説明

液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の射出成形方法及びその成形品

【課題】成形不良を低減し得るオープンゲート方式の金型による液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の射出成形方法及び該方法により製造されるシリコーンゴム成形品を提供する。
【解決手段】オープンゲート方式の金型内に液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を射出し、加熱硬化するシリコーンゴムの射出成形方法において、
(i)23℃におけるせん断速度10S-1の粘度aとせん断速度100S-1の粘度bの比(a/b)が2.5以上の流動性を有する液状付加硬化型シリコーンゴム組成物をオープンゲート方式の金型内に射出する工程、
(ii)次に脱圧する工程
を有することを特徴とするシリコーンゴムの射出成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープンゲート方式の金型に液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を射出し、加熱硬化するシリコーンゴムの射出成形方法及び該方法により製造されるシリコーンゴム成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、電気特性などを活かして、様々な分野の用途にゴム成形品として利用されている。近年、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の射出成形において、オープンゲート方式の金型を使用し、成形品を得る方法が検討されている。オープンゲート方式の金型は、従来のバルブゲート方式の金型と比較し、金型構造が簡便であり、またバルブ機構を有しないため、1回の成形で多数個の成形品を得るという点で有利であるメリットがあるが、成形方法や材料に制約があり、実用上問題があった。
なお、本発明に関連する従来技術として、下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3640762号公報
【特許文献2】特開2006−130705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、成形不良を低減し得るオープンゲート方式の金型による液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の射出成形方法及び該方法により製造されるシリコーンゴム成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、オープンゲート方式の金型内に、23℃におけるせん断速度10S-1での粘度aとせん断速度100S-1の粘度bの比(a/b)が2.5以上の流動性を有する液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を射出し、次に脱圧する工程を有する射出成形方法が、成形不良を低減し、良品を成形する再現性のよい製造方法であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は、オープンゲート方式金型による液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の射出成形方法及びその成形品を提供する。
〔請求項1〕
オープンゲート方式の金型内に液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を射出し、加熱硬化するシリコーンゴムの射出成形方法において、
(i)23℃におけるせん断速度10S-1の粘度aとせん断速度100S-1の粘度bの比(a/b)が2.5以上の流動性を有する液状付加硬化型シリコーンゴム組成物をオープンゲート方式の金型内に射出する工程、
(ii)次に脱圧する工程
を有することを特徴とするシリコーンゴムの射出成形方法。
〔請求項2〕
脱圧工程が、スクリュー後退による脱圧、又はノズル後退による脱圧によるものである請求項1記載の射出成形方法。
〔請求項3〕
請求項1又は2記載の方法により製造されたシリコーンゴム成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、射出成形において、成形不良のないシリコーンゴム成形品を形成し、生産性向上に寄与することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】射出成形によるシリコーンゴムの成形方法を説明する概略図である。
【図2】バルブゲート方式の金型を用いた成形方法を示す概略断面図である。
【図3】オープンゲート方式の金型を用いた成形方法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の射出成形によるシリコーンゴムの成形方法について説明する。
図1に示す通り、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物は、材料として予めA液とB液の2液タイプに分割される。2液に分割された材料は材料供給ポンプ1から定量器2に供給される。定量器2からA液とB液が等質量又は等容量の割合で材料供給ラインを通じて合流する。材料のA液とB液はスタテイックミキサー3を使用し、プレ混合する。プレ混合された材料は射出成形機4のシリンダー部に供給され、定量しながら、スクリュー5によって、再度回転混合される。混合後、スクリュー5によって、ノズル6から金型7に射出され、金型7内で加熱され、硬化し、シリコーンゴムが成形される。
【0010】
次に、バルブゲート方式の金型の成形方法とオープンゲート方式の金型の成形方法について説明する。バルブゲート方式の金型は図2に略図を示す。オープンゲート方式の金型は図3に略図を示す。
【0011】
バルブゲート方式の金型は、図2に示すように、油圧又は空気圧で駆動するニードル8が成形機ノズル6から材料(液状でかつ未硬化状態のシリコーンゴム組成物)9が射出された時に後退する。材料9は断熱板10で断熱された金型7内を流れ、ヒーター11で加熱された板を通過する時は、冷却水12で冷却された箇所を流れ、ゲート部13を通過し、ゲート先端部14からキャビテイ部15へ充填される。射出終了時にニードル8が前進し、ゲート先端部14がシールされ、加熱硬化され、成形品(ゴム)を形成する。バルブゲート方式は従来公知の技術であり、材料が射出された時に材料応力が発生する。ニードル8が前進し、ゲート先端部14がシールされ、加熱硬化した成形品のゲート部へ応力を有する未硬化状態の材料の付着を防止している。
【0012】
オープンゲート方式の金型は、図3に示すように、成形機ノズル6から射出された材料(液状でかつ未硬化状態のシリコーンゴム組成物)9は断熱板10で断熱された金型7内を流れ、ヒーター11で加熱された板を通過する時は、冷却水12で冷却された箇所を流れ、ゲート部13を通過し、ゲート先端部14からキャビテイ部15へ充填される。加熱硬化され、成形品(ゴム)を形成する。ゲート先端部14はヒーター11により加熱されているため、材料9が射出終了時に半硬化から硬化状態となり、シールされる。しかし、オープンゲート方式の金型にはニードルがなく、ゲート先端部のシールが完全でないため、加熱硬化した成形品のゲート部へ応力を有する未硬化状態の材料の付着があり、成形不良となる。よって、材料の応力を低減する脱圧工程が必要となる。
【0013】
本発明においては、特定の流動性を有する液状付加硬化型シリコーンゴム組成物をオープンゲート方式の金型内に射出した後、脱圧することを特徴とする。
ここで、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の射出条件としては、通常、30〜250MPa、好ましくは50〜230MPa程度の圧力で射出することが望ましく、また射出速度は通常60〜500mm/s、好ましくは100〜400mm/s程度とすることが望ましい。
【0014】
材料の脱圧工程は、スクリュー後退による脱圧、又はノズル後退による脱圧などが挙げられる。脱圧の効果としては、液状材料の内部応力のほぼ100%を緩和(解放)できる点から、ノズル後退による脱圧が望ましい。
なお、上記脱圧とは液状の材料を射出することにより発生する材料内部の応力を緩和(解放)することであり、該脱圧の条件としては、例えば、スクリュー後退による脱圧の場合、金型内へ材料を射出充填後、約1〜10mm程度、好ましくは2〜8mm程度スクリューを後退させることにより、材料内部の応力を緩和(解放)させることができる。この場合、上記内部応力の約40%以上、特には約40〜70%程度を緩和することができる。ノズル後退による脱圧の場合、金型内へ材料を射出充填後、約1〜10mm程度、好ましくは2〜8mm程度ノズルを後退させることにより、材料内部の応力を緩和(解放)させることができる。この場合、上記内部応力のほぼ100%を緩和(解放)することができる。
【0015】
金型内において、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化成形条件としては、公知の液状付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよく、硬化温度は、80〜220℃、特に120〜200℃で3秒〜10分間、特に5秒〜5分間加熱することにより硬化成形することができる。
【0016】
本発明により得られたシリコーンゴム成形品は、その優れた外観、安全性、低圧縮歪から、幼児用遊具や食器、歯ブラシ、哺乳瓶用乳首、赤ちゃん用おしゃぶりなどの乳児用品や、水中眼鏡、ゴーグルストラップ、シュノーケル部品などのダイビング、スイミング用品、自動車部品、家電部品等として好適に用いることができる。
【0017】
本発明の液状付加硬化型シリコーンゴム組成物は、23℃におけるせん断速度10S-1の粘度aとせん断速度100S-1の粘度bの比(a/b)が2.5以上(通常、2.5〜10)、好ましくは3.0〜8.0程度の流動性(チクソトロピー性)を有するものである。このような液状付加硬化型シリコーンゴム組成物としては、従来公知の組成のものを用いることができ、下記
(A)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合した水素原子(Si−H基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)BET法による比表面積が50m2/g以上であるヒュームドシリカ、
(D)付加反応触媒
を主成分としてなるものを好適に用いることができる。
【0018】
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
本発明に使用される(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、通常、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物のベースポリマーとして使用されている公知のオルガノポリシロキサンであり、25℃で1〜100Pa・s、好ましくは5〜100Pa・s、より好ましくは10〜100Pa・sの粘度を有するものであることが望ましい。なお、粘度は回転粘度計等により測定できる。
【0019】
該アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、通常、下記平均組成式(I):
aSiO(4-a)/2 (I)
で示される。
ここで、Rは独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル等のアルキル基、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル等のアルケニル基、フェニル、トリル、キシリル等のアリール基、ベンジル等のアラルキル基などの非置換の一価炭化水素基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノメチル基等の上記一価炭化水素基の水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子やシアノ基で置換された置換アルキル基などの置換一価炭化水素基である。複数の置換基は、異なっていても同一であってもよいが、分子中にアルケニル基を2個以上、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個程度含んでいることが必要である。aは1.9〜2.4、好ましくは1.95〜2.05の範囲の数である。
【0020】
このオルガノポリシロキサンは、直鎖状であってもよいし、RSiO3/2単位(Rは前記の通り)あるいはSiO4/2単位を含んだ分岐状であってもよいが、通常は主鎖がジオルガノシロキサン単位(R2SiO2/2)の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R3SiO1/2)で封鎖された、直鎖状のジオガノポリシロキサンであることが好適である。珪素原子に結合した置換基は、基本的には上記のいずれであってもよいが、アルケニル基は好ましくはビニル基が挙げられ、その他の置換基としてはメチル基、フェニル基が望ましい。
【0021】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分中の珪素原子結合アルケニル基と(B)成分中の珪素原子結合水素原子(SiH基)との付加(ヒドロシリル化)反応において、架橋剤として作用する成分である。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、分子構造に特に制限はなく、従来製造されている、例えば線状、環状、分岐状、三次元網状構造等各種のものが使用可能であるが、珪素原子に結合した水素原子、即ちSiH基を一分子中に少なくとも2個(通常2〜300個)、好ましくは3個以上(例えば、3〜200個)、より好ましくは4〜100個含有することが必要である。(B)成分のSiH基以外の珪素原子に結合した基は、前記平均組成式(I)の一価炭化水素基Rと同様の置換又は非置換の一価炭化水素基であるが、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含有しないものが好ましく、特にメチル基及びフェニル基が好ましい。なお、(B)成分中のケイ素原子数(又は重合度)は、通常2〜300個、好ましくは3〜200個、より好ましくは4〜100個程度のものを好適に使用することができる。
【0022】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7,8−ペンタメチルペンタシクロシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R2(H)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、任意にR3SiO1/2単位、R2SiO2/2単位、R(H)SiO2/2単位、(H)SiO3/2単位又はRSiO3/2単位〔上記式中、Rは前記平均組成式(I)のRに同じ〕を含み得るシリコーンレジン等を例示することができる。
【0023】
(B)成分の配合量は、(A)成分に含まれるアルケニル基1個に対して(B)成分中のSiH基が0.4〜5.0当量(即ち、0.4〜5.0個)の範囲となる量であることが好ましく、より好ましくは0.8〜3.0当量の範囲となる量である。0.4当量より少ない場合は、架橋密度が低くなりすぎて、ゴム成形品の耐熱性に悪影響を与えるおそれがある。また5.0当量より多い場合は、脱水素反応による発泡の問題が生じる上、同様に耐熱性に悪影響を与えるおそれがある。
【0024】
(C)ヒュームドシリカ
(C)成分であるヒュームドシリカは、シリコーンゴムに十分な強度を与えるために必須なものである。ヒュームドシリカのBET法による比表面積は、50m2/g以上、好ましくは100〜400m2/g、より好ましくは150〜350m2/gである。比表面積が50m2/gより小さいと十分な強度が得られないばかりか、ゴム成形品の外観も良くない場合がある。400m2/gより大きいと配合が困難になったりする場合がある。また、(C)成分のヒュームドシリカは、組成物にチキソトロピー性を付与し得る点においても有効な成分である。
【0025】
これらヒュームドシリカはそのまま用いても構わないが、表面疎水化処理剤で予め処理したもの、あるいはシリコーンオイルとの混練時に表面処理剤を添加して処理したものを使用することが好ましい。これら表面処理剤は、アルキルアルコキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、チタネート系処理剤、脂肪酸エステルなど公知のものであればいかなるものを用いてもよく、1種又は2種以上を同時又は異なるタイミングで用いても構わない。
【0026】
また、これらヒュームドシリカの配合量は、(A)成分100質量部に対し、10〜40質量部であることが好ましく、より好ましくは15〜35質量部である。配合量が10質量部より少ないと十分なゴム強度が得られない場合があり、また40質量部を超える量では配合が困難になってしまう場合がある。
【0027】
(D)成分の付加反応触媒としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などが挙げられる。なお、この付加反応触媒の配合量は触媒量とすることができ、通常、白金族金属として(A)成分に対し、0.5〜1,000ppm、特に1〜200ppm程度である。
【0028】
本発明の液状付加硬化型シリコーンゴム組成物において、その他の成分として、必要に応じて、沈降シリカ、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウムのような充填剤、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を配合することは、ゴム成形品の外観を損なわない範囲で任意とされる。
【0029】
本発明の液状付加硬化型シリコーンゴム組成物は、ニーダー、プラネタリーミキサーなどの通常の混合撹拌器、混練器等を用いて上記各成分を均一に混合することにより調製することができる。
なお、本発明においては、上記液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を2液型とすることができ、この場合、架橋剤としての(B)成分と付加反応触媒の(D)成分とが同一の組成物(A液又はB液)中に混在しないように各成分を適宜分割すればよく、例えば、(A)成分の一部、(C)成分の一部又は全部及び(D)成分を含有するA液と、(A)成分の残部、(B)成分及び場合により(C)成分の残部を含有するB液とからなる2液型の組成物とすることができ、等質量又は等容量で混合できるように調製することが好ましい。
【0030】
次に、せん断速度10S-1の粘度aとせん断速度100S-1の粘度bの比(a/b)が2.5以上の流動性を有する上記液状付加硬化型シリコーンゴム組成物(材料)が、オープンゲート方式の金型による射出成形に有効であることについて説明する。
【0031】
まず、本射出工程において、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物は、射出圧力が30〜250MPaの高い圧力にて、材料の先端は高せん断速度状態(又は高せん断応力状態)で成形機ノズルから金型のキャビテイ部へ充填される。高せん断速度状態で材料の粘度が低いものが、キャビテイ部へ短時間で充填される。よって、高せん断速度状態で材料の粘度が低いものが本金型に有効である。
【0032】
次に、低せん断速度状態で材料の粘度が高いものが有効であることを説明する。
本液状付加硬化型シリコーンゴム組成物は成形機ノズルから金型内を流れ、ゲート部を通過し、材料の先端はゲート先端部を通して高せん断速度状態(又は高せん断応力状態)でキャビテイ部へ短時間で充填される。キャビテイ部へ充填された材料は加熱硬化され、成形品(ゴム)を形成する。
射出工程終了後に、キャビテイ部へ充填された材料は硬化を開始するため、キャビテイ部やゲート先端部の流動抵抗が大きくなる。それによって、ゲート部(即ち、ゲート先端部を除くゲート内部)の材料のせん断速度が遅くなる。また、射出工程の開始時と終了時において、成形機ノズルから金型内を流れる材料は成形機ノズルの流動抵抗や金型内の流動抵抗により、ゲート部の材料のせん断速度が遅くなる。よって、以上の点から、ゲート部の材料は高せん断速度の状態から低せん断速度(又は低せん断応力)の状態になる。
【0033】
一方、ゲート先端部はヒーターにより加熱されているため、半硬化から硬化状態となりシールされている。しかし、ゲート部は冷却水で冷却されているため、上記の理由から、材料は液状(未硬化)状態で高せん断速度の状態から低せん断速度(又は低せん断応力)の状態になる。
ゲート先端部のシールは完全でないため、低せん断速度(又は低せん断応力)の状態で粘度が高い場合、シールから液状状態の材料の漏れが発生しない。
【0034】
このような材料の高せん断速度の状態と低せん断速度における材料の流動性の良否として、精密回転式粘度計(Haake(株)製)により、材料のせん断速度下の粘度を測定し、せん断速度10S-1の粘度とせん断速度100S-1の粘度の比が2.5以上の流動性を有する材料がキャビテイ部へ充填性やシール漏れ対策に有効であることを見出した。特に、材料のせん断速度10S-1の粘度とせん断速度100S-1の粘度の比が2.5以上の流動性の場合は、脱圧工程の効果が高く、シール面からの漏れが発生せず、良品の成形品が得られる。しかし、材料のせん断速度10S-1の粘度とせん断速度100S-1の粘度の比が2.5より小さい流動性の場合は、脱圧工程の効果が低く、シール面からの漏れが発生し、成形不良となる。
【0035】
上記液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を上記粘度比とするには、ベースポリマーである(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、架橋剤としての(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのそれぞれの分子量、分子構造、それらの配合量や配合比率等を適宜選択することや、更には、前記したそれ自体公知の流動性調整剤(チキソ性付与剤)や、(C)成分のヒュームドシリカをはじめとするシリカ系充填剤の種類や配合量を適宜選択して調整することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[液状付加硬化型シリコーンゴム組成物1の調製]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が30Pa・sである(平均重合度約750)ジメチルポリシロキサン[ビニル基含有量3×10-5mol/g]84質量部、両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された平均重合度が約230であり、側鎖に5モル%のビニル基(〔(CH3)(CH2=CH)SiO〕単位)を有するジメチルポリシロキサン[ビニル基含有量6.5×10-4mol/g]5質量部、比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)40質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、水3質量部を室温で30分混合後、165℃に昇温し、3時間撹拌を続け、シリコーンゴムベースを得た。
上記と同様にして調製したシリコーンゴムベース258質量部、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が30Pa・sである(平均重合度約750)ジメチルポリシロキサン50質量部、架橋剤として側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[粘度0.018Pa・s、重合度40、Si−H基量0.0074mol/g]3.5質量部、両末端にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[粘度0.016Pa・s、重合度20、Si−H基量0.0014mol/g]5.4質量部[Si−H基/アルケニル基=2.6]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.10質量部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を適宜混合し、架橋剤と白金触媒とが混在しないようにA液とB液の2液タイプに分割し、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物1を調製した。
本A液とB液材料を等量(即ち、等容量、以下同じ)混合した混合物を精密回転式粘度計(Haake(株)製)のコーン&プレートの測定治具を使用し、23℃における各種せん断速度の粘度を測定した。その結果を表1に記した。
【0038】
[実施例1]
液状付加硬化型シリコーンゴム組成物1(A液とB液の2液タイプ)を材料供給ポンプにセットし、A液とB液材料を等量供給し、スタテイックミキサーでA液とB液の材料をプレ混合し、射出成形機のシリンダー部へ供給した。シリンダー部のスクリューでA液とB液の材料を回転混合した。オープンゲート方式金型へ混合物を射出し、その後、ノズルを後退させ、150℃,60秒で硬化し、シリコーン成形体を得た。その成形体及びその成形体のゲート口を観察し、その結果を表2にまとめた。
なお、上記組成物の射出条件は、射出圧力225MPa、射出速度350mm/sであり、また、ノズルの後退条件は、ノズルを約7mm後退させることにより、液状材料の内部応力をほぼ100%緩和(解放)した。
【0039】
[比較例1]
実施例1でノズルを後退させなかった以外は同一の方法で、シリコーン成形体を得た。その成形体及びその成形体のゲート口を観察し、その結果を表3にまとめた。
【0040】
[液状付加硬化型シリコーンゴム組成物2の調製]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が30Pa・sである(平均重合度約750)ジメチルポリシロキサン[ビニル基含有量3×10-5mol/g]90質量部、比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル(株)製、アエロジル300)40質量部、ヘキサメチルジシラザン8質量部、水2質量部を室温(25℃)で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続けて冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
上記と同様にして調製したシリコーンゴムベース260質量部、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が100Pa・sである(平均重合度約1,080)ジメチルポリシロキサン[ビニル基含有量2.5×10-5mol/g]120質量部、両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が1Pa・sである(平均重合度約50)ジメチルポリシロキサン26質量部、架橋剤として両末端と側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[粘度0.018Pa・s、重合度40、Si−H基量0.0053mol/g]3.9質量部、[Si−H基/アルケニル基=2.5]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.10質量部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を適宜混合し、架橋剤と白金触媒とが混在しないようにA液とB液の2液タイプに分割し、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物2を調製した。
本A液とB液材料を等量混合した混合物を精密回転式粘度計(Haake(株)製)のコーン&プレートの測定治具を使用し、23℃における各種せん断速度の粘度を測定した。その結果を表1に記した。
【0041】
[実施例2]
液状付加硬化型シリコーンゴム組成物2(A液とB液の2液タイプ)を材料供給ポンプにセットし、A液とB液材料を等量供給し、スタテイックミキサーでA液とB液の材料をプレ混合し、射出成形機のシリンダー部へ供給した。シリンダー部のスクリューでA液とB液の材料を回転混合した。オープンゲート方式金型へ混合物を射出し、その後、ノズルを後退させ、150℃,60秒で硬化し、シリコーン成形体を得た。その成形体及びその成形体のゲート口を観察し、その結果を表2にまとめた。
なお、上記組成物の射出条件は、射出圧力100MPa、射出速度250mm/sであり、また、ノズルの後退条件は、ノズルを約7mm後退させることにより、液状材料の内部応力をほぼ100%緩和(解放)した。
【0042】
[比較例2]
実施例2でノズルを後退させなかった以外は同一の方法で、シリコーン成形体を得た。その成形体及びその成形体のゲート口を観察し、その結果を表3にまとめた。
【0043】
[液状付加硬化型シリコーンゴム組成物3の調製]
分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個含有する(重合度約700)直鎖状ジメチルポリシロキサン[ビニル基含有量9.4×10-5mol/g]100質量部、平均粒径5μmの結晶性シリカ50質量部、酸化鉄2質量部を均一に混合した後、架橋剤として側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[粘度0.018Pa・s、重合度40、Si−H基量0.0074mol/g]0.05質量部、両末端にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[粘度0.016Pa・s、重合度20、Si−H基量0.0014mol/g]4.3質量部[Si−H基/アルケニル基=1.1]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.10質量部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を適宜混合し、架橋剤と白金触媒とが混在しないようにA液とB液の2液タイプに分割し、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物3を調製した。
本A液とB液材料を等量混合した混合物を精密回転式粘度計(Haake(株)製)のコーン&プレートの測定治具を使用し、23℃における各種せん断速度の粘度を測定した。その結果を表1に記した。
【0044】
[比較例3]
液状付加硬化型シリコーンゴム組成物3(A液とB液の2液タイプ)を材料供給ポンプにセットし、A液とB液材料を等量供給し、スタテイックミキサーでA液とB液の材料をプレ混合し、射出成形機のシリンダー部へ供給した。シリンダー部のスクリューでA液とB液の材料を回転混合した。オープンゲート方式金型へ混合物を射出し、その後、ノズルを後退させ、150℃,60秒で硬化し、シリコーン成形体を得た。その成形体及びその成形体のゲート口を観察し、その結果を表3にまとめた。
なお、上記組成物の射出条件は、射出圧力100MPa、射出速度250mm/sであり、また、ノズルの後退条件は、ノズルを約7mm後退させることにより、液状材料の内部応力をほぼ100%緩和(解放)した。
【0045】
[比較例4]
比較例3でノズルを後退させなかった以外は同一の方法で、シリコーン成形体を得た。その成形体及びその成形体のゲート口を観察し、その結果を表3にまとめた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【符号の説明】
【0049】
1 材料供給ポンプ
2 定量器
3 スタテイックミキサー
4 射出成形機
5 スクリュー
6 ノズル
7 金型
8 ニードル
9 材料
10 断熱板
11 ヒーター
12 冷却水
13 ゲート部
14 ゲート先端部
15 キャビテイ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オープンゲート方式の金型内に液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を射出し、加熱硬化するシリコーンゴムの射出成形方法において、
(i)23℃におけるせん断速度10S-1の粘度aとせん断速度100S-1の粘度bの比(a/b)が2.5以上の流動性を有する液状付加硬化型シリコーンゴム組成物をオープンゲート方式の金型内に射出する工程、
(ii)次に脱圧する工程
を有することを特徴とするシリコーンゴムの射出成形方法。
【請求項2】
脱圧工程が、スクリュー後退による脱圧、又はノズル後退による脱圧によるものである請求項1記載の射出成形方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により製造されたシリコーンゴム成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−247331(P2010−247331A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89260(P2009−89260)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】