説明

液体貯蔵タンクの漏洩検査方法及び漏洩検査システム

【課題】液体貯蔵タンク全体の漏洩検査を短時間かつ低コストで行うことができる漏洩検査方法とそのための漏洩検査システムを提供すること。
【解決手段】予め、液量センサ2によって測定した液体貯蔵タンク1の液量変化傾向から液体貯蔵タンク1の液相部の漏洩有無を判定してその漏洩有無判定データをデータベース4に蓄積しておき、その後、液体貯蔵タンク1の気相部の漏洩有無を判定し、この気相部の漏洩有無判定データとデータベース4に蓄積されている液相部の漏洩有無判定データとから、液体貯蔵タンク1全体の漏洩有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンスタンド、工場等に設置されている液体貯蔵タンクからの液体の漏洩を検査するための漏洩検査方法及び漏洩検知システムに関する。なお、本願において「漏洩」とは、液体貯蔵タンクからの貯蔵液体の流出と、液体貯蔵タンクへの雨水、地下水等の流入の両方を意味し、「液量」とは「液面レベル」又は「液位」の意味も有するものとする。
【背景技術】
【0002】
地下などに埋設された液体貯蔵タンクは、長期に使用されるため、隔壁部の腐食により穴や亀裂等が発生し、またはその他の理由により、内部に貯蔵された液体が外部に流出し、あるいは外部から雨水、地下水等が流入することがある。
【0003】
従来、このような漏洩を検知するため定期的に漏洩検査が行われている(例えば特許文献1参照)。この定期検査では、液体貯蔵タンク全体の漏洩有無を検査するために、液体貯蔵タンクの気相部(液体が充填されていない部分)と液相部(液体が充填されている部分)の両方を検査する。
【0004】
通常は、気相部の検査を先に行う。この気相部の検査は、液体貯蔵タンクに正または負の圧力を加え、その圧力変動の数値から漏洩有無を判定する。その後に行う液相部の検査方法としてはいくつかの方法があるが、簡便かつ効率的な方法として、液体貯蔵タンクに備えられている液量センサによって液量の増減を検査する方法が知られている。
【0005】
しかし、この液量センサによって液量の増減を検査する方法では、その検査時の液面レベルの直下領域に穴や亀裂等の漏洩部分があった場合、その漏洩部分には液圧が掛からないことから、実際には漏洩が発生せず液量が変化しないため、結果として漏洩部分が見逃されてしまうことになる。このように、液量センサによって液量の増減を検査する方法では、液面レベルの直下領域の漏洩検査を行うことはできない。
【0006】
したがって、気相部の漏洩検査後、引き続いて同じ液面レベルにて液相部の漏洩検査を行うと、その液面レベルの直下領域が検査対象外として残ることになり、液体貯蔵タンクの漏洩検査としては不完全である。このことから、液体貯蔵タンク全体の漏洩検査を行うには、気相部の漏洩検査後、液面レベルを上げて液相部の漏洩検査を行う必要があり、検査に長時間を要するという問題があった。
【0007】
また、現行の法令上、液体貯蔵タンクの漏洩検査は一般の作業者ではなく、所定の資格を持つ漏洩点検技術者が行わなければならないことから、検査に長時間を要すると、その間、限られた漏洩点検技術者を拘束しなければならず、人員確保の問題も含めて人的コストが増大するという問題もあった。
【0008】
なお、気相部漏洩検査の他の方法として、液体貯蔵タンクを減圧し、液体貯蔵タンク周りの地下水や空気の流入を検知する方法がある。この方法によれば、液面レベルの直下領域も含めて液相部の漏洩点検(法的に許可されているのは1000mmHgの負圧までであり、液位がそれ以上の場合はヘッド圧の関係で液相部の下部は点検対象外となる。)を行うことができ、気相部の漏洩検査後、引き続いて同じ液面レベルにて液相部の漏洩検査を行っても検査対象外の領域が残ることはない。しかし、この方法においては、液相部の漏洩検査時に液体貯蔵タンクを減圧する必要があることから、漏洩検査時間の短縮にはつながらず、また減圧のための装置が必要になることからコスト低減にもつながらない。
【特許文献1】特開2001−97500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、液体貯蔵タンク全体の漏洩検査を短時間かつ低コストで行うことができる漏洩検査方法とそのための漏洩検査システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、予め、液体貯蔵タンクに備えられている液量センサによって液体貯蔵タンクの液相部の漏洩検査(漏洩有無判定)を行い、その漏洩有無判定データをデータベースに蓄積しておき、定期点検等の漏洩検査時にこの液相部の漏洩有無判定データを有効利用することで、実際の漏洩検査時には気相部の漏洩検査(漏洩有無判定)のみを行うだけで、液体貯蔵タンク全体の漏洩検査(漏洩有無判定)を行うことができるようにしたものである。
【0011】
すなわち、本発明の漏洩検査方法は、予め、液量センサによって測定した液体貯蔵タンクの液量変化傾向から液体貯蔵タンクの液相部の漏洩有無を判定してその漏洩有無判定データをデータベースに蓄積しておき、その後、液体貯蔵タンクの気相部の漏洩有無を判定し、この気相部の漏洩有無判定データと前記データベースに蓄積されている液相部の漏洩有無判定データとから、液体貯蔵タンク全体の漏洩有無を判定することを特徴とするものである。
【0012】
また、この漏洩検査方法を実施するための本発明の漏洩検査システムは、液体貯蔵タンクの液量を常時測定可能な液量センサと、液量センサによって測定した液体貯蔵タンクの液量変化傾向から液体貯蔵タンクの液相部の漏洩有無を判定する演算部と、演算部によって判定した液相部の漏洩有無判定データを蓄積するデータベースと、データベースに蓄積されている液相部の漏洩有無判定データと別途入力される液体貯蔵タンクの気相部の漏洩有無判定データとから液体貯蔵タンク全体の漏洩有無を判定する演算部とを備える。
【0013】
本発明において、液相部の漏洩有無の判定は、液量センサによって常時測定して得られた長期の連続した液量変化データを用いて行うことが好ましい。すなわち、長期の連続した液量変化データによれば、その液体貯蔵タンクの使用形態におけるあらゆる液相部の液面レベルでの漏洩有無判定データが得られるので、後は、実際の漏洩検査時に気相部の漏洩有無判定を行うだけで、実質的に液体貯蔵タンク全体の漏洩有無判定を行うことができる。
【0014】
ただし、厳密に液体貯蔵タンク全体の漏洩有無判定を行うには、液相部の漏洩有無判定データの一つとしてその判定時の液面レベルデータをデータベースに蓄積し、このデータベースから漏洩無しと判定された最高液面レベルを取得し、この最高液面レベルよりも低い液面レベルにて気相部の漏洩有無の判定を行うことが好ましい。言い換えれば、液相部の漏洩有無判定データ(漏洩無しと判定されたデータ)と気相部の漏洩有無判定データとをオーバーラップさせ、液体貯蔵タンク全体がカバーされるようにする。これは、とくに液相部の漏洩有無の判定を、液量センサによってバッチ式で行う場合に有効である。
【0015】
なお、このバッチ式の場合、複数の液面レベルで漏洩有無の判定を行い、その漏洩有無判定データをデータベースに蓄積することが好ましい。これによって、気相部の漏洩検査における液面レベルの制約条件を緩和できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の漏洩検査方法によれば、定期点検等の実際の漏洩検査時には気相部の漏洩検査(漏洩有無判定)のみを行うだけで良く、液体貯蔵タンク全体の漏洩検査を短時間で行うことができる。
【0017】
また、この漏洩検査方法は、もともと液体貯蔵タンクに備えられている液量センサとその付帯装置によって実施でき、特別に新規な装置を設置する必要はないので、低コストで漏洩検査を行うことができ、既設の液体貯蔵タンクにも容易に適用できる。
【0018】
さらに、液体貯蔵タンク全体の漏洩検査を短時間で行うことができるので、作業者の負担が軽減されるとともに、人的コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に示す実施例に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の漏洩検査方法を実施するための漏洩検査システムのシステム構成例を示す図である。
【0021】

同図に示す漏洩検査システムは、液体貯蔵タンク1の液量を常時測定する液量センサ2と、液体貯蔵タンク1の液温を常時測定する液温センサ3と、液量センサ2及び液温センサ3によって測定した液量データ及び液温データとその測定時刻データや後述する液相部の漏洩判定データ等の各種データを蓄積するデータベース4と、液体貯蔵タンク1全体の漏洩有無判定のための各種演算を行う演算部5を備える。そして、演算部5からの漏洩有無判定結果(信号)は、警報出力、表示手段6に送信されるようになっている。
【0022】
また、データベース4には、外部機器としてPOSシステム7及び計量機8が通信線9を介して接続されており、これらの外部機器からのデータもデータベース4に蓄積されるようになっている。
【0023】
液量センサ2としては、各種のセンサを使用できるが、磁歪式センサ等の液位若しくは液量変化を高分解能で測定できるセンサを用いることが好ましい。また、液温センサ3は、実施例では液量センサ2に内蔵させたが、液量センサ2と別個に設けてもよい。
【0024】
データベース4は、コンピュータのメモリによって構成することができる。演算部5はコンピュータのCPUによって構成することができ、この演算部5は、後に詳述するように、データベース4に蓄積された各測定時刻における液量データを当該測定時刻における液温データに基づき温度補正して補正液量データを生成すると共に、この補正液量データと液温データと測定時刻データとから、液量及び液温の時間変化を示す時間的に連続した液量・液温変化データを生成し、さらに前記液量・液温変化データから、液量及び液温の時間変化が実質的にないと判断される液量・液温安定期における液量変化データを抽出する処理等を行う。そして、液量・液温安定期における液量変化データから液量変化傾向を求めて液体貯蔵タンク1の液相部の漏洩有無を判定する。さらに、液相部の漏洩有無判定データをその判定時の液面レベルデータも含めてデータベース4に蓄積させると共に、この液相部の漏洩有無判定データと別途入力される気相部の漏洩有無判定データとから液体貯蔵タンク全体の漏洩有無を判定する。
【0025】
以下、図1の漏洩検査システムによる本発明の漏洩検査方法を説明する。
【0026】
図2は、本発明の漏洩検査方法の基本工程を示すフロー図である。同図に示すように、予め、図1に示した液量センサ2及び液温センサ3によって常時測定した液体貯蔵タンクの液量変化傾向から液体貯蔵タンクの液相部の漏洩有無を判定してその漏洩有無判定データをデータベース4に蓄積しておく。この液相部の漏洩有無判定において漏洩有りと判定されれば、漏洩検知信号が発せられ、漏洩をなくすための処置がとられる。
【0027】
その後、定期点検等の漏洩点検時に液体貯蔵タンクの気相部の漏洩有無判定を行うことになるが、そのときは当然、液相部の漏洩有無判定において漏洩無しであることが前提である。そして、気相部の漏洩有無判定に先立ち、液相部の漏洩有無判定において漏洩無しと判定された液相部の最高液面レベルがデータベース4から取得され、この最高液面レベルよりも低い液面レベルにて気相部の漏洩有無判定を行う。これによって、漏洩無しと判定されれば、液体貯蔵タンク全体として漏洩無しと判定される。一方、漏洩有りと判定された場合は、漏洩検知信号が発せられ、漏洩をなくすための処置がとられる。
【0028】
次に、液相部の漏洩有無判定方法の実施例を説明する。
【0029】
図3は、液相部の漏洩有無判定方法の全体工程を示すフロー図である。まず、図1に示した液量センサ2及び液温センサ3によって漏洩有無判定対象の液体貯蔵タンク1の基準データを収集し(S1)、この基準データを解析して当該液体貯蔵タンクの液量・液温安定期における液量変化基準データを求める(S2)。得られた基準データ及び液量変化基準データは何れも図1に示したデータベース4に蓄積される。
【0030】
図4は、上述の基準データ収集工程を示すフロー図である。この基準データの収集は、定期点検等によって漏洩のないことが確認された状態で行う。
【0031】
基準データ収集工程では、まず、液量センサ及び液温センサによる液量及び液温の測定時間間隔が所定の時間(実施例では1秒)になっているか否かを確認する(S1−1)。次に、測定時刻データを取得し(S1−2)、液体貯蔵タンクの液量データと液温データの取り込みを開始する(S1−3,S1−4)。その後、液量データと液温データの取り込み中に、液体貯蔵タンクへの液体の供給(荷卸し)、排出(給液)等の事象の変化があるか否かを確認し(S1−5)、事象の変化があった場合、その事象データを取得し(S1−6)、液量データと液温データを測定時刻データ及び事象データと共にデータベースに蓄積する(S1−7)。このような基準データの収集を、その中で液量・液温安定期と判断される部分の時間累計が所定時間(実施例では200時間)に達するまで継続し(S1−8)、所定時間に達したら基準データの収集を終了する(S1−9)。なお、液量・液温安定期であるか否かの判断は、後述する方法によって行う。
【0032】
図5は、図4の基準データ収集工程で収集した基準データから、液量・液温安定期における液量変化基準データを求める基準データ解析工程の流れを示すフロー図である。
【0033】
基準データ解析工程では、まず、収集した基準データのうち、各測定時刻における液量データを当該測定時刻における液温データに基づき温度補正して補正液量データを生成する(S2−1)。そして、この補正液量データと液温データと測定時刻データとから液量及び液温の時間変化を示す連続した長期の液量・液温変化データを生成する(S2−2)。これをグラフ化すると図6のようになる。次に、液量・液温変化データを用いて、液量及び液温の時間変化が実質的にないと判断される時期を液量・液温安定期として抽出する(S2−3)。実施例では、液量の時間変化が0.2L/h以内、且つ液温の時間変化が0.02℃/h以内で、その継続時間が30分以上となっている部分を液量・液温安定期として抽出した。なお、この液量・液温変化データを用いた抽出方法のほかに、別途POSシステム7や計量機8等(図1参照)によって収集されている液体貯蔵タンクからの給液の有無等の操業データから判断して、液体貯蔵タンクへの液体の出入りがないと判断される時期を液量・液温安定期として抽出することもできる。
【0034】
次に、各液量・液温安定期における液量変化データを抽出し(S2−4)、液量・液温安定期における液量変化基準データを演算する(S2−5)。この液量変化基準データとは、単純には各液量・液温安定期における液量変化データの平均であり、この液量変化基準データをデータベースに蓄積し(S2−6)、基準データ解析を終了する(S2−7)。
【0035】
図3に戻って、上述の基準データの収集と解析処理を予め行った後に、図1に示した液量センサ2及び液温センサ3によって実際の漏洩有無判定用データを収集し(S3)、その漏洩有無判定用データから実際に漏洩有無の判定に使用する漏洩有無判定用データを抽出する(S4)。
【0036】
図7は、漏洩有無判定用データ収集工程を示すフロー図である。
【0037】
漏洩有無判定用データ収集工程では、図4に示した基礎データ収集工程と同様に、まず、液量センサ及び液温センサによる液量及び液温の測定時間間隔が所定の時間(実施例では1秒)になっているか否かを確認する(S3−1)。次に、測定時刻データを取得し(S3−2)、液体貯蔵タンクの液量データと液温データの取り込みを開始する(S3−3,S3−4)。その後、液量データと液温データの取り込み中に、液体貯蔵タンクへの液体の供給(荷卸し)、排出(給液)等の事象の変化があるか否かを確認し(S3−5)、事象の変化があった場合、その事象データを取得し(S3−6)、液量データと液温データを測定時刻データ及び事象データと共にデータベースに蓄積する(S3−7)。この漏洩有無判定用データの収集途中で、大幅に液量が変化する等の液量変化量に異常が認められた場合、漏洩警報等の警報を出力する(S3−8,S3−9)。このような漏洩有無判定用データの収集を、その中で液量・液温安定期と判断される部分の時間累計が所定時間(実施例では20時間)に達するまで継続し(S3−10)、所定時間に達したら漏洩有無判定用データの収集を終了する(S3−11)。
【0038】
図8は、図7の漏洩有無判定用データ収集工程で収集したデータから、実際に漏洩有無の判定に使用する液量・液温安定期における液量変化データを抽出する漏洩有無判定用データ抽出工程の流れを示すフロー図である。
【0039】
漏洩有無判定用データ解析工程では、収集した漏洩有無判定用データから、先に図6に示したような液量及び液温の時間変化を示す液量・液温変化データを生成する。すなわち、漏洩有無判定用データのうち、各測定時刻における液量データを当該測定時刻における液温データに基づき温度補正して補正液量データを生成し(S4−1)、この補正液量データと液温データと測定時刻データとから液量及び液温の時間変化を示す連続した長期の液量・液温変化データを生成する(S4−2)。
【0040】
次に、液量・液温変化データを用いて、液量及び液温の時間変化が実質的にないと判断される時期を液量・液温安定期として抽出し(S4−3)、各液量・液温安定期における液量変化データを抽出する(S4−4)。実施例では、液量の時間変化が0.4L/h以内、且つ液温の時間変化が0.02℃/h以内で、その継続時間が20分以上となっている部分を液量・液温安定期として抽出した。なお、この液量・液温変化データを用いた抽出方法のほかに、別途POSシステム7や計量機8等(図1参照)によって収集されている液体貯蔵タンクからの給液の有無等の操業データから判断して、液体貯蔵タンクへの液体の出入りがないと判断される時期を液量・液温安定期として抽出することもできる。
【0041】
次に、この液量・液温安定期における液量変化データから液量変化傾向を求めて液相部の漏洩有無の判定を行うが、実施例では、単一の液量・液温安定期における液量変化傾向から漏洩有無の一次判定を行うと共に、複数の液量・液温安定期における液量変化傾向から漏洩有無の最終判定を行うようにしている。
【0042】
まず、図3を参照して漏洩有無の一次判定について説明する。一次判定ではその判定の精度を向上させるために、一次判定用に抽出する液量・液温安定期の継続時間は、通常、液量・液温安定期とする条件の継続時間(実施例では20分)よりも長いものとする(実施例では継続時間が2時間以上)という条件を付加する(S6)。すなわち、一次判定では、前記条件を満足する液量・液温安定期を抽出し、この液量・液温安定期における液量変化データを抽出する。
【0043】
この液量変化データを予めデータベースに蓄積しておいた液量変化基準データと比較する(S7)。具体的には、液量変化データとの液量変化基準データとの差を演算する。そしてこの比較結果(差)を用いて、液量・液温安定期における液量変化傾向を求めて、漏洩発生の可能性があるか否かの判定を行う(S8)。この漏洩可能性判定では、液量・液温安定期における液量変化データと液量変化基準データとの差が所定値以上(実施例では0.38L/h以上)の場合に漏洩有りと判定し(S9)、一次判定における漏洩検知信号を発生する(S10)。この漏洩検知信号は、図1に示した警報出力、表示手段6に送信される。一方、液量・液温安定期における液量変化データと液量変化基準データとの差が所定値未満の場合は、漏洩なしと判定し、そのデータを判定時の液面レベルデータと共にデータベースに蓄積する(S11)。なお、判定時の液面レベルデータとしては、最も単純には判定時の実測の液面レベルデータを蓄積できるほか、判定時の液体貯蔵タンクの環境条件等によって実際に漏洩なしと判定できる液面レベルデータ(実測の液面レベルデータの補正データ、すなわち実際の検査対象範囲の液面レベルデータ)を蓄積することもできる。なお、この実測の液面レベルデータの補正は、このデータが必要になるときに、別のデータベースから環境条件等を取得して行うこともできる。
【0044】
次に、漏洩有無の最終判定について説明する。この最終判定では、複数(全数)の液量・液温安定期における液量変化データを使用する。まず、各液量・液温安定期における液量変化データを抽出し、これを予めデータベースに蓄積しておいた液量変化基準データと比較する(S12)。具体的には、各液量変化データとの液量変化基準データとの差を演算し、その比較結果をデータベースに蓄積する(S13)。そして、この比較結果(差)を用いて、液量・液温安定期における液量変化傾向を求めて、漏洩発生の可能性があるか否かの判定を行う(S14)。この漏洩可能性判定では、液量・液温安定期における液量変化データと液量変化基準データとの差が所定値以上(実施例では0.38L/h以上)の場合に有意差有りとし、複数ある液量・液温安定期において、所定比率以上(実施例では80%以上)に有意差が認められた場合に当該液体貯蔵タンクについて漏洩の可能性有りと判定し、この液体貯蔵タンクを漏洩の可能性有り候補としてデータベースに記憶する(S15)。
【0045】
その後、漏洩の可能性有りの液体貯蔵タンクについて、上述のステップS3、S4及びS12〜S14を所定回数(実施例では10回)繰り返し試行する(S16)。そして、その漏洩可能性判定において漏洩の可能性有りとの判定が、所定回数の所定比率以上(実施例では10回中7回以上)の場合に、漏洩有りと判定し(S17,S18)、最終判定における漏洩検知信号を発生する(S19)。この漏洩検知信号は、図1に示した警報出力、表示手段6に送信される。一方、漏洩の可能性有りとの判定が、所定回数の所定比率未満の場合は、漏洩なしと判定し(S20)、ステップS15〜S17において収集したデータを収集時の液面レベルデータと共にデータベースに蓄積しステップS3に戻る。
【0046】
このように、本実施例では一次判定及び二次判定において漏洩有りと判定されれば漏洩検知信号が発せられ、漏洩無しと判定されればそのデータが判定時の液面レベルデータと共にデータベースに蓄積される。また一旦、漏洩有りと判定されると、それまで蓄積されていた漏洩無しのデータは消去される。
【0047】
なお、以上説明した液相部の漏洩有無判定の実施例では、漏洩がない状態での液量・液温安定期における液量変化基準データを予め求め、この液量変化基準データと実際の液量・液温安定期における液量変化データとを比較することによって漏洩有無の判定を行うようにしたが、液量変化基準データとの比較は必ずしも必要ではない。この場合、上述のステップS8及びS14では、実際の液量・液温安定期における液量変化データが所定値以上(例えば±0.38L/h以上)である場合に漏洩の可能性有りと判断するようにする。
【0048】
このように本発明では、予め液相部の漏洩有無判定を行ってその漏洩有無判定データをデータベースに蓄積しておき、その後、図2で説明したように定期点検等の漏洩点検時には液体貯蔵タンクの気相部のみの漏洩有無判定を行う。気相部の漏洩有無判定にあたっては、事前に、上述した液相部の漏洩有無判定において漏洩無しと判定された液相部の最高液面レベル(実際の検査対象範囲の最高液面レベル)をデータベース4から取得し、この最高液面レベルよりも低い液面レベルにて気相部の漏洩有無判定を行う。液体貯蔵タンクの液面レベルがいつ頃上記の最高液面レベルよりも低くなるかは、POSシステム7や計量機8等(図1参照)によって収集されている操業データ等から予測することができ、気相部の漏洩有無判定を行う際には実際に液面レベルを確認する。
【0049】
気相部の漏洩有無判定は、従来どおり、液体貯蔵タンクに正または負の圧力を加え、その圧力変動の数値に基づいて行うことができる。そして図2で説明したように、気相部の漏洩有無判定によって漏洩無しと判定されれば、液体貯蔵タンク全体として漏洩無しと判定され、漏洩有りと判定された場合は、漏洩検知信号が発せられ、漏洩をなくすための処置がとられる。
【0050】
なお、以上の実施例では、液相部の漏洩有無判定を常時測定により得られた長期の連続した液量変化データを用いて行うようにしたが、バッチ式で液相部の漏洩有無判定を行い、その漏洩有無判定データをデータベースに蓄積するようにしてもよい。ただし、液相部の漏洩有無判定を常時行う方が、漏洩の早期検知の上で好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ガソリンスタンド、工場等に設置されている、あらゆる液体貯蔵タンクからの液体の漏洩有無を検査する漏洩検査方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の漏洩検知方法を実施するための漏洩検知システムのシステム構成例を示す図である。
【図2】本発明の漏洩検査方法の基本工程を示すフロー図である。
【図3】液相部の漏洩判定方法の全体工程を示すフロー図である。
【図4】図3に示す液相部の漏洩有無判定方法における基準データ収集工程を示すフロー図である。
【図5】図4の基準データ収集工程で収集した基準データを解析する基準データ解析工程を示すフロー図である。
【図6】液量及び液温の時間変化を示す模式図である。
【図7】図3に示す液相部の漏洩有無判定方法における漏洩有無判定用データ収集工程を示すフロー図である。
【図8】図7の漏洩有無判定用データ収集工程で収集したデータから、漏洩有無の判定に使用する液量・液温安定期における液量変化データを抽出する漏洩有無判定用データ抽出工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0053】
1 液体貯蔵タンク
2 液量センサ
3 液温センサ
4 データベース
5 演算部
6 警報出力、表示手段
7 POSシステム
8 計量機
9 通信線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め、液量センサによって測定した液体貯蔵タンクの液量変化傾向から液体貯蔵タンクの液相部の漏洩有無を判定してその漏洩有無判定データをデータベースに蓄積しておき、その後、液体貯蔵タンクの気相部の漏洩有無を判定し、この気相部の漏洩有無判定データと前記データベースに蓄積されている液相部の漏洩有無判定データとから、液体貯蔵タンク全体の漏洩有無を判定する液体貯蔵タンクの漏洩検査方法。
【請求項2】
液相部の漏洩有無の判定は、液量センサによって常時測定して得られた長期の連続した液量変化データを用いて行う請求項1に記載の液体貯蔵タンクの漏洩検査方法。
【請求項3】
液相部の漏洩有無判定データの一つとしてその判定時の液面レベルデータをデータベースに蓄積し、このデータベースから漏洩無しと判定された液相部の最高液面レベルを取得し、この最高液面レベルよりも低い液面レベルにて気相部の漏洩有無の判定を行う請求項1または請求項2に記載の液体貯蔵タンクの漏洩検査方法。
【請求項4】
液体貯蔵タンクの液量を常時測定可能な液量センサと、
液量センサによって測定した液体貯蔵タンクの液量変化傾向から液体貯蔵タンクの液相部の漏洩有無を判定する演算部と、
演算部によって判定した液相部の漏洩有無判定データを蓄積するデータベースと、
データベースに蓄積されている液相部の漏洩有無判定データと別途入力される液体貯蔵タンクの気相部の漏洩有無判定データとから液体貯蔵タンク全体の漏洩有無を判定する演算部とを備える液体貯蔵タンクの漏洩検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−68923(P2009−68923A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235949(P2007−235949)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000187024)昭和機器工業株式会社 (34)
【Fターム(参考)】