説明

液滴飛翔評価システムおよび液滴飛翔評価方法

【課題】集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドの設計段階の評価において、液滴の吐出および飛翔の簡便な最適化を可能にする。
【解決手段】液滴飛翔評価システムは、第1の位置調整機構1、第2の位置調整機構2、回転ドラム3、撮像装置4、集束超音波発生構造体5、インク保持室6を有する。更に、集束超音波発生構造体5を駆動する駆動回路に接続した超音波反射検知装置を有する。第1の位置調整機構1によりインク液12の液面と集束超音波発生構造体5の位置関係を調整する。第2の位置調整機構2によりインク保持室6の液面を回転ドラム3の真下に配置させる。回転ドラム3および撮像装置4により吐出する液滴の状態を測定する。超音波反射検知装置により圧電素子とインク液12の音響的な結合状態を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体インクのような記録液を集束超音波の圧力によって小滴化し、その液滴を記録媒体上に飛翔させ画像を形成するインクジェット記録ヘッドの液滴飛翔評価システムおよび液滴飛翔評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク液に圧力を及ぼすエネルギー(圧力エネルギーとも称す)を与えインク液を小滴化し、その液滴を記録媒体上に飛翔させて画像を形成するインクジェット記録装置は、インクジェットプリンタとして実用化され広く使用されている。そして、これまで数多くのインクジェット記録装置の方式が考案されている。その中で、特に発熱体の熱により発生する圧力エネルギーで液滴を飛翔させる方式や、圧電素子を用いその振動による超音波の圧力エネルギーで液滴を飛翔させる方式等が代表的である。
【0003】
上記圧電素子を用いる方式の中に、該素子によって発生する超音波を音響レンズによりインク液面の近傍に集束させ、その集束超音波の圧力を用いて上記インク液面から小液滴を吐出させる方法がある(以下、集束超音波方式と呼称する)。通常の集束超音波方式以外のインクジェット記録ヘッドでは、インク液滴の吐出する細いノズルが必要となり、ノズル内のインク液が溶媒の蒸発等で濃縮してインクの目詰まりを起こし易い。それに対して、集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドは、ノズルレスでありインクの目詰まりに対し極めて有効な構造になる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドについて図6を参照して説明する。図6は、上記インクジェット記録ヘッドの模式的な縦断面図である。図6に示すように、集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドは、振動子である圧電素子10の共振振動により発生する超音波を集束する音響レンズ11が圧電素子10と結合する構造を有している。そして、上記圧電素子10と音響レンズ11とが、インク液12の液面13領域に集束超音波14を集束させ、その液面13からインク液12の液滴を吐出するようになっている。
【0005】
具体的に説明すると、図6(a)に示すインクジェット記録ヘッドでは、圧電素子10が平板状の圧電体10aとその対向する上下両面の電極10bおよび10cにより構成される。圧電体10aは、例えばチタン酸鉛系セラミックから成る平板である。あるいは、その他に、ZnO、LiNbO等のセラミック圧電材料、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンとの共重合体等の高分子圧電材料から成る。そして、その電極10bおよび10cは、例えばTi/Auの積層電極から成る。その他に、Ni、Al、Cu等の電極材料から成る。この電極10bおよび10cに駆動回路15が接続する。ここで、圧電体10aは、振動の共振周波数に合わせた厚さであり、電極10bおよび10cは、スパッタ法、蒸着法等で成膜された膜厚が例えば1μm未満の薄膜である。
【0006】
そして、上記音響レンズ11は、例えば厚さが1mm程度のガラス板、あるいは、エポキシ樹脂、ポリイミド等の高分子材料を基材としアルミナ、タングステンの粉末を混合したものから成り、凹面レンズの構造になっている。
【0007】
また、上記インク液12は、例えば金属製あるいはセラミックス製であり厚さが0.1mm程度になる上蓋16を有するインク保持室に供給されるようになっている。ここで、上蓋16の一部に開口部17が形成され、この開口部17にインク液12の液面13が露出するようになっている。
【0008】
図6(b)に示すインクジェット記録ヘッドの場合では、音響レンズ11は、図6(a)の場合と異なり、フレネル輪帯理論に基づき所定のピッチの溝が上記ガラス板あるいは高分子材料に形成されたフレネルレンズから成る。そして、フレネルレンズからなる音響レンズ11が圧電素子10と一体に結合した構造になっている。その他の構造は、図6(a)の場合とほぼ同じになる。
【0009】
そして、上記インクジェット記録ヘッドでは、圧電素子10は、上記駆動回路15により間欠的な高周波電圧(バースト波)が印加されて振動する。この振動により放射された音波は、音響レンズ11によってインク液12の液面13付近で集束され、集束超音波14となる。なお、上記高周波電圧の周波数、すなわちインク内での波長は、吐出する液滴の所要の粒径に合わせて設定される。そして、例えばインク液12の上蓋16に設けられた開口部17のインク液12の液面13の集束超音波14の収束点が円錐状に盛り上がりメニスカスが形成され、その頂点が分離吐出して液体インクの小さな液滴が飛翔する。この小滴化したインク液の液滴が記録媒体上に飛翔し画点を形成することになる。
【特許文献1】特開平10−250110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドの製造設計では、集束超音波の共振周波数は、上述したような圧電素子10の圧電材料およびその厚さ等の設計によって高精度に決めることができる。また、集束超音波の焦点距離は、上記音響レンズ11の材質および形状等の設計により高精度に決められる。このように、集束超音波の特性は、上記結合した圧電素子と音響レンズ(以下、集束超音波発生構造体という)の設計により高精度に決定される。しかしながら、これまで、図6に示したようなインクジェット記録ヘッドの設計段階の評価において、該記録ヘッドからの液滴の吐出および液滴の飛翔の簡便な最適化が難しかった。そして、該記録ヘッド構造の評価データの精度が上がらず、上記記録ヘッドの製造設計におけるヘッド構造の最適化が充分にできないという問題が生じていた。
【0011】
上述したように、集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドでは、集束超音波発生構造体がインク液の液面領域に集束超音波を集束させる。そして、この集束超音波がインク液の液面からインク液の液滴を吐出させる構造になる。このような構造であると、インク液の液滴の吐出とその飛翔は、インク液の液面と上記集束超音波発生構造体との間の相対的な位置関係によって大きく変わってくる。このために、集束超音波発生構造体の微妙な調整が必須になっている。特に、液面と集束超音波の伝播方向の調整、上記液面位置と集束超音波の焦点距離の調整、そして、液面が露出する開口部と集束超音波の集束位置の調整が重要になる。しかも、これ等の調整は、インク液の種類(例えば、顔料インク、染料インク等)とくにその粘度によっても異なってくる。
【0012】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドの設計において、液滴の吐出及び飛翔の簡便な最適化を可能にする液滴飛翔評価システムおよび液滴飛翔評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明にかかる液滴飛翔評価システムは、開口部を備えて記録液を保持する記録液保持手段と、前記記録液に音響的に接続する圧電素子と該圧電素子を駆動する駆動回路を備える超音波発生手段と、前記圧電素子から発生する超音波を前記開口部で露出する液面に向けて集束させる音響レンズを備える超音波集束手段と、前記圧電素子および音響レンズの前記記録液内部での配置を変化させて、前記圧電素子および音響レンズと前記液面との位置関係を調整する第1の位置調整手段と、前記駆動回路の電気特性を計測することにより前記集束された超音波の前記液面からの反射状態を検知する超音波反射検知手段と、前記集束した超音波により前記液面から吐出し飛翔する液滴を測定する飛翔液滴測定手段と、を有する構成になっている。
【0014】
そして、本発明にかかる液滴飛翔評価方法は、記録液の液面に集束超音波を放射し前記液面から前記記録液の液滴を吐出し飛翔させる集束超音波発生手段を前記記録液の内部に配置し、前記集束超音波発生手段の前記記録液内部での配置を変化させ、前記液滴の飛翔が生じない程度に前記集束超音波の強度を下げた状態で前記液面からの前記集束超音波の反射状態を評価する、という構成になっている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構成により、集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドの設計段階の評価において、液滴の吐出および飛翔の最適化が簡便にできるようになる。そして、上記記録ヘッド構造の評価データの精度が向上し、上記記録ヘッドの製造設計におけるヘッド構造の最適化が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の液滴飛翔評価システムの一例を示す概略構成図である。図2は、上記液滴飛翔評価システムを構成する超音波反射検知装置のブロック図である。図3は、インク液の液滴の吐出および飛翔の最適化を説明するための縦断面図である。図4は図3のA−A矢視図である。そして、図5は上記液滴の吐出および飛翔の別の最適化を説明するための縦断面図である。ここで、図6も含めて互いに同一または類似の部分には共通の符号を付している。
【0017】
本実施形態の液滴飛翔評価システムは、その主要構成として、図1に示した第1の位置調整機構1、第2の位置調整機構2、回転ドラム3、撮像装置4、集束超音波発生構造体5、インク保持室6を有する。更に、図2に示した駆動回路15に接続し配置される超音波反射検知装置18を有している。そして、この液滴飛翔評価システムは例えばパーソナルコンピュータ(PC)のような制御装置により一括制御するようになっている。
【0018】
第1の位置調整機構1は、調整本体1a、第1の調整アーム1b、第2の調整アーム1cおよび第3の調整アーム1dを備えている。これ等の調整アームは、例えば筒状のセラミックスから成る、そして、図6で説明した圧電素子10と音響レンズ11から成る集束超音波発生構造体5を、第3の調整アーム1dにより固定保持して、記録液保持手段であるインク保持室6のインク液12内でその配置を変化させて位置調整する。
【0019】
第1の調整アーム1bは、調整本体1a内にある駆動機構により、集束超音波発生構造体5を図1に示すX軸、Y軸、Z軸方向に移動変位させ位置調整できるようになっている。同様に、第2の調整アーム1cは、X軸を回転軸とした回転方向αを集束超音波発生構造体5に与え回転変位させて位置調整するようになっている。そして、第3の調整アーム1dは、Y軸を回転軸とした回転方向βを集束超音波発生構造体5に与え回転変位させて位置調整できるようになっている。ここで、第1の調整アーム1bは、公知のモータおよびボールネジ機構によりX軸、Y軸、Z軸に移動変位し、その変位の精度は+/−1μm程度になる。また、第2の調整アーム1cおよび第3の調整アーム1dは、公知のモータおよび回転調整機構により回転変位し、その回転変位の精度は+/−1mrad(ミリラジアン)程度になる。
【0020】
第2の位置調整機構2は、例えば金属板あるいはセラミックス板から成るテーブルであり、第1の位置調整機構1およびインク保持室6をその表面で固定保持するようになっている。この第2の位置調整機構2は、第1の位置調整機構1と一緒にインク保持室6を位置調整し、インク保持室6の上蓋に設けた開口部で露出するインク液12の液面と回転ドラム3の位置関係を調整する。そして、インク液12の液面が回転ドラムの真下にくるようにし、回転ドラム3に巻きつけた記録媒体との距離を調整する。
【0021】
回転ドラム3は、所定の速度で回転すると共に図1に示したY軸方向に移動できるようになっている。そして、インク液12表面から突出し飛翔して着弾する多数の液滴によって、回転ドラム3表面に巻きつけられた記憶媒体上に形成される画点は、上記回転ドラム3の回転と移動により記録媒体上でそれぞれ別の箇所に形成される。このようにして、それぞれの画点の形状が弁別されて測定できるようになり、液滴の記録媒体に着弾した後の画点形状が把握できて、最適な液滴の画点形成状態あるいは後述の飛翔状態を評価することが可能になる。
【0022】
撮像装置4は、例えばストロボ機能を有するCCDカメラ等から構成され、集束超音波発生構造体5によってインク液12表面から吐出し、回転ドラム3表面の記録媒体に向かって飛翔する液滴を測定する。なおストロボ機能とカメラ部は一体であっても分離され観測対象を挟んで配置されても良い。この飛翔液滴測定手段を用いた測定により、液滴の粒径、単位時間当たりに飛翔する液滴の数、液滴の飛翔方向および飛翔速度等の飛翔状態が把握できて、最適な液滴の飛翔状態を評価することが可能になる。
【0023】
圧電素子10は送受信を兼ねており、超音波反射検知装置18は、図2に示すように、図6で説明した駆動回路15に内蔵された例えば送受切換回路を介し圧電素子10で受信した検知信号を取り出し、更にこの検知信号を増幅する、電気特性計測回路を有している。上記検知信号は、圧電素子10が、駆動回路15からのバースト波により音響レンズ11を介してインク液12に超音波を出射し、その後の僅かな時間遅れで生じる上記超音波の反射波を検知して得た電気信号である。
【0024】
ここで、インク液内を伝播する上記反射波の強度は、図6に示した開口部17の液面13に対して集束超音波14が垂直に入射し、反射された時に極大となる。更に、上記集束超音波14の焦点が液面13領域に合致すると反射波の強度が極大とになる。そして、上記反射波の強度に対応して、上記検知信号が増減する。そこで、超音波反射検知装置18における電気信号を計測することにより、上記超音波の反射状態が高い精度で検知でき、圧電素子10とインク液12の音響的な結合状態を評価することができる。そして、液面13と音響レンズ11と間の距離関係、上記液面13と集束超音波の伝播方向の関係等が極めて簡便に評価できるようになる。
【0025】
この超音波反射検知装置18の作動による評価は、高周波電圧の振幅電圧を小さくして超音波の強度を下げ、液滴が飛翔しない状態にして行われと好適である。例えば、飛翔に必要な超音波の強度が生じる高周波電圧の振幅電圧を20V程度とすると、例えば5V程度の小さい振幅電圧にして上記駆動回路15における電気特性の計測が行われる。ここで、高周波電圧の振幅電圧を大きくして、液滴が飛翔する状態で超音波反射検知装置18の作動による評価を行うことも可能である。しかし、この場合には、飛翔による変動が上記電気特性に付加されるのでその評価の精度は少し低減する。
【0026】
このような超音波反射検知装置18は、駆動回路15と共に調整本体1a内に取り付けられる。そして、その駆動回路15は、上記第1の調整アーム1b、第2の調整アーム1cおよび第3の調整アーム1dの筒内に配設された給電線により集束超音波発生構造体5の圧電素子10に接続される。
【0027】
上記液滴飛翔評価システムを用いた集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドの設計段階の評価では、上記第1の位置調整機構1を用いて、インク液12の液面13と集束超音波発生構造体5の間の相対的な位置関係が高精度にしかも自在に変えられる。そして、上記変えられたそれぞれの位置関係において、集束超音波発生構造体5が駆動回路15により駆動される。そして、例えば、初めに上記小さい振幅電圧の高周波電圧が圧電素子10に印加され、上記超音波反射検知装置18が作動する。その後に、上記大きな振幅電圧の高周波電圧が圧電素子10に印加され、インク液12の液面13から液滴が吐出・飛翔されて、上記回転ドラム3上の記録媒体に画点が形成される。
【0028】
そして、上述したような超音波反射検知装置18により上記電気特性の計測が行われる。また、回転ドラム3による画点形成状態の測定と、撮像装置4による液滴の飛翔状態の測定が行われ、インク液12の液面13と集束超音波発生構造体5の間の位置関係において精度の高い評価データが得られる。このようにして、集束超音波方式のインクジェット記録ヘッドにおける、インク液の液面13と集束超音波発生構造体の間の最適な位置関係を得ることができる。
【0029】
上記第1の位置調整機構1を用いたインク液12の液面13と集束超音波発生構造体5の位置関係の調整、高周波電圧における振幅電圧の切り換え、超音波反射検知装置18の作動による電気特性の計測、そして集束超音波発生構造体5による液滴の吐出とその飛翔等は、上記PCのような制御装置により制御される。また、上記液滴の画点形成状態および飛翔状態の測定データは、上記PCにより処理され評価される。
【0030】
次に、上記インク液12の液面13と集束超音波発生構造体5の間の最適な位置関係を得るための本実施形態の液滴飛翔評価システムの動作機構について、図1ないし5を参照して説明する。
【0031】
初めに、インク液12の液面13と集束超音波発生構造体5の位置関係において、図1に示すX軸、Y軸、Z軸の方向移動による位置調整の動作について説明する。第1の位置調整機構1の調整本体1a内にある駆動回路15により、初めに、高周波電圧の小さい振幅電圧(例えば5V)を集束超音波発生構造体5の圧電素子10に印加し、超音波反射検知装置18の電気特性を計測する。そして、上述した反射波による検知信号が大きくなるように、第1の位置調整機構1により集束超音波発生構造体5に対してX軸、Y軸、Z軸の方向移動を与える。
【0032】
例えば、集束超音波発生構造体5に対してX軸、Y軸の方向移動をはじめに与えて、反射波の検知信号の計測においてその強度が増大し、超音波が開口部17の液面13に入射するように調整する。その後に、今度はZ軸の方向移動を与えて、反射波の検知信号の強度が最大になるように調整する。このようにして、液面17に対する圧電素子10の相対位置をほぼ決める。
【0033】
次に、上記高周波電圧を大きな振幅電圧(例えば20V)にし、集束超音波発生構造体5によりインク液12内に集束超音波14を生成する。このように集束超音波14が生じている状態において、図1において説明したように、第1の調整アーム1bのX軸、Y軸、Z軸方向の微小移動により集束超音波発生構造体5がμm単位で位置調整される。
【0034】
図3に示すように、上記第1の調整アーム1bのZ軸方向の移動により、第3の調整アーム1d上に固定保持した集束超音波発生構造体5を構成する音響レンズ11はZ軸方向に位置変位する。そして、集束超音波14の焦点位置と液面13の位置関係が変化する。このために、集束超音波14の圧力エネルギーにより液面13から円錐状に盛り上がるメニスカス7において、その大きさあるいはその高さ等の形状が変わってくる。更に、このメニスカス7の形状変化に伴って、そのメニスカス7の頂点から分離吐出して飛翔する液滴8の飛翔状態(粒径、単位時間当たりに飛翔する液滴の数、液滴の飛翔方向および飛翔速度等)が変化するようになる。
【0035】
そして、上記液滴8は、回転ドラム3に巻かれた例えば記録用紙のような記録媒体9上に着弾し画点を形成する。このようにして形成された画点は、上述したように回転ドラム3の回転と移動により、記録媒体9のことなった箇所に形成される。このために、それ等の画点の形状は弁別して測定でき、最適な液滴の画点形成状態あるいは飛翔状態を探し出すことができる。また、上述したように撮像装置4により、上記液滴の飛翔状態が測定される。このようにして、最適な液滴を形成するための上記音響レンズ11と液面13の間のZ軸方向の距離が微調整される。この最適なZ軸方向の距離は、必ずしも集束超音波14の焦点距離と一致するものではない。この距離は、インク液(記録液)の種類とくにその粘度により大きく異なってくる。
【0036】
全く同様にして、上記第1の調整アーム1bのX軸およびY軸方向の微小移動により、図4に示すように、第3の調整アーム1d上に固定保持した集束超音波発生構造体5を構成する音響レンズ11はX軸およびY軸方向に変位する。そして、生成されるメニスカス7の開口部17内でその位置が変化する。ここで、開口部17の口径は上述したように例えば1.5mm以下である。この開口部17におけるメニスカス7の位置の変化により、メニスカスの頂点から分離吐出して飛翔する液滴8の飛翔状態が変化するようになる。これは、インク液12の液面13における表面張力が上蓋16の影響を受けて開口部17内の位置で変わってくるからである。
【0037】
そこで、図4に示す開口部17が、その有効面の口径が上述したように例えば3mm程度になる音響レンズ11に形成された凹面11aの中心領域に配置されるように、上記X軸およびY軸方向の移動調整をすると好適になる。このような調整は、上述したような回転ドラム3に巻かれた記録媒体9上に着弾し形成された画点の測定、上記撮像装置4による液滴の飛翔状態の測定を通して容易にできる。通常、メニスカス7が開口部17の中心部に位置すると、上蓋16の影響が最小になり液面13での表面張力が最も低下して、液面13から吐出し飛翔する液滴の飛翔速度が最も大きくなる。
【0038】
次に、インク液12の液面13と集束超音波発生構造体5の位置関係において、図1又は4に示した回転方向αおよび回転方向βの回転変位による位置調整の動作について説明する。この場合も、初めに、高周波電圧の小さい振幅電圧を集束超音波発生構造体5の圧電素子10に印加し、超音波反射検知装置18の電気特性を計測する。そして、上述した反射波による検知信号が増大し、圧電素子10のインク液12との音響的な結合が共振状態になるように、第1の位置調整機構1により集束超音波発生構造体5に対して回転方向αおよび回転方向βの回転変位を与える。このようにして、液面17に対する集束超音波14の伝播方向の相対位置をほぼ決める。
【0039】
次に、上記高周波電圧を大きな振幅電圧にし、集束超音波発生構造体5によりインク液12内に集束超音波14を生成する。このように集束超音波14が生じている状態において、図1において説明したように、第2の調整アーム1cのX軸の回転駆動により集束超音波発生構造体5がmrad単位で位置調整される。
【0040】
図5に示すように、上記第2の調整アーム1cのX軸の回転駆動により、第3の調整アーム1d上に固定保持した集束超音波発生構造体5を構成する音響レンズ11の凹面11aは、インク液12の液面13に対する相対的な位置関係が変位する。そして、集束超音波14の伝播方向と液面13とのなす角度が変わってくるために、液面13から吐出するメニスカス7の形状が変化する。このメニスカス7の形状変化に伴い、そのメニスカス7の頂点から分離吐出して飛翔する液滴8の飛翔状態のうち特に飛翔方向および飛翔速度が大きく変化するようになる。
【0041】
そして、これ等の液滴8は、図3で説明したのと全く同様にして、回転ドラム3に巻かれた例記録媒体9上に着弾し画点を形成する。このようにして形成された画点は、その形状が測定されて最適な液滴の画点形成状態かどうかの評価がなされる。また、上述したように撮像装置4により、上記液滴の飛翔状態が測定される。そして、最適な回転方向αは、液滴8が液面13から垂直に飛翔する回転角度に調整される。
【0042】
全く同様にして、上記第3の調整アーム1dによる回転方向βの駆動により、上記音響レンズ11の凹面11aは、インク液12の液面13に対する相対的な位置関係が変位する。そして、回転方向αの駆動の場合と全く同様にして、集束超音波14の伝播方向と液面13とのなす角度が変わってくる。このために、液面13から吐出するメニスカス7の形状が変化する。そして、そのメニスカス7の頂点から分離吐出して飛翔する液滴8の飛翔状態が大きく変化するようになる。
【0043】
そこで、これ等の液滴8は、上記回転方向αの駆動の場合と同様にして、回転ドラム3に巻かれた例記録媒体9上に着弾し形成された画点および撮像装置4により評価される。そして、最適な回転方向βは、液滴8が液面13から垂直に飛翔する回転角度に調整される。
【0044】
このようにして、液滴の粒径が所望の粒径になるように、そして、液滴の単位時間に飛翔する液滴の数が所望の数になるように位置調整する。また、液滴の飛翔方向が液面13に対して垂直になるように、そして、液滴の飛翔速度が所定の範囲に入るように位置調整する。
【0045】
上記実施形態では、音響レンズ11が凹面レンズの場合について説明しているが、音響レンズ11がフレネルレンズにより構成される場合も全く同様に可能である。また、上記インク液の液面13と集束超音波構造体5の位置関係の調整では、図3に示した回転方向θの調整を行えるようにしてもよい。そして、第2の位置調整機構2は、X、Y、Z軸方向の移動変位および第1の位置調整機構1と同様な回転変位をする駆動テーブルであると好適である。
【0046】
上記実施形態では、集束超音波を用いたインクジェット記録ヘッドの設計段階の評価において、集束超音波発生構造体5とインク液12の液面13との間の相対的配置を極めて容易に変化させることができる。そして、この配置を種々に変化させて、集束超音波発生構造体5における圧電素子10のインク液12との音響的な結合を効率的にし、更に、液面13から吐出し飛翔する液滴8の飛翔状態を詳細に測定することができる。このようにして、上記記録ヘッド構造の評価データはその精度が大きく向上する。そして、上記記録ヘッドの製造設計におけるヘッド構造の最適化が簡便にできるようになる。
【0047】
上記実施形態において、超音波反射検知装置18の使用は、圧電素子10とインク液12との音響的な結合を効率的にする場合に限定されない。その他に、上記飛翔液滴測定手段を用いたインク液12の液面13と集束超音波発生構造体5の位置関係の微調整の場合において、上記超音波反射検知装置18を併用するとよい。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態にかかる液滴飛翔評価システムの一例を示す概略構成図。
【図2】本発明の実施形態にかかる液滴飛翔評価システムを構成する超音波反射検知装置のブロック図。
【図3】本発明の実施形態にかかる液滴の吐出および飛翔の最適化を説明するための縦断面図。
【図4】図3に記したA−A矢視図。
【図5】本発明の実施形態にかかる液滴の吐出および飛翔の別の最適化を説明するための縦断面図。
【図6】本発明を説明するためのインクジェット記録ヘッドの縦断面図であって、(a)は凹面の音響レンズが圧電素子に結合した集束超音波方式の記憶ヘッドの縦断面図、(b)はフレネルレンズが圧電素子に結合した集束超音波方式の記憶ヘッドの縦断面図。
【符号の説明】
【0050】
1…第1の位置調整機構,1a…調整本体,1b…第1の調整アーム,1c…第2の調整アーム,1d…第3の調整アーム,2…第2の位置調整機構,3…回転ドラム,4…撮像装置,5…集束超音波発生構造体,6…インク保持室,7…メニスカス,8…液滴,9…記録媒体,10…圧電素子,10a,10b…電極,11…音響レンズ,11a…凹面,12…インク液,13…液面,14…集束超音波,15…駆動回路,16…上蓋,17…開口部,18…超音波反射検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を備えて記録液を保持する記録液保持手段と、
前記記録液に音響的に接続する圧電素子と該圧電素子を駆動する駆動回路を備える超音波発生手段と、
前記圧電素子から発生する超音波を前記開口部で露出する液面に向けて集束させる音響レンズを備える超音波集束手段と、
前記圧電素子および音響レンズの前記記録液内部での配置を変化させて、前記圧電素子および音響レンズと前記液面との位置関係を調整する第1の位置調整手段と、
前記駆動回路の電気特性を計測することにより前記集束された超音波の前記液面からの反射状態を検知する超音波反射検知手段と、
前記集束した超音波により前記液面から吐出し飛翔する液滴を測定する飛翔液滴測定手段と、
を有することを特徴とする液滴飛翔評価システム。
【請求項2】
前記第1の位置調整手段は、前記記録液の液面に対する前記集束した超音波の放射方向を調整することを特徴とする請求項1に記載の液滴飛翔評価システム。
【請求項3】
前記飛翔液滴測定手段は、ストロボ機能を有する撮像装置からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴飛翔評価システム。
【請求項4】
前記液面から吐出し飛翔した液滴が着弾する記録媒体の巻きつけられた回転ドラムを備えていることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の液滴飛翔評価システム。
【請求項5】
前記回転ドラムは、回転軸の方向に移動するようになっていることを特徴とする請求項4に記載の液滴飛翔評価システム。
【請求項6】
前記記録液保持手段と前記第1の位置調整手段との位置関係を固定したまま、前記記録液保持手段の前記開口部で露出する液面と前記回転ドラムの位置関係を調整する第2の位置調整手段を備えていることを特徴とする請求項4又は5に記載の液滴飛翔評価システム。
【請求項7】
記録液の液面に集束超音波を放射し前記液面から前記記録液の液滴を吐出し飛翔させる集束超音波発生手段を前記記録液の内部に配置し、
前記集束超音波発生手段の前記記録液内部での配置を変化させ、前記液滴の飛翔が生じない程度に前記集束超音波の強度を下げた状態で前記液面からの前記集束超音波の反射状態を評価することを特徴とする液滴飛翔評価方法。
【請求項8】
請求項7に記載の液滴飛翔評価方法において、
前記集束超音波の反射状態を評価すると共に、
前記集束超音波発生手段の前記記録液内部での配置を変化させ、前記液滴の飛翔が生じるように前記集束超音波の強度を上げた状態で前記液滴の飛翔状態を評価することを特徴とする液滴飛翔評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−223170(P2007−223170A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47104(P2006−47104)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000113322)東芝ホクト電子株式会社 (172)
【Fターム(参考)】