説明

液滴吐出ヘッドの液体回収方法、液滴吐出装置、および液滴吐出ヘッド

【課題】 本発明は、簡易かつ迅速に、液滴吐出ヘッドの流路内の液体を液体貯留部内に移動させ、回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ノズル孔(26)と、底部に液体送出口(18)を備える液体貯留部(16)と、を有し、ノズル孔(26)と液体送出口(18)とが流路(13)により連通されている液滴吐出ヘッド(10)を用いて液体を吐出した後、流路(13)内の液体を液体貯留部(16)内に回収する方法であって、液体送出口(18)が、液体貯留部(16)内の液面上に出るまで、液滴吐出ヘッド(10)を傾ける第1工程と、液滴吐出ヘッドの液体貯留部が形成された面(14)に密着し、液体貯留部を覆うキャッピング部材(62)を有する吸引手段(60)により、流路(13)内の液体が液体貯留部(16)に移動するまで吸引する第2工程と、を含む液体回収方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドから、液体を効率よく回収する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸やタンパク質、細胞等の生体由来物質をプローブとして基板上に固定化したいわゆるマイクロアレイを用い、生体分子間の結合の特異性を利用して、サンプル中の標的物質を検出・測定する方法が広く用いられている。
【0003】
特開平11−187900号公報(特許文献1)には、このようなマイクロアレイを作製する方法として、標的物質に対して特異的に結合可能であるプローブを含む液体を、インクジェット法により固相表面に吐出し、該固相表面にプローブを付着させることを特徴とするプローブの固相へのスポッティング方法が開示されている。
【0004】
また、標的物質をハイスループットに検出するため、マイクロアレイには、微小な領域に多種類のプローブ分子を固定する必要がある。このような必要性に応えるものとして、特開2004−160904号公報(特許文献2)には、複数の液体貯留部を有する第1の基板と、前記複数の液体貯留部にそれぞれ独立に連通する複数の流路を有する第2の基板と、前記複数の流路にそれぞれ独立に連通し、液滴を吐出する複数のノズルを有する一または複数のヘッドチップとを備えたインクジェットヘッドが開示されている。このようなインクジェットヘッドによれば、それぞれ異なる試料を搭載した複数の液体貯留部と、マイクロアレイのスポットの配置に対応させた複数のノズル孔とが、それぞれ流路で連通されているので、多数のプローブを微小領域に固定したマイクロアレイを高速に作製することができる。
【特許文献1】特開平11−187900号公報
【特許文献2】特開2004−160904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロアレイの作製に使用される試料液体は高価であり、入手が困難なものも多く、吐出後、液滴吐出ヘッド内に残った試料液体は回収できるようになっていることが望ましい。しかしながら、液体貯留部内の液体は回収することができても、インクジェットヘッドの液体貯留部とノズル孔とを連通させる流路は極めて微細であるため、流路内に流入した液体を回収するのは困難である。液体貯留部側から吸引して流路内の液体を回収する方法もあるが、液体貯留部に液体が収容されたまま吸引すると泡立ちが生じ、液体貯留部に気泡が発生し、その後の液体の採取や再充填が困難になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、簡易かつ迅速に、流路内の液体を液体貯留部内に移動させ、回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体回収方法は、ノズル孔と、底部に液体送出口を備える液体貯留部と、を有し、該ノズル孔と該液体送出口とが流路により連通されている液滴吐出ヘッドを用いて液体を吐出した後、該流路内の液体を該液体貯留部内に回収する方法であって、前記液体送出口が、前記液体貯留部内の液面上に出るまで、前記液滴吐出ヘッドを傾ける第1工程と、前記液滴吐出ヘッドの前記液体貯留部が形成された面に密着し、該液体貯留部を覆うキャッピング部材を有する吸引手段により、前記流路内の液体が前記液体貯留部に移動するまで吸引する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、液体貯留部の底部にある液体送出口が、液面上に露出した状態で吸引が行われるので、流路内の液体を泡立てることなく、液体貯留部に回収することができる。液体貯留部に回収された液体は、公知の方法で容易に採取して別の容器に移すことが可能である。また、本発明に係る液体回収方法は、流路内に汚れや気泡が付着して詰まりが生じた場合にも利用することができ、流路内の液体と共に汚れや気泡を液体貯留部内に移動させて詰まりを解消し、再度吐出に供することができる。なお、キャッピング部材は、第1工程を行った後で液体貯留部形成面に密着させてもよいし、第1工程を行う前から密着させておいてもよい。
【0009】
上記第1工程においては、液体貯留部が形成された面に、気液分離フィルターを密着させて液滴吐出ヘッドを傾けることが好ましい。ここで、気液分離フィルターとは、気体のみ透過させて、液体を透過させないフィルターを意味し、この条件を満たす限り、その材料や形状等は特に限定されない。気液分離フィルターを用いることによって、液滴吐出ヘッドを傾けても液体貯留部の液体が外に流出することがなく、また、気体を透過させるので吸引を行う際に障害とならない。
【0010】
上記第1工程においては、液滴吐出ヘッドを90度傾けることが好ましい。90度傾けることによって、液滴吐出ヘッドのノズルが形成された面に付着した汚染物質をワイピングによって除去することが容易となる。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決するために、ノズル孔と、底部に液体送出口を備える液体貯留部と、を有し、該ノズル孔と該液体送出口とが流路により連通されている液滴吐出ヘッドを装着して用いる液滴吐出装置であって、前記液滴吐出ヘッドを所定の角度に傾けて固定することが可能な液滴吐出ヘッド固定手段と、前記液滴吐出ヘッドを所定の角度に傾けて固定したときに、前記液体貯留部を覆って、前記液滴吐出ヘッドの前記液体貯留部が形成された面に密着させることが可能なキャッピング部材を有する吸引手段と、を備える液滴吐出装置置をも提供する。
【0012】
このような構成によれば、液体の吐出、液滴吐出ヘッドを所定の角度に傾けた状態での固定、液体貯留部側からの吸引、という一連の作業を一つの装置で行うことができ、流路内の液体を効率よく液体貯留部に回収することができる。また、流路内に汚れや気泡による詰まりが生じた際も、同一の装置内で詰まりを解消し、迅速に再度の吐出を行うことができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、液滴吐出ヘッドを所定の角度に傾けて固定したとき、液滴吐出ヘッドのノズルが形成された面に付着した汚染物質を除去することが可能なワイピング手段を備えることが好ましい。このような構成によれば、液体の吐出、流路内の液体の液体貯留部への回収、およびノズル形成面の洗浄を、同一の装置で効率よく行うことができる。また、流路に液体が満たされた状態でノズル形成面のワイピングを行うと隣接ノズル孔間でコンタミネーションが生じやすいが、本発明に係る装置によれば、流路内の液体を液体貯留部に回収してからワイピングを行うことができるので、コンタミネーションも生じにくい。
【0014】
本発明はまた、本発明に係る液滴吐出装置に装着して用いられる液滴吐出ヘッドであって、前記所定の角度に固定されたとき、前記液体送出口が、前記液体貯留部の底部において、該底部の中心よりも高い位置に配置される、液滴吐出ヘッドをも提供する。
【0015】
このような構成によれば、液滴吐出ヘッドを傾けた際に、液体貯留部内の液体の量が比較的多くても、送出口を液面上に露出させやすい。液体送出口は、液滴吐出ヘッドを十分に傾けた際に、液体貯留部の底部において該底部の上から三分の一よりも高い位置にあるとより好ましく、液体貯留部の底部において該底部の上から四分の一よりも高い位置にあるとさらに好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1および図2は、本発明に係る液体回収方法の各工程を示す説明図であり、図1(A)に断面図が示されたインクジェットヘッド10は、本発明に係る液体回収方法による液体の回収に適した、本発明に係る液滴吐出ヘッドの一例である。
(インクジェットヘッド)
ここで、まず、図3〜5を用いて、インクジェットヘッド10の構成を説明する。図3は、インクジェットヘッド10の概略斜視図である。インクジェットヘッド10には、図示されたように液体貯留部であるリザーバ16が、8行×12列で96個設けられている。汎用されるマイクロタイタープレートのウェルの数および配置に従ってリザーバ16を設けることによって、マイクロタイタープレートから分注機等を使用して各リザーバに液体を供給することができる。
【0018】
一方、リザーバが形成された面14に対向する面12の中央に、ノズル孔26が設けられ(図1(A)参照)、ノズル孔26とリザーバ16底部の液体送出口(後述)とは、流路13(後述)で連通されている。
【0019】
このような構成のインクジェットヘッド10は、例えば、図4に図示された基板30、40および50を積層し、さらに、図5に示されたヘッドチップ20を接着することによって形成することができる。
【0020】
図4(A)は、インクジェットヘッド10の最下層となる基板30の平面図である。基板30には、基板40を積層することによって流路13の一部を形成する溝32が96本形成されている。溝32は、基板30の周縁部から中央に向かって集束し、各溝32の基板周縁側の末端は、リザーバ16に設けられた液体送出口(後述)のピッチ(形成間隔)と一致していている。一方、各溝32の基板中央側の末端には、吐出する液体に加圧する加圧室に接続する貫通孔が設けられている。
【0021】
図4(B)は、基板30上に積層される基板40の平面図である。基板40には8行×12列で96個の貫通孔42が形成されている。貫通孔42のピッチは、リザーバ16のピッチに一致している。
【0022】
図4(C)は、基板40上に積層される基板50の平面図である。基板50には、貫通孔42よりも大きな直径を有する貫通孔52が96個形成されており、基板50を基板40上に積層することによって、貫通孔52がリザーバ16を形成する一方、貫通孔42の上端が、リザーバ16の液体送出口18となる。図4(C)には、基板40と基板50を重ねた際の、貫通孔42の位置を点線で示している。貫通孔42と貫通孔52の形成ピッチは等しいが、貫通孔42は貫通孔52の中心には配置されず、すべての貫通孔において図中、中心より右寄りの位置に配置されている。このような構成とすることによって、基板50の図中左側の辺を紙面上に固定し、図中右側の辺が紙面手前に出るように、インクジェットヘッド10を傾けたとき、液体送出口18の位置が、液体貯留部16の底部において、該底部の中心よりも高い位置に配置される。
【0023】
基板30、40および50は、ガラス、樹脂等の材料で形成することができ、溝や貫通孔は、エッチング、射出成形等、材料に適した方法によって形成することができる。基板30〜50を積層し、熱溶着、または接着剤等を用いる方法により接着した後、さらに、基板30の中央にヘッドチップを接着して、インクジェットヘッド10が完成する。
【0024】
図5にヘッドチップの一例として、静電駆動方式のヘッドチップ20の拡大断面図を示す。説明の便宜上、基板40および50は省略し、基板30のみ示している。ヘッドチップ20は、電気的に接続するだけで単独で加圧室の加圧手段を作動させ、ノズル孔から液滴を吐出可能な構成となっており、電極108が形成された電極基板121、加圧室22を形成する加圧室基板122、およびノズル孔26が形成されたノズル基板123により構成されている。加圧室22、ノズル孔26は、リザーバ16と同数設けられ、それぞれ一対一で対応している。加圧室22に流入した液体は、図示しない共通電極と電極108との間に電圧を加え、振動板109が弾性変位することによって加圧され、ノズル孔26から吐出される。尚、電極基板121には、図中下側の面から溝が形成され、その天井部に電極108が形成されているため、電極108と振動板109との間にはわずかな空隙(エアギャップ)が形成されている。加圧室基板122、ノズル基板123、電極基板121の材料は特に限定されないが、吐出する液体に生体試料が含まれる場合には、ガラス、シリコン等が適している。
【0025】
このような構成のヘッドチップ20を、基板30の中央部に接着することにより、電極基板および加圧室基板122に設けられた貫通孔が、基板30の貫通孔に接続し、図示しないリザーバと加圧室22が連通され、インクジェットヘッド10が完成する。インクジェットヘッド10は、例えば、図6に例示されるような液滴吐出装置200に装着して用いられるが、液滴吐出装置200については後述する。
【0026】
尚、本発明においては、ノズル孔26先端から、リザーバの液体送出口18に到る部分のすべてを流路13と呼ぶ。従って、以下、「流路13」という用語は、加圧室22や、基板30〜50を積層した後の溝32や貫通孔42を含む概念で用いられる。
(液体回収方法)
次に、本発明に係る液体回収方法を用いて、インクジェットヘッド10の流路13からリザーバ16に液体を回収する工程を説明する。
【0027】
図1(A)は、図3におけるIA−IA線に沿ったインクジェットヘッド10の概略断面図である。但し、説明の便宜上、実際にはIA−IA線に沿った断面には現れない流路13が、ノズル孔26まで連続するように示され、また、リザーバ16cまたは16j以外のリザーバに接続する基板40の貫通孔42は省略されている。
【0028】
図1(A)は、リザーバ16内の液体を吐出した後の様子を示している。吐出後、液体送出口18c、18jからノズル孔26c、26jをそれぞれ接続する流路13cおよび13jは、液体に満たされている。このように、液体送出口18が液体によって封止された状態でリザーバ16側から吸引すると、流路13内の液体が、液体送出口18からリザーバ16内の液体中に急激に流入する際、泡立ちが生じやすい。気泡が発生すると、リザーバ16や流路13の内壁に付着し、詰まりが生じたり、その後リザーバ16内の液体の回収がきれいに行いにくくなったりするなどの問題がおこる可能性がある。
【0029】
次に、図1(B)に示すように、インクジェットヘッド10を液滴吐出装置のインクジェットヘッドホルダー212に固定する。インクジェットヘッドホルダー212は、インクジェットヘッド10を任意の角度に傾けて固定することが可能である。インクジェットホルダー212については、後述する。
【0030】
続いて、図1(C)に示すように、吸引手段60を、矢印Aの方向に移動させて、インクジェットヘッド10のリザーバ形成面14に密着させる。吸引手段60は、リザーバ16のすべて覆ってリザーバ形成面14に密着可能なキャッピング部材62を備えている。キャッピング部材60の材料は特に限定されないが、外周部分を弾性材料とすることによって、リザーバ形成面14に密着させやすくなる。弾性材料としてはブチルゴム等が適している。
【0031】
さらに、吸引手段60は、キャッピング部材62の内側に気液分離フィルター64を有しており、吸引手段60をリザーバ形成面14に密着させると、気液分離フィルター64は、その裏面に配置されたポリウレタンなどのフォームによってリザーバ16の開口部に密着する。吸引手段60を密着させた状態を維持して、液体送出口18が液面上に露出するまで、インクジェットヘッドホルダー212を矢印Bの方向に90度回転させ固定する。尚、このとき、気液分離フィルター64は液体を透過させないので、リザーバ16内の液体は流出しない。
【0032】
図2(A)に、回転後の状態を示す。リザーバ16内の液面は、リザーバ形成面14に垂直となり、送出口18が液面上に露出する。そこで、この状態のまま、吸引手段60を作動させて矢印の方向に吸引する。こうすることによって、流路13内の液体は、送出口18からリザーバ16内に回収される。送出口18は液体によって封止されていないので、リザーバ16に流れ込む際、泡立ちを生じることもない。また、気液分離フィルター64は、気体のみ透過させて、液体を透過させないので、吸引を阻害することもなく、またリザーバ16内の液体が流出することもない。
【0033】
こうして、図2(B)に示すように、流路13内に収容されていた液体は、上述した簡易な工程によって、すべてリザーバ内に回収され、この後、リザーバからの液体の回収は、公知の方法によって容易に行うことができる。
【0034】
また、図示されるように、ノズル孔先端まで液体が充填されていないので、この状態でヘッドチップ20のノズル孔形成面をワイピングすれば、隣接するノズル孔間で汚染が生じることなく、当該ノズル孔形成面に付着した汚れを除去することができる。
【0035】
尚、本発明に係る液体回収方法は、最終的に液体をインクジェットヘッド以外の容器に回収することを目的とする場合のみでなく、流路の内壁に試料や気泡が付着して詰まりを生じた場合にも利用することができる。本発明に係る液体回収方法によれば、インクジェットヘッド10を十分に傾けて吸引するという簡易な工程によって、容易に詰まりを解消することができ、再び吐出に供するまでの工程および時間を短縮することが可能である。
(液滴吐出装置)
次に、上述した本発明に係る液体回収方法を好適に行うことができる液滴吐出装置について説明する。
【0036】
図6に、本発明に係る液滴吐出装置の一例として、マイクロアレイ製造装置200を示す。マイクロアレイ製造装置200は、上述した本発明に係るインクジェットヘッド10を装着して用いられるものである。
【0037】
マイクロアレイ製造装置200は、ガラス等の基板202上に生体分子を含む試料溶液の液滴を複数配置して作製されるマイクロアレイを製造するためのものであり、複数の基板202を載置可能に構成されたテーブル204と、インクジェットヘッド10をY方向に自在に移動させるためのY方向駆動軸216と、テーブル204をX方向に自在に移動させるためのX方向駆動軸214と、を備える。また、インクジェットヘッド10を任意の角度に傾けて固定することが可能なインクジェットヘッドホルダー212と、インクジェットホルダー212をZ方向に自在に移動させるためのZ方向駆動軸218と、をも備えている。インクジェットヘッドホルダー212を、図6中、左方向から見た様子を示す説明図を図7に示す。インクジェットヘッドホルダー212は、Z方向駆動軸側の端部に回転軸220を有しており、この回転軸を中心に、矢印の方向にインクジェットヘッド10を回転させ、所定の角度で固定することができるものである。
【0038】
さらに、マイクロアレイ製造装置200には、インクジェットヘッド10を所定の角度に傾けて固定したときに、そのリザーバ16を覆って、リザーバ形成面14に密着させることが可能なキャッピング部材62を有する吸引手段60をも備えている。吸引手段60は、図示されない吸引ポンプに接続され、キャッピング部材内の気体を吸引することができる。吸引手段60は、例えば、Z方向駆動軸218に、インクジェットヘッド10とは独立して移動できるように取り付けておくことができる。また、吸引手段60のキャッピング部材は、図示されないキャッピング部材駆動手段によって、インクジェットヘッド10のリザーバ形成面14に密着させた状態で任意の角度に傾けることが可能な構成となっていてもよい。かかる構成の場合、キャッピング部材62内部に気液分離フィルターを装着しておけば、インクジェットヘッド10のリザーバ16の開口部に気液分離フィルターを密着させた状態で、インクジェットヘッド10を傾けることが可能となる。
【0039】
マイクロアレイ製造装置200では、X方向駆動軸214およびY方向駆動軸216を作動させて、インクジェットヘッド10を基板202の上方に移動させ、その後Z方向駆動軸218を作動させて、インクジェットヘッド10と基板202との距離を調整し、基板に向けて液体を吐出する。
【0040】
吐出の終了後は、まずZ方向駆動軸218を作動させてインクジェットヘッド10を上昇させ、X方向駆動軸214およびY方向駆動軸216を作動させて適当な位置まで移動させる。続いて、キャッピング部材駆動手段を作動させて、キャッピング部材62をインクジェットヘッド10のリザーバ形成面14に密着させる。次に、キャッピング部材駆動手段およびインクジェットヘッドホルダー212を作動させ、液体送出口18(図1参照)が液面上に露出するまでインクジェットヘッド10を傾ける。この状態で吸引手段60の吸引ポンプを作動させて吸引し、インクジェットヘッド10の流路13中の液体をリザーバ16に回収する。その後、リザーバ16内からは、公知の方法に従って、分注機等により、容易に液体を回収できる。
【0041】
また、汚染物質や気泡によって流路13に詰まりが生じた場合は、同様に、インクジェットヘッド10を適当な位置に移動させ、本発明に係る液体回収方法によって、流路13内の液体をリザーバ16内に回収し、詰まりを解消することができる。解消後は、キャッピング部材をリザーバ形成面14から外し、インクジェットヘッドホルダー212を回転させて、インクジェットヘッド10を吐出できる角度に戻し、図示されていないノズル面キャッピング手段を用いて吸引することにより流路13を再充填した後、X方向駆動軸214、Y方向駆動軸216、Z方向駆動軸218を適宜作動させて、インクジェットヘッドホルダー10を基板202の上方に移動させ、吐出を行うことができる。
【0042】
尚、液滴吐出装置200は、インクジェットヘッド10のヘッドチップ20におけるノズル形成面に付着した汚れを除去するための、図示されないワイピング手段を備えていてもよい。ワイピング手段としては、例えば上記ノズル形成面に密着させられるゴムのブレードが挙げられる。本発明に係る液体回収方法により、流路13内の液体をリザーバ16内に回収した後で、ワイピング手段によってワイピングを行えば、隣接するノズル孔26間でコンタミネーションが生じにくい。
【0043】
以上のように、本発明に係る液体回収方法によれば、試料液体の吐出後、流路13内の液体をリザーバ16内に回収することができるので、高価な試料や貴重なサンプルも無駄なく回収して再度使用することができる。また、詰まりが生じた場合、詰まりの解消、および再度の吐出という工程を、繰り返し効率よく行うことも可能である。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々に変更して実施することが可能である。例えば、液滴吐出ヘッドの構成は、ノズル孔と、底部に液体送出口を備える液体貯留部と、を有し、ノズル孔と液体送出口とが流路により連通されており、所定の角度に固定されたときに、液体送出口が液面上に露出するものである限り特に限定されず、基板30、40、50を積層するのではなく、射出成型等によって、一体的に形成されたものであってもよい。また、液体貯留部の数や配置も限定されず、目的に応じて変更できる。加圧手段は、静電駆動方式、圧電駆動方式のいずれであってもよい。さらに、液滴吐出ヘッドを傾ける角度は、90度でなくてもよく、液体送出口が液面上に露出すればよい。また、インクジェットヘッドホルダーは、インクジェットヘッドを任意の角度に固定できるものであってもよいし、所定の角度のみで固定可能なものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明にかかる液体回収方法の工程を示す説明図である。
【図2】本発明にかかる液体回収方法の工程を示す説明図である。
【図3】液滴吐出ヘッドを示す概略斜視図である。
【図4】積層して液滴吐出ヘッドを構成する基板の平面図である。
【図5】ヘッドチップの構成を示す概略断面図である。
【図6】液滴吐出装置を示す概略斜視図である。
【図7】液滴吐出ヘッド固定手段の動作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10…液滴吐出ヘッド、12…ノズル孔形成面、13…流路、14…リザーバ形成面、16…リザーバ(液滴貯留部)、20…ヘッドチップ、22…加圧室、26…ノズル孔、30、40、50…基板、42、52…貫通孔、60…吸引手段、62…キャッピング部材、64…気液分離フィルター、108…電極、109…振動板、121、122、123…基板、200…液滴吐出装置、212…液滴吐出ヘッド固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔と、底部に液体送出口を備える液体貯留部と、を有し、該ノズル孔と該液体送出口とが流路により連通されている液滴吐出ヘッドを用いて液体を吐出した後、該流路内の液体を該液体貯留部内に回収する方法であって、
前記液体送出口が、前記液体貯留部内の液面上に出るまで、前記液滴吐出ヘッドを傾ける第1工程と、
前記液滴吐出ヘッドの前記液体貯留部が形成された面に密着し、該液体貯留部を覆うキャッピング部材を有する吸引手段により、前記流路内の液体が前記液体貯留部に移動するまで吸引する第2工程と、を含む液体回収方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記液体貯留部が形成された面に、気液分離フィルターを密着させて前記液滴吐出ヘッドを傾ける、請求項1に記載の液体回収方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記液滴吐出ヘッドを90度傾ける、請求項1または2に記載の液体回収方法。
【請求項4】
ノズル孔と、底部に液体送出口を備える液体貯留部と、を有し、該ノズル孔と該液体送出口とが流路により連通されている液滴吐出ヘッドを装着して用いる液滴吐出装置であって、
前記液滴吐出ヘッドを所定の角度に傾けて固定することが可能な液滴吐出ヘッド固定手段と、
前記液滴吐出ヘッドを所定の角度に傾けて固定したときに、前記液体貯留部を覆って、前記液滴吐出ヘッドの前記液体貯留部が形成された面に密着させることが可能なキャッピング部材を有する吸引手段と、を備える液滴吐出装置。
【請求項5】
前記液滴吐出ヘッドを所定の角度に傾けて固定したとき、前記液滴吐出ヘッドの前記ノズルが形成された面に付着した汚染物質を除去することが可能なワイピング手段を備える、請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の液滴吐出装置に装着して用いられる液滴吐出ヘッドであって、
前記所定の角度に固定されたとき、前記液体送出口が、前記液体貯留部の底部において、該底部の中心よりも高い位置に配置される、液滴吐出ヘッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−349423(P2006−349423A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174152(P2005−174152)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】