説明

液滴吐出ヘッド及びその製造方法

【課題】信頼性が高く、ヘッドチップの小型化が可能で、更に、配線を複雑化することなくアクチュエータの高密度化に対応可能な液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ノズル基板1とリザーバ基板2と振動板31を有するキャビティ基板3と個別電極42が形成された電極基板4と、個別電極42に駆動信号を供給するドライバIC50と、個別電極数よりも少ない本数のリードからなり、ドライバIC50に入力信号を供給するためのIC用リード部45と、振動板31に入力信号を供給するための共通電極用リード部46とを備え、キャビティ基板3とリザーバ基板2とを連通する穴で形成される収容部51にドライバIC50が収容され、IC用リード部45及び共通電極用リード部46は、電極基板4に設けられた貫通孔47,48を通じて個別電極42が形成された面とは反対側の面に引き出されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタなどに使用される液滴吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液滴吐出ヘッドに対して小型化の要求が高まり、ドライバICの実装構造や配線構造に関して、従来より様々な工夫、提案がなされている。
従来の液滴吐出ヘッドとして、ノズル基板、リザーバ基板、キャビティ基板及び電極基板の4枚の基板を積層して構成したヘッドチップ内に、ドライバICを内蔵した構造のものがある(例えば、特許文献1参照)。この構造では、電極基板上に設けられたドライバICへの駆動信号を供給する配線が、ヘッドチップの中央部分のアクチュエータ形成領域からヘッドチップの端辺側へと引き出されている。そして、電極基板以外の3枚の基板において電極基板上の配線引き出し部に対応する部分を貫通させ、配線をその貫通穴から露出させ、その露出部にFPCを接続する構造となっている。
【0003】
また、その他の構造として、静電アクチュエータを構成する振動板を有したキャビティ基板と静電アクチュエータを構成する個別電極を有した電極基板とを対向配置した静電型の液滴吐出ヘッドにおいて、キャビティ基板と対向する電極基板の裏面(電極形成面と反対側の面)に、各個別電極の端子を引き出して配置し、配線基板等の余分な基板を不要として、ヘッドを小型化する技術があった(例えば、特許文献2,3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−272574号公報
【特許文献2】特開2006−88611号公報
【特許文献3】特開平11−320873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、次の2つの問題点が挙げられる。一つは、配線がノズル面側に露出していることから、そのヘッドがプリンタに搭載され使用される中で、ノズル面のワイピング等によりインク等の液滴がその配線部に付着し短絡を引き起こす可能性があることである。もう一つは、ウエハ上にヘッドチップを複数形成した後、ダイシングにより分割する際に、露出した配線部分に切削水が浸入し、その水や切削屑の残留による短絡を引き起こす可能性があることである。また、FPC接続部を、各アクチュエータの形成領域部分の外側に設けているため、外形形状が大きくなり、小型化の妨げにもなっている。
【0006】
また、特許文献2,3の技術では、アクチュエータ1つ1つから配線を引き出すのはアクチュエータの高密度化に伴い困難となってくる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、信頼性が高く、ヘッドチップの小型化が可能で、更に、配線を複雑化することなくアクチュエータの高密度化に対応可能な液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、底壁が振動板を形成し、液滴を溜めておく吐出室となる凹部がノズル孔毎に形成されたキャビティ基板と、振動板に対向し、振動板を駆動する個別電極が複数形成された電極基板と、吐出室に液滴を供給する共通液滴室となる凹部と、共通液滴室から吐出室へ液滴を移送するための孔と、吐出室からノズル孔へ液滴を移送するノズル連通孔とを有するリザーバ基板と、個別電極に駆動信号を供給するドライバICと、個別電極数よりも少ない本数のリードからなり、ドライバICに接続され、ドライバICに入力信号を供給するためのIC用リード部と、キャビティ基板に接続され、振動板に入力信号を供給するための共通電極用リード部とを備え、キャビティ基板には第1の穴部が設けられ、リザーバ基板には第2の穴部が設けられており、第1の穴部と第2の穴部は連通して収容部を形成し、ドライバICは、収容部に収容されており、電極基板には貫通孔が設けられており、IC用リード部は、個別電極数よりも少ない本数のリードからなり、IC用リード部及び共通電極用リード部は、貫通孔を通じて、個別電極が形成された面とは反対側の面に引き出されているものである。
このように、ドライバICへの入力配線であるIC用リード部と共通電極用リード部を、液滴吐出ヘッドのノズル面側でなくその反対側の面に引き出した構造としたため、ワイピング時やダイシング時に、液滴や切削水等が配線部に付着することがない。このため、水分付着による短絡を防止でき、信頼性を向上することができる。
また、IC用リード部をヘッドチップの端辺側へと引き出すのではなく、電極基板に設けた貫通孔を介して裏面(個別電極が形成された面とは反対側の面)に引き出した構造であるため、チップの小型化が可能となる。そして、チップを小型化すれば、1枚のウエハからのチップ取り数が増え、コスト低減が可能となる。
また、ドライバICへの入力配線の数(IC用リード部のリード数)は、アクチュエータ数とは関係ないため、アクチュエータ数が増えて高密度化されても、リード数が増えることはない。このため、高密度化に対応可能な配線構造とすることができる。
【0009】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、IC用リード部及び共通電極用リード部が、貫通孔に金属が埋め込まれて形成されているものである。
これにより、IC用リード部及び共通電極用リード部とドライバICとの接続信頼性を高めることができるとともに、配線抵抗を低くすることができる。また、ドライバICへの入力配線を引き出すための開口部である貫通孔には金属が埋め込まれており、ドライバICを収容する収容部は外部と連通せず密閉された構造であるため、ダイシング時の切削水の浸入がなく、配線やドライバIC周りにおける水、切削屑の残留による短絡を防止できる。
【0010】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、貫通孔が、電極基板において、ドライバICが配置された領域内に形成されているものである。
これにより、液滴吐出ヘッドの面積を増やすことなくリードの配線を行うことが可能である。このため、チップサイズを最小化でき、小型化が可能となる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ドライバICが、複数の個別電極からなる個別電極列が2列並置された列間の境界部に対応する領域に配置されており、各列の個別電極の一端が、ドライバICに接続されているものである。
これにより、ドライバICから2つの電極列に駆動信号を供給することが可能となり、電極列の多列化が容易となる。またドライバICの個数が少なくなるため、コストを削減することができ、液滴吐出ヘッドの小型化も可能となる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の何れかの液滴吐出ヘッドの製造方法であって、電極基板を形成する工程と、キャビティ基板と電極基板とを接合する工程と、ドライバICを個別電極に接続する工程とを有し、電極基板を形成する工程は更に、電極基板となる基材に穴を形成する工程と、穴の内部にシード層を形成して金属を埋め込む工程と、穴が形成された面とは反対側の面をエッチングして、埋め込まれた金属の頭部を露出させる工程とを有するものである。
これにより、金属からなるIC入力用の配線を、電極基板の穴が形成された面とは反対側の面に引き出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図2は組付状態の液滴吐出ヘッドの断面図である。図1、図2に示す本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、ノズル基板1、リザーバ基板2、キャビティ基板3、電極基板4の4つの基板をこの順に貼り合わせた4層構造で構成されている。以下、各基板の構成について詳述する。
また、本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、後述する個別電極42に駆動信号を供給するドライバIC50が設けられている。このドライバIC50については後述する。
【0014】
ノズル基板1は、例えば厚さ約50μmのシリコン基板からなり、各々のノズル連通孔26と連通する複数のノズル孔11が形成されている。各ノズル孔11は、2つの孔径を備え、ノズル先端側が小さい孔径に、ノズル後端側がノズル先端側より大きな孔径になっている。これにより、液滴を吐出する際の直進性を向上させている(図2参照)。
【0015】
キャビティ基板3は、例えば厚さ約50μmのシリコンからなり、底壁が振動板31であって吐出室32となる凹部33が形成されている。なお凹部33は複数形成されており、後述の個別電極42(電極列)に対応して2列に形成されている。またキャビティ基板3には、電極列の間にキャビティ基板3を貫通する第1の穴部34を有している。
本実施の形態では、キャビティ基板3は単結晶シリコンからなり、その全面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって、TEOS(TetraEthylOrthoSilicate)からなる絶縁膜(図示せず)を0.1μm形成している。これは、振動板31の駆動時における絶縁破壊及びショートを防止するためと、インク等の液滴によるキャビティ基板3のエッチングを防止するためのものである。またキャビティ基板3には、キャビティ基板3を貫通する液滴供給孔35が形成されている。
【0016】
なお、液滴吐出ヘッドの振動板31は、高濃度のボロンドープ層から形成するようにしてもよい。水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液による単結晶シリコンのエッチングにおけるエッチングレートは、ドーパントがボロンの場合、約5×1019atoms/cm3以上の高濃度の領域において、非常に小さくなる。このため、振動板31の部分を高濃度のボロンドープ層とし、アルカリ溶液による異方性エッチングによって吐出室32となる凹部33を形成する際に、ボロンドープ層が露出してエッチングレートが極端に小さくなる、いわゆるエッチングストップ技術を用いることにより、振動板31を所望の厚さに形成することができる。
【0017】
リザーバ基板2は、例えば厚さ約180μmの表裏面の面方位が(100)の例えば単結晶シリコンから形成されている。リザーバ基板2には、吐出室32に液滴を供給するための共通液滴室21となる凹部22が2つ形成されており、凹部22の底面には、共通液滴室21から各吐出室32へ液滴を移送するための貫通孔23が形成されている。また凹部22の底面には、凹部22の底面を貫通する液滴供給孔24が形成されている。さらにリザーバ基板2の2つの共通液滴室21の間には、リザーバ基板2を貫通する第2の穴部25が形成されている。
【0018】
図2に示すようにリザーバ基板2に設けられた第2の穴部25とキャビティ基板3に設けられた第1の穴部34とは連通して収容部51を形成している。そしてこの収容部51の内部には、ドライバIC50が収容されるようになっている。この収容部51は、ノズル基板1、リザーバ基板2、キャビティ基板3及び電極基板4によって閉塞されている。即ち、ノズル基板1が収容部51の上面を、電極基板4が収容部51の下面を、キャビティ基板3及びリザーバ基板2が収容部51の側面を形成することにより、収容部51が閉塞されるようになっている。なお収容部51は、液滴や外気からドライバIC50を保護するために密閉するのが望ましい。
【0019】
また、各々の吐出室32に連通し、吐出室32から後述するノズル孔11に液滴を移送するためのノズル連通孔26がリザーバ基板2の凹部22以外の部分に形成されている。このノズル連通孔26は、ノズル基板1のノズル孔11と同軸上に設けられているので、液滴の吐出の直進性が得られ、そのため吐出特性が格段に向上するものとなる。特に、微小な液滴を狙い通りに着弾させることができるため、色ずれ等を生じることなく微妙な階調変化を忠実に再現することができ、より鮮明で高品位の画質を実現することができる。
【0020】
電極基板4は、例えば厚さ約1mmのホウ珪酸ガラス等のガラスから形成されている。電極基板4には凹部41が例えば深さ0.2μmで形成されている。この凹部41の内部には個別電極42が、一定の間隔を有して振動板31と対向するように、例えばITO(Indium Tin Oxide)を0.1μmの厚さでスパッタすることにより作製されている。上記の例では、電極基板4とキャビティ基板3を接合した後の個別電極42と振動板31の間隔は0.1μmとなる。この個別電極42と振動板31とにより静電アクチュエータが構成されている。
なお、個別電極42の材料はITOに限定するものではなく、IZO(Indium Zinc Oxide)あるいは金、銅等の金属を用いてもよい。ただし、ITOを用いた場合、静電アクチュエータの駆動耐久性を確保することが可能である。また、ITOは透明であるため、振動板の当接具合の確認が行いやすく、また、個別電極42と振動板31の間の空間内への異物混入などを検査可能にするなどの理由から、一般にはITOが用いられている。
【0021】
個別電極42は、その一端側のIC出力実装部42aでドライバIC50と接続されており、ドライバIC50から駆動信号が供給されるようになっている。凹部41はその一部が、個別電極42を装着できるように、これらの形状に類似したやや大きめの形状にパターン形成されている。また、凹部41のその他の部分(図1における中央部)はドライバIC50を電極基板4上に装着できるようにパターン形成されており、この部分にドライバIC50が配置されている。なお、本実施の形態では、電極基板4とキャビティ基板3が接合された後に、個別電極42と振動板31の間の空間に異物が入らないように封止材43が塗布される(図2参照)。
【0022】
本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドでは、複数の個別電極42が長辺及び短辺を有する長方形状に形成されており、この個別電極42が、互いの長辺が平行になるように配置され、個別電極42の短辺方向に伸びる電極列を2列形成している。なお例えば、個別電極42の短辺が長辺に対して斜めになっており、個別電極42が細長い平行四辺形状になっている場合には、長辺方向に直角方向に伸びる電極列を形成するようにすればよい。
【0023】
また本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドでは、ドライバIC50が2つの電極列の間に配置され、両方の電極列に接続されている。これにより、ドライバIC50から2つの電極列に駆動信号を供給することが可能となり、電極列の多列化が容易となる。またドライバIC50の個数が少なくなるため、コストを削減することができ、液滴吐出ヘッドの小型化も可能となる。なお図1に示す液滴吐出ヘッドでは、2つのドライバIC50が配置されているが、例えばこれらのドライバIC50を1つのICで構成したり、3つ以上のICで構成するようにしてもよい。
【0024】
また、電極基板4には、ドライバIC50に入力信号を供給するためのIC用リード部45と、振動板31に入力信号を供給するための共通電極用リード部46とが形成されている。IC用リード部45は、複数のリード(配線)から構成されており、各リードは、電極基板4に設けた貫通孔47内にCu等の導電性に優れた金属が埋め込まれて形成されている。このリードのキャビティ基板3側の端部はドライバIC50に接続されるIC入力実装部45aとなっている。また、反対側の端部は、電極基板4に形成された貫通孔47を通して電極基板4の裏面(個別電極42が形成された面とは反対側の面)に引き出され、FPC実装部45b(図2参照)となっている。
【0025】
また、共通電極用リード部46は、1本のリード(配線)から構成されており、IC用リード部45と同様に、電極基板4に設けた貫通孔48内にCu等の導電性に優れた金属が埋め込まれて形成されている。そして、このリードのキャビティ基板3側の端部は共通電極接続部46aとなっておりキャビティ基板3に接続され、反対側の端部は、前記貫通孔48を通して電極基板4の裏面(個別電極42が形成された面とは反対側の面)に引き出され、FPC実装部46b(図2参照)となっている。
【0026】
このIC用リード部45及び共通電極用リード部46のFPC実装部45b,46bに、FPC(Flexible Printed Circuit)70のコネクタ部を接続することにより、IC用リード部45のFPC実装部45bとFPC70のIC用配線71とが接続され、共通電極用リード部46のFPC実装部46bとFPC70の共通電極用配線72とが接続される。そして、液滴吐出装置の制御部(図示せず)からの入力信号がFPC70のIC用配線71と電極基板4に設けられたIC用リード部45とを介してドライバIC50に入力される。また、FPC70の共通電極用配線72と電極基板4に設けられた共通電極用リード部46とを介してキャビティ基板3の共通電極端子(図示せず)に駆動信号が供給される。
【0027】
また、IC用リード部45及び共通電極用リード部46が形成される貫通孔47,48は、電極基板4においてドライバIC50が配置された領域の下に形成されている。このため、液滴吐出ヘッドの面積を増やすことなくリードの配線を行うことが可能となっている。また、IC用リード部45及び共通電極用リード部46をCu等の導電性に優れた金属とすることにより、リードの抵抗を低減することができ、接続の信頼性を高くすることができる。
【0028】
ここで、IC用リード部45を構成する複数のリードは、ヘッド駆動電圧、ICロジック用電圧、ノズル選択信号、クロック、ラッチ、GNDなどに使用されるもので、例えば10本程度であり、アクチュエータ数に比べて格段に少ない。また、このリード数はアクチュエータ数とは関係ないため、アクチュエータ数が増えて高密度化されても、リード数が増えることはない。このため、高密度化に対応可能な配線構造とすることができる。
【0029】
また電極基板4には液滴供給孔44が形成されており、この液滴供給孔44は電極基板4を貫通している。この電極基板4に形成された液滴供給孔44、キャビティ基板3に形成された液滴供給孔35及びリザーバ基板2に形成された液滴供給孔24は、リザーバ基板2、キャビティ基板3及び電極基板4が接合された状態において互いに繋がって、外部から共通液滴室21に液滴を供給するための液滴供給孔60を形成する(図2参照)。
【0030】
ここで図1及び図2に示す液滴吐出ヘッドの動作について説明する。共通液滴室21には外部から液滴供給孔60を介してインク等の液滴が供給されている。また吐出室32には共通液滴室21から貫通孔23を介して液滴が供給されている。ドライバIC50には、FPC70のIC用配線71及び電極基板4に設けられたIC用リード部45を介して液滴吐出装置の制御部(図示せず)から入力信号(パルス電圧)が供給されている。そしてドライバIC50から個別電極42に0Vから40V程度のパルス電圧を印加し個別電極42をプラスに帯電させる。このとき、キャビティ基板3の共通電極端子(図示せず)には、FPC70の共通電極用配線72(図1参照)及び電極基板4に設けられた共通電極用リード部46を介して液滴吐出装置の制御部(図示せず)から駆動信号(パルス電圧)を供給し、対応する振動板31をマイナスに帯電させる。これにより、振動板31は静電気力によって個別電極42側に吸引されて撓む。次にパルス電圧をオフにすると、振動板31にかけられた静電気力がなくなり振動板31は復元する。このとき吐出室32の内部の圧力が急激に上昇し、吐出室32内の液滴がノズル連通孔26を通過してノズル孔11から吐出される。その後、液滴が共通液滴室21から貫通孔23を通じて吐出室32内に補給され、初期状態に戻る。なお、液滴吐出ヘッドの共通液滴室21への液滴の供給は、例えば液滴供給孔60に接続された液滴供給管(図示せず)により行われる。
【0031】
次に、本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの製造方法について図3を参照して説明する。
図3は液滴吐出ヘッドの製造方法の一例を示す製造工程図で、特に上記の電極基板4の製造方法を中心に示した製造工程図である。なお、以下に示す各種条件は一例であり、それらの条件に限定されるものではない。
【0032】
(a)電極基板4となる電極基板基材であるガラス基板400の表面400aにIC用リード部45及び共通電極用リード部46に対応する部分をレジスト又はCrをマスクとして区画形成してパターニングする。その後、CHF3やCF4等のガスを単独又は混合して用いてRIE(Reactive Ion Etching)でガラス基板400を300μm〜800μmの深さに垂直にエッチングする。これにより、IC用リード部45を形成するための穴(IC用リード部形成用穴)401と共通電極用リード部46を形成するための穴(共通電極用リード部形成用穴)402とが形成される。これらの穴401,402は、ガラス基板400を貫通しない穴となっている。
(b)個別電極42を形成するための凹部41を、Crをマスクとして区画形成後、ウエットエッチングして50〜300nmの深さに形成する。なお、共通電極用リード部46を形成するための穴402は、凹部41が形成されていない箇所に設けられている。
(c)Crを剥離後、ITOを約100nmの厚みにスパッタリングして成膜し、フォトレジストをエッチングマスクとして凹部41内に個別電極42を区画形成する。
【0033】
(d)ガラス基板400の個別電極42が形成された面400aに、Cuをスパッタリングし、IC用リード部45及び共通電極用リード部46をCuメッキにより埋め込むためのシード層とする。その後、IC用リード部45及び共通電極用リード部46となる部分をフォトレジストで区画形成してCuを電解メッキにより埋め込み、IC用リード部45及び共通電極用リード部46を形成する。個別電極42の区画形成と、IC用リード部45及び共通電極用リード部46の金属の埋め込みの順番はどちらが先でも良い。個別電極42の区画形成を先に行う場合には、金属を埋め込む際のメッキ前処理としてのスパッタが不要となるのに対して、IC用リード部45及び共通電極用リード部46を先に形成する場合には、IC用リード部45及び共通電極用リード部46のギャップ内形成部分をITOで覆うことができるので、金属イオンによるギャップ内の汚染による、静電アクチュエータの耐久性低下を防止することが可能となる。
【0034】
(e)ガラス基板400の裏面(個別電極42が形成された面とは反対側の面)400bをフッ酸系の溶液により全面エッチングして、IC用リード部45及び共通電極用リード部46の金属の頭部(接点部)を露出させる。この露出部分がFPC実装部45b、46bとなる。なお、ガラス基板400の裏面(個別電極42が形成された面とは反対側の面)400bに凹部を形成することによって頭部の露出を行っても良い。この場合、前記のIC用リード部形成用穴401及び共通電極用リード部形成用穴402を浅く掘っておけば良い。そして、サンドブラスト等によって液滴供給孔44を形成する。
以上により電極基板4が完成する。
【0035】
(f)完成した電極基板4に、キャビティ基板3となるシリコン基板300を陽極接合する。陽極接合する際に、均一なギャップを形成し、振動板31と個別電極42が貼りつかないように、シリコン基板300と個別電極端子部を同(等)電位とするために、接合時の冶具等により短絡する。等電位を確保するには、接合時の冶具と個別電極端子部、同冶具とシリコン基板300をそれぞれ接触させて短絡する。
そして、吐出室32等の液滴流路、振動板31、第1の穴部34及び液滴供給孔35等をシリコン基板300に異方性エッチングにより形成する。これらの異方性エッチング加工はシリコン基板300を接合した後行っても、予め加工を行った後に接合してもどちらでも良い。接合後に加工を行えば、シリコン基板300が薄い場合でも割れずに容易に加工が可能となる。
シリコン基板300に各構成部(液滴流路、振動板31、第1の穴部34及び液滴供給孔35等)を形成した後、封止材43によりギャップ内の気密封止を行う。その封止は、CVD装置を用いたTEOS成膜などによって行う。
【0036】
(g)ドライバIC50を電極基板4上に実装する。すなわち、ドライバIC50を、キャビティ基板3に設けられた第1の穴部34に挿入し、個別電極42のIC出力実装部42a(図1参照)及びIC用リード部45のIC入力実装部45aとドライバIC50とを電気的及び機械的に接合する。
【0037】
(h)その後、シリコン基板(キャビティ基板)3の上に、第2の穴部25、ノズル連通孔26及び凹部22等が形成済のリザーバ基板2を接着接合し、その上にノズル孔11が形成済のノズル基板1を接着接合して流路を形成する。その後、ダイシング等により接合ウェハを分離して個別の液滴吐出ヘッドを得る。なお、ドライバIC50への入力配線を引き出すための開口部である貫通孔47,48には金属が埋め込まれており、ドライバIC50を収容する収容部51が外部と連通せず密閉された構造であるため、このダイシングの際に、切削水がドライバIC50の周囲に浸入することがなく、水や切削屑の残留による短絡が起こる危険はない。
【0038】
(i)IC用リード部45のFPC実装部45b及び共通電極用リード部46のFPC実装部46bにACF(異方性導電接着剤)を用いてFPC70を実装し、そのFPC70を通じて、液滴吐出装置の制御部(図示せず)との接続を行う。また、液滴供給孔44へ液滴供給管を接続して液滴を供給可能として液滴吐出ヘッドとする。
【0039】
このように、本実施の形態によれば、ドライバIC50への入力用の配線を、液滴吐出ヘッドのノズル面側ではなくその反対側の面に引き出した構造としたため、ワイピング時やダイシング時に、液滴や切削水等が配線部に付着することがない。このため、水分付着による短絡を防止でき、信頼性を向上することができる。また、IC用リード部45を従来のようにヘッドチップの端辺側へと引き出すのではなく、電極基板4に設けられた貫通孔47を介して裏面(個別電極42が形成された面とは反対側の面)に引き出した構造であるため、チップの小型化が可能となる。そして、チップを小型化すれば、1枚のウェハからのチップ取り数が増え、コスト低減が可能となる。
【0040】
また、本実施の形態の構造によれば、アクチュエータ数が増えて高密度化されても、電極基板4に形成されるIC用リード部45のリード数には変化がないため、配線を複雑化することなく、省スペースでの配線が可能となる。
【0041】
また、IC用リード部45及び共通電極用リード部46は、電極基板4に設けられた貫通孔47,48に金属を埋め込んだ構造であるため、IC用リード部45及び共通電極用リード部46とドライバIC50との接続信頼性を高めることができるとともに、配線抵抗を低くすることができる。また、ドライバIC50への入力配線引き出しのための開口部である貫通孔47,48には金属が埋め込まれており、ドライバIC50を収容する収容部51が外部と連通せず密閉された構造であるため、ダイシング時の切削水の浸入がなく、配線やドライバIC周りにおける水、切削屑の残留による短絡を防止できる。
【0042】
さらに、IC用リード部45及び共通電極用リード部46は、電極基板4においてドライバIC50の配置された領域の下に形成されており、液滴吐出ヘッドの面積を増やすことなくリードの配線を行うことが可能である。このため、チップサイズを最小化でき、小型化が可能となる。また、ヘッドチップの小型化により、1枚のウエハからのチップ取り数を増やすことができ、コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図2】図1の液滴吐出ヘッドの概略断面図。
【図3】図1に示された液滴吐出ヘッドの製造方法を示す製造工程図。
【符号の説明】
【0044】
1 ノズル基板、2 リザーバ基板、3 キャビティ基板、4 電極基板、11 ノズル孔、12 吐出室、21 共通液滴室、22 共通液滴室となる凹部、23 貫通孔、25 第2の穴部、26 ノズル連通孔、31 振動板、32 吐出室、33 吐出室となる凹部、34 第1の穴部、35 液滴供給孔、42 個別電極、45 IC用リード部、46 共通電極用リード部、47 貫通孔、48 貫通孔、51 収容部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、
底壁が振動板を形成し、前記液滴を溜めておく吐出室となる凹部が前記ノズル孔毎に形成されたキャビティ基板と、
前記振動板に対向し、前記振動板を駆動する個別電極が複数形成された電極基板と、
前記吐出室に液滴を供給する共通液滴室となる凹部と、前記共通液滴室から前記吐出室へ液滴を移送するための孔と、前記吐出室から前記ノズル孔へ液滴を移送するノズル連通孔とを有するリザーバ基板と、
前記個別電極に駆動信号を供給するドライバICと、
前記個別電極数よりも少ない本数のリードからなり、前記ドライバICに接続され、前記ドライバICに入力信号を供給するためのIC用リード部と、
前記キャビティ基板に接続され、前記振動板に入力信号を供給するための共通電極用リード部とを備え、
前記キャビティ基板には第1の穴部が設けられ、前記リザーバ基板には第2の穴部が設けられており、前記第1の穴部と前記第2の穴部は連通して収容部を形成し、前記ドライバICは、前記収容部に収容されており、
前記電極基板には貫通孔が設けられており、前記IC用リード部及び前記共通電極用リード部は、前記貫通孔を通じて、前記個別電極が形成された面とは反対側の面に引き出されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記IC用リード部及び前記共通電極用リード部は、前記貫通孔に金属が埋め込まれて形成されていることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記電極基板において、前記ドライバICが配置された領域内に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ドライバICは、複数の個別電極からなる個別電極列が2列並置された列間の境界部に対応する領域に配置されており、各列の個別電極の一端が、前記ドライバICに接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記電極基板を形成する工程と、
前記キャビティ基板と前記電極基板とを接合する工程と、
前記ドライバICを前記個別電極に接続する工程とを有し、前記電極基板を形成する工程は更に、
前記電極基板となる基材に穴を形成する工程と、
前記穴の内部にシード層を形成して金属を埋め込む工程と、
前記穴が形成された面とは反対側の面をエッチングして、埋め込まれた金属の頭部を露出させる工程とを有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−284775(P2008−284775A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131752(P2007−131752)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】