液晶レンズの製造方法
【課題】量産性に優れ、可変焦点レンズとして波面収差の小さい良好な結像性能を得ることが可能となる液晶レンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の液晶レンズの製造方法は、ラビング処理が施された配向膜を内側に有する一対の透明基板で液晶を挟持してなり、一対の透明基板のうち、少なくとも一方の透明基板の液晶側の基板表面に、凹部又は凸部が形成された液晶レンズの製造方法において、一対の透明基板の基板表面の少なくとも一方に、凹部又は凸部を形成する工程と、凹部又は凸部の表面に、配向膜を塗布する工程と、その配向膜の表面に、第1のラビング方向にラビングロールを移動させる第1のラビング処理工程と、第1のラビング処理における第1のラビング方向とは、180度逆方向となる第2のラビング方向にラビングロールを移動させる第2のラビング処理工程と、を有することを特徴とする。
【解決手段】本発明の液晶レンズの製造方法は、ラビング処理が施された配向膜を内側に有する一対の透明基板で液晶を挟持してなり、一対の透明基板のうち、少なくとも一方の透明基板の液晶側の基板表面に、凹部又は凸部が形成された液晶レンズの製造方法において、一対の透明基板の基板表面の少なくとも一方に、凹部又は凸部を形成する工程と、凹部又は凸部の表面に、配向膜を塗布する工程と、その配向膜の表面に、第1のラビング方向にラビングロールを移動させる第1のラビング処理工程と、第1のラビング処理における第1のラビング方向とは、180度逆方向となる第2のラビング方向にラビングロールを移動させる第2のラビング処理工程と、を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を挟持した透明基板の内側に凹部又は凸部が形成された液晶レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼鏡やカメラなどの結像光学系において、また、プロジェクターなどの投影光学系において、それぞれの用途に合わせて光線を集光させるレンズ状態と、光線をそのまま素通しする素ガラス状態とを、自在に切り替えることができる液晶レンズ技術が提案されている(例えば、特許文献1参照のこと)。
【0003】
以下、その従来の液晶レンズの構成を図面に基づいて説明する。図9は、特許文献1に記載されている液晶レンズの上面図と断面図およびその液晶レンズの課題を示した図面である。
【0004】
図9に示す様に、従来の液晶レンズ101は、液晶分子を配向するための配向膜7a、7bと、液晶に電圧を印加するための透明電極(図示せず)をそれぞれ有する二枚の透明基板2a、2bによって、液晶3を挟持した構成となっている。なお、透明基板2aの液晶3側表面には、凹形状のレンズ面4aが形成されたレンズ部位4と、そのレンズ面4aに配向膜7aが形成されている。
【0005】
上述した配向膜7a、7bは、例えばポリイミド系やポリアミド系の有機配向膜であり、液晶分子を特定の方向に配向させるために、コットンなどで物理的に摩擦するラビング処理が施されて、配向膜7a、7bの表面に、液晶分子を一定方向に一様に配向させるための、複数のラビングスジが形成される。この様に、透明基板2a、2bは、液晶3と接するレンズ面4aに設けられた配向膜7a、7bによって、透明基板2a、2bに挟持される液晶3の液晶分子を一様に配向させることができる。
【0006】
この様にして構成された従来の液晶レンズ101は、対向する透明基板2a、2bの表面にそれぞれ形成された透明電極(図示せず)の間が無電圧印加状態で、樹脂からなるレンズ部位4と液晶3との間で屈折率差を生じさせて、入射する光線に対してレンズとして作用する。また、その透明電極の間に電界を加えられると、発生した電界に沿って液晶3中の液晶分子が配列して、樹脂からなるレンズ部位4と液晶3との屈折率差がほぼ同じとなり、素ガラス状態となり、入射する光線をそのまま通過させ、レンズ状態と素ガラス状態を任意に切り替えることが出来る。
【0007】
【特許文献1】特開2001−272646号公報(第4頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この従来の液晶レンズ101は、比較的外形サイズが大きい場合には特に問題が生じないが、外形サイズを小さくすると下記問題を生じる。この外形サイズを、例えば5mm角程度とした液晶レンズは、一様に液晶分子が配列している領域と、全体の内の一部に、点線で囲ったような配向乱れ領域Dが存在する。ここで、この配向乱れ領域Dが何故存在してしまうのかについて説明する。図10は、従来の液晶レンズの製造工程における、ラビング処理工程を示す図面である。
【0009】
図10に示す通り、外形サイズが小サイズの液晶レンズを製造する上でのラビング処理
工程は、ラビングロール9の曲率に対して、レンズ部位4の凹面形状の窪み部分の曲率が極端に大きいため、その凹面形状に沿ってラビングロール9を移動させることができず、ラビングロール9を回転させながら、第1のラビング方向11に透明基板2aに対して平行移動させて行わなくてはならない。ここで、ラビングロール9の回転によって、配向膜7aを一定方向に摩擦することでラビングスジ8を付与するが、レンズ部位4の影部分に、ラビングスジ8が付与されない、図中の領域Cが存在してしまう。
【0010】
このラビング処理が施されなかった領域Cを有する透明基板2aと、対向配置する透明基板2bとを組み合わせて製造したのが図9に示した液晶レンズ101であって、この配向乱れ領域Dにおいては、液晶分子の配向方位を定めることができずに、ランダムに配向する。そして、この様な配向乱れ領域Dを有する液晶レンズ101は、初期的に波面収差を持つこととなる。
【0011】
ここで、この配向乱れ領域Dを有する液晶レンズ101の結像性能について説明する。図11は、従来の液晶レンズ101の、結像性能を説明するための図であり、同図(a)がレンズ状態とした場合を示し、同図(b)が素ガラス状態の場合を示している。
【0012】
図11(a)で示す様に、配向乱れ領域D以外を通過した光線は、正常に目的の焦点位置Fで集光するが、レンズ周辺部の液晶3の配向乱れ領域Dを通った光線を、本来の焦点位置Fに集光させることができずに焦点位置Gで結像し、結果として集光した集光スポットに波面収差が生じていることが判る。また、図11(b)に示す様に、液晶3に電界を印加した場合であっても、液晶3の配向乱れ領域Dで生じる問題が解消されるわけではなく、本来は素ガラス状態として出射する光線が、点線で示した出射光102として通過しなくてはならないのに、その領域を通る光線のみが屈折して、実線で示した出射光103、104となってしまう。
【0013】
このように、小サイズの従来の液晶レンズ101は配向乱れ領域Dを有するので、電圧無印加状態でのレンズ状態、および電圧印加状態の素ガラス状態のいずれにおいても、集光スポットに波面収差が発生してしまうという結像性能しか発揮できなかった。
【0014】
そこで、本発明は上記課題を解決し、外形サイズを小さくしたとしても、波面収差の小さい良好な結像性能を十分に得ることができる液晶レンズを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の液晶レンズの製造方法は、基本的に下記の構成を有するものである。
【0016】
本発明の液晶レンズの製造方法は、ラビング処理が施された配向膜を内側に有する一対の透明基板で液晶を挟持してなり、一対の透明基板のうち、少なくとも一方の透明基板の液晶側の基板表面に、凹面形状又は凸面形状が形成された液晶レンズを製造するにあたって、一対の透明基板の基板表面の少なくとも一方に、凹面形状又は凸面形状を形成する工程と、凹面形状又は凸面形状の表面に、配向膜を塗布する工程と、その配向膜の表面に、第1のラビング方向にラビングロールを移動させて行う第1のラビング処理を行う工程と、第1のラビング方向とは180度逆方向となる第2のラビング方向に、ラビングロールを移動させて行う第2のラビング処理を行う工程と、を有して形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一対の透明基板の少なくとも一方に、凹面形状又は凸面形状があった
としても、凹凸形状表面の全面に渡って均一なラビングスジを形成することができる。
【0018】
そして、外形サイズが小さな液晶レンズを製造するにあたって、本発明の液晶レンズの製造方法を採用することにより、可変焦点レンズとして波面収差の小さい良好な結像性能を得ることが可能である液晶レンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
従来の液晶レンズにおける配向乱れ領域を無くし、外形サイズが小さくて、透明基板表面に凹凸形状があろうとも、一様な方向に液晶分子を配列することが出来る本発明の液晶レンズの製造方法について説明する。
【実施例1】
【0020】
まず、従来の液晶レンズで発生していた配向乱れ領域が存在しない、本実施例の液晶レンズ1の製造方法について図1から図5を参照して説明する。図1は、本実施例の液晶レンズの製造方法を示すフロー図であり、図2〜図5は、本実施例の液晶レンズの具体的製造方法を示す図面である。
【0021】
図1に示す様に、本実施例の製造方法は、6工程(ST1〜ST6)を有する。
まず、透明基板2a上に樹脂をスピンコートや印刷などで均一に形成する。この均一に形成された樹脂に、図2で示すようなレンズ形状を有する金型5を押し付けた状態で樹脂を硬化することで、レンズ面を有するレンズ部位4を成型する。その後、図中の矢印の方向にレンズ形状を有する金型5を透明基板2aにおけるレンズ面4aから離形して、レンズ部位4を有する透明基板2aが完成する(ST1)。
【0022】
尚、レンズ部位4を形成する樹脂からなる凹部表面は、金型5との離形性を考慮する必要がある。ここで、その凹部表面の樹脂材料を疎水性にする手法や、金型5の表面に離形処理を施しておく手法などが知られているが、樹脂材料の疎水性を高めると本工程での金型5との離型性が向上するものの、後の配向膜成形工程において、配向膜を均一に塗布できなくなってしまう場合がある。そのため、本実施例においては、樹脂材料の疎水性を高める手法を採用せずに、金型5の表面に離形処理を施した上で、上述したST1を行う手法を採用した。
【0023】
この様にして形成された透明基板2aは、樹脂によって凹面形状が形成されていることから、このまま表面に印刷やスピンコートなどで配向膜を形成しようとすると、従来構成と同様に、配向膜が塗れない部分が生じてしまう。そのため、本発明の製造方法では、図3に示すように、インクジェット6によってレンズ部位4のレンズ面4aに配向膜7aを形成した(ST2)。インクジェット6によって配向膜7aを成形する場合、レンズ部位4の凹部表面に隙間なく配向膜7aを塗布することが可能となる。また、レンズ部位4の凹面形状のレンズ面4aに合わせてインクジェット6の高さ調整を行うことができるので、スピンコートによる配向膜塗布に比べて、より配向膜7aの均一性を高めることが可能となる。
【0024】
次に図4(a)で示す通り、コットンなどを巻きつけたラビングロール9を一方向に回転させた状態で、配向膜7aに接触させる。その後にラビングロール9は、回転を維持した状態で第1のラビング方向11に透明基板2aに対して平行移動させて第1のラビング処理を行う(ST3)。このように、ラビングロール9の回転によって、配向膜7aを一定方向に摩擦することで、配向膜7a上に液晶分子を一定方向に一様に配向させるための、第1のラビング方向11に沿って配列する複数のラビングスジ8を付与することができる。
【0025】
ここで、図4(a)で示す通り、レンズ部位4は凹凸部を有しているために、ラビングロール9の第1のラビング方向11と回転方向に依存して、ラビングスジ8を付与することができない図中の領域Cが発生してしまう。この領域Cが発生する原因は、図で示す通り、液晶レンズ1の外形サイズが小さく(例えば5mm角程度)、ラビングロール9の曲率に対してレンズ部位4の曲率が極端に大きいために、第1のラビング方向11によって、そのラビングロール9表面がレンズ面4aの凹部表面と物理的に接触不可能な領域ができてしまうことに起因する。このようにラビング処理が施されなかった領域Cは、液晶3を一定方向に配向させるためのラビングスジ8が存在しないことから、このままの状態で他方の透明基板を貼り合わせて液晶レンズを製造してしまうと、先述した図9で示した液晶レンズ101が完成した際における配向乱れ領域Dが発生してしまうこととなる。
【0026】
そこで、本発明においては、図4(a)のように第1のラビング方向11によってラビングスジ8を付与した後に、図4(b)で示す第2のラビング方向12にさらにラビング処理を施して、特にこの領域Cに新たにラビングスジ8を形成することによって、樹脂からなるレンズ部位4におけるレンズ面4a上のすべてにラビングスジ8を付与する第2のラビング処理を行う(ST4)。
【0027】
このとき、第1、第2のラビング処理における第1のラビング方向11と第2のラビング方向12は、180度逆方向としてある。また、ラビングロール9の回転は、液晶分子のプレチルト角を付与する方向に関与し、またラビング処理が施されなかった領域Cを確実にラビング処理するために、第2のラビング処理工程においても第1のラビング処理工程とほぼ同じ回転方向とし(180度逆方向となるようにし)、上記第1と第2のラビング処理の条件として、押し込み量を0.4mmとし、回転数は1000rpm、送り速度は25mm/sとして、第1と第2のラビング処理をともに同じ条件で行った。
【0028】
上記条件でラビング処理することで、配向膜7aの表面に安定したラビングスジ8を付与でき、レンズ面4aの全ての領域で所望のプレチルト角で液晶分子を配列させることができる様になる。このときの液晶分子のプレチルト角は、できるだけ高く、例えば5〜6°程度に設定した方が好ましい。それは、液晶分子は凹面形状の表面に配向する必要があり、急な斜面では液晶分子の方位が定まり難くなるためである。
【0029】
次に、図5に示す様に、透明基板2aにセル厚を均一に保つためのスペーサーなどを含んだシール材10を配した後に、透明基板2aに透明基板2bを重ね合わせてシール材10を硬化させた空セル(液晶が充填されていない空の状態のセル)を作製する(ST5)。なお、このとき重ね合わせる透明基板2bの配向膜7bの配向方向は、対向する配向膜7aと同じ方向となっている。つまり、ここで製造された液晶レンズ1は、透明基板2a、2bに対して一様に平行に配向させるホモジニアス配向の液晶レンズである。なお、樹脂材料からなるレンズ部位4上ではなく透明基板2a上に、シール材10を配置している理由は、シール材10に混入されたスペーサーが樹脂からなるレンズ部位4に押し込まれて、所望のセル厚の維持が困難となる場合が想定されるからである。また、シール材10に熱硬化性樹脂を用いると、そのシール材10形成の際に、成形後のレンズ部位4に熱が掛けることとなる。そのため、レンズ部位4を構成する樹脂材料の耐熱性を考慮すると、そのシール材10にはUV硬化タイプの樹脂材料を使用する方が好ましい。
【0030】
最後に、上記工程で形成した空セルに、真空注入法などによって液晶3を注入し、液晶3をセル内に注入した注入口を封止することで、目的の液晶レンズ1が完成する(ST6)。
【0031】
次に、本実施例を用いて製造された液晶レンズ1の構成について説明する。
図5に示す様に、第1の実施形態の製造方法で得られる液晶レンズ1は、液晶3と接す
る面に凹面形状のレンズ面4aを有して、樹脂によって形成されたレンズ部位4を備えた透明基板2aと、対向する平板の透明基板2bによって構成されている。また、レンズ部位4におけるレンズ面4aは、入射光線の光軸と直交する面内で、光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状で形成されている。このレンズ面4aの凹面形状を凸面形状に代えたり、球面または非球面とするのかは、設計仕様に応じて任意である。さらには、このレンズ面4aの曲率を大きくする必要がある場合、液晶3を厚くしなくてはならず、そうすると液晶レンズ1の応答性が問題となる。その様なときは、レンズ部位4のレンズ面4aをフレネルレンズ形状として、液晶3の厚みを厚くせずとも高いレンズ性能を有する構成としてもよい。
【0032】
また、レンズ部位4を有する透明基板2a、および対向する透明基板2bには、それぞれの基板表面に形成された透明電極(図示せず)と配向膜7a、7bとによって、基板間に挟持する液晶3に給電を行って、入射光線に対して、樹脂からなるレンズ部位4と液晶3との屈折率差を付与する。この様な作用を受けて、本実施例における液晶レンズ1は、レンズ状態と素ガラス状態とを切り替えることが出来る。
【0033】
ここで示されている本発明に係る液晶レンズ1は、基本的には従来の構成と同じであるが、図9に示した従来の構成における配向乱れ領域Dなるものは存在せず、無電圧印加状態で液晶分子が一様の方向に並んでいることが判る。このように液晶レンズ1は、液晶3の配向乱れによる結像性能の低下などの影響を受けることがなく、安定した配向性を持ち良好な結像性能を示すことができる。
【0034】
次に、その作用について図6を用いて説明する。図6は、図5に示した液晶レンズ1について、入射光が結像する様子を示す図である。
【0035】
図6で示す通り、本実施例における液晶レンズ1は、無電圧印加状態でセル内の全ての領域内において、確実にラビング処理が施された配向膜7a、7bによって液晶3が均一に配向していることから、焦点位置に集光する集光スポットにおいて配向乱れの影響による波面収差を生じることはない。もちろん電圧印加によって駆動した際にも、液晶3の配向均一性は保持されるため、焦点を可変した際のすべての集光スポットにおいても配向乱れの影響による波面収差が生じることなく、安定した結像性能を得ることができる。
【0036】
このように、本発明における第一の実施形態における液晶レンズ1の製造方法により、簡易で安価な構成で、量産性に優れ、可変焦点レンズとして波面収差の小さい良好な結像性能を得ることが可能である液晶レンズを提供することができる。
【0037】
なお、ここまでの説明では、液晶3はホモジニアス配向を有するネマテック液晶を用いた例を示したが、これを垂直配向型液晶に代えた構成としても良い。
【0038】
また、図5示した液晶レンズ1において、透明基板2aの一方の液晶3側のレンズ表面側に凹部又は凸部を形成した例を示したが、両方の透明基板2a、2bのそれぞれに凹部又は凸部を形成しても良いし、凹部と凸部とを組み合わせた形態としても良い。なお両方の透明基板2a、2bに凹部又は凸部を形成した場合には、本発明の製造方法を両方の透明基板2a、2bにそれぞれ適用すれば、良好な配向性によって安定した結像性能を得る液晶レンズとすることが可能となる。
【0039】
また、上記説明では、図示しない透明電極間に電圧を印加しない無電圧印加状態で入射光を所定の焦点位置で集光させ、透明電極間に電圧を印加して素ガラス状態として作用させる形態を説明したが、無電圧印加状態で素ガラス状態とし、電圧印加状態で集光状態とするように液晶レンズ1を設計することも出来る。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明における液晶レンズの他の構成について、図7および図8を用いて説明する。図7は、第2の実施形態の製造工程を示す図である。また、図8は、第2の実施形態で製造される、焦点可変機能を複数個有する液晶マイクロレンズアレイ13を示す上面図とこの上面図におけるE−E断面図である。
【0041】
尚、本実施例で説明する液晶マイクロレンズアレイ13の構成と、先に示した実施例1の液晶レンズ1の構成の相違点は、樹脂によって形成されたレンズ部位4からなるレンズ面4aが、図7に示す様に複数個となる点のみであり、製造方法および結像性能は基本的に同じである。したがって、下記の説明では、図1のフロー図を元に本実施例における特徴部分である、樹脂によって形成されたレンズ部位4からなるレンズ面4aが複数個である点について主に説明する。
【0042】
まず、本実施例の製造方法について図1、図7、図8を参酌しながら説明する。
図1に示す様に、複数個のレンズ形状を有する金型を用いて、複数個の凹部からなるマイクロレンズ形状のレンズ部位を成形する(ST1)。次に、その複数個の凹部のレンズ表面に、インクジェットによって配向膜を形成する(ST2)。
【0043】
次に、図7に示す様に、樹脂のレンズ部位4からなるレンズ面4aが、透明基板2a上に複数個あり、樹脂の凹凸形状はより複雑化されているために、図7(a)で示したようにラビングスジ8を付与することができない領域Cが、レンズ部位4からなるレンズ面4aの複数個にそれぞれ形成されてしまうこととなる。この領域Cが発生する原因は、先の実施例と同様に、液晶レンズ自体の外形サイズが小さく、ラビングロール9の曲率に対してレンズ部位4の曲率が極端に大きいために、ラビング方向によって、そのロール表面が凹部表面と物理的に接触不可能な領域ができてしまうためである。
【0044】
そこで、図7(a)のように第1のラビング方向11によってラビングスジ8を付与する第1のラビング処理を行った後に(ST3)、図7(b)で示す第2のラビング方向12でさらにラビング処理を施す第2のラビング処理を行うことによって(ST4)、樹脂のレンズ部位4からなる複数個のレンズ面4a上のすべての領域に、ラビングスジ8を均一に付与することができる。なお、第1、第2のラビング方向11、12が180度逆方向としており、ラビング圧、ラビングロール9の移動速度等の製造条件は、実施例1と同じである。また、続けて行うST5、ST6においては、先の実施例と同様となるためここでの説明は省略する。
【0045】
以上のようにして、図8に示す、液晶3と接する面に樹脂によって形成された複数個のレンズ面4aを有するレンズ部位4が形成された透明基板2aと、対向する透明基板2bによって構成された液晶マイクロレンズアレイ13を得ることが出来る。なお、これら複数個のレンズ面4aは、それぞれ入射光線の光軸と直交する面内で、光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状で形成されている。このレンズ部位4からなる複数個のレンズ面4aを凸部とすることや、球面または非球面とするのか、又はフレネルレンズ面とするかは、設計仕様に応じて任意である。
【0046】
この様に、液晶マイクロレンズアレイ13においても、樹脂のレンズ部位4からなるレンズ面4aが複数個あることで、より複雑化された凹凸形状であっても安定した液晶3の配向性を得ることができるために、それぞれのレンズ面4aから焦点位置に集光する集光スポットにおいても配向乱れの影響による波面収差を生じることはない。もちろん電圧印加によって駆動して素ガラス状態とした際にも、液晶3の配向均一性はそれぞれのレンズ面で保持されるため、焦点を可変した際のすべての集光スポットにおいても配向乱れの影
響による波面収差が生じることなく安定した結像性能を得ることができる。
【0047】
また、本発明における第二の実施形態における液晶マイクロレンズアレイ13においても、第一の実施形態同様の製造方法により、簡易で安価な構成で、量産性に優れ、可変焦点マイクロレンズアレイとして波面収差の小さい良好な結像性能を得ることが可能である液晶レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の液晶レンズの製造方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図3】本発明の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図4】本発明の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図5】本発明の製造方法で得られる液晶レンズの構成を示す上面図および断面図である。
【図6】本発明の製造方法で得られる液晶レンズの結像性能を示す図である。
【図7】本発明の液晶レンズの他の製造方法を示す図である。
【図8】本発明の他の製造方法で得られる液晶レンズの構成を示す上面図および断面図である。
【図9】従来の液晶レンズの構成、および従来の構成の問題点を示す上面図および断面図である。
【図10】従来の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図11】従来の液晶レンズの結像性能を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 液晶レンズ
2a、2b 透明基板
3 液晶
4 レンズ部位
4a レンズ面
5 金型
6 インクジェット
7a、7b 配向膜
8 ラビングスジ
9 ラビングロール
10 シール材
11 第1のラビング方向
12 第2のラビング方向
13 液晶マイクロレンズアレイ
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を挟持した透明基板の内側に凹部又は凸部が形成された液晶レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼鏡やカメラなどの結像光学系において、また、プロジェクターなどの投影光学系において、それぞれの用途に合わせて光線を集光させるレンズ状態と、光線をそのまま素通しする素ガラス状態とを、自在に切り替えることができる液晶レンズ技術が提案されている(例えば、特許文献1参照のこと)。
【0003】
以下、その従来の液晶レンズの構成を図面に基づいて説明する。図9は、特許文献1に記載されている液晶レンズの上面図と断面図およびその液晶レンズの課題を示した図面である。
【0004】
図9に示す様に、従来の液晶レンズ101は、液晶分子を配向するための配向膜7a、7bと、液晶に電圧を印加するための透明電極(図示せず)をそれぞれ有する二枚の透明基板2a、2bによって、液晶3を挟持した構成となっている。なお、透明基板2aの液晶3側表面には、凹形状のレンズ面4aが形成されたレンズ部位4と、そのレンズ面4aに配向膜7aが形成されている。
【0005】
上述した配向膜7a、7bは、例えばポリイミド系やポリアミド系の有機配向膜であり、液晶分子を特定の方向に配向させるために、コットンなどで物理的に摩擦するラビング処理が施されて、配向膜7a、7bの表面に、液晶分子を一定方向に一様に配向させるための、複数のラビングスジが形成される。この様に、透明基板2a、2bは、液晶3と接するレンズ面4aに設けられた配向膜7a、7bによって、透明基板2a、2bに挟持される液晶3の液晶分子を一様に配向させることができる。
【0006】
この様にして構成された従来の液晶レンズ101は、対向する透明基板2a、2bの表面にそれぞれ形成された透明電極(図示せず)の間が無電圧印加状態で、樹脂からなるレンズ部位4と液晶3との間で屈折率差を生じさせて、入射する光線に対してレンズとして作用する。また、その透明電極の間に電界を加えられると、発生した電界に沿って液晶3中の液晶分子が配列して、樹脂からなるレンズ部位4と液晶3との屈折率差がほぼ同じとなり、素ガラス状態となり、入射する光線をそのまま通過させ、レンズ状態と素ガラス状態を任意に切り替えることが出来る。
【0007】
【特許文献1】特開2001−272646号公報(第4頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この従来の液晶レンズ101は、比較的外形サイズが大きい場合には特に問題が生じないが、外形サイズを小さくすると下記問題を生じる。この外形サイズを、例えば5mm角程度とした液晶レンズは、一様に液晶分子が配列している領域と、全体の内の一部に、点線で囲ったような配向乱れ領域Dが存在する。ここで、この配向乱れ領域Dが何故存在してしまうのかについて説明する。図10は、従来の液晶レンズの製造工程における、ラビング処理工程を示す図面である。
【0009】
図10に示す通り、外形サイズが小サイズの液晶レンズを製造する上でのラビング処理
工程は、ラビングロール9の曲率に対して、レンズ部位4の凹面形状の窪み部分の曲率が極端に大きいため、その凹面形状に沿ってラビングロール9を移動させることができず、ラビングロール9を回転させながら、第1のラビング方向11に透明基板2aに対して平行移動させて行わなくてはならない。ここで、ラビングロール9の回転によって、配向膜7aを一定方向に摩擦することでラビングスジ8を付与するが、レンズ部位4の影部分に、ラビングスジ8が付与されない、図中の領域Cが存在してしまう。
【0010】
このラビング処理が施されなかった領域Cを有する透明基板2aと、対向配置する透明基板2bとを組み合わせて製造したのが図9に示した液晶レンズ101であって、この配向乱れ領域Dにおいては、液晶分子の配向方位を定めることができずに、ランダムに配向する。そして、この様な配向乱れ領域Dを有する液晶レンズ101は、初期的に波面収差を持つこととなる。
【0011】
ここで、この配向乱れ領域Dを有する液晶レンズ101の結像性能について説明する。図11は、従来の液晶レンズ101の、結像性能を説明するための図であり、同図(a)がレンズ状態とした場合を示し、同図(b)が素ガラス状態の場合を示している。
【0012】
図11(a)で示す様に、配向乱れ領域D以外を通過した光線は、正常に目的の焦点位置Fで集光するが、レンズ周辺部の液晶3の配向乱れ領域Dを通った光線を、本来の焦点位置Fに集光させることができずに焦点位置Gで結像し、結果として集光した集光スポットに波面収差が生じていることが判る。また、図11(b)に示す様に、液晶3に電界を印加した場合であっても、液晶3の配向乱れ領域Dで生じる問題が解消されるわけではなく、本来は素ガラス状態として出射する光線が、点線で示した出射光102として通過しなくてはならないのに、その領域を通る光線のみが屈折して、実線で示した出射光103、104となってしまう。
【0013】
このように、小サイズの従来の液晶レンズ101は配向乱れ領域Dを有するので、電圧無印加状態でのレンズ状態、および電圧印加状態の素ガラス状態のいずれにおいても、集光スポットに波面収差が発生してしまうという結像性能しか発揮できなかった。
【0014】
そこで、本発明は上記課題を解決し、外形サイズを小さくしたとしても、波面収差の小さい良好な結像性能を十分に得ることができる液晶レンズを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の液晶レンズの製造方法は、基本的に下記の構成を有するものである。
【0016】
本発明の液晶レンズの製造方法は、ラビング処理が施された配向膜を内側に有する一対の透明基板で液晶を挟持してなり、一対の透明基板のうち、少なくとも一方の透明基板の液晶側の基板表面に、凹面形状又は凸面形状が形成された液晶レンズを製造するにあたって、一対の透明基板の基板表面の少なくとも一方に、凹面形状又は凸面形状を形成する工程と、凹面形状又は凸面形状の表面に、配向膜を塗布する工程と、その配向膜の表面に、第1のラビング方向にラビングロールを移動させて行う第1のラビング処理を行う工程と、第1のラビング方向とは180度逆方向となる第2のラビング方向に、ラビングロールを移動させて行う第2のラビング処理を行う工程と、を有して形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一対の透明基板の少なくとも一方に、凹面形状又は凸面形状があった
としても、凹凸形状表面の全面に渡って均一なラビングスジを形成することができる。
【0018】
そして、外形サイズが小さな液晶レンズを製造するにあたって、本発明の液晶レンズの製造方法を採用することにより、可変焦点レンズとして波面収差の小さい良好な結像性能を得ることが可能である液晶レンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
従来の液晶レンズにおける配向乱れ領域を無くし、外形サイズが小さくて、透明基板表面に凹凸形状があろうとも、一様な方向に液晶分子を配列することが出来る本発明の液晶レンズの製造方法について説明する。
【実施例1】
【0020】
まず、従来の液晶レンズで発生していた配向乱れ領域が存在しない、本実施例の液晶レンズ1の製造方法について図1から図5を参照して説明する。図1は、本実施例の液晶レンズの製造方法を示すフロー図であり、図2〜図5は、本実施例の液晶レンズの具体的製造方法を示す図面である。
【0021】
図1に示す様に、本実施例の製造方法は、6工程(ST1〜ST6)を有する。
まず、透明基板2a上に樹脂をスピンコートや印刷などで均一に形成する。この均一に形成された樹脂に、図2で示すようなレンズ形状を有する金型5を押し付けた状態で樹脂を硬化することで、レンズ面を有するレンズ部位4を成型する。その後、図中の矢印の方向にレンズ形状を有する金型5を透明基板2aにおけるレンズ面4aから離形して、レンズ部位4を有する透明基板2aが完成する(ST1)。
【0022】
尚、レンズ部位4を形成する樹脂からなる凹部表面は、金型5との離形性を考慮する必要がある。ここで、その凹部表面の樹脂材料を疎水性にする手法や、金型5の表面に離形処理を施しておく手法などが知られているが、樹脂材料の疎水性を高めると本工程での金型5との離型性が向上するものの、後の配向膜成形工程において、配向膜を均一に塗布できなくなってしまう場合がある。そのため、本実施例においては、樹脂材料の疎水性を高める手法を採用せずに、金型5の表面に離形処理を施した上で、上述したST1を行う手法を採用した。
【0023】
この様にして形成された透明基板2aは、樹脂によって凹面形状が形成されていることから、このまま表面に印刷やスピンコートなどで配向膜を形成しようとすると、従来構成と同様に、配向膜が塗れない部分が生じてしまう。そのため、本発明の製造方法では、図3に示すように、インクジェット6によってレンズ部位4のレンズ面4aに配向膜7aを形成した(ST2)。インクジェット6によって配向膜7aを成形する場合、レンズ部位4の凹部表面に隙間なく配向膜7aを塗布することが可能となる。また、レンズ部位4の凹面形状のレンズ面4aに合わせてインクジェット6の高さ調整を行うことができるので、スピンコートによる配向膜塗布に比べて、より配向膜7aの均一性を高めることが可能となる。
【0024】
次に図4(a)で示す通り、コットンなどを巻きつけたラビングロール9を一方向に回転させた状態で、配向膜7aに接触させる。その後にラビングロール9は、回転を維持した状態で第1のラビング方向11に透明基板2aに対して平行移動させて第1のラビング処理を行う(ST3)。このように、ラビングロール9の回転によって、配向膜7aを一定方向に摩擦することで、配向膜7a上に液晶分子を一定方向に一様に配向させるための、第1のラビング方向11に沿って配列する複数のラビングスジ8を付与することができる。
【0025】
ここで、図4(a)で示す通り、レンズ部位4は凹凸部を有しているために、ラビングロール9の第1のラビング方向11と回転方向に依存して、ラビングスジ8を付与することができない図中の領域Cが発生してしまう。この領域Cが発生する原因は、図で示す通り、液晶レンズ1の外形サイズが小さく(例えば5mm角程度)、ラビングロール9の曲率に対してレンズ部位4の曲率が極端に大きいために、第1のラビング方向11によって、そのラビングロール9表面がレンズ面4aの凹部表面と物理的に接触不可能な領域ができてしまうことに起因する。このようにラビング処理が施されなかった領域Cは、液晶3を一定方向に配向させるためのラビングスジ8が存在しないことから、このままの状態で他方の透明基板を貼り合わせて液晶レンズを製造してしまうと、先述した図9で示した液晶レンズ101が完成した際における配向乱れ領域Dが発生してしまうこととなる。
【0026】
そこで、本発明においては、図4(a)のように第1のラビング方向11によってラビングスジ8を付与した後に、図4(b)で示す第2のラビング方向12にさらにラビング処理を施して、特にこの領域Cに新たにラビングスジ8を形成することによって、樹脂からなるレンズ部位4におけるレンズ面4a上のすべてにラビングスジ8を付与する第2のラビング処理を行う(ST4)。
【0027】
このとき、第1、第2のラビング処理における第1のラビング方向11と第2のラビング方向12は、180度逆方向としてある。また、ラビングロール9の回転は、液晶分子のプレチルト角を付与する方向に関与し、またラビング処理が施されなかった領域Cを確実にラビング処理するために、第2のラビング処理工程においても第1のラビング処理工程とほぼ同じ回転方向とし(180度逆方向となるようにし)、上記第1と第2のラビング処理の条件として、押し込み量を0.4mmとし、回転数は1000rpm、送り速度は25mm/sとして、第1と第2のラビング処理をともに同じ条件で行った。
【0028】
上記条件でラビング処理することで、配向膜7aの表面に安定したラビングスジ8を付与でき、レンズ面4aの全ての領域で所望のプレチルト角で液晶分子を配列させることができる様になる。このときの液晶分子のプレチルト角は、できるだけ高く、例えば5〜6°程度に設定した方が好ましい。それは、液晶分子は凹面形状の表面に配向する必要があり、急な斜面では液晶分子の方位が定まり難くなるためである。
【0029】
次に、図5に示す様に、透明基板2aにセル厚を均一に保つためのスペーサーなどを含んだシール材10を配した後に、透明基板2aに透明基板2bを重ね合わせてシール材10を硬化させた空セル(液晶が充填されていない空の状態のセル)を作製する(ST5)。なお、このとき重ね合わせる透明基板2bの配向膜7bの配向方向は、対向する配向膜7aと同じ方向となっている。つまり、ここで製造された液晶レンズ1は、透明基板2a、2bに対して一様に平行に配向させるホモジニアス配向の液晶レンズである。なお、樹脂材料からなるレンズ部位4上ではなく透明基板2a上に、シール材10を配置している理由は、シール材10に混入されたスペーサーが樹脂からなるレンズ部位4に押し込まれて、所望のセル厚の維持が困難となる場合が想定されるからである。また、シール材10に熱硬化性樹脂を用いると、そのシール材10形成の際に、成形後のレンズ部位4に熱が掛けることとなる。そのため、レンズ部位4を構成する樹脂材料の耐熱性を考慮すると、そのシール材10にはUV硬化タイプの樹脂材料を使用する方が好ましい。
【0030】
最後に、上記工程で形成した空セルに、真空注入法などによって液晶3を注入し、液晶3をセル内に注入した注入口を封止することで、目的の液晶レンズ1が完成する(ST6)。
【0031】
次に、本実施例を用いて製造された液晶レンズ1の構成について説明する。
図5に示す様に、第1の実施形態の製造方法で得られる液晶レンズ1は、液晶3と接す
る面に凹面形状のレンズ面4aを有して、樹脂によって形成されたレンズ部位4を備えた透明基板2aと、対向する平板の透明基板2bによって構成されている。また、レンズ部位4におけるレンズ面4aは、入射光線の光軸と直交する面内で、光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状で形成されている。このレンズ面4aの凹面形状を凸面形状に代えたり、球面または非球面とするのかは、設計仕様に応じて任意である。さらには、このレンズ面4aの曲率を大きくする必要がある場合、液晶3を厚くしなくてはならず、そうすると液晶レンズ1の応答性が問題となる。その様なときは、レンズ部位4のレンズ面4aをフレネルレンズ形状として、液晶3の厚みを厚くせずとも高いレンズ性能を有する構成としてもよい。
【0032】
また、レンズ部位4を有する透明基板2a、および対向する透明基板2bには、それぞれの基板表面に形成された透明電極(図示せず)と配向膜7a、7bとによって、基板間に挟持する液晶3に給電を行って、入射光線に対して、樹脂からなるレンズ部位4と液晶3との屈折率差を付与する。この様な作用を受けて、本実施例における液晶レンズ1は、レンズ状態と素ガラス状態とを切り替えることが出来る。
【0033】
ここで示されている本発明に係る液晶レンズ1は、基本的には従来の構成と同じであるが、図9に示した従来の構成における配向乱れ領域Dなるものは存在せず、無電圧印加状態で液晶分子が一様の方向に並んでいることが判る。このように液晶レンズ1は、液晶3の配向乱れによる結像性能の低下などの影響を受けることがなく、安定した配向性を持ち良好な結像性能を示すことができる。
【0034】
次に、その作用について図6を用いて説明する。図6は、図5に示した液晶レンズ1について、入射光が結像する様子を示す図である。
【0035】
図6で示す通り、本実施例における液晶レンズ1は、無電圧印加状態でセル内の全ての領域内において、確実にラビング処理が施された配向膜7a、7bによって液晶3が均一に配向していることから、焦点位置に集光する集光スポットにおいて配向乱れの影響による波面収差を生じることはない。もちろん電圧印加によって駆動した際にも、液晶3の配向均一性は保持されるため、焦点を可変した際のすべての集光スポットにおいても配向乱れの影響による波面収差が生じることなく、安定した結像性能を得ることができる。
【0036】
このように、本発明における第一の実施形態における液晶レンズ1の製造方法により、簡易で安価な構成で、量産性に優れ、可変焦点レンズとして波面収差の小さい良好な結像性能を得ることが可能である液晶レンズを提供することができる。
【0037】
なお、ここまでの説明では、液晶3はホモジニアス配向を有するネマテック液晶を用いた例を示したが、これを垂直配向型液晶に代えた構成としても良い。
【0038】
また、図5示した液晶レンズ1において、透明基板2aの一方の液晶3側のレンズ表面側に凹部又は凸部を形成した例を示したが、両方の透明基板2a、2bのそれぞれに凹部又は凸部を形成しても良いし、凹部と凸部とを組み合わせた形態としても良い。なお両方の透明基板2a、2bに凹部又は凸部を形成した場合には、本発明の製造方法を両方の透明基板2a、2bにそれぞれ適用すれば、良好な配向性によって安定した結像性能を得る液晶レンズとすることが可能となる。
【0039】
また、上記説明では、図示しない透明電極間に電圧を印加しない無電圧印加状態で入射光を所定の焦点位置で集光させ、透明電極間に電圧を印加して素ガラス状態として作用させる形態を説明したが、無電圧印加状態で素ガラス状態とし、電圧印加状態で集光状態とするように液晶レンズ1を設計することも出来る。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明における液晶レンズの他の構成について、図7および図8を用いて説明する。図7は、第2の実施形態の製造工程を示す図である。また、図8は、第2の実施形態で製造される、焦点可変機能を複数個有する液晶マイクロレンズアレイ13を示す上面図とこの上面図におけるE−E断面図である。
【0041】
尚、本実施例で説明する液晶マイクロレンズアレイ13の構成と、先に示した実施例1の液晶レンズ1の構成の相違点は、樹脂によって形成されたレンズ部位4からなるレンズ面4aが、図7に示す様に複数個となる点のみであり、製造方法および結像性能は基本的に同じである。したがって、下記の説明では、図1のフロー図を元に本実施例における特徴部分である、樹脂によって形成されたレンズ部位4からなるレンズ面4aが複数個である点について主に説明する。
【0042】
まず、本実施例の製造方法について図1、図7、図8を参酌しながら説明する。
図1に示す様に、複数個のレンズ形状を有する金型を用いて、複数個の凹部からなるマイクロレンズ形状のレンズ部位を成形する(ST1)。次に、その複数個の凹部のレンズ表面に、インクジェットによって配向膜を形成する(ST2)。
【0043】
次に、図7に示す様に、樹脂のレンズ部位4からなるレンズ面4aが、透明基板2a上に複数個あり、樹脂の凹凸形状はより複雑化されているために、図7(a)で示したようにラビングスジ8を付与することができない領域Cが、レンズ部位4からなるレンズ面4aの複数個にそれぞれ形成されてしまうこととなる。この領域Cが発生する原因は、先の実施例と同様に、液晶レンズ自体の外形サイズが小さく、ラビングロール9の曲率に対してレンズ部位4の曲率が極端に大きいために、ラビング方向によって、そのロール表面が凹部表面と物理的に接触不可能な領域ができてしまうためである。
【0044】
そこで、図7(a)のように第1のラビング方向11によってラビングスジ8を付与する第1のラビング処理を行った後に(ST3)、図7(b)で示す第2のラビング方向12でさらにラビング処理を施す第2のラビング処理を行うことによって(ST4)、樹脂のレンズ部位4からなる複数個のレンズ面4a上のすべての領域に、ラビングスジ8を均一に付与することができる。なお、第1、第2のラビング方向11、12が180度逆方向としており、ラビング圧、ラビングロール9の移動速度等の製造条件は、実施例1と同じである。また、続けて行うST5、ST6においては、先の実施例と同様となるためここでの説明は省略する。
【0045】
以上のようにして、図8に示す、液晶3と接する面に樹脂によって形成された複数個のレンズ面4aを有するレンズ部位4が形成された透明基板2aと、対向する透明基板2bによって構成された液晶マイクロレンズアレイ13を得ることが出来る。なお、これら複数個のレンズ面4aは、それぞれ入射光線の光軸と直交する面内で、光軸に対して回転対称となる球面または非球面形状で形成されている。このレンズ部位4からなる複数個のレンズ面4aを凸部とすることや、球面または非球面とするのか、又はフレネルレンズ面とするかは、設計仕様に応じて任意である。
【0046】
この様に、液晶マイクロレンズアレイ13においても、樹脂のレンズ部位4からなるレンズ面4aが複数個あることで、より複雑化された凹凸形状であっても安定した液晶3の配向性を得ることができるために、それぞれのレンズ面4aから焦点位置に集光する集光スポットにおいても配向乱れの影響による波面収差を生じることはない。もちろん電圧印加によって駆動して素ガラス状態とした際にも、液晶3の配向均一性はそれぞれのレンズ面で保持されるため、焦点を可変した際のすべての集光スポットにおいても配向乱れの影
響による波面収差が生じることなく安定した結像性能を得ることができる。
【0047】
また、本発明における第二の実施形態における液晶マイクロレンズアレイ13においても、第一の実施形態同様の製造方法により、簡易で安価な構成で、量産性に優れ、可変焦点マイクロレンズアレイとして波面収差の小さい良好な結像性能を得ることが可能である液晶レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の液晶レンズの製造方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図3】本発明の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図4】本発明の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図5】本発明の製造方法で得られる液晶レンズの構成を示す上面図および断面図である。
【図6】本発明の製造方法で得られる液晶レンズの結像性能を示す図である。
【図7】本発明の液晶レンズの他の製造方法を示す図である。
【図8】本発明の他の製造方法で得られる液晶レンズの構成を示す上面図および断面図である。
【図9】従来の液晶レンズの構成、および従来の構成の問題点を示す上面図および断面図である。
【図10】従来の液晶レンズの製造方法を示す図である。
【図11】従来の液晶レンズの結像性能を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 液晶レンズ
2a、2b 透明基板
3 液晶
4 レンズ部位
4a レンズ面
5 金型
6 インクジェット
7a、7b 配向膜
8 ラビングスジ
9 ラビングロール
10 シール材
11 第1のラビング方向
12 第2のラビング方向
13 液晶マイクロレンズアレイ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラビング処理が施された配向膜を内側に有する一対の透明基板で液晶を挟持してなり、前記一対の透明基板のうち、少なくとも一方の透明基板の前記液晶側の基板表面に、凹面形状又は凸面形状が形成された液晶レンズの製造方法において、
前記一対の透明基板の基板表面の少なくとも一方に、前記凹面形状又は凸面形状を形成する工程と、
前記凹面形状又は凸面形状の表面に、前記配向膜を塗布する工程と、
前記配向膜の表面に、第1のラビング方向にラビングロールを移動させて行う第1のラビング処理を行う工程と、
前記第1のラビング方向とは180度逆方向となる第2のラビング方向に、ラビングロールを移動させて行う第2のラビング処理を行う工程と、
を有することを特徴とする液晶レンズの製造方法。
【請求項2】
前記配向膜を塗布する工程を、インクジェットにより行う
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶レンズの製造方法。
【請求項3】
前記凹部又は凸部を形成する工程で、前記一方の基板の基板表面に前記凹部又は凸部を複数個形成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶レンズの製造方法。
【請求項1】
ラビング処理が施された配向膜を内側に有する一対の透明基板で液晶を挟持してなり、前記一対の透明基板のうち、少なくとも一方の透明基板の前記液晶側の基板表面に、凹面形状又は凸面形状が形成された液晶レンズの製造方法において、
前記一対の透明基板の基板表面の少なくとも一方に、前記凹面形状又は凸面形状を形成する工程と、
前記凹面形状又は凸面形状の表面に、前記配向膜を塗布する工程と、
前記配向膜の表面に、第1のラビング方向にラビングロールを移動させて行う第1のラビング処理を行う工程と、
前記第1のラビング方向とは180度逆方向となる第2のラビング方向に、ラビングロールを移動させて行う第2のラビング処理を行う工程と、
を有することを特徴とする液晶レンズの製造方法。
【請求項2】
前記配向膜を塗布する工程を、インクジェットにより行う
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶レンズの製造方法。
【請求項3】
前記凹部又は凸部を形成する工程で、前記一方の基板の基板表面に前記凹部又は凸部を複数個形成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶レンズの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−44260(P2010−44260A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208954(P2008−208954)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
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