説明

液体散布装置

【課題】 走行機体の運転操作がし易く、且つ、散布対象圃場外への散布が防止でき、さらに散布漏れ等の問題もない、液体散布装置を提供する。
【解決手段】 走行機体2の操舵方向及び操舵角度を検出するセンサ69を設け、該センサ69により前記操舵角度が設定角度以上となったことが検出されたときに、操舵方向とは反対方向への噴霧が自動的に停止するように、制御装置65で制御する。また、前記センサ69により前記操舵角度が前記設定角度内に戻されたことが検出されると、それまで停止していた噴霧が自動的に再開するように、前記制御装置65で制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行しながら機体の左右両外方へ薬液等の液体を噴霧する液体散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
果樹園等において農薬液等を広範囲にわたって効率的に散布するための液体散布装置として、走行機体に形成された上向き円弧状の吐風口に沿って多数の噴霧ノズルを備え、該噴霧ノズルから噴霧される噴霧粒子を送風によって広角に且つ遠方まで拡散散布し得る、スピードスプレーヤが知られている。
【0003】
該スピードスプレーヤは、操舵輪を有する走行機体と、該走行機体の左外方へ噴霧を行う左側噴霧部材としての左側噴霧ノズル群と、前記走行機体の右外方へ噴霧を行う右側噴霧部材としての右側噴霧ノズル群と、前記左側噴霧ノズル群からの噴霧粒子をより遠くへ運ぶための気流を吐出する左側吐風口と、該左側吐風口を開閉する左側制風部材と、前記右側噴霧ノズル群からの噴霧粒子をより遠くへ運ぶための気流を吐出する右側吐風口と、該右側吐風口を開閉する右側制風部材と、を備えている(特許文献1,2参照)。
【0004】
ところで、前記スピードスプレーヤによって薬液の噴霧を行う場合には、隣接して栽培されている作物群同士の間で、その一方の作物群へのみ特定種類の薬液を散布し、他方の作物群への前記特定種類の薬液の飛散を避けなければならない場合がある。例えば、前記一方の作物群には使用が許可されているが、前記他方の作物群には使用が禁止されている農薬を散布する場合や、前記一方の作物群は農薬使用を前提とした作物であるが、前記他方の作物群は、無農薬栽培の作物である場合等である。また、農地に隣接して住宅や一般道等がある場合にも、それらの方向への薬液散布を避けなければならない。
【0005】
このため、散布作業中に、或る樹列間の端部から次の樹列間の端部へと前記走行機体を旋回させながら乗り入れる場合には、運転者が操舵席で散布制御コック及び制風スイッチ等の操作部材を手動操作して、操舵方向とは逆方向への薬液の噴霧及び送風を一時的に停止することで、薬剤散布を行うべき果樹園の外方へと薬液が噴霧されるのを防止していた。
【特許文献1】実用新案登録第2562852号公報
【特許文献2】特開2005−21850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、或る樹列間の端部から次の樹列間へと前記機体を旋回させて乗り入れる場合には、必然的に操舵角度が大きくなるので、運転者にとって、操舵と同時に前記操作部材を手動操作するのは、困難を伴う。また、前記機体の向きを180°転換するための操舵に集中するあまり、操舵方向とは逆方向への噴霧や送風の停止操作が遅れてしまうと、薬剤散布を避けなければならない方向へ散布が行われてしまい、好ましくない。さらに、噴霧や送風の停止操作が早すぎると、樹列の端部に散布漏れの領域が発生してしまう等の問題もある。
【0007】
本発明は、前記の如き事情に鑑みてなされたもので、走行機体の運転操作がし易く、且つ、散布対象圃場外への散布が防止でき、さらに散布漏れ等の問題もない、液体散布装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係る液体散布装置は、走行機体と、該走行機体の左外方への噴霧を制御する左側噴霧制御部材と、前記走行機体の右外方への噴霧を制御する右側噴霧制御部材と、前記走行機体の操舵方向及び操舵角度を検出するセンサと、該センサにより前記操舵角度が設定角度以上となったことが検出されたときに、操舵方向とは反対方向への噴霧が自動的に停止するように前記噴霧制御部材を制御し、且つ、前記センサにより前記操舵角度が前記設定角度内に戻されたことが検出されたときに、それまで停止していた噴霧が自動的に再開するように前記噴霧制御部材を制御する制御装置を備えたものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、前記走行機体の操舵角度が設定角度内である通常時には、前記走行機体の左右両外方へと噴霧が行われる。そして、前記走行機体の旋回時に、前記センサにより前記操舵角度が設定角度以上となったことが検出されると、前記制御装置によって前記噴霧制御部材が制御され、操舵方向とは反対方向への噴霧が自動的に停止する。また、前記走行機体の旋回が終了し、前記センサにより前記操舵角度が設定角度内に戻されたことが検出されると、前記制御装置によって前記噴霧制御部材が制御され、それまで停止していた噴霧が自動的に再開する。
【0010】
このように、本発明によれば、前記走行機体の旋回時に、旋回方向とは逆方向への余計な噴霧が行われることがないので、前記センサにより検出される操舵角度の設定値を適切な大きさとすることにより、散布対象圃場外への散布が防止でき、且つ、散布漏れ等の発生も防止できる。また、旋回時には散布対象圃場外への噴霧が自動的に停止されるとともに、旋回が終了すると自動的に噴霧が再開されるので、前記走行機体の運転者は操舵に集中でき、旋回時の運転操作がし易くなる。
【0011】
好適な実施の一形態として、前記走行機体の運転者が前記噴霧制御部材を操縦部で操作するための手動操作部材を備えたものとすることもできる(請求項2)。この場合、運転者は、操縦部で前記手動操作部材を操作することで、非旋回時にも、必要に応じて、不要な方向への噴霧を停止させたり、左右両方向への噴霧を停止させたりすることができる。
【0012】
本発明の他の実施の形態に係る液体散布装置は、走行機体と、該走行機体の左外方への噴霧を制御する左側噴霧制御部材と、前記走行機体の左外方へ噴霧される噴霧粒子をより遠くへ運ぶための送風を制御する左側送風制御部材と、前記走行機体の右外方への噴霧を制御する右側噴霧制御部材と、前記走行機体の右外方へ噴霧される噴霧粒子をより遠くへ運ぶための送風を制御する右側送風制御部材と、前記走行機体の操舵方向及び操舵角度を検出するセンサと、該センサにより前記操舵角度が設定角度以上となったことが検出されたときに、操舵方向とは反対方向への噴霧及び送風が自動的に停止するように前記噴霧制御部材及び前記送風制御部材を制御し、且つ、前記センサにより前記操舵角度が前記設定角度内に戻されたことが検出されたときに、それまで停止していた噴霧及び送風が自動的に再開するように前記噴霧制御部材及び前記送風制御部材を制御する制御装置を備えたものである(請求項3)。
【0013】
前記実施の形態のものによれば、前記走行機体の操舵角度が設定角度内である通常時には、前記走行機体の左右両外方へと噴霧及び送風が行われる。このため、噴霧のみの場合よりも、前記走行機体の左右両外方の遠方まで噴霧粒子を行き渡らせることができる。そして、前記走行機体の旋回時に、前記センサにより前記操舵角度が設定角度以上となったことが検出されると、前記制御装置によって前記噴霧制御部材及び前記送風制御部材が制御され、操舵方向とは反対方向への噴霧及び送風が自動的に停止する。また、前記走行機体の旋回が終了し、前記センサにより前記操舵角度が設定角度内に戻されたことが検出されると、前記制御装置によって前記噴霧制御部材及び前記送風制御部材が制御され、それまで停止していた噴霧及び送風が自動的に再開する。
【0014】
このように、前記液体散布装置によれば、前記走行機体の旋回時に、旋回方向とは逆方向への余計な噴霧及び送風が行われることがないので、前記センサにより検出される操舵角度の設定値を適切な大きさとすることにより、散布対象圃場外への散布が防止でき、且つ、散布漏れ等の発生も防止できる。また、旋回時には散布対象圃場外への噴霧及び送風が自動的に停止されるとともに、旋回が終了すると自動的に噴霧及び送風が再開されるので、前記走行機体の運転者は操舵に集中でき、旋回時の運転操作がし易くなる。
【0015】
好適な実施の一形態として、前記走行機体の運転者が前記噴霧制御部材及び前記送風制御部材を操縦部で操作するための手動操作部材を備えたものとすることもできる(請求項4)。この場合、運転者は、前記操縦部で前記手動操作部材を操作することで、非旋回時にも、必要に応じて、不要な方向への噴霧及び送風を停止させたり、左右両方向への噴霧及び送風を停止させたりすることができる。
【0016】
なお、前記センサは、前記走行機体の操舵方向及び操舵角度を検出可能なものであればよい。したがって、運転者の操舵動作に連動して動く部分、例えば、操舵ハンドルの回動方向及び回動角度を検出するものであっても良いし、前記操舵ハンドルから操舵輪へと繋がる操舵系の一部の動きを検知する等のものであっても良い。しかし、好適な実施の一形態として、前記走行機体の操舵輪の操向角度を検知するものを前記センサとして用いれば(請求項5)、該センサの配設や取り替え等も容易となり、好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の一形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る液体散布装置としてのスピードスプレーヤを左斜め後方から見た斜視図、図2は、左側面要部の拡大縦断面図、図3は、図1のスピードスプレーヤの噴霧及び送風の制御回路を含む平面図、図4は、散布作業の一例の平面図である。
【0019】
図1において、スピードスプレーヤ1の機体2は、左右一対の操舵前輪3,3と、左右一対の駆動後輪4,4とで、走行自在に支持されている。前記スピードスプレーヤ1には、その前部から後部へ向けて、操舵ハンドル(ステアリングハンドル)5や図示しない各種の操作レバー及び運転席6等を含む操縦部7と、農薬液等の散布液を収容する大容量の液体タンク8と、走行駆動源としての内燃エンジン9等を含む駆動部10と、送風噴霧部11が、順に前記走行機体2に対して固定的に装備されている。
【0020】
前記送風噴霧部11は、前記駆動部10の後面との間に前記走行機体2の進行方向Fに向かって見て円弧状に形成された吐風口12と、該吐風口12に沿って前記スピードスプレーヤ1の上方及び左右側方へ向けて多数配設された噴霧ノズル13と、該噴霧ノズル13から噴霧された噴霧粒子を前記吐風口12から上方及び左右側方へ向けて放射状に拡散させるための気流を創出する手段としての軸流送風機14を備えている。
【0021】
図2に示すように、前記軸流送風機14は、前記走行機体2の前後方向F−Bに沿って延びる軸線Xを有する風胴15と、該風胴15内に回転自在に支持された動翼(羽根車)16と、前記風胴15内において前記動翼16の送風風下側となる前方Fに固定された整流用の固定翼17を備えている。該固定翼17と前記吐風口12との間には、該吐風口12へ向けて気流を前記軸線Xに直角な方向へと円滑に案内するベルマウス状のエアガイド18,19が所定数配設されている。前記動翼16の回転軸20は、前記走行機体2の前方Fへ向かって延び出し、前記固定翼17のハブ21の中央開口部を貫通して、例えば、前記内燃エンジン9に駆動上連結されている。前記風胴15の後部に大きく開口した吸気口22は、安全用の吸気口グリッド23で覆われ、該吸気口グリッド23の内面(前面)中央部には、その開口部24を前記動翼16のハブ25側へ向けた椀状の固定式スピンナー26が固着されている。該固定式スピンナー26の外径は、前記動翼16の前記ハブ25の外径と、ほぼ同一とされている。
【0022】
前記軸流送風機14において、前記内燃エンジン9によって前記動翼16が回転駆動されると、前記吸気口22から前記風胴15内に空気が吸い込まれる。この空気は、前記固定翼17で整流され、且つ、前記エアガイド18,19に案内されながら、前記風胴15の端部(前端部)15fに形成された前記吐風口12から高速気流となって、前記スピードスプレーヤ1の上方及び左右側方へと放射状に吐出される。このため、前記各噴霧ノズル13から上方および前記スピードスプレーヤ1の左右側方へ向けて噴霧された噴霧粒子が、果樹園等の圃場の樹木の葉等へ向けて、より広範囲に、且つより遠くへと拡散する。
【0023】
前記スピードスプレーヤ1においては、前記送風噴霧部11からの噴霧及び送風が、前記走行機体2の上方と左方と右方のそれぞれで自在に制御できるようになっている。これにより、通常は、前記走行機体2の上方、左方、右方の全方向へ噴霧及び送風をしながら果樹園の樹列間を走行するが、必要に応じて、前記走行機体2の上方、左方、右方のいずれか一方向又は二方向への噴霧及び送風を停止せしめることができる。但し、噴霧及び送風の制御を、上方、左方、右方の三分割としたのは一例に過ぎず、左右二分割の構成としたり、四分割以上の構成としたりすることができることは勿論である。
【0024】
以下、前記送風噴霧部11からの三方向への噴霧及び送風の分割制御について、具体的に説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態では、前記噴霧ノズル13を多数有するノズル管が、前記吐風口12の上部に沿って左右方向に延びる上側ノズル管29と、前記吐風口12の左部に沿って上下方向に延びる左側ノズル管30と、前記吐風口12の右部に沿って上下方向に延びる右側ノズル管31に三分割されている。該各分割ノズル管29,30,31には、その長さ方向に等間隔をおいて、前記噴霧ノズル13が複数配設されている。
【0026】
図3に示すように、前記各分割ノズル管29,30,31には、前記走行機体2に搭載された高圧プランジャ式等のポンプ50によって、前記液体タンク8内の散布液が圧送される。前記ポンプ50の駆動源としては、前記内燃エンジン9を利用することができる。前記ポンプ50の吐出口51は、前記操縦部7に設けられた手動操作式の三方弁52が介装された吐出管路53を介して、液体分配筐54に連通されている。前記三方弁52の二つの切換流出口55,56の内の一方55は、散布流量センサ57を介して前記液体分配筐54に連通しており、他方の切換流出口56は、全量戻し管路58を介して、前記ポンプ50の吸入側である前記液体タンク8に連通している。したがって、散布作業中に散布を一時的に停止したい場合等には、前記スピードスプレーヤ1の運転者が、前記操縦部7で前記三方弁52を操作して前記全量戻し管路58側へと散布液の流路を切り換えることにより、前記ポンプ50を無負荷運転させることができる。
【0027】
前記液体分配筐54からは、前記分割ノズル管29,30,31の本数に対応した複数本(本実施の形態では三本)のホース等よりなる送液管路59,60,61が延び出していて、該三本の送液管路のそれぞれが、上側送液管路59、左側送液管路60、右側送液管路61として、前記上側ノズル管29、前記左側ノズル管30、前記右側ノズル管31へとそれぞれ連通している。
【0028】
前記上側送液管路59には、前記上側ノズル管29の前記噴霧ノズル13からの前記走行機体2の上方への噴霧を制御する上側噴霧制御部材として、電動式等の上側散布コック62が介装されている。また、前記左側送液管路60には、前記左側ノズル管30の前記噴霧ノズル13からの前記走行機体2の左外方への噴霧を制御する左側噴霧制御部材として、電動式等の左側散布コック63が介装されている。同様に、前記右側送液管路61には、前記右側ノズル管31の前記噴霧ノズル13からの前記走行機体2の右外方への噴霧を制御する右側噴霧制御部材として、電動式等の右側散布コック64が介装されている。これらの散布コック62,63,64の動作は、いずれも、前記走行機体2に搭載された、マイクロコンピュータを含む制御装置65によって制御される。
【0029】
前記吐出管路53には、前記三方弁52と前記散布流量センサ57との間において、前記ポンプ50の吸入側となる前記タンク8へと連通する調量管路67が接続されている。該調量管路67には、電動式等の調量弁68が介装されている。該調量弁68の調量値は、前記散布流量センサ57からの信号に基づいて、前記制御装置65によって自動制御される。例えば、前記走行機体2の上方、左方、右方の全方向へ噴霧がされている状態から、少なくともいずれか一方向への噴霧が停止された場合には、残りの方向への噴霧量に変動が生じないように、前記制御装置65によって前記調量弁68の調量値が制御される。
【0030】
図1に示すように、前記送風噴霧部11には、制風装置27が配設されている。該制風装置27は、予め定められた一定の開口面積を有する前記吐風口12の一部を制風板28a,28b,28cによって必要に応じて閉塞する等して、噴霧粒子が遠くまで飛散して欲しくない方向への気流の噴出を抑制するためのものである。
【0031】
前記制風板は、前記各分割ノズル管29,30,31に対応して、前記吐風口12の上部と、左部と、右部に、上側制風板28a、左側制風板28b、右側制風板28cとしてそれぞれ配設されている。該各制風板28a,28b,28cは、それぞれが独立して前記走行機体2の前後方向F−Bに移動することにより、円弧状の前記吐風口12の周方向における上部と左部と右部の所定の角度範囲の開口面積を調整する。前記各制風板28a,28b,28cは、前記吐風口12の扇形湾曲形状に対応した湾曲面とされる。前記各制風板28a,28b,28cとしては、薄い鋼板や、耐薬品性及び耐摩耗性に優れたプラスチック板等を採用することができる。
【0032】
前記各制風板28a,28b,28cは、アクチュエータの一例としての電動式の直線動アクチュエータ(上側制風板駆動アクチュエータ38a,左側制風板駆動アクチュエータ38b,右側制風板駆動アクチュエータ38c)によって駆動される。勿論、電動モータを前記アクチュエータとして用いることもできる。前記各制風板駆動アクチュエータ38a,38b,38cの動作も、前記制御装置65によって制御される。
【0033】
前記上側制風板28aと前記上側制風板駆動アクチュエータ38aは、前記走行機体2の上方へ噴霧される噴霧粒子をより遠くへ運ぶための送風を制御する上側送風制御部材として作用する。また、前記左側制風板28bと前記左側制風板駆動アクチュエータ38bは、前記走行機体2の左外方へ噴霧される噴霧粒子をより遠くへ運ぶための送風を制御する左側送風制御部材として作用する。同様に、前記右側制風板28cと前記右側制風板駆動アクチュエータ38cは、前記走行機体2の右外方へ噴霧される噴霧粒子をより遠くへ運ぶための送風を制御する右側送風制御部材として作用する。
【0034】
前記各制風板28a,28b,28cの配設構造及び駆動方法は、前記吐風口12の上部、左部及び右部において、互いに同一である。そこで、以下、前記上側制風板28aを含む図2を参照して、前記制風板28a,28b,28cについて説明する。
【0035】
限定はされないが、本実施の形態では、図2に示すように、前記制風板28a,28b,28cは、前記吐風口12を閉じる(開口面積を減じる)使用時状態でも、前記吐風口12を全開放する収納時状態でも、常に前記風胴15の外周面32より内側に位置するように、前記風胴15の内周面33を形成する内壁34と、前記風胴15の前記外周面32を形成する外壁35と、の間の空間部S内に配設されている。前記制風板28a,28b,28cは、前記収納時状態においては、前記風胴15の前記空間部S内にその全体が収納されて前記風胴15の外部からは全く見えなくなり、前記使用時状態においてのみ、前記風胴15の前記外周面32より内側位置で、前記吐風口12を閉じる方向に延在する。よって、前記スピードスプレーヤ1が、丈の低い樹木の中を縫うように走行する場合でも、前記制風板28a,28b,28cによって枝葉が損傷してしまう等の問題がない。また、前記制風板28a,28b,28cは、前記風胴15の内部においても、送風の邪魔になるようなこともない。
【0036】
本実施の形態では、前記制風板28a,28b,28cが、前記風胴15の前記内壁34の外表面36に接触した状態で、前記風胴15の前後軸線方向F−Bに沿って摺動自在とされている。したがって、前記制風板28a,28b,28cの前後移動が前記外表面36をガイドとして円滑且つ確実に行われるほか、前記制風板28a,28b,28cの収納スペースが可及的に小さくできる。前記風胴28の前記内壁34の前記外表面36には、例えば、前記制風板28a,28b,28cの摺動方向F−Bの左右両縁を摺動自在且つ離脱不能に保持する左右一対のガイドレール37,37等を配設しておくこともできる。
【0037】
前記制風板28a,28b,28cは、前記吐風口12への突出状態において、前記噴霧ノズル13より前記走行機体2の内側寄りに位置する。よって、前記制風板28a,28b,28cを前記吐風口12内へと突出させた状態で、誤って、前記噴霧ノズル13からの噴霧を開始させてしまった場合でも、前記制風板28a,28b,28cが前記噴霧ノズル13からの高圧噴射を直接受けてしまうことによる、内部風路の汚損等の心配がない。
【0038】
前記制風板28a,28b,28cの駆動機構を構成する前記制風板駆動アクチュエータ38a,38b,38cも、常に前記風胴15の前記外周面32より内側に位置するように、前記空間部S内に配設されている。具体的には、前記制風板駆動アクチュエータ38a,38b,38cは、前記空間部S内に、前記機体2の前後方向F−Bに延びるようにして配設されている。前記制風板駆動アクチュエータ38a,38b,38cの出入ロッド40の先端部(前端部)40aは、前記制風板28の左右幅方向の中央部の前端部にピン41で連結され、前記制風板駆動アクチュエータ38のシリンダ部42の基端部(後端部)42aは、前記風胴15の前記内壁34の前記外表面36にピン43で連結されている。
【0039】
図2において、符号44は、前記風胴15の前記外周面32の一部にその周方向に沿って延びるように形成された、散布液補給用ホースHの巻き掛け溝である。
【0040】
図3に示すように、前記スピードスプレーヤ1は、前記走行機体2の操舵方向及び操舵角度を検出するセンサ69を備えている。該センサ69は、運転者の操舵動作に連動して動く部分、例えば、前記操舵ハンドル5の回動方向及び回動角度を検出するものであっても良いし、前記操舵ハンドル5から前記操舵前輪3,3へと繋がる操舵系の一部の動きを検知する等のものであっても良い。本実施の形態では、センサの配設や取り替え等の便宜を考慮して、前記走行機体2の前記操舵前輪3,3の操向角度を検知するものを、前記センサ69として用いている。
【0041】
前記センサ69は、前記左右一対の操舵前輪3,3の内側に、対にして配設されている。前記センサ69からの検知信号は、前記制御装置65へと入力される。そして、該制御装置65は、前記操舵前輪3,3の操舵角度が、例えば10°等の設定角度以上となったことが前記センサ69により検出されたときに、操舵方向とは反対方向への噴霧及び送風が自動的に停止するように、噴霧制御部材としての前記左右の散布コック63,64及び前記送風制御部材としての前記左右の制風板駆動アクチュエータ38b,38cを制御する。また、前記制御装置65は、前記センサ69により前記操舵角度が前記設定角度内に戻されたことが検出されたときに、それまで停止していた噴霧及び送風が自動的に再開するように、前記左右の散布コック63,64及び前記左右の制風板駆動アクチュエータ38b,38cを制御する。
【0042】
前記走行機体2の前記操縦部7の操作盤70には、前記運転席6に座った運転者が前記各散布コック62,63,64及び前記各制風板駆動アクチュエータ38a,38b,38cを作動させるための手動操作部材として、上側散布制御用スイッチ71と、左側散布制御用スイッチ72と、右側散布制御用スイッチ73とが配設されている。これらのスイッチ71,72,73のそれぞれの切換操作によるON−OFF信号は、前記制御装置65へと入力され、該制御装置65によって、上方、左外方及び右外方への噴霧及び送風が制御される。
【0043】
前記構成において、例えば、前記走行機体2の上方、左外方及び右外方の全方向へ噴霧及び送風を行いながらの走行散布中に、前記走行機体2の上方へは噴霧を及ぼしたくないような事情が生じた場合には、運転者は、前記上側散布制御用スイッチ71をONにする。これにより、該スイッチ71からの信号を受けた前記制御装置65によって、前記上側散布コック62が閉じるように制御され、前記走行機体2の上方への噴霧が自動的に停止される。それと同時に、前記制御装置65によって前記上側制風板駆動アクチュエータ38aが伸長作動するように制御され、前記上側制風板28aによって前記吐風口12の上部が閉じられるので、前記走行機体2の上方への送風が自動的に抑制される。次に、運転者が前記上側散布制御用スイッチ71をOFFにすると、その信号を受けた前記制御装置65によって、前記とは逆の動作が行われるように制御され、前記走行機体2の上方への噴霧及び送風が再開される。
【0044】
同様に、例えば、噴霧作業現場に隣接して民家がある場合等、前記走行機体2の左外方又は右外方へは噴霧を及ぼしたくないような事情が生じた場合には、運転者は、前記左側散布制御用スイッチ72又は前記右側散布制御用スイッチ73をONにする。これにより、該各スイッチ72,73からの信号を受けた前記制御装置65によって、前記左側散布コック63又は前記右側散布コック64が閉じるように制御され、前記走行機体2の左外方又は右外方への噴霧が自動的に停止される。それと同時に、前記制御装置65によって前記左側制風板駆動アクチュエータ38b又は前記右側制風板駆動アクチュエータ38cが伸長作動するように制御され、前記左側制風板28b又は前記右側制風板28cによって前記吐風口12の左部又は右部が閉じられるので、前記走行機体2の左外方又は右外方への送風も自動的に抑制される。次に、運転者が前記左側散布制御用スイッチ72又は前記右側散布制御用スイッチ73をOFFにすると、その信号を受けた前記制御装置65によって、前記とは逆の動作が行われるように制御され、左外方又は右外方への噴霧及び送風が再開される。
【0045】
また、図4の上部に示すように、果樹園の樹列間の端部から次の樹列間へと入るために左方Lへと小回りで回行走行する場合には、前記操舵前輪3,3が左方Lへ設定角度以上操作されたことが前記センサ69により検知されると、該センサ69からの信号を受けた前記制御装置65によって、前記右側散布コック64が閉じるように制御され、前記走行機体2の右外方への噴霧が自動的に停止される。それと同時に、前記制御装置65によって前記右側制風板駆動アクチュエータ38cが伸長作動するように制御され、前記右側制風板28cによって前記吐風口12の右部が閉じられるので、前記走行機体2の右外方への送風も自動的に抑制される。このため、旋回方向の外方となる右外方へは噴霧及び送風が行われることがなく、果樹園の端部に隣接して民家や道路等Kがある場合でも、それらの方向へ薬液が飛散することが自動的に防止される。
【0046】
前記走行機体2の左旋回が終了し、新たな樹列間で前記センサ69により前記操舵角度が設定角度内に戻されたことが検出されると、前記制御装置65によって前記とは逆の動作が行われるように制御され、前記走行機体2の左外方への噴霧及び送風が自動的に再開される。
【0047】
逆に、図4の下部に示すように、果樹園の樹列間の端部から次の樹列間へと入るために右方Rへと小回りで回行走行する場合には、前記操舵前輪3,3が右方Rへ設定角度以上操作されたことが前記センサ69により検知されると、該センサ69からの信号を受けた前記制御装置65によって、前記左側散布コック63が閉じるように制御され、前記走行機体2の左外方への噴霧が自動的に停止される。それと同時に、前記制御装置65によって前記左側制風板駆動アクチュエータ38bが伸長作動するように制御され、前記左側制風板28bによって前記吐風口12の左部が閉じられるので、前記走行機体2の左外方への送風も自動的に抑制される。このため、旋回方向の外方となる左外方へは噴霧及び送風が行われることがなく、果樹園の端部に隣接して民家や道路等Kがある場合でも、それらの方向へ薬液が飛散することが自動的に防止される。
【0048】
前記走行機体2の右旋回が終了し、新たな樹列間で前記センサ69により前記操舵角度が設定角度内に戻されたことが検出されると、前記制御装置65によって前記とは逆の動作が行われるように制御され、前記走行機体2の左外方への噴霧及び送風が自動的に再開される。
【0049】
以上のように、本実施の形態では、前記走行機体2の少なくとも左外方及び右方への噴霧及び送風の制御は、運転者による前記左側散布制御用スイッチ72及び前記右側散布制御用スイッチ73の操作によって行うことができるほか、運転者による前記操舵ハンドル5の左方L又は右方Rへの操舵に起因して、前記センサ69及び前記制御装置65によって自動的にも行われる。したがって、前記走行機体2の左右への旋回運転時には、運転者は、前記左側散布制御用スイッチ72又は前記右側散布制御用スイッチ73の操作を手動で行わなくても、旋回方向とは逆方向への噴霧及び送風が自動的に制御されるので、前記操舵ハンドル5の操作に集中することができる。よって、運転操作が楽であり、運転ミスが生じることもない。
【0050】
また、前記センサにより検出される操舵角度の設定値を適切な大きさとすることにより、散布対象圃場外への余計な散布が確実に防止でき、経済性も良い。加えて、樹列の端部に散布漏れとなる領域が発生する等の問題も防止できて、好適である。
【0051】
なお、本実施の形態では、スピードスプレーヤを例に挙げて説明したので、噴霧に加えて送風の制御も行われるが、送風機構のない液体散布車についても、本発明が適用可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の一形態に係る制風装置を備えたスピードスプレーヤを左斜め後方から見た斜視図である。
【図2】左側面要部の拡大縦断面図である。
【図3】図1のスピードスプレーヤの噴霧及び送風の制御回路を含む平面図である。
【図4】散布作業の一例の平面図である。
【符号の説明】
【0053】
2 走行機体
3,3 操舵輪(操舵前輪)
7 操縦部
28b 左側送風制御部材(左側制風板)
28c 右側送風制御部材(右側制風板)
38b 左側送風制御部材(左側制風板駆動アクチュエータ)
38c 右側送風制御部材(右側制風板駆動アクチュエータ)
63 左側噴霧制御部材(左側散布コック)
64 右側噴霧制御部材(右側散布コック)
65 制御装置
69 センサ
72 手動操作部材(左側散布制御用スイッチ)
73 手動操作部材(右側散布制御用スイッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(2)と、該走行機体(2)の左外方への噴霧を制御する左側噴霧制御部材(63)と、前記走行機体(2)の右外方への噴霧を制御する右側噴霧制御部材(64)と、前記走行機体(2)の操舵方向及び操舵角度を検出するセンサ(69)と、該センサ(69)により前記操舵角度が設定角度以上となったことが検出されたときに、操舵方向とは反対方向への噴霧が自動的に停止するように前記噴霧制御部材(63,64)を制御し、且つ、前記センサ(69)により前記操舵角度が前記設定角度内に戻されたことが検出されたときに、それまで停止していた噴霧が自動的に再開するように前記噴霧制御部材(63,64)を制御する制御装置(65)を備えている、液体散布車。
【請求項2】
前記走行機体(2)の運転者が前記噴霧制御部材(63,64)を操縦部(7)で操作するための手動操作部材(72,73)を備えている、請求項1に記載の液体散布装置。
【請求項3】
走行機体(2)と、該走行機体(2)の左外方への噴霧を制御する左側噴霧制御部材(63)と、前記走行機体(2)の左外方へ噴霧される噴霧粒子をより遠くへ運ぶための送風を制御する左側送風制御部材(28b,38b)と、前記走行機体(2)の右外方への噴霧を制御する右側噴霧制御部材(64)と、前記走行機体(2)の右外方へ噴霧される噴霧粒子をより遠くへ運ぶための送風を制御する右側送風制御部材(28c,38c)と、前記走行機体(2)の操舵方向及び操舵角度を検出するセンサ(69)と、該センサ(69)により前記操舵角度が設定角度以上となったことが検出されたときに、操舵方向とは反対方向への噴霧及び送風が自動的に停止するように前記噴霧制御部材(63,64)及び前記送風制御部材(28b,38b/28c,38c)を制御し、且つ、前記センサ(69)により前記操舵角度が前記設定角度内に戻されたことが検出されたときに、それまで停止していた噴霧及び送風が自動的に再開するように前記噴霧制御部材(63,64)及び前記送風制御部材(28b,38b/28c,38c)を制御する制御装置(65)を備えている、液体散布車。
【請求項4】
前記走行機体(2)の運転者が前記噴霧制御部材(63,64)及び前記送風制御部材(28b,38b/28c,38c)を操縦部(7)で操作するための手動操作部材(72,73)を備えている、請求項3に記載の液体散布装置。
【請求項5】
前記センサ(69)が、前記走行機体(2)の操舵輪(3,3)の操向角度を検知するものである、請求項1,2,3又は4に記載の液体散布装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−222705(P2007−222705A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43660(P2006−43660)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000141990)株式会社共立 (110)
【Fターム(参考)】