説明

液体流路装置

【課題】簡便に液体流路を閉止状態から開通状態にできる液体流路装置を低コストで提供する。
【解決手段】蓋板13を、蓋板13の表面側から順に第1基材層13a、強粘着層13b、第2基材層13c、弱粘着層13dという構成にする。そして、開通手段S1およびS2では、液体流路12に第1凸部15が形成され、該第1凸部15の頂部15aと弱粘着層13dとが粘着し、かつ、強粘着層13bと第2基材層13cとが離間している。また、閉止手段T1を設けてもよく、その場合閉止手段T1では、液体流路12に第2凸部16が形成され、該第2凸部16の頂部16aと弱粘着層13dとが離間し、かつ、強粘着層13bと第2基材層13cとの間にはスペーサ部材17が介在し、該スペーサ部材17と強粘着層13bとが粘着するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液中の抗原の検出、分析などに好適に使用される平板状の液体流路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野、環境分野などでは、液体試料中の微量成分の検出、分析が頻繁に行われており、その際、例えば医療分野では、基板に流路が形成されたマイクロチップと呼ばれる液体流路装置が使用される場合が多い。
例えば特許文献1には、マイクロチップに形成された液体流路内で、抗体を含有する試薬と血液とを混合、反応させた後、該マイクロチップごと検出装置に供して、抗原抗体反応を検出する技術が記載されている。また、例えば特許文献2には、回転可能なディスクの半径方向に流路を複数形成し、この流路の一部にあらかじめ抗体を固定しておき、その後、流路に体液を流通させることによって、抗原抗体反応により体液中の抗原を抗体に捕捉させるディスク状の液体流路装置が開示されている。
【特許文献1】特開2007−139500号公報
【特許文献2】特開平05−005741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の液体流路装置では、液体流路を閉止したり開通させたりすることができず、目的の成分の検出、分析に不都合が生じることがあった。
【0004】
本発明の目的は、簡便に液体流路を閉止状態から開通状態にできる液体流路装置を低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液体流路装置は、基板の少なくとも片面に、試料および試薬の少なくとも一方からなる液体が流通する液体流路が形成され、前記基板の前記液体流路が形成された流路形成面には蓋板が積層した液体流路装置であって、前記液体流路の一部を閉止状態から開通状態にする開通手段を有し、前記蓋板は、該蓋板の表面を構成する第1基材層と、該第1基材層の内側に形成された強粘着層と、該強粘着層の内側に形成された第2基材層と、該第2基材層の内側に形成され、前記流路形成面に粘着する弱粘着層とを有し、前記開通手段では、前記液体流路に第1凸部が形成され、該第1凸部の頂部と前記弱粘着層とが粘着し、かつ、前記強粘着層と前記第2基材層とが離間していることを特徴とする。
液体流路装置は、前記液体流路の一部を開通状態から閉止状態にする閉止手段をさらに有し、前記閉止手段では、前記液体流路に第2凸部が形成され、該第2凸部の頂部と前記弱粘着層とが離間し、かつ、前記強粘着層と前記第2基材層との間にはスペーサ部材が介在し、該スペーサ部材と前記強粘着層とが粘着していることが好ましい。
前記液体流路には、一定量の液体を計量する計量槽が設けられ、少なくとも該計量槽の上流には前記閉止手段が設けられ、下流には前記開通手段が設けられていることが好ましい。
前記計量槽には、前記一定量を超えた液体をオーバーフローさせるオーバーフロー手段が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡便に液体流路を閉止状態から開通状態にできる液体流路装置を低コストで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は本発明の液体流路装置の一実施形態例を概略的に示す平面透視図、図2は図1の液体流路装置の一部を拡大した平面透視図、図3は図2のI−I’線に沿う断面図である。
この液体流路装置10Aは、平板からなる四角形の基板11Aの片面に、試料および試薬の少なくとも一方からなる液体が流通する溝状の液体流路12と、液体流路12の端部や途中において液体が溜まる複数(この例では9)の液槽(14a〜14i)とが形成され、基板11Aの液体流路12が形成された側の流路形成面12aに蓋板13が積層して構成されたものである。この液体流路装置10Aにおいては、図1中の上端部側が上方に、下端部側が下方に位置するように立てた場合には、液体流路12の上流側の端部から下流側の端部に向けて矢印F方向に試料が重力により流通し、その途中で試料に対して各種の処理や試薬との混合がなされ、各種検出、分析に供される測定液とされる。
【0008】
すなわち、液体流路12の上流側の端部には、投入された試料が溜まる試料投入槽14aが設けられ、この試料投入槽14aの下流には、試料投入槽14aから流通してきた試料に対してろ過処理が施される図示略のフィルタが内蔵されたろ過槽14bが設けられている。
ろ過槽14bの下流には、ろ過処理された試料を一定量計量する計量槽14cが設けられている。この例の計量槽14cには、オーバーフロー流路12bとその下流に設けられた廃液槽14dとからなるオーバーフロー手段が備えられている。そのため、計量槽14cで一定量を超えた試料はオーバーフローしてオーバーフロー流路12bを流れ、廃液槽14dに流入し、その結果、計量槽14cでは、一定量の試料が計量できるようになっている。
【0009】
計量槽14cの下流には、計量槽14cで計量された試料と、あらかじめ第1試薬槽14eに所定量封入されている液体の第1試薬とが混合される第1混合槽14fが設けられ、第1混合槽14fの下流には、第1混合槽14fで調製された中間調製液と、あらかじめ第2試薬槽14gに所定量封入されている液体の第2試薬とが混合される第2混合槽14hが設けられている。
そして、第2混合槽14hの下流(液体流路12の下流側の端部)には測定槽14iが設けられ、第2混合槽14hで調製された測定液がここに貯留され、図示略の検出分析手段により、各種成分の検出や分析がなされるようになっている。
なお、各液槽には、大気と連通する図示略の連通孔が設けられている。
【0010】
また、この液体流路装置10Aの蓋板13は、図3に示すように、蓋板13の表面を構成する第1基材層13aと、第1基材層13aの内側に形成された強粘着層13bと、強粘着層13bの内側に形成された第2基材層13cと、第2基材層13cの内側に形成され、流路形成面12aに粘着する弱粘着層13dとを有して構成されている。
第1基材層13aは、表面側から垂直方向(第1基材層13aと垂直に交差する方向)の荷重が加えられた場合には撓み、その後、荷重が取り去られた場合には元に戻る復元力を有する材料からなっている。一方、第2基材層13cは、同様の荷重により容易に撓み、荷重を取り去っても復元しない、すなわち容易に塑性変形する材料からなっている。また、強粘着層13bの粘着力は、弱粘着層13dよりも大きく形成されている。
【0011】
また、この液体流路装置10Aは、液体流路12の一部を閉止状態から開通状態にする開通手段S1〜S7と、開通状態から閉止状態にする閉止手段T1とを有している。
この例では、開通手段S1〜S7は、試料投入槽14aとろ過槽14bとの間、ろ過槽14bと計量槽14cとの間、計量槽14cと第1混合槽14fとの間、第1混合槽14fと第2混合槽14hとの間、第1試薬槽14eと第1混合槽14fとの間、第2試薬槽14gと第2混合槽14hとの間、第2混合槽14hと測定槽14iとの間の各液体流路12にそれぞれ1ずつ設けられている。
一方、閉止手段T1は、ろ過槽14bと計量槽14cとの間の液体流路12において、開通手段S2よりも下流側に設けられている。
【0012】
そして、各開通手段S1〜S7においては、図3のS1およびS2を例示して説明すると、液体流路12に第1凸部15が形成され、この第1凸部15の頂部15aと弱粘着層13dとが粘着し、かつ、強粘着層13bと第2基材層13cとが離間している。
よって、各開通手段S1〜S7における液体流路12は、第1凸部15とこれの頂部15aに粘着した弱粘着層13dとにより閉じられ、通常時は閉止状態となっている。ところが、図4に開通手段S1を例に挙げて示すように、この開通手段S1おける第1基材層13aを表面側から矢印Aで示すように押圧して、第1基材層13aに垂直方向の荷重を加えた場合には、図4(a)に示すように、第1基材層13aが撓み、第1基材層13aの内側の強粘着層13bが第2基材層13cに粘着する。そして、その後に荷重を取り去ると、図4(b)に示すように、第1基材層13aはその復元力により元の状態に復元し、その際、第1基材層13aの内側に粘着した強粘着層13bと、強粘着層13bに粘着し、容易に塑性変形可能な第2基材層13cと、第2基材層13cの内側に粘着した弱粘着層13dも第1基材層13aの復元に追従し、持ち上がる。その結果、第1凸部15の頂部15aと弱粘着層13dとの間が新たに離間し、ここを液体が流通できるようになる。
このように開通手段S1〜S7においては、蓋板13を表面側から押圧して垂直方向の荷重を加えた後、この荷重を取り去る押圧操作によって、元々は粘着していた第1凸部15の頂部15aと弱粘着層13dとの間が離間し、その結果、この部分の液体流路12が閉止状態から開通状態となる。
【0013】
一方、閉止手段T1においては、図3に示すように、液体流路12に第2凸部16が形成され、この第2凸部16の頂部16aと弱粘着層13dとは離間し、かつ、強粘着層13bと第2基材層13cとの間にはスペーサ部材17が介在し、スペーサ部材17と強粘着層13bとが粘着している。
よって、閉止手段Tにおける液体流路12では、第2凸部16の頂部16aと弱粘着層13dとの間が離間して流路が保たれ、通常時は開通状態となっている。ところが、図5(a)に示すように、閉止手段T1における第1基材層13aを表面側から矢印Bで示すように押圧して、第1基材層13aに垂直方向の荷重を加えた場合には、第1基材層13aが撓み、その結果、蓋板13の最内層の弱粘着層13dが第2凸部16の頂部16aに粘着する。そして、その後に荷重を取り去ると、図5(b)に示すように、第1基材層13aはその復元力により元の状態に復元し、その際、第1基材層13aの内側に粘着した強粘着層13bと、強粘着層13bに粘着したスペーサ部材17は、第1基材層13aの復元に追従して持ち上がる。一方、スペーサ部材17と第2基材層13cとの間は粘着していないとともに、第2基材層13cは容易に塑性変形可能であるために、ここで荷重を取り去っても、第2基材層13cと弱粘着層13dは第1基材層13aの復元には追従しない。その結果、第2凸部16の頂部16aと弱粘着層13dとは粘着した状態となって液体流路12を閉止し、液体はここを流通できなくなる。
このように閉止手段T1においては、蓋板13を表面側から押圧して垂直方向の荷重を加えた後、この荷重を取り去る押圧操作によって、元々は離間していた第2凸部16の頂部16aと弱粘着層13dとの間が粘着して閉塞し、その結果、この部分の液体流路12が開通状態から閉止状態となる。
【0014】
この液体流路装置10Aを用いて、測定液を調製する具体的な方法としては、まず、この液体流路装置10Aを試料投入槽14a側が上方に、測定槽14i側が下方に位置するように立てて、液体が重力によって上流側から下流側に流れやすい状態とする。
ついで、試料をシリンジなどにサンプリングし、このシリンジの針を試料投入槽14aに対応する部分の蓋板13に突き刺して、試料投入槽14aに試料を注入する。その後、試料投入槽14aとろ過槽14bとの間に設けられた開通手段S1を上述の押圧操作、すなわち、第1基材層13aを表面側から押圧して荷重を加えた後、取り去る操作で作動させ、この部分の液体流路12を開通状態とし、試料を重力によりろ過槽14bまで導入する。
この際、押圧操作は、作業者が指で第1基材層13aを表面側から押す手動により行ってもよいし、押圧位置がXY座標としてあらかじめプログラムされている押圧装置などを使用して、所定の位置を押すようにしてもよい。
【0015】
ついで、ろ過槽14bでろ過処理がなされた後、ろ過槽14bと計量槽14cとの間に設けられた開通手段S2を押圧操作で作動させて、この部分の液体流路12を開通状態とし、試料を重力により計量槽14cに導入する。
ついで、計量槽14cにおいて、導入された液体がオーバーフローし始めたことを確認後、ろ過槽14bと計量槽14cとの間に設けられた閉止手段T1を押圧操作で作動させて、この部分の液体流路12を閉止状態とする。このようにして、計量槽14cに上流側からの液体がさらに流入するのを停止させてから、計量槽14cの下流に設けられた開通手段S3を作動させて、計量槽14cで計量された試料を第1混合槽14fに導入する。
【0016】
こうして計量後の試料を第1混合槽14fに導入する一方で、第1試薬槽14eと第1混合槽14fとの間の開通手段S4を押圧操作で作動させて第1試薬を第1混合槽14fに導入し、試料と第1試薬とを第1混合槽14fにおいて混合し、中間調製液を調製する。
ついで、第1混合槽14fと第2混合槽14hとの間の開通手段S5を押圧操作で作動させて第1混合槽14fで調製された中間調製液を第2混合槽14hに導入する一方で、第2試薬槽14gと第2混合槽14hとの間の開通手段S6を押圧操作で作動させて第2試薬を第2混合槽14hに導入し、中間調製液と第2試薬とを第2混合槽14hにおいて混合し、測定液を調製する。
ついで、第2混合槽14hと測定槽14iとの間の開通手段S7を作動させ、第2混合槽14hで調製された測定液を測定槽14iに導入する。
そして、測定槽14iに測定液を導入した後、この液体流路装置10Aごと検出分析手段に供し、目的成分の検出や測定を行う。
【0017】
このような液体流通装置10Aによれば、液体流路12を閉止状態から開通状態にする開通手段S1〜S7と、開通状態から閉止状態にする閉止手段T1とを有するため、液体流路12中の液体の流れを制御でき、その結果、精度の高い検出や分析を短時間で行うことができる。
例えば、この例では、計量槽14cの上流には閉止手段T1が設けられ、下流には開通手段S3が設けられている。そのため、計量槽14cで試料を短時間で正確に計量して、第1混合槽14fに導入することができる。ここで仮に、計量槽14cの下流に開通手段S3が設けられておらず、この部分の液体流路12が常に開通した状態であると、計量中であっても計量槽14cから試料が連続的に流出してしまい、試料を一定量溜めることができず、計量自体が不可能となる。また、計量槽14cの上流に閉止手段T1が設けられていない場合には、ろ過槽14bを経た試料の全量が計量槽14cに完全に流入し終わってから、計量槽14cと第1混合槽14fの間の開通手段S3を作動させて、計量された試料を第1混合槽14fに導入する必要がある。この場合、試料が特に血液などの粘性を有した液体であると、ろ過槽14bを経た試料の全量が完全に計量槽14cに流入し終わるまでに時間を要し、短時間での計量が困難となる。その点、この例のように、計量槽14cの上流間に閉止手段T1が設けられていると、ろ過槽14bを経た試料の全量が計量槽14cに完全に流入し終わらなくても、計量槽14cにおいて試料がオーバーフローし始めた時点で閉止手段T1を作動させて、計量槽14cへの試料のさらなる流入を停止することができ、短時間での正確な計量が可能となる。
【0018】
また、この例では、第1混合槽14fと第2混合槽14hとの間に開通手段S5が設けられ、第2混合槽14hと測定槽14iとの間に開通手段S7が設けられている。そのため、第1混合槽14fおよび第2混合槽14hにおいて、目的の混合や反応が十分に進行してから、これら開通手段S5、S7を開通させ、中間調製液や測定液をそれぞれ第2混合槽14hや測定槽14iに導入することができる。よって、混合や反応が不十分なことに起因する検出や分析の精度低下を防止することができる。
【0019】
さらに、この例では、第1試薬槽14eと第1混合槽14fとの間、第2試薬槽14gと第2混合槽14hとの間にも開通手段S4、S6が設けられているため、所望の時点でこれらを開通させて、あらかじめ第1試薬槽14eおよび第2試薬槽14gにそれぞれ封入されている第1試薬および第2試薬を第1混合槽14fや第2混合槽14hに流入させることができる。仮に開通手段S4、S6が設けられていない場合には、液体流路装置10Aの保管時などに、第1試薬および第2試薬が下流側に流れ始めてしまうおそれがある。
【0020】
また、この例の液体流路装置10Aの開通手段S1〜S7および閉止手段T1は、液体流路12に形成された第1凸部15および第2凸部16と蓋板13とが組み合わされた構成であるため、液体流路12を開通したり閉止したりするための別部材を新たに用意する必要がなく、低コストであるとともに構成もシンプルである。また、開通および閉止の操作も簡便な押圧操作のみで、操作性にも優れる。
【0021】
図6は 本発明の液体流路装置の他の一実施形態例を示すものであって、この液体流路装置10Bは、扇状の平板からなる基板11Bの片面に、先に説明した液体流路装置10Aと同様に、試料および試薬の少なくとも一方からなる液体が流通する溝状の液体流路12と、液体流路12の端部や途中において液体が溜まる複数の液槽(14a、14e〜14h、14J、14k、14m)とが形成され、基板11の液体流路12が形成された側の流路形成面12aに蓋板13が積層して構成されたものである。この液体流路装置10Bにおいては、図6中の上端部側を中心に回転させた場合には、液体流路12の上流側の端部から下流側の端部に向けて矢印F’方向に試料が遠心力により流通し、その途中で試料に対して各種の処理や試薬との混合がなされ、測定液とされる。
【0022】
すなわち、液体流路12の上流側の端部には、投入された試料が溜まる試料投入槽14aが設けられ、この試料投入槽14aの下流には、第1試薬槽14eからの第1試薬および第2試薬槽14gからの第2試薬と試料投入槽14aからの試料とが混合され、中間調製液が調製される第1混合槽14fが設けられている。
第1混合槽14fの下流には、第3試薬槽14jからの第3試薬および第4試薬槽14kからの第4試薬と第1混合槽14fからの中間調製液とが混合される第2混合槽14hが設けられている。
この例では、第2混合槽14hは測定槽としても作用し、第2混合槽14hで調製された測定液に対して、図示略の検出分析手段により、各種成分の検出や分析がなされるようになっている。
また、この例では、第2混合槽14hで測定された後の測定液を貯留しておく廃棄槽14mが形成されている。
なお、各液槽には、大気と連通する図示略の連通孔が設けられている。
【0023】
また、この液体流路装置10Bにおいても、蓋板13は上述の液体流路装置10Aの場合と同様の図3に示す構成、すなわち、蓋板13の表面を構成する第1基材層13aと、第1基材層13aの内側に形成された強粘着層13bと、強粘着層13bの内側に形成された第2基材層13cと、第2基材層13cの内側に形成され、流路形成面に粘着する弱粘着層13dとを有した構成になっている。
【0024】
また、試料投入槽14aと第1混合槽14fとの間、第1試料槽14eと第1混合層14fとの間、第2試料槽14gと第1混合槽14fとの間、第1混合槽14fと第2混合槽14hとの間、第3試料槽14jと第2混合層14hとの間、第4試料槽14kと第2混合槽14hとの間、第2混合槽14hと廃棄槽14mとの間には、液体流路12を閉止状態から開通状態とする開通手段S8〜S14が1つずつ設けられている。
一方、試料投入槽14aと第1混合槽14fとの間の液体流路12において、開通手段S8よりも下流側に、閉止手段T2が設けられている。
【0025】
そして、液体流路装置10Aの場合と同様に、各開通手段S8〜S14では、図3に示したように、液体流路12に第1凸部15が形成され、この第1凸部15の頂部15aと弱粘着層13dとが粘着し、かつ、強粘着層13bと第2基材層13cとが離間している。一方、閉止手段T2では、液体流路12に第2凸部16が形成され、この第2凸部16の頂部16aと弱粘着層13dとは離間し、かつ、強粘着層13bと第2基材層13cとの間にはスペーサ部材17が介在し、スペーサ部材17と強粘着層13bとが粘着している。
【0026】
この液体流路装置10Bを用いて、測定液を調製する場合には、まず、この液体流路装置10Bを試料投入槽14a側が回転中心側に位置し、測定槽14i側が回転の外周側に位置するように遠心装置にセットする。
ついで、試料をシリンジなどにサンプリングし、このシリンジの針を試料投入槽14aに対応する部分の蓋板13に突き刺して、試料投入槽14aに試料を注入する。その後、遠心装置を作動させることによって、回転中心側から外周側に作用する遠心力が生じ、この遠心力により、液体が上流側から下流側に流れ始める。
ついで、試料投入槽14aと第1混合槽14fとの間に設けられた開通手段S8を液体流路装置10Aの場合と同様の押圧操作で作動させ、この部分の液体流路12を開通状態とし、試料を遠心力により第1混合槽14fに導入する。
【0027】
こうして遠心力を生じさせながら、試料を第1混合槽14fに導入する一方で、第1試薬槽14eと第1混合槽14fとの間の開通手段S9を押圧操作で作動させて、あらかじめ封入されていた第1試薬を第1混合槽14fに導入し、ついで、第2試薬槽14eと第1混合槽14fとの間の開通手段S10を押圧操作で作動させて、あらかじめ封入されていた第2試薬も第1混合槽14fに導入し、試料と第1試薬と第2試薬とを第1混合槽14fにおいて混合する。
そして、この際に、必要に応じて、試料の全量が完全に第1混合槽14fに流入し終わる前に、閉止手段T2を作動させることによって、試料の第1混合槽14への過剰な流入を止めることもできる。
【0028】
ついで、第1混合槽14fと第2混合槽14hとの間の開通手段S11を押圧操作で作動させて、第1混合槽14fで調製された中間調製液を第2混合槽14hに導入する一方で、第3試薬槽14gと第2混合槽14hとの間の開通手段S12と、第3試薬槽14gと第2混合槽14hとの間の開通手段S13とを押圧操作で作動させて、あらかじめ封入されていた第3試薬および第4試薬も第2混合槽14hに導入し、中間調製液と第3試薬と第4試薬とを第2混合槽14hにおいて混合する。
そして、この液体流路装置10Bごと検出分析手段に供し、第2混合槽で調製された測定液に対して、目的成分の検出や分析を行う。
検出や分析が終了した後には、開通手段S14を作動させて、測定後の測定液を廃棄槽14mへ廃棄することもできる。
【0029】
このような液体流通装置10Bによっても、液体流路12を閉止状態から開通状態にする開通手段S8〜S14と、開通状態から閉止状態にする閉止手段T2とを有するため、液体流路12中の液体の流れを制御でき、その結果、検出や分析を良好な精度で短時間に行うことができる。
また、開通手段S8〜S14および閉止手段T2も、低コストであるとともに構成もシンプルで、しかも、簡便な押圧操作のみで操作することができる。
【0030】
なお、この例の液体流路装置10Bの場合にも、開通手段S8〜S14および閉止手段T2における押圧操作を手動で行えるが、液体流路装置10Bの蓋板13の表面を圧接する圧接ディスクにより押圧すると、複数枚の液体流路装置10Bに対して、連続的に押圧操作ができ好ましい。
図7は、遠心装置の有する基盤20上に円形になるように並べられてセットされた複数枚(この例では6枚)の扇状(中心角α=60°)の液体流路装置10Bに対して、圧接ディスク21により押圧操作する方法を示したものである。この例の圧接ディスク21は、液体流路装置10Bを回転させる遠心装置の回転軸22から側方に延びたアーム23に軸設され、アーム23を中心として回転しながら、アーム23の長さ方向(液体流路装置の回転の半径方向)に沿って、液体流路装置10Bの回転中心側から外周側に向けて移動する。よって、遠心装置により液体流路装置10Bを回転させながら、圧接ディスク21をこのように移動させることによって、圧接ディスク21は円形に並べられた液体流路装置10B上を回転中心側から外周側に向けて相対的に渦巻き状に走査し、これら液体流路装置10Bに設けられた開通手段S8〜14および閉止手段T2を順次押圧操作することができる。
【0031】
なお、以上の説明では、液体流路装置10A、10Bの試料投入槽14aに試料を注入する方法として、シリンジの針を蓋板13に突き刺す方法を例示しているが、例えば、あらかじめ蓋板13に試料注入孔を形成しておき、そこから試料を注入してもよい。その場合、試料注入孔には保護テープを被せておき、シリンジを保護テープに突き刺すことで注入してもよいし、保護テープを剥がして試料注入孔にシリンジを挿入して注入してもよい。
【0032】
以上説明した液体流路装置10A、10Bにおいて、液体流路12および液槽が形成される基板11A、11Bには、例えば、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、PEN樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、繊維強化プラスチックなどの樹脂板や、ガラス板が使用できる。これらのなかでも、透明であって、液体流路12を流通する液体の様子を基板11A、11B側から目視することができる点では、ガラス板や、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、PEN樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。また、ガラス板よりも破損しにくく取扱性に優れる点では、樹脂板の方が好ましい。
基板11A、11Bの厚さには特に制限はなく、形成される液体流路12の深さなどに応じて決定されればよいが、通常0.5〜7mmである。
【0033】
液体流路12や液槽は、基板11A、11Bの片面上に、例えばフォトリソグラフィ、射出成形、ブロー成形、接合形成、溶解形成、切削形成、機械加工などの技術により溝状に形成される。
液体流路12の断面形状(流れに対して垂直方向の断面)には特に制限はなく、例えば、半円形状、四角形状、逆三角形状などが挙げられる。液体流路12の幅や深さにも特に制限はなく、求められる液体の流量などに応じて決定されればよいが、幅および深さがそれぞれ10〜5000μmの範囲であれば、小さな流路抵抗で液体を流すことができ、かつ、流通させる液体の量も少量ですむ点で好ましい。
また、液体流路12には、液体を流れやすくするために、液体の種類に応じた表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理としては、塗料の塗布処理、プラズマ処理、フレーム処置、薬品処理、生理活性処理、抗体処理などが挙げられる。さらに、液体流路12には、必要に応じて、邪魔板、攪拌板、突起を設けたり、分水形状を形成したりして、流通する液体が均一な混合状態となるようにしてもよい。
各液槽も、形状などには特に制限はなく、各液槽に要求される容積などに応じて適宜形成されればよい。
【0034】
蓋板13の表面を構成する第1基材層13aは、その表面側から垂直方向の荷重を加えられた場合には撓み、その後、戻ろうとする復元力を有するものである。このような特性、すなわち、可撓性と復元力とを有する基材であれば、第1基材層13aとして使用でき、その材質や厚みには特に制限はないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミドなどからなる厚さ50〜500μmのフィルムであれば、第1基材層13aとして使用するのに適切な可撓性と復元力を有するため好ましい。
【0035】
一方、第2基材層13cは、垂直方向の荷重により容易に撓むものであればよく、復元しないものがさらに好ましい。このような特性を有する基材であれば、第2基材層13cとして使用でき、その材質や厚みには特に制限はないが、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、紙、PET、PEN、PC、ポリイミドなどの樹脂からなる厚さ5〜50μmのフィルムであれば、第2基材層13cとして使用するのに好ましい。紙を使用する場合には、防水処理された紙が好ましく、金属箔を使用する場合には、防錆処理された金属箔が好ましい。
【0036】
強粘着層13bおよび弱粘着層13dには、従来公知の粘着剤の中から第1基材層13aや第2基材層13cの材質などに応じて適宜選択することができるが、その際、強粘着層13bを形成する粘着剤の粘着力(粘着強度)は、弱粘着層13dを形成する粘着剤の粘着力よりも強いことが必要である。強粘着層13bを形成する粘着剤の粘着力が弱粘着層13dを形成する粘着剤の粘着力以下であると、開通手段S1〜S14において押圧操作をした場合でも、第1凸部15の頂部15aと弱粘着層13dとを離間させることができず、液体流路12を開通できなくなる。強粘着層13bを形成する粘着剤の粘着力は、弱粘着層13dを形成する粘着剤の粘着力よりも0.1N/cm以上大きいことが好ましい。さらには、0.1〜30N/cmの範囲で大きいことが好ましい。強粘着層13dを形成する粘着剤の粘着力が弱粘着層13dを形成する粘着剤の粘着力よりも0.1N/cm以上大きいと、開通手段S1〜S14を確実に作動させることができる。一方、粘着力の差が30N/cmを超えるようにこれらの粘着層を構成することは困難である。
また、そのうえで、強粘着層13bの粘着力を1〜30N/cmの範囲とし、弱粘着層13dの粘着力を0.05〜5N/cmの範囲とすることが好ましい。
【0037】
強粘着層13bおよび弱粘着層13dに使用する粘着剤としては、例えば、アクリル系、ゴム系、ポリウレタン系、ポリエステル系、シリコン系などが挙げられる。これらのうち、例えば、強粘着層13bにはアクリル系、ゴム系などを使用し、さらに芯材として、不織布、ポリエステル繊維などを含ませてもよい。弱粘着層13dには、アクリル系、シリコン系のものを使用することが好ましい。強粘着層13bと弱粘着層13dとの粘着力の差を上述の好適な範囲とするためには、各粘着剤を構成する樹脂のガラス転移温度を適宜調整したり、粘着剤に粘着付与剤、硬化剤、芯材などの添加剤を加えたり、その添加量を調整したりする方法が挙げられる。
また、強粘着層および弱粘着層の厚さには制限はないが、通常、10〜1000μmである。
【0038】
なお、ここで「粘着力」とは、JIS Z 0237のステンレス板に対する180度引きはがし粘着力のことである。
【0039】
スペーサ部材17としては、PET、PEN、PC、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などの樹脂の他、紙なども使用できる。スペーサ部材17の厚みには特に制限はないが、50〜2000μmの範囲にすると、開通手段S1〜S14の作動前には、強粘着層13bと第2基材層13cとを確実に離間させておくことができ、一方、作動時には、強粘着層13bと第2基材層13cとを確実に粘着させることができる。
【0040】
なお、以上の説明においては、基板11A、11Bの片面のみに液体流路12が形成された液体流路装置10A、10Bを例示したが、基板11A、11Bの両面に液体流路12が形成されてもよい。
また、各液槽に設けられる連通孔は、液体流路装置11A、11Bの使用前には封止され、使用時に開通されることがコンタミネーション防止の点などから好ましい。よって、連通孔の手前に、液体流路12に設けられる開通手段S1〜14と同様の構成の開通手段を設けてもよい。
また、以上の説明においては、液体を流通させるために、液体流路装置10Aでは重力を利用し、液体流路装置10Bでは遠心力を利用した方法をそれぞれ説明したが、これらに限定されず、例えば、液体流路12の一部を加圧したり、液体流路12の一部を加熱して液体流路12内の空気を膨張させたり、液体流路12の一部に酸素吸収剤(酸化しやすい鉄粉など)を封入しておき、液体流路12内の酸素を吸収することで液体流路12内を減圧にしたりして、液体を移動させ、流通させる方法なども採用できる。または、液体流路12の一部ではなく、計量槽14を加圧、加熱、減圧してもよいし、場合によっては、液体流路12と計量槽14の両方を加圧、加熱、減圧してもよい。
【0041】
液体流路装置10A、10Bを流通させる試料および試薬としては、特に制限はなく、医療分野、環境分野などで従来より採用されている試料と試薬とを適宜組み合わせて使用することができる。例えば、医療分野おいては、試料として、血液(全血)、血漿、血清、バフィーコート、尿、糞便、唾液、喀痰などの生体由来のもの、ウィルス、細菌、カビ、酵母、動植物の細胞などが挙げられる。また、これらから単離したDNAまたはRNAを用いてもよいし、これらに対して何らかの前処理、希釈などが施されたものを試料としてもよい。試薬としては、試料中に存在する抗原を分析する場合には、それに対する抗体を含有する試薬が好ましい。
また、液体流路装置10A、10Bで調製された測定液の検出分析手段としては、従来公知の光学的手段、電気的手段などを適宜採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の液体流路装置の一実施形態例を示す概略平面透視図である。
【図2】図1の液体流路装置の一部を拡大した平面透視図である。
【図3】図2のI−I’線に沿う断面図である。
【図4】開通手段が作動する様子を説明する説明図である。
【図5】閉止手段が作動する様子を説明する説明図である。
【図6】本発明の液体流路装置の他の一実施形態例を示す概略平面透視図である。
【図7】図6の液体流路装置の使用方法の一例を説明する概略説明図である。
【符号の説明】
【0043】
10A、10B 液体流路装置
11A、11B 基板
12 液体流路
12a 流路形成面
13 蓋板
13a 第1基材層
13b 強粘着層
13c 第2基材層
13d 弱粘着層
14c 計量槽
15 第1凸部
15a 第1凸部の頂部
16 第2凸部
16a 第2凸部の頂部
17 スペーサ部材
S1〜S14 開通手段
T1〜T2 閉止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の少なくとも片面に、試料および試薬の少なくとも一方からなる液体が流通する液体流路が形成され、前記基板の前記液体流路が形成された流路形成面には蓋板が積層した液体流路装置であって、
前記液体流路の一部を閉止状態から開通状態にする開通手段を有し、
前記蓋板は、該蓋板の表面を構成する第1基材層と、該第1基材層の内側に形成された強粘着層と、該強粘着層の内側に形成された第2基材層と、該第2基材層の内側に形成され、前記流路形成面に粘着する弱粘着層とを有し、
前記開通手段では、前記液体流路に第1凸部が形成され、該第1凸部の頂部と前記弱粘着層とが粘着し、かつ、前記強粘着層と前記第2基材層とが離間していることを特徴とする液体流路装置。
【請求項2】
前記液体流路の一部を開通状態から閉止状態にする閉止手段をさらに有し、
前記閉止手段では、前記液体流路に第2凸部が形成され、該第2凸部の頂部と前記弱粘着層とが離間し、かつ、前記強粘着層と前記第2基材層との間にはスペーサ部材が介在し、該スペーサ部材と前記強粘着層とが粘着していることを特徴とする請求項1に記載の液体流路装置。
【請求項3】
前記液体流路には、一定量の液体を計量する計量槽が設けられ、少なくとも該計量槽の上流には前記閉止手段が設けられ、下流には前記開通手段が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の液体流路装置。
【請求項4】
前記計量槽には、前記一定量を超えた液体をオーバーフローさせるオーバーフロー手段が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の液体流路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−8190(P2010−8190A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167005(P2008−167005)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】