説明

液滴吐出装置

【課題】吐出された液状体が良好に分離される液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】本発明の液滴吐出装置は、ノズル125を開口したノズルプレート121と、ノズレプレート121上に設けられ、貯留室122と供給路とリザーバとを有する流路形成基板127と、流路形成基板127上に設けられた振動板128と、振動板128上に設けられ、下部電極と圧電素子と上部電極とを有する圧電駆動素子129と、ノズル125から吐出された液状体の先端部Q11とノズル125との間にガスを噴射するガス噴射部と、を備える。ガス噴射部が、ノズルプレート121に設けられたガス噴射口126a、126bと、流路形成基板に設けられ、ガス噴射口126a、126bに連通した貫通孔127a、127bと、ガス貫通孔127a、127bにガスを供給するガス供給装置161と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から液滴吐出装置は、画像を形成するプリンタやデバイス製造用の成膜装置として幅広い分野で用いられている。一般に、液滴吐出装置は多数の吐出ユニットを備えている。吐出ユニットは、液状体の貯留部、貯留部に通じるノズル、液状体を加圧してノズルから液滴を押し出すピエゾ素子等を備えている。
【0003】
近年、液滴吐出法による成膜技術が注目されている。液滴吐出法によれば、膜の形成材料を含んだ微小な液滴を所望の位置に配置することが可能である。これにより、微細な膜パターンを形成することができ、フォトリソグラフィ法を用いる場合よりもパターニングが容易になる。また、膜の形成材料のムダを少なくできるので、製造コストを低くすることができる。
【0004】
このような工業用途では、膜の形成材料として高分子ポリマーインク等の高粘度な液状体を吐出させることがある。また、画像印刷の用途でも、UVインク等の高粘度な液状体を吐出させることがある。高粘度な液状体を高精細なパターンで高精度な位置に配置するためには、ノズル内のメニスカス(液面)から液状体を微小な液滴として良好に分離することが極めて重要である。
【0005】
液滴を分離させる技術としては、特許文献1に開示されている技術が挙げられる。特許文献1の液滴吐出装置は、ノズル近傍に温度可変素子を備えている。温度可変素子は、ヒータやペルチェ素子により構成されている。ノズルから押出された液柱の温度分布を制御することにより、液柱の粘度を部分的に制御することができ、液状体の分離を促進することができるとされている。
【特許文献1】特開2007−229960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術を適用してノズル近傍の液状体を加熱すると、ノズル近傍で液状体の乾燥が促進され、ノズル詰りを生じるおそれがある。また、ノズル近傍の液状体を冷却すると液状体の粘度が高くなるので、高粘度の液状体を安定に吐出させることが難しくなる。また、冷却と加熱とをともに行うとすれば、液滴吐出装置の構成が複雑になり、装置コストが高くなってしまう。
【0007】
また、熱の応答性は部材の熱容量等により限界があるので、ある程度以上に吐出動作を高周波化すると熱の応答が吐出動作に追従できなくなる。したがって、熱により液柱の粘度を制御する手法を用いると、液滴吐出装置を高周波化することが困難になる。よって、高周波化により成膜速度を向上させることが難しくなり、デバイスの製造効率を向上させることが難しくなる。
【0008】
また、膜の形成材料によっては、熱による液状体の変質や溶剤等の揮発成分の可燃性に留意する必要性が生じることがある。この場合には、液状体の材料選択する手間が増えることや可燃性に対する安全管理上のコストが増大すること等の不都合を生じてしまう。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑み成されたものであって、吐出された液状体が良好に分離される液滴吐出装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液滴吐出装置は、ノズルを開口したノズルプレートと、前記ノズレプレート上に設けられ、貯留室と供給路とリザーバとを有する流路形成基板と、前記流路形成基板上に設けられた振動板と、前記振動板上に設けられ、下部電極と圧電素子と上部電極とを有する圧電駆動素子と、前記ノズルから吐出された液状体の先端部と前記ノズルとの間にガスを噴射するガス噴射部と、を備え、前記ガス噴射部が、前記ノズルプレートに設けられたガス噴射口と、前記流路形成基板に設けられ、前記ガス噴射口に連通した貫通孔と、前記ガス貫通孔にガスを供給するガス供給装置と、を有していることを特徴とする。
【0011】
このようにすれば、吐出された液状体の先端部とノズルとの間に位置する部分(以下、中間部と称す)の液状体が、ガス供給装置から供給されガス噴射口から噴射されたガスにより切断され、液状体の先端部がノズル側から確実に分離される。
【0012】
以上のように本発明によれば、液状体の物性を熱により変化させることなく、先端部を分離することができるので、液状体の乾燥によるノズル詰りや液状体の変質等を生じることがなくなり、安定して吐出動作させることが可能になる。したがって、微小体積の液状体を高精度な位置に配置することができ、高精細な膜パターンや画像を形成することが可能な液滴吐出装置になる。
【0013】
また、前記ガス噴射部が一対の前記ガス噴射口を有し、前記一対のガス噴射口は、前記ノズルを挟んで対称的に配置されているとともに、前記ガスの噴射方向が互いに向かい合っていることが好ましい。この場合には、前記一対のガス噴射口には、該一対のガス噴射口で共通の流通経路を経て前記ガスが供給されていることがより好ましい。
【0014】
このようにすれば、一対のガス噴射口の一方から噴射されたガスから液状体が受ける力の向きが、他方から噴射されたガスから液状体が受ける力と向きと反対になる。したがって、ガスから液状体が受ける力が互いに打ち消し合うことにより、ガスによる液状体の飛行曲がりが低減される。
【0015】
また、一対のガス噴射口に共通の流通経路からガスが居供給されていれば、一対のガス噴射口から噴射されるガスの圧力が均一になる。したがって、一方から噴射されたガスから液状体が受ける力の大きさが、他方から噴射されたガスから液状体が受ける力の向きとほぼ同じになる。よって、ガスから液状体が受ける力がほぼ完全に打ち消し合うことにより、ガスによる液状体の飛行曲がりが防止される。
【0016】
また、前記ガス噴射口から噴射されるガスの軌跡が、前記ノズルから吐出される前記液状体の軌跡と前記ノズルから離れた位置で交わることが好ましい。
このようにすれば、ガス噴射口から噴射されたガスによりノズル内の液状体の乾燥が促進されることがなくなり、液状体の乾燥によるノズル詰りを防止することができる。
【0017】
また、前記吐出部が、前記ノズルと連通し前記液状体を貯留する貯留部と、前記貯留室の内部を加圧する駆動素子と、を有し、前記ガス噴射部が、前記駆動素子のオンオフと略同一の周期で前記ガスの噴射をオンオフする電気的駆動弁を有している構成であってもよい。
電気的駆動弁によりガスの噴射をオンオフすれば、断続的にガスを噴射することができる。これにより、吐出された液状体の先端部にガスを当てないようにすることができ、液状体の先端部の飛行曲がりが防止される。
【0018】
液状体が吐出されるタイミングは、駆動素子のオンオフにより定まるので、液状体が吐出される周期は、駆動素子のオンオフの周期とほぼ一致する。この周期は電気的駆動弁によりガスの噴射がオンオフされる周期と略一致しているので、液状体が吐出されてから一定期間経過後に、吐出された液状体にガスを当てることができる。このように一定の周期でオンオフする電気的駆動弁を制御する制御系としては、シンプルな構成のものを用いることができるので、シンプルな構成の液滴吐出装置にすることができる。
【0019】
また、前記吐出部が、前記貯留部と前記駆動素子と前記ノズルとを有する複数の吐出ユニットを有しているとともに、前記ガス噴射部が、各々が前記複数の吐出ユニットの各々と対応する複数のガス噴射ユニットを有しており、前記複数の吐出ユニットのノズルの配置面に沿う方向において、前記複数のガス噴射ユニットのガス噴射口の配列軸と、前記複数の吐出ユニットのノズルの配列軸とが不一致であることが好ましい。
このようにすれば、ガスの噴射方向が吐出ユニットの配列軸と一致しなくなる。したがって、1つの吐出ユニットから吐出された液状体に対して噴射したガスが、他の吐出ユニットから吐出された液状体と異なる方向に進行し、対応していない液状体に影響を及ぼすことがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以降の説明では図面を用いて各種の構造を例示するが、構造の特徴的な部分を見やすくするために、構造の寸法や縮尺を実際の構造と適宜異ならせて図示する。
【0021】
図1は、本実施形態の液滴吐出ヘッド(液滴吐出装置)を備えた成膜装置の構成を示す概略斜視図である。この成膜装置は、液滴吐出法により液状体を被処理基板に配置するものである。配置される液状体は、膜材料等の固形分を含有しており、乾燥させると固形分が残留するものである。すなわち、ここでいう液状体は、固形分を分散媒(溶媒)に分散(溶解)させた分散液(溶液)等である。液状体の具体例としては、顔料や染料等を含んだカラーフィルタ材料や、UVインク、金属配線等の導電膜パターンの形成材料である金属粒子を含んだコロイド溶液等が挙げられる。
【0022】
このような液状体は、例えば粘度が常温で10〜30cP程度であり、高粘度である。また、常温で粘度が30cPを超える液状体であって、吐出時に加熱して粘度を低下させて用いるものもある。高粘度な液状体は、吐出された後にメニスカスとの間に糸状の尾を曳くので、メニスカスから分離されにくい。本実施形態では、前記のような高粘度な液状体を膜材料に用いる成膜装置として、カラーフィルタ製造用の成膜装置1を説明する。
【0023】
図1に示すように、成膜装置1は、支持台10上に設けられたワークステージ11と、ワークステージ11よりも高い位置に設けられた液滴吐出ヘッド12とを備えている。ワークステージ11の上面には、被処理基板Wを載置することが可能になっている。ワークステージ11及び液滴吐出ヘッド12は、図示略の制御装置により位置制御される。また、前記の制御装置は、液滴吐出ヘッド12の吐出動作を制御するようになっている。以上のような構成により、被処理基板Wを走査しつつ液滴吐出ヘッド12から被処理基板Wの所定の領域に液状体を配置することが可能になっている。
【0024】
以下、図1に示したXYZ直交座標系に基づいて説明する。このXYZ直交座標系において、X軸及びY軸がワークステージ11の面方向と平行となっており、Z軸がワークステージ11の面方向と直交している。実際には、XY平面が水平面に平行な面に設定されており、Z軸が鉛直上方向に設定されている。成膜時には、例えば主走査方向に沿って液状体を配置した後に副走査方向の位置を調整し、再度、主走査方向に沿って液状体を配置する。ここでは、ワークステージ11の移動方向であるX軸方向が主走査方向、液滴吐出ヘッド12の移動方向であるY軸方向が副走査方向に設定されている。
【0025】
ワークステージ11は、真空吸着装置(図示略)等を備えており、載置された被処理基板Wを着脱可能に固定することができる。ワークステージ11には、ステージ移動装置111が設けられている。ステージ移動装置111は、ボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、前記の制御装置から入力される制御信号に基づいて、ワークステージ11をX軸方向に移動させる。これにより、載置された被処理基板WをX方向の所定の位置に移動させることができる。
【0026】
成膜装置1は、3種類(赤・緑・青)のカラーフィルタ材料の各々に対応して、3つの液滴吐出ヘッド12を備えている。3つの液滴吐出ヘッド12は、いずれもキャリッジ13に取付けられており、キャリッジ13には、キャリッジ移動装置131が設けられている。キャリッジ移動装置131は、前記の制御装置から入力される制御信号に基づいて、キャリッジ13をX方向やY方向に移動させる。これにより、液滴吐出ヘッド12をX方向やY方向の所定の位置に移動させることができる。
【0027】
3つの液滴吐出ヘッド12の各々は、複数の吐出ユニット(後述する)を備えている。吐出ユニットの各々は、前記の制御装置からの描画データや制御信号に基づいて、液状体を吐出する。3種類のカラーフィルタ材料である3種類の液状体は、それぞれタンク14A、14B、14Cに貯留されている。貯留された液状体は、その種類ごとにチューブ群141を通って、対応する液滴吐出ヘッド12に供給される。
【0028】
図2(a)は、液滴吐出ヘッド12において被処理基板Wとの対向面を示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A’線断面図である。
【0029】
図2(a)に示すように液滴吐出ヘッド12は、主走査方向(X軸方向)と略直交して配列された複数の吐出ユニットUを備えている。複数の吐出ユニットUで共通のノズルプレート121が設けられている。ノズルプレート121には、吐出ユニットUごとにノズル125と、一対のガス噴射口126a、126bとが設けられている。ノズル125は、吐出ユニットUの配列方向(Y方向)に沿って配列されている。
【0030】
ノズル125は、液状体の貯留室122と連通している。貯留室122は、液状体の供給路123を経て複数の吐出ユニットUで共通のリザーバ124と連通している。供給路123の詳細な形状を図示しないが、貯留室122からリザーバ124に液状体が逆流しないようになっている。リザーバ124は、図1に示したチューブ群141のいずれかと接続されている。吐出ユニットUから吐出される液状体は、タンク14A、14B、14Cからチューブ群141、リザーバ124、供給路123を経て貯留室122内に充填される。
【0031】
図2(b)に示すように吐出ユニットUは、ノズルプレート121、振動板128、及びノズルプレート121と振動板128とに挟持された流路形成基板127を有している。流路形成基板127には、貫通孔や凹部が設けられている。この貫通孔や凹部が、ノズルプレート121と振動板128とに挟まれることにより、液状体の貯留室122や供給路123が構成されている。
【0032】
振動板128の貯留室122と反対側には、吐出ユニットごとに駆動素子129が設けられている。本実施形態の駆動素子129は、下部電極129a、上部電極129c、及びこれら電極間に挟持された圧電体129bからなっている。前記した制御装置は、複数の吐出ユニットUの各々における駆動素子129に所定のタイミングで駆動電圧波形を供給するようになっている。駆動素子129に駆動電圧波形が供給されると、駆動素子129の圧電体129bは、面方向に伸縮する。これにより、貯留室122と平面的に重なる部分の振動板128が面方向と直交する厚み方向に変位して貯留室122の容積が変化する。
【0033】
図3(a)は、ノズルプレート121において被処理基板Wと対向する面を拡大して示す平面図であり、図3(b)は図3(a)のB−B線に沿う断面図である。
【0034】
図3(a)に示すように、本実施形態ではガス噴射口126aの配列方向、ガス噴射口126bの配列方向が、いずれもノズル125の配列方向と平行になっている。ガス噴射口126aは等間隔で並んでおり、ガス噴射口126bも等間隔で並んでいる。ガス噴射口126aの間隔はガス噴射口126bの間隔と略同一になっており、噴射口126aの各々はガス噴射口126bの各々と主走査方向(X軸方向)に沿って並んでいる。
【0035】
ノズル125の列は、ガス噴射口126aの列とガス噴射口126bの列との中央に配置されている。ノズル125の各々は、副走査方向(Y軸方向)において、互いに隣接する2つのガス噴射口126aの中央に配置されている。すなわち、ノズル125の各々は、互いに隣接する2つのガス噴射口126aと隣接する2つのガス噴射口126bとを頂点とする長方形の中心に配置されている。この長方形の対角線の一方(例えば図3(a)のB−B線))に沿って配置されたガス噴射口126a、126bが一対になっている、一対のガス噴射口126a、126bは、一対のガス噴射口126a、126bの中央(長方形の中心)に位置するノズル125と対応している。一対のガス噴射口126a、126bの各々は、対応するノズル125に向けて空気や不活性ガス(例えば、窒素ガス)等のガスを噴射するようになっている。
【0036】
図3(b)に示すように、一対のガス噴射口126a、126bの各々の軸方向は、ノズル125側を向いて傾斜しており、ノズル125の軸方向すなわちノズルプレート121の法線方向と非平行になっている。一対のガス噴射口126a、126bは、ガス噴射部16の一部を構成している。ガス噴射部16は、ガス供給装置161、電磁弁(電気的駆動弁)162、電磁弁制御装置163を有している。
【0037】
電磁弁制御装置163は、電磁弁162に駆動電圧波形を供給して電磁弁162をオンオフ(開閉)するようになっている。ガス供給装置161から供給されたガスは、電磁弁162が開いていると、図示略の配管を通ってガス噴射口126a、126bに供給される。
【0038】
ここでは、電磁弁162に接続された配管が2つの枝配管(図示略)に分岐されている。枝配管の一方は複数のガス噴射口126aに一括して接続されており、枝配管の他方は、複数のガス噴射口126bに一括して接続されている。一方の枝配管を通ったガスは、振動板128に設けられた貫通孔128a、流路形成基板127に設けられた貫通孔127aを経て、ノズルプレート121に設けられたガス噴射口126aに供給される。他方の枝配管を通ったガスは、振動板128に設けられた貫通孔128b、流路形成基板127に設けられた貫通孔127bを経て、ノズルプレート121に設けられたガス噴射口126bに供給される。このような構成により、ガス噴射口126a、126bに供給されるガスのガス圧が略均一になっている。
【0039】
図4(a)は、駆動素子129に供給される駆動電圧波形の一例を示すグラフであり、図4(b)は、電磁弁162に供給される駆動電圧波形の一例を示すグラフである。図4(a)に示すように、駆動素子129に供給される駆動電圧波形は、1回の吐出動作を行う周期Tにおいて電圧が、初期の中間電圧V2から低電圧V1、高電圧V3を経て末期の中間電圧V2に変化する波形になっている。図4(b)に示すように、電磁弁162に供給される駆動電圧波形は、低電位V4と高電位V5とが交互に繰り返される矩形波形になっている。
【0040】
ここでは、低電位V4の印加時に電磁弁162が閉状態となり、高電位V5の印加時に電磁弁162が開状態になる。低電位V4の期間と高電位V5の期間との総計が周期Tになっている。これにより、駆動素子129を制御する制御装置と、電磁弁制御装置163とを同期させなくても、吐出ユニットUの動作と電磁弁の動作とがリンクするようになる。なお、駆動素子129の動作に対する電磁弁162の動作のタイミングとしては、ガスの流通経路における応答性等を考慮して適宜設定し得る。
【0041】
図5(a)〜(d)、図6(a)、(b)は吐出ユニットUの吐出過程を示す断面模式図である。図5(a)には初期の中間電圧V2の印加時、図5(b)には低電圧V1の印加時、図5(c)には高電圧V3の印加時、図5(d)には末期の中間電圧V2の印加時、をそれぞれ示している。図6(a)、(b)には、図5(a)〜(d)に示した吐出過程の後に液状体が分離される過程を示している。
【0042】
図5(a)に示すように、初期の中間電圧V2の印加時には駆動素子129の圧電体129bが収縮しており、振動板128が貯留室122に向かって凸となり撓曲している。この状態において、ノズル125内に液状体QのメニスカスM1が形成されている。メニスカスM1は、貯留室122側に向かって凸になっている。
【0043】
図5(b)に示すように、低電圧V1の印加時(ここでは放電時)には駆動素子129の圧電体129bの電歪がなくなり、振動板128の貯留室122側への歪みがなくなる。これにより、貯留室122の容積が中間電圧V2の印加時に比べて増加し、液状体Qがリザーバ124から供給路123を経て貯留室122内に引き込まれる。また、ノズル125内の液状体が貯留室122側に引き込まれて、メニスカスM2の位置が貯留室122側に移動する。
【0044】
図5(c)に示すように、高電圧V3の印加時(充電時)には駆動素子129の圧電体129bが収縮して、再度、振動板128が貯留室122に向かって凸となり撓曲する。圧電体129bの収縮量は1回の吐出動作において最大になり、振動板128の貯留室122側への変位量が最大になることにより、貯留室122の容積が最小になる。貯留室122からリザーバ124へ液状体が逆流しないようになっているので、貯留室122の容積の減少分だけ液状体がノズル125から貯留室122の外部に押し出される。これにより、ノズル125内のメニスカスM3は、貯留室122の外部(被処理基板W側)に向かって凸になる
【0045】
図5(d)に示すように、末期の中間電圧V2の印加時には駆動素子129の圧電体129bの収縮が高電圧V3の印加時よりも緩和され、振動板128の貯留室122側への変位量が小さくなる。これにより、貯留室122の容積が増加し、ノズル125内の液状体が貯留室122側に引き込まれて、メニスカスM4の位置が貯留室122側に移動する。
【0046】
このような引き押し制御を行えば、液状体の吐出方向と反対側にメニスカスが移動することにより、液状体のメニスカスからの分離が促進される。これにより、比較的低粘度な液状体であればメニスカスから液状体が完全に分離されて液滴になる。ところが、高粘度(例えば10cP以上)の液状体であると、吐出された液状体がメニスカスから分離されるに至らず、液滴状の先端部が糸状の中間部によりメニスカスに繋がった形状になる。
【0047】
本実施形態においても、図5(d)に示したようにノズル125から吐出された液状体Q1は、先端部Q11と中間部Q12とからなっており、中間部Q12がメニスカスM4と連続している。ここでは、液状体Q1と同程度の体積であってメニスカスから分離された液滴を仮定し、液状体Q1においてこの液滴と同等な部分を先端部Q11としている。また、先端部Q11を除いた部分の液状体Q1を中間部Q12としている。
【0048】
このような液滴については、例えば液状体Q1と同程度の表面張力であって、液状体Q1よりも低粘度な液状体を吐出することにより、その形状等を調べることができる。例えば、この液滴の形状と液状体Q1の形状と比較することにより、先端部Q11を定めることができる。これにより、先端部Q11と中間部Q12とを区別することができる。
【0049】
図6(a)に示すように、本実施形態の液滴吐出ヘッド12にあっては、吐出された液状体Q1の中間部Q12に向けてガス噴射口126a、126bからガスが噴射される。噴射されたガスGは、ノズルプレート121から被処理基板側Wに離れた部分における中間部Q12にあたるように、ガス噴射口126a、126bの軸方向の角度が調整されている。ガスGに曝された部分の中間部Q12はガスGの風圧により切断され、先端部Q11がメニスカスM5から分離される。
【0050】
ガス噴射口126a、126bが、ノズル125の軸方向に対して対称的に設けられており、ガス噴射口126a、126bから噴射されるガスGのガス圧が略均一になっているので、ガスGから先端部Q11が受ける力はノズルプレート121の面方向において打ち消しあう。これにより、分離された先端部Q11において、ガスGの風圧により飛行曲がりを生じることが防止される。
【0051】
図6(b)に示すように、切断された中間部Q12は、その一部がサテライトとして飛散することや、メニスカスM4あるいは先端部Q11に吸収されることにより、先端部Q11とメニスカスM4との間から消滅する。また、メニスカスM6から分離された先端部Q11は、液滴として被処理基板Wの所定に位置に着弾する。
【0052】
以上のように、本実施形態の液滴吐出ヘッド12にあっては、ガス噴射口126a、126bから噴射されたガスGにより液状体Q1の中間部Q12を切断することができ、液状体Q1の先端部Q11をメニスカスから分離することができる。したがって、1回の吐出動作後にメニスカスの形状が中間部Q12により歪むことが防止され、次の吐出動作においてメニスカスの形状が良好に制御される。よって、ノズル125から良好に液状体Q1を吐出させることができ、高粘度な液状体を高精細なパターンで被処理基板Wの高精度な位置に配置することが可能になる。
【0053】
また、噴射されたガスGは、ノズルプレート121から被処理基板側Wに離れた部分における中間部Q12にあたるようになっているので、ガスGがノズル125内の液状体Qの乾燥を促進しない。したがって、液状体Qの乾燥によりノズル詰まりを生じることもない。
【0054】
また、ノズル付近で局所的に加熱あるいは冷却することにより中間部の粘度を制御する手法に比べて、加熱によりメニスカス内の液状体が乾燥してノズル詰りを生じることや、冷却により液状体が一時的に高粘度になり吐出動作が不安定になること等がなくなる。これにより、液滴吐出ヘッドを安定に吐出動作させることができる。
【0055】
また、加熱により液状体を分離させる手法と異なり、熱による液状体の変質や溶剤等の揮発成分の可燃性に留意する必要がない。したがって、液状体の選択自由度が高くなるとともに、可燃性に対する安全管理上のコストを低減することもできる。
【0056】
なお、前記実施形態では、カラーフィルタ製造用の成膜装置を例示したが、カラーフィルタ以外の各種デバイスを製造用の成膜装置、あるいは画像印刷装置等にも適用可能である。また、インクジェット法による液滴吐出装置の他にも、サーマルインクジェット法による液滴吐出装置やディスペンサ等にも適用可能である。いずれの液滴吐出装置であっても、吐出される液状体が尾曳きを生じる程度に高粘度である場合には、本発明を適用することによりその効果を得ることができる。
【0057】
また、前記実施形態では、1つのノズル125に対応させて2つのガス噴射口126a、126bを設けていたが、1又は3以上のガス噴射口を設けてもよい。
【0058】
また、駆動素子129を制御する制御装置と、電磁弁制御装置163とを同期させてもよいし、電磁弁制御装置163が駆動素子129を制御する制御装置の一部であってもよい。電気的駆動弁としては、電磁弁の他にもモータ駆動弁等を用いることができるが、液滴吐出装置を高周波化する観点では電磁弁の方が有利である。また、ガス噴射口から断続的にガスを噴射するのではなく、連続的にガスを噴射した場合にも吐出された液状体Q1の中間部12を切断することができ、本発明の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】一実施形態の液滴吐出ヘッドを備えた成膜装置の概略斜視図である。
【図2】(a)は一実施形態の液滴吐出ヘッドの平面図、(b)は断面図である。
【図3】(a)はガス噴射口の平面配置図、(b)は(a)のA−A’線断面図である。
【図4】(a)、(b)は駆動素子、電磁弁の駆動電圧波形例を示すグラフである。
【図5】(a)〜(d)は吐出ユニットの吐出過程を示す断面模式図である。
【図6】吐出された後の液状体の挙動を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1・・・成膜装置、10・・・支持台、11・・・ワークステージ、12・・・液滴吐出ヘッド(液滴吐出装置)、13・・・キャリッジ、14A・・・タンク、14B・・・タンク、14C・・・タンク、16・・・ガス噴射部、121・・・ノズルプレート、122・・・貯留室、123・・・供給路、124・・・リザーバ、125・・・ノズル、126a、126b・・・ガス噴射口、127・・・流路形成基板、127a、127b・・・貫通孔、128・・・振動板、128a・・・貫通孔、129・・・駆動素子、129a・・・下部電極、129b・・・圧電体、129c・・・上部電極、141・・・チューブ郡、161・・・ガス供給装置、162・・・電磁弁、163・・・電磁弁制御装置、G・・・ガス、M1、M2、M3、M4・・・メニスカス、Q・・・液状体、Q1・・・液状体、Q11・・・先端部、Q12・・・中間部、U・・・・吐出ユニット、 W・・・ 被処理基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを開口したノズルプレートと、
前記ノズレプレート上に設けられ、貯留室と供給路とリザーバとを有する流路形成基板と、
前記流路形成基板上に設けられた振動板と、
前記振動板上に設けられ、下部電極と圧電素子と上部電極とを有する圧電駆動素子と、
前記ノズルから吐出された液状体の先端部と前記ノズルとの間にガスを噴射するガス噴射部と、を備え、
前記ガス噴射部が、
前記ノズルプレートに設けられたガス噴射口と、
前記流路形成基板に設けられ、前記ガス噴射口に連通した貫通孔と、
前記ガス貫通孔にガスを供給するガス供給装置と、を有していることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記ガス噴射部が一対の前記ガス噴射口を有し、
前記一対のガス噴射口は、前記ノズルを挟んで対称的に配置されているとともに、前記ガスの噴射方向が互いに向かい合っていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記一対のガス噴射口には、該一対のガス噴射口で共通の流通経路を経て前記ガスが供給されていることを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記ガス噴射口から噴射されるガスの軌跡が、前記ノズルから吐出される前記液状体の軌跡と前記ノズルから離れた位置で交わることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記吐出部が、
前記ノズルと連通し前記液状体を貯留する貯留部と、
前記貯留室の内部を加圧する駆動素子と、を有し、
前記ガス噴射部が、前記駆動素子のオンオフと略同一の周期で前記ガスの噴射をオンオフする電気的駆動弁を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記吐出部が、前記貯留部と前記駆動素子と前記ノズルとを有する複数の吐出ユニットを有しているとともに、前記ガス噴射部が、各々が前記複数の吐出ユニットの各々と対応する複数のガス噴射ユニットを有しており、
前記複数の吐出ユニットのノズルの配置面に沿う方向において、前記複数のガス噴射ユニットのガス噴射口の配列軸と、前記複数の吐出ユニットのノズルの配列軸とが不一致であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−104863(P2010−104863A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276522(P2008−276522)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】