説明

液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】ダイアフラム部となるパリレン薄膜とリザーバ基板との接触面積及び密着性を十分に確保することが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を提供する。
【解決手段】リザーバ基板2になるシリコン基材200の一方の面からリザーバ23となるリザーバ凹部23aをウェットエッチングにより形成する工程と、リザーバ凹部23a内に下地膜としてクロム膜205と金膜205aとを順次形成する工程と、リザーバ凹部23aの内面全体に対してパリレン薄膜111を形成する工程と、反対側の面からパリレン薄膜111が露呈するまでエッチングし、ダイアフラム部100を形成する工程とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で、上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることにより、インク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用する方式等がある。
【0003】
近年、インクジェットヘッドは、高速印字に対応するため多ノズル化が進んでおり、また高解像度化の要求から微小な駆動機構(アクチュエータ)が求められている。駆動機構が小型化され、高密度化されると、インクを吐出するノズル孔に連通する吐出室それぞれの間に設けられた隔壁が薄くなり、隔壁の剛性が低くなるため、1つのノズル孔からインクが吐出されたときにそのノズル孔に連通する吐出室と隣接する吐出室が影響を受けるという、いわゆるクロストークの問題があった。このようなクロストークの問題は、吐出室の圧力がリザーバを介して他の吐出室に加わることによっても発生する。
【0004】
このようなクロストークを防止するために、従来のインクジェットヘッドでは、吐出室が形成される流路基板とは別にリザーバ基板を独立して設け、リザーバの体積を大きく確保することで、リザーバを介した圧力干渉を防止するとともに、リザーバの一部に、リザーバの圧力変動を緩衝させるためのダイアフラム部を設けるようにしていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記特許文献1のインクジェットヘッドのダイアフラム部は、シリコンを材料として構成するようにしている。しかしながら、シリコンのポアソン比は0.09と小さく、また、ヤング率も大きいため、シリコンを材料としたダイアフラム部では十分な緩衝効果を得ることは難しかった。
【0006】
そこで、近年、ダイアフラム部を樹脂で構成されたパリレン薄膜で構成し、緩衝効果を高めるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2007−152621号公報(第2図)
【特許文献2】特開2007−190772号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の技術では、リザーバ基板になるシリコン基材の一方の面からダイアフラム部になる部分を所望の深さエッチングし、そのエッチングにより形成された凹部にパリレン薄膜を成膜し、その後、シリコン基材の反対側の面からリザーバとなる部分をパリレン薄膜が露出するまでエッチングし、ダイアフラム部を形成するようにしている。このため、パリレン薄膜は、シリコン基材に対して凹部の側面にのみ接触した状態となっている。したがって、シリコン基材との接触面積が不十分でシリコン基材との密着性を確保できず、繰り返し変動に対して剥がれる可能性があった。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、ダイアフラム部となるパリレン薄膜とリザーバ基板との接触面積及び密着性を十分に確保することが可能な液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、複数のノズル孔を有するノズル基板と、各ノズル孔に連通し、室内に圧力を発生させてノズル孔より液滴を吐出する複数の独立した吐出室を有するキャビティ基板と、吐出室に対して共通に連通するリザーバを有し、ノズル基板とキャビティ基板との間に設けられるリザーバ基板とを少なくとも備え、リザーバの底面に圧力変動を緩衝するパリレン薄膜を備えたダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、リザーバ基板になるシリコン基材の一方の面からリザーバとなるリザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、リザーバ凹部内に下地膜としてクロム膜と金膜とを順次形成する工程と、シリコン基材の一方の面と一方の面と反対側の面のうち、リザーバ凹部の開口部以外の表面をマスク部材で覆い、リザーバ凹部の内面全体に対してパリレン薄膜を形成する工程と、マスク部材を除去する工程と、反対側の面からパリレン薄膜が露呈するまでエッチングを行い、ダイアフラム部を形成する工程とを備えたものである。
このように、パリレン薄膜をリザーバ凹部の内面全体に形成し、ダイアフラム部となるパリレン薄膜部分が、リザーバの底壁の表面に対して一様に形成されるようにしたため、リザーバ基板との接触面積が増加して十分な密着性を確保することができる。
また、パリレン薄膜の形成に先だってクロム膜及び金膜を下地膜として形成するようにしたので、パリレン薄膜とシリコン表面との密着性を高くすることができる。
また、パリレン薄膜は、微小欠陥が無く被覆性に優れ、また、耐熱性、耐薬品性及び耐透湿性が高い特徴を有しているため、ダイアフラム部に用いて好適である。また、柔軟性も高いので、例えばシリコン薄膜に比べて、100倍から1000倍の圧力吸収効果を発揮することができる。
また、パリレン薄膜は、リザーバ凹部の内面にのみ形成されるため、リザーバ基板のノズル基板又はキャビティ基板との接着面にパリレン薄膜が介在することによる接着強度の低下を防止することができる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、ダイアフラム部を形成する工程が、反対側の面からシリコン基材をドライエッチングしてシリコン基材を貫通させる工程と、クロム膜と金膜とをそれぞれウェットエッチングにより除去してパリレン薄膜を露呈させる工程とを有するものである。
このように、シリコン部分に関してはドライエッチングを用いて除去し、また、下地膜となるクロム膜と金膜とはウェットエッチングを用いて簡単に除去できるため、ダイアフラム部形成工程の低コスト化及び時間短縮が可能である。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、シリコン基材の一方の面側を覆うマスク部材が、リザーバ凹部の開口部に対向する位置にのみ開口を有し、開口がリザーバ凹部の開口部よりも小さいものである。
これにより、マスク部材のリザーバ基板に対するアライメントにズレが生じたとしても、リザーバ基板のノズル基板との接着面が確実にマスク部材で保護され、接着面にパリレン薄膜が形成されるのを確実に防止することができる。これにより、リザーバ基板とノズル基板との接着強度を確保することができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、パリレン薄膜の表面を酸素プラズマで親水化処理するものである。
これにより、液滴流路の親水性を容易に確保することができる。
【0014】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、ダイアフラム部を形成する際のドライエッチングには、SF6プラズマを用いるものである。
これにより、パリレン薄膜に与えるダメージを最小限に抑えてドライエッチングを行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の何れかの液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造するものである。
吐出特性が良好な液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した液滴吐出ヘッドの実施の形態について説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、ノズル基板の表面に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するフェイス吐出型のインクジェットヘッドについて説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、基板の端部に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するエッジ吐出型の液滴吐出ヘッドにも同様に適用することができる。また、アクチュエータは静電駆動方式で示してあるが、その他の駆動方式であってもよい。
【0017】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図2は、図1に示したインクジェットヘッドの組立状態を示す縦断面図である。なお、図1及び図2では、通常使用される状態とは上下が逆に示されている。
【0018】
図1、図2において、インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)10は、従来の一般的な静電駆動方式のインクジェットヘッドのように、ノズル基板、キャビティ基板、電極基板の3つの基板を貼り合わせた3層構造ではなく、ノズル基板1、リザーバ基板2、キャビティ基板3、電極基板4の4つの基板を、この順に貼り合わせた4層構造で構成されている。すなわち、吐出室とリザーバが別々の基板に設けられている。以下、各基板の構成について詳述する。
【0019】
ノズル基板1は、例えば厚さ約50μmのシリコン材から作製されている。ノズル基板1には多数のノズル孔11が所定のピッチで設けられている。ただし、図1には簡明のため、1列5つのノズル孔11を示してある。また、ノズル列は複数列とすることもある。
各ノズル孔11は、基板面に対し垂直にかつ同軸上に小さい穴の噴射口部分11aと、噴射口部分11aよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されている。
【0020】
リザーバ基板2は、例えば厚さ約180μmであって、面方位が(100)のシリコン材から作製されている。このリザーバ基板2には、リザーバ基板2を垂直に貫通し、各ノズル孔11に独立して連通する少し大きい径(導入口部分11bの径と同等もしくはそれよりも大きい径)のノズル連通孔21が設けられている。また、各ノズル連通孔21及び各ノズル孔11に対して、各供給口22を介して連通する共通のリザーバ(共通インク室)23となるリザーバ凹部23aが形成されている。
【0021】
このリザーバ凹部23aは、ノズル基板1との接着面(以下、N面ともいう)側に拡径して開かれた断面ほぼ逆台形状となっている。そしてリザーバ凹部23aの底壁23bのキャビティ基板3側は、リザーバ基板2とキャビティ基板3との接着面(以下、C面ともいう)まで貫通する空間部110となっている。
【0022】
また、リザーバ基板2においてキャビティ基板3との接着面とノズル連通孔21の内周を除くリザーバ基板2のリザーバ凹部形成側の面全体(以下、リザーバ凹部23aの内面全体という)には、樹脂薄膜であるパリレン薄膜111が形成されている。このパリレン薄膜111のうち、空間部110に対向する薄膜部分は、リザーバ凹部23aの底面の一部を構成しており、圧力変動緩衝部であるダイアフラム部100となっている。すなわち、空間部110に対向する部分のパリレン薄膜111は、空間部110とリザーバ凹部23aとの間で空中に浮いた状態となっており、この空間部110によってパリレン薄膜111のたわみが許容されるようになっている。
なお、このパリレン薄膜111はリザーバ基板2の製造過程で成膜によって形成されるものである。
【0023】
リザーバ凹部23aの底壁23bには、ダイアフラム部100を回避した位置に、上記の供給口22と、外部からリザーバ23にインクを供給するためのインク供給孔27とが貫通形成されている。
また、リザーバ基板2のC面には、吐出室31の一部を構成する細溝状の第2の凹部28が形成されている。第2の凹部28は、キャビティ基板3を薄くすることによる吐出室31での流路抵抗の増加を防ぐために設けられているが、第2の凹部28は省略することも可能である。
なお、ここでは図示は省略するが、リザーバ基板2のリザーバ凹部23aの内面全体には、パリレン薄膜111の下地膜としてクロム膜205と金膜205aとが形成されている(後述の図5参照)。クロム膜205と金膜205aとをパリレン薄膜111の下地に形成しておくことにより、パリレン薄膜111とリザーバ基板2(シリコン表面)との密着性を高めることができるようになっている。
【0024】
リザーバ基板2を貫通するノズル連通孔21は、ノズル基板1のノズル孔11と同軸上に設けられているので、インク滴の吐出の直進性が得られ、そのため吐出特性が格段に向上するものとなる。特に、微小なインク滴を狙い通りに着弾させることができるため、色ずれ等を生じることなく微妙な階調変化を忠実に再現することができ、より鮮明で高品位の画質を実現することができる。
【0025】
キャビティ基板3は、例えば厚さ約30μmのシリコン材から作製されている。このキャビティ基板3には、ノズル連通孔21のそれぞれに独立して連通する吐出室31となる第1の凹部33が設けられている。そして、この第1の凹部33と上記の第2の凹部28とで、各吐出室31が区画形成されている。また、吐出室31(第1の凹部33)の底壁が振動板32を構成している。振動板32は、シリコンに高濃度のボロンを拡散することにより形成されるボロン拡散層により構成することができる。振動板32をボロン拡散層とすることにより、ウェットエッチングでのエッチングストップを十分に働かせることができるので、振動板32の厚さや面荒れを精度よく調整することができる。
【0026】
キャビティ基板3の少なくとも下面には、例えばTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)を原料としたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)によるSiO2膜からなる絶縁膜が、例えば0.1μmの厚さで形成されている(図示せず)。この絶縁膜は、インクジェットヘッド10の駆動時における絶縁破壊や短絡を防止するために設けられている。キャビティ基板3の上面には、リザーバ基板2と同様のインク保護膜(図示せず)が形成されている。また、キャビティ基板3には、リザーバ基板2のインク供給孔27に連通するインク供給孔35が設けられている。
【0027】
電極基板4は、例えば厚さ約1mmのガラス材から作製されている。なかでも、キャビティ基板3のシリコン材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いることにより、電極基板4とキャビティ基板3とを陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板4とキャビティ基板3との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく、電極基板4とキャビティ基板3とを強固に接合することができる。
【0028】
電極基板4には、キャビティ基板3の各振動板32に対向する表面の位置に、それぞれ凹部42が設けられている。各凹部42は、エッチングにより約0.3μmの深さで形成されている。そして、各凹部42の底面には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極41が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成されている。したがって、振動板32と個別電極41との間に形成されるエアギャップG(空隙)は、この凹部42の深さ、個別電極41及び振動板32を覆う絶縁膜の厚さにより決まることになる。このエアギャップGは、インクジェットヘッド10の吐出特性に大きく影響する。本実施の形態1の場合、エアギャップGは、0.2μmとなっている。このエアギャップGの開放端部は、エポキシ接着剤等からなる封止材43により気密に封止されている。これにより、異物や湿気等がエアギャップGに侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
なお、個別電極41の材料はITOに限定するものではなく、IZO(Indium Zinc Oxide)あるいは金、銅等の金属を用いてもよい。しかし、ITOは透明であるので振動板の当接具合の確認が行いやすいことなどの理由から、一般にはITOが用いられている。
【0029】
また、個別電極41の端子部41aは、リザーバ基板2及びキャビティ基板3の端部が開口された電極取り出し部44に露出しており、電極取り出し部44において、例えばドライバIC等の駆動制御回路5が搭載されたフレキシブル配線基板(図示せず)が、各個別電極41の端子部41aと、キャビティ基板3の端部に設けられた共通電極36とに接続されている。
【0030】
電極基板4には、インクカートリッジ(図示せず)に接続されるインク供給孔45が設けられている。インク供給孔45は、キャビティ基板3に設けられたインク供給孔35、及びリザーバ基板2に設けられたインク供給孔27を通じて、リザーバ23に連通している。
【0031】
ここで、上記のように構成されたインクジェットヘッド10の動作について説明する。
インクジェットヘッド10には、外部のインクカートリッジ(図示せず)内のインクがインク供給孔45、35、27を通じてリザーバ23内に供給され、さらにインクは個々の供給口22からそれぞれの吐出室31、ノズル連通孔21を経て、ノズル孔11の先端まで満たされている。また、このインクジェットヘッド10の動作を制御するためのドライバIC等の駆動制御回路5が、各個別電極41とキャビティ基板3に設けられた共通電極36との間に接続されている。
【0032】
したがって、この駆動制御回路5により個別電極41に駆動信号(パルス電圧)を供給すると、個別電極41には駆動制御回路5からパルス電圧が印加され、個別電極41をプラスに帯電させ、一方、これに対応する振動板32はマイナスに帯電する。このとき、個別電極41と振動板32間に静電気力(クーロン力)が発生するため、この静電気力により振動板32は個別電極41側に引き寄せられて撓む。これによって、吐出室31の容積が増大する。次に、パルス電圧をオフにすると、上記静電気力がなくなり、振動板32はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室31の容積が急激に減少するため、そのときの圧力により、吐出室31内のインクの一部がノズル連通孔21を通過し、インク滴となってノズル孔11から吐出される。そして、再びパルス電圧が印加され、振動板32が個別電極41側に撓むことにより、インクがリザーバ23から供給口22を通って吐出室31内に補給される。
【0033】
本実施の形態1に係るインクジェットヘッド10によれば、駆動時において、吐出室31の圧力はリザーバ23にも伝達される。このとき、リザーバ23の底壁23bには、パリレン薄膜111を備えたダイアフラム部100が設けられているので、リザーバ23が正圧になるとパリレン薄膜111は空間部110の下方へ撓み、逆にリザーバ23が負圧になるとパリレン薄膜111は空間部110の上方へ撓むため、リザーバ23内の圧力変動を緩衝することができ、ノズル孔11間の圧力干渉を防止することができる。そのため、駆動ノズル以外の非駆動ノズルからインクが漏れ出たり、駆動ノズルから吐出に必要な吐出量が減少するといったような不具合をなくすことができる。
【0034】
また、リザーバ基板2のダイアフラム部100がリザーバ23の底面に位置するので、リザーバ23の底部全面をダイアフラムにすることでダイアフラム部100の面積を大きくすることができ、ダイアフラム部100の圧力緩衝効果を大きくすることができるようになっている。
【0035】
次に、実施の形態1に係るインクジェットヘッド10の製造方法について、図4乃至図10を用いて説明する。なお、以下において示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値はあくまでも一例を示すものであり、本発明はこれらの値によって限定されるものではない。
まず、リザーバ基板2の製造方法について図4乃至図6を参照して説明する。
【0036】
(a)図4(a)に示すように、面方位(100)、厚さ180μmのシリコン材よりなるリザーバ基材200を用意し、このリザーバ基材200の外面に熱酸化膜201を形成する。
(b)次に、フォトリソグラフィー法により、図4(b)に示すように、キャビティ基板3と接着する側の面(C面)に、ノズル連通孔21、第2の凹部28、供給口22、ダイアフラム部100、インク供給孔27になる部分の外縁のそれぞれ21a、28a、22a、100a、27aをパターニングする。このとき、C面における各部分21a、28a、22a、100a、27aの熱酸化膜201の残し膜厚が、次の関係になるようにエッチングする。
ノズル連通孔21になる部分の外縁21a=0<供給口22になる部分22a=インク供給孔27になる部分27a<第2の凹部28になる部分28a=ダイアフラム部100になる部分100a
【0037】
(c)次に、図4(c)に示すように、C面のノズル連通孔21になる部分21aを、ICPで150μm程、ドライエッチングする。
(d)次に、図4(d)に示すように、熱酸化膜201を適量エッチングして、供給口22になる部分22a、インク供給孔27になる部分の外縁27aを開口させ、そののち、ICPで15μm程、ドライエッチングする。
【0038】
(e)次に、図4(e)に示すように、熱酸化膜201を適量エッチングして、第2の凹部28になる部分28a及びダイアフラム部100になる部分100aを開口させ、そののちICPで25μm程、ドライエッチングする。この際、ノズル連通孔21になる部分21aもドライエッチングされて、N面にまで貫通する。
(f)そして、熱酸化膜201を除去した後に、図4(f)に示すように、再度、熱酸化膜201を1.0μm形成し、ノズル基板1と接着する側の面(N面)に、リザーバ凹部23aになる部分230をフォトリソグラフィー法で開口する。
【0039】
(g)次に、図5(g)に示すように、KOHで150μm程、ウェットエッチングしてリザーバ凹部23aを形成する。ここで、インク供給孔27になる部分のシリコン部材200aは外縁27aによりシリコン基材(リザーバ基材)200から分離された状態になる。
(h)熱酸化膜201を除去した後に、図5(h)に示すように、再度、熱酸化膜201aを0.2μm形成する。
(i)C面に、ダイアフラム部100になる部分100aのみが開口した金属製もしくはシリコン製マスク202を被せてドライエッチングを行い、ダイアフラム部100になる部分100aの熱酸化膜201aを除去する。
【0040】
(j)そして、リザーバ基材200のC面全体を保護フィルム203で保護するとともに、リザーバ凹部23aの開口部よりも小さい開口204aを有する保護フィルム(マスク部材)204でリザーバ基材200のN面を保護した状態で、リザーバ凹部23aの内面全体にスパッタによりクロム膜205を5nm形成する。
ここで、保護フィルム204の開口204aをリザーバ凹部23aの開口部よりも小さく形成したのは、仮に保護フィルム204のリザーバ基材200に対するアライメントにズレが生じたとしても、リザーバ基材200のノズル基板1との接着面(N面)を確実に保護フィルム204で保護して接着面にパリレン薄膜111が成膜されるのを確実に防止するためである。これは、リザーバ基材200のノズル基板1との接着面にパリレン薄膜111が成膜されるとノズル基板1との十分な接着強度が得られず、剥がれる原因となるためである。
【0041】
(k)続けて、クロム膜205上に、金膜205aを10nm形成する。
(l)C面の保護フィルム203を新たな保護フィルム206に交換(供給口22及びインク供給孔27のクロム膜205及び金膜205aを除去するため)し、その状態で真空チャンバー内にセットし、表面全体にパリレン薄膜111をCVDにより1.0μm形成する。このパリレン薄膜111は、ジパラキシリレン(ダイマー)を昇華させて熱分解することにより形成される。パリレンは、シリコン薄膜に比べて柔らかい性質があるため、当該部分を例えばシリコン薄膜で形成した場合に比べて100倍から1000倍の圧力吸収効果を発揮することができる。
このように、パリレン薄膜111はリザーバ基板2の製造過程において成膜によって形成される。
【0042】
(m)そして、N面及びC面の保護フィルム204,206を剥離する。ここで、パリレン薄膜111は、下地膜として形成されたクロム膜205及び金膜205aの作用によりリザーバ凹部23aの表面に対して密着性高く成膜されているため、保護フィルム204を剥離する際にリザーバ凹部23aの内面部分のパリレン薄膜111も一緒に剥がれるといった不都合が生じないようになっている。そして、C面側より酸素プラズマで供給口22及びインク供給孔27のパリレン薄膜111を除去し、N面側から酸素プラズマでパリレンが除去されない程度に表面を親水化処理する。
(n)C面からSF6プラズマで空間部110になる部分のシリコンをドライエッチングにより除去し、シリコン部分を貫通させる。そして、最後に、下地膜のクロム膜205を硝酸第二セリウムアンモニウム水溶液で、金膜205aをヨウ素・ヨウ化カリウム水溶液でそれぞれウェットエッチングにより除去する。その結果、パリレン薄膜111が露出し、ダイアフラム部100が完成する。
以上によりリザーバ基板2が作製される。
【0043】
次に、電極基板4とキャビティ基板3の製造工程について図7乃至図9を参照して説明し、インクジェットヘッドの完成までの製造工程について図10を参照して説明する。
【0044】
まず、電極基板4は、以下のようにして製造される。
(a)図7(a)に示すように、硼珪酸ガラス等からなる厚さ約1mmのガラス基材400に、金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより、凹部42を形成する。なお、この凹部42は個別電極41の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極41ごとに複数形成される。
そして、凹部42の内部に、スパッタとパターニングにより、ITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極41を形成する。
その後、ブラスト等によってインク供給孔45になる部分45aを形成することにより、電極基板4が作製される。
【0045】
(b)次に、図7(b)に示すように、厚さ約220μmで電極基板4と接合するE面に所要の厚さのボロンドープ層(図示せず)を形成してあるシリコン材よりなるキャビティ基材300を用意し、このキャビティ基材300のE面に、例えばTEOSを原料としたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって、厚さ0.1μmの酸化膜からなる絶縁膜34を形成する。絶縁膜34の形成は、例えば、温度360℃、高周波出力250W、圧力66.7Pa(0.5Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3/min(100sccm)、酸素流量1000cm3/min(1000sccm)の条件で行う。また、キャビティ基材300は、所要の厚さのボロンドープ層(図示せず)を有するものを用いるのが望ましい。
【0046】
(c)次に、キャビティ基材300(図7(b))と、個別電極41が作製された電極基板4(図7(a))とを、図7(c)に示すように、絶縁膜34を介して陽極接合する。陽極接合は、キャビティ基材300と電極基板4を360℃に加熱した後、電極基板4に負極、キャビティ基材300に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合する。
【0047】
(d)次に、図7(d)に示すように、陽極接合された上記キャビティ基材300の表面を、バックグラインダーや、ポリッシャーによって研削加工し、さらに水酸化カリウム水溶液で表面を10〜20μmエッチングして加工変質層を除去し、厚さが30μmになるまで薄くする。
【0048】
(e)次に、図8(e)に示すように、薄板化されたキャビティ基材300の表面に、エッチングマスクとなるTEOS酸化膜301を、プラズマCVDによって厚さ約1.0μmで形成する。
【0049】
(f)そして、TEOS酸化膜301の表面上にレジスト(図示せず)をコーティングし、フォトリソグラフィーによってレジストをパターニングし、TEOS酸化膜301をエッチングすることにより、図8(f)に示すように、吐出室31の第1の凹部33、インク供給孔35、及び電極取り出し部44になる部分33a、35a、44aを開口する。そして、開口後にレジストを剥離する。
【0050】
(g)次に、図8(g)に示すように、この陽極接合済みの基材を水酸化カリウム水溶液でエッチングすることにより、薄板化されたキャビティ基材300に、吐出室31の第1の凹部33になる部分33aと、インク供給孔35となる貫通孔35aを形成する。このとき、電極取り出し部44になる部分44aはボロンドープ層が形成されているため、振動板32になる部分32aと同じ厚さで残留する。また、貫通孔35aにもボロンドープ層が形成されているが、インク供給孔45から侵入する水酸化カリウム水溶液にも曝露されているため、エッチング中に消滅する。
【0051】
なお、このエッチング工程では、最初は、濃度35wt%の水酸化カリウム水溶液を用いて、キャビティ基材300の残りの厚さが例えば5μmになるまでエッチングを行い、ついで、濃度3wt%の水酸化カリウム水溶液に切り替えてエッチングを行う。これにより、エッチングストップが十分に働くため、振動板32になる部分32aの面荒れを防ぎ、かつその厚さを0.80±0.05μmと、高精度の厚さに形成することができる。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0052】
(h)キャビティ基材300のエッチングが終了した後に、図8(h)に示すように、フッ酸水溶液でエッチングすることにより、キャビティ基材300の上面に形成されているTEOS酸化膜301を除去する。
【0053】
(i)次に、キャビティ基材300の第1の凹部33になる部分33aの表面に、図9(i)に示すように、プラズマCVDによりTEOS膜からなるインク保護膜37を、厚さ0.1μmで形成する。
【0054】
(j)その後、図9(j)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部44になる部分44aを開口する。また、振動板32と個別電極41の間のエアギャップGの開放端部を、エポキシ樹脂等の封止材43で気密に封止する。また、Pt(白金)等の金属電極からなる共通電極36が、スパッタにより、キャビティ基材300の表面の端部に形成される。
以上により、電極基板4に接合した状態のキャビティ基材300からキャビティ基板3が作製される。
【0055】
(k)そして、図10(k)に示すように、このキャビティ基板3に、前述のようにノズル連通孔21、供給口22、リザーバ凹部23a、ダイアフラム部100等が作製されたリザーバ基板2を接着剤により接着する。
【0056】
(l)最後に、図10(l)に示すように、予めノズル孔11が形成されたノズル基板1を、リザーバ基板2上に接着剤により接着する。
(m)そして、図10(m)に示すように、ダイシングにより個々のヘッドに分離すれば、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0057】
以上のように、実施の形態1によれば、パリレン薄膜111をリザーバ凹部23aの内面全体に形成し、ダイアフラム部100となるパリレン薄膜111部分が、リザーバ23の底壁23bの表面と、供給口22の周壁の一部と、インク供給孔27の周壁の一部とに対して一様に成膜されるようにしたため、例えば、図3に示すように空間部110の側面110aに形成するようにした場合に比べて、リザーバ基板2との接触面積が増加して十分な密着性を確保することができる。
【0058】
また、パリレン薄膜111の形成に先だってクロム膜205及び金膜205aを下地膜として形成するようにしたので、パリレン薄膜111とシリコン表面との密着性を高くすることができる。
【0059】
また、パリレン薄膜111は、微小欠陥が無く被覆性に優れ、また、耐熱性、耐薬品性及び耐透湿性が高い特徴を有しているため、ダイアフラム部100に用いて好適である。また、柔軟性も高いので、例えばシリコン薄膜に比べて、100倍から1000倍の圧力吸収効果を発揮することができる。
【0060】
また、ダイアフラム部100は、パリレン薄膜111を成膜することにより形成したので、ダイアフラム部100をウエハーに一括で形成できて生産性が良い。
【0061】
また、ダイアフラム部100の形成に際しては、リザーバ基板2のN面側を開口204aを有する保護フィルム204で保護した状態でパリレン薄膜111を形成し、そして、その保護フィルム204を剥がすことにより形成するものであるので、言い換えれば、リザーバ凹部23aの内面全体に形成したパリレン薄膜111の一部をダイアフラム部100としてそのまま利用するため、パリレン薄膜111を部分的に除去したり、パリレン薄膜111を部分的に形成したりする工程が不要であるため、製造工程が簡単で、歩留まりと生産性を向上させることができる。
【0062】
また、ダイアフラム部100が変形するための空間部110をリザーバ23の形成面と反対側の面をエッチングにより掘り込んで形成したものであるので、空間部110を設けるに際し、キャビティ基板3もしくはノズル基板1に加工する必要がなく、キャビティ基板3もしくはノズル基板1の設計及び加工に対する影響を与えることがない。
【0063】
また、ダイアフラム部100を形成する際のエッチング工程(図6(n))では、シリコン部分をドライエッチングによって除去し、また、下地膜となるクロム膜205と金膜205aとをそれぞれウェットエッチングによって除去するため、例えば、下地膜に白金を用いた場合に比べて低コスト化及び時間短縮が可能である。すなわち、下地膜に白金を用いた場合には、白金膜を形成する際のスパッタターゲットが高価で、また、白金膜の除去に高温・長時間のウェットエッチングが必要となるという不都合があるが、クロム膜205と金膜205aとを用いた場合には、このような不都合を回避することができる。
【0064】
また、パリレン薄膜111を形成する際にN面を保護する保護フィルム204を、その開口204aがリザーバ凹部23aの開口部よりも小さいものとしたので、仮に保護フィルム204のリザーバ基板2に対するアライメントにズレが生じたとしても、リザーバ基板2のノズル基板1との接着面(N面)を確実に保護フィルム204で保護することができ、接着面にパリレン薄膜111が形成されるのを確実に防止することができる。これにより、リザーバ基板2とノズル基板1との接着強度を確保することができる。また、リザーバ基板2のC面側も同様に保護フィルム206で保護するようにしたので、リザーバ基板2とキャビティ基板3との接着強度を確保することができる。
【0065】
また、パリレン薄膜111の表面を酸素プラズマで親水化処理するようにしたので、液滴流路の親水性を容易に確保することができる。
【0066】
また、ダイアフラム部100を形成する際のシリコンのドライエッチングにはSF6プラズマを用いるようにしたので、パリレン薄膜111に与えるダメージを最小限に抑えてシリコンのドライエッチングを行うことができる。
【0067】
実施の形態2.
図11は本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図12は図11に示したインクジェットヘッドの組立状態を示す縦断面図である。なお、実施の形態1と同一部分には同じ符号を付し説明を省略する。
実施の形態2に係るインクジェットヘッド10は、リザーバ基板2に設けたダイアフラム部100を、実施の形態1とは逆に、ノズル基板1との接着面側(N面側)に設けたものである。
【0068】
本実施の形態2では、リザーバ基板2以外のノズル基板1、キャビティ基板3及び電極基板4は、実施の形態1と同じ構成である。実施の形態2のリザーバ基板2には、ノズル基板1のノズル孔11に連通する円筒状のノズル連通孔21が同様に形成されている。また、実施の形態1では、各吐出室31の一部を構成する第2の凹部28と、リザーバ23となるリザーバ凹部23aとがリザーバ基板2において互いに反対面に形成されていたが、本実施の形態2では同一面(C面)に形成されている。そして、リザーバ基板2のC面には更に、第2の凹部28とリザーバ凹部23aとを連通する細溝状の供給口220が形成されている。また、キャビティ基板3に設けられたインク供給孔35は、リザーバ凹部23aの開口面に開口している。
【0069】
リザーバ基板2のリザーバ凹部23aは、キャビティ基板3との接着面(C面)側に拡径して開かれた断面ほぼ台形状となっている。そしてリザーバ凹部23aの上部(N面側)には、直方体状の空間部110が形成されている。そして、この空間部110にパリレン薄膜111を形成して、圧力変動緩衝部であるダイアフラム部100を構成している。
【0070】
ここで、パリレン薄膜111は、空間部110のC面側に加え、第2の凹部28、供給口220及びリザーバ凹部23aの内面に形成されている。そして、空間部110に対向する部分のパリレン薄膜111は、空間部110とリザーバ凹部23aとの間で空中に浮いた状態となっており、この空間部110によってパリレン薄膜111のたわみが許容されるようになっている。
また、上記実施の形態1と同様に、パリレン薄膜111は、リザーバ基板2において他の基板との接着面となる面(ここではC面)には形成されないようになっており、キャビティ基板3との接着強度が確保されるようになっている。
【0071】
本実施の形態2に係るインクジェットヘッド10は、その駆動時において、リザーバ23のN面側に設けられたダイアフラム部100のパリレン薄膜111が大きな面積を有して上下方向に振動するので、実施の形態1と同様の効果があり、ノズル孔11間の圧力干渉を防止することができる。
【0072】
次に、実施の形態2に係るインクジェットヘッドの製造のために使用するリザーバ基板の製造方法を、図13、図14を用いて説明する。
(a)まず、図13(a)に示すように、面方位(100)、厚さ180μmのシリコン材よりなるリザーバ基材200を用意し、このリザーバ基材200の外面に熱酸化膜201を1.0μm形成する。
(b)次に、図13(b)に示すように、フォトリソグラフィー法により、C面にノズル連通孔21になる部分21aを開口する。
(c)次に、図13(c)に示すように、C面のノズル連通孔21になる部分21aを、ICPで貫通するまでドライエッチングする。
【0073】
(d)次に、熱酸化膜201を剥離し、その後、図13(d)に示すように、再度、熱酸化膜201を形成する。そして、C面にそれぞれリザーバ凹部23aと供給口220と第2の凹部28とになる部分230、22a、28aをパターニングする。ただし、エッチング深さに応じて、パターン幅が次の関係になるようにする。
リザーバ凹部23aになる部分230>第2の凹部28になる部分28a>供給口220になる部分22a
【0074】
(e)次に、図14(e)に示すように、KOHによるウェットエッチングで、C面を150μmエッチングしてリザーバ凹部23aを形成する。その際、供給口220と第2の凹部28も同時に形成されるが、それぞれの熱酸化膜201によるパターン部分の開口幅に応じた深さでエッチングがストップする。各部の深さは、以下の関係に形成される。
リザーバ凹部23a>第2の凹部28>供給口220
(f)次に、熱酸化膜201を剥離し、その後、図14(f)に示すように、再度熱酸化膜201aを形成し、N面に、ダイアフラム部100になる部分100aのみが開口した金属製もしくはシリコン製マスク202を被せてドライエッチングを行い、ダイアフラム部100になる部分100aの熱酸化膜201aを除去する。
【0075】
(g)そして、図14(g)に示すようにリザーバ基材200のN面全体を保護フィルム203でマスキングするとともに、第2の凹部28、供給口220及びリザーバ凹部23aの開口部よりも小さい開口204aを有する保護フィルム204でリザーバ基材200のC面を保護した状態で、第2の凹部28、供給口220及びリザーバ凹部23aの内面全体にスパッタによりクロム膜205を5nm形成し、続けて金膜205aを10nm形成する。
(h)N面及びC面を保護フィルム203,204で保護したまま、パリレン薄膜111を1.0μm形成する。パリレンの形成は、上記実施の形態1で説明した方法と同様に、リザーバ基材200に保護フィルム203,204を装着した状態で真空チャンバー内にセットし、ジパラキシリレン(ダイマー)を昇華させて熱分解することで表面全体に堆積させて形成する。
このように、パリレン薄膜111はリザーバ基板2の製造過程において成膜によって形成される。
【0076】
(i)次に、図14(i)に示すように、N面及びC面の保護フィルム203,204を剥離する。このとき、実施の形態1と同様に、パリレン薄膜111は、下地膜(クロム膜205及び金膜205a)の作用により第2の凹部28、供給口220及びリザーバ凹部23aの表面に対して密着性高く成膜されているため、C面側の保護フィルム204を剥離する際にパリレン薄膜111も一緒に剥がれるといった不都合が生じないようになっている。そして、C面側から酸素プラズマでパリレンが除去されない程度に表面を親水化処理する。
(j)N面からSF6プラズマで空間部110になる部分のシリコンをドライエッチングにより除去し、シリコン部分を貫通させる。そして、最後に、下地膜のクロム膜205を硝酸第二セリウムアンモニウム水溶液で、金膜205aをヨウ素・ヨウ化カリウム水溶液でそれぞれウェットエッチングにより除去する。その結果、パリレン薄膜111が露出し、ダイアフラム部100が完成する。
以上によりリザーバ基板2が作製される。
【0077】
そして、上記のように作製されたリザーバ基板2を用いて、実施の形態1の図7乃至図10で説明したように製造すれば、実施の形態2に係るインクジェットヘッド10を製造することができる。
【0078】
実施の形態2に係るインクジェットヘッド10は、実施の形態1とほぼ同様の効果が得られるとともに、ダイアフラム部100が変形するための空間部110をノズル基板1との接着面側に設けた構造としたので、換言すれば、リザーバ23やその他の各部をリザーバ基板2において同一面側に形成した構造としたので、リザーバ基板2の全ての加工をキャビティ基板3側からの片面加工で完了させることができ、歩留まりと生産性を向上することができる。
【0079】
上記の実施形態1及び2では、静電駆動方式のインクジェットヘッド及びその製造方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、本発明の技術思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、静電駆動方式以外の駆動方式によるインクジェットヘッドについても、本発明を適用することができる。圧電方式の場合は、電極基板に代えて、圧電素子を各吐出室の底部に接着すればよく、バブル方式の場合は各吐出室の内部に発熱素子を設ければよい。また、上記各実施の形態に係るインクジェットヘッド10は、図15に示されるインクジェットプリンタの他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、プリント配線基板製造装置にて製造する配線基板の配線部分の形成、生体液体の吐出(プロテインチップやDNAチップの製造)など、様々な用途の液滴吐出装置に適用することができる。また、上記実施の形態1及び2のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)を備えた液滴吐出装置は、液滴吐出時に発生するノズル間の圧力干渉を防止して吐出特性が良好な液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの組立状態を示す断面図。
【図3】ダイアフラム部の比較例を示す図。
【図4】実施の形態1に係るインクジェットヘッドのリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図5】図4に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図6】図5に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図7】電極基板とキャビティ基板の製造工程の断面図。
【図8】図7に続く製造工程の断面図。
【図9】図8に続く製造工程の断面図。
【図10】図9に続く製造工程の断面図。
【図11】本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図12】図11のインクジェットヘッドの組立状態を示す断面図。
【図13】実施の形態2に係るインクジェットヘッドのリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図14】図13に続くリザーバ基板の製造工程の断面図。
【図15】本発明に係るインクジェットプリンタを示す斜視図。
【符号の説明】
【0081】
1 ノズル基板、2 リザーバ基板、3 キャビティ基板、4 電極基板、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、21 ノズル連通孔、22 供給口、23 リザーバ、23a リザーバ凹部、23b リザーバの底壁、27,35,45 インク供給孔、28 第2の凹部、31 吐出室、32 振動板、33 第1の凹部、41 個別電極、42 凹部、100 ダイアフラム部、110 空間部、111 パリレン薄膜、200 リザーバ基材、203,204,206 保護フィルム、204a 開口、205 クロム膜、205a 金膜、210 マスク、C キャビティ基板との接着面(C面)、N ノズル基板との接着面(N面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記各ノズル孔に連通し、室内に圧力を発生させて前記ノズル孔より液滴を吐出する複数の独立した吐出室を有するキャビティ基板と、前記吐出室に対して共通に連通するリザーバを有し、前記ノズル基板と前記キャビティ基板との間に設けられるリザーバ基板とを少なくとも備え、前記リザーバの底面に圧力変動を緩衝するパリレン薄膜を備えたダイアフラム部を設けた液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記リザーバ基板になるシリコン基材の一方の面から前記リザーバとなるリザーバ凹部をウェットエッチングにより形成する工程と、
前記リザーバ凹部内に下地膜としてクロム膜と金膜とを順次形成する工程と、
前記シリコン基材の一方の面と該一方の面と反対側の面のうち、前記リザーバ凹部の開口部以外の表面をマスク部材で覆い、前記リザーバ凹部の内面全体に対して前記パリレン薄膜を形成する工程と、
前記マスク部材を除去する工程と、
前記反対側の面から前記パリレン薄膜が露呈するまでエッチングを行い、前記ダイアフラム部を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記ダイアフラム部を形成する工程では、前記反対側の面から前記シリコン基材をドライエッチングして前記シリコン基材を貫通させる工程と、前記クロム膜と前記金膜とをそれぞれウェットエッチングにより除去して前記パリレン薄膜を露呈させる工程とを有することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記シリコン基材の前記一方の面側を覆うマスク部材が、前記リザーバ凹部の開口部に対向する位置にのみ開口を有し、該開口が前記リザーバ凹部の開口部よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記パリレン薄膜の表面を酸素プラズマで親水化処理することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記ダイアフラム部を形成する際の前記ドライエッチングには、SF6プラズマを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−73072(P2009−73072A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244894(P2007−244894)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】