説明

液状油の皮膚の柔らかくする効果の評価方法並びに該液状油を含有する皮膚外用剤及びその製造方法

【課題】 液状油の皮膚の柔らかくする効果の評価方法並びに該液状油を含有する皮膚外用剤及びその製造方法を提供することを課題とした。
【解決手段】 2−エチルヘキサン酸セチル、シア脂、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、トリイソステアリン酸硬化ヒマシ油、ピバリン酸イソステアリル、メドウフォーム油から選択される2種以上の液状油を併用することにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上した皮膚外用剤及び皮膚を柔らかくする効果を客観的に評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液状油の皮膚の柔らかくする効果の評価方法並びに該液状油を含有する皮膚外用剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に触れたときに感じる触感は、美容上大変重要な因子であり、これまで皮膚に柔らかさに関する報告が多数なされている。特に皮膚の最外部である角層の柔軟性に水分が大きな影響を与えており、そのメカニズムとして水分が角層のケラチン繊維の凝集状態をコントロールすることで柔軟性を保っているというもある(非特許文献1参照)。一方、水のみではなく、液状油を塗布した際に「肌が柔らかくなった」と感じたという経験は多くの人が持つものであるが、これらが皮膚に与える柔軟化メカニズムは曖昧である。
【0003】
また、皮膚の柔軟性(硬さ)を定量的に評価するためには、ヒトや動物の皮膚切片を用いて、動的粘弾性測定(非特許文献2参照)や引っ張り試験(非特許文献3参照)によりヤング率(E)などを測定する手法がある。また、人の肌に何らかの塗布を行い、その柔軟性の変化を測定する手法として、キュートメーターを用いる手法(非特許文献3参照)などがあるが、これらの結果と「官能的に」感じる柔らか感とは相関性が低い。そのためたとえばより柔らかさを感じやすい処方や油剤などを作ろうと思っても定量的かつ客観的な評価手法がないため、処方技術者の感性に頼るしかないのが現状であった。
【0004】
【非特許文献1】(川田:角層ケラチンタンパクの状態と物性 フレグランスジャーナル2004-9:53-58,2004)
【非特許文献2】水と化粧品製剤‐保湿剤・エモリエント剤とI・O・B‐(香粧会誌 Vol.11 No.4 1987);資生堂 尾沢ら
【非特許文献3】In vivoおよびin vitroにおける角層弾性特性の評価法(日本機械学会 情報・知能・精密機器部門講演会講演論文集 2004.3.23-24 東京;ライオン 小池ら)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液状油の皮膚の柔らかくする効果の評価方法並びに該液状油を含有する皮膚外用剤及びその製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、液状油を皮膚に塗布した後、皮膚粘弾性測定装置を用いて粘弾性の測定を行い、皮膚の伸び量に対する皮膚の伸び量の陰圧解除後0.1〜3秒後までの皮膚の粘性的な戻り量の割合が高く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法に関するものである。
【0007】
本発明の第2の発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数が高く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法に関するものである。
【0008】
本発明の第3の発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失弾性率の極大点にあたるひずみ量が低く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法に関するものである。
【0009】
本発明の第4の発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数が高くかつ損失弾性率の極大点にあたるひずみ量が低く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法に関するものである。
【0010】
本発明の第5の発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、液状油を人工皮革に塗布し、摩擦感テスターを用いて、平均摩擦係数を測定し、皮膚を柔らかく感じる効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法に関するものである。
【0011】
本発明の第6の発明は、液状油が2種以上を併用することにより皮膚を柔らかくする効果が向上することを確認したものである、請求項1〜5の1項に記載した皮膚外用剤の製造方法に関するものである。
【0012】
本発明の第7の発明は、2種以上の液状油を併用することにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上した皮膚外用剤に関するものである。
【0013】
本発明の第8の発明は、2−エチルヘキサン酸セチル、シア脂、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、トリイソステアリン酸硬化ヒマシ油、ピバリン酸イソステアリル、メドウフォーム油から選択される2種以上の液状油を併用することにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上した皮膚外用剤に関するものである。
【0014】
本発明の第9の発明は、液状油を皮膚に塗布した後、皮膚粘弾性測定装置を用いて粘弾性の測定を行い、皮膚の伸び量に対する皮膚の伸び量の陰圧解除後0.1〜3秒後までの皮膚の粘性的な戻り量の割合を算出することによる、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法に関するものである。
【0015】
本発明の第10の発明は、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数を測定することによる、皮膚を柔らかくする効果の評価方法に関するものである。
【0016】
本発明の第11の発明は、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失弾性率の極大点にあたるひずみ量を測定することによる、皮膚を柔らかくする効果の評価方法に関するものである。
【0017】
本発明の第12の発明は、工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数及び損失弾性率の極大点にあたるひずみ量を測定することによる、皮膚を柔らかくする効果の評価方法に関するものである。
【0018】
本発明の第13の発明は、液状油を人工皮革に塗布し、摩擦感テスターを用いて、平均摩擦係数を測定することによる、皮膚を柔らかく感じる効果の評価方法に関するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の液状油の皮膚の柔らかくする効果の評価方法は、皮膚の柔らかさに関する官能評価結果と相関関係を有し、液状油の皮膚を柔らかくする効果を客観的に評価することが可能となり、美容効果の高い皮膚外用剤を開発する上で有効な手段として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
本発明において、皮膚粘弾性測定機としては、キュートメーターを用いる。キュートメーターは、口径2〜6mmの穴があいたプローブを被験部に押し当て、陰圧をかけることで皮膚を引っ張り、その時の変位を内蔵されたセンサーで測定することにより皮膚の伸びや弾力を評価する装置である。しかしながら、予め評価因子として推奨されている皮膚の伸びを評価しても、官能評価による皮膚の柔らかさとの相関関係は低く、皮膚の伸びだけでは皮膚の柔らかさを評価することはできなかった。
【0022】
そこで、キュートメータでの測定時に得られる図1に示した「加圧時間(s)−皮膚の変位(mm)曲線」から、新たに官能評価により得られる柔らかさに対応する因子を見つけ出し、皮膚柔軟性の指標1とした。すなわち、皮膚の伸び量(mm)に対する陰圧解除後0.1〜3秒後までの皮膚の粘性的な戻り量(mm)の割合(指標1)と、皮膚の柔らかさの官能評価結果とは、正の相関関係を有しており、指標1が高いほど、皮膚が柔らかいと評価することができる。
【0023】
本発明においては、細胞間脂質の物性(柔軟性)を動的粘弾性測定装置で評価することで液状油による角層柔軟効果を評価した。具体的には、細胞間脂質を人工的に調製し、ペレット状に加工する。一定割合(25質量%が好ましい)で液状油を含浸させたサンプルの動的粘弾性測定を行う。柔軟化の指標には10%のひずみを加えた際の損失係数(tanδ)、及び/又は損失弾性率(G**)の極大点にあたるひずみ量を用いた。
【0024】
本発明においては、サンプル塗布時の表面摩擦の状態を、センサーならびに被塗布体に人工皮革を用いた摩擦感テスターで測定することにより、官能的な「柔らかさ」を定量的に評価する。具体的には官能的な「柔らかさ」に大きな影響を与えている塗布初期の平均摩擦係数と、塗布末期の平均摩擦係数を因子として抽出し、これらを変数とする重回帰式(下記式1)を作成した。この式は重相関係数R=0.83、決定係数=0.69であり、高い相関関係を示した。
柔らかさスコア(官能評価値)=
-5.19×(塗布初期の平均摩擦係数)+2.24×(塗布末期の平均摩擦係数)+2.40 (式1)
【0025】
本発明において液状油とは、常温で流動性を有する油剤であり、皮膚外用剤に配合し得る液状油であればその種類は問わず、天然動植物油及び半合成油、炭化水素油、エステル油、グリセライド油、シリコーン油、含フッ素油などが例示される。
具体的には、天然動植物油及び半合成油としては、アボガド油、アマニ油、アーモンド油、オリーブ油、カヤ油、肝油、キョウニン油、グレープシード油、小麦胚芽油、ゴマ油、コメ胚芽油、コメヌカ油、サザンカ油、サフラワー油、シナギリ油、シナモン油、タートル油、大豆油、茶実油、ツバキ油、月見草油、トウモロコシ油、ナタネ油、日本キリ油、胚芽油、パーシック油、パーム油、レッドパーム油、パーム核油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、マンゴー油、綿実油、ヤシ油、トリヤシ油脂肪酸グリセライド、落花生油、液状ラノリン、還元ラノリン、ラノリンアルコール、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、POEラノリンアルコールエーテル、POEラノリンアルコールアセテート、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、POE水素添加ラノリンアルコールエーテル、卵黄油等が挙げられる。
【0026】
炭化水素油としては、スクワラン、スクワレン、重質流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動パラフィン、ポリイソプチレン、α−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。
【0027】
エステル油としては、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸−2−ヘキシルデシル、アジピン酸−ジ−ヘプチルウンデシル、モノイソステアリン酸N−アルキルグリコール、ジ−2−エチルへキサン酸エチレングリコール、ジ−2−エチルへキサン酸ネオペンチルグリコール、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、クエン酸トリエチル、コハク酸−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、炭酸ジアルキル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸−2−エチルヘキシル、パルミチン酸−2−ヘキシルデシル、ミリスチン酸−2−ヘプチルウンデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸−2−オクチルドデシル、ミリスチン酸−2−ヘキシルデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ラウリン酸ヘキシル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−2−オクチルドデシルエステル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチルドデシル)、イソステアリン酸イソステアリル、ネオペンタン酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、アセトグリセライド、トリイソオクタン酸グリセライド、トリイソステアリン酸グリセライド、トリイソパルミチン酸グリセライド、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセライド、モノステアリン酸グリセライド、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセライド、トリミリスチン酸グリセライド、ジグリセリンテトライソステアリル、ジグリセリントリイソステアリル、ジグリセリンジイソステアリル、2−エチルヘキサン酸セチル、シア脂、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、トリイソステアリン酸硬化ヒマシ油、ピバリン酸イソステアリル、メドウフォーム油等が挙げられる。
【0028】
シリコーン油としては、鎖状ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等);環状ポリシロキサン(オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等)等が挙げられる。
【0029】
本発明においては、これらの液状油を単独若しくは2種以上を併用して、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、皮膚外用剤に配合する。
【0030】
本発明においては、これらの液状油の中でも、2−エチルヘキサン酸セチル、シア脂、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、トリイソステアリン酸硬化ヒマシ油、ピバリン酸イソステアリル、メドウフォーム油から選択される2種以上の液状油を併用することにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的にする。
【0031】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、以下の態様で実施することができる。
【0032】
本発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、液状油を皮膚に塗布した後、皮膚粘弾性測定装置を用いて粘弾性の測定を行い、皮膚の伸び量に対する皮膚の伸び量の陰圧解除後0.1〜3秒後までの皮膚の粘性的な戻り量の割合が高く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることより皮膚外用剤を製造することができる。
【0033】
本発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数が高く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることにより皮膚外用剤を製造することができる。
【0034】
本発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失弾性率の極大点にあたるひずみ量が低く、皮膚を柔らかくする効果を有することを認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることにより皮膚外用剤を製造することができる。
【0035】
本発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数が高くかつ損失弾性率の極大点にあたるひずみ量が低く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることにより皮膚外用剤を製造することができる。
【0036】
本発明は、液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、液状油を人工皮革に塗布し、摩擦感テスターを用いて、平均摩擦係数を測定し、皮膚を柔らかく感じる効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることにより皮膚外用剤を製造することができる。
【0037】
本発明の皮膚外用剤は、液状油を2種以上併用することにより皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることにより皮膚外用剤を製造することができる。
【0038】
また本発明の皮膚外用剤は、2種以上の液状油を併用することにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上する効果を発揮する。
【0039】
本発明は、液状油を皮膚に塗布した後、皮膚粘弾性測定装置を用いて粘弾性の測定を行い、皮膚の伸び量に対する皮膚の伸び量の陰圧解除後0.1〜3秒後までの皮膚の粘性的な戻り量の割合を算出することにより、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法を提供する。
【0040】
本発明は、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数を測定することによる、皮膚を柔らかくする効果の評価方法に関するものである。
【0041】
本発明は、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失弾性率の極大点にあたるひずみ量を測定することによる、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法を提供する。
【0042】
本発明は、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数及び損失弾性率の極大点にあたるひずみ量を測定することによる、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法を提供する。
【0043】
本発明は、液状油を人工皮革に塗布し、摩擦感テスターを用いて、平均摩擦係数を測定することによる、液状油の皮膚を柔らかく感じる効果の評価方法を提供する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の
実施例に限定されるものではない。
【0045】
[試験例1] キュートメーターを用いた肌の柔らかさの測定
−試行1 皮膚の部位別比較−
アンケートによる官能評価の結果、比較的皮膚が柔らかいと感じる部位=頬、比較的皮膚が硬いと感じる部位=手の甲とをそれぞれポジティブコントロール、ネガティブコントロールとして、これらの皮膚の柔らかさの相違が、評価できるかどうかを検討した。下記の測定条件で頬と手の甲をキュートメータで測定し、キュートメーターの「加圧時間(s)−皮膚の変位(mm)曲線」を作成し、各検討因子について、頬と手の甲で相違するかどうかを検討した。
【0046】
<測定条件>
プローブの口径を6mmとし、キュートメーターでの陰圧を400mbarとし、一定(400mbar)の陰圧をかけるPモードにて測定を行った。
【0047】
<検討因子>
Ue(t=0〜0.1までの瞬発的な伸び量)
Uv(t=0.1〜3.0までの粘性的な伸び量)
Ua(t=3.0〜3.1までの瞬発的な戻り量)
Uz(t=3.1〜6.0までの粘性的な戻り量)
Ur
Uf(皮膚の伸び)
Ur/Uf(総戻り率)
Ua/Uf(瞬発的な戻り率)
Uz/f(粘性的な戻り率)
【0048】
<結果>
図2に示したとおり、頬部と手の甲ではUr,Uz,Ua,Ua/Uf,Ur/Uf,Uz/Ufに差が現れたため、これらが「柔らかさ」の指標となる可能性が示唆された。
【0049】
[試行2 同一の皮膚部位における、塗布物による比較]
一般的に角層の柔軟性を向上させるとことが知られている「水」と、また塗布後に高分子膜を形成することでピンと引っ張った感じを与える水溶性タンパク質水溶液を用いて同様の評価を行った。ちなみに水溶性タンパク質水溶液塗布後には、官能的に「突っ張り感」を感じると評価され、柔らかさとは対極の感覚である。
【0050】
水を塗布した際での各因子の違いを図3に示す。このように、Ur,Uz,Ua,Uf,Ua/Uf,Ur/Uf,Uz/Ufに差が認められ、試行1と併せてUf以外のUr,Uz,Ua,Ua/Uf,Ur/Uf,Uz/Ufが「柔らかさ」の指標となる可能性が示唆された。
【0051】
ポリリフトを塗布した際での各因子の違いを図4に示す。このように、ポリリフトを塗布して皮膚に張力を持たせることでもUr,Ua,Uz,Uf,Ua/Uf,Ur/Ufが上昇することが分かった。つまりこれらの指標は「柔らかさ」を評価するには不適切な因子であることがわかった。
【0052】
試行1、2より、官能的な皮膚の「柔らかさ」を評価する因子として、Uz/Uf(粘性的な戻り率)が適切であることが分かった。
【0053】
−試行3−官能的な「柔らかさ」の評価に差のある液状油を塗布したときの変化
各種の液状油塗布後に感じる皮膚の「柔らかさ」を官能的に評価し、これらの評価結果と今回導出した評価指標が一致するかどうかを調べた。表1にその結果を示す。なお、Uz/Ufはキュートメーターにて前記条件で測定し、官能評価は専門評価パネルがオイルの「柔らか感」を3段階にて評価した。(数字が大きいほど「柔らか感」が高い。)
【0054】
評価した液状油
液状油1:トリイソステアリン酸硬化ヒマシ油
液状油2:デカメチルシクロペンタシロキサン
液状油3:テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット
液状油4:液状油1、2、3の等質量混合物
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示した通り、Uz/Uf値が高いほど官能評価結果で肌が柔らかいと評価されており、液状油の皮膚を柔らかくする効果を評価する方法として、Uz/Uf値が有効であることが示された。また、液状油4の評価結果より、数種類の液状油を混合して用いることにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上することが示された。
【0057】
次に人工細胞間脂質を用いた評価方法について、実施例を用いて説明する。
【0058】
[人工細胞間脂質ペレットの調製]
表2に示す処方にて人工細胞間脂質のペレットを調製した。具体的には、それぞれ90℃に加熱したAとBを混合し、超音波発生装置にて30分超音波処理を行った後、直径5mm、厚さ1mmの型に流し込み冷却してペレットを調製した。
【0059】
【表2】

【0060】
[液状油の含浸]
人工細胞間脂質に対して、質量比で25%となるように下記に示した液状油を添加し、35℃にて一晩静置した。評価を行った液状油は結果とともに表3に示した。なお、液状混合物2、3の組成は表4に示した。
【0061】
[動的粘弾性の測定]
動的粘弾性測定機(商品名:AR2000(TAインスツルメント社製)にて各サンプルの動的粘弾性を測定した。測定は治具にパラレルプレートを用い、温度35℃、正弦波周波数1Hz、ひずみ分散モード(ひずみ量=0.01〜10%)で行った。
【0062】
[結果の解析方法]
柔軟化の指標には、10%のひずみを与えた際の細胞間脂質の損失係数(tanδ;図5参照)と、G**(損失弾性率;図6参照)の極大値におけるひずみ量を用いた。(G**の極大値はG*の下降点とほぼ一致しているため、感覚的には粘性化が起こるひずみ量のポイントを示している。)これらはそれぞれ角層の柔軟化と正または負の相関を示すものであるため、損失係数(tanδ)が大きい及び/又はG**(損失弾性率)が小さいものを柔軟効果が高い液状油として判定した。結果を表3に示した。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
表3に示した通り、皮膚を柔らかくする作用が異なる油を組み合わせて使用することにより、相乗的に皮膚を柔らかくする効果が向上することが示された。
【0066】
次に摩擦感テスターを用いた評価方法について、実施例を用いて説明する。
【0067】
[サンプル]
表5に示した液状油14種類を用いて評価を行った。
【0068】
【表5】

【0069】
[摩擦感テスターによる、平均摩擦係数(MIU)の測定]
油剤塗布時の摩擦状態の評価には、カトーテック社製の摩擦感テスター(商品名:KES-SE)を用いた。被塗布体として人工皮革、プローブに人工も人工皮革を被覆させた状態で測定した。摩擦プローブの移動速度は0.5mm/sec、垂直方向の加重は25gで統一した。また塗布初期を想定した条件では塗布量を、3×4cm2の範囲に0.1gとし、塗布末期を想定した条件では同様の範囲に0.025gをそれぞれ塗布し、3分静置した後に摩擦係数の測定を行った。解析には、20mmプローブを移動させた場合の平均摩擦係数(MIU)を指標として用いた。
【0070】
[官能評価]
比較のため、表5に示した液状油を肌に塗布したときの肌を柔らかくする効果を、官能評価にて評価した。具体的には、化粧料の官能評価専門パネル3名にブラインドで各オイルを使用させ、3段階の官能評価法で行い、結果は、その平均値を用いた。官能評価の結果と平均摩擦係数の結果を表6に示した。
【0071】
また官能的に感じる「柔らかさ」と、これらの摩擦指標との相関関係を図7、図8に示す。図からも明らかなように、官能的な柔らか感は塗布初期の平均摩擦係数と正の相関があり、塗布末期の平均摩擦係数とは負の相関があることが分かった。さらにこれらの結果から、官能的に感じる「柔らかさ」を目的変数、塗布初期ならびに塗布末期の平均摩擦係数を説明変数とする重回帰式を導いた。(式1)この式はR;重相関係数=0.83、かつp値;無相関の確率<0.001であり、官能を対象としたケースでは驚くべき相関の高さと有意性を示した。よってこの式は定量評価の指標として十分利用可能であり、官能評価が未熟な一般的者でも機器測定によって官能的な「柔らかさ」を評価できることを示している。
柔らかさスコア(官能評価値)
=-5.19×(塗布初期の平均摩擦係数)+2.24×(塗布末期の平均摩擦係数)+2.40 (式1)
【0072】
上述した通り、塗布初期の平均摩擦係数と塗布末期の平均摩擦係数を測定することにより、液状油の肌を柔らかくする効果を予測することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の液状油の皮膚の柔らかくする効果の評価方法は、液状油の肌を柔らかくする効果を客観的に評価することができ、美容効果の高い皮膚外用剤を開発する上で有効な手段として用いることができ、さらにかかる液状油を配合した皮膚外用剤は、優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】キュートメーターを用いて肌の粘弾性を測定した場合の、時間と皮膚の変形状況を示す図である。
【図2】キュートメーターで測定した各値の部位による違いを示す図である。
【図3】キュートメーターで測定した各値の水塗布の有無による相違を示す図である。
【図4】キュートメーターで測定した各値の水溶性タンパク質塗布の有無による相違を示す図である。
【図5】ひずみ量に対するtanδの変化を示す図である。
【図6】ひずみ量に対するG*、G**の変化を示す図である。
【図7】官能評価値と塗布初期の平均摩擦係数(MIU)の相関を示す図である。
【図8】官能評価値と塗布末期の平均摩擦係数(MIU)の相関を示す図である。
【図9】官能的に感じる「柔らかさ」を目的変数、塗布初期ならびに塗布末期の平均摩擦係数を説明変数として求めた重回帰分析の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、液状油を皮膚に塗布した後、皮膚粘弾性測定装置を用いて粘弾性の測定を行い、皮膚の伸び量に対する皮膚の伸び量の陰圧解除後0.1〜3秒後までの皮膚の粘性的な戻り量の割合が高く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法。
【請求項2】
液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数が高く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法。
【請求項3】
液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失弾性率の極大点にあたるひずみ量が低く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法。
【請求項4】
液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数が高くかつ損失弾性率の極大点にあたるひずみ量が低く、皮膚を柔らかくする効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法。
【請求項5】
液状油を皮膚外用剤に含有させる場合において、液状油を人工皮革に塗布し、摩擦感テスターを用いて、平均摩擦係数を測定し、皮膚を柔らかく感じる効果を有することを確認した上で、該液状油を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法。
【請求項6】
液状油が2種以上を併用することにより皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上することを確認したものである、請求項1〜5の1項に記載した皮膚外用剤の製造方法。
【請求項7】
2種以上の液状油を併用することにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上した皮膚外用剤。
【請求項8】
2−エチルヘキサン酸セチル、シア脂、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、トリイソステアリン酸硬化ヒマシ油、ピバリン酸イソステアリル、メドウフォーム油から選択される2種以上の液状油を併用することにより、皮膚を柔らかくする効果が相乗的に向上した皮膚外用剤。
【請求項9】
液状油を皮膚に塗布した後、皮膚粘弾性測定装置を用いて粘弾性の測定を行い、皮膚の伸び量に対する皮膚の伸び量の陰圧解除後0.1〜3秒後までの皮膚の粘性的な戻り量の割合を算出することによる、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法。
【請求項10】
人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数を測定することによる、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法。
【請求項11】
人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失弾性率の極大点にあたるひずみ量を測定することによる、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法。
【請求項12】
人工的に調製した細胞間脂質に液状油を含浸させた試料の動的粘弾性を測定し、10%のひずみを加えた際の損失係数及び損失弾性率の極大点にあたるひずみ量を測定することによる、液状油の皮膚を柔らかくする効果の評価方法。
【請求項13】
液状油を人工皮革に塗布し、摩擦感テスターを用いて、平均摩擦係数を測定することによる、液状油の皮膚を柔らかく感じる効果の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−286770(P2009−286770A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144257(P2008−144257)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】