説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、液体カートリッジ及び画像形成装置

【課題】第1の基板と第2の基板の接合面の耐エッチング性を高めて、高い信頼性を有する液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】第1の基板3のノズル孔2に連通する加圧液室6と該加圧液室6へインクを供給するための共通液室4を有し、加圧液室6に充填されたインクに対してノズル孔2から吐出させるための液滴吐出エネルギーを発生させる圧電体素子7、振動板8が設けられた第2の基板9と、外部からインクが供給される液体供給貫通口10に連通するとともに、共通液室4とも連通している共通液体供給流路11を有する第3の基板12と、が積層されるように接合された液滴吐出ヘッド1において、接合された第2の基板9と第3の基板12の、少なくとも連通している共通液室4と共通液体供給流路11の内壁側の接合面Cを含む範囲を覆うようにして保護層19が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、液体カートリッジ及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等のインクジェット記録装置(画像形成装置)には、液滴を用紙等の記録媒体に吐出させる液滴吐出ヘッドを備えている。
【0003】
前記液滴吐出ヘッドとしては、ノズルが形成されたノズル基板と、共通液室が形成され前記ノズルに連通する加圧液室と加圧エネルギーを発生する素子を有するガラス基板と、ガラス基板の共通液室と連通し、外部から前記共通液室へインク等の記録液を供給するための液体供給貫通口が形成されたシリコン基板とを接合するようして形成されたものが従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記特許文献1の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)の製造工程において、ガラス基板とシリコン基板を接合した状態で、エッチングによってシリコン基板の液体供給貫通口(インク供給口)を形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したように特許文献1の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)は、エッチングによりシリコン基板の液体供給貫通口(インク供給口)が形成される。このため、そのエッチング中に液体供給貫通口の内壁面と連通するガラス基板とシリコン基板の接合面が露出することによって、この接合面の接合不良が発生する虞があり、この接合面のエッチング耐性が求められる。
【0006】
そこで、本発明は、接合される各基板の接合面のエッチング耐性を高めて、高い信頼性を有する液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、液体カートリッジ及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、記録液が吐出されるノズル孔を有する第1の基板と、前記ノズル孔に連通する液室と該液室へ記録液を供給するための第1の記録液供給路を有し、前記液室に充填された記録液に対して前記ノズル孔から吐出させるための液滴吐出エネルギーを発生させる液滴吐出エネルギー発生手段が設けられた第2の基板と、外部から記録液が供給される記録液供給口に連通するとともに、前記第1の記録液供給路とも連通している第2の記録液供給路を有する第3の基板と、が積層されるように接合された液滴吐出ヘッドにおいて、接合された前記第2の基板と前記第3の基板の、少なくとも連通している前記第1の記録液供給路と前記第2の記録液供給路の内壁側の接合面を含む範囲を覆うようにして保護層が設けられていることを特徴している。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記保護層は、エッチング溶液に対してエッチング耐性のある樹脂材料で形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、記録液が吐出されるノズル孔を有する第1の基板と、前記ノズル孔に連通する液室と該液室へ記録液を供給するための第1の記録液供給路を有し、前記液室に充填された記録液に対して前記ノズル孔から吐出させるための液滴吐出エネルギーを発生させる液滴吐出エネルギー発生手段が設けられた第2の基板と、外部から記録液が供給される記録液供給口に連通するとともに、前記第1の記録液供給路とも連通している第2の記録液供給路を有する第3の基板と、が積層されるように接合された液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記第2の基板と前記第3の基板を接合した後に、少なくとも連通している前記第1の記録液供給路と前記第2の記録液供給路の内壁側の接合面を含む範囲を覆うようにして保護層を設けることを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、液滴をノズル孔から吐出する液滴吐出ヘッドと、この液滴吐出ヘッドに記録液を供給するインクタンクとを一体化した液体カートリッジにおいて、前記液滴吐出ヘッドが請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、液滴をノズル孔から吐出する液滴吐出ヘッドを搭載した画像形成装置において、前記液滴吐出ヘッドが請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、接合された第2の基板と第3の基板の、少なくとも連通している第1の記録液供給路と第2の記録液供給路の内壁側の接合面を含む範囲を覆うようにして保護層が設けられているので、この接合面を良好に保護することができる。
【0013】
これにより、製造時において第2の基板と第3の基板の接合した後に第2の基板に液室等をエッチングで形成するときに、保護層によって第1の記録液供給路と第2の記録液供給路の内壁側の接合面がエッチング液に晒されることが防止されるので、前記接合面を確実に保護してエッチング耐性を向上させた信頼性の高い液滴吐出ヘッド1を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1に係る液滴吐出ヘッドの要部を示す概略斜視図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】図1のB−B線断面図。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の実施形態1に係る液滴吐出ヘッドの製造方法を示す図。
【図5】(a)〜(e)は、本発明の実施形態1に係る液滴吐出ヘッドの製造方法を示す図。
【図6】(a)〜(c)は、本発明の実施形態2に係る液滴吐出ヘッドの製造方法を示す図。
【図7】本発明の実施形態3に係るインクカートリッジを示す斜視図。
【図8】本発明の実施形態4に係るインクジェット記録装置内の要部の構成を示す概略斜視図。
【図9】本発明の実施形態4に係るインクジェット記録装置内の要部の構成を示す概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
【0016】
〈実施形態1〉
図1は、本発明の実施形態1に係る液滴吐出ヘッドの要部を示す概略斜視図、図2は、図1のA−A線断面図、図3は図1のB−B線断面図である。なお、本実施形態の液滴吐出ヘッド1は、基板面部に設けたノズル孔から液滴を吐出させるサイドシュータタイプである。
【0017】
(液滴吐出ヘッド1の構成)
これらの図に示すように、本実施形態の液滴吐出ヘッド1は、複数のノズル孔2が形成された第1の基板3と、共通液室4と複数の加圧液室隔壁5と該加圧液室隔壁5で仕切られた加圧液室6が形成され、液体吐出エネルギーを発生する圧電体素子7及び振動板8が配置された第2の基板9と、外部のインクタンク(不図示)からインク等の記録液が供給される液体供給貫通口10及び該液体供給貫通口10と連通する共通液体供給流路11が形成された第3の基板12とが接合されるようにして構成されている。第2の基板9の共通液室4と第3の基板12の共通液体供給流路11は連通している。
【0018】
第1の基板3のノズル孔2は、第2の基板9の加圧液室6に対応した位置に形成されている。第2の基板9の共通液室4と加圧液室6の間には、連通するようにして所定幅の流体抵抗流路13が形成されている。振動板8は、第2の基板9と第3の基板12の間の共通液室4以外の部分に配置されており、振動板8の第3の基板12側の面に接続された圧電体素子7は、振動板8を介して加圧液室6と対向している。
【0019】
圧電体素子7は、図2、図3に示すように、圧電体14と、該圧電体14の両面を挟むように接続された個別電極15、共通電極16とで構成されている。また、図2、図3に示すように、第3の基板12の第2の基板9側には、圧電体素子7の変位により振動板8が変形しても干渉しないように凹状の溝部17が形成されている。
【0020】
また、本実施形態の液滴吐出ヘッド1では、図3に示すように、連通している第2の基板9の共通液室4と第3の基板12の共通液体供給流路11の内壁面において、第2の基板9と第3の基板12の接着剤18で接合された接合面C付近を覆うようにして保護層19が設けられている(詳細は後述する)。
【0021】
(液滴吐出ヘッド1の動作)
上記のように形成された液滴吐出ヘッド1においては、各加圧液室6内に記録液(インク)が満たされた状態で、図示しない制御部からの印字データに基づいて、記録液の吐出を行いたいノズル孔2に対応する圧電体素子7の個別電極15に対して、発振回路(不図示)により例えば20Vのパルス電圧を印加する。
【0022】
このパルス電圧を個別電極15に印加することにより、圧電体素子7の圧電体14をその積層方向に変位させることで、振動板8を加圧液室6側へ変形させる(撓ませる)。振動板8の加圧液室6側への変形により加圧液室6内の圧力が急激に上昇して加圧液室6内の記録液(不図示)が加圧され、加圧液室6と連通するノズル孔2から液滴として吐出(噴射)される。
【0023】
そして、パルス電圧の個別電極15への印加をOFF状態にすることによって、変形した振動板8が元の位置に戻るため、加圧液室6内が共通液室4内に比べて負圧となる。これに伴って、外部から液体供給貫通口10を介して供給されている記録液が、共通液体供給流路11、共通液室4から流体抵抗流路13を介して加圧液室6に充填される。
【0024】
上記した動作を繰り返すことにより、ノズル孔2から液滴を連続的に吐出され、給紙される用紙等の記録媒体(不図示)に制御部(不図示)からの印字データに基づいた画像(文字を含む)が形成される。
【0025】
(液滴吐出ヘッド1の製造方法)
次に、上記した本実施形態の液滴吐出ヘッド1の製造方法を、図4(a)〜(c)、図5(a)〜(e)に示した製造工程を参照して説明する。なお、図4、図5は、図3に示した液滴吐出ヘッド1の断面位置に対応している。
【0026】
先ず、図4(a)に示すように、面方位(110)のシリコン単結晶基板(例えば、板厚400μm)からなる第2の基板9上に、例えばLP−CVD法や熱処理製膜法等でシリコン酸化膜22を成膜(例えば、厚さ600nm)し、その上に、例えばLP−CVD法でシリコン窒化膜23を成膜(例えば、厚さ500nm)し、更にその上に、例えばLP−CVD法でシリコン酸化膜24を成膜(例えば、厚さ600nm)し、振動板8としての振動板構成膜を形成する。なお、シリコン窒化膜23は、振動板8の剛性調整膜として機能する。
【0027】
ここで、前記シリコン窒化膜23は、振動板8の機能や製造プロセスの整合性等を鑑みて、例えばZrO、Alなどの膜でもよい。また、シリコン酸化膜22は、後の加圧液室6を形成するためのエッチング時のエッチングストップ層として機能するが、機能を満たすのであれば他の材料膜でもよい。
【0028】
次に、図4(b)に示すように、前記シリコン酸化膜24上に、Ti層とPt層からなる共通電極16を、スパッタ法で例えばそれぞれ30nmと100nmの厚さで成膜する。次に、この共通電極16上に圧電体14として、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)をスパッタ法で例えば2μmの厚さで成膜し、更にその上に個別電極15となるPt層を、スパッタ法で例えば100nmの厚さで成膜する。なお、圧電体14の成膜方法としては、スパッタ法に限らず、例えばイオンプレーティング法、エアーゾル法、ゾルゲル法、あるいはインクジェット法等などで成膜してもよい。
【0029】
次に、図4(c)に示すように、リソエッチ法によって共通電極16、個別電極15、圧電体14をパターニングし、後の工程で形成する加圧液室6に対応する位置に圧電体素子7を形成する。
【0030】
次に、図5(a)に示すように、共通液体供給流路11から後の工程で形成される共通液室4に連通する箇所の振動板8を、リソエッチ法で除去する。そして、次に、共通液体供給流路11、液体供給貫通口10及び凹状の溝部17が形成された、例えばガラス材で形成した第3の基板12を、第2の基板9(シリコン単結晶基板)の振動板8上に接着剤18を介して接合する。
【0031】
ここで、第3の基板12としてガラス材を適用したが、シリコン単結晶基板等でもよい。但し、シリコン単結晶基板の場合、後の工程で加圧液室6等を形成するエッチングで基板がエッチングされないように、耐エッチング性のある膜(例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜など)を共通液体供給流路11の内壁及び基板表面に被膜しておく必要がある。
【0032】
次に、図5(b)に示すように、後の工程で加圧液室6、共通液室4、流体抵抗流路13(図1参照)を形成するために、第2の基板(シリコン単結晶基板)9を所望の厚さ(例えば、厚さ80μm)になるように公知の技術で研磨する。なお、研磨法以外にもエッチングなどでもよい。
【0033】
次に、図5(c)に示すように、共通液体供給流路11の内壁に露出している接着剤18で接合された第2の基板9(振動板8)と第3の基板12の接合面C付近に、後の工程で加圧液室6、共通液室4、流体抵抗流路13等を形成するためのアルカリ溶液によるエッチング時に曝されないように、耐アルカリ性の樹脂材からなる保護層19を塗布する。
【0034】
この保護膜19としては、例えばHIMAL(商品名:日立化成工業(株)社製)を用いることができる。なお、保護膜19を形成する樹脂材としては、耐アルカリ性を示す材料であれば前記HIMALに限定されたものではなく、ポリイミド系樹脂やPro TEK(商品名:日産化学工業(株)社製)などでもよい。
【0035】
次に、図5(d)に示すように、リソグラフィ法により、加圧液室6、共通液室4、流体抵抗流路13以外の隔壁部をレジストで被覆し、その後、アルカリ溶液(例えば、KOH溶液、TMHA溶液など)で異方性ウェットエッチを行い、加圧液室6、共通液室4、流体抵抗流路13を形成する。また、共通液体供給流路11内に露出する第2の基板9表面に成膜されている保護膜19a(図5(c)参照)を、例えば、酸素プラズマを用いたレジスト除去で除去することで、共通液体供給流路11と共通液室4とが連通する。
【0036】
このエッチング時において、前記接合面C付近は保護層19で保護されているため、この接合面C付近が前記アルカリ溶液でダメージを受けることはない。
【0037】
次に、図5(e)に示すように、第2の基板9の各加圧液室6に対応した位置に別に形成したノズル孔2を有する第1の基板3を接着剤等で接合することにより、図1に示したような液滴吐出ヘッド1が作製される。
【0038】
このように、共通液体供給流路11の内壁に露出している接着剤18で接合された第2の基板9(振動板8)と第3の基板12の接合面C付近が保護層19で被膜保護されている。これにより、第2の基板9に加圧液室6等を形成するエッチング時にアルカリ溶液から前記接合面Cを確実に保護して耐エッチング性を向上させた信頼性の高い液滴吐出ヘッド1を得ることができる。
【0039】
また、共通液体供給流路11の内壁に露出している接着剤18で接合された第2の基板9(振動板8)と第3の基板12の接合面C付近を保護層19で被膜保護したことにより、この接合面C付近の形状が滑らかになるので、記録液(インク)の気泡排出性が向上する。
【0040】
〈実施形態2〉
次に、本発明の実施形態2に係る液滴吐出ヘッド1の製造方法を、図6(a)〜(c)に示した製造工程を参照して説明する。なお、本実施形態の製造工程においても、実施形態1で示した図4(a)〜(c)から図5(a)、(b)までは同じ製造工程であるので、ここまでの製造工程は省略し、それ以降の製造工程から説明する。
【0041】
図6(a)に示すように、実施形態1の図5(a)に示した工程が終了後、共通液体供給流路11の内壁に露出している接着剤18で接合された第2の基板9(振動板8)と第3の基板12の接合面C付近が、後の工程で加圧液室6、共通液室4、流体抵抗流路13等を形成するアルカリ溶液によるエッチング時に曝されないようにするため、耐アルカリ性を示すシリコン酸化膜やシリコン窒化膜等を、例えば接着剤18の耐熱温度以下の低温P−CVD法で保護層25を成膜する。成膜の膜厚は、後の工程のエッチング時に接合面Cが露出しない膜厚とする。なお、このエッチングはアルカリ溶液の異方性エッチングとしたが、ドライエッチでもシリコンとの選択比が得られるため対応は可能である。
【0042】
保護層25は、第3の基板12の表面全体と前記接合面C付近を含む共通液体供給流路11の内壁周囲に均一に成膜される。
【0043】
次に、図6(b)に示すように、リソグラフィ法により、形成する加圧液室6、共通液室4、流体抵抗流路13(図1参照)以外の隔壁部をレジストで被覆し、その後、アルカリ溶液(例えば、KOH溶液、TMHA溶液など)で異方性ウェットエッチを行い、加圧液室6、共通液室4、流体抵抗流路13を形成する。また、共通液体供給流路11内に露出する第2の基板9表面に成膜されている保護層25a(図6(a)参照)を、例えば、F系プラズマを用いたレジスト除去で除去することで、共通液体供給流路11と共通液室4とが連通する。
【0044】
このエッチング時において、前記接合面C付近は保護層25で保護されているため、この接合面C付近が前記アルカリ溶液でダメージを受けることはない。
【0045】
次に、図6(c)に示すように、第2の基板9の各加圧液室6に対応した位置に別に形成したノズル孔2を有する第1の基板3を接着剤等で接合することにより、図1に示したような液滴吐出ヘッド1が作製される。
【0046】
このように、共通液体供給流路11の内壁に露出している接着剤18で接合された第2の基板9(振動板8)と第3の基板12の接合面C付近が保護層25で被膜保護されているので、第2の基板9に加圧液室6等を形成するエッチング時にアルカリ溶液から前記接合面Cを確実に保護して、接合不良のない信頼性の高い液滴吐出ヘッド1を得ることができる。
【0047】
また、保護層25が、第3の基板12の表面全体と前記接合面C付近を含む共通液体供給流路11の内壁周囲に均一に成膜されるので、第3の基板12にシリコン単結晶基板を用いた場合に、第2の基板9に共通液室4等を形成するためのエッチング時の第3の基板12全体の保護膜としても機能する。
【0048】
更に、保護層25が、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜等で成膜されている場合には、共通液体供給流路11の内壁が親水性となるので、記録液(インク)の気泡排出性が向上する。
【0049】
〈実施形態3〉
図7は、実施形態1又は2の製造工程で作製された液滴吐出ヘッドを一体的に備えたインクカートリッジ(液体カートリッジ)を示す斜視図である。
【0050】
図7に示した本実施形態に係る液体カートリッジとしてのインクカートリッジ30は、インク(記録液)を吐出する複数のノズル孔2等を有する液滴吐出ヘッド1(図1参照)と、この液滴吐出ヘッド1の液体供給貫通口(不図示)に記録液であるインクを供給するインクタンク31とを一体化して構成されている。
【0051】
このように、本実施形態に係るインクカートリッジ30は、製造工程のエッチング時にアルカリ溶液から基板接合面を確実に保護して耐エッチング性を向上させた信頼性の高い液滴吐出ヘッド1を備えているので、インクカートリッジ30全体の信頼性の向上を図ることができる。
【0052】
〈実施形態4〉
図8は、本実施形態に係る画像形成装置としてのインクジェット記録装置内の要部の構成を示す概略斜視図、図9は、このインクジェット記録装置内の要部の構成を示す概略側面図である。このインクジェット記録装置には、実施形態1又は2の製造工程で作製された液滴吐出ヘッドを一体的に備えたインクカートリッジが搭載されている。
【0053】
これらの図に示すように、このインクジェット記録装置40は、装置本体41の内部に、走査方向に移動可能なキャリッジ42、キャリッジ42に搭載した前記液滴吐出ヘッド1、液滴吐出ヘッド1へインクを供給するインクカートリッジ43等で構成される印字機構部44等が収納されている。また、装置本体41の下方部には、前方側(図9の左側)から記録媒体としての多数枚の用紙Pを積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい)45を抜き差し自在に装着されている。更に、用紙を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ46を有し、給紙カセット45(或いは手差しトレイ46)から給送される用紙Pを取り込み、印字機構部44によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ47に排紙する。
【0054】
印字機構部44は、左右の側板(不図示)に横架したガイド部材である主ガイドロッド48、従ガイドロッド49と、前記キャリッジ42を主走査方向に摺動自在に保持している。このキャリッジ42には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する前記液滴吐出ヘッド1を、複数のノズル孔(インク吐出口)を主走査方向と交差する方向に配列してインク滴吐出方向が図9の下方側に向くようにして装着している。また、キャリッジ42には、液滴吐出ヘッド1に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ43を交換可能に装着している。
【0055】
インクカートリッジ43は、上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッド1へインクを供給する供給口が設けられ、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッド1へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。なお、本実施形態では、各色のインク滴をそれぞれ吐出する4個の液滴吐出ヘッド1を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の液滴吐出ヘッドでもよい。
【0056】
キャリッジ42は、後方側(用紙搬送下流側)を主ガイドロッド48に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送上流側)を従ガイドロッド49に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ42を主走査方向に移動走査するために、モータ50で回転駆動される駆動プーリ51と従動プーリ52との間にタイミングベルト53を張装し、このタイミングベルト53をキャリッジ42に固定している。モータ50の正逆回転によりキャリッジ42が往復駆動される。
【0057】
一方、給紙カセット45にセットした用紙Pを液滴吐出ヘッド1の下方側に搬送するために、給紙カセット45から用紙Pを分離給送する給紙ローラ54及びフリクションパッド55と、用紙Pを案内するガイド部材56と、給紙された用紙Pを反転させて搬送する搬送ローラ57と、この搬送ローラ57の周面に押し付けられる搬送コロ58、及び搬送ローラ57からの用紙Pの送り出し角度を規定する先端コロ59とを有している。搬送ローラ57は、ギア列が連結されたモータ(不図示)によって回転駆動される。
【0058】
また、液滴吐出ヘッド1のノズル孔側と対向する位置には、搬送される用紙Pを案内するため用紙ガイド部材60を設けている。この用紙ガイド部材60の用紙搬送方向下流側には、用紙を排紙方向へ送り出すための搬送コロ61と拍車62が設けられており、更に用紙を排紙トレイ47に送り出す排紙ローラ63と拍車64と、排紙経路を形成するガイド部材65,66とが設けられている。
【0059】
そして、上記したインクジェット記録装置40による記録時には、キャリッジ42を移動させながら入力される画像信号に応じて液滴吐出ヘッド1を駆動することにより、給紙された用紙Pにインクを吐出して1行分を記録し、その後、用紙Pを所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙後端が記録領域に到達した信号を受けることにより記録動作を終了し、排紙トレイ47に用紙Pを排紙する。
【0060】
また、キャリッジ42の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッド1の吐出不良を回復するための回復装置67を配置している。この回復装置67は、キャッピング手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ42は、印字待機中にはこの回復装置67側に移動されて、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド1をキャッピングしてノズル孔を湿潤状態に保つことにより、インク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係ないインクを吐出することにより、全てのノズル孔のインク粘度を一定にし、安定した吐出状態を維持する。
【0061】
更に、インクの吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド1のノズル孔を密封し、チューブを通して吸引手段でノズル孔からインクとともの気泡等を吸出し、ノズル孔に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され、吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、装置本体41の下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0062】
このように、本実施形態に係るインクジェット記録装置40は、製造工程のエッチング時にアルカリ溶液から基板接合面を確実に保護して耐エッチング性を向上させた信頼性の高い液滴吐出ヘッド1を備えているので、インクジェット記録装置40全体の信頼性の向上を図ることができる。よって、長期にわたって安定したインク吐出特性が得られ、高品質な画像を記録することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、インクジェット記録装置40に上記した液滴吐出ヘッド1を使用した場合について説明したが、インク以外の液滴、例えばパターニング用の液体レジストを吐出する装置に、上記した液滴吐出ヘッド1を適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 液滴吐出ヘッド
2 ノズル孔
3 第1の基板
4 共通液室
6 加圧液室
7 圧電体素子
8 振動板
9 第2の基板
10 液体供給貫通口
11 共通液体供給流路
12 第3の基板
19、25 保護層
30 インクカートリッジ
31 インクタンク
40 インクジェット記録装置
42 キャリッジ
44 印字機構部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特開平10−193611号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録液が吐出されるノズル孔を有する第1の基板と、
前記ノズル孔に連通する液室と該液室へ記録液を供給するための第1の記録液供給路を有し、前記液室に充填された記録液に対して前記ノズル孔から吐出させるための液滴吐出エネルギーを発生させる液滴吐出エネルギー発生手段が設けられた第2の基板と、
外部から記録液が供給される記録液供給口に連通するとともに、前記第1の記録液供給路とも連通している第2の記録液供給路を有する第3の基板と、が積層されるように接合された液滴吐出ヘッドにおいて、
接合された前記第2の基板と前記第3の基板の、少なくとも連通している前記第1の記録液供給路と前記第2の記録液供給路の内壁側の接合面を含む範囲を覆うようにして保護層が設けられていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記保護層は、エッチング溶液に対してエッチング耐性のある樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
記録液が吐出されるノズル孔を有する第1の基板と、
前記ノズル孔に連通する液室と該液室へ記録液を供給するための第1の記録液供給路を有し、前記液室に充填された記録液に対して前記ノズル孔から吐出させるための液滴吐出エネルギーを発生させる液滴吐出エネルギー発生手段が設けられた第2の基板と、
外部から記録液が供給される記録液供給口に連通するとともに、前記第1の記録液供給路とも連通している第2の記録液供給路を有する第3の基板と、が積層されるように接合された液滴吐出ヘッドの製造方法において、
前記第2の基板と前記第3の基板を接合した後に、少なくとも連通している前記第1の記録液供給路と前記第2の記録液供給路の内壁側の接合面を含む範囲を覆うようにして保護層を設けることを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
液滴をノズル孔から吐出する液滴吐出ヘッドと、この液滴吐出ヘッドに記録液を供給するインクタンクとを一体化した液体カートリッジにおいて、
前記液滴吐出ヘッドが請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とする液体カートリッジ。
【請求項5】
液滴をノズル孔から吐出する液滴吐出ヘッドを搭載した画像形成装置において、
前記液滴吐出ヘッドが請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−61689(P2012−61689A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207140(P2010−207140)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】