説明

液体濃縮システム

【課題】液体を効率よく均一に短時間で加熱でき、高粘度の液体を容易に取り出せる液体濃縮器と、この濃縮器を用いた自動濃縮システムを提供する。
【解決手段】内部の管の内周面上の多数の溝上で液体を蒸発させる単一、或いは複数の濃縮器10、濃縮システム1内の流路の減圧手段103、濃縮器に均一に液体を供給するためのバッファー92と送液手段93、蒸発により気液分離するための加熱手段94、蒸発・気化した成分の冷却手段95、濃縮器からの濃縮液を集める濃縮液バッファータンク100、濃縮器からの蒸発液を集める蒸発液バッファータンク97、減圧下の濃縮液バッファータンクから大気圧下の貯蔵容器102への液体の送液手段101、濃縮液体濃度や濃縮器温度の計測手段205、濃縮器〜濃縮液バッファータンク間での濃縮液体の粘度を調整するための温度調整機能を付加した流路、上記を制御する制御部200から成る液体濃縮システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面からの蒸発により濃縮を行う液体濃縮方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の濃縮方法として、下記特許文献1に開示されているように、容量数十L〜数百Lの容器に液体を入れて加熱するとともに容器内を減圧し、液体を蒸発させる方法が用いられている。具体的には、減圧加熱により揮発性成分を蒸発させ、揮発性成分の蒸気は後段で冷却・捕集し、容器内に濃縮された非揮発性成分が残る。
【0003】
【特許文献1】特開2004−344700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体の濃縮においては、加熱効率の向上と濃縮時間の短縮化が要求されるが、従来技術では、(1)ヒーターを導入する容器壁面近傍などにホットスポット(周囲に比べて温度が高い領域)ができ、容器内を均一に加熱することができず、加熱効率が悪い、(2)均一加熱のためには容器を小さくする必要があるが、そうすると液体が蒸発するために必要な気液界面の面積が小さくなり、蒸発量が少ないため濃縮に時間が掛かる、などの問題があり、加熱効率の向上と濃縮時間の短縮化を同時に達成することが困難であった。
【0005】
気液界面の面積を広くするものとして、ロータリーエバポレータという、フラスコを回転させて壁面に薄く液膜状に付着した部分を蒸発させる方法があるが、フラスコが回転するために加熱が困難になり、加熱効率を高め濃縮時間を短縮することができないだけでなく、フラスコ回転のための空間が必要であった。
【0006】
また、濃縮対象の液体ごとに形成される薄膜の状態が異なるため、常時人間が監視・手動調整する必要があり長時間の連続運転等が困難であるという問題も生じる。
【0007】
加えて、高濃度の濃縮を行った場合には濃縮液の粘度が高くなるが、この高粘度の液体がフラスコ表面に付着して伝熱効率を下げてしまうため、以後の濃縮を困難なものとしてしまう。また、高粘度の濃縮液をフラスコから取り出す工程には多大な時間が必要となる。
【0008】
本発明の目的は、液体を効率よく均一に短時間で加熱することができ、高粘度の液体であっても容易に取り出せる液体濃縮器と、この濃縮器を用いて自動的に濃縮処理を行える濃縮システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明液体濃縮システムの特徴とするところは、直径の異なる3本の管を重ねた三重管構造であり、外側の管と中間の管の間を高温に、中間の管と内側の管の間および内側の管内を減圧状態にし、中間の管の上端に配され供給液体を受けるフタ材に放射状の微細な溝を多数設け、毛細管現象を利用して液体を高温に温められた中間の管の円周全体に送液し、該管の円周内面に設けられた多数の微細な溝に液体を供給して溝底と液面に生じる界面張力を利用し均一な薄膜を形成することで、液体を効率よく短時間で加熱蒸発させ高濃度の濃縮液を生成し、該濃縮液が通る流路を高温に温めることが可能な鏡面処理した傾斜路とすることで濃縮器内部に該濃縮液が残留することなくスムーズに排出でき、濃縮時に発生した蒸気は内側の管に取り込み分離することで液体の濃縮を行う濃縮器を中心に、処理量に応じて単一、或いは並列に設けた複数の濃縮器を搭載可能な濃縮システムであり、システム内の流路を減圧する真空ポンプ、各濃縮器に均一に液体を送液するためのバッファーとポンプ、所望の成分を蒸発させ液体と気体に分離させるために濃縮器に熱エネルギーを加える加熱源、気化した成分から熱エネルギーを奪い液体に戻す冷却源、各濃縮器から排出された濃縮液に蒸気が流入することを防止する一対の弁、濃縮液と液化した蒸発液を集めるバッファータンク、減圧されたバッファータンクから大気圧下の貯蔵容器へ液体を送液するポンプ、濃縮液体の濃度や濃縮器の温度状態を計測するセンサ、濃縮器〜濃縮液バッファータンク間で濃縮液体粘度を調整するために温度調整機能を付加した流路を備え、加えて上記の全要素を制御し所望の濃度を持った濃縮液を自動的に製造する制御部を備えた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体を微細な溝に送液する動力を準備するのみで安定した濃縮を行うことが可能なスタティックな濃縮器を得ることができる。また微細な溝底に液体の薄膜を形成することで熱の伝達が容易になり、加熱効率の向上と濃縮時間の短縮とが同時に達成され、溝を円周状に配置することで体積辺りの処理量を増加させ装置を小型化できる。加えて、濃縮器内の濃縮後の液体が接液する部分は全て温度調整可能な鏡面研磨した傾斜路となっており高濃度に濃縮された高粘度液体であってもスムーズに濃縮器外へ排出されるため、多様な濃度、粘度の液体に対応することができる。
【0011】
さらに液体の濃縮は各溝で独立して行われるため、一度各溝での濃縮条件を把握すれば、溝の数を増減することで容易に処理量の異なる濃縮器を得ることが可能となる。
【0012】
加えて、上記濃縮器を単一或いは多数並列に配し、各濃縮器に均一に送液する機構と、濃縮度を計測し流量を自動的に制御する機構とを付加することで、自動的に多量の液体を所望の濃度に濃縮可能な濃縮システムを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、食用酢を濃縮対象とし、原液から特定の揮発性成分を取り出し濃縮する場合の実施形態について説明するが、濃縮する液体としては、沸点の異なる液体同士の混合液であっても良い。この場合、沸点の低い液体が揮発性成分、沸点の高い液体が非揮発性成分となる。
【0014】
(実施例1)
図1は、本発明、液体濃縮システム1の一例を示すブロック図である。
【0015】
図1において、10は供給された液体における揮発性成分を蒸発させ液体を濃縮する液体濃縮器、90は濃縮を行う液体を収容した原料タンク、91は液体を供給する原料供給ポンプ、92は供給された液体を一時的に貯めて各濃縮器への流量を均一にならす原料バッファー、93は各濃縮器に所望の流量を送液するために濃縮器と一対に設けられた流量調整ポンプ、94は液体濃縮器を過熱するために温水を供給する温水循環装置、95は液体濃縮器10から吐出される揮発性成分蒸気をその露点以下にまで冷却して液化する熱交換器、96は熱交換器95に冷却水を供給する冷却水循環装置、97は液化した揮発性成分を貯蔵する蒸発液タンクである。
【0016】
98aと98bは蒸気が濃縮液ラインに流入することを防止するための蒸気流入防止弁、99は濃縮液の水位を観測するための透明管、100は濃縮液を貯蔵する濃縮液タンク、101は真空雰囲気である濃縮液タンク100と蒸発液タンク97から各液体を大気圧下へ排出する排出ポンプ、102は排出ポンプ101から排出される各液体を貯蔵する貯蔵容器、103は原料バッファー92から蒸発液タンク97と濃縮液タンク100までの流路を下流側から減圧し液体の移動と真空雰囲気の形成を行う真空ポンプ、200は小型パソコンなどから構成され図中鎖線で囲んだシステム全体の制御を行う制御部、201は原料バッファー内の水位を計測する水位センサ、202は濃縮器10の温度を計測する濃縮器温度センサ、203は濃縮された液体の水位を計測する濃縮液水位センサ、204は図中に二重線で示す濃縮液流路と濃縮液タンク100の温度調節を行うために設けた温調用ヒーター、205は温調用ヒーター204により温度調整される濃縮液流路と濃縮液タンク100の温度を計測する温調用温度センサである。
【0017】
濃縮対象である食用酢は、原料供給ポンプ91により原料タンク90から原料バッファー92へ任意の流量で移動する。原料供給ポンプ91には円周状に配置されたローラーによってチューブをしごくことで送液するチューブポンプを使用した。これにより非送液時にはローラーによってチューブが閉塞されるため真空ポンプ103により生じる圧力差から過剰な液量が供給されることを防止することができる。
【0018】
原料バッファー92はパイプの両端を閉じたような円筒形をしており複数の液体濃縮器10を並列に取り付けられるよう継手が備えてある。これにより液体の処理量に応じて液体濃縮器10の数を容易に増減することができる。また、複数の液体濃縮器10を設けることにより、一つの液体濃縮器10が故障した場合でも他の液体濃縮器10で補うことで濃縮処理を継続することも可能となる。本実施例では液体濃縮器10が2個取り付けられた場合を説明する。
【0019】
原料バッファー92に送られた食用酢が一定量溜まると水位センサ201がこれを検知し、センサの信号を受け取った制御部200は流量調整ポンプ93を動作させる。制御部200はバッファー内の水位が一定となるよう流量調整ポンプ93を制御する。これにより酢の供給と排出のバランスを取ることが可能となり、各液体濃縮器10への供給液量を等しくすることができる。なお、後述するように液体濃縮器10を通過する食用酢の流量を少なくすると濃度が増し、反対に流量を増やすと濃度は低下する。
【0020】
液体濃縮器10の内部は、真空ポンプ103により減圧され、温水循環装置94によって循環される温水により加熱された結果、100℃以下の任意な温度で液体中の揮発性成分が蒸発する状態が形成される。液体を沸騰させる際、常圧であれば水の場合で100℃といった高温が必要となるが、食用酢中のアミノ酸は70℃以上の温度では変質するため問題が生じる。そのため本実施例では出口側で真空ポンプ103により数kPa程度に減圧を行い、沸点を下げた低圧蒸発を用いた。
【0021】
また、本実施例では液体濃縮器10の加熱源として温水を使用したが、より高い熱エネルギーが必要な場合は、温水の代わりに蒸気(高温蒸気或いは減圧した低温蒸気)を用いても良い。液体濃縮器10には内部の温度を計測するための濃縮器温度センサ202が取り付けられており、処理量等の変化で温度が70℃を超えそうな場合は温水温度を低下させるよう制御部200が温水循環装置94を制御する。
【0022】
液体濃縮器10内では蒸発した揮発性成分と液体のままの濃縮液が分離するようになっており、分離した気体と液体は重力と真空ポンプ103の減圧による圧力差、流量調整ポンプ93による加圧によりさらに後段に運ばれる。
【0023】
気化した揮発性成分は熱交換器95へと移動し、冷却水循環装置96から供給される冷却水に吸熱されて再び液体となり蒸発液タンク97へ貯蔵される。もう一方の濃縮液は濃縮液タンク100へと貯蔵される。
【0024】
濃縮液、特に高濃度の濃縮液を得る場合には、一度分離した揮発成分が再び濃縮液と合流することを防止する必要がある。そこで、本発明では濃縮液流路上に二つの蒸気流入防止弁98a、98bを設けた。濃縮処理開始時には、上流側の流入防止弁98aは開状態、下流側の流入防止弁98bは閉状態となっている。後述するように液体濃縮器10は垂直に設置されているため、この状態で原液を濃縮すると濃縮液は重力によって落下して透明管99内に溜められ、蒸気は真空ポンプ103の吸引力により熱交換器95へと移動する。
【0025】
さらに濃縮処理を継続すると濃縮液は透明管99を徐々に満たして行き、やがて透明管99に取り付けられた濃縮液水位センサ203が反応するまでになる。濃縮液水位センサ203の信号を受けた制御部200は、まず上流側の流入防止弁98aを閉状態にし、次に下流側の流入防止弁98bを開状態とする。これにより透明管99内に溜まった濃縮液は蒸気が流入することなく、濃縮液タンク100へと移動する。一定時間経過後、制御部200は下流側の流入防止弁98bを閉状態、上流側の流入防止弁98aを開状態とし、再び濃縮液が溜まるまで待機する。以上のように弁の制御を行うことで、本濃縮システムは確実な気液分離を行い、高濃度の濃縮液を得ることができる。
【0026】
なお、本実施例では濃縮液水位センサ203に透過光を利用する光学式センサを使用したため透明管99を設けたが、別のセンサ(例えばフロート式水位センサ)を使用する場合は、透明である必要は無い。
【0027】
各液体濃縮器10から集められて蒸発液タンク97、濃縮液タンク100に貯められた蒸発液、濃縮液は最終的に排出ポンプ101によって大気圧下の貯蔵容器102へと運ばれ、液体濃縮処理は終了する。なお、食用酢を一定濃度以上に濃縮すると粘度が高くなり送液に困難が生じるようになる。この現象への対策として、後述する液体濃縮器10内の形状に加えて、図中に二重線で示す液体濃縮器10から排出ポンプ101を経て貯蔵容器102へ至る濃縮液流路と濃縮液タンク100には、濃縮液を温めることで粘度を低下させ送液を容易に行えるよう温調用ヒーター204を取り付けた。このヒーターの温度は温調用温度センサ205からの情報に基づき制御部200が制御し、濃縮液を所望の温度に調整することができる。
【0028】
以上のような工程で本システムは液体濃縮を行う。液体流量や温水温度などの初期条件を設定すれば、濃縮処理中の制御は制御部200が全て自動で行うため省人化が図れ。長時間の連続処理も容易となる。また、制御部200には一度行った製造条件を記憶することもできるので、二度目以降はより素早く、再現性良く濃縮処理をスタートできる。
【0029】
次に、液体濃縮器10について詳細を説明する。図2は液体濃縮器10の外観斜視図である。液体濃縮器10はパイプ状の外管11に、上フタ12と下フタ13をネジで取り付けて密閉した円筒形をしており、図に示すように円筒の軸方向に垂直に設置される。
【0030】
外管11の下部には温水の入口である温水供給管14、上部には温水の出口である温水吐出管15が取り付けられ、温水循環装置94からの温水を液体濃縮器10内に循環させ加熱する。上フタ12には原料供給管16が取り付けられ、流量調整ポンプ93から送られる食用酢を液体濃縮器10内に供給する。下フタ13には蒸気吐出管17と濃縮液吐出管18が取り付けられ、液体濃縮器10内において分離された蒸気と濃縮液をそれぞれ後段へと移動させる流路となる。なお、各配管の先端にはサニタリー用のフランジ19を設けて、他の機器との接続を容易とした。
【0031】
図3は図2中のA−A断面線で切断した液体濃縮器10の断面図である。液体濃縮器10は外管11、液体の蒸発が行われる溝付き管30、内管31と内管ベース32からなる三重管構造で、溝付き管30と内管31は連通しており内部は真空ポンプ103により減圧されている。
【0032】
溝付き管30と内管ベース32は図示していないOリングにより外管11と非連通となっており、その間の空間には図中点線で示すように下部から上部に向けて温水が循環している。これにより溝付き管30と内管ベース32は均一に加熱され、蒸発や濃縮液の粘度低減に必要な熱エネルギーを与えられる。温水の出入り口は上下逆でも良いが、温水を空間内に均等に行き渡らせるためには本実施例のように下部から上部へ循環させることが望ましい。また安定した濃縮を行うために、蒸発等でエネルギーを消費しても温水出入り口での温度差がほぼ生じない程の十分な量の温水を流すことが望ましい。本実施例では100ml/minの処理量に対して、15L/minの温水を送液した。
【0033】
図4は溝付き管30上端にはめ込まれる溝付管上フタ33の斜視図である。後述するように溝付き管30での液体の蒸発には溝付き管30の円周上に均一に液体を送液する必要があるため、以下のような構造を用いた。溝付き管上フタ33は中央部にバッファー部34と、そこから円周方向へと放射状に広がる多数の液体誘導溝35からなる円形の部品である。溝付き管上フタ33の上面と上フタ12の下面は接しており、上フタ12を蓋材としてバッファー部34と液体誘導溝35は流路を形成する。原料供給管16から吐出された食用酢は、図4中に矢印線で示すように溝付き管上フタ33の中央部分に送液される。
【0034】
バッファー部34に対して液体誘導溝35は十分に小さいために圧力損失の差により食用酢はバッファー部34を満たすまでは液体誘導溝35へは侵入しない。バッファー部34を満たした食用酢は後続する酢により加圧されることで各液体誘導溝35を均等に満たしながら移動し、後段の溝付き管30の円周上に均一に送液され、壁面を伝って落下する。この時、円周状に均一な送液を実現するために溝付き管上フタ33は水平に保たれていることが望ましく、そのため液体濃縮器10は垂直に取り付けられることが望ましい。食品を扱う場合には、処理後の残液を完全に除去する必要がある。この構造は凹型のバッファー槽を設ける方式に比べて液溜りが生じ難いため、液体濃縮器10を洗浄する際に洗浄液を送液することで残留液体を取り除くことが可能であり、メンテナンス性に優れる。
【0035】
図5は溝付き管30の斜視図及び上面図である。図に示すように溝付き管30は円周に沿って内側に多数の微細溝36が設けてある。溝付き管上フタ33を経由して溝付き管30の円周上に均一に送液された食用酢は表面張力によって各微細溝36の壁面にトラップされて薄膜37を形成し、溝付き管30下部へと壁面を伝わって落下する。
【0036】
微細溝36の断面形状は薄膜37の形成されやすさ(液体を溝内に保持するに足る表面張力を持つ形)、蒸発に必要な熱エネルギーを十分に伝えることが可能な熱伝達性を考慮して決定する。これらの条件を満たしているならば溝の形状や大きさはどのように決めても構わないが、加工性等を考慮すると、大きさが数百μmから数mm程度の方形、三角形、半円形、台形などが望ましい。本実施例では、薄膜37が形成されやすく加工も容易な一辺1.62mmの三角形(V字型)とした。溝付き管30は外側から温水によって加熱されており、薄膜化した微細溝36内の食用酢は温度に対する応答性が高く、さらに内側が減圧されているため常圧より低い温度で蒸発が開始されるので、溝付き管30の下部に至る間に食用酢内の揮発成分(主に水と酢酸)は蒸発する。蒸発量は、液体の供給量と温水温度を制御することで任意に変更が可能である。
【0037】
また、本方式では各微細溝36で各個に蒸発が行われるため、液体の処理量は溝の数に比例する。つまり、一度ある条件下での一つの微細溝36の蒸発量を把握すれば、溝数を増減することで容易に異なる処理量の濃縮器を得ることが可能となる。本実施例では、7倍濃縮液を20ml/min処理できる小型モデルを製作して性能検証を行った後に、溝つき管30を大直径化して溝数を5倍とした100ml/minモデルを製作し、小型モデルと同じく7倍の濃縮液を得られることを確認した。なお、上記を実現するためには、蒸発条件を等しくするために各溝への供給液量を均一にすることが必要であり、そのため本実施例では前述したように溝付き管上フタ33にバッファー部34や液体誘導溝35を設けてある。
【0038】
図3に戻って、溝付き管30を伝わりながら揮発成分を蒸発させた濃縮液は、実線の矢印で示すように内管31と内管ベース32の間に設けられた空間(濃縮液バッファー部38)に移動し、そこから濃縮液吐出管18を経て、液体濃縮器10外へと排出される。内管31は円管に刀の鍔を取り付けたような形状で、図に示すように水平な面を持たず、全ての面が垂直か傾斜を持たせてあり、加えて内管31の全ての面は鏡面仕上げが施してある。これにより微細溝36から濃縮途中の液体が飛び出して内管31へ付着した場合でも、内管傾斜路39を伝わり濃縮液バッファー部38へ移動するため残液が発生しない。残液が生じた場合、本来ならば濃縮液ラインへ流れるはずの液量がばらつくため濃縮の安定性が損なわれる、乾燥した残液が管内にこびり付き容易に洗浄できないなどの問題が生じる。本実施例によれば、これらの問題は生じない。
【0039】
内管ベース32上面の濃縮液が接する部分は、濃縮液吐出管18に向かってすり鉢状の傾斜路40が付けられており、その表面は鏡面研磨してある。この結果、微細溝36を伝わり落ちた濃縮液は残留することなくスムーズに濃縮器外に移動する。また、食用酢は高濃縮して濃度を高めると、粘度が急激に上昇し水飴のような状態に変化するが、このような状態に対応するため、すり鉢状傾斜路40の裏面には温水が流れるための空間41を設けた。この結果、空間41を流れる温水によってすり鉢状傾斜路40は加熱され、同時にこの傾斜路を流れる高濃度の濃縮液もまた加熱される。加熱された濃縮液は粘度が低下し、鏡面化された傾斜路の滑りやすさと併せて、濃縮器外へと排出される。このような形状を備えたことで、本実施例では食用酢を20倍に濃縮したサンプルの生成も可能となった。
【0040】
一方、蒸発した揮発成分は破線の矢印で示すように真空ポンプ103の吸引力によって内管31を経由して蒸気吐出管17へと移動する。ここで内管31を溝付き管30内に突き出すように高くすることで、万一濃縮液バッファー部38を越えて濃縮液が溝付き管30内に進入しても容易には蒸気吐出管17内に流れ込まないようにした。蒸気吐出管17へ吸引された揮発成分蒸気は熱交換器95にて冷却され液化し、蒸発液タンク97へと貯蔵される。この時、前述したように濃縮液が流れるラインには蒸気流入防止弁98が設けて有り、2個の弁を適宜開閉することで、蒸気が濃縮液吐出管18へと逆流することを防止している。
【0041】
以上のように本実施例の液体濃縮器10は可動部分の無いスタティックな構造となっており信頼性が高い。また、フロー処理により連続的に濃縮を行えるため、連続可動することで小型の濃縮器でありながら多量の濃縮処理を行うことができる。加えて、濃縮液接液部分を全て温調することで、高濃度・高粘度の濃縮液を生成することが可能であり、多様な濃縮処理に対応することができる。
【0042】
なお、本実施例では食用酢の蒸発により濃縮液を得るための濃縮システムについて述べているが、蒸発液タンク97では同時に蒸発液すなわち蒸留液が生産されるため、蒸留システムとしても活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】液体濃縮システムのブロック図。
【図2】液体濃縮器の外観斜視図。
【図3】図2A−A断面線での断面図。
【図4】溝付き管上フタの斜視図。
【図5】溝付き管の上面図および斜視図。
【符号の説明】
【0044】
1…液体濃縮システム、10…液体濃縮器、11…外管、12…上フタ、13…下フタ、14…温水供給管、15…温水吐出管。16…原料供給管、17…蒸気吐出管、18…濃縮液吐出管、19…フランジ、30…溝付き管、31…内管、32…内管ベース、33…溝付き管上フタ、34…バッファー部、35…液体誘導溝、36…微細溝、37…薄膜、38…濃縮液バッファー部、39…内管傾斜路、40…すり鉢状傾斜路、90…原料タンク、91…原料供給ポンプ、92…原料バッファー、93…流量調整ポンプ、94…温水循環装置、95…熱交換器、96…冷却水循環装置、97…蒸発液タンク、98…蒸気流入防止弁、99…透明管、100…濃縮液タンク、101…排出ポンプ、102…貯蔵容器、103…真空ポンプ、200…制御部、201…水位センサ、202…濃縮器温度センサ、203…濃縮液水位センサ、204…温調用ヒーター、205…温調用温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の蒸発により濃縮を行う濃縮システムにおいて、単一、或いは複数の濃縮器、前記濃縮システム内の流路を減圧する減圧手段、前記濃縮器に均一に液体を送液するためのバッファーと送液手段、所望の成分を蒸発させ液体と気体に分離させるための加熱手段、蒸発・気化した成分を冷却する冷却手段、前記濃縮器から排出された濃縮液を集める濃縮液バッファータンク、前記濃縮器から排出され再度液化した蒸発液を集める蒸発液バッファータンク、減圧された前記濃縮液バッファータンクから大気圧下の貯蔵容器へ液体を送液する送液手段、濃縮液体の濃度や前記濃縮器の温度状態を計測する計測手段、前記濃縮器〜前記濃縮液バッファータンク間で濃縮液体粘度を調整するための温度調整機能を付加した流路、上記を制御する制御部とを備えたことを特徴とする濃縮システム。
【請求項2】
直径の異なる3本の管を重ねた三重管構造を持ち、外側の管と中間の管で囲まれた空間を高温に、中間の管と内側の管の間の空間および内側の管内を減圧状態にし、中間の管の上端に配され供給液体を受けるフタ材に放射状の微細な溝を多数設け、毛細管現象を利用して液体を中間の管の円周全体に送液し、該管の円周内面に設けられた多数の微細な溝上で蒸発させ、発生した蒸気を内側の管に回収する前記濃縮器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の濃縮システム。
【請求項3】
前記濃縮器から排出された濃縮液が流れる配管部分に、2つのバルブと、そのバルブに挟まれたバッファー部を設け、各バルブを交互に開閉することにより、濃縮液内に蒸気が混入することを防ぐことを特徴とする請求項1又は2に記載の濃縮システム。
【請求項4】
濃縮液が接する部分を鏡面化した傾斜路とし、該傾斜路を任意の温度に加熱することで、濃縮液の粘度を低下させる事を特徴とする前記濃縮器を備えた請求項1、2又は3に記載の濃縮システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−290044(P2008−290044A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140521(P2007−140521)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】