説明

液晶材料の製造方法

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、再結晶操作による高い比抵抗値を有する液晶化合物の簡便な製造方法を提供することであり、この製造方法により得られた液晶化合物を使用した液晶組成物を提供することであり、高い比抵抗値を有する液晶化合物を得る簡便な再結晶方法を提供することである。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


で表される化合物を炭化水素系溶媒を単独又は混合して展開溶媒とするカラムクロマトグラフィーにより精製し、得られた溶液から溶媒を一部留去して再結晶した後、又は留去せずに再結晶した後に、再結晶に使用した溶媒を留去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い比抵抗値を有する液晶材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は液晶テレビ、携帯電話やパソコンなどをはじめとする民生用途から産業用途まで広く使用されるようになった。これらは製品寿命が数年から十数年と比較的長く、この間正常に動作するために、これに使用する液晶材料には高い安定性が求められる。液晶材料の代表的な安定性の指標として比抵抗値がある。液晶表示素子が正常に動作するためには、それに使用する液晶材料の比抵抗値が十分高くなければならならず、また経時劣化も抑えなければならない。
【0003】
液晶材料の安定性を向上させるために、これまで多くの研究がなされてきた。例えば、液晶材料中の水分や金属イオンを除去する方法として、液晶材料をシリカゲルと接触させる方法(特許文献1参照)、活性アルミナと接触させる方法(特許文献2参照)、イオン交換樹脂で処理する方法(特許文献3参照)、ゼオライトと接触させる方法(特許文献4参照)が開示されている。更に、対向する一対の電極間に液晶化合物を入れ、電界をかけることにより、電界による移動度の比較的大きなNa、K等の金属イオンや、SO2−、NO、Cl等のイオン性不純物を除去する方法等(特許文献5〜7参照)が開示されている。これら精製法は既に液晶材料に含まれる不純物を除去するための方法である。
【0004】
一方、液晶材料に対する要求は高速応答化や高コントラスト化など多岐に渡る。これら物性は単独の化合物では達成することができず、複数の液晶化合物を混合し、液晶組成物として要求に対応している。その際、各液晶化合物を正確に秤量し、その混合比を目標値に正しく合わせることが重要である。混合比に誤差が生じると物性が変化してしまい、要求を満たす液晶組成物を調製できないからである。
【0005】
ここで、液晶化合物の多くは室温では固体である。このため溶媒に溶けた溶液状態の液晶化合物から溶媒をほぼ留去すると一気に結晶化が進行し、全体が一体の固体となってしまう。液晶化合物は完全に溶媒を留去せずに使用すると、安定性が低下する等の不具合を生じるため望ましくない。このため、減圧下で液晶化合物の結晶中に取り込まれた溶媒を除去する必要がある。しかし、その得られた固体の塊が大きいと内部に取り込まれた溶媒が揮発せず除去することができない。また、液晶組成物の調製時の秤量を塊を砕きながら行わなければならないため、極めて作業が困難となり、秤量の正確性も確保できない。これに対し、液晶化合物を粉体として調製すると、溶媒の留去も秤量時の微調整も容易となる。しかし先に示した精製法は液晶材料を液晶状態あるいは溶液状態で処理するものであり、処理後に得られる液晶化合物は粉体とならない。加えて、これらの方法は実施に際して特殊な装置や煩雑な操作を必要とするため、生産性の点において不利である。
【0006】
液晶化合物を簡便に粉体として得るためには再結晶が有効であり、実際に液晶化合物を再結晶で精製する例は数多くある(特許文献8)。再結晶は、化合物を溶媒に溶かし、温度差や溶媒の蒸発、溶媒の混合比の変化等による溶解度の差などを利用して結晶を析出させ、それをろ取することにより行う。この際結晶の析出速度等を調整することにより、均一で細かな結晶を得ることができる。このように得られた粉体の液晶化合物は粒子が細かいため溶媒の留去を容易に行うことができ、また容易に掬うことができるため、秤量が容易であり、添加量の細かな調節もできる。
【0007】
高い比抵抗値を有する液晶材料を得るためには、それを構成する各液晶化合物も高い比抵抗値を有している必要があり、秤量前の最終工程として再結晶を行う場合、品質上の要求から、その再結晶後の液晶化合物は高い比抵抗値を有していなければならない。しかし、一般的なグレードの溶媒はイオン成分等を含んでいるため、これを用いて再結晶を行うと、これら成分の影響により再結晶後の液晶化合物の比抵抗値が実用レベルに達しないとの問題がある。
【0008】
以上のように、再結晶により高い比抵抗値を有する液晶化合物を得る簡便で実用的な方法が切望されているものの、具体的な解決手段はこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−210420号公報
【特許文献2】特開昭58−1774号公報
【特許文献3】特開昭52−59081号公報
【特許文献4】特開昭63−261224号公報
【特許文献5】特開昭50−108186号公報
【特許文献6】特開昭51−11069号公報
【特許文献7】特開平4−86812号公報
【特許文献8】特開2007−176818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明が解決しようとする課題は再結晶操作による高い比抵抗値を有する液晶化合物の、簡便な製造方法を提供することであり、この製造方法により得られた液晶化合物を使用した液晶組成物及び液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは本願発明の対象化合物に関し鋭意検討した結果、特定の製造方法により前述の課題を解決できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0012】
本願発明は、(i)一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数2〜6のアルケニルオキシ基を表し、
aは1、2又は3を表し、
及びAはそれぞれ独立に(a) トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置き換えられてもよい)、
(b) 1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個の−CH=又は隣接していない2個以上の−CH=は窒素原子に置き換えられてもよい)及び
(c) 1,4−ビシクロ(2.2.2)オクチレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基及び1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン-2,6−ジイル基、並びにクロマン−2,6−ジイル基
からなる群より選ばれる基を表すが、上記の基(a)、基(b)又は基(c)に含まれる水素原子はそれぞれフッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又は塩素原子で置換されていても良く、Aが複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていても良く、
は単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−CH≡CH−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−又は−OCO−を表すが、複数存在するZは同一であっても異なっていても良く、
は水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数2〜6のアルケニルオキシ基を表す。)で表される化合物の比抵抗値を、式(A−1)及び(A−2)で表される化合物
【0015】
【化2】

【0016】
を各50質量%ずつ含み、比抵抗値が1.0×1013Ω・m以上である液晶組成物(M−1)80質量%に、一般式(1)で表される化合物を20質量%添加した液晶組成物の比抵抗値と定義し、比抵抗値が8.0×1011Ω・m未満を示す一般式(1)で表される化合物を、単独の炭化水素系溶媒又は2種以上の炭化水素系溶媒のみからなる混合溶媒を展開溶媒として用いるカラムクロマトグラフィーにより精製し、一般式(1)で表される化合物の溶液を得た後、得られた溶液から溶媒を一部留去した後に結晶を析出させるか、又は留去せずに得られた溶液からそのまま結晶を析出させ、得られた結晶をろ取し、更に溶媒を留去することによる、該比抵抗値の定義による比抵抗値が8.0×1011Ω・m以上を示す結晶状態の一般式(1)で表される化合物の製造方法。、(ii)その際に行う再結晶方法、(iii)本願製造方法により得られた液晶化合物を含有する液晶組成物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の製造方法により、高い比抵抗値を有する液晶化合物を簡便な操作により得ることができるようになる。よって、本願発明により長期間使用可能な液晶表示素子を作成するための液晶組成物を得ることが可能となった点において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般式(1)において、A又はAのうち少なくとも一つは群(A)
【0019】
【化3】

【0020】
又は群(B)
【0021】
【化4】

【0022】
から選ぶのが好ましい。さらに群(B)の中では、
【0023】
【化5】

【0024】
がより好ましい。
【0025】
又はAのうち少なくとも一つを群(A)から選んだ場合、他方をトランス−1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基又は群(A)から選ぶことが好ましい。
【0026】
又はAのうち少なくとも一つを群(A)から選んだ場合、Yはフッ素原子が好ましく、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基が好ましく、Zは単結合、−CHCH−、−CFO−又は−OCF−が好ましい。
【0027】
又はAのうち少なくとも一つを群(B)から選んだ場合、R及びYはそれぞれ独立的にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、3−ブテニルオキシ基及び4−ペンテニルオキシ基が好ましく、Zは単結合、−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−CFO−又はOCF−が好ましい。
【0028】
比抵抗値が1.0×1013Ω・m以上である液晶組成物(M−1)に、一般式(1)で表される化合物を20質量%添加した液晶組成物の比抵抗値が8.0×1011Ω・m未満である場合、一般式(1)で表される化合物を含む液晶組成物を使用した液晶表示素子は表示不良を起こすことがあるのに対し、(M−1)に一般式(1)で表される化合物を20質量%添加した液晶組成物の比抵抗値が8.0×1011Ω・m以上である場合にはそのようなことは起きず、長期間の使用でも問題なく動作する。より高い信頼性を得るためには比抵抗値を高くすることが望ましいが、比抵抗値を上げるため、精製工程を繰り返すと収率の低下を招き、安価に製造することが出来なくなる。このため、実用的には、比抵抗値が1.0×1013Ω・m以上である液晶組成物(M−1)に、精製後の一般式(1)で表される化合物を20質量%添加した液晶組成物の比抵抗値は8.0×1011Ω・mが好ましく、1.0×1012Ω・mが好ましく、5.0×1012Ω・mが好ましく、1.0×1013Ω・mが好ましい。この比抵抗値は高いほど好ましいが、液晶化合物は有機物であり、限界がある。
【0029】
本願発明に使用する精製前の一般式(1)で表される化合物は比抵抗値が十分高い場合本願精製を行う必要がない。また、あまりに低いと本願発明を数回繰り返す必要が出てくる。このため、下限値として9.9×1011Ω・mが好ましく、8.0×1011Ω・mが好ましく、5.0×1011Ω・mが好ましく、1.0×1011Ω・mが好ましく、1.0×1010Ω・mが好ましく、1.0×10Ω・mが好ましく、1.0×10Ω・mが好ましく、上限値として9.9×1011Ω・mが好ましく、8.0×1011Ω・mが好ましく、5.0×1011Ω・mが好ましく、1.0×1011Ω・mが好ましく、1.0×1010Ω・mが好ましく、1.0×10Ω・mが好ましく、1.0×10Ω・mが好ましい。
【0030】
本願精製を行う前に、使用に耐えるほどの純度を有していれば他の精製方法や再結晶を行う必要はないが、十分な純度の液晶化合物を得るためには、事前に他の精製方法や再結晶を行っておくことが好ましい。また、本願発明に使用する精製前の一般式(1)で表される化合物の化学的な純度は特に規定はないが、本願発明の精製後に他の精製をせず使用するため、高い方が望ましく、ガスクロマトグラフィー(カラム:DB−1、キャリアーガス:ヘリウム)の面積比で95%以上のものを使用することが好ましく、97%以上が望ましく、99%以上が望ましく、99.5%以上が望ましく、99.8%以上が更に望ましい。この際、比抵抗値を低下させる恐れのない化合物や、既に特性が確認されておりその影響が確認され許容できる濃度が規定されているような化合物は化学純度決定においては一般式(1)で表される化合物に含めてもよい。
【0031】
カラムクロマトグラフィーに使用する精製剤としてはシリカゲル、アルミナ又はそれらの両方を使用するのが好ましい。精製剤は事前に純水や有機溶媒等により洗浄してから使用してもよい。また、アルミナは酸性、塩基性又は中性のものを使用することができる。
【0032】
炭化水素系溶媒の種類としては、へキサン若しくはその構造異性体、ヘプタン若しくはその構造異性体、オクタン若しくはその構造異性体、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、又はクメンが好ましく、ヘキサン若しくはその構造異性体、ヘプタン若しくはその構造異性体、又はトルエンがより好ましい。
【0033】
再結晶は一般式(1)で表される化合物をカラムクロマトグラフィーにより精製した後、得られた溶液を冷却して行うことができる。この際、再結晶の収率を向上させる等の目的により、溶液から溶媒を一部留去し、濃度を高めてから再結晶しても良い。再結晶を行う前に結晶が析出している場合には完全に溶解させた後に再結晶することが好ましいが、その後の晶析、ろ過の作業に支障がない範囲においては未溶解の部分が残っても良い。冷却の際は、急冷してもよいし徐冷してもよい。冷却後は温度を一定に保っても良いし、更に冷却しながら結晶を析出させていっても良い。また、結晶を析出させる際は攪拌を行っても良いし、静置してもよい。結晶の大きさをそろえ、結晶サイズをあまり大きくしない場合には攪拌したほうが好ましい。結晶を析出させる際には空気中で行っても良いが、空気中の酸素による酸化の影響や結晶中に水分が取り込まれることを防ぐため、希ガス又は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。また、析出した結晶を取り出すために結晶をろ取するが、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過又は遠心ろ過の方法をとることが出来る。またろ過を行う際には空気中の酸素による酸化の影響や結晶中に水分が取り込まれることを防ぐため、希ガス又は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。また、ろ剤としては紙を含むセルロース、ガラス繊維、メンブランフィルター、セライト等通常ろ過工程で使用されるものは使用可能である。また、ろ過時は室温で行っても、冷却しても又は加熱しても良い。
【0034】
再結晶工程において結晶をろ取した後の再結晶に使用した溶媒の留去は、減圧下に室温で又は加熱しながら行うことができる。この際に、加熱手段に特に制限はなく、設定温度から数度の範囲で制御できる方法であれば如何なる方法をとることもできる。実施の容易性から温調を備え溶液を満たした容器に液晶化合物を入れた容器を浸す方法や該容器をマントルヒーター等で加熱する方法、更に液晶化合物を乗せた棚に加熱した液体を流す流路を設けこれにより加熱する方法が挙げられる。また、溶媒を留去する際には気化熱により液晶化合物が冷却されるので温度低下を低減することを目的として加熱していない溶液により前記手段を行うこともできる。また、これら方法を用いず、温度制御しないで溶媒を留去することも可能である。作業時間の短縮のために、下限温度を20℃とすることが好ましく、30℃とすることが好ましく、35℃とすることが好ましく、40℃とすることが更に好ましい。上限温度としては、温度を上げると溶媒の留去速度は上がるため高い方が好ましいが、あまり高温とすると液晶化合物の分解や酸化等が起こり好ましくない。また、融点以上に加熱してしまうと乾燥後に室温まで冷却するとすべてが一体の固体となり、粉体として得られないため好ましくない。このため、融点未満が好ましく、60℃が好ましく、55℃が好ましく、50℃が好ましく、45℃が好ましく、40℃が好ましい。溶媒留去時は液晶化合物を入れた容器や棚を静止させていても良いし、動かしていても良い。しかし、効率の点から回転や振動させることが好ましい。
【0035】
本願発明の製造方法により得られた結晶及び本願発明の結晶は、その後更に他の精製を行わずに他の液晶化合物と混合し、液晶組成物を調製する。液晶組成物とした後は必要に応じろ過や吸着剤による処理を行っても良い。
【0036】
液晶化合物には再結晶に使用した溶媒が含まれないことが好ましいが、液晶組成物とした際に悪影響を及ぼさない濃度以下であれば良い。その濃度は200ppm以下が好ましく、100ppm以下が好ましく、50ppm以下が好ましく、20ppm以下が更に好ましい。
【0037】
通常、カラムクロマトグラフィーにより化合物を精製し、その後再結晶する場合には、得られた溶液から溶媒を留去し、改めて再結晶用の溶媒を加えて行う。しかし、溶媒の留去等の操作中にイオン成分等の不純物が混入するリスクがある上、加える再結晶用溶媒に一般的なグレードのものを使用すると、含まれるイオン成分等の影響により化合物の比抵抗値が低下してしまう。それに対し、本願発明ではカラムクロマトグラフィーにより化合物と共に再結晶用溶媒の精製も行っており、得られたイオン成分等の不純物が極めて少ない溶液から直接再結晶を行うため、不純物混入のリスクが減少し、工程を簡略化することができ、また一般的なグレードの溶媒を使用しても高い比抵抗値の化合物を得ることができる。このように、本願発明では安定して高い比抵抗値の化合物が得られると共に、工程簡略化等による製造原価の削減が達成できる点で非常に有用である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。液晶組成物の比抵抗値は、測定用セルに液晶組成物を入れ、電圧(DC)1V印加時の抵抗値を25℃にて測定して得た。なお、以下の実施例及び比較例中で使用しているヘキサンおよびトルエンは和光純薬株式会社製の一級グレード品である。
(実施例1) 式(1−1)で表される化合物の再結晶(1)
式(A−1)及び(A−2)
【0039】
【化6】

【0040】
を各50%ずつ含む、比抵抗値が1.0×1013Ω・mである液晶組成物(M−1)に、式(1−1)
【0041】
【化7】

【0042】
で表される化合物を20%添加した液晶組成物の比抵抗値は1.0×1011Ω・mであった。この式(1−1)で表される化合物100gをヘキサン400mLに溶解し、カラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル及びアルミナ、展開溶媒:ヘキサン400mL)で精製した。得られた溶液約900mLを5℃で10分間撹拌して晶析させた後−18℃の冷凍庫内で16時間静置した。結晶分をろ取するため、フィルター付きのヌッチェに注いだ。得られた結晶をナスフラスコに移し、真空ポンプにより減圧し(266Pa)、ナスフラスコを回転させながら溶媒を留去した。この際、45℃の湯浴にフラスコを浸し、温度制御を行った。20時間後、式(1−1)で表される化合物90.0gを粉末状の結晶として得た。結晶中の残留溶媒量は56ppmであった。得られた式(1−1)で表される化合物を比抵抗値が1.0×1013Ω・mである液晶組成物(M−1)に20%添加した液晶組成物の比抵抗値は3.0×1012Ω・mであった。
【0043】
また、式(I−1)で表される化合物を含有する液晶組成物を使用した液晶表示素子を作製したところ、表示不良を起こさず良好な特性を示した。
(比較例1) 式(1−1)で表される化合物の再結晶(2)
実施例1において、カラムクロマトグラフィー後に得られた溶液を減圧下に留去し結晶として式(1−1)で表される化合物を得た後、ヘキサン800mLを加えて溶解し、得られた溶液に対し、実施例1と同様の再結晶および乾燥操作を行った。得られた式(1−1)で表される化合物を液晶組成物(M−1)に20%添加した液晶組成物の比抵抗値は6.0×1011Ω・mであった。精製工程前と比較し比抵抗値の向上が十分ではなく、液晶表示素子用の液晶組成物材料としては使用することができなかった。
(実施例2)式(1−1)で表される化合物の再結晶(3)
実施例1において、カラムクロマトグラフィー後に得られた溶液約900mLから溶媒を一部留去して約300mLとした後、同様の再結晶および乾燥操作を行った。得られた式(1−1)で表される化合物の収量は93.3gであり収率が向上した。これを液晶組成物(M−1)に20%添加した液晶組成物の比抵抗値は3.0×1012Ω・mであった。
(実施例3)式(1−1)で表される化合物の再結晶(4)
実施例1において、カラムクロマトグラフィーの際の式(1−1)で表される化合物の溶解にヘキサン/トルエン混合溶媒(体積比4/1)200mLを用い、展開溶媒にヘキサン/トルエン混合溶媒(体積比4/1)300mLを用いて同様の操作を行った。得られた式(1−1)で表される化合物の収量は89.5gであった。これを液晶組成物(M−1)に20%添加した液晶組成物の比抵抗値は2.8×1012Ω・mであった。
(実施例4)
実施例1において、式(1−1)で表される化合物の代わりに下表に示す化合物を用い、同様の操作を行った。なお表中の比抵抗値は、それぞれの化合物を液晶組成物(M−1)に20%添加した液晶組成物のものである。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数2〜6のアルケニルオキシ基を表し、
aは1、2又は3を表し、
及びAはそれぞれ独立に(a) トランス−1,4−シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置き換えられてもよい)、
(b) 1,4−フェニレン基(この基中に存在する1個の−CH=又は隣接していない2個以上の−CH=は窒素原子に置き換えられてもよい)及び
(c) 1,4−ビシクロ(2.2.2)オクチレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基及び1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン-2,6−ジイル基、並びにクロマン−2,6−ジイル基
からなる群より選ばれる基を表すが、上記の基(a)、基(b)又は基(c)に含まれる水素原子はそれぞれフッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又は塩素原子で置換されていても良く、Aが複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていても良く、
は単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−CH≡CH−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−又は−OCO−を表すが、複数存在するZは同一であっても異なっていても良く、
は水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数2〜6のアルケニルオキシ基を表す。)で表される化合物の比抵抗値を、式(A−1)及び(A−2)で表される化合物
【化2】

を各50質量%ずつ含み、比抵抗値が1.0×1013Ω・m以上である液晶組成物(M−1)80質量%に、一般式(1)で表される化合物を20質量%添加した液晶組成物の比抵抗値と定義し、比抵抗値が8.0×1011Ω・m未満を示す一般式(1)で表される化合物を、単独の炭化水素系溶媒又は2種以上の炭化水素系溶媒のみからなる混合溶媒を展開溶媒として用いるカラムクロマトグラフィーにより精製し、一般式(1)で表される化合物の溶液を得た後、得られた溶液から溶媒を一部留去した後に結晶を析出させるか、又は留去せずに得られた溶液からそのまま結晶を析出させ、得られた結晶をろ取し、更に溶媒を留去することによる、該比抵抗値の定義による比抵抗値が8.0×1011Ω・m以上を示す結晶状態の一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)において、A又はAのうち少なくとも1つが
【化3】

を表す請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)において、Yがフッ素原子を表す請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)において、Rがメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基であり、Zは単結合、−CHCH−、−CFO−又は−OCF−を表す請求項1、2又は3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)において、A又はAのうち少なくとも1つが
【化4】

を表す請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)においてR及びYがそれぞれ独立的にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、3−ブテニルオキシ基又は4−ペンテニルオキシ基を表し、Zが単結合、−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−CFO−又は−OCF−を表す請求項1又は5記載の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)においてA又はAのうち少なくとも1つが
【化5】

を表す請求項1又は6記載の製造方法。
【請求項8】
炭化水素系溶媒がへキサン並びにその構造異性体、ヘプタン並びにその構造異性体、オクタン並びにその構造異性体、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びクメンから選択される単一又は混合溶媒である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
炭化水素系溶媒がヘキサン並びにその構造異性体、ヘプタン並びにその構造異性体、及びトルエンから選択される単一又は混合溶媒である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
カラムクロマトグラフィーに使用する充填剤がシリカゲル、アルミナ、又はそれらの両方である請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
再結晶後の一般式(1)で表される化合物の比抵抗値が1.0×1012Ω・m以上を示す請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法により製造された一般式(1)で表される化合物。
【請求項13】
請求項12記載の化合物を含有する液晶組成物。
【請求項14】
請求項13記載の液晶組成物を使用した液晶表示素子。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法を実施する際に行う再結晶方法。

【公開番号】特開2011−105687(P2011−105687A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264925(P2009−264925)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】