内筒体と、該内筒体の周囲を囲む外筒体と、該内筒体と該外筒体との間に介在して両者を互いに連結すると共に、上向きに凹み且つ下側に開口する凹部が下部の周壁に形成されたゴム弾性体と、該ゴム弾性体で区画されて、相対的に下側に形成される主流体室及び相対的に上側に形成される副流体室と、上記ゴム弾性体の周壁に形成されて該主流体室と該副流体室とに連通するオリフィスと、上記凹部の開口に嵌め込まれて上記主流体室を形成する樹脂製の蓋体と、を備える液体封入式防振装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0011】
第1の発明は、上記蓋体は、上記外筒体の内周面に沿うように形成された周壁部と、該周壁部に上側に突出するように形成されていると共に、上記両筒体の上下方向の相対移動時に上記ゴム弾性体が当接する上面と側面とを有するストッパ部と、を有していて、上記主流体室と上記周壁部の外周側とに連通する連通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
これによれば、蓋体は、外筒体の内周面に沿うように形成された周壁部と、該周壁部に上側に突出するように形成されていると共に、両筒体の上下方向の相対移動時にゴム弾性体が当接する上面と側面とを有するストッパ部と、を有していて、主流体室と周壁部の外周側とに連通する連通孔が形成されているため、液体封入式防振装置の製造時に液体を注入する際に、連通孔内の気体が連通孔の周壁部外周側の開口部から排除され、連通孔内に気体が溜まり難くなる。従って、液体封入式防振装置の性能低下を抑制することが可能となる。
【0013】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記連通孔は、上記蓋体を上下方向に貫通していることを特徴とするものである。
【0014】
これによれば、連通孔は、蓋体を上下方向に貫通しているため、この連通孔をスライド金型を用いずに成型することができる。従って、蓋体を上型及び下型からなる簡素な構造の金型で成型できるため、製造コストを抑制することが可能となる。
【0015】
第3の発明は、上記第1又は2の発明において、上記連通孔は、4つ形成されていて、上記周壁部の外周面を筒軸方向及び上下方向と直交する筒軸直交方向にそれぞれ2等分してなる4つの領域にそれぞれ開口していることを特徴とするものである。
【0016】
これによれば、連通孔は、4つ形成されていて、周壁部の外周面を筒軸方向及び上下方向と直交する筒軸直交方向にそれぞれ2等分してなる4つの領域にそれぞれ開口しているため、周壁部に十字状のリブが形成され、周壁部の上側にあるストッパ部の剛性が確保される。従って、ストッパ部の強度を保つことが可能となる。
【0017】
第4の発明は、上記第1乃至第3のいずれかの発明において、上記連通孔は、上記側面及び上記周壁部の内周面の少なくとも一方に開口することを特徴とするものである。
【0018】
これによれば、連通孔は、側面及び周壁部の内周面の少なくとも一方に開口するため、液体封入式防振装置の使用時にこの連通孔内に気体が入っても、開口部分から気体が排除される。従って、液体封入式防振装置の使用時においても、その性能低下を抑制することが可能となる。尚、ストッパ部の側面及び周壁部の内周面の双方に開口する場合は、該側面又は該内周面に開口する場合よりも開口面積が大きいため、気体がより排除され易い。従って、液体封入式防振装置の性能低下を更に抑制することが可能となる。
【0019】
また、これによれば、連通孔がストッパ部の上面に開口していないため、この上面における面圧が確保される。従って、液体封入式防振装置の使用時にゴム弾性体が大きく変形してストッパ部に衝突しても、その衝撃を十分に減衰させることが可能となる。
【0020】
第5の発明は、上記第1乃至第4のいずれかの発明において、上記連通孔は、筒軸方向に延びていることを特徴とするものである。
【0021】
これによれば、連通孔が筒軸方向に延びている。そうすると、液体封入式防振装置の製造時に液体を注入する際に、連通孔の延びる方向が液面の移動方向に一致しているため、連通孔内の気体が液面の上昇に伴って自然に外に排除される。従って、連通孔内に気体が溜まるのをより確実に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、蓋体には、主流体室と周壁部の外周側とに連通する連通孔が形成されているため、液体封入式防振装置の製造時に液体を注入する際に、連通孔内の気体が連通孔の周壁部外周側の開口部から排除され、連通孔内に気体が溜まり難くなる。従って、液体封入式防振装置の性能低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る液体封入式防振装置の分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るゴム弾性体を上方から見た図である。
【図3】無負荷状態における実施形態に係る液体封入式防振装置の筒軸方向から見た側方断面図である。
【図4】図3におけるIV-IV線矢視断面図である。
【図5】実施形態に係る液体封入式防振装置に用いられる蓋体を示す斜視図である。
【図6】実施形態に係る液体封入式防振装置に用いられる蓋体を示す図であって、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)の矢印VIb方向から見た側面図であり、同図(c)は同図(a)のVIc−VIc線矢視断面図である。
【図7】液体封入式防振装置に用いられる従来の蓋体を示す図であって、同図(a)は斜視図であり、同図(b)は同図(a)の矢印VIIb方向から見た側面図であり、同図(c)は同図(a)のVIIc−VIIc線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
−液体封入式防振装置全体の構成−
図1〜図4に示すように、本発明の液体封入式防振装置(以下、防振装置という)は、細筒形状をした金属製の内筒体1と、この内筒体1の周囲を囲む円筒形状をした金属製の外筒体2と、これら内筒体1と外筒体2の間に介在して両者を互いに連結する略円筒形をしたゴム弾性体3と、このゴム弾性体3の内部に一体化される中間筒体4と、外筒体2内に形成され、液体Lが封入される主流体室5及び副流体室6と、これら主流体室5及び副流体室6に連通するオリフィス7及び排気通路8と、プラスチック製の蓋体9等を備えている。
【0026】
この防振装置は、主流体室5が下側に位置するように筒軸Xを横向きにした状態で、内筒体1をエンジンの変速機側に取り付け、外筒体2を車体側に取り付けて使用される。尚、以下、上下等の方向はこの使用時の方向に従うものとし、例えば筒軸X方向は前後方向とし、この前後方向及び上下方向と直交する方向は左右方向(筒軸直交方向)とする。
【0027】
図1に示すように、この防振装置は、ゴム弾性体3と蓋体9とを組み合わせて外筒体2に途中まで圧入し、気体Aとしての空気の封入量を考慮して主流体室5及び副流体室6に所定量の液体Lを注入した後、最後まで圧入して外筒体2の筒軸方向の両端部をかしめることによって製造される。
【0028】
図2に示すように、ゴム弾性体3は、その上部に一対の弧状壁3c、3cと、上壁3bとを有するとともに、図1に示すように、その下部の周壁3dにおいて上向きに凹んだ凹部3eを有している。
【0029】
また、ゴム弾性体3は、その内部に、加硫成型により一体化された内筒体1及び中間筒体4を有しており、無負荷の状態では、図3に示すように、内筒体1は、その筒軸が外筒体2の筒軸Xよりも上方に変位した部位に当該筒軸Xと平行に前後に延びるように設けられ、中間筒体4は、ゴム弾性体3の外周寄りでその周囲を囲むように設けられている。また、ゴム弾性体3には、内筒体1の左右両側において、前後方向に延びるように一対の空隙部3a,3aが形成されている。
【0030】
副流体室6は、このゴム弾性体3を外筒体2に嵌め込むことによって、先の上壁3b及び弧状壁3c,3cと外筒体2の内壁とで周囲を囲まれて形成され、主流体室5は、先の凹部3eの下側の開口に蓋体9を嵌め込むことによって形成される。
【0031】
この主流体室5の床面となる蓋体9の上壁の略中央部には、上方に突出するストッパ部9bが設けられている。そして、ゴム弾性体3が大きく変形してこのストッパ部9bに衝突したとしても、その衝撃を緩和するように主流体室5の天井面となる凹部3eの内壁上部30には、ストッパ部9bに対向して下方に突出する緩衝部30aが設けられている。
【0032】
このような形状をしたゴム弾性体3は、特に、垂直方向の剛性が高められていて、上下方向に硬くなるようなバネバランスでもって、内筒体1と外筒体2とが互いに弾性連結している。
【0033】
すなわち、ゴム弾性体3では、内筒体1の左右両側の部分からそれぞれ弾性変形可能な主バネ部3f,3fが外筒体2に向かい対称状に斜め下方に延びていて、主として内筒体1と外筒体2との間に加わる荷重を受け止めて弾性変形するように構成されている。
【0034】
そして、被支持体であるエンジンの静荷重を支持した使用状態においては、内筒体1と上壁3bとの間が分離してバネ弾性体3が変形するとともに内筒体1が下方に変位する。
【0035】
特に本実施形態では、これら主バネ部3f,3fは、いずれも左右より上下方向に延びて立つように構成されているため、下向きの負荷が大きくても、これはしっかりと受け止められることとなる。これら主バネ部3f,3fの形状は、後述するように排気通路8が設けられているので、主流体室5に溜まる気体Aを気にせずに自由に設計できる。
【0036】
オリフィス7は、図1乃至図3に示すように、ゴム弾性体3の周壁3dの前後方向の略中央部を切り欠いて形成された帯状の溝部7aを含んでおり、ゴム弾性体3が外筒体2に嵌め込まれた状態で、主バネ部3fの一方の下端から周方向に延びて副流体室6に連通する帯状の通路として構成されている。このように、オリフィス7の通路長は比較的長くなっているため、低周波域で優れた防振効果が発揮される。
【0037】
一方、主流体室5内の気体Aを自動的に副流体室6に導いて排除することができる排気通路8が、このオリフィス7とは別に形成されている。
【0038】
すなわち、この排気通路8は、横排気通路8aと周排気通路8bとで構成されていて、その横排気通路8aは、オリフィス7が形成された他方の主バネ部3fの上端(主流体室5を構成している凹部3eの上端)に開口するとともに、そこから外周に向かって横向きに延びている。
【0039】
そして、本実施形態の横排気通路8aは、図1に示すように、ゴム弾性体3の一方の主バネ部3fを前後方向の略中央で二分して、下方に開放された溝状に形成されている。このように横排気通路8aを溝状に形成することは、成型時の型抜きを容易にして製造コストや量産性の面で有利となり、主流体室5に溜まった気体Aが横排気通路8a内に入り易くなって、気体Aを主流体室5から誘い出す誘い溝としても機能する。
【0040】
さらに、主流体室5の天井面である凹部3eの内壁上部30に形成された緩衝部30aの周りには、横排気通路8aとの接続部位が最も高く位置するように傾斜している周溝30bが全周に亘って形成されている。つまり、周溝30bの最も高い部位に横排気通路8aが開口しているので、主流体室5の上部に溜まる気体Aはこの周溝30bを伝って自動的に横排気通路8aの開口に導かれ、主流体室5から排除され易くなる。
【0041】
一方、周排気通路8bは、ゴム弾性体3の周壁部3dの外周面が、実質的にオリフィスとして機能しないように、オリフィス7よりも十分小さく切り欠かれていて、ゴム弾性体3が外筒体2に嵌め込まれた状態では、ゴム弾性体3の外周部位で横排気通路8aに接続され、そこから周方向を上向きに延びて副流体室6に連通する細管状の通路となるように構成されている。
【0042】
そして、本実施形態では、所定の静荷重が加わる使用時には、主バネ部3fが変形して横排気通路8aの上面が傾斜し、その周排気通路8bとの接続部位が最も高くなるように設定されているため、主流体室5に溜まる気体Aが自動的に副流体室6に導かれ、確実性をもって排除できる。尚、横排気通路8aも無負荷の状態、つまり成型段階から上記のように傾斜させておけば、変形に頼らず確実に上記作用効果を得ることができる。
【0043】
これら以外にも、主バネ部3fの一方の下端に設けられた、主流体室5に通じるオリフィス7の連通口7bは、主流体室5に流入する液体Lがその内壁に沿って流れるように、略上向きに開口するように設けておくとよい。そうすれば、防振装置の使用時に、オリフィス7を介して主流体室5に液体Lが流入すると、主流体室5内には、オリフィス7が設けられたその下端部から内壁に沿って横排気通路8aに向かう液体Lの流れが形成されるため、主流体室5内に気体Aが溜まるのをより確実に防ぐことができる。
【0044】
−蓋体の構造−
次に、蓋体9の詳細な構造について主に図5及び図6を参照して説明する。図5は、この蓋体9を示す斜視図である。図6は、この蓋体9を示す図であって、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)の矢印VIb方向から見た側面図であり、同図(c)は同図(a)のVIc−VIc線矢視断面図である。尚、図5及び図6に示す方向は、防振装置の使用時の方向に従うものである。
【0045】
蓋体9は、外筒体2の内周面に沿うように形成された周壁部9aと、この周壁部9aの上面に上側に突出するように形成された上記ストッパ部9bと、を有している。
【0046】
上記周壁部9aは、外筒体2の内周面と同じ曲率で湾曲した略矩形板状であって、その左右方向両端部の各前後方向両端には、左右方向外側に突出し且つ外筒体2の内周面と同じ曲率で湾曲する脚部9c,9c,…がそれぞれ形成されている。図1に示すように、これら脚部9c,9c,…がゴム弾性体3の下部周壁に設けられた4つの溝部にそれぞれ嵌め込まれることによって蓋体9がゴム弾性体3に装着される。
【0047】
上記ストッパ部9bは、直方体状であって、内筒体1が外筒体2に対して相対的に上下方向に移動する時にゴム弾性体3の上記緩衝部30aに当接する上面9dと、この上面9dの周囲に設けられた4つの側面9e,9e,…と、を有している。尚、図5では、4つの側面9e,9e,…のうち2つだけが図示されており、残りの2つは隠れている。
【0048】
この蓋体9には、肉抜き部として、図1、図3及び図4に示すように、主流体室5と周壁部9aの外周側とを連通する4つの連通孔9f,9f,…が設けられている。尚、図5では、4つの連通孔9f,9f,…のうち2つだけが図示されており、残りの2つは隠れている。
【0049】
これら連通孔9f,9f,…は、ストッパ部9aの上面9d下方に設けられており、図6(a)に示すように、蓋体9を上下方向から見てストッパ部9bの中心Cを通って前後方向及び左右方向にそれぞれ延びる2本の中心線X,Yによって分けられた4つの領域に、この2本の中心線X,Yに対して対称状に配置されている。
【0050】
これら連通孔9f,9f,…は、互いに同じ形状であるため、1つの連通孔9fの形状について説明する。連通孔9fは、図6(a)に示すように、蓋体9を上下方向から見て前後方向に延びる矩形状をなしており、具体的には、前後方向においてストッパ部9bの中央部から周壁部9aのストッパ部9b外側まで延びており、左右方向においてストッパ部9bの中央部から左右方向外側端よりもやや内側まで延びている。また、連通孔9fは、図6(b)に示すように、蓋体9を前後方向から見て上下方向に延びる略矩形状であって、ストッパ部9bの上下方向中央位置と上面9dとの間の位置から下方に延びて周壁部9aの外周面に開口し、更に、周壁部9aのストッパ部9b外側部分を上下方向に貫通している。そして、連通孔9fの左右方向両側面9g,9gは、それぞれ垂直に形成されている。更に、連通孔9fは、図6(c)に示すように、蓋体9を左右方向から見てストッパ部9bの前後方向側面9eに開口しており、この開口部と周壁部9aのストッパ部9b外側部分の貫通部分とが繋がっている。そして、連通孔9fの天井面9hは、この前後方向側面9e側に行くに従って、換言すると、前後方向外側に行くに従って上側に傾斜している。また、連通孔9fの前後方向内側の縦面9iは、垂直に形成されている。
【0051】
このような形状の連通孔9f,9f,…が上記のように配置されたことにより、ストッパ部9b内の上面9d下側には、上記中心Cを通って前後方向及び左右方向に延びる2本のリブ9j,9jが形成されている。
【0052】
本願発明者らは、上記リブ9j,9jの効果を検証すべく、シミュレーションを行った。シミュレーションは、上記蓋体9、及び、上記中心Cを通ってストッパ部9bを前後方向に貫通する連通孔9fが1つだけ形成されている点で上記蓋体9と異なる蓋体(以下、比較品という)の2種類について行った。すなわち、比較品は蓋体9と同じ面積の上面9dを有し、また、比較品にリブ9j,9jは形成されていなかった。また、シミュレーションは、周壁部9aの外周面を完全に拘束し且つ各ストッパ部9bの上面9dに上方から垂直に同じ荷重を負荷するという条件で、有限要素法によって蓋体表面にかかる応力を計算した。その結果、蓋体9にかかる最大応力が比較品の約半分であった。従って、十字状のリブ9j,9jがストッパ部9bの強度向上に寄与することが確認できた。
【0053】
≪効果≫
本実施形態によれば、蓋体9には、主流体室5と周壁部9aの外周側とに連通する連通孔9f,9f,…が形成されているため、防振装置の製造時に液体Lを注入する際に、連通孔9f,9f,…内の気体Aが連通孔9f,9f,…の周壁部9a外周側の開口部から排除され、連通孔9f,9f,…内に気体Aが溜まり難くなる。従って、防振装置の性能低下を抑制することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態によれば、連通孔9f,9f,…は、蓋体9を上下方向に貫通しているため、これら連通孔9f,9f,…をスライド金型を用いずに成型することが可能となる。従って、蓋体9を上型及び下型からなる簡素な構造の金型で成型できるため、製造コストを抑制することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態によれば、連通孔9f,9f,…は、4つ形成されていて、周壁部9aの外周面を前後方向及び左右方向にそれぞれ2等分してなる4つの領域にそれぞれ開口しているため、周壁部9aに上記中心Cを通る十字状のリブ9j,9jが形成され、ストッパ部9bの剛性が確保される。従って、ストッパ部9bの強度を保つことが可能となる。
【0056】
また、本実施形態によれば、連通孔9f,9f,…は、左右方向側面9e,9e及び周壁部9aの内周面に開口するため、防振装置の使用時にこれら連通孔9f,9f,…内に気体Aが入っても、この開口部分から気体Aが排除される。従って、防振装置の使用時においても、その性能低下を抑制することが可能となる。
【0057】
更に、本実施形態によれば、連通孔9f,9f,…がストッパ部9bの上面9dに開口していないため、この上面9dにおける面圧が確保される。従って、防振装置の使用時にゴム弾性体3が大きく変形してストッパ部9bに衝突しても、その衝撃を十分に減衰させることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態によれば、連通孔9f,9f,…が前後方向に延びている。そうすると、防振装置の製造時に液体Lを注入する際に、連通孔9f,9f,…の延びる方向が液面の移動方向に一致しているため、連通孔9f,9f,…内の気体Aが液面の上昇に伴って自然に外に排除される。従って、連通孔9f,9f,…内に気体Aが溜まるのをより確実に抑制することが可能となる。
【0059】
更に、本実施形態によれば、連通孔9f,9f,…は、ストッパ部9bの左右方向側面9e,9eにそれぞれ開口しており、連通孔9f,9f,…の天井面9h,9h,…は、左右方向側面9e,9e側に行くに従って上側に傾斜しているため、防振装置の使用時に連通孔9f,9f,…内に気体Aが入ったとしても、上記天井面9h,9h,…が案内面となって気体Aを上方に導く。従って、連通孔9f,9f,…に入った気体Aが排除され易くなり、連通孔9f,9f,…内に気体Aが溜まるのを一層確実に抑制することが可能となる。
【0060】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、連通孔9f,9f,…は、前後方向に延びていたが、これに限定されない。例えば、左右方向に延びていてもよい。但し、連通孔9f,9f,…が前後方向に延びている場合には、防振装置の製造時に液体Lを注入する際に、連通孔9f,9f,…の延びる方向が液面の移動方向に一致しているため、連通孔9f,9f,…内の気体Aが液面の上昇に伴って自然に排除され、気体Aが溜まるのをより確実に抑制することが可能となる。
【0061】
また、上記実施形態では、4つの連通孔9f,9f,…を上記2本の中心線X,Yに対して対称状に配置していたが、これに限定されない。例えば、前後方向に並ぶ一対の連通孔9f,9fを互いに連通させて、中心線Xに対して対称な一対の連通孔にしてもよい。この場合、防振装置の製造時に液体Lを注入する際に、連通孔内の気体Aがリブによって妨げられることなく上昇して排除される。但し、蓋体9の強度の観点から、4つの連通孔9f,9f,…を上記2本の中心線X,Yに対して対称状に配置して上記中心Cを通る2本のリブ9j,9jを形成するのが好ましい。
【0062】
また、上記実施形態では、連通孔9f,9f,…を、上記中心Cを通るリブ9j,9jが形成されるように設けたが、これに限定されない。例えば、上記中心Cを通る連通孔を設けてもよい。但し、蓋体9の強度の観点から、上記中心Cを避けるように連通孔を設けるのが好ましい。
【0063】
また、上記実施形態では、連通孔9f,9f,…がストッパ部9bの左右方向側面9e,9e及び周壁部9aの内周面にそれぞれ開口するように形成されていたが、これに限定されず、左右方向側面9e,9e又は周壁部9aの内周面にそれぞれ開口するように形成されてもよい。但し、連通孔9f,9f,…が左右方向側面9e,9e及び周壁部9aの内周面のいずれか一方に開口するよりも双方に開口する方が開口面積が大きいため、防振装置の製造時に液体Lを注入する際に連通孔9f,9f,…内の気体Aが排除され易い。
【0064】
また、上記実施形態では、連通孔9f,9f,…の上記縦面9i,9i,…が垂直に形成されていたが、これに限定されず、例えば、上側に行くに従って連通孔9f,9f,…がそれぞれ開口する左右方向側面9e,9eに近づくように、換言すると、上側に行くに従って前後方向外側に傾斜するように形成されてもよい。このように形成することによって、防振装置の製造時に液体Lを注入する際に、連通孔9fが下側に配置された場合、上記縦面9iは連通孔9fの天井面となって筒軸方向外側に行くに従って上側に傾斜する。そうすると、この縦面9iが案内面となって連通孔9f内の気体Aを周壁部9a外周側に導く。従って、連通孔9f内に気体Aが溜まるのをより一層確実に抑制することが可能となる。
【0065】
更に、上記実施形態では、蓋体9には4つの脚部9c,9c,…が設けられていたが、これに限定されない。例えば、周壁部9aの対角上に一対の脚部9c,9cを設けてもよい。但し、蓋体9をゴム弾性体3に安定的に装着する観点から、上記実施形態の蓋体9のように脚部9cを4つ設けるのが好ましい。
【0066】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0067】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明に係る液体封入式防振装置は、蓋体の肉抜き部に気体が溜まるのを抑制する用途等に適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 内筒体
2 外筒体
3 ゴム弾性体
5 主流体室
6 副流体室
9 蓋体
9a 周壁部
9b ストッパ部
9d 上面
9e 側面
9f 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒軸を横向きにして配置される内筒体と、該内筒体の周囲を囲む外筒体と、該内筒体と該外筒体との間に介在して両者を互いに連結すると共に、上向きに凹み且つ下側に開口する凹部が下部の周壁に形成されたゴム弾性体と、該ゴム弾性体で区画されて、相対的に下側に形成される主流体室及び相対的に上側に形成される副流体室と、上記ゴム弾性体の周壁に形成されて該主流体室と該副流体室とに連通するオリフィスと、上記凹部の開口に嵌め込まれて上記主流体室を形成する樹脂製の蓋体と、を備える液体封入式防振装置であって、
上記蓋体は、上記外筒体の内周面に沿うように形成された周壁部と、該周壁部に上側に突出するように形成されていると共に、上記両筒体の上下方向の相対移動時に上記ゴム弾性体が当接する上面と側面とを有するストッパ部と、を有していて、上記主流体室と上記周壁部の外周側とに連通する連通孔が形成されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体封入式防振装置において、
上記連通孔は、上記蓋体を上下方向に貫通していることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液体封入式防振装置において、
上記連通孔は、4つ形成されていて、上記周壁部の外周面を筒軸方向及び上下方向と直交する筒軸直交方向にそれぞれ2等分してなる4つの領域にそれぞれ開口していることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の液体封入式防振装置において、
上記連通孔は、上記側面及び上記周壁部の内周面の少なくとも一方に開口することを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の液体封入式防振装置において、
上記連通孔は、筒軸方向に延びていることを特徴とする液体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108584(P2013−108584A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255022(P2011−255022)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】