説明

液圧ブレーキ装置

【課題】マスタシリンダがブレーキシリンダから遮断された状態でアンチロック制御が行われる場合に、アンチロック制御中であることを運転者に報知されるようにする。
【解決手段】アンチロック制御中に、シミュレータ制御弁が開状態と閉状態とに交互に切り換えられる。運転者がブレーキペダルへの操作力を連続的に増加させても、操作ストロークはそれに応じて増加せず、段階的に増加させられる。このように、アンチロック制御中において、ブレーキペダルの作動がアンチロック制御中でない場合とは異ならされる。ブレーキペダルの作動状態が複数回変動させられるのであり、操作フィーリングが変更される。それによって、アンチロック制御中であることを運転者に報知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ制御可能な液圧ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)ブレーキ操作部材と、(b)そのブレーキ操作部材の操作によって、その操作力に応じた液圧を発生させるマニュアル液圧源と、(c)ブレーキシリンダの液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(d)前記ブレーキシリンダと前記マニュアル液圧源とを、連通させる状態と遮断する状態とに切り換え可能な遮断弁と、(e)その遮断弁により前記ブレーキシリンダが前記マニュアル液圧源から遮断された状態で、前記ブレーキシリンダの液圧を制御することにより、車輪の制動スリップ状態を路面の摩擦係数に適した状態に制御するアンチロック制御装置とを含む液圧ブレーキ装置が記載されている。
【特許文献1】特開2000−159094号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、ブレーキシリンダがマニュアル液圧源から遮断された状態で、スリップ制御が行われる場合に、そのことを運転者に報知可能な液圧ブレーキ装置を得ることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に係る液圧ブレーキ装置は、(a)ブレーキ操作部材と、(b)マニュアル液圧源と、(c)液圧ブレーキと、(d)遮断弁と、(e)その遮断弁により前記ブレーキシリンダが前記マニュアル液圧源から遮断された状態で、前記ブレーキシリンダの液圧を制御することにより、車輪のスリップ状態を路面の摩擦係数に適した状態に制御するスリップ制御装置と、(f)そのスリップ制御装置による前記ブレーキシリンダの液圧の制御であるスリップ制御が行われている間の少なくとも一時期に、そのスリップ制御が行われていることを運転者に報知するスリップ制御報知装置とを含むものとされる。
【0005】
本項に記載の液圧ブレーキ装置においては、ブレーキシリンダがマニュアル液圧源から遮断された状態で、車輪のスリップ状態に基づいてブレーキシリンダの液圧が制御される。
ブレーキシリンダとマニュアル液圧源とが連通させられた状態で、スリップ制御が行われる場合には、ブレーキシリンダ液圧の変化がマニュアル液圧源、ブレーキ操作部材を介して運転者に伝えられる。したがって、運転者はブレーキ操作部材を介してスリップ制御が行われていること、すなわち、タイヤと路面との関係が限界状態を越えたことを認識することができる。
それに対して、ブレーキシリンダがマニュアル液圧源から遮断されている場合には、運転者はブレーキ操作部材を介してブレーキシリンダ液圧の変化を知ることができない。
そこで、本発明においては運転者にスリップ制御中であることが報知されるようにするのである。スリップ制御中であることは、後述するように、ブレーキ操作部材を利用して報知したり、運転者の視覚や聴覚を利用して報知したりすることができる。
スリップ制御報知装置は、スリップ制御が行われている間、すなわち、全期間に渡って報知するものであっても、例えば、スリップ制御開始後一定時間の間等の一時期において報知するものであってもよい。
また、スリップ制御装置は、車輪の制動スリップ状態に基づいてブレーキシリンダ液圧を制御するアンチロック制御部と、車輪の駆動スリップ状態に基づいてブレーキシリンダ液圧を制御するトラクション制御部と、横スリップ状態に基づいて制御するビークルスタビリティ制御部との少なくとも1つを含むものとすることができる。
スリップ制御は、ブレーキシリンダがマニュアル液圧源から遮断された状態で行われるが、通常制動中は、ブレーキシリンダとマニュアル液圧源とを連通させても、遮断した状態で、ブレーキシリンダの液圧を運転者の要求制動力に応じた大きさに制御してもよい。ブレーキシリンダがマニュアル液圧源から遮断された場合には、ブレーキ操作部材へ加えられた操作力の増加に伴って操作ストロークが増加するように、ストロークシミュレータ等を作動させるのが普通である。いずれにしても、操作力の増加に伴って操作ストロークが増加させられることになる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
以下の各項において、(1)項〜(4)項が請求項1〜4に対応し、(7)項が請求項5に対応し、(9)項が請求項6に対応する。また、(14)項〜(16)項が請求項7〜9に対応する。
【0008】
(1)ブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作によって、その操作力に応じた液圧を発生させるマニュアル液圧源と、
ブレーキシリンダの液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
前記ブレーキシリンダと前記マニュアル液圧源とを、連通させる状態と遮断する状態とに切り換え可能な遮断弁と、
その遮断弁により前記ブレーキシリンダが前記マニュアル液圧源から遮断された状態で、前記ブレーキシリンダの液圧を制御することにより、車輪のスリップ状態を路面の摩擦係数に適した状態に制御するスリップ制御装置と、
そのスリップ制御装置による前記ブレーキシリンダの液圧の制御であるスリップ制御が行われている間の少なくとも一時期に、そのスリップ制御が行われていることを運転者に報知するスリップ制御報知装置と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキ装置。
(2)前記スリップ制御報知装置が、前記ブレーキ操作部材の作動を、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に、前記スリップ制御が行われない場合とは異ならせることにより、前記スリップ制御が行われていることを運転者に報知する操作部材利用報知部を含む(1)項に記載の液圧ブレーキ装置。
本項に記載の液圧ブレーキ装置においては、ブレーキ操作部材を利用してスリップ制御中であることが報知される。ブレーキ操作部材の作動が、スリップ制御中の少なくとも一時期とスリップ制御が行われない場合とで異ならされるのである。
スリップ制御が行われない場合には、前述のように、ブレーキ操作部材に加えられる操作力の連続的な増加に伴って操作ストロークが連続的に増加させられる。操作力の増加量ΔFに対する操作ストロークの増加量ΔSの比率(ΔS/ΔF)が一定の大きさとされることもある。また、ブレーキ操作部材に操作力が加えられないか、一定に保たれる場合には、ブレーキ操作部材は静止したままである。
それに対して、例えば、スリップ制御中の少なくとも一時期とスリップ制御が行われていない場合とで、ブレーキ操作部材の移動のし易さを変えれば、ブレーキ操作部材の操作中において、操作力と操作ストロークとの関係が変わる。また、マニュアル液圧源において、運転者によってブレーキ操作部材の操作力が一定に保たれている状態で、ブレーキ操作部材に連携させられた加圧ピストンの前方の加圧室に作動液を流入させたり、流出させたりすれば、ブレーキ操作部材が入り込んだり、戻されたりする。このように、ブレーキ操作部材の移動のし易さを変えたり、加圧室に作動液を流入させたり、流出させたりすれば、ブレーキ操作中において、ブレーキ操作部材の作動を、スリップ制御が行われていない場合と異ならせることができる。
例えば、ブレーキ操作部材を移動し易くすれば前述の比率(ΔS/ΔF)が小さくなり操作フィーリングが柔らかくなる。移動し難くすれば比率(ΔS/ΔF)が大きくなり、操作フィーリングが硬くなる。このように、スリップ制御が行われていない場合と操作フィーリングを異ならせれば、そのことによって、スリップ制御中であることを報知することができる。また、ブレーキ操作部材の移動を阻止しても(比率を0近傍の設定値以下にしたことに対応する)、ブレーキ操作部材の作動を異ならせることができる。さらに、移動を阻止する状態と許容する状態とに交互に切り換えることもできる。この場合には、操作力が連続的に増加されても操作ストロークが段階的に増加させられることになる。しかし、大まかな傾向は、スリップ制御が行われていない場合と変わらない場合もある(比率は、スリップ制御が行われていない場合と変わらない場合がある)。
また、運転者が一定の操作力でブレーキ操作部材を操作している場合において、マニュアル液圧源において加圧室に作動液を流入させれば、ブレーキ操作部材は戻される。また、加圧室から作動液を流出させれば、ブレーキ操作部材は入り込む。それによって、スリップ制御中であることを報知することができる。この場合において、作動液の流入・流出が複数回行われれば、ブレーキ操作部材は複数回前進・後退させられる。作動液の流入・流出が複数回行われれば、運転者は、ブレーキシリンダとマニュアル液圧源とが連通させられた状態でスリップ制御が行われる場合に似たフィーリングを得ることができ、スリップ制御中であることを報知するのに有効である。
また、スリップ制御中の少なくとも一時期において、ブレーキ操作部材を移動させれば、ブレーキ操作部材が操作されていなくても、ブレーキ操作部材の作動を異ならせることができる。ブレーキ操作部材を移動させれば、運転者はブレーキ操作部材を操作していなくても、そのことに気づくことが多く、それによって、スリップ制御が行われていることを報知することができる。ブレーキ操作部材の移動には、前進と後退とのいずれか一方の移動、前進と後退とを繰り返す移動(基準位置に対して前進、後退を繰り返す移動である狭義の振動に限定されない)等が該当する。往復移動の場合は、周期的な移動であっても非周期的な移動であってもよい。
(3)前記操作部材利用報知部が、前記ブレーキ操作部材の運転者による操作フィーリングを、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に、前記スリップ制御が行われない場合とは異ならせるフィーリング変更部を含む(2)項に記載の液圧ブレーキ装置。
(4)前記操作部材利用報知部が、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に、前記ブレーキ操作部材の作動状態を複数回変動させる操作部材変動部を含む(2)項または(3)項に記載の液圧ブレーキ装置。
【0009】
(5)(a)前記ブレーキ操作部材の操作ストロークに応じて作動させられるとともに、その操作力に応じた反力を付与するストロークシミュレータと、(b)そのストロークシミュレータの作動を許容する状態と阻止する状態とに切り換え可能なシミュレータ制御部とを備えたストロークシミュレータ装置を含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
ストロークシミュレータ装置を設ければ、マニュアル液圧源がブレーキシリンダから遮断されても、ブレーキ操作部材の操作フィーリングの低下を抑制することができる。
ストロークシミュレータ装置は、ブレーキ操作部材とマニュアル液圧源との間に設けても、マニュアル液圧源とブレーキシリンダとの間の遮断弁よりマニュアル液圧源側に設けてもよい。
(6)前記ストロークシミュレータが、前記マスタシリンダと前記ブレーキシリンダとの間の前記遮断弁よりマスタシリンダ側に設けられ、前記シミュレータ制御部が、前記マスタシリンダと前記ストロークシミュレータとの間に設けられ、これらの間を連通させる状態と遮断する状態とに切り換え可能なシミュレータ制御弁を含む(5)項に記載の液圧ブレーキ装置。
(7)前記操作部材利用報知部が、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に、前記シミュレータ制御部を制御することにより、前記ブレーキ操作部材の作動を前記スリップ制御が行われない場合と異ならせるシミュレータ制御部利用報知部を含む(5)項または(6)項に記載の液圧ブレーキ装置。
シミュレータ制御部の制御により、ストロークシミュレータの作動が、許容される状態と阻止される状態とに切り換えられる。ストロークシミュレータの作動が許容されれば、操作力の変化に伴う操作ストロークの変化が許容され、ストロークシミュレータの作動が阻止されれば、操作ストロークの変化が阻止される。
マニュアル液圧源がブレーキシリンダから遮断された状態においては、原則として、ストロークシミュレータの作動は許容された状態にある。
したがって、スリップ制御中の少なくとも一時期において、ストロークシミュレータの作動が阻止されたり、許容される状態と阻止される状態とに交互に切り換えられたりすれば、そのことによって、スリップ制御中であることを報知することができる。
(8)前記シミュレータ制御部利用報知部が、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に前記シミュレータ制御部を、前記ストロークシミュレータの作動を許容する状態と阻止する状態とに交互に切り換える許可・阻止部を含む(7)項に記載の液圧ブレーキ装置。
【0010】
(9)前記操作部材利用報知部が、前記スリップ制御中の、少なくとも、前記スリップ制御装置による前記ブレーキシリンダ液圧の制御状態が予め定められた状態である場合に、前記遮断弁に前記マニュアル液圧源を前記ブレーキシリンダに連通させることにより、前記ブレーキ操作部材の作動を前記スリップ制御が行われていない場合と異ならせる遮断弁利用報知部を含む(2)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
本項に記載の液圧ブレーキ装置においては、スリップ制御装置の制御状態が予め定められた状態であり、かつ、マニュアル液圧源の液圧とブレーキシリンダの液圧との関係が予め定められた関係である場合に、マニュアル液圧源とブレーキシリンダとが連通させられる。マニュアル液圧源とブレーキシリンダとを連通させたことに起因するブレーキシリンダ液圧のスリップ制御への影響を小さくするためである。
マニュアル液圧源とブレーキシリンダとを連通させることにより、ブレーキシリンダから流出した作動液をマニュアル液圧源に流入させたり、マニュアル液圧源からブレーキシリンダに作動液を流出させたりすることができる。
(10)前記遮断弁利用報知部が、前記スリップ制御装置により前記ブレーキシリンダ液圧を増圧させる場合において、前記ブレーキシリンダの液圧より前記マスタシリンダの液圧の方が高い場合に、前記遮断弁を制御し、前記マニュアル液圧源を前記ブレーキシリンダに連通させることにより、前記ブレーキ操作部材の入り込みを許容するストローク増加許容部を含む(9)項に記載の液圧ブレーキ装置。
マニュアル液圧源が高圧源とされ、スリップ制御装置によってブレーキシリンダ液圧を増圧させる増圧制御が行われる場合に、マニュアル液圧源からブレーキシリンダに作動液が供給される。運転者によってブレーキ操作部材への操作力が一定に保たれている状態で、ブレーキ操作部材が前進させられるのであり、入り込みが生じる。
(11)前記ストローク増加許容部が、前記ストロークの増加に制限を加えるストローク制限部を含む(10)項に記載の液圧ブレーキ装置。
ブレーキ操作部材の入り込みが生じると、マニュアル液圧源においてボトミングが生じるおそれがある。それを回避するために、ストロークの増加に制限を加えるのであり、マニュアル液圧源の液圧と操作ストロークとの関係においてストロークが過大とならないようされる。例えば、操作ストロークとマニュアル液圧源の液圧との関係が、マニュアル液圧源の液圧に対して操作ストロークが設定値以上大きくなった場合に、遮断弁によりマニュアル液圧源がブレーキシリンダから遮断されるようにすることが望ましい。
(12)前記遮断弁利用報知部が、前記スリップ制御装置により前記ブレーキシリンダ液圧を減少させる場合において、前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い場合に、前記遮断弁を制御し、前記マニュアル液圧源を前記ブレーキシリンダに連通させることにより、前記ブレーキ操作部材に加わる反力を大きくする反力増加部を含む(9)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
マニュアル液圧源が低圧源とされ、スリップ制御装置によってブレーキシリンダ液圧を減圧させる減圧制御が行われる場合に、ブレーキシリンダから流出した作動液がマニュアル液圧源に流入させられる。運転者にブレーキ操作部材への操作力が一定に保たれている状態で、ブレーキ操作部材が後退させられるのであり、戻される。
(13)前記操作部材利用報知部が、前記マニュアル液圧源の液圧を制御するマニュアル液圧制御部と、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に前記マニュアル液圧源の液圧を制御することにより前記ブレーキ操作部材にスリップ制御が行われていない場合とは異なる作動をさせるマニュアル液圧利用報知部とを含む(2)項ないし(12)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
マニュアル液圧源が、ブレーキ操作部材に加えられた操作力を倍力して出力するブースタと、ブースタの出力に応じた液圧を発生させるマスタシリンダとを含み、ブースタにおいて、それの倍力率を制御可能なものである場合には、ブースタにおける倍力率の制御によりブレーキ操作部材の操作フィーリングを変更することができる。また、ブースタにおいて、倍力作動を許容する状態と阻止する状態とに切り換え可能なものである場合には、それを制御することによって操作フィーリングを変更することも可能である。
ブースタはバキュームブースタとしたり、ハイドロブースタとしたりすることができる。また、ブースタとは別個にマスタシリンダの液圧を制御可能な液圧制御装置を設けることも可能である。
【0011】
(14)前記スリップ制御報知装置が、前記スリップ制御が行われることを、運転者の聴覚と視覚との少なくとも一方を利用して報知する視聴覚利用報知部を含む(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
本項に記載の液圧ブレーキ装置においては、スリップ制御中であることが、運転者の視覚や聴覚を利用して報知される。視聴覚利用報知部は、視覚利用報知部と聴覚利用報知部との少なくとも一方を含む。視覚利用報知部は、(i)(a)ディスプレイと、(b)そのディスプレイにスリップ制御中であることを表示させるものとを含むものとしたり、(ii)(a)ランプと、(b)そのランプの点滅状態を制御するものとを含むものとしたりすることができる。聴覚利用報知部は、音声で報知するものとしたり、音で報知するものとしたりすることができる。視聴覚利用報知部は、スリップ制御中であることを報知する専用のものとしても、液圧ブレーキ装置あるいは車両に搭載された他の装置を利用して報知するものとしてもよい。
(15)作動液を加圧する加圧装置と、その加圧装置を駆動する電動モータとを備えた動力液圧源を含み、前記視聴覚利用報知部が、前記スリップ制御が行われる場合の少なくとも一時期に、前記電動モータの制御状態を複数回変化させることにより、音を発生させるモータ回路利用報知部を含む(14)項に記載の液圧ブレーキ装置。
電動モータの制御状態がスイッチの制御により複数回変化させられる。それによって、スイッチの作動音が発生させられたり、電動モータの作動音が発生させられたりする。電動モータの作動音は制御状態が変化させられない場合(通常作動時)とは異なることもある。それによって、スリップ制御中であることを報知することができる。
加圧装置はポンプとすることができ、ポンプモータの駆動により作動させられる。加圧装置および電動モータを備えた動力液圧源の液圧は、スリップ制御において利用されることが多い。
(16)前記スリップ制御装置が、車輪の制動スリップが路面の摩擦係数に対して過大になった場合に作動を開始し、その制動スリップが路面の摩擦係数に適した大きさとなるように、前記ブレーキシリンダ液圧を制御するアンチロック制御部を含む(1)項ないし(15)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
アンチロック制御中においては、運転者はブレーキ操作部材を操作していることが多い。そのため、ブレーキ操作部材を利用して報知するのに適している。
(17)動力の供給により、運転者が前記ブレーキ操作部材を操作しなくても、液圧を発生させる動力式液圧源を含む(1)項ないし(16)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
動力式液圧源を利用すれば、ブレーキシリンダをマニュアル液圧源から遮断した状態において、ブレーキシリンダ液圧を増加させることができる。例えば、スリップ制御において、ブレーキシリンダの液圧を増加させる際に利用することができる。
動力式液圧源は、要求されるブレーキシリンダ液圧以上の液圧を発生させ得るものである。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の一実施例としての液圧ブレーキ装置について図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すブレーキシステムは、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル10,2つの加圧室を含むマスタシリンダ12,動力により作動させられる動力式液圧源としてのポンプ装置14,左右前後に位置する車輪にそれぞれに設けられた液圧ブレーキ16〜19等を含む。本実施例においては、マスタシリンダ12によってマニュアル液圧源が構成される。
液圧ブレーキ16〜19は、それぞれ、ブレーキシリンダ20〜23を含み、ブレーキシリンダ20〜23の液圧によって作動させられて、車輪に制動トルクを付与する。
【0013】
マスタシリンダ12は、2つの加圧ピストンを含み、2つの加圧ピストンのそれぞれの前方の加圧室には運転者によるブレーキペダル10の操作によって、その操作力に応じた液圧が発生させられる。マスタシリンダ12の2つの加圧室は、それぞれ、マスタ通路26,27を介して左右前輪のブレーキシリンダ20,21に接続される。マスタ通路26,27の途中には、それぞれ、マスタ遮断弁29,30が設けられる。マスタ遮断弁29,30はマスタシリンダ12とブレーキシリンダ20,21とを、互いに遮断する状態と連通させる状態とに切り換え可能な常開の電磁開閉弁である。
また、ポンプ装置14には、4つのブレーキシリンダ20〜23がポンプ通路31を介して接続される。ブレーキシリンダ20,21がマスタシリンダ12から遮断された状態で、ブレーキシリンダ20〜23にポンプ装置14から液圧が供給されて、液圧ブレーキ16〜19が作動させられる。ブレーキシリンダ20〜23の液圧は液圧制御弁装置32により制御される。
【0014】
ポンプ装置14は、ポンプ36,ポンプ36を駆動するポンプモータ38を含む。ポンプ36の吸入側は吸入通路40を介してマスタリザーバ42に接続され、吐出側にはアキュムレータ44が接続される。ポンプ36によってリザーバ42の作動液が汲み上げられてアキュムレータ44に供給され、加圧された状態で蓄えられる。ポンプモータ38への供給電流は、アキュムレータ圧が予め定められた設定範囲内にあるように制御される。
また、ポンプ36の吐出側と吸入側とがリリーフ通路46によって接続され、リリーフ通路46にはリリーフ弁48が設けられる。リリーフ弁48は、高圧側であるアキュムレータ側の液圧が設定圧を越えると閉状態から開状態に切り換えられる。
【0015】
ポンプモータ38である電動モータには、図2に示す電動モータ制御回路50が接続される。電動モータ38は、本実施例においては、ブラシ付きの直流モータであり、コモンブラシ52,低速用ブラシ54,高速用ブラシ55を含む。低速用ブラシ54,高速用ブラシ55は、高電位側のブラシであり、それぞれ、低速用スイッチ56,高速用スイッチ58を介して、並列に電源60に接続される。コモンブラシ52は、高電位側のブラシ54,55に共通に設けられた低電位側のブラシであり、アースされている。
【0016】
電動モータ38において、低速用ブラシ54は、コモンブラシ52に対して、起動トルクが最大となる相対位置に設けられ、高速用ブラシ55は、低速用ブラシ54に電源60が接続される場合より、起動トルクは小さいが、無負荷時の回転速度が大きくなる相対位置に設けられる。具体的には、コモンブラシ52と低速用ブラシ54とは電気角度が180度隔たった相対位置に設けられ、コモンブラシ52と高速用ブラシ55とは180度とは異なった角度だけ隔たった位置に設けられる。
その結果、高速用スイッチ58がONとされた場合は、低速用スイッチ56がONとされた場合より、電動モータ38の有効磁束Bが小さくなるため、起動トルクが小さく、無負荷時の回転速度が大きくなる。
以下、低速用スイッチ56がONとされて高速用スイッチ58がOFFとされた状態における電動モータ38の特性を低回転高トルク型の特性と称し、高速用スイッチ58がONとされて低速用スイッチ56がOFFとされた状態における特性を高回転低トルク型の特性と称する。図3に、低速用スイッチ56がONとされた場合の低回転高トルク型の特性、高速用スイッチ58がONとされた場合の高回転低トルク型の特性をそれぞれ示す。
【0017】
液圧制御弁装置32は、ブレーキシリンダ20〜23毎に、それぞれ対応して設けられた個別液圧制御弁装置70〜73を含む。個別液圧制御弁装置70〜73は、それぞれ、ポンプ通路31に設けられた電磁増圧制御弁としての増圧リニアバルブ80〜83と、ブレーキシリンダ20〜23とリザーバ42とを接続する減圧通路86に設けられた電磁減圧制御弁としての減圧リニアバルブ90〜93とを含む。これら増圧リニアバルブ80〜83と減圧リニアバルブ90〜93との制御によりブレーキシリンダ20〜23の液圧がそれぞれ別個独立に制御され得る。
前後左右の各輪に対応して設けられた増圧リニアバルブ80〜83,左右前輪に対応して設けられた減圧リニアバルブ90,91は、コイル100に電流が供給されない間は、閉状態にある常閉弁であるが、左右後輪に対応する減圧リニアバルブ92,93は、コイル102に電流が供給されない間は開状態にある常開弁である。
【0018】
図4に常閉弁である増圧リニアバルブ80〜83,減圧リニアバルブ90,91を示す。増圧リニアバルブ80〜83,減圧リニアバルブ90,91は、コイル100、プランジャ103等を備えたソレノイド104と、弁子105および弁座106,弁子105を弁座106に着座させる向きに付勢するスプリング108等を備えたシーティング弁110とを含む。
コイル100に電流が供給されない場合には、スプリング108の付勢力Fsにより弁子105が弁座106に着座させられる閉状態にある。コイル100に電流が供給されると、電流に応じた電磁駆動力Fdがプランジャ103に加えられ、弁子105を弁座106から離間させる向きに作用する。また、前後の差圧に応じた差圧作用力Fpが弁子105を弁座106から離間させる向きに作用するため、弁子105の弁座106に対する相対位置は、これら電磁駆動力Fd、差圧作用力Fpおよびスプリングの付勢力Fsの関係で決まる。
【0019】
図5に常開弁である減圧リニアバルブ92,93を示す。減圧リニアバルブ92,93は、コイル102、プランジャ111等を備えたソレノイド112と、弁子114および弁座116,弁子114を弁座116から離間させる向きに付勢するスプリング118等を備えたシーティング弁120とを含む。
減圧リニアバルブ92、93は、ブレーキシリンダ22,23とリザーバ62との間において、ブレーキシリンダ22,23とリザーバ42との差圧に応じた差圧作用力Fpが弁子114に加わる状態で設けられる。コイル102に電流が供給されない間は、液圧作用力Fpおよびスプリング118の付勢力Fsにより弁子114が弁座116から離間させられた開状態にある。コイル102に電流が供給されると、電流に応じた電磁駆動力Fdが弁子114を弁座116に着座させる向きに作用する。これらスプリング118の付勢力Fsおよび差圧作用力Fpと、電磁駆動力Fdとの関係で弁子114の弁座116に対する相対位置が決まる。
【0020】
一方、マスタ通路26には、ストロークシミュレータ装置150が設けられる。ストロークシミュレータ装置150は、ストロークシミュレータ152と常閉のシミュレータ制御弁154とを含み、シミュレータ制御弁154の開閉により、ストロークシミュレータ152がマスタシリンダ12に連通させられる連通状態と遮断される遮断状態とに切り換えられる。連通状態において、ストロークシミュレータ152の作動が許容され、遮断状態において、作動が阻止される。本実施例においては、原則として、液圧ブレーキ16〜19がポンプ装置14の液圧を利用して作動させられる状態にある場合には開状態とされ、マスタシリンダ12の液圧を利用して作動させられる状態にある場合には閉状態とされる。
【0021】
液圧ブレーキ装置は、図1に示すように、ブレーキECU200の指令に基づいて制御される。ブレーキECU200は、コンピュータを主体とするもので、実行部202,記憶部204,入出力部206等を含む。入出力部206には、ストロークセンサ210,マスタ圧センサ214,ブレーキ液圧センサ216,車輪速センサ218,液圧源液圧センサ220等が接続されるとともに、増圧リニアバルブ80〜83,減圧リニアバルブ90,91のコイル100、減圧リニアバルブ92,93のコイル102、マスタ遮断弁29,30、シミュレータ制御弁154の各コイルが図示しないスイッチ回路を介して接続されるとともに、ポンプモータ38の低速用、高速用のスイッチ56,58等が接続される一方、ディスプレイ224が接続される。ディスプレイ224は、車室内のインストルメントパネルに設けられる。
記憶部204には、図6のフローチャートで表されるアンチロック制御プログラム、図8のフローチャートで表されるアンチロック報知プログラム等が格納されている。
【0022】
以上のように構成された液圧ブレーキ装置における作動について説明する。
通常制動時には、マスタ遮断弁29,30が閉状態とされることによりブレーキシリンダ20、21がマスタシリンダ12から遮断されて、ポンプ装置14の液圧により液圧ブレーキ16〜19が作動させられる。ストロークセンサ210による検出値である操作ストロークとマスタ圧センサ214による検出値であるマスタシリンダ圧との少なくとも一方に基づいて運転者の要求制動力が求められ、要求制動力が得られるようにブレーキシリンダ液圧の目標液圧が決定される。実際のブレーキシリンダ液圧が目標液圧と同じになるように、各増圧リニアバルブ80〜83,減圧リニアバルブ90〜93のコイル100,102への供給電流が制御される。この場合には、シミュレータ制御弁154が開状態とされるため、マスタシリンダ12にストロークシミュレータ152が連通させられ、ストロークシミュレータ152は作動許容状態とされる。ブレーキペダル10が操作されると、操作力の変化に伴って操作ストロークが変化させられるのであり、ブレーキシリンダ20,21とマスタシリンダ12とが連通させられた場合と同様の操作フィーリングが得られる。
また、車輪速センサ218によって検出された車輪速度等に基づいて各車輪の制動スリップ状態が求められ、制動スリップが大きいことが検出された場合には、アンチロック制御が行われる。アンチロック制御においては、各車輪の制動スリップが路面の摩擦係数に対して適正な大きさになるように、各ブレーキシリンダの液圧が、アンチロック制御プログラムの実行により、個別液圧制御弁装置70〜73の制御により別個独立に制御される。本実施例においては、原則として、アンチロック制御中においてもマスタ遮断弁29,30は閉状態に保たれる。
【0023】
アンチロック制御は、図6のフローチャートで表されるアンチロック制御プログラムの実行により行われる。このアンチロック制御プログラムは、車輪毎に、順番に実行される。アンチロック制御は、例えば、制御対象車輪のスリップ量が設定量以上である等の開始条件が満たされると開始され、車両が停止したこと、ブレーキペダル10の操作が解除されたこと等のいずれか一方等の終了条件が満たされると終了させられる。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする。)において、アンチロック制御中フラグがセット状態にあるか否かが判定される。アンチロック制御中フラグがセット状態にない場合には、S2において、アンチロック開始条件が満たされるか否かが判定される。開始条件が満たされた場合には、S3において、アンチロック制御中フラグがセットされて、S4において、その制御対象車輪に対応する個別液圧制御弁装置70〜73の制御が行われる。
アンチロック制御中フラグがセット状態にある場合には、S5において、終了条件が満たされるか否かが判定される、終了条件が満たされない場合には、S4において、個別液圧制御弁装置の制御が行われ、終了条件が満たされた場合には、S6において、終了処理が行われる。終了処理においては、アンチロック制御中フラグがリセットされる。
【0024】
個別液圧制御弁装置70〜73の制御は、図7のフローチャートで表されるバルブ制御ルーチンの実行により行われる。
S21において、制御対象車輪のスリップ状態が検出され、S22において、スリップ状態に基づいて、その制御対象車輪のブレーキシリンダの目標液圧が決定される。S23において、実際のブレーキシリンダ液圧が検出され、S24において、これらに基づいて制御モードが決定される。目標液圧に対して実液圧が小さい場合には、ブレーキシリンダ液圧を増加させる増圧モードとされ、目標液圧に対して実液圧が大きい場合には、ブレーキシリンダ液圧を減少させる減圧モードとされ、目標液圧と実液圧との差の絶対値が設定値以下である場合には、保持モードとされる。S25において、決定された制御モードに応じて決まるバルブのコイルに、目標液圧等に基づいて決まる電流が供給される。増圧モードが設定された場合には、その制御対象車輪に対応する増圧リニアバルブ80〜83のコイル100への供給電流が制御され、減圧モードが設定された場合には、減圧リニアバルブ89〜93のコイル100,102への供給電流が制御される。保持モードが設定された場合には、増圧リニアバルブ80〜83、減圧リニアバルブ89、90のコイル100への供給電流が0とされ、減圧リニアバルブ91,92のコイル102への供給電流はその時点の値に保たれる。
【0025】
アンチロック制御中であることは運転者に報知される。アンチロック報知プログラムは図8のフローチャートで表される。
S51において、アンチロック制御中フラグがセット状態にあるか否かが判定される。セット状態にない場合には、S52においてアンチロック非報知状態とされ、セット状態にある場合には、S53においてアンチロック報知が行われる。S52の実行には、報知の終了処理も含まれる。
本実施例においては、個別液圧制御弁装置70〜73,ブレーキECU200の図6のフローチャートで表されるアンチロック制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりスリップ制御装置としてのアンチロック制御部が構成される。また、ブレーキECU200の図8のフローチャートを記憶する部分、実行する部分等によりスリップ制御報知装置が構成される。
【0026】
アンチロック制御の報知には種々の態様があるが、それぞれの態様について、以下、順に説明する。アンチロック制御中であることは、ブレーキペダル10を介して運転者に報知したり、運転者の聴覚、視覚を利用して報知したりすることができる。
第1の実施例においては、シミュレータ制御弁154が開状態と閉状態とに交互に切り換えられる。ブレーキペダル10の操作が滑らかに行われないようにして(ゴツゴツした操作とする)、アンチロック制御中であることを報知する。
図9に示すフローチャートのS71において、シミュレータ制御弁154が開状態にあるか否かが判定される。開状態にある場合には、S72において、開状態が予め定められた開時間以上続いているか否かが判定される。開状態とされてからの経過時間が開時間以下である場合には、その開状態のままとされ、開時間を越えるとS73において閉状態に切り換えられる。
シミュレータ制御弁154が閉状態にある場合には、S71における判定がNOとなって、上述の場合と同様に、S74において、閉状態にされてから、予め定められた閉時間が経過したか否かが判定される。閉時間が経過する以前は閉状態のままであるが、経過後はS75において開状態に切り換えられる。
このように、シミュレータ制御弁154が、予め定められた開時間、閉時間毎に、開状態と閉状態とに交互に切り換えられるのであるが、開時間、閉時間は、それぞれ、本実施例においては100msとされる。開時間、閉時間は同じ長さとされるのであり、同じ時間間隔で開状態と閉状態とに切り換えられる。
【0027】
以上のように、本実施例においては、シミュレータ制御弁154が開閉させられるため、操作力の増加に伴って操作ストロークが滑らかに増加しない。操作力の増加に伴って操作ストロークが段階的に増加させられるのであり、ブレーキペダル10の作動がアンチロック制御中でない場合とは異なる作動とされる。また、ブレーキペダル10は移動したり停止したりするのであり、作動状態が変動させられる。したがって、そのことにより、運転者にアンチロック制御中であることを報知することができる。
スリップ制御報知装置のうち、図9のフローチャートで表されるシミュレータ制御弁利用報知ルーチンを記憶する部分、実行する部分等によりシミュレータ制御部利用報知部が構成される。シミュレータ制御部利用報知部は、操作部材利用報知部、フィーリング変更部、操作部材変動部でもある。
【0028】
なお、上記実施例において、シミュレータ制御弁154は、アンチロック制御中、全期間に渡って開閉させられるようにされていたが、アンチロック制御が開始されてから設定時間の間開閉させられるようにしてもよい。
また、予め定められた設定時間である開時間、閉時間の長さは問わない。さらに、開時間と閉時間とを異なる長さとすることもできる。また、アンチロック制御が開始されてから設定時間が経過するまでの間、あるいは、アンチロック制御中において、閉状態に保たれるようにすることもできる。ストロークシミュレータ152の作動が阻止されれば、操作ストロークの増加が阻止されることになり、それによって、アンチロック制御中であることを知ることができる。
【0029】
第2の実施例においては、ブレーキペダル10を入り込ませたり、戻したりすることにより報知される。制御モードが予め定められた制御モードであり、かつ、マスタシリンダ12の液圧とマスタシリンダ12に接続された左右前輪のブレーキシリンダ20,21の液圧とが予め定められた関係にある場合に、マスタ遮断弁29,30が開状態とされる。それによって、マスタシリンダ12の作動液がブレーキシリンダ20,21に供給されたり、ブレーキシリンダ20,21の作動液がマスタシリンダ12へ供給されたりする。このルーチンは、左前輪、右前輪の各々について、別個に、順番に実行される。
【0030】
図10のフローチャートのS101,102において、左右前輪のうちのいずれか一方(例えば、制御対象輪が左前輪である場合について説明する)について、制御モードが増圧モードであるか否か、減圧モードであるか否かが判定される。増圧モードである場合には、S102において、マスタシリンダ12の液圧Pmcがブレーキシリンダ20の液圧PwcFLより大きいか否かが判定される。マスタシリンダ圧Pmcの方が大きい場合には、S103において、ストローク延長許容領域内であるか否かが判定される。操作ストロークSとマスタシリンダ圧Pmcとの関係が図11に示す領域R内にあるか否かが判定される。領域R内にある場合には、S104において、マスタ遮断弁29が開状態とされ、領域Rから外れた場合には、S105において、マスタ遮断弁29が閉状態とされる。それに対して、マスタシリンダ圧Pmcの方が小さい場合には、S105において、マスタ遮断弁29が閉状態とされる。
ブレーキシリンダ20の液圧を増加させる場合に、マスタ遮断弁29が開状態とされるため、ブレーキシリンダ20にはマスタシリンダ12からもポンプ装置14からも液圧が供給される。運転者はブレーキペダル10に操作力を加えているのが普通であるため、それによって、ブレーキペダル10の入り込みが生じ、マスタシリンダ12から作動液が流出する。この場合に、マスタシリンダ12においてボトミングが起きることは望ましくない。そこで、操作ストロークSとマスタシリンダ圧Pmcとの関係が領域Rから外れた場合には、S105においてマスタ遮断弁29が閉状態とされ、マスタシリンダ12からの作動液の流出が阻止される。
【0031】
また、減圧モードである場合には、S106において、マスタシリンダ圧Pmcがブレーキシリンダ圧PwcFLより小さいか否かが判定される。マスタシリンダ圧Pmcの方が小さい場合には、S107において、マスタ遮断弁29が開状態とされ、それ以外の場合には、S108において閉状態とされる。
ブレーキシリンダ20の液圧を減少させる場合に、マスタ遮断弁29が開状態とされるため、ブレーキシリンダ20の作動液は、マスタリザーバ42へもマスタシリンダ12へも供給される。運転者によってブレーキペダル10への操作力が一定に保たれる場合には、マスタシリンダ12に作動液が流入させられることにより、ブレーキペダル10が戻される。
制御対象車輪が右前輪である場合も同様であり、この場合には、マスタ遮断弁30が開閉させられる。
【0032】
本実施例においては、アンチロック制御において予め定められた条件が満たされた場合に、マスタ遮断弁29、30が開状態とされるのであり、マスタ遮断弁29,30を開状態とすることのアンチロック制御への影響が小さくされる。また、マスタ遮断弁29,30を開状態として、マスタシリンダ12とブレーキシリンダ20,21とを連通させることにより、マスタシリンダ12において作動液を流入させたり、流出させたりする。それによって、ブレーキペダル10に入り込みを生じさせたり、戻したりする。ブレーキペダル10の作動がアンチロック制御が行われていない場合とは異ならされる。さらに、ブレーキペダル10が入り込んだり、戻されたりするため、ブレーキシリンダとマスタシリンダ12とが連通させられた状態で、ブレーキシリンダ液圧が変化させられるのと似たフィーリングを付与することが可能となり、アンチロック制御中であることを運転者に報知するのに有効である。
スリップ制御報知装置のうち、図10のフローチャートで表される遮断弁利用報知ルーチンを記憶する部分、実行する部分等により遮断弁利用報知部が構成される。遮断弁利用報知部は、操作部材利用報知部、フィーリング変更部、操作部材変動部でもある。
【0033】
なお、上記実施例においては、予め定められた条件が満たされた場合にマスタ遮断弁29,30が開状態とされたが、マスタ遮断弁29,30が開閉制御されるようにすることもできる。
【0034】
第3の実施例においては、電動モータ制御用回路50における高速用スイッチ58がON状態とOFF状態とに交互に切り換えられる。高速用スイッチ58の作動音を発生させ、それによって、アンチロック制御中にであることを報知する。
電動モータ38は、前述のように、アキュムレータ圧が設定範囲内にあるように制御される。アキュムレータ圧が第1設定液圧より低い場合に始動させられて、第1設定液圧より大きい第2設定液圧を越えると停止させられる。アキュムレータ圧は液圧源液圧センサ220により検出される。
通常制動中には、低速用スイッチ56がONとされて高速用スイッチ58がOFFとされる。応答性を高くする要求はそれほど強くない(低速回転要求)ため、低回転高トルク型の特性とされる。それによって作動音の低減を図ることができる。
アンチロック制御中には、ブレーキシリンダの要求液圧はそれほど高くないが、大流量での作動液の供給が要求される。ポンプ装置14から供給可能なブレーキ作動液の流量を大きくする要求(高速回転要求)が高いため、電動モータ38の特性が高回転低トルク型の特性とされるのであり、それによって、アキュムレータ44の蓄液量の低下を抑制することができる。この場合には、低圧用スイッチ56をOFFとして、高圧用スイッチ58をONとすればよいが、本実施例においては、高圧用スイッチ58がON状態とOFF状態とに交互に切り換えられる。
【0035】
図12のフローチャートで表されるスイッチ制御プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
図12のS121において、アンチロック制御中であるか否かが判定される。アンチロック制御中でない場合には、S122において、アキュムレータ44の圧力Paccが第1設定液圧P1より低いか否かが判定される。第1設定液圧P1より低い場合には、S123において、低速用スイッチ56がONとされて高速用スイッチ58がOFFとされる。低回転高トルク型の特性で作動させられる。
第1設定液圧P1以上である場合には、S124において、電動モータ38が作動中であるか否かが判定される。作動中である場合には、S125において、第2設定液圧P2より高いか否かが判定される。第2設定液圧P2より高い場合には、S126において、高速用スイッチ58も低速用スイッチ56もOFFとされる。第2設定液圧P2以下である場合には、作動が継続して行われる。
【0036】
アンチロック制御中である場合には、同様に、S127において、アキュムレータ44の圧力Paccが第1設定液圧P1より低いか否かが判定される。第1設定液圧P1より低い場合(S127における判定がYESである場合)、あるいは、第1設定液圧P1以上であるが、電動モータ38が作動中であって、第2設定液圧P2より低い場合(S127における判定がNO,S128における判定がYES,S129における判定がNOである場合)には、S130において、低速用スイッチ56がOFF状態に保たれた状態で、高速用スイッチ58がON状態とOFF状態とに交互に切り換えられる。それによって、スイッチ58の作動音が発生し、アンチロック制御中であることを報知することができる。また、電動モータ38においては、高速用スイッチ58がON状態にされた場合と低速用スイッチ56がON状態にされた場合とでは、高速用スイッチ58がON状態にされた場合の方がモータ作動音が大きくなる。したがって、アンチロック制御中に高速用スイッチ58をON状態とすることにより電動モータ38を作動させることは、アンチロック制御中であることを、運転者に報知する点で有効である。また、電動モータ38においては、高速用スイッチ56がON状態とOFF状態とに交互に切り換えられる場合とON状態に保たれる場合とで異なった作動音が発せられることもある。その場合には、作動音の違いにより、運転者にアンチロック制御中であることを報知することができる。
本実施例においては、高速用スイッチ58は、予め定められたON時間、OFF時間毎にON状態とOFF状態とに切り換えられるが、設定時間であるON時間、OFF時間はそれぞれ同じ長さとされて、ほぼ1secとされる。
本実施例においては、ブレーキECU200のスイッチ制御プログラムのS130を記憶する部分、実行する部分等にモータ回路利用報知部が構成される。モータ回路利用報知部は視聴覚利用報知部でもある。また、図8のアンチロック報知プログラムとの関係について、アンチロック中である場合には、図12のプログラムのS127以降が実行されるため、スリップ制御プログラムのS127以降の部分等によって、図12のS52のアンチロック報知部が構成されると考えることもできる。
【0037】
なお、上記実施例においては、高速用スイッチ58がON・OFFさせられたが、低速用スイッチ56がON・OFF制御されるようにすることもできる。
また、高速用ブラシ55,低速用ブラシ54の両方を備えた電動モータ制御回路に限らず、高電位側のブラシが1つであるモータ制御回路とすることもできる。この場合には、その高電位側のブラシに対応するスイッチがON・OFFさせられることになる。
【0038】
その他、車室内に設けられたスピーカを介してアンチロック制御中であることを音声で報知することができる。
また、ディスプレイ224にアンチロック制御中であることを表示することもできる。運転者は、ディスプレイ224を見ることによって、アンチロック制御中であることがわかる。
【0039】
さらに、上記各実施例においては、アンチロック制御中であることが報知される場合について説明したが、制動中にビークルスタビリティ制御が行われていることを報知する場合にも同様に適用することができる。
また、非制動中にビークルスタビリティ制御が行われていること、トラクション制御が行われることを報知することもできる。これらの場合には、運転者はブレーキペダル10を操作していないのが普通であるため、視聴覚を利用して報知することが望ましい。
さらに、第2実施例におけるようにマスタ遮断弁29,30が開状態とされた場合には、運転者がブレーキペダル10を操作していなくても、ブレーキペダル10が戻されることがある。ブレーキペダル10が戻される場合には、ブレーキペダル10を操作していなくても、そのことに気づくことがある。したがって、ブレーキペダル10を移動させることによって、トラクション制御中であること、あるいは、ビークルスタビリティ制御中であることを報知することも不可能ではない。
本発明は、前述の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例である液圧ブレーキ装置の回路図である。
【図2】上記液圧ブレーキ装置に含まれる電動モータ制御装置の回路図である。
【図3】上記電動モータの特性を表す図である。
【図4】上記液圧ブレーキ装置に含まれる増圧リニアバルブを概念的に示す断面図である。
【図5】上記液圧ブレーキ装置に含まれる減圧リニアバルブを概念的に示す断面図である。
【図6】上記液圧ブレーキ装置のブレーキECUの記憶部に記憶されたアンチロック制御プログラムを表すフローチャートである。
【図7】上記アンチロック制御プログラムの一部を表すフローチャートである。
【図8】上記記憶部に記憶されたアンチロック報知プログラムを表すフローチャートである。
【図9】上記アンチロック報知プログラムの一部を表すフローチャートである。
【図10】上記アンチロック報知プログラムの別の一部を表すフローチャートである。
【図11】上記液圧ブレーキ装置における操作ストロークとマスタシリンダ圧との関係を示す図である。
【図12】上記記憶部に記憶されたスイッチ制御プログラムを表すフローチャートである。スイッチ制御プログラムの一部がアンチロック報知部に対応する。
【符号の説明】
【0041】
10:ブレーキペダル 12:マスタシリンダ 29,30:マスタ遮断弁 38:電動モータ 56:低速用スイッチ 58:高速用スイッチ 70〜73:個別液圧制御弁装置 200:ブレーキECU 214:マスタシリンダ圧センサ 216:ブレーキシリンダ液圧センサ 218:車輪速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作によって、その操作力に応じた液圧を発生させるマニュアル液圧源と、
ブレーキシリンダの液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
前記ブレーキシリンダと前記マニュアル液圧源とを、連通させる状態と遮断する状態とに切り換え可能な遮断弁と、
その遮断弁により前記ブレーキシリンダが前記マニュアル液圧源から遮断された状態で、前記ブレーキシリンダの液圧を制御することにより、車輪のスリップ状態を路面の摩擦係数に適した状態に制御するスリップ制御装置と、
そのスリップ制御装置による前記ブレーキシリンダの液圧の制御であるスリップ制御が行われている間の少なくとも一時期に、そのスリップ制御が行われていることを運転者に報知するスリップ制御報知装置と
を含むことを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
前記スリップ制御報知装置が、前記ブレーキ操作部材の作動を、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に、前記スリップ制御が行われない場合とは異ならせることにより、前記スリップ制御が行われていることを運転者に報知する操作部材利用報知部を含む請求項1に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
前記操作部材利用報知部が、前記ブレーキ操作部材の運転者による操作フィーリングを、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に、前記スリップ制御が行われない場合とは異ならせるフィーリング変更部を含む請求項2に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
前記操作部材利用報知部が、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に、前記ブレーキ操作部材の作動状態を複数回変動させる操作部材変動部を含む請求項2または3に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
(a)前記ブレーキ操作部材の操作ストロークに応じて作動させられるとともに、その操作力に応じた反力を付与するストロークシミュレータと、(b)そのストロークシミュレータの作動を許容する状態と阻止する状態とに切り換え可能なシミュレータ制御部とを含むとともに、前記操作部材利用報知部が、前記スリップ制御中の少なくとも一時期に前記シミュレータ制御部を制御することにより、前記ブレーキ操作部材の作動を前記スリップ制御が行われない場合と異ならせるシミュレータ制御部利用報知部を含む請求項2ないし4のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
前記操作部材利用報知部が、前記スリップ制御中の、少なくとも、前記スリップ制御装置による前記ブレーキシリンダ液圧の制御状態が予め定められた状態である場合に、前記遮断弁に前記マニュアル液圧源を前記ブレーキシリンダに連通させることにより、前記ブレーキ操作部材の作動を前記スリップ制御が行われていない場合と異ならせる遮断弁利用報知部を含む請求項2ないし5のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項7】
前記スリップ制御報知装置が、前記スリップ制御が行われることを、運転者の聴覚と視覚との少なくとも一方を利用して報知する視聴覚利用報知部を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項8】
作動液を加圧する加圧装置と、その加圧装置を駆動する電動モータとを備えた動力液圧源を含み、前記視聴覚利用報知部が、前記スリップ制御が行われる場合の少なくとも一時期に、前記電動モータの制御状態を複数回変化させることにより、音を発生させるモータ回路利用報知部を含む請求項7に記載の液圧ブレーキ装置。
【請求項9】
前記スリップ制御装置が、車輪の制動スリップが路面の摩擦係数に対して過大になった場合に作動を開始し、その制動スリップが路面の摩擦係数に適した大きさとなるように、前記ブレーキシリンダ液圧を制御するアンチロック制御部を含む請求項1ないし8のいずれか1つに記載の液圧ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−117199(P2006−117199A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309966(P2004−309966)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】