説明

液晶ポリエステル組成物の製造方法及び成形体の製造方法

【課題】機械的強度に優れ、半導電性を有する液晶ポリエステル組成物の製造方法の提供。
【解決手段】液晶ポリエステルと、下記(A)の要件を満たすナノ構造中空炭素材料とを含有する液晶ポリエステル組成物の製造方法であって、前記液晶ポリエステル85〜99質量部と、前記ナノ構造中空炭素材料1〜15質量部とを、1000〜9000/秒のせん断下で溶融混練する工程を有することを特徴とする液晶ポリエステル組成物の製造方法。
(A)ナノ構造中空炭素材料が、炭素部及び中空部を有し、前記中空部の一部又は全体が前記炭素部により囲まれた構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル組成物の製造方法及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
10〜1012Ωmの体積固有抵抗値を有する半導電性樹脂は、帯電防止性、塵埃吸着防止性等の機能を生かして、電子写真複写機や静電記録装置等の画像形成装置における帯電ロール、帯電ベルト、除電ベルト、半導体部品を搬送する容器等の材料に使用されている。
【0003】
電気絶縁性である樹脂に半導電性を付与する方法としては、金属、炭素繊維、カーボンブラック等の導電性物質を混合する方法が挙げられるが、半導電性を付与するためには、多量の導電性物質を混合する必要がある。
一方で、液晶ポリエステルは、優れた低吸湿性、耐熱性、機械的強度を実現できる素材として注目され、コネクター等の精密電子部品やフィルム、繊維等に幅広く利用されおり、種々の検討がなされている。そして、このように有用性が高い液晶ポリエステルにも、半導電性を付与することが望まれる場合がある。
【0004】
しかし、液晶ポリエステルに前記従来の方法により半導電性を付与しようとすると、多量の導電性物質の混合により、液晶ポリエステル本来の機械的強度、成形加工性が低下してしまうという問題点があった。また、導電性物質の分散性が不十分である場合には、得られる液晶ポリエステル組成物が半導電性を示し難いという問題点があった。
これに対して、液晶ポリエステルに導電性のナノ構造中空炭素材料を少量添加する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−7067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の液晶ポリエステルとナノ構造中空炭素材料とを含有する液晶ポリエステル組成物で、機械的強度に優れ、半導電性を有するものは、これまでに無いのが実情であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れ、半導電性を有する液晶ポリエステル組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、液晶ポリエステルと、下記(A)の要件を満たすナノ構造中空炭素材料とを含有する液晶ポリエステル組成物の製造方法であって、前記液晶ポリエステル85〜99質量部と、前記ナノ構造中空炭素材料1〜15質量部とを、1000〜9000/秒のせん断下で溶融混練する工程を有することを特徴とする液晶ポリエステル組成物の製造方法を提供する。
(A)ナノ構造中空炭素材料が、炭素部及び中空部を有し、前記中空部の一部又は全体が前記炭素部により囲まれた構造を有する。
本発明の液晶ポリエステル組成物の製造方法においては、前記ナノ構造中空炭素材料の前記炭素部の厚みが1〜100nmであり、前記中空部の径が0.5〜90nmであることが好ましい。
本発明の液晶ポリエステル組成物の製造方法においては、前記ナノ構造中空炭素材料が、下記工程(1)、(2)、(3)及び(4)をこの順に有する方法で得られたものであることが好ましい。
(1)テンプレート触媒ナノ粒子を製造する工程。
(2)前記テンプレート触媒ナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体の重合を行い、前記テンプレート触媒ナノ粒子の表面に炭素材料中間体を形成させる工程。
(3)前記炭素材料中間体を炭化させて炭素材料を形成させ、ナノ構造複合材料を製造する工程。
(4)前記ナノ構造複合材料から、前記テンプレート触媒ナノ粒子を除去して、ナノ構造中空炭素材料を製造する工程。
本発明の液晶ポリエステル組成物の製造方法においては、前記液晶ポリエステルと前記ナノ構造中空炭素材料との溶融混練を、帰還型スクリューを備えた混練機により行うことが好ましい。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で液晶ポリエステル組成物を得、この液晶ポリエステル組成物を成形することを特徴とする成形体の製造方法を提供する。
本発明の成形体の製造方法においては、前記成形体がキャリアであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度に優れ、半導電性を有する液晶ポリエステル組成物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0011】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0012】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0013】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0014】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0015】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0016】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0017】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0018】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0019】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0020】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは40〜70モル%、特に好ましくは45〜65モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性、耐熱性、強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0021】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0022】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0023】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは、溶融粘度が低くなり易い。
【0024】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは270℃以上、より好ましくは270℃〜400℃、さらに好ましくは280℃〜380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0026】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0027】
本発明において、ナノ構造中空炭素材料は、ナノサイズ(例えば、0.5nm〜1μm程度)であり、炭素部及び中空部を有し、下記(A)の要件を満たす。
(A)ナノ構造中空炭素材料が、炭素部及び中空部を有し、前記中空部の一部又は全体が前記炭素部により囲まれた構造を有する。
このような構造としては、一様な炭素部(複数の炭素部が連結されたり、塊状となっていない)によって、中空部の一部又は全体が形成されたものや、連結された複数の炭素部又は塊状となった複数の炭素部によって、中空部の一部又は全体が形成されたものが例示できる。
【0028】
さらに、本発明の効果をより高めるために、前記ナノ構造中空炭素材料は、下記(B)、(C)の要件を満たすことが好ましい。
(B)ナノ構造中空炭素材料の炭素部の厚みが、1〜100nmの範囲である。
(C)ナノ構造中空炭素材料の中空部の径が、0.5〜90nmの範囲である。
【0029】
また、本発明において、ナノ構造中空炭素材料は、その炭素部が多層状であってもよく、例えば、下記(D)の要件を満たしていてもよい。
(D)ナノ構造中空炭素材料の炭素部が、2〜200層(製造面で好ましいのは2〜100層である)からなる多層状の構造である。
【0030】
本発明において、ナノ構造中空炭素材料は、下記工程(1)、(2)、(3)及び(4)をこの順に有する方法で得られたものが好ましい。
(1)テンプレート触媒ナノ粒子を製造する工程。
(2)前記テンプレート触媒ナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体の重合を行い、前記テンプレート触媒ナノ粒子の表面に炭素材料中間体を形成させる工程。
(3)前記炭素材料中間体を炭化させて炭素材料を形成させ、ナノ構造複合材料を製造する工程。
(4)前記ナノ構造複合材料から、前記テンプレート触媒ナノ粒子を除去して、ナノ構造中空炭素材料を製造する工程。
以下、前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)について、具体的に説明する。
【0031】
工程(1)において、テンプレート触媒ナノ粒子は、例えば、以下のようにして製造される。
一種又は複数種の触媒前駆体と、一種又は複数種の分散剤とを用い、これら触媒前駆体と分散剤とを反応又は結合させて、触媒複合体を形成させる。一般的には、触媒前駆体と分散剤とを適当な溶媒に溶解(このとき得られるものを、以下、触媒溶液という。)又は分散(このとき得られるものを、以下、触媒懸濁液という。)させ、触媒と分散剤とが結合することにより、前記触媒複合体が形成される。
【0032】
前記触媒前駆体としては、後述の炭素材料前駆体の重合及び/又は炭素材料中間体の炭化を促進するものであれば特に限定されないが、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属を挙げることができ、より好ましくは鉄である。
【0033】
前記分散剤は、目的とする安定性、大きさ、均一性を有する触媒ナノ粒子の生成を促進するものから選ばれ、種々の有機分子、高分子、オリゴマー等が例示できる。前記分散剤は、適当な溶媒に溶解又は分散させて用いる。
【0034】
前記溶媒は、触媒前駆体と分散剤の相互作用のために用いるものであり、単なる溶媒としてだけではなく、分散剤として作用するものでもよく、テンプレート触媒ナノ粒子を懸濁させるものでもよい。
溶媒としては、水や有機溶媒をはじめとする種々のものが利用でき、好ましいものとしては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、メチレンクロライド等が挙げられる。
溶媒は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
前記触媒複合体は、溶媒分子によって囲まれた、触媒前駆体と分散剤とから得られる複合体であると考えられる。触媒複合体は、前記触媒溶液又は触媒懸濁液中で生成し、溶媒を乾燥等で除去することにより、乾燥された触媒複合体を得ることができる。また、この乾燥された触媒複合体は、適当な溶媒を加えることで懸濁液に戻すこともできる。
【0036】
触媒溶液又は触媒懸濁液中では、分散剤と触媒前駆体とのモル比を制御できる。分散剤の官能基に対する触媒原子の割合は、好ましくは0.01:1〜100:1であり、より好ましくは0.05:1〜50:1である。
【0037】
分散剤は、非常に小さくかつ均一な粒径のテンプレート触媒ナノ粒子の形成を促進できる。一般的に、分散剤存在下でナノ粒子は、1μm以下の大きさとして形成され、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下である。
【0038】
前記触媒溶液又は触媒懸濁液には、テンプレート触媒ナノ粒子の形成を促進するための添加物を加えてもよい。
前記添加物としては、無機酸、塩基化合物が例示できる。
前記無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等が例示でき、前記塩基化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム等の無機塩基化合物が例示できる。また、前記触媒溶液又は触媒懸濁液には、pHを8〜13に調整するため、アンモニア水溶液等の塩基性物質を加えてもよい。この場合、pHを10〜11に調整することが好ましい。例えば、高いpH値では、触媒前駆体が微細に分離するなど、前記触媒溶液又は触媒懸濁液のpHは、テンプレート触媒ナノ粒子の粒径に影響を与える。
【0039】
また、前記触媒溶液又は触媒懸濁液には、テンプレート触媒ナノ粒子の形成を促進するための固体物質を加えてもよく、例えば、前記固体物質としてイオン交換樹脂をテンプレート触媒ナノ粒子形成時に加えることができる。前記固体物質は、最終的な触媒溶液又は触媒懸濁液から、周知の簡単な操作によって除去できる。
【0040】
テンプレート触媒ナノ粒子は、典型的には、前記触媒溶液又は触媒懸濁液を0.5時間〜14日間混合することにより得られる。このときの混合温度は0〜200℃であることが好ましい。前記混合温度は、テンプレート触媒ナノ粒子の粒径に影響を与える重要な因子である。
【0041】
前記触媒前駆体として鉄を用いた場合には、典型的には、鉄が塩化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等の鉄化合物となり、前記分散剤と反応又は結合することにより、テンプレート触媒ナノ粒子となる。これらの鉄化合物は、水系の溶媒に溶解する場合が多い。金属を用いてテンプレート触媒ナノ粒子を形成させる場合には、副生成物が生成する。このときの典型的な副生成物としては、水素ガスが挙げられる。典型的には、テンプレート触媒ナノ粒子は上記の混合工程で活性化されるか、又はさらには水素を用いることで還元を行う。
【0042】
テンプレート触媒ナノ粒子は、安定的に活性な金属触媒ナノ粒子の懸濁液として形成されることが好ましい。テンプレート触媒ナノ粒子が安定であることで、粒子同士の凝集が抑制される。また、一部又はすべてのテンプレート触媒ナノ粒子が沈降したとしても、混合することによって容易に再懸濁する。
【0043】
前記テンプレート触媒ナノ粒子は、炭素材料前駆体の重合、及び後述する炭素材料中間体の炭化を促進する触媒としての役割を担う。ここでテンプレート触媒ナノ粒子の径は、ナノ構造中空炭素材料における中空部の径に影響を与える。
【0044】
工程(2)においては、炭素材料前駆体が、テンプレート触媒ナノ粒子を分散させ、自身が重合することにより、テンプレート触媒ナノ粒子の表面に炭素材料中間体が形成される。
前記炭素材料前駆体は、テンプレート触媒ナノ粒子を分散させることができるものであれば特に限定されず、有機材料で好ましいものとしては、分子中に1つもしくは複数の芳香族環と、さらに重合化のための官能基とを有するベンゼンやナフタレン誘導体が例示できる。重合化のための官能基としては、「−COOH」、「−C(=O)−」、「−OH」、「−C=C−」、「−S(=O)−」、「−NH」、「−SOH」、「−N=C=O」等の基が例示できる。
【0045】
好ましい前記炭素材料前駆体としては、レゾルシノール、フェノール樹脂、メラニン−ホルムアルデヒドゲル、レゾルシノール−ホルムアルデヒドゲル、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、砂糖、石油ピッチ等が例示できる。
【0046】
テンプレート触媒ナノ粒子は、その表面で炭素材料前駆体が重合するように、炭素材料前駆体と混合される。テンプレート触媒ナノ粒子は触媒活性であるため、その粒子近傍で炭素材料前駆体の重合の開始及び/又は促進の役割を担う。
【0047】
炭素材料前駆体に対するテンプレート触媒ナノ粒子の使用量は、炭素材料前駆体が、均一にナノ炭素材料中間体を最大量形成できるように設定できる。また、テンプレート触媒ナノ粒子の使用量は、用いる炭素材料前駆体の種類に応じて調整することが好ましい。本発明においては、炭素材料前駆体とテンプレート触媒ナノ粒子とのモル比(炭素材料前駆体:テンプレート触媒ナノ粒子)は、好ましくは0.1:1〜100:1であり、より好ましくは1:1〜30:1である。
前記モル比、テンプレート触媒ナノ粒子の種類及び粒径は、後述するナノ構造中空炭素材料における炭素部の厚みに影響を与える。
【0048】
テンプレート触媒ナノ粒子及び炭素材料前駆体の混合物は、テンプレート触媒ナノ粒子の表面に炭素材料中間体が十分に形成されるまで、十分熟成させることが好ましい。炭素材料中間体を形成させるのに必要な時間は、温度、触媒の種類、触媒の濃度、溶液のpH、用いる炭素材料前駆体の種類に依存する。
【0049】
例えば、pH調整のためにアンモニアを加えることで、重合の速度を速め、炭素材料前駆体同士の架橋量を向上させ、効果的に重合できることがある。
また、熱により重合可能な炭素材料前駆体については、通常、温度が上昇するほど重合が進む。この場合の重合温度は、好ましくは0〜200℃、より好ましくは25〜120℃である。
また、例えば、レゾルシノール−ホルムアルデヒドゲル(鉄粒子を用いる場合で、懸濁液のpHが1〜14の場合)の最適な重合条件は、温度が0〜90℃であり、熟成時間が1〜72時間である。
【0050】
後述するナノ構造中空炭素材料の炭素部の厚みは、炭素材料前駆体の重合の進行度の調整によって制御できる。
【0051】
工程(3)においては、前記炭素材料中間体を炭化させて炭素材料を形成させ、ナノ構造複合材料を得る。炭化は、通常、焼成により行い、典型的には、500〜2500℃の温度で行う。焼成時には、炭素材料中間体における酸素原子、窒素原子が放出され、炭素原子の再配列が起こり、炭素材料が形成される。好ましい炭素材料は、グラファイト様の層状構造(多層状構造)を有するものであり、その厚みは好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜20nmである。層数は、炭素材料中間体の種類、厚み、焼成温度により制御できる。また、後述するナノ構造中空炭素材料の炭素部の厚みは、炭素材料中間体の炭化の進行度の調整によっても制御できる。
【0052】
工程(4)においては、前記ナノ構造複合材料から、前記テンプレート触媒ナノ粒子を除去して、ナノ構造中空炭素材料を得る。テンプレート触媒ナノ粒子の除去は、例えば、ナノ中空体構造、ナノリング構造を完全に壊すことのない手法で行えばよく、典型的には、ナノ構造複合材料と、硝酸、フッ酸溶液、水酸化ナトリウム等の酸又は塩基とを接触させることで行うことができる。なかでも、硝酸(例えば、5規定の硝酸)と接触させることが好ましく、3〜10時間リフラックスする条件が例示できる。
【0053】
前記ナノ構造中空炭素材料は、形状、大きさ、電気的特性において特異的である。典型的な形状(構造)としては、中空部を有する粒子状構造、袋状構造、少なくともこれらの一部を含む構造、又はこれらの集合体構造が例示できる。さらに、前記粒子状構造は、外形が略球状であることが好ましい。また、前記袋状構造としては、前記粒子状構造において、中空部を開放する部位(開口部)を一つのみ有するものが例示できる。
テンプレート触媒ナノ粒子の周囲に炭素材料が形成されることから、ナノ構造中空炭素材料の形状及び粒径、並びに中空部の形状及び径は、製造時に用いたテンプレート触媒ナノ粒子の形状及び大きさに大きく依存する。
【0054】
前記ナノ構造中空炭素材料の形状及び粒径、炭素部が多層状の場合の層数、炭素部の厚み、中空部の形状及び径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定することができる。
【0055】
本発明においては、前記液晶ポリエステルと前記ナノ構造中空炭素材料とを溶融混練することにより、液晶ポリエステル組成物を製造する。液晶ポリエステルとナノ構造中空炭素材料との使用比率は、両者の合計量を100質量部として、液晶ポリエステルが85〜99質量部、ナノ構造中空炭素材料が1〜15質量部であり、好ましくは液晶ポリエステルが90〜96質量部、ナノ構造中空炭素材料が4〜10質量部である。液晶ポリエステルが多過ぎる(ナノ構造中空炭素材料が少な過ぎる)と、得られる組成物の導電性が不十分になる可能性がある。また、液晶ポリエステルが少な過ぎる(ナノ構造中空炭素材料が多過ぎる)と、得られる組成物の機械的強度、成形加工性が不十分になる可能性がある。
【0056】
溶融混練に供する液晶ポリエステル組成物は、前記液晶ポリエステル及びナノ構造中空炭素材料以外に、必要に応じて、充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を一種以上含んでもよい。
【0057】
前記充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよく、繊維状及び板状以外のその他の充填材であってもよい。その他の充填材としては、例えば、球状等の粒状充填材が挙げられる。
また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;ステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム、炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母、金雲母、フッ素金雲母及び四ケイ素雲母のいずれでもよい。
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウムが挙げられる。
充填材の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部である。
【0058】
前記添加剤の例としては、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜5質量部である。
【0059】
前記液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部である。
【0060】
本発明においては、液晶ポリエステルとナノ構造中空炭素材料との溶融混練を、1000〜9000/秒のせん断下で行う。このように所定範囲の高せん断速度で溶融混練を行うことにより、ナノ構造中空炭素材料が分散し、導電性に優れた組成物が得られる。前記せん断速度は、好ましくは1000〜5000/秒、より好ましくは1000〜3000/秒である。前記せん断速度が小さ過ぎると、ナノ構造中空炭素材料の分散が不十分となり、大き過ぎると液晶ポリエステルが熱劣化する可能性がある。
本発明においては、前記ナノ構造中空炭素材料が、例えば、カーボンナノチューブ等の炭素材料よりも分散し易いうえ、高せん断速度で溶融混練を行うことにより十分に分散し、その結果、前記ナノ構造中空炭素材料が少なくても、半導電性有する組成物が得られると考えられる。
【0061】
溶融混練時の温度は、液晶ポリエステルとナノ構造中空炭素材料の種類に応じて適宜調節すればよいが、好ましくは250〜400℃、より好ましくは270〜400℃、さらに好ましくは280〜380である。
【0062】
前記溶融混練は、従来の2軸押出機では不可能であったナノコンパウンディング等の押出成形を可能にする高せん断型の混練機、例えば、完全噛合型同方向回転平行4軸押出機(例えば、テクノベル社製の「KZW FR」)や帰還型スクリューを備えた高せん断成形加工機(例えば、ニイガタマシンテクノ社製の「NHSS2−28」)を用いて行うことができ、特に、帰還型スクリューを備えた高せん断成形加工機を用いて行うことが好ましい。
【0063】
前記溶融混練は、液晶ポリエステル、ナノ構造中空炭素材料及び必要に応じて他の成分を、予めヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて混合した後、この混合物を混練機に供給することにより行ってもよい。また、他の成分を用いる場合には、液晶ポリエステルと、ナノ構造中空炭素材料とを予め混合した後、この混合物と他の成分とを別々に混練機に供給することにより行ってもよい。また、ハンドリングが良好となる点から、通常の押出機を用いて、液晶ポリエステル、ナノ構造中空炭素材料及び必要に応じて他の成分を低せん断下で溶融混練してペレット化した後、このペレットを上記のように1000〜9000/秒の高せん断下で溶融混練してもよい。
【0064】
本発明により得られた液晶ポリエステル組成物は、各種成形体を製造するための成形材料として好適に用いられる。成形方法としては、樹脂を溶融・賦型・固化させ得る各種方法が採用でき、例えば、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法が挙げられ、中でも射出成形法が好ましい。得られた成形体は、さらに切削やプレス等により加工してもよい。
【0065】
前記液晶ポリエステル組成物を用いて得られた成形体としては、例えば、ウエハキャリア、 ICチップキャリア、液晶パネルキャリア、HDキャリア、 MRヘッドキャリア、 GMRヘッドキャリア、HDDのVCMキャリア等のキャリア;電子写真複写機や静電記録装置等の画像形成装置における帯電ロール、帯電ベルト、除電ベルト、転写ロール、転写ベルト、現像ロール等の帯電部材;紙幣等の紙の搬送装置部品等が挙げられる。ここで「キャリア」とは、各種部材や物品等の搬送に用いる、容器状やトレイ状等の搬送体を指す。
【実施例】
【0066】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、濃度単位「M」は、「mol/l」を指す。また、以下の実施例において、液晶ポリエステルの流動開始温度、並びに成形体の体積固有抵抗値及び引張強度は、それぞれ以下の方法で測定した。
【0067】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
(成形体の体積固有抵抗値の測定)
ASTM D257に準拠した体積固有抵抗測定法により、デジタル超絶縁/微少電流計(DSM−8104、東亜ディーケーケー社製)を用いて、測定温度23℃での体積固有抵抗値を求めた。
(成形体の引張強度の測定)
ASTM D638に準拠して測定した。
【0068】
<液晶ポリエステルの製造>
[製造例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸(994.5g、7.2モル)、テレフタル酸(299.1g、1.8モル)、イソフタル酸(99.7g、0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(446.9g、2.4モル)、無水酢酸(1347.6g、13.2モル)及び1−メチルイミダゾール0.2gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分間かけて昇温し、150℃で1時間還流させた。次いで、1−メチルイミダゾールを0.9g添加し、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、320℃まで2時間50分かけて昇温し、320℃でトルクの上昇が認められるまで保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。次いで、このプレポリマーを、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル1を得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、327℃であった。
【0069】
<ナノ構造中空炭素材料の製造>
[製造例2]
2.24gの鉄粉末と7.70gのクエン酸と400mlの水で0.1Mの鉄混合液を調製し、これを密閉容器に入れ、卓上震盪機で7日間混合した。混合期間中、適宜発生した水素ガスを容器から排出し、テンプレート触媒ナノ粒子混合液を得た。6.10gのレゾルシノールと9.0gのホルムアルデヒドの混合溶液に、前記テンプレート触媒ナノ粒子混合液100mlを加え、激しく撹拌しながら30mlのアンモニア水溶液を滴下した。得られた懸濁液のpHは10.26であった。上記懸濁液をオイルバス上で80〜90℃に加熱して3.5時間熟成させ、炭素材料中間体を生成させた。得られた炭素材料中間体をろ過により回収し、一晩オーブン中で乾燥させたのち、窒素雰囲気中、1150℃で3時間焼成した。得られたナノ構造複合材料を5Mの硝酸溶液で6〜8時間リフラックスさせ、酸化性混合液(HO/HSO/KMnO=1/0.01/0.003(モル比))300ml中、90℃で3時間熱処理した。さらに水で洗浄し、オーブン中で3時間乾燥させて、ナノ構造中空炭素材料1(1.1g)を得た。
【0070】
<原料用液晶ポリエステル組成物の製造>
[製造例3]
製造例1で得られた液晶ポリエステル1(94質量部)と、製造例2で得られたナノ構造中空炭素材料1(6質量部)とを、ヘンシェルミキサーで混合した後、二軸押出機(池貝鉄工社製、PCM−30)を用いて、シリンダー温度340℃で100/秒のせん断下で混練して造粒し、液晶ポリエステル組成物1aを得た。
【0071】
[製造例4]
液晶ポリエステル1の使用量を94質量部に代えて96重量部とし、ナノ構造中空炭素材料1の使用量を6質量部に代えて4質量部としたこと以外は、製造例3と同様の方法で液晶ポリエステル組成物2aを得た。
【0072】
<成形用液晶ポリエステル組成物及び成形体の製造>
[実施例1]
液晶ポリエステル組成物1aを、帰還型スクリュウを備えた高せん断成形加工機(ニイガタマシンテクノ社製、NHSS2−28、スクリュー径28mm、スクリュー帰還部の内径2.5mm)に投入し、ギャップを2mmに設定し、可塑化部温度300℃、混練部温度320℃にて加熱溶融させ、スクリュー回転数を2000rpmとして、4400/秒のせん断下で30秒間混練し、その後、T−ダイから押し出して、液晶ポリエステル組成物1を得た。その際、せん断発熱を低減するため、冷却機構を用いて、混練部の温度が360℃を超えないように温度制御した。得られた液晶ポリエステル組成物1を、プレス機(神藤金属工業所製、NP−37)を用いて、340℃、100MPaの条件でプレス成形し、50mm×50mm×3mmtの成形体1−1を得、その体積固有抵抗値を測定した。また、得られた液晶ポリエステル組成物1を、ハンドトゥルーダー(東洋精機社製、PM−1)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度150℃の条件で射出成形し、厚み2mmのJIS 7113 1(1/2)号ダンベル(成形体1−2)を得、その引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
液晶ポリエステル組成物1aに代えて、液晶ポリエステル組成物2aを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、液晶ポリエステル組成物2、成形体2−1及びダンベル(成形体2−2)を製造し、成形体2−1の体積固有抵抗値及び成形体2−2の引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例1]
液晶ポリエステル組成物1aを、プレス機(神藤金属工業所製、NP−37)を用いて、340℃、100MPaの条件でプレス成形し、50mm×50mm×3mmtの成形体1R−1を得、その体積固有抵抗値を測定した。また、液晶ポリエステル組成物1aを、ハンドトゥルーダー(東洋精機社製、PM−1)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度150℃の条件で射出成形し、厚み2mmのJIS 7113 1(1/2)号ダンベル(成形体1R−2)を得、その引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例2]
液晶ポリエステル組成物1aに代えて、液晶ポリエステル組成物2aを使用したこと以外は、比較例1と同様の方法で成形体2R−1及びダンベル(成形体2R−2)を製造し、成形体2R−1の体積固有抵抗値及び成形体2R−2の引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
上記結果から明らかなように、実施例の成形体は、半導電性を有し、比較例の成形体よりも、機械的強度に優れることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、帯電防止性、塵埃吸着防止性等が求められる樹脂成形体など、半導電性を有する樹脂成形体の分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと、下記(A)の要件を満たすナノ構造中空炭素材料とを含有する液晶ポリエステル組成物の製造方法であって、
前記液晶ポリエステル85〜99質量部と、前記ナノ構造中空炭素材料1〜15質量部とを、1000〜9000/秒のせん断下で溶融混練する工程を有することを特徴とする液晶ポリエステル組成物の製造方法。
(A)ナノ構造中空炭素材料が、炭素部及び中空部を有し、前記中空部の一部又は全体が前記炭素部により囲まれた構造を有する。
【請求項2】
前記ナノ構造中空炭素材料の前記炭素部の厚みが1〜100nmであり、前記中空部の径が0.5〜90nmであることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ構造中空炭素材料が、下記工程(1)、(2)、(3)及び(4)をこの順に有する方法で得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
(1)テンプレート触媒ナノ粒子を製造する工程。
(2)前記テンプレート触媒ナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体の重合を行い、前記テンプレート触媒ナノ粒子の表面に炭素材料中間体を形成させる工程。
(3)前記炭素材料中間体を炭化させて炭素材料を形成させ、ナノ構造複合材料を製造する工程。
(4)前記ナノ構造複合材料から、前記テンプレート触媒ナノ粒子を除去して、ナノ構造中空炭素材料を製造する工程。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルと前記ナノ構造中空炭素材料との溶融混練を、帰還型スクリューを備えた混練機により行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法で液晶ポリエステル組成物を得、この液晶ポリエステル組成物を成形することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項6】
前記成形体がキャリアであることを特徴とする請求項5に記載の成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−201689(P2012−201689A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64324(P2011−64324)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】