説明

液体窒素の冷却方法

【課題】酸化物超電導体などの高い臨界温度を有する超電導体を冷却するための液体窒素を、その凝固温度近傍まで冷却する際に、液体窒素を固化させることなく冷却する方法を提供すること。
【解決手段】二重管式熱交換器の内管に液体窒素(温流体)を流通させ、外管に冷凍機により冷却したネオン(冷流体)を流し、液体窒素とネオンとを並流で流通させる。あるいは、外管に液体窒素を、内管にネオンを流して、並流で流通させる。液体窒素を固化させることなく、その凝固温度近傍まで冷却することが可能になる。液体窒素のレイノルズ数を3000以上とすることにより、冷却効果が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素の冷却方法に関し、特に、酸化物超電導体などの高い臨界温度を有する超電導体を冷却するための冷媒となる液体窒素をその凝固温度近傍まで冷却する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導体を冷却するための冷媒として、液体窒素が有力な候補となっている。
しかし、液体窒素の沸点は77Kと高いため、液体窒素で冷却されるよう設計された従来の超電導ケーブルおよび超電導マグネットは、十分高い電流密度を有することができない。
高温超電導体の臨界電流は、63Kにおいて77Kでの臨界電流の約2倍にすることができる。そこで、冷凍機によって液体窒素を冷却し、高温超電導体を77Kより低い温度に冷却することが考えられる。しかし、液体窒素は63.2Kで固化してしまう。
【0003】
特開平10−335137号公報(特許文献1)には、酸化物超電導体の冷却に固体窒素を用いる方法が開示されている。この方法は、断熱容器内に冷凍機の冷却ステージを設け、超電導コイルを直接冷やし、その周囲に固体窒素を生成させる方法である。この方法における固体窒素は、寒冷材としてではなく、断熱材として用いるものだが、このように、冷凍機で直接冷却する方法は、冷凍機の能力を充分に発揮できず、冷却効率が極端に悪くなる。
【0004】
WO99/62127号パンフレット(特許文献2)には、冷媒への物理的作用により、冷媒の凝固点以下でも冷媒の流動性を維持する方法を開示している。しかし、熱交換器により冷媒を凝固点以下に冷却する際には、流体の粘性により、壁では冷媒は静止状態であるため、冷媒の固化を避けることはできない。よって、63.2K以下の液体窒素を冷媒として実際に用いることは困難を伴うと思われる。
以上のように、酸化物超電導体などの高い臨界温度を有する超電導体を冷却するための液体窒素の冷却技術に関しては大きな課題が有り、新たなる技術の開発が待たれていた。
【特許文献1】特開平10−335137号公報
【特許文献2】WO99/62127号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来、酸化物超電導体などの高い臨界温度を有する超電導体を冷却するための液体窒素の冷却技術は問題があった。
本発明は、特に酸化物超電導体などの高い臨界温度を有する超電導体を冷却するための液体窒素を、その凝固温度近傍まで冷却する際に、液体窒素を固化させることなく冷却する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、液体窒素を冷却する方法であって、二重管式熱交換器を用い、外管に液体窒素を、内管にネオンを流通させ、液体窒素とネオンとを並流で流通させ、熱交換させることにより、前記液体窒素を固化させることなく窒素の固化温度近傍まで冷却することを特徴とする液体窒素の冷却方法である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、液体窒素を冷却する方法であって、二重管式熱交換器を用い、内管に液体窒素を、外管にネオンを流通させ、液体窒素とネオンとを並流で流して熱交換させることにより、液体窒素を固化させることなく窒素の固化温度近傍まで冷却することを特徴とする液体窒素の冷却方法である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記液体窒素の冷却する前のレイノルズ数を3000以上とすることを特徴とする請求項1または2記載の液体窒素の冷却方法である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の方法で冷却した液体窒素を用いて超電導体を冷却することを特徴とする超電導体の冷却方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、液体窒素をその凝固温度63.2K近傍まで、熱交換器の液体窒素流路内が液体窒素の凝固により閉塞することなしに冷却することを可能となる。
これにより、本発明で冷却された液体窒素を用いて超電導体を63K近傍まで冷却することができ、超電導体の臨界電流を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1および図2は、本発明の冷却方法に用いられる二重管式熱交換器の一例を示した概略図である。この例の二重管式熱交換器は、外管1と、この外管1内の空間に外管1の内壁から離れて配された内管2とからなる二重管10によって構成されている。
外管1と内管2とは、図2に示すように、それぞれの中心軸を同じとして配されていてもよく、また中心軸をずらして配されていてもよい。外管1および内管2は、必ずしも直管である必要はなく、折り曲げられた状態や渦巻き状態あるいはコイル巻き状態であってもよい。
【0012】
本発明の液体窒素の冷却方法の第1の方法は、この二重管式熱交換器の内管2に冷凍機で冷却した57K程度のネオンを流し、外管1に液体窒素を流し、両者をその流れの方向が同じである並流で流して熱交換を行い、液体窒素をその凝固温度近傍まで冷却する方法である。
また、その第2の方法は、二重管式熱交換器の外管1に冷凍機で冷却した57K程度のネオンを流し、内管2に液体窒素を流し、両者をその流れの方向が同じである並流で流して熱交換を行い、液体窒素をその凝固温度近傍まで冷却する方法である。
【0013】
液体窒素を、その凝固温度近傍まで冷却するためには、ネオンの二重管式熱交換器の入口温度を窒素の凝固温度より低い温度、例えば57K程度の温度にする必要がある。
二重管式熱交換器の外管に液体窒素を流し、内管にネオンを流し、液体窒素と低温のネオンとを熱交換する場合、条件によっては、液体窒素と接する内管の外壁の温度は63.2K以下となり、内管の外壁と接触する液体窒素の固化がおこる。
固体窒素の成長は、液体窒素と固体窒素の界面温度が63.2K以上になるまで進む。内管の外壁に固体窒素が生成する内管の長さは、液体窒素とネオンの流れ方向(向流、並流)や液体窒素と内管外壁との間の対流熱伝達率に依存する。
【0014】
二重管式熱交換器における内管内のネオンの熱収支式は、Fを流量、hを比エンタルピー、xを内管長さ方向座標、Qを内管単位長さあたりの交換熱量、hi1を管内熱伝達率、rを内管内半径、Tを内管内壁温度、Tをネオンの温度とすると、式(1)の常微分方程式で表すことができる。
【0015】
【数1】

【0016】
内管壁の熱収支は、λsを壁の熱伝導率、Tを内管外壁温度、rを内管外半径とすると、式(2)で表すことができる。
【0017】
【数2】

【0018】
内管外壁温度T<63.2Kのとき、固化窒素の熱収支式は、λを固体窒素の熱伝導率、rO2を外半径(固体窒素層含む)とすると、式(3)で表すことができる。
【0019】
【数3】

【0020】
内管外壁温度T<63.2Kの時、外管内液体窒素の熱収支式は、Fを流量、hを比エンタルピー、hi2を管内熱伝達率、Tを液体窒素の温度とすると、式(4)の常微分方程式で表すことができる。
【0021】
【数4】

【0022】
内管外壁温度T>63.2Kの時は、固体窒素は生成しないので、外管内液体窒素の熱収支式は、式(5)の常微分方程式で表すことができる。
【0023】
【数5】

【0024】
なお、管内熱伝達率は、例えば式(6)により計算することができる。
【0025】
【数6】

【0026】
ここでNuはヌセルト数、Reはレイノルズ数、Prはプラントル数、fは摩擦係数を表す。
式(6)は、強制対流乱流熱伝達の式で、適用範囲は(3000<Re<10,0.5<Pr<2000)である。Re<3000の時は、流れは層流と考えられ、管内層流熱伝達率は、内管内のネオンについては、式(7)により計算することができる。
【0027】
【数7】

【0028】
一方、外管における層流熱伝達率は、式(8)により計算することができる。
【0029】
【数8】

【0030】
ここで、rは内管外径を表し、ro3は外管内径を表す。
【0031】
一方、二重管式熱交換器の外管にネオンを流し、内管に液体窒素を流して、液体窒素とネオンとを熱交換する場合も、その凝固温度近傍まで冷却するためには、ネオンの二重管式熱交換器の入口温度を窒素の凝固温度より低い温度、例えば57K程度の温度にする必要がある。この時、条件によっては、液体窒素と接する内管の内壁の温度は63.2K以下となり、内管の内壁と接触する液体窒素の固化がおこる。
【0032】
固体窒素の成長は、液体窒素と固体窒素の界面温度が63.2K以上になるまで進む。内壁に固体窒素が生成する内管の長さは、液体窒素とネオンとの流れ方向(向流、並流)や液体窒素と内管の内壁間の対流熱伝達率に依存する。
【0033】
二重管式熱交換器における外管内のネオンの熱収支式は、Fを流量、hを比エンタルピー、xを内管長さ方向座標、Qを内管単位長さあたりの交換熱量、hi1を管内熱伝達率、rを内管外半径、Tを内管外壁温度、Tをネオンの温度とすると、式(9)の常微分方程式で表される。
【0034】
【数9】

【0035】
内管壁の熱収支は、λsを壁の熱伝導率、Tを内管内壁温度、rを内管内半径とすると、式(10)で表される。
【0036】
【数10】

【0037】
内管内壁温度T<63.2Kの時、固化窒素の熱収支式は、λを固体窒素の熱伝導率、ri2を内半径(固体窒素表面まで)とすると、式(11)で表される。
【0038】
【数11】

【0039】
内管内壁温度T<63.2Kの時、内管内液体窒素の熱収支式は、Fを流量、hを比エンタルピー、hi2を管内熱伝達率、Tを液体窒素の温度とすると、式(12)の常微分方程式で表される。
【0040】
【数12】

【0041】
内管内壁温度T>63.2Kの時は、固体窒素は生成せず、内管内液体窒素の熱収支式は、式(13)の常微分方程式で表される。
【0042】
【数13】

【0043】
管内熱伝達率は、例えば式(6)のGnielinskiの式により計算することができる。Re<3000の時は、流れは層流と考えられ、管内層流熱伝達率は、内管内のネオンについては式(7)により計算することができる。外管における層流熱伝達率は、式(8)により計算することができる。
【0044】
以下に、具体な解析例を示す。
図1および図2に示すような二重管式熱交換器を用い、種々の条件で冷凍機により冷却したネオンによって液体窒素を冷却する場合につき、上式の数値解を計算機により求めた。
【0045】
−解析例 その1−
管長5mの二重管10において、外管1に流した液体窒素を、内管2に流したネオンで冷却する場合の数値解析を行った。窒素及びネオンの二重管式熱交換器の入口での圧力と温度は、各々、表1に記載の値を用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
(比較例1)
表2は、窒素とネオンを対向流で流し、二重管の管径および肉厚、窒素とネオンの流量を変えた3種のケースについて、レイノルズ数、熱伝達率、出口温度、交換熱量、管内の固化窒素の生成がどのようになるかを、数値解析で求めた結果を表したものである。
【0048】
【表2】

【0049】
例えば、ケース(1a)の場合、二重管の外管は、外管外径42.7mmと外管肉厚1.65mmとから内径2rO3=39.4mmであり、内側の径(=内管外径)2r=27.2mmである。内管は、内径2r=23mmであり、窒素とネオンを隔てる管壁の肉厚は2.1mmとして計算した。外管には、66.64Kの液体窒素を流量128Nm/hで流通させ、内管には、56.88Kのネオンを流量100Nm/hで流通させることで、液体窒素の冷却を行ったとして計算を行った。
【0050】
解析の結果、液体窒素は、レイノルズ数Re=3287、熱伝達率hi2=252W/(m・K)、出口温度To=64.62Kとなり、交換熱量180Wで、内管外壁最低温度は60.40Kとなった。更に、この条件では内管の外壁には窒素が固化し、固体窒素が生成した管長は1.46m、固体窒素の最大厚さは1.4mmと計算された。
【0051】
図3に、ケース(1a)の場合における二重管軸方向の温度分布を示す。横軸は、二重管の軸方向距離を表している。対向流であり、ネオン入口及び窒素出口をz=0としている。横軸は、2つの流体の温度(窒素温度T、ネオン温度T)と、内管の内壁並びに外壁の温度(内壁温度T、外壁温度T)である。
液体窒素は、入口温度66.64K(z=5)で外管に入り、64.62K(z=0)まで冷やされる。ネオンガスは、入口温度56.88K(z=0)で内管に入り、出口温度63.10K(z=5)で内管から出て行く。冷端(z=0)における内管外壁温度Tは60.4Kで、冷端から約1.5mでは、内管外壁温度が液体窒素の固化温度63.2Kより低くなっていることがわかる。すなわち、z=0〜1.5mの領域において管壁に固体窒素が生成する条件になっていることがわかる。
【0052】
図4に、ケース(1a)の場合における固化窒素の厚さの軸方向分布を示す。縦軸は、内管外壁を0とおき、内管外壁からの半径方向の距離を表したものである。固化窒素の厚さは、冷端で約1.4mmと最も大きく、図3に示した内管外壁温度の上昇とともに減少し、窒素固化温度を超える1.46m付近で生成しなくなっていることがわかる。
【0053】
次に、ケース(2a)であるが、これはケース(1a)よりも内管、外管ともに細く、内管外壁の肉厚も薄くした場合の計算結果である。交換熱量が増え、窒素温度も(1a)の場合より0.25K低くなったが、管壁には、最大厚さ1.0mmの固化窒素が1m以上生成する結果となった。
ケース(4a)は、窒素とネオンの流量をケース(1a)、ケース(2a)の半分にした場合の結果である。交換熱量が少なくなり、窒素も充分に冷却されていない。管壁には、最大厚さ3.0mmの固化窒素が管長の半分以上生成する結果となった。
【0054】
(実施例1)
表3は、窒素とネオンを並流で流し、二重管の管径と肉厚を変えた3種のケースに、レイノルズ数、熱伝達率、出口温度、交換熱量、管内の固化窒素の生成がどのようになるかを、数値解析で求めた結果を表したものである。
【0055】
【表3】

【0056】
ケース(1b)は、ケース(1a)と同じ二重管において、外管と内管に流通させる窒素とネオンの条件をケース(1a)と同じとし、2つの流体を流す方向のみ対向流から並流へ変更し、数値解析したものである。
解析の結果、ケース(1b)の場合、液体窒素の出口温度は64.73Kとなり、交換熱量は170Wで、内管外壁最低温度は63.52Kとなった。冷却された液体窒素の温度は0.11K高いが、固化窒素の生成管長は0m、固化窒素最大厚さは0mmとなり、同じ二重管で、2つの流体の条件が同じであっても、並流とすることにより、管壁に固体窒素が付着しないことがわかった。
【0057】
ケース(2b)は、ケース(2a)と同じ二重管において、外管と内管に流通させる液体窒素とネオンの条件もケース(2a)と同じとし、2つの流体を流す方向のみ対向流から並流へ変更し、数値解析したものである。
解析の結果、液体窒素は、出口温度64.56Kとなり、交換熱量は185Wで、内管外壁最低温度は63.84Kとなった。ケース(1b)の場合と同様に、並流とすることにより、管壁に固体窒素が付着しないことがわかった。またケース(2b)は、ケース(1b)よりも管径を細くすることで、交換熱量が増え、出口温度も0.17K下がった。
【0058】
ケース(3b)は、ケース(1b)およびケース(2b)と同じ流量であって、更に管径を細くした場合である。解析の結果、液体窒素は、出口温度は64.44Kとなり、交換熱量は196Wで、内管外壁最低温度は64.16Kとなった。管壁に固体窒素が付着しないことがわかった。
【0059】
図5に、ケース(3b)の場合における二重管軸方向の温度分布を示す。横軸は、二重管の軸方向距離を表している。並流であり、ネオン及び窒素入口をz=0としている。図3と同様に、横軸は、2つの流体の温度と、内管の内壁並びに外壁の温度である。
液体窒素は、入口温度66.64K(z=0)で外管に入り、64.44K(z=5)まで冷やされる。ネオンガスは、入口温度56.88K(z=0)で内管に入り、出口温度63.66K(z=5)で内管から出て行く。並流の場合、全領域で内管外壁温度Tが液体窒素の固化温度63.2Kより高いので、液体窒素の固化は起こらないと考えられる。図5からは読取り難いが、入口付近(z=0)で内管外壁温度Tが最も低く、その温度は64.16Kである。
【0060】
以上の結果から、二重管式熱交換器で、液体窒素を内側からネオンで冷却する場合、窒素とネオンとが対向流の場合(ケース(1a)、ケース(2a)、ケース(4a))は、全て管壁に固体窒素が生成するという結果が得られた。一方、窒素とネオンが並流の場合(ケース(1b)、ケース(2b)、ケース(3b))は、固化窒素の生成はなかった。
【0061】
−解析例 その2−
管長5mの二重管10において、内管1に流した液体窒素を、外管2に流したネオンで冷却する場合の数値解析を行った。窒素及びネオンの二重管の入口での圧力と温度は、各々、表4に記載した値を用いた。
【0062】
【表4】

【0063】
(比較例2)
表5は、窒素とネオンを対向流で流し、二重管の管径および肉厚、窒素とネオンの流量を変えた3種のケースについて、レイノルズ数、熱伝達率、出口温度、交換熱量、管内の固化窒素の生成がどのようになるかを、数値解析で求めた結果を表したものである。
【0064】
【表5】

【0065】
例えば、ケース(10a)の場合、比較例1のケース(1a)と同じ管径の二重管において、外管にネオンを、内管に液体窒素を流通させ、温度、圧力、流れ方向はケース(1a)と同じにし、液体窒素の冷却を行った場合を示している。解析の結果、液体窒素はRe=9517、hi2=405W/(m・K)、出口温度64.52Kとなり、交換熱量は188.6Wで、内管外壁最低温度は60.82Kとなった。外管と内管に流す流体を交換しても、この条件では外管の内壁に窒素が固化して付着し、固体窒素が生成した管長は0.86m、固体窒素の最大厚さは0.82mmと計算された。
【0066】
ケース(20a)は、比較例1のケース(2a)と同じ管径の二重管において、外管にネオンを、内管に液体窒素を流通させ、温度、圧力、流れ方向をケース(2a)と同じにし、液体窒素の冷却を行ったとした。
解析の結果、液体窒素は出口温度64.29Kとなり、交換熱量は209Wで、ケース(10a)と比較すると0.23K低温にできるが、ケース(10a)、ケース(2a)と同様に、管壁に窒素が付着することがわかった。
ケース(40a)は、ケース(10a)と同じ管径の二重管において、流体の流量を減らした場合である。
【0067】
図6に、ケース(40a)での二重管軸方向温度分布を示す。横軸は、二重管の軸方向距離を表している。対向流であり、ネオン入口及び窒素出口をz=0としている。横軸は、2つの流体の温度(ネオン温度T、窒素温度T)と、内管の内壁並びに外壁の温度(内壁温度T、外壁温度T)である。
ネオンガスは、入口温度56.88K(z=0)で外管に入り、出口温度63.10K(z=5)で外管から出て行く。液体窒素は、入口温度66.64K(z=5)で内管に入り、65.37K(z=0)まで冷やされる。
【0068】
この条件では、窒素が固化して付着したため交換熱量が激減し、内管内壁と内管外壁の温度差はほとんど無い。冷端(z=0)における内管外壁温度T4は58.11Kで、内管内壁温度が全て液体窒素の固化温度63.2Kより低くなっていることがわかる。
すなわち、配管内の全領域において管壁に固体窒素が生成する条件になっていることがわかる。
【0069】
図7に、ケース(40a)の場合における固化窒素の厚さの軸方向分布を示す。縦軸は、内管内壁を0とおき、内管内壁からの半径方向の距離を表したものである。内壁の全領域に固体窒素が生成することが計算によって求められた。固化した窒素の厚さは、冷端で約8.2mmと最も大きく、温端でも0.9mm存在する。交換熱量が32.3Kまで低下しており、液体窒素が充分に冷却されない。また、冷端(z=0)近傍では、管壁に8.2mmの固体窒素が付着し、内管の直径は23mmであるから、直径6.5mm程度の流路しか確保できていないことになり、閉塞の危険性がある。
【0070】
(実施例2)
表6は、窒素とネオンを並流で流し、二重管の管径と肉厚を変えた3種のケースについて、レイノルズ数、熱伝達率、出口温度、交換熱量、管内の固化窒素の生成がどのようになるかを、数値解析で求めた結果を表したものである。
【0071】
【表6】

【0072】
ケース(10b)は、ケース(10a)と同じ二重管において、外管と内管に流通させるネオンと窒素の条件をケース(10a)と同じとし、2つの流体を流す方向のみ対向流から並流へ変更し、数値解析したものである。
解析の結果、ケース(10b)の場合、液体窒素の出口温度は64.67Kとなり、交換熱量は175.2Wで、内管外壁最低温度は64.09Kとなった。冷却された液体窒素の温度はケース(10a)より0.15K高いが、実施例1と同様に、並流とすることで、管壁に固体窒素が付着しないことがわかった。
【0073】
ケース(20b)は、ケース(20a)と同じ二重管において、外管と内管に流通させるネオンと液体窒素の条件もケース(20a)と同じとし、2つの流体を流す方向のみ対向流から並流へ変更し、数値解析したものである。
解析の結果、液体窒素は、出口温度64.51Kとなり、交換熱量は189.8Wで、内管外壁最低温度は64.19Kとなった。ケース(10b)の場合と同様に、並流とすることにより、管壁に固体窒素が付着しないことがわかった。
【0074】
ケース(30b)は、ケース(10b)およびケース(20b)と同じ流量であって、更に管径を細くした場合である。解析の結果、液体窒素は、出口温度は64.40Kとなり、交換熱量は199.8Wで、内管外壁最低温度は64.06Kとなった。この条件においても、管壁には固体窒素が付着しない。
【0075】
以上の解析結果から、比較例1、2で示したように、二重管式熱交換器において、ネオンを用い液体窒素を、その固化温度付近まで冷却するとき、液体窒素を、外管と内管のどちらに流しても、対向流の場合には、全て固化窒素が生成する。
また、固化窒素の生成管長と最大厚さは、液体窒素のレイノルズ数が小さいほど大きい。特に、レイノルズ数が3000未満の場合には、閉塞の危険性が高い。
【0076】
一方、実施例1、2で示したように、固化窒素が生成する温度、流量、圧力と同条件であっても、並流とすることで、固化窒素は生成しないことがわかる。並流の場合、液体窒素のレイノルズ数が大きいほど交換熱量が大きくなる。レイノルズ数が3000未満の場合、固体窒素が生成しなくても、交換熱量が極端に小さくなる。このことから、冷却する前の液体窒素のレイノルズ数を3000以上としておくことが好ましい。
また、外管に窒素を流し、内側からネオンで冷却する場合より、内管に窒素を流し、外側から冷却する場合の方が、交換熱量も多くなり、液体窒素の出口温度が下がることがわかる。
【0077】
本発明の超電導体の冷却方法は、上述の冷却方法によって凝固温度近傍まで冷却された液体窒素を用いて、酸化物超電導体などの臨界温度が比較的高い超電導体を冷却するものである。
具体的には、図8に示すような冷却装置を用いて行われる。
【0078】
図8において、符号21はネオン冷凍機、22は前記二重管式熱交換器、23は超電導体冷却装置を示す。
ネオン冷凍機21は、戻りネオンを加圧する往復動式圧縮機24と、この圧縮機24で加圧されたネオンを戻りネオンと熱交換して冷却する熱交換器25と、冷却されたネオンを断熱膨張させる膨張タービン26とから構成され、膨張タービン26で断熱膨張して温度降下した約56Kのネオンが前述の二重管式熱交換器24に導入され、ここで液体窒素と並流に流れて加温されたのち、前記熱交換器25を介して前記往復動式圧縮機24に戻り循環するようになっている。
【0079】
前記超電導体冷却装置23は、前記二重管式熱交換器22においてネオンと熱交換して凝固温度近傍まで冷却された液体窒素が導入されて貯留される冷却槽27と、この冷却槽27から導出された液体窒素を前記二重管式熱交換器22に向けて送り出して液体窒素を循環するポンプ28とから構成されている。
前記冷却槽27内には、高温超電導体からなるマグネットコイル29が浸漬されており、このマグネットコイル29をその臨界温度以下に冷却するようになっている。
【0080】
このような超電導体の冷却方法によれば、凝固温度近傍まで冷却された液体窒素によって、超電導体を冷却することが可能になるので、超電導体の臨界電流を大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、酸化物超電導体などの高い臨界温度を有する超電導体を冷却するための液体窒素を、その凝固温度近傍まで冷却する際に、液体窒素を固化させることなく冷却することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の液体窒素の冷却方法に用いられる二重管式熱交換器の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した二重管式熱交換器の概略断面図である。
【図3】比較例1における二重管の軸方向温度の分布を示すグラフである。
【図4】比較例1における固化窒素厚さの軸方向の分布を示すグラフである。
【図5】実施例1における二重管の軸方向温度の分布を示すグラフである。
【図6】比較例2における二重管の軸方向温度の分布を示すグラフである。
【図7】比較例2における固化窒素厚さの軸方向の分布を示すグラフである。
【図8】本発明の超電導体の冷却方法に用いられる装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0083】
1・・外管、2・・内管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体窒素を冷却する方法であって、二重管式熱交換器を用い、外管に液体窒素を、内管にネオンを流通させ、液体窒素とネオンとを並流で流通させ、熱交換させることにより、前記液体窒素を固化させることなく窒素の固化温度近傍まで冷却することを特徴とする液体窒素の冷却方法。
【請求項2】
液体窒素を冷却する方法であって、二重管式熱交換器を用い、内管に液体窒素を、外管にネオンを流通させ、液体窒素とネオンとを並流で流して熱交換させることにより、液体窒素を固化させることなく窒素の固化温度近傍まで冷却することを特徴とする液体窒素の冷却方法。
【請求項3】
前記液体窒素の冷却する前のレイノルズ数を3000以上とすることを特徴とする請求項1または2記載の液体窒素の冷却方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法で冷却した液体窒素を用いて超電導体を冷却することを特徴とする超電導体の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−215804(P2008−215804A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22992(P2008−22992)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】