説明

液晶性組成物

【課題】物性を自在に制御できる新たな液晶性組成物を提供する。
【解決手段】ディスコティックネマティック相を示すことが可能なディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及び光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する液晶性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ、オプトエレクトロニクス及びフォトニクス分野において有用な新規な液晶性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高度な情報化社会の進展に伴い、情報の伝送、処理、及び記録に対して光技術を用いる試みが多数なされている。そのような状況において、分子の配向状態の変化を利用することにより光を自在にマニピュレートできる液晶は、極めて有用な材料として多くの注目が集まっている。
【0003】
液晶を利用した光学素子としては、文字や画像を表示するためのディスプレイが代表的なものであるが、その他にも、空間光変調器、調光材料、光学補償板、非線形光学材料等が知られており、また、光学機能の他にも特異な物性を反映して、導電性材料、光伝導性材料、高強度材料、トライボロジー材料、電気粘性流体等への応用が期待されている(非特許文献1参照)。
【0004】
このような多種多様な用途に対し、それらの仕様を充分に満たすためには、基本となる液晶化合物の構造の多様化を図るのみならず、その液晶化合物を他の化合物と混合させ、組成物と成すことにより、物性を自在に制御可能とすることが必要である。
【0005】
例えば、特許文献1あるいは非特許文献2又は3に記載されている化合物は、ディスコティック液晶性を有しているものの、応用を考えた場合その取扱いは必ずしも満足のいくものではない場合もある。
【0006】
例えば、用いたい支持体の耐熱温度が低い場合、液晶相の相転移温度を低下させた組成物が望ましいのであるが、それを達成しようとすることで、必要な液晶相を消失させてしまうこともしばしば生じる。従って、新たな観点からの物性を自在に制御できる新たな液晶性組成物の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平7−306317号
【非特許文献1】「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 編 (丸善 2000年刊)
【非特許文献2】日本化学会編、季刊化学総説No.22 液晶の化学 第5章、第10章2節(学会出版センター 1994年刊)
【非特許文献3】Polymer Journal,36,661-664(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、物性、特には相転移温度を自在に制御できる新規な液晶性組成物を提供することにある。また、本発明は、ディスプレイ、オプトエレクトロニクス及びフォトニクス分野において有用な新規な液晶性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
[1] ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及び光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する、ディスコティックネマティック相を示すことが可能な液晶性組成物。
[2] ディスコティック液晶化合物が、トリフェニレン誘導体である[1]に記載の組成物。
[3] トリフェニレン誘導体が、ベンゾアート基を置換基として有する化合物である[2]に記載の組成物。
[4] 光感応性異性化基を有する化合物が、アゾ化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] アゾ化合物が、アゾベンゼン誘導体である[4]に記載の組成物。
[6] アゾベンゼン誘導体が、下記一般式C−3で表される化合物である[5]に記載の組成物:
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立して、置換若しくは無置換の、炭素数6〜10の芳香環又は炭素数5〜10の複素環の残基を表し;X及びYはそれぞれ独立して、単結合又は二価の連結基を表し;R1及びR2はそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基、シアノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を表し;R3及びR4はそれぞれ独立して、ベンゼン環上に置換している、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基又はハロゲン原子を表し;n及びmはそれぞれ0〜3の整数を表し;o及びpはそれぞれ0〜4の整数を表し、q及びrはそれぞれ0〜4の整数を表す。
[7] ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及びアゾベンゼン誘導体から選択される光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する液晶性組成物であって、前記光感応性異性化基を有する化合物のアゾベンゼン骨格の2個のベンゼン環上のいずれにも、Es値が−0.55以下の置換基が少なくとも一個置換している液晶性組成物。
[8] 重合性基を有するディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及び光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する液晶性組成物。
[9] ディスコティック液晶化合物が複数個の重合性基を有する[1]〜[8]のいずれかの組成物。
[10] 光照射により液晶相の相転移温度を変化させ得る[1]〜[9]のいずれかの組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、液晶組成物中に光感応性異性化基を有する分子を存在させて、該組成物の相転移温度を制御可能にするのみならず、光照射の制御により、立体異性化又は構造異性化を起こさせることにより、組成物のディスコティックネマティック相への転移温度を変化可能にしている。即ち、本発明によれば、相転移温度等の物性を広範囲に制御可能な液晶性組成物を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0012】
以下に本発明の液晶性組成物について詳しく説明する。
なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明の一態様は、ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及び光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する、ディスコティックネマティック相を示すことが可能な液晶組成物に関する。本態様では、組成物中の組成を変化させることにより、ディスコティックネマティック相への転移温度を制御可能にし得ることに加え、組成物中に光感応性異性化基を有する化合物を含有させることによって、光照射により光感応性異性化基を有する分子に、立体異性化又は構造異性化を起こさせて、ディスコティックネマティック相への転移温度をさらに変化可能としている。その結果、本態様の液晶性組成物は、物性、特に相転移温度、を広範囲に制御可能である。
また、本発明の他の態様は、ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及びアゾベンゼン誘導体から選択される光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する組成物であって、前記光感応性異性化基を有する化合物のアゾベンゼン骨格の2個のベンゼン環上のいずれにも、Es値が−0.55以下の置換基が少なくとも一個置換している液晶性組成物;又は重合性基を有するディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及び光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する液晶性組成物;に関する。これらの態様においても、組成物中の組成を変化させることにより、物性、主には相転移温度、を制御可能にし得ることに加え、組成物中に光感応性異性化基を有する化合物を含有させることによって、光照射により光感応性異性化基を有する分子に、立体異性化又は構造異性化を起こさせて、物性をさらに変化可能としている。
以下、本発明の組成物の調製に用いられる種々の材料について説明する。
【0013】
[ディスコティック液晶化合物]
ディスコティック液晶化合物とは、ディスコティック液晶相を示し得る液晶化合物である。ディスコティック液晶相は、円盤状分子の中心コアが分子間力で柱状に積み重なった柱状相(columnar phase)と、円板状分子が乱雑に凝集したディスコティックネマティック相と、カイラルディスコティックネマティック相に大別できることが知られている。しかし、W.H.dejeu著のPhysical properties of liquidcrystalline materials(1980 by Gordon and Breach,Science Publishers)に記載されているように、柱状相はしばしば見出されるが、ディスコティックネマティック相は稀にしか見出されていない。一方、大面積で均一な配向を実現しようとすると、ディスコティックネマティック相が有用である。本発明に用いるディスコティック液晶化合物の種類については特に制限されないが、単独で又は他の液晶性及び/又は非液晶性化合物との併用により、ディスコティックネマティック相を示すことが可能な化合物を用いるのが好ましい。中でも、単独でディスコティックネマティック相に転移し得るディスコティック液晶性化合物を用いるのが好ましい。又、ディスコティックネマティック相に転移し得る2種以上のディスコティック液晶性化合物の混合物も、同様に好ましい。
【0014】
ディスコティック液晶化合物は、上記した通り、円盤状の分子構造を有する。円盤状の分子の母核部分(コア部)をなす円盤状の形態的特徴は、例えば、その原形化合物である水素置換体について、以下のように表現され得る。まず、分子の大きさを以下のようにして求める。
1)該分子につき、できる限り平面に近い、好ましくは平面分子構造を構築する。この場合、結合距離、結合角としては、軌道の混成に応じた標準値を用いることが好ましく、例えば、日本化学会編、化学便覧改訂4版基礎編、第II冊15章(丸善 1993年刊)を参照することができる。
2)前記1)で得られた構造を初期値として、分子軌道法や分子力場法にて構造最適化する。方法としては例えば、Gaussian92、MOPAC93、CHARMm/QUANTA、MM3が挙げられ、好ましくはGaussian92である。
3)構造最適化された各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
4)前記3)で形状の得られた該分子部分が入り得る最少の直方体の3個の稜をa、b、cとする。任意性をより少なくするためには、上記3)以降を以下のように行うことが好ましい。
3')構造最適化によって得られた構造の重心を原点に移動させ、座標軸を慣性主軸(慣性テンソル楕円体の主軸)にとる。
4')各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
5')ファンデルワールス表面上で各座標軸方向の長さを計測し、それらそれぞれをa、b、cとする。
以上の手順により求められたa、b、cを用いて円盤状の形態を定義すると、a≧b>cかつa≧b≧a/2、好ましくはa≧b>cかつa≧b≧0.7aと表すことができる。また、b/2>cであることが好ましい。かかる関係を満足する分子構造を有する化合物を用いるのが好ましい。
【0015】
また具体的化合物として挙げると、例えば前述の文献や、日本化学会編、季刊化学総説No.22 液晶の化学 第5章、第10章2節(学会出版センター 1994年刊)、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.Liq.Cryst.71巻、111頁(1981年)、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)、J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhang、J.S.Mooreらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.,116巻、2655頁(1994年)に記載の母核化合物の誘導体が挙げられる。 例えば、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン誘導体、アザクラウン誘導体、シクロヘキサン誘導体、β−ジケトン系金属錯体誘導体、ヘキサエチニルベンゼン誘導体、ジベンゾピレン誘導体、コロネン誘導体及びフェニルアセチレンマクロサイクルであり、さらに、日本化学会編、"化学総説No.15 新しい芳香族の化学"(東京大学出版会 1977年刊)に記載の環状化合物及びそれらの複素原子置換等電子構造体を挙げることができる。これらの他、水素結合や配位結合により円盤状化合物が形成され得るものでもよい。これらを分子の中心の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等がその側鎖として放射状に置換された構造によりディスコティック液晶化合物が形成される。
【0016】
本発明では、母核化合物として、ディスコティックネマティック(ND )相を形成する化合物を用いる。特に好ましくはトリフェニレン及びトルキセンが挙げられる。側鎖としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アシルオキシ基が挙げられ、側鎖中にアリール基、複素環基を含んでいてもよい。また、C.Hansch、A.Leo、R.W.Taft著、ケミカルレビュー誌(Chem.Rev.)1991年、91巻、165−195ページ(アメリカ化学会)に記載されている置換基で置換されていてもよく、代表例としてアルコキシ基、アルキル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子が挙げられる。更に側鎖中に、例えばエーテル基、エステル基、カルボニル基、チオエーテル基、スルホキシド基、スルホニル基、アミド基のような官能基を有していてもよい。
以下、側鎖について詳細に説明する。
【0017】
側鎖部分としては、例えばアルカノイルオキシ基(例えば、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ノナノイルオキシ、デカノイルオキシ、ウンデカノイルオキシ)、アルキルスルホニル基(例えば、ヘキシルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、ノニルスルホニル、デシルスルホニル、ウンデシルスルホニル)、アルキルチオ基(例えば、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、ドデシルチオ)、アルコキシ基(例えば、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ)、2−(4−アルキルフェニル)エチニル基(例えば、アルキル基としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)、末端ビニルアルコキシ基(例えば、4−ビニルブトキシ、5−ビニルペンチルオキシ、6−ビニルヘキシルオキシ、7−ビニルヘプチルオキシ、8−ビニルオクチルオキシ、9−ビニルノニルオキシ)、4−アルコキシフェニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルコキシメチル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルキルチオメチル基(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオエトキシメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルコキシエトキシメチル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、2−アルコキシカルボニルエチル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、コレステリルオキシカルボニル、β−シトステリルオキシカルボニル、4−アルコキシフェノキシカルボニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイルオキシ基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルキルベンゾイルオキシ基(例えばアルキル基として、前述の2−(4−アルキルフェニル)エチニル基挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)が挙げられる。
【0018】
また、前述のもののうち、フェニル基は他のアリール基(例えば、ナフチル基、フェナンスリル基、アントラセニル基)でもよいし、また前述の置換基に加えて更に置換されてもよい。また、該フェニル基は複素芳香環(例えば、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、オキサジアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基)であってもよい。上述のコア部と側鎖部の構造及び数との適当な組み合わせにより、及び/又はコア部と側鎖部の構造及び数との適当な組み合わせによって得られた類似化合物の混合によりディスコティック液晶性を示す化合物が形成される。これをディスコティック液晶化合物と呼ぶ。ディスコティック液晶化合物が重合性基を有する場合には、上述の側鎖部に水素原子と置き替わって有されており、末端にあることが好ましい。
【0019】
本発明の液晶性組成物は、ディスコティック液晶化合物を複数種含有していてもよいし、1種又は複数種のディスコティック液晶化合物と1種又は複数種の液晶性及び/又は非液晶性のディスコティック液晶化合物ではない化合物とを含有していてもよい。
【0020】
本発明に用いるディスコティック液晶化合物は、重合性基を有しているのが好ましい。本発明における重合性基とは、例えば村橋俊介編著「高分子化学」(共立出版 1966年刊)2〜5章に記された重合法に用いられる官能基であり、例えば多重結合(構成原子は、炭素原子、非炭素原子のいずれでもよい)、オキシラン、アジリジンなどの複素小員環、イソシアナートとそれに付加するアミンなど異種官能基の組合せが挙げられる。R.A.M.Hikmetらの研究報告〔Macromolecules,25巻,4194頁(1992)〕及び〔Polymer ,34巻,8号,1763頁(1993年)〕、D.J.Broerらの研究報告〔Macromolecules,26巻,1244頁(1993)〕に記載されているように、二重結合すなわち、アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基及びエポキシ基が好ましい例として挙げられ、アクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0021】
本発明では、ディスコティック液晶化合物として、トリフェニレン誘導体を用いるのが好ましく、中でも、ベンゾアート基を置換基として有するトリフェニレン誘導体を用いるのがディスコティックネマティック相発現性の高い点で好ましい。本発明における好ましいディスコティック液晶化合物の一般式を以下に例示する。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、R12はアルキル基を表し、Y1はハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。但し、Y1により表されるアルキル基及びアルコキシ基の主鎖の原子数は、R12により表されるアルキル基の主鎖の原子数を越えることはない。m1は0又は1を表し、n1は0〜2の整数を表す。
【0024】
一般式(A−1)について詳しく説明する。R12により表されるアルキル基は、無置換でも、例えばアルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素)により置換されていてもよい。例えばアルキル基(例えば、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル)、アルコキシアルキル基(例えば、2−メトキシエチル、2−(2−メトキシエトキシ)エチル、2−〔(2−メトキシエトキシ)−2−メトキシエトキシ〕エチル、2−n−ブトキシエチル、2−エトキシエチル、2−(2−エトキシエトキシ)エチル、3−メトキシプロピル、3−エトキシプロピル、3−n−プロピルオキシプロピル、3−ベンジルオキシプロピル)、アラルキル基(例えば、2−フェニルエチル、2−(4−n−ブチルオキシフェニル)オキシ)が挙げられる。R12において、主鎖をなす原子数は4〜22が好ましく、更に4〜12が好ましい。中でも、直鎖のものが好ましく、更にアルキル基が好ましい。
【0025】
1により表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピルが挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロピルオキシが挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、メトキシであり、更に好ましくはメチルである。
1は好ましくは0であり、n1は好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
12及びY1は、置換基として重合性基を有していてもよく、重合性基の位置は末端であることが好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
一般式(A−2)中、Y11、Y12及びY13は、それぞれ独立にメチン又は窒素原子を表す。
【0028】
11、Y12及びY13がそれぞれメチンの場合は、メチンは置換基を有していてもよい。メチンの置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子及びシアノ基を挙げることができる。これらの中では、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子及びシアノ基がさらに好ましく、炭素数は1〜12のアルキル基、炭素数は1〜12のアルコキシ基、炭素数は2〜12アルコキシカルボニル基、炭素数は2〜12アシルオキシ基、ハロゲン原子及びシアノ基がより好ましい。
【0029】
11、Y12及びY13は、すべてメチンであることが好ましく、またメチンは無置換であるのがより好ましい。
【0030】
一般式(A−2)中、L1、L2及びL3は、それぞれ独立に単結合又は二価の連結基である。L1、L2及びL3がそれぞれ表す二価の連結基としては、−O−、−S−、−C(=O)−、−NR7−、−CH=CH−、−C≡C−、二価の環状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。上記R7は、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子であり、炭素原子数1〜4のアルキル基又は水素原子であることが好ましく、メチル基、エチル基又は水素原子であることがさらに好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0031】
1、L2及びL3でそれぞれ表される二価の環状基とは、少なくとも1種類の環状構造を有する二価の連結基である。二価の環状基は5員環、6員環又は7員環であることが好ましく、5員環又は6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。環状基に含まれる環は、縮合環であってもよい。ただし、縮合環よりも単環であることがより好ましい。また、環状基に含まれる環は、芳香族環、脂肪族環及び複素環のいずれでもよい。芳香族環の例には、ベンゼン環及びナフタレン環が含まれる。脂肪族環の例には、シクロヘキサン環が含まれる。複素環の例には、ピリジン環及びピリミジン環が含まれる。環状基は、芳香族環及び複素環が好ましい。
【0032】
1、L2及びL3でそれぞれ表される二価の環状基のうち、ベンゼン環を有する環状基としては、1,4−フェニレンが好ましい。ナフタレン環を有する環状基としては、ナフタレン−1,5−ジイル及びナフタレン−2,6−ジイルが好ましい。シクロヘキサン環を有する環状基としては1,4−シクロへキシレンであることが好ましい。ピリジン環を有する環状基としてはピリジン−2,5−ジイルが好ましい。ピリミジン環を有する環状基としては、ピリミジン−2,5−ジイルが好ましい。
【0033】
1、L2及びL3でそれぞれ表される二価の環状基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数が1〜16のアルキル基、炭素原子数が1〜16のアルケニル基、炭素原子数が1〜16のアルキニル基、炭素原子数が1〜16のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数が1〜16のアルコキシ基、炭素原子数が2〜16のアシル基、炭素原子数が1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数が2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数が2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数が2〜16のアルキル置換カルバモイル基及び炭素原子数が2〜16のアシルアミノ基が含まれる。
【0034】
1、L2及びL3としては、単結合、*−O−CO−、*−CO−O−、*−CH=CH−、*−C≡C−、*−二価の環状基−、*−O−CO−二価の環状基−、*−CO−O−二価の環状基−、*−CH=CH−二価の環状基−、*−C≡C−二価の環状基−、*−二価の環状基−O−CO−、*−二価の環状基−CO−O−、*−二価の環状基−CH=CH−、*−二価の環状基−C≡C−が好ましい。特に、単結合、*−CH=CH−、*−C≡C−、*−CH=CH−二価の環状基−、*−C≡C−二価の環状基−が好ましく、単結合であるのがより好ましい。なお、*は一般式(A−2)中のY11、Y12及びY13を含む6員環に結合する位置を表す。
【0035】
1、H2及びH3はそれぞれ独立に、下記一般式(DI−A)もしくは下記一般式(DI−B)を表す。
【化4】

【0036】
一般式(DI−A)中、YA1及びYA2は、それぞれ独立にメチン又は窒素原子を表す。YA1及びYA2としては、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。XAは酸素原子、硫黄原子、メチレン、又はイミノを表す。XAとしては、酸素原子であることがより好ましい。*はL1〜L3とそれぞれ結合する位置を表し、**はR1〜R3とそれぞれ結合する位置を表す。
【0037】
【化5】

【0038】
一般式(DI−B)中、YB1及びYB2は、それぞれ独立にメチン又は窒素原子を表す。YB1及びYB2としては、少なくとも一方が窒素原子であることが好ましく、両方が窒素原子であることがより好ましい。XBは酸素原子、硫黄原子、メチレン、又はイミノを表す。XBとしては、酸素原子であることがより好ましい。*はL1〜L3と結合する位置を表し、**はR1〜R3と結合する位置を表す。
【0039】
前記式(A−2)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に下記一般式(DI−R)を表す。
【0040】
一般式(DI−R)
*−(−L21−Cy)n1−L22−L23−Q1
【0041】
一般式(DI−R)中、*は一般式(DI)中の5員環に結合する位置を表す。
【0042】
一般式(DI−R)中、L21は単結合又は二価の連結基であり、L21が二価の連結基の場合、−O−、−S−、−C(=O)−、−NR7−、−CH=CH−、−C≡C−、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。上記R7は炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子であり、炭素原子数1〜4のアルキル基又は水素原子であることが好ましく、メチル基、エチル基又は水素原子であることがさらに好ましく、水素原子であることがより好ましい。
21は単結合、及び、**−O−CO−、**−CO−O−、**−CH=CH−、**−C≡C−(ここで、**は一般式(DI−R)中のL21の左側を表す)が好ましい。特に、単結合が好ましい。
【0043】
一般式(DI−R)中、Cyは、少なくとも1種類の環状構造を有する二価の環状基である。Cyで表される二価の環状基は5員環、6員環、又は7員環であることが好ましく、5員環又は6員環であることがより好ましく、6員環であることがさらに好ましい。環状基に含まれる環は、縮合環であってもよい。ただし、縮合環よりも単環であることがより好ましい。また、環状基に含まれる環は、芳香族環、脂肪族環、及び複素環のいずれでもよい。芳香族環の例には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環が含まれる。脂肪族環の例には、シクロヘキサン環が含まれる。複素環の例には、ピリジン環及びピリミジン環が含まれる。
【0044】
ベンゼン環を有する二価の環状基としては、1,4−フェニレンが好ましい。ナフタレン環を有する環状基としては、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−1,6−ジイル、ナフタレン−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイルナフタレン−2,7−ジイルが好ましい。シクロヘキサン環を有する二価の環状基としては、1,4−シクロへキシレンであることが好ましい。ピリジン環を有する二価の環状基としては、ピリジン−2,5−ジイルが好ましい。ピリミジン環を有する二価の環状基としては、ピリミジン−2,5−ジイルが好ましい。Cyとしては、特に、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル及び1,4−シクロへキシレンが好ましい。
【0045】
Cyで表される二価の環状基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数が1〜16のアルキル基、炭素原子数が1〜16のアルケニル基、炭素原子数が1〜16のアルキニル基、炭素原子数が1〜16のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数が1〜16のアルコキシ基、炭素原子数が2〜16のアシル基、炭素原子数が1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数が2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数が2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数が2〜16のアルキル置換カルバモイル基及び炭素原子数が2〜16のアシルアミノ基が含まれる。二価の環状基の置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数が1〜6のアルキル基、炭素原子数が1〜6のハロゲン置換アルキル基が好ましく、さらに、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜4のアルキル基、炭素原子数が1〜4のハロゲン置換アルキル基が好ましく。特に、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0046】
一般式(DI−R)中、n1は、0〜4整数を表す。n1としては、1〜3の整数が好ましく。特に、1もしくは2が好ましい。
【0047】
一般式(DI−R)中、L22は、*−O−、*−O−CO−、*−CO−O−、*−O−CO−O−、*−S−、*−NH−、*−SO2−、*−CH2−、*−CH=CH−、*−C≡C−、を表す。(ここで、*は一般式(DI−R)中のベンゼン環に結合する位置を表す。)好ましくは、*−O−、*−O−CO−、*−CO−O−、*−O−CO−O−、*−CH2−、*−CH=CH−、*−C≡C−であり、特に、*−O−、*−O−CO−、*−O−CO−O−、*−CH2−が好ましい。上述の基が水素原子を含む基であるときは、該水素原子は置換基で置き換わってもよい。このような置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲンで置換されたアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数2〜6のアシル基、炭素原子数1〜6のアルキルチオ基、炭素原子数2〜6のアシルオキシ基、炭素原子数2〜6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜6のアルキルで置換されたカルバモイル基及び炭素原子数2〜6のアシルアミノ基が好ましい例として挙げられ、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基がより好ましい。
【0048】
一般式(DI−R)中、L23は、−O−、−S−、−C(=O)−、−SO2−、−NH−、−CH2−、−CH=CH−、−C≡C−ならびにこれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基である。ここで、−NH−、−CH2−、−CH=CH−の水素原子は、他の置換基に置き換えられていてもよい。他の置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数が1〜6のアルキル基、炭素原子数が1〜6のハロゲン置換アルキル基、炭素原子数が1〜6のアルコキシ基、炭素原子数が2〜6のアシル基、炭素原子数が1〜6のアルキルチオ基、炭素原子数が2〜6のアシルオキシ基、炭素原子数が2〜6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数が2〜6のアルキル置換カルバモイル基及び炭素原子数が2〜6のアシルアミノ基が含まれる。特に、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜6のアルキル基が好ましい。これらの置換基に置き換えられることにより、液晶性組成物の調製をする際に、使用する溶媒に対する溶解性を向上させることができる。
【0049】
23は、−O−、−C(=O)−、−CH2−、−CH=CH−及び−C≡C−から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせからなることが好ましい。L23は、炭素原子を1〜20個含有することが好ましく、炭素原子を2〜14個を含有することが特に好ましい。さらに、L23は、−CH2−を1〜16個含有することが好ましく、−CH2−を2〜12個含有することがより好ましい。
【0050】
一般式(DI−R)中、Q1はそれぞれ独立に、重合性基又は水素原子である。本発明の組成物を光学補償フィルムのような位相差の大きさが熱により変化しないものが好ましい光学フィルム等の作製に用いる場合には、Q1は重合性基であることが好ましい。重合反応は、付加重合(開環重合を含む)又は縮合重合であることが好ましい。言い換えると、重合性基は、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な官能基であることが好ましい。重合性基は付加重合反応が可能な官能基であることが特に好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基又は開環重合性基が好ましい。
開環重合性基として好ましいのは、環状エーテル基であり、中でもエポキシ基又はオキセタニル基がより好ましく、エポキシ基がさらに好ましい。
【0051】
一般式(A−1)及び(A−2)でそれぞれ表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明に使用可能な化合物はこれらに限定されるものではない。
【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
【化10】

【0057】
【化11】

【0058】
【化12】

【0059】
【化13】

【0060】
【化14】

【0061】
【化15】

【0062】
【化16】

【0063】
【化17】

【0064】
【化18】

【0065】
【化19】

【0066】
【化20】

【0067】
【化21】

【0068】
【化22】

【0069】
【化23】

【0070】
【化24】

【0071】
【化25】

【0072】
【化26】

【0073】
【化27】

【0074】
【化28】

【0075】
【化29】

【0076】
【化30】

【0077】
【化31】

【0078】
【化32】

【0079】
【化33】

【0080】
【化34】

【0081】
【化35】

【0082】
【化36】

【0083】
【化37】

【0084】
【化38】

【0085】
【化39】

【0086】
【化40】

【0087】
【化41】

【0088】
【化42】

【0089】
【化43】

【0090】
【化44】

【0091】
【化45】

【0092】
【化46】

【0093】
【化47】

【0094】
[光感応性異性化基を有する化合物]
本発明の組成物は、光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する。本発明において「光感応性異性化基」とは、例えば、光により立体異性化又は構造異性化を起こすものであり、好ましくは、さらに別の波長の光又は熱によってその逆異性化を起こすものである。これらの化合物として一般的には、構造変化と共に可視域での色調変化を伴うものは、フォトクロミック化合物としてよく知られているものが多く、具体的には、アゾベンゼン系化合物、ベンズアルドキシム系化合物、アゾメチン系化合物、スチルベン系化合物、スピロピラン系化合物、スピロオキサジン系化合物、フルギド系化合物、ジアリールエテン系化合物、ケイ皮酸系化合物、レチナール系化合物、ヘミチオインジゴ系化合物等が挙げられる。中でも、アゾ基を有するアゾ化合物が好ましい。
【0095】
また、本発明に使用可能な光感応性異性化基を有する化合物は、低分子化合物でもポリマーでもよく、ポリマーの場合、光感応性異性化基が主鎖中でも側鎖中でも同様の機能を発揮できる。また、ポリマーはホモポリマーでも、コポリマーでもよく、コポリマーの共重合比は光異性化能、Tg等のポリマー物性を適切に調節すべく適宜好ましい値で用いられる。高分子の主鎖としては例えば、ポリスチレン、マロン酸ポリエステル、ポリアクリーレート、ポリメタアクリレート、ポリシロキサン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリオキシアルキレン、テレフタル酸ポリエステル、ポリアリルアミン、ポリジカルボン酸アミド、ポリウレタン、ポリオキシフェニレン、ポリビニルアルコール、ポリコ(塩化ビニリデン)(メタクリレート)が挙げられる。
【0096】
また、これらの光感応性異性化基を有する化合物は、液晶化合物であってもよい。すなわち、液晶化合物の分子中に光感応性異性化基を含んでいてもよい。これらについては、高分子、41(12)、(1992年)p884、「クロミック材料と応用」(シーエムシー刊)p221、「メカノケミストリー」(丸善刊)p21、「高分子論文集147巻10号」(1991年)p771等にも具体的に記載されている。
【0097】
本発明では、光感応性異性化基を有する化合物として、下記一般式C−3で表されるアゾベンゼン誘導体を用いるのが好ましい。
【0098】
【化48】

【0099】
前記式において、Ar11及びAr12はそれぞれ、置換基を有していてもよい、炭素数6〜10の芳香環又は炭素数5〜10の複素環の残基を表す。Ar11及びAr12はそれぞれ、置換もしくは無置換の、ベンゼン環、ナフタレン環、フラン環又はチオフェン環の残基であるのが好ましく、置換もしくは無置換のベンゼン環の残基であるのが特に好ましい。X及びYはそれぞれ、単結合又は二価の連結基を表す。X及びYはそれぞれ、単結合、又はC=C、C≡C、COO、OCO、CONH、NHCO、OCOO、OCONH及びNHCOOからなる群より選ばれる二価の連結基であるのが好ましく、単結合であるのがより好ましい。R1及びR2はそれぞれ、Ar11及びAr12の置換基である。R1及びR2はそれぞれ、アルキル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子等であるのが好ましく、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、アルカノイルオキシ基又はシアノ基等であるのが特に好ましい。また、R1及びR2が重合性基を有していることが好ましい。好ましい重合性基の例としては、アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基、グリシジル基及びオキセタン基等を挙げることができる。さらに、R1及びR2はそれぞれ、高分子の主鎖に連結し、側鎖型高分子を形成していてもよい。R3及びR4はそれぞれ、ベンゼン環の置換基を示し、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基又はハロゲン原子等を挙げることができる。n及びmは独立して0〜3の整数を示す。好ましくはいずれも0の場合である。o及びpは独立して0〜4の整数を示す。また、q及びrは、それぞれ0〜4の整数を示す。
【0100】
又、本発明では、光感応性異性化基を有する化合物として、桂皮酸誘導体を用いてもよく、中でも下記一般式C−1で表される桂皮酸誘導体を用いるのが好ましい。
【0101】
【化49】

【0102】
前記一般式C−1において、Ar11、Ar12、R1、R2、R3、R4、X、Y、m、n、o、p、q及びrはそれぞれ、前記一般式C−3中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0103】
又、本発明では、光感応性異性化基を有する化合物として、スチリルピリジン誘導体を用いてもよく、中でも、下記一般式C−5で表されるスチリルピリジン誘導体を用いるのが好ましい。
【0104】
【化50】

【0105】
前記一般式C−5において、Ar11、Ar12、R1、R2、R3、R4、X、Y、m、n、o、p、q及びrはそれぞれ、前記一般式C−3中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0106】
本発明では、光感応性異性化基を有する化合物として、アゾベンゼン誘導体を用いるのが好ましく、中でも、その2個のベンゼン環上のいずれにも、Es値≦−0.55の置換基が、少なくとも一個置換しているアゾベンゼン誘導体がより好ましく、Es値<−1.2の置換基がそれぞれのベンゼン環に置換しているアゾベンゼン誘導体がさらに好ましい。低分子化合物においては、ベンゼン環上の置換基のEs値の合計が−2.5より小さいアゾベンゼン誘導体が好ましく、−2.9より小さいアゾベンゼン誘導体がさらに好ましい。Es値に関しては、例えば、構造活性懇話会編 「薬物の構造活性相関 ドラッグデザインと作用機作研究への指針(化学の領域 増刊122号)」(南江堂 1979年刊)p124−126に記載されている。
【0107】
本発明に使用可能な光感応性異性化基を有する化合物として、一般式C−3で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明に使用可能な化合物はこれらに限定されるものではない。
【0108】
【化51】

【0109】
【化52】

【0110】
【化53】

【0111】
【化54】

【0112】
また、上記例示化合物の構造中、アゾベンゼン骨格を桂皮酸骨格に置き換えた化合物、及びスチリルピリジン骨格に置き換えた化合物も、本発明に、光感応性異性化基を有する化合物として使用可能な例示化合物に含まれる。
【0113】
本発明の組成物は、少なくとも一種のディスコティック液晶化合物と、少なくとも一種の光感応性異性化基を有する化合物を含むことは必須であるが、これらを二種以上含むことは勿論、該組成物の液晶性発現を損なわない限り、重合開始剤(光、熱)、連鎖移動剤、架橋剤、界面活性剤、種々の低分子等、他の化合物等を含んでいてもよい。前記光感応性異性化基を有する化合物は、前記組成物中、0.3〜50質量%であるのが好ましく、1〜15質量%であるのがより好ましい。また、前記ディスコティック液晶化合物は、前記組成物中、45.9〜99.7質量%であるのが好ましく、84.5〜99質量%であるのがより好ましい。
【0114】
本発明の組成物は、基板上、あるいは基板間に保持し、光学層の一部又は全部を構成することも可能である。この際用いる基板は限定されないが、平坦性の優れたものが好ましい。例えば、金属基板、シリコン基板、透明基板等が挙げられる。金属基板の好ましい例としては、金、銀、銅、アルミ等が挙げられ、透明基板の好ましい例としては、ガラスやプラスチック(ポリエチレンテレフタレート等)等の基板が挙げられる。基板上には、必要に応じて電極部を配してもよい。電極部にはITO、TCO等の透明電極部や金電極部などが好ましい例として挙げられるが、必要に応じて基板そのものを電極として用いることもできる。
【0115】
基板、あるいは電極部上には配向部を設けてもよい。配向部の構築には種々の一般的な方法が採用できるが、各種ポリイミド系配向膜、ポリビニルアルコール系配向膜等の液晶配向膜を用いる方法が好ましい例として挙げられる。また、必要に応じて、界面活性剤処理等の配向処理、ラビングなどの配向処理を行ってもよい。また、基板上、及び一対の基板間には、必要に応じてスペーサーやシール剤等を用いてもよい。
【0116】
前記光学層には、必要に応じて適切な重合開始剤、重合禁止剤、光増感剤、架橋剤、重合可能なモノマー、液晶配向助剤などを添加してもよい。これらの添加剤は必ずしも液晶性を有する必要はない。加える添加剤の量は特に限定されない。ただし、用いる添加剤の量は、その液晶性を損なわない量であることが好ましい。
【0117】
前記光学層を基板上に設ける方法としては、周知の方法が採用される。例えば、前記組成物そのものを塗布する方法、前記組成物を適切な溶媒に溶解して塗布した後に乾燥する方法などが採用される。塗布する方式としては、公知の方法、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等が採用される。また、一対の基板間に該構成成分を注入する方法も採用できる。注入する方式としては、ディスペンサー方式、ベルジャー法などの一般的な方法が採用される。
【0118】
本発明の組成物は、光照射によって、物性、主には相転移温度、が変化し得る。光照射は、前記光感応性異性化基に光異性化を生じさせるのに充分な条件で行う。照射する光の波長の好ましい範囲は、用いる光感応性異性化基により異なり、その異性化に必要な波長であれば特に限定されるものではない。好ましくは、光照射に用いる光のピーク波長が200nm以上700nm以下であり、より好ましくは光のピーク波長が300nm以上700nm以下である。
【0119】
光照射に用いる光源は、通常使われる光源、例えばタングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、水銀ランプ、水銀キセノンランプ、カーボンアークランプ等のランプ、各種のレーザー(例、半導体レーザー、ヘリウムネオンレーザー、アルゴンイオンレーザー、ヘリウムカドミウムレーザー、YAGレーザー)、発光ダイオード、陰極線管などを挙げることができる。光照射は非偏光でも偏光でもよく、偏光を用いる場合は直線偏光を用いることが好ましい。さらに、フィルターや波長変換素子等を用いて必要とする波長の光のみを選択的に照射してもよい。
【0120】
光照射の方法としては、基板に対して上面、あるいは裏面から基板に対して垂直、あるいは斜めから光を照射する方法が採用される。用いる光照射の波長、光源は前述の通りである。
【0121】
本発明の組成物は、オプトエレクトロニクス材料、フォトニクス材料、ディスプレイ材料等の作製に用いられる。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0123】
[実施例1]
ポリビニルアルコール(PVA−203 クラレ社製)の溶液をガラス基板の表面に塗布し、薄膜を形成して、ラビング処理し、配向膜を作製した。該配向膜の表面に、下記組成物Ia〜Igの35質量%溶液(溶媒は2−ブタノン)をそれぞれスピンコート(2000rpm、20秒)し、試料を作製した。
次に、作製した試料を加熱装置(ホットステージFP82HT セントラルプロセッサーFP90 メトラー社製)上に置き、それを偏光顕微鏡(ECLIPSE E600W POL ニコン社製)にて観察できるよう設置した。
まず、該顕微鏡の照明光源レンズ上にO54フィルター(HOYA製)を設置し、且つ光量を観察に必要最低限に絞った場合(条件A)につき、一旦210℃まで加熱し、等方相になったことを確認した後、1℃/分にて降温し、ディスコティックネマティック相に入る温度を測定した。
次いで、フィルターを設置せず光量を最大にした場合(条件B)につき、一旦210℃まで加熱し、等方相になったことを確認した後、1℃/分にて降温し、ディスコティックネマティック相に入る温度を測定した。
【0124】
組成物Ia
TP−mix* 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物アゾベンゼン 10モル%
*TP−mix:以下に示すTP−pとTP−mのモル比8/2混合物
【0125】
【化55】

【0126】
組成物Ib
TP−mix 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例B 10モル%
組成物Ic
TP−mix 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例C 10モル%
組成物Id
TP−mix 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例E 10モル%
組成物Ie
TP−mix 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例F 10モル%
組成物If
TP−mix 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例G 10モル%
組成物Ig
TP−mix 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例H 10モル%
【0127】
[比較例1]
TP−mixのみを用いて同様に試料を作製し、同様に測定を行った。
実施例及び比較例の試料について、結果を表1(条件Aの場合)及び表2(条件Bの場合)にそれぞれ示す。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
[実施例2]
以下の組成物IIa〜IIcを用い、実施例1と同様に試料を作製し、等方相にするための温度を110℃としたことを除いて、実施例1の条件Aと同様に測定を行った。
組成物IIa
TP−OR 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例B 10モル%
【0131】
【化56】

【0132】
組成物IIb
TP−OR 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例F 10モル%
組成物IIc
TP−OR 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例H 10モル%
[比較例2]
TP−ORのみを用いて同様に試料を作製し、同様に測定を行った。
結果を3に示す。
【0133】
【表3】

【0134】
[実施例3]
配向膜を塗布し、ラビング処理したITO透明電極部を有するガラス基板をアンチパラレルにセットした5μmの空隙を有する水平配向セル(KSHH−05/B111PINSS イー.エッチ.シー社製)の空隙中に、下記組成物IIIa〜IIIhをそれぞれ充填して、セルをそれぞれ作製した。等方相にするための温度を145℃としたことを除いて、実施例1の条件Aと同様に測定を行った。
【0135】
組成物IIIa
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物アゾベンゼン 10モル%
【0136】
【化57】

【0137】
組成物IIIb
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例B 10モル%
組成物IIIc
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例C 10モル%
組成物IIId
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例D 10モル%
組成物IIIe
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例E 10モル%
組成物IIIf
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例F 10モル%
組成物IIIg
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例G 10モル%
組成物IIIh
TB−1 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例H 10モル%
【0138】
[比較例3]
TB−1のみを用いて同様に試料を作製し、同様に測定を行った。
結果を表4に示す。
【0139】
【表4】

【0140】
[実施例4]
組成物IVa〜IVhを用い、実施例1と同様に試料を作製し、等方相にするための温度を210℃としたことを除いて、同様に測定を行った。
組成物IVa
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物アゾベンゼン 10モル%
【0141】
【化58】

【0142】
組成物IVb
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例B 10モル%
組成物IVc
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例C 10モル%
組成物IVd
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例D 10モル%
組成物IVe
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例E 10モル%
組成物IVf
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例F 10モル%
組成物IVg
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例G 10モル%
組成物IVh
TP−Pr 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例H 10モル%
【0143】
[比較例4]
TP−Prのみを用いて同様に試料を作製し、同様に測定を行った。
結果を表5(条件Aの場合)及び表6(条件Bの場合)に示す。
【0144】
【表5】

【0145】
【表6】

【0146】
[実施例5]
以下の組成物Va〜Vcを用い、実施例1と同様に試料を作製し、同様に測定を行った。但し、等方相にするための温度は組成物によって異ならせた(表7中に記載)。
【0147】
組成物Va
TP−Ac 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例E 10モル%
上記合計質量を100として下記質量部を添加
Irg−907(チバスペシャリティーケミカルズ社製) 3.3
カヤキュア−DETX(日本化薬社製) 1.1
【0148】
【化59】

【0149】
組成物Vb
TB−2 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例E 10モル%
上記合計質量を100として下記質量部を添加
Irg−907(チバスペシャリティーケミカルズ社製) 3.3
カヤキュア−DETX(日本化薬社製) 1.1
【0150】
【化60】

【0151】
組成物Vc
TB−3 90モル%
光感応性異性化基を有する化合物例E 10モル%
上記合計質量を100として下記質量部を添加
Irg−907(チバスペシャリティーケミカルズ社製) 3.3
カヤキュア−DETX(日本化薬社製) 1.1
【0152】
【化61】

【0153】
[比較例5]
組成物Va〜Vcのそれぞれについて、光感応性異性化基を有する化合物を用いず、同様にそれぞれ試料を作製し、同様に測定を行った。
結果を表7に示す。
【0154】
【表7】

【0155】
上記結果より、実施例の組成物は、併用する化合物を代えることによって相転移温度を変化させ得るとともに、光照射によって、さらに相転移温度を変化させ得ることが明らかとなった。即ち、ディスコティック液晶化合物と、光感応性異性化基を有する化合物とを組み合わせることにより、広範囲にディスコティックネマティック相への転移温度を変化させ得ることが明らかとなった。したがって、本発明の組成物を利用することにより、所望の物性を示すオプトエレクトロニクス材料、フォトニクス材料、ディスプレイ材料等を、より精密に容易に作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及び光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する、ディスコティックネマティック相を示すことが可能な液晶性組成物。
【請求項2】
ディスコティック液晶化合物が、トリフェニレン誘導体である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トリフェニレン誘導体が、ベンゾアート基を置換基として有する化合物である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
光感応性異性化基を有する化合物が、アゾ化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
アゾ化合物が、アゾベンゼン誘導体である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
アゾベンゼン誘導体が、下記一般式C−3で表される化合物である請求項5に記載の組成物:
【化1】

式中、Ar11及びAr12はそれぞれ独立して、置換若しくは無置換の、炭素数6〜10の芳香環又は炭素数5〜10の複素環の残基を表し;X及びYはそれぞれ独立して、単結合又は二価の連結基を表し;R1及びR2はそれぞれ独立して、アルキル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基、シアノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を表し;R3及びR4はそれぞれ独立して、ベンゼン環上に置換している、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基又はハロゲン原子を表し;n及びmはそれぞれ0〜3の整数を表し;o及びpはそれぞれ0〜4の整数を表し;q及びrはそれぞれ0〜4の整数を表す。
【請求項7】
ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及びアゾベンゼン誘導体から選択される光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する液晶性組成物であって、前記光感応性異性化基を有する化合物のアゾベンゼン骨格の2個のベンゼン環上のいずれにも、Es値が−0.55以下の置換基が少なくとも一個置換している液晶性組成物。
【請求項8】
重合性基を有するディスコティック液晶化合物の少なくとも一種、及び光感応性異性化基を有する化合物の少なくとも一種を含有する液晶性組成物。
【請求項9】
光照射により液晶相の相転移温度を変化させ得る請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。

【公開番号】特開2007−131765(P2007−131765A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327352(P2005−327352)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】