説明

液晶表示装置の製造方法

【課題】外部接続する電位と、液晶の駆動波形の平均電位との間に相違がある構成であっても、表示不良の発生を抑制することのできる液晶表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】液晶表示装置は、互いに対向する一対の基板と、一対の基板の間に挟持された液晶層と、液晶層を介して互いに対向する一対の電極と、一対の電極と液晶層との間にそれぞれ設けられた一対の配向膜と、一対の基板の一方で液晶層の側とは反対の側に設けられた外部電極とを備える。一対の基板をシール材を介して所定の間隔で貼り合わせた後、加湿処理を行ってから、一対の基板およびシール材で包囲された空間内に液晶材料を注入する。加湿処理は、25℃以上の温度であって85%以上の相対湿度で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では、観察者の側に配置される透明基板と、この透明基板に対向して観察者とは反対側に配置される透明基板との間に、液晶層が挟持されており、各基板の内面に設けられた電極間に印加される電界に応じて、液晶層を透過する光の偏光状態が制御される。また、2枚の基板を挟んで、観察者の側とその反対側に一対の偏光板が配置される。
【0003】
液晶表示装置は、液晶層の初期配向状態並びに電圧印加時の動作状態および配向状態などから、いくつかのモードに分類される。例えば、液晶テレビや、自動車などの車両のインストルメントパネルなどいわゆる車載用に利用される液晶表示装置には、VA(Vertical Alignment)モードが用いられる(例えば、特許文献1および2参照。)。VAモードは、正面から見たときのコントラスト比が高く、また、視野角が広いことから、視認性に優れたモードである。
【0004】
VAモードでは、基板間に挟持されるのは、初期配向状態が基板と概ね垂直(垂直配向)な負の誘電率異方性(Δε)を有する液晶層である。液晶層を挟んで、通常はクロスニコルを構成するように一対の偏光板が配置される。電極を介して液晶層に電圧を印加すると、液晶の配向が変化し、液晶層が電界に対して垂直、すなわち、液晶の配向方向が基板と平行になる。これにより、電圧を印加した部分と印加していない部分とで、液晶の屈折率異方性(Δn)と液晶層の厚み(d)との積(Δn・d)によって定まる光の透過特性、特に、色味に違いが生じる。液晶表示装置では、こうした性質を利用して所望とする表示が行われる。
【0005】
上述したように、VAモードでは、液晶層が負の誘電率異方性を有する。したがって、液晶には負の誘電率異方性を示すものが用いられる。かかる液晶としては、例えば、分子構造にシアノ基を有するものが知られている。しかし、この液晶は、粘性が高いために、液晶表示装置の駆動時における液晶の応答速度を著しく遅くするという問題がある。また、信頼性が低く、耐熱性にも乏しいことや、不純物の除去が困難であるために、液晶の性能および安定性の低下をもたらし易いなどの問題もある。一方、分子構造にフッ素原子を有する液晶も負の誘電率異方性を示すことが知られている。この液晶は、粘性が低いので、液晶表示装置の駆動時における液晶の応答速度を速くすることができる。また、信頼性が高く、耐熱性にも優れていることや、精製が容易であるなどの利点を有している。このため、VAモードでは、含フッ素型の液晶を選択し、これを用いて液晶層を構成するのが一般的となっている。
【0006】
ところで、液晶表示装置の表面に設けられた保護用の樹脂フィルムを剥がしたり、使用者が液晶表示装置に触れたりすると、液晶表示装置の表面に静電気が生じる。すると、静電気により液晶層に電圧が印加されて液晶の配向が変化し、本来表示したい部分とは異なる部分が表示される現象(以下、表示不良と称す。)が起こる。特に、含フッ素液晶を用いて構成された液晶層では、液晶が高純度であるために比抵抗が高くなり、液晶層を通して静電気を逃がすことが困難である。このため、液晶表示装置における表示不良が顕著となる。
【0007】
表示不良は、液晶表示装置の電極パターンによっても影響される。
【0008】
例えば、アクティブマトリクス型の液晶TVなどでは、ドットマトリクス構造が使用されるが、この構造は、開口率が比較的高く、表示部で電極が密に配置される。したがって、液晶表示装置の表面に静電気が発生しても、電極を介してこれを分散させることが比較的容易である。また、カラーフィルタのブラックマスクによって、異常点灯した部分、すなわち、本来表示されるべきではない部分が隠されるので、表示不良を観察者に見え難くすることもできる。
【0009】
これに対して、キャラクター表示を行うことのできるパッシブマトリクス型の液晶表示装置では、静電気による表示不良の問題が顕在化しやすい。キャラクター表示では、電極構造が密なドットマトリクス構造ではなく、表示部の開口率が70%以下であり、表示部内で電極の形成されていない部分の面積が大きい構造となっている。したがって、電極を利用して静電気を分散させることが困難であり、直流電荷が局在化して異常点灯による表示不良を引き起こす。観察者にとっては、本来表示されるべき部分と、表示されるべきではない部分とがどちらも画面上に点灯されることになるので、表示機能の低下をもたらすことになる。
【0010】
また、パッシブマトリクス型の液晶表示装置は、カラーフィルタを使用しない構造のものが多い。このため、本来表示されるべきではない部分の異常点灯を隠すためには、新たにブラックマスクを設ける必要があり、製造コストを大幅に上昇させてしまうという問題もある。
【0011】
一方、こうした表示不良を抑制する方法の1つとして、液晶にその比抵抗を低下させる物質を添加することが考えられる。しかしながら、この方法では、表示不良の十分な抑制を期待できないことが分かっている。
【0012】
また、液晶表示装置の一方の基板の外面に外部ITO(Indium Tin Oxide)電極を設けて、液晶層に静電気による電圧が印加されないようにすることも考えられる。例えば、液晶表示装置の外縁にメタルフレームを設け、導電性弾性体を介して外部ITOとメタルフレームを電気的に接続する。メタルフレームを接地することにより、上記一方の基板の側に静電気が発生したとしても、静電気は、外部ITOから導電性弾性体とメタルフレームを通じて放電される。
【0013】
しかし、外部電極を設ける構造の場合、外部接続する電位と、液晶の駆動波形の平均電位との間に相違があると、外部電極と液晶表示装置を構成する基板の内面に設けられた電極との間に電位差が発生する。すると、液晶表示装置の長時間の使用によって、液晶中のイオン性物質が移動して内部分極を生じ、静電気による電圧印加がなくても表示不良が起こるようになる。かかる表示不良は高温下で顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−113561号公報
【特許文献2】特開平10−123576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、外部接続する電位と、液晶の駆動波形の平均電位との間に相違がある構成であっても、表示不良の発生を抑制することのできる液晶表示装置の製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、互いに対向する一対の基板と、
一対の基板の間に挟持された液晶層と、
液晶層を介して互いに対向する一対の電極と、
一対の電極と液晶層との間にそれぞれ設けられた一対の配向膜と、
一対の基板の少なくとも一方で液晶層の側とは反対の側に設けられた外部電極とを備えた液晶表示装置の製造方法であって、
一対の基板をシール材を介して所定の間隔で貼り合わせた後、加湿処理を行ってから、一対の基板およびシール材で包囲された空間内に液晶材料を注入することを特徴とするものである。
【0018】
加湿処理は、25℃以上の温度であって85%以上の相対湿度で行うことが好ましい。
【0019】
液晶層は負の誘電率異方性を有していることが好ましく、配向膜に垂直配向処理を施すことが好ましい。
【0020】
液晶表示装置はパッシブマトリクス型であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外部接続する電位と、液晶の駆動波形の平均電位との間に相違がある構成であっても、表示不良の発生を抑制することのできる液晶表示装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は、セグメント電極の駆動波形を示したものであり、(b)は、外部ITO電極の電位を示したものである。
【図2】(a)は、液晶を駆動させるための通電をした直後の電荷の様子を示す模式図であり、(b)は、通電開始から所定時間を経過した後の電荷の様子を示す模式図である。
【図3】表示不良を起こしている異常点灯部での等価回路の想定図である。
【図4】本実施の形態における液晶表示装置の断面図の一例である。
【図5】液晶表示装置における抵抗成分の周波数特性を示した一例である。
【図6】加湿処理の有無による配向膜の抵抗値を比較した一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態における液晶表示装置は、パッシブマトリクス構造である。すなわち、画像表示を構成する各画素部分には、TFT等のスイッチング素子が設けられておらず、電極層を用いたパッシブ駆動によって目的の画像が表示される。また、本実施の形態では、VAモードの液晶表示装置を例にとり説明するが、他のモードの液晶表示装置であってもよい。
【0024】
図1(a)は、セグメント電極の駆動波形を示したものである。この例では、平均電位は3.15Vとなっている。一方、図1(b)は、外部ITO電極の電位を示したものであり、通常は0Vである。このように、セグメント電極の駆動波形は、常に接地電位より高い電位にある。このため、例えば、図1(a)および(b)の場合、平均電位で3.15Vの電圧が液晶層に常時印加されることになる。
【0025】
図2(a)および(b)は、液晶表示装置の部分断面図である。これらにおいて、符号201a、201bは基板を、符号202a、202bは偏光板を、符号203はコモン電極を、符号204はセグメント電極を、符号205a、205bは配向膜を、符号206は液晶層を、符号207は外部ITO電極をそれぞれ示している。
【0026】
図2(a)は、液晶を駆動させるための通電をした直後の電荷の様子を示す模式図である。液晶中には、正の電荷のイオン性物質208と負の電荷のイオン性物質209とが含まれている。これらは、液晶層206に電圧を印加しない状態では液晶中に分散している。一方、液晶層206に電圧を印加すると、液晶中に含まれるイオン性物質が外部ITO電極207とセグメント電極204の間の直流電界に応じて移動する。すなわち、図2(a)に示すように、正の電荷のイオン性物質208は、コモン電極203のない配向膜205aの方に移動し始め、負の電荷のイオン性物質209は、セグメント電極204の方へ移動し始める。これは、コモン電極203とセグメント電極204によって液晶層206に電圧を印加し液晶を駆動させると、図1で説明したように、外部ITO電極207とセグメント電極204の間に平均電位3.15Vの電圧が印加されるためである。
【0027】
図2(b)は、通電開始から所定時間を経過した後の電荷の様子を示す模式図である。液晶層206への連続通電により、コモン電極203のない配向膜205aの表面には、正の電荷のイオン性物質208が集まる。一方、セグメント電極204の表面には、負の電荷のイオン性物質209が集まる。かかる液晶中での内部分極が液晶の閾値電圧を超えると、コモン電極203のない配向膜205aと、セグメント電極204との間で点灯が起こる。すなわち、本来表示したい部分とは異なる領域で点灯が起こるため、液晶表示装置における表示不良となる。かかる現象は特に高温下で発生し易い。これは、高温下では液晶の粘度が低下し、不純物が液晶中で移動し易くなるためと推察される。また、高温下では、液晶を駆動する最適電圧が低下することにより、異常点灯が発生する閾値電圧も低下する。このため、温度にかかわらず液晶表示装置の駆動回路からの供給電圧が一定であれば、高温下の方が表示不良は発生し易くなる。
【0028】
図3は、表示不良を起こしている異常点灯部での等価回路の想定図である。図2(b)において、液晶中に生じた内部分極は、配向膜205aと基板201aを通って外部ITO電極207から接地電位点(図示せず)へと放電されるか、あるいは、配向膜205bからセグメント電極204へと放電されるとともに配向膜205aからコモン電極203へと放電されると考えられる。ここで、通常、基板201a、201bにはガラスが用いられ、ガラス側へ放電するのは難しいと考えられる。そこで、本発明者は、放電のし易さに影響を及ぼすのは配向膜205a、205bであると考え、配向膜205a、205bの抵抗を低くすることで蓄積した電荷の放電を容易にして表示不良の発生を抑制することを考えた。
【0029】
次に、本実施の形態における液晶表示装置の構成について述べる。
【0030】
図4は、本実施の形態における液晶表示装置の断面図の一例である。この液晶表示装置はVAモードの液晶表示装置とするが、本発明においては、TN(Twisted Nematic)モードやSTN(Super−Twisted Nematic)モードなどであってもよく、特に限定されるものではない。
【0031】
図4に示すように、液晶表示装置は、一対の透明なガラス製の基板101a、101bと、これらの基板に挟持されて複数の液晶からなる液晶層106と、各基板の液晶層106とは反対側の面に配置された一対の偏光板102a、102bとを有する。偏光板102bの基板101bと反対側の面には、拡散板110が設けられている。拡散板110は、バックライト(図示せず)の光を拡散して、この光が液晶層106に対し観察者とは反対の側から照射されるようにする。
【0032】
基板101aにはコモン電極103が設けられており、基板101bにはセグメント電極104が設けられている。コモン電極103とセグメント電極104は、いずれもITO電極であり、それぞれ複数設けられる。また、基板101bには、外部駆動回路と接続する導電接続用のピン111が取り付けられている。尚、基板101aにセグメント電極が設けられ、基板101bにコモン電極が設けられる構成であってもよい。
【0033】
基板101aの観察者側の面には、外部ITO電極107が設けられている。外部ITO電極107は、基板101aの観察者側の面全体に設けることができる。
【0034】
偏光板102aは、外部ITO電極107の上に、外部ITO電極107の全面を被覆しない大きさで設けられる。外部ITO電極107の上で偏光板102aが設けられていない領域には、導電性弾性体108が設けられていて、導電性弾性体108にはメタルフレーム109が接続している。メタルフレーム109は、液晶表示装置の外縁をなす。また、メタルフレーム109は、接地されていて、導電性弾性体108を介し外部ITO電極107と電気的に接続する。
【0035】
基板101a、101bでは、それぞれ他方の基板との対向面に配向膜105a、105bが設けられている。これらの配向膜は垂直配向性である。液晶は、負の誘電率異方性を有しており、初期配向状態として基板101a、101bに対し垂直に配向する。この液晶表示装置においては、コモン電極103とセグメント電極104によって液晶層106に電圧を印加し、液晶が基板101a、101bと平行になるように動作させると、液晶層106の光学異方性が変化して画像が表示される。
【0036】
次に、本実施の形態における液晶表示装置の製造方法について説明する。
【0037】
まず、透明基板を準備する。透明基板としては、例えば、可視光に対する透過率が高い材料からなる基板を用いることができる。具体的には、アルカリガラス、無アルカリガラスおよび石英ガラスなどの無機ガラスの他に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、および、ポリフッ化ビニルなどのフッ素含有ポリマーなどの透明樹脂からなる基板が挙げられる。剛性が高い点で、無機ガラスからなる基板を用いることが好ましい。透明基板の厚みは、特に限定はないが、通常は0.2mm〜1.5mmとすることができ、好ましくは0.3mm〜1.1mmである。この透明基板には、必要に応じて、アルカリ溶出防止、接着性向上、反射防止またはハードコートなどを目的とした、無機物または有機物などからなる表面処理層が設けられていてもよい。
【0038】
本実施の形態においては、透明なガラス製の基板101a、101bを準備し、基板101aの上にコモン電極103を、基板101bの上にセグメント電極104を設ける。これらの電極は、例えばITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされる。また、基板101aの液晶と接する側とは反対の側には、外部ITO電極107を設ける。尚、外部ITO電極は一対の基板の両外側に設けてもよい。
【0039】
次いで、基板101a、101bの上に、コモン電極103とセグメント電極104を被覆するようにして絶縁膜(図示せず)を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル−ゲル法によって形成されたSiO−TiOからなる膜とすることができる。
【0040】
次に、基板101a、101bの上に配向膜105a、105bを形成する。例えば、チッソ株式会社製の配向膜材料(商品名:A−8530)をフレキソ印刷法にて成膜し、基板を180℃で焼成することによって、厚さ600Å程度の配向膜を形成する。次いで、配向膜105a、105bの表面にアンチパララビング処理を施して、電界印加時の液晶の動作方向を定める。
【0041】
尚、本発明における配向膜は、液晶を配向させる機能を有するものであればよく、上記例以外のものを用いることも可能である。具体的には、液晶表示装置の仕様に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルシンナメートおよびポリスチレンなどの有機材料、または、SiOおよびAlなどの無機材料などが挙げられる。配向処理は、具体的には、ラビング法などを用いて行うことができる。例えば、ナイロンやレーヨンなどのラビング布で、配向膜の表面を一方向に擦ることによって、その方向に液晶分子が配向するようにする。また、ラビング法以外にも、SiOの斜め蒸着、イオンビーム法または光配向膜などによって、液晶分子の配向を揃えることもできる。
【0042】
次に、基板101aに基板101bを互いの配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール材(図示せず)で接着する。シール材には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサを混入しておく。また、シール材を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサを散布しておくことが好ましい。このシール材の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。
【0043】
従来法によれば、基板101aと基板101bとを重ね合わせた後、開口部から液晶材料を注入する。しかしながら、本実施の形態においては、液晶材料を注入する前に加湿処理を行うことを特徴とする。
【0044】
通常、液晶表示装置に用いられる基板は、生産性を考慮してマザー基板から多面取りされる。つまり、基板101aと基板101bは、それぞれ別々のマザー基板の一部となっている。重ね合わせも2枚のマザー基板に対して行われ、各基板に印刷されたシール材によって貼り合わされる。貼り合わせ後は、開口部が露出するように列単位で切り出される。本実施の形態における加湿処理は、切り出しを終えた後、液晶材料を注入する前に行う。これにより、開口部やシール材を介して重ね合わされた基板間に水分が侵入し易くなり、配向膜105a、105bに水分が吸着し易くなる。
【0045】
加湿処理は、重ね合わせの直前に各マザー基板に対して行うこともできる。但し、配向膜105a、105bへの水分の吸着を持続させる点からは、重ね合わせ後に行う方が好ましい。尚、重ね合わされた2枚のマザー基板を列単位で切り出した後、さらに切断して複数のセルに個別化してから、各セルに対して加湿処理を行うことも可能である。
【0046】
加湿処理は、25℃以上の温度であって85%以上の相対湿度で行うことが好ましい。この条件であれば、配向膜の表面に水分が吸着し、これにより配向膜の抵抗値が低下するので、表面に蓄積した電荷の放電を容易にして表示不良の発生を抑制することができる。例えば、40℃で90%、85℃で85%、25℃で90%などの加湿処理条件で行うことができる。これに対して、25℃で60%の条件では、後述するように十分な効果は得られない。加湿処理は、例えば、重ね合わされた2枚のマザー基板を列単位で切り出した後、これを恒温加湿槽の中で所定時間放置する。放置時間は、温度、相対湿度の値およびセルの大きさなどを考慮して適宜設定される。
【0047】
図5は、液晶表示装置における抵抗成分の周波数特性を示した一例である。一般に、周波数の高い領域は液晶材料の誘電率によって左右されるため液晶材料の抵抗を測定するのに適し、周波数の低い領域は絶縁膜の抵抗に左右されるので、配向膜の抵抗を測定するのに適している。したがって、配向膜の抵抗値成分を検出するためには低周波数、特に周波数1Hz前後が好ましい。
【0048】
図6は、加湿処理を行わない配向膜と、加湿処理を行った配向膜とについて、膜の抵抗値を比較した一例である。尚、測定には、東洋テクニカ株式会社製のインピーダンス解析装置(製品名:Solartron instruments Sl1260)を用いた。また、周波数は配向膜の抵抗値を測定するのに適している1Hzとした。
【0049】
図6から分かるように、本実施の形態による加湿処理を行うことにより、抵抗値が低くなる傾向と、最大値と最小値の差が小さくなる、すなわち、抵抗値のばらつきが小さくなる傾向とが確認された。
【0050】
加湿処理を終えた後は、シール材に設けた開口部を通じて、基板101a、101bおよびシール材で包囲された空間内に液晶材料を注入する。その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。加湿処理を終えた後、液晶注入までの時間は24時間を越えないことが好ましい。特に、5時間以内であれば、開口部からの水分の蒸発も少なく、配向膜表面に水分の吸着量もあまり変わらない。
【0051】
次に、偏光板102a、102bの設置を行う。具体的には、基板101a、101bの液晶層106とは反対側の面に、一対の偏光板102a、102bを貼り付ける。但し、偏光板102aは、基板101aの上にその全面、より詳しくは、外部ITO電極107の全面を被覆しない大きさで設けられる。
【0052】
例えば、偏光板102aとして、株式会社ポラテクノ製の偏光板(商品名:SHC−13UL2SZ9)を用いることができ、偏光板102bとして、同社製の別の偏光(商品名:000R220N−SH38L2S)を用いることができる。この場合、観察者側から見たときの基準軸から偏光板102aの吸収軸までの反時計回りの角度θ1が45°となるようにするとともに、上記基準軸から偏光板102bの吸収軸までの反時計回りの角度θ2が135°となるように配置する。その後、偏光板102a、102bの上に、それぞれ保護用の樹脂フィルム(図示せず)を設ける。
【0053】
また、外部ITO電極107の上で偏光板102aが設けられていない領域に、導電性弾性体108を設け、液晶表示装置の外縁に設けたメタルフレーム109と電気的に接続するようにする。ここで、メタルフレーム109は接地させておくことができる。
【0054】
以上の工程を経ることにより、本実施の形態の液晶表示装置が得られる。
【0055】
表1は、本実施の形態による液晶表示装置について、表示不良の評価を行った一例である。具体的には、駆動条件を1/8デューティ、1/4バイアスとし、液晶駆動時の最高電位を6.3V、最低電位を接地電位として、通電時間に対する表示不良発生の様子を調べた。表中の数値はその程度を示している。尚、加湿処理の条件は、相対温度25℃、湿度90%の恒温加湿槽に3時間放置とした。また、恒温加湿槽から取り出した後、液晶注入までに時間は2時間とした。
【0056】
【表1】

【0057】
表1では、通電時間10分における表示不良の発生はゼロであった。通電時間が20分以上になると表示不良が発生するようになるが、その程度は、上記4段階の評価レベルで見ると、通電20分で平均0.65、通電30分で平均1.29、通電60分で平均1.88であった。つまり、通電時間を60分間としても、表示不良と明確に認められるものはなく、多くは正面から見たときに表示不良と認められる程度であり、斜め方向から見たときにのみ表示不良と認められるものもあった。
【0058】
また、加湿処理をして製造された液晶表示装置について、透過率やコントラスト比などの光学特性、液晶の比抵抗などの電気特性を評価したところ、加湿処理を行わないで製造された液晶表示装置と有意差はなく、加湿処理による性能の低下は認められなかった。その他、内部電界変化による焼き付き現象は確認されず、また、高温高湿加圧下での加速試験においても外観や光学特性に異常は認められなかった。
【0059】
表2は、表1の比較例である。本実施の形態による加湿処理を行わない以外は、表1と同様にして作成した液晶表示装置について、表1と同様の評価を行った。
【0060】
【表2】

【0061】
表2における不良発生の程度は、上記4段階の評価レベルで見ると、通電時間10分で平均1.17、通電20分で平均1.90、通電30分で平均2.23、通電60分で平均2.43であった。つまり、通電時間10分間で殆どの試料に表示不良が発生し、通電時間30分以上になると、正面から見たとき明確に表示不良と認められるものの発生率が高くなった。
【0062】
表3は、表1の別の比較例である。加湿処理の条件を温度25℃、相対湿度60%の恒温加湿槽に2時間放置または24時間放置とした以外は、表1と同様にして作成した液晶表示装置について、表1と同様の評価を行った。
【0063】
【表3】

【0064】
表3における不良発生の程度は、上記4段階の評価レベルで見ると、加湿処理時間にかかわらず、通電時間10分で平均1.00、通電20分で平均1.50、通電30分で平均1.50、通電60分で平均1.50であった。つまり、表2の例に比べると不良発生の程度は軽度であるが、表1の例に比べると、加湿処理による表示不良抑制効果は十分でないことが分かる。
【0065】
以上述べたように、本実施の形態によれば、配向膜に加湿処理を行い、その表面に水分を吸着させてから液晶の注入を行う。配向膜の表面に水分が吸着することで配向膜の抵抗値が低下するので、表面に蓄積した電荷の放電を容易にして表示不良の発生を抑制することができる。本実施の形態による液晶表示装置の製造方法は、特に、初期配向状態が基板と概ね垂直(垂直配向)な負の誘電率異方性(Δε)を有する液晶層が基板間に挟持された、パッシブマトリクス型VAモードの液晶表示装置に有効である。
【0066】
尚、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
101a、101b、201a、201b 基板
102a、102b、202a、202b 偏光板
103、203 コモン電極
104、204 セグメント電極
105a、105b、205a、205b 配向膜
106、206 液晶層
107、207 外部ITO電極
108 導電性弾性体
109 メタルフレーム
110 拡散板
111 ピン
208 正の電荷のイオン性物質
209 負の電荷のイオン性物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の基板と、
前記一対の基板の間に挟持された液晶層と、
前記液晶層を介して互いに対向する一対の電極と、
前記一対の電極と前記液晶層との間にそれぞれ設けられた一対の配向膜と、
前記一対の基板の少なくとも一方で前記液晶層の側とは反対の側に設けられた外部電極とを備えた液晶表示装置の製造方法であって、
前記一対の基板をシール材を介して所定の間隔で貼り合わせた後、加湿処理を行ってから、前記一対の基板および前記シール材で包囲された空間内に液晶材料を注入することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記加湿処理は、25℃以上の温度であって85%以上の相対湿度で行うことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記液晶層は負の誘電率異方性を有しており、
前記配向膜に垂直配向処理を施すことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記液晶表示装置はパッシブマトリクス型であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−227166(P2011−227166A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94669(P2010−94669)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】