説明

液相レーザーアブレーション装置及びそれを用いた液相レーザーアブレーション方法

【課題】液相中で連続的に安定してレーザーアブレーション処理を施すことができ、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能な液相レーザーアブレーション装置を提供すること。
【解決手段】溶媒13中のターゲット14に対してレーザー光Lを照射して液相中でレーザーアブレーションを行うために用いる液相レーザーアブレーション装置であって、
レーザー光Lを発生させるためのレーザー発振器10と、レーザー光Lが透過可能な底部Bを有し且つ溶媒13を保持するための処理容器12と、処理容器12内の底部B上に配置させたターゲット14とを備え、且つ、処理容器12が、ターゲット14に対して処理容器12の底部Bを透過したレーザー光Lが照射されるように配置されていることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相レーザーアブレーション装置及びそれを用いた液相レーザーアブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体、絶縁体等の種々の材料に用いるために、微細なナノサイズの粒子が製造されてきており、電子素子、光素子、記録媒体、電池、触媒等に応用されてきた。そして、このようなナノサイズの粒子の製造方法として、液相中のターゲットに対してレーザー光を照射してレーザーアブレーションを施す液相レーザーアブレーション方法が研究されてきた
例えば、2006年発行の「J.Appl.Phys.」のvol.100の114912(非特許文献1)においては、純水中の白金板をターゲットにしてレーザーアブレーションを施す液相レーザーアブレーション方法が開示されている。また、2002年発行の「Chem.Phys.Lett.」のvol.355の101〜108頁(非特許文献2)や2006年発行の「J.Photochem.Photoiol. A」のvol.182の335〜341頁(非特許文献3)においては、粉末ターゲットをスターラーで攪拌する等して溶媒中に分散させ、分散させたターゲット粒子に対してレーザーを照射する液相レーザーアブレーション方法が開示されている。また、特開2009−119492号公報(特許文献1)においては、固形物を液中に分散させた分散液を保持する流路のレーザー光照射部に、レーザー光源より発振されたレーザー光を照射して、水中の固形物を微細化させるための液中レーザーアブレーション装置を用い、そのレーザー光照射部において中心から螺旋状又は同心円状に分散液を流下させながらレーザーアブレーションを行う液相レーザーアブレーション方法が開示されている。更に、特開2009−119379号公報(特許文献2)においては、固形物を液中に分散させた分散液を流動させる流路を備え、前記流路中を流動する前記分散液に対して光源より発振したレーザー光を照射することによりレーザーアブレーションを行う液相レーザーアブレーション方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、非特許文献1〜3及び特許文献1〜2に記載のような従来の液相レーザーアブレーション方法においては、液中に放出された粒子により照射レーザー光が吸収されたり、あるいは、かかる粒子の再アブレートが起こったりし、放出粒子と照射レーザー光とが相互作用し、ターゲットに対して同じ照射条件で連続的にレーザー光を照射することができず、時間の経過とともにアブレーション効率が低下し、高い収率で粒子を製造することができなかった。また、非特許文献2〜3に記載のような従来の液相レーザーアブレーション方法を採用した場合においては、レーザー光によりスターラーや攪拌翼がアブレーション処理されて不純物が混入するといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−119492号公報
【特許文献2】特開2009−119379号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】W.T.Nichols,T.Sasaki,N.Koshizaki,J.Appl.Phys.,2006年発行,vol.100,114912
【非特許文献2】M.Tsuji et.al.,Chem.Phys.Lett.,2002年発行,vol.355,101〜108頁
【非特許文献3】T.Sasaki,Y.Shimizu,N.Koshizaki.,J.Photochem.Photoiol. A,2006年発行,vol.182,335〜341頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、液相中で連続的に安定してレーザーアブレーション処理を施すことができ、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能な液相レーザーアブレーション装置並びにそれを用いた液相レーザーアブレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、溶媒中のターゲットに対してレーザー光を照射して液相中でレーザーアブレーションを行うために用いる液相レーザーアブレーション装置を、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内の底部上に配置させたターゲットとを備え且つ記処理容器が前記ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光が照射されるように配置されたものとし、その装置を用いてレーザーアブレーション処理を施すことにより、液相中で連続的に安定してレーザーアブレーション処理を施すことが可能となり、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の液相レーザーアブレーション装置は、溶媒中のターゲットに対してレーザー光を照射して液相中でレーザーアブレーションを行うために用いる液相レーザーアブレーション装置であって、
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、
前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、
前記処理容器内の底部上に配置させたターゲットと、
を備え、且つ、前記処理容器が、前記ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光が照射されるように配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の液相レーザーアブレーション方法は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させたターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記ターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において粒子を形成することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液相中で連続的に安定してレーザーアブレーション処理を施すことができ、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能な液相レーザーアブレーション装置並びにそれを用いた液相レーザーアブレーション方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。
【図2】比較例1において利用した液相レーザーアブレーション装置を模式的に示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【0014】
図1に示す液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器10と、ミラー11と、処理容器12と、溶媒13と、ターゲット14とを備えるものである。なお、図1中、符号Bは処理容器12の底部を示し、符号Lはレーザー光を示す。このような液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器10から発せられたレーザー光Lが、光路上に配置されたミラー11に反射された後に処理容器12の底部Bを透過し、処理容器12内に配置されているターゲット14に照射されるように構成されている。すなわち、このような液相レーザーアブレーション装置において処理容器12は、ターゲット14に対して処理容器12の底部Bを透過したレーザー光Lが照射されるように配置されている。
【0015】
レーザー発振器10は、レーザー光Lを発生させることが可能なものであればよく、特に制限されず、パルス幅が80フェムト秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光を照射できるレーザー光発生装置を好適に用いることができる。また、このようなレーザー光発生装置の中でも、パルス幅が80フェムト秒〜100ナノ秒であり、波長が19nm〜10.6μm(より好ましくは248nm〜10.6μm)であり、且つ、1パルスあたりのエネルギーが50mJ〜5J(より好ましくは200mJ〜2J)であるパルスレーザー光を照射できるレーザー光発生装置がより好ましい。このようなレーザー発振器10は、例えば、YAGレーザー装置、エキシマレーザー装置によって構成されるものが挙げられ、中でも、YAGレーザー装置によって構成されるものがより好ましい。
【0016】
また、ミラー11は、特に制限されるものではなく、公知の反射板等(例えば鏡等)を適宜用いることができる。また、ミラー11は、それ自体を回転させることで、その反射面の角度を変えて、ターゲット14の同じ位置に繰り返し照射されないように、レーザー光Lの照射位置を移動させることができる。そのため、ミラー11は、ターゲットに対して、より均一にレーザー光を照射するという観点から、その反射面の角度を変えることができるように回転可能な状態にして利用してもよい。
【0017】
また、処理容器12は、レーザー光Lを透過可能な底部Bを有する容器である。本発明においては、このように処理容器12において底部Bがレーザー光Lを透過可能なものとすることにより、底部B上に配置されているターゲット14に対して、底部を透過させたレーザー光を直接照射することを可能とする。なお、従来の液相レーザーアブレーション処理では、容器内のターゲットに対して溶媒を介してレーザー光を照射していた。このような従来の液相レーザーアブレーション処理においては、レーザーアブレーション処理を続けるにつれて溶媒中の放出粒子の濃度が高くなり、放出粒子とレーザー光との相互作用(放出粒子によるレーザー光の吸収や再アブレート等)が無視できなくなる。そのため、従来の液相レーザーアブレーション処理においては、溶媒中において生成された粒子に起因して、長期に亘り安定してアブレーション処理を施すことができなかった。これに対して、本発明においては、溶媒を介してレーザー光を照射することなく、処理容器12の底部Bを透過させたレーザー光を直接ターゲットに照射するため、溶媒中に生成された粒子が放出されても、レーザー光が溶媒13中に分散されている粒子により吸収、散乱等されることがなく、ターゲットに対して同じ照射条件で連続的にレーザー光を照射することが可能である。
【0018】
このような処理容器12は、レーザー光Lを透過可能な底部Bを有し且つ容器12内に溶媒13を保持することが可能なものであればよく、公知の容器を適宜用いることができる。なお、本発明においていう「レーザー光Lを透過可能な底部B」とは、レーザー光Lを照射する際において、少なくともレーザー光Lの光路となる部分がレーザー光Lに対して透明である底部をいう。従って、このような底部Bは、その全体がレーザー光Lを透過可能な構造となるようにしてもよく、あるいは、底部Bのレーザー光Lの光路となる部分のみがレーザー光Lを透過可能な構造となるようにしてもよい。
【0019】
このような処理容器12の形状としては特に制限されず、例えば、図1に示すようなコップ状の形状の他、丸底フラスコ、ナス型のフラスコ、梨型フラスコ等の形状が挙げられる。また、このような処理容器12において底部Bは、少なくともレーザー光Lの光路となる部分が利用するレーザー光Lが透過可能な材料により形成されていればよい。このような材料としては特に制限されず、例えば、利用するレーザー光に応じてガラス等を適宜用いてもよい。また、処理容器12としては、底部Bの少なくともレーザー光Lの光路となる部分がレーザー光に対して透明であればよいため、他の面は適宜異なる材料からなるものとしてもよい。また、処理容器12としては、その全体が同一の材料(レーザー光Lを透過可能な材料)からなるものであってもよい。
【0020】
また、このような処理容器12としては、底部Bが平面である容器の場合には底面の直径又は底部Bが平面でない容器(例えば、梨型フラスコ状の容器など)の場合にはターゲット粉末が堆積している領域の横断面の最大面の直径が、レーザー光の照射光形状の直径とがほぼ同じ直径(より好ましくはレーザー光の照射光形状の直径に対して1.0〜1.5倍程度の直径)であることが好ましい。このような容器を用いることにより、より効率よく、レーザーアブレーションを施すことが可能となる。
【0021】
溶媒13としては特に制限されず、液相レーザーアブレーション方法に用いることが可能な公知の溶媒を適宜用いることができる。このような溶媒としては特に制限されないが、例えば、エタノール、イソプロパノール、キシレン、ケロシン、メタノール、水、アセトン、液体窒素等が挙げられる。
【0022】
ターゲット14は、レーザー光Lの照射により、金属原子及び/又は炭素原子を含む微粒子を発生させることが可能な材料からなるものである。このような材料としては、各種の金属、金属化合物及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種を含むものを用いることができる。また、このような金属からなる材料(金属材料)としては、各種の遷移元素金属、典型元素金属、半金属(メタロイド)、又はそれらの合金を用いることができ、例えば、Cu、Al、Ti、Si、Cr、Pt、Au、Ag、Pd、Zr、Mg、Ni、Fe、Co、Zn、Sn、W、Be、Ge、Mn、Mo、Nb、Ta、Hf、それらを主成分とする合金等が挙げられ、中でもCu、Al、Ti、Si、Znを含むものがより好ましい。なお、ここにいう金属材料は、例えば、シリコン、ゲルマニウム、炭化珪素、砒化ガリウム、InP、ZnTe等の半導体であってもよい。また、前記金属化合物からなる材料(金属化合物材料)としては、各種の遷移元素金属、典型元素金属又は半金属の酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられ、中でも酸化亜鉛、チタニア、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、Fe、Cr、W、Mo、V等の金属元素の炭化物が好ましい。なお、ここにいう金属化合物材料は複数の金属元素を含有していてもよく、更に非金属元素を含んでいてもよい。また、このような炭素からなる材料(炭素材料)としては、各種の無定形炭素、グラファイト、ダイアモンド等が挙げられ、中でもグラファイト、無定形炭素が好ましい。また、このような材料としては、有機物でもよい。さらに、ターゲット14は、このような金属材料、金属化合物材料、炭素材料の複合材料であってもよい。また、このようなターゲット14の形状としては特に制限されないが、粉末状のもの(更に好ましくは平均一次粒子径が100〜700μmの粉末状のもの)を用いることが好ましい。なお、このような平均一次粒子径は、100個以上の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定して平均化することにより求めることができる。
【0023】
このようなターゲット14が粉末である場合において、ターゲット14の好適な密度は、そのターゲットの材料の種類によっても異なるものであり、しかも、その密度は圧縮により容易に変化するものであるため、一概には言えないが、ターゲット14の粉末の密度をそのターゲットの材料のバルク体の密度の8割以下とすることが好ましく、6割以下とすることが好ましい。
【0024】
また、このようなターゲット14の粉末の密度としては、材料によっても異なるものではあるが、例えば、ターゲット14の粉末が銅の粉末である場合には、3.0〜7.0g/mであることが好ましく、4.0〜6.0g/mであることがより好ましい。なお、このような密度が前記上限を超えると、レーザーアブレーションにより生成された粒子を液相中に放出させることが困難となり、粒子の収率が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では、アブレーションによって生成されるプルームにより加熱される粒子が減少するため、収率が減少する傾向にある。
【0025】
ターゲット14は、処理容器12の底部B上に配置される。このようにターゲット14を処理容器12の底部B上に配置することにより、底部Bを透過させたレーザー光Lを、溶媒を介することなく、ターゲット14に対して直接照射することができ、液中に放出された粒子の影響を受けずに、ターゲット14に対して同じ照射条件で連続的に安定してレーザー光Lを照射することが可能である。また、ターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法は特に制限されず、例えば、溶媒が導入されている処理容器12内にターゲットの粉末を添加して処理容器12の底部B上に沈積(堆積)させて、粉末状のターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法、粉末状のターゲットを処理容器12の底部B上に置いた後、ターゲットの粉末が分散しないようにしながら処理容器内に溶媒を導入して、粉末状のターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法等が挙げられる。
【0026】
また、ターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する際には、レーザーアブレーションにより生成された粒子が十分に液中に放出されるように、底部Bからのターゲット14の堆積された厚み(高さ)を、ターゲット14の密度(重さ)に応じて適宜変更することが好ましい。例えば、ターゲット14が比較的軽い黒鉛やSiC等である場合においては、最も厚みの厚い箇所の厚み(最大厚み)を比較的厚くしても、レーザーアブレーションにより生成された粒子は比較的容易に放出される傾向にあるが、ターゲット14が金属等の比較的重い材料からなるものである場合においては、前記最大厚みを比較的厚くすると、レーザーアブレーションにより生成された粒子を放出させることが困難となる傾向にある。このように、底部Bからのターゲット14の堆積された厚み(高さ)に関して、前記最大厚みの好適な値は、ターゲット14の密度によっても異なるものであり、一概には言えないが、基本的には、その厚さが10mm以下(より好ましくは1mm〜5mm)となるようにして処理容器12の底部B上に配置することが好ましい。このような厚みが10mmを超えると、粒子の収率が低下する傾向にある。
【0027】
以下、本発明の液相レーザーアブレーション方法の好適な一実施形態として、図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用いてレーザーアブレーション処理を施す方法(液相レーザーアブレーション方法)について説明する。
【0028】
このような液相レーザーアブレーション方法は、図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用い、処理容器12の底部B上に配置されているターゲット14に対して、レーザー光Lを処理容器12の底部Bを透過させて照射し、溶媒13中において粒子を形成する方法である。
【0029】
このような液相レーザーアブレーション方法においては、先ず、レーザー発振器10からレーザー光Lを出射させた後、そのレーザー光Lを光路上に配置されたミラー(反射板)11により反射させる。次に、ミラー11を反射したレーザー光Lは、処理容器12の底部Bを透過し、これにより処理容器12内に入射され、処理容器12の底部B上に配置されたターゲットに照射される。このようにして、処理容器12の底部B上に配置されたターゲット14に、処理容器12の底部Bを透過したレーザー光Lが照射されると、液相内において、ターゲット14の材料からなるナノメートルサイズ(好ましくは数〜数十nm)の粒子が形成、放出され、その粒子が溶媒中に分散される。このように、本発明においては、処理容器12内のターゲット14に対して底部Bを透過させたレーザー光を直接照射するため、処理容器12内において、溶媒13中に存在する放出粒子に起因するレーザー光Lの散乱や前記放出粒子によるレーザー光Lの吸収、前記放出粒子の再アブレート等が起こらない。そのため、本発明によれば、ターゲット14に対して同じ照射条件で長期に亘り連続的に安定してレーザー光を照射することが可能であり、これにより粒子を安定的に製造することができる。
【0030】
このようにしてターゲット14にレーザー光Lを照射する際のレーザー光Lの照射形状(レンズ等により集光する場合には集光形状)や照射強度条件等は、不純物の混入を防止するために処理容器12が破損しないような条件とすればよく、特に制限されないが、公知の条件を適宜採用することができ、容器の材料の種類、溶媒の種類、ターゲットの種類等に応じて目的とする粒子を得ることが可能な条件を適宜採用することができる。例えば、ターゲット14に照射されるレーザー光Lの1パルスあたりの照射強度が10W/cm〜1010W/cm(より好ましくは10W/cm〜10W/cm)となるようにしてもよく、また、レーザー光Lの照射面形状を直径0.5〜5mm程度となるようにしてもよい。更に、レーザーアブレーション時の温度条件は特に制限されないが、室温(25℃)程度であることが好ましい。
【0031】
以上、本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法の好適な実施形態について説明したが、本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法は上記実施形態に限定されるものではない。
【0032】
例えば、図1に示す実施形態(上記実施形態)においてはミラー11を用いているが、本発明の液相レーザーアブレーション装置においては、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内の底部上に配置させたターゲットとを備え、且つ、前記処理容器が、前記ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光が照射されるように配置されていればよく、ミラー11を用いなくてもよく、この場合には、直接レーザー光が処理容器の底部を透過するように、レーザー発振器10と処理容器12とを配置すればよい。
【0033】
また、上記実施形態においては集光レンズを用いていないが、レーザー光を照射する際により高い照射強度を得る等といった観点等から、レーザー光の光路上に集光レンズを配置してもよい。なお、このような集光レンズとしては特に制限されず、公知の集光レンズを適宜利用することができ、中でも、ターゲット14に照射されるパルスレーザー光Lの照射強度を10W/cm〜1010W/cmとすることを可能とする集光レンズを好適に利用することができ、10W/cm〜10W/cmとすることが可能な集光レンズをより好適に利用することができる。なお、処理容器12の材質によっては、レーザー光のフルエンスが大きくなりすぎると容器が破損して不純物の混入や溶媒の漏れが起こる場合もあるため、これを防止するために処理容器の材質等に応じて集光レンズの設計やその使用の有無等を適宜変更すればよい。
【0034】
また、図1に示す実施形態においては、処理容器12の底部Bの断面が直線状のものとなっているが、かかる底部Bの形状は特に制限されるものではない。なお、このような処理容器12の底部Bの形状としては、より効率よくレーザーアブレーションを施すという観点から、底部Bのレーザー光Lが照射される領域にターゲットが集まるような形状とすること(例えば底部Bの形状を丸底とすること等が挙げられる:これにより丸底の最下部に向かって重力により粉末状のターゲットが自然に集まるようにすることが可能となる。)が好ましい。このような底部Bのレーザー光Lが照射される領域にターゲットが集まるような形状としては、例えば、処理容器12の底部Bの縦断面の形状がU字型、V字型、短辺が最下部側となる台形型等となるような形状が挙げられる。処理容器12の底部Bの形状を、底部Bのレーザー光Lが照射される領域にターゲットが集まるような形状とすることにより、レーザー光Lの照射によってターゲットから粒子が放出される際に、かかる放出粒子によりターゲットの粉末が押しのけられて移動したとしても、レーザー光Lの照射される領域にターゲットの粉末が重力等により集まるため、より高い効率でターゲットに対してレーザーアブレーション処理を施すことが可能となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
図1に示すような液相レーザーアブレーション装置を用いて、液相レーザーアブレーション処理を施した。すなわち、先ず、レーザー発振器10としてNd:YAGレーザー装置を用い、処理容器12としてガラス製の瓶(直径:5.5cm、高さ:9.5cmのコップ状の容器)を用い、溶媒13としては純水(100mL)を用いた。また、ターゲット14としてはパラジウムの粉末(密度2.06g/m、平均一次粒子径1μm:SEMにより確認)を1.0g用いた。また、このようなパラジウム粉末は、先ず、処理容器12内に純水を導入した後に添加することにより、処理容器12の底部B上に堆積させた。なお、処理容器12の底部Bからのパラジウム粉末の厚みは最大で3mmであった。
【0037】
また、液相レーザーアブレーション処理に際しては、上述のような装置を用いて、レーザー発振器10からNd:YAGレーザーの2倍高周波の波長532nmのレーザー光Lを400mJ/pulse,10Hzの条件で発振し、ターゲット14に対して、レーザー光Lを処理容器12の底部Bを透過させて照射した。なお、ターゲット14へのレーザー光の照射光形状のサイズは直径10mmであった。また、レーザー光Lはフルエンスに換算すると0.51J/cmであった。このようにして、処理容器12の底部B上に配置された粉末状のターゲット14にレーザー光Lを60分間照射してレーザーアブレーションを施してコロイドを得た。
【0038】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が10nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は平均15.2mg/hであった。
【0039】
(実施例2)
ガラス製の瓶の代わりにガラス製の梨型フラスコ(容量100mL)を処理容器12として用いた以外は実施例1と同様にして液相レーザーアブレーション処理を施して、コロイドを得た。なお、処理容器12の底部Bの最下部からのパラジウム粉末の厚みは、3mmであった。
【0040】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が10nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は23.7mg/hであった。
【0041】
(実施例3)
パラジウムの粉末の代わりに銅の粉末(密度5.09g/m、平均一次粒子径60μm:SEMにより確認)を1.6g用いた以外は実施例2と同様にして液相レーザーアブレーション処理を施して、コロイドを得た。なお、処理容器12の底部Bの最下部からの銅粉末の厚みは、4mmであった。
【0042】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が1nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は23.8mg/hであった。
【0043】
(実施例4)
パラジウムの粉末の代わりにSiCの粉末(密度0.070g/m、平均一次粒子径1.2μm:SEMにより確認)を1g用いた以外は実施例2と同様にして液相レーザーアブレーション処理を施して、コロイドを得た。なお、処理容器12の底部Bの最下部からのSiCの厚みは、11mmであった。
【0044】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が5nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は109mg/hであった。
【0045】
(実施例5)
パラジウムの粉末の代わりに黒鉛の粉末(密度0.279g/m、平均一次粒子径100μm:SEMにより確認)を1g用いた以外は実施例2と同様にして液相レーザーアブレーション処理を施して、コロイドを得た。なお、処理容器12の底部Bの最下部からの黒鉛粉末の厚みは、12mmであった。
【0046】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が5nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は109mg/hであった。
【0047】
(比較例1)
図2に示す液相レーザーアブレーション装置を用いて、液相レーザーアブレーション処理を施した。図2に示す液相レーザーアブレーション装置は、基本的に、レーザー発振器10と、レーザー光Lの光路上に配置されたミラー11と、集光レンズ21と、石英製の窓Wを備える密封型の処理容器12と、溶媒13と、処理容器12に保持されたターゲット14とを備える。
【0048】
このような液相レーザーアブレーション装置においては、レーザー発振器10としてNd:YAGレーザー装置を用い、集光レンズ21として焦点距離が100mmの合成石英レンズを用いた。なお、ターゲット14の表面上の集光サイズが直径1.2mmとなるように、集光レンズ21は処理容器12の窓Wに密着させるようにして配置した。また、処理容器12としては、石英製の窓Wが設置される面及びターゲット14が保持される面が円形であり、且つ、長さが100mmの円筒状の容器(容器内の円形の面の内径が80mm)を用いた。また、このような処理容器12はアクリル樹脂製のものとし、窓Wは直径40mm、厚み8mmの石英製のものとした。また、溶媒13としては純水を用い、容器12内を溶媒13で満たした。また、ターゲット14としては直径40.0mm、厚み1.0mmのパラジウム製の円盤を用いた。
【0049】
そして、液相レーザーアブレーション処理に際しては、かかる装置を用いて、レーザー発振器10からNd:YAGレーザーの2倍高周波の波長532nmのレーザー光Lを400mJ/pulse,10Hzの条件で発振し、集光レンズ12により、ターゲット14の表面上の集光サイズが直径1.2mmとなるようにして、純水中においてレーザー光Lをターゲットに照射した。なお、このようにして照射したレーザー光Lはフルエンスに換算すると35.4J/cmであった。また、このようなレーザー光Lの照射時間は60分間とした。なお、レーザー光Lの照射の際には、ターゲット14の表面の同じ位置に繰り返しレーザー光Lが照射されて穴が開ないように、ミラー11を適宜回転させながらレーザー光Lを照射した。
【0050】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が15nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は0.75mg/hであった。
【0051】
(比較例2)
直径40.0mm、厚み1.0mmのパラジウム製の円盤の代わりに、ターゲットとして直径40.0mm、厚み1.0mmの銅製の円盤を用いた以外は比較例1と同様にして液相レーザーアブレーション処理を施して、コロイドを得た。
【0052】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が10nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は5.5mg/hであった。
【0053】
(比較例3)
先ず、実施例1で用いたものと同様の処理容器(ガラス製の瓶)を用い、その処理容器中に溶媒としての純水(100mL)を導入した。次に、処理容器中にターゲットとしての銅の粉末(密度5.09g/m、平均一次粒子径60μm:SEMにより確認)を1g添加し、処理容器の底部上にターッゲットの粉末を堆積させた。次に、処理容器内の純水をマグネチックスターラーを用いて回転速度1200rpmで撹拌して純水中にターゲットを分散させながら、実施例1で用いたものと同様のレーザー発振器を用いて、処理容器の上部(開口部)側から溶媒にレーザー光を入射させることにより、溶媒を介してターゲットに対してレーザー光を照射した。そして、このようなレーザー光の照射に際して、レーザー光の照射条件や照射時間は実施例1と同様にし、これによりコロイドを得た。
【0054】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が10nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は平均6mg/hであった。
【0055】
(比較例4)
マグネチックスターラーを用いず、処理容器の底部上にターッゲットの粉末を堆積させたままの状態で、処理容器の上部(開口部)側から溶媒にレーザー光を入射させて、溶媒を介してターゲットにレーザー光を照射した以外は、比較例3と同様にして液相レーザーアブレーション処理を施して、コロイドを得た。
【0056】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて溶媒13(純水)を加熱蒸発させて、粒子を回収した。このようにして回収された粒子は平均粒子径が10nmのナノメートルサイズの粒子であった。また、このような粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は0.5mg/hであった。
【0057】
このような結果から、本発明(実施例1〜5)によれば、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率が十分に向上することが確認された。なお、実施例1と実施例2の結果から、実施例2において収率がより向上した理由を検討したところ、梨型フラスコを用いてアブレーションを行った場合、処理容器12の形状から、アブレートして生成された粒子が液中に放出される際に周囲のターゲット粉末が押しのけたとしても、そのターゲット粉末が重力により底部Bに向かって自然に沈降して集まること、並びに、本実施例においては処理容器12の底部Bにおいてターゲット粉末が堆積している領域の横断面の最大面の直径が概ね12mmであり、その大きさがレーザー光の照射面形状とほとんど同じサイズであることから、より高い効率でアブレーションを行うことが可能でったこと等に起因するものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、液相中で連続的に安定してレーザーアブレーション処理を施すことができ、液相レーザーアブレーション処理による粒子の製造効率を十分に高度なものとすることが可能な液相レーザーアブレーション装置並びにそれを用いた液相レーザーアブレーション方法を提供することが可能となる。従って、本発明の液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション方法は、電子素子、光素子、記録媒体、電池、触媒等に用いるナノメートルサイズの微粒子を製造するための装置及び方法として特に有用である。
【符号の説明】
【0059】
10…レーザー発振器、11…ミラー、12…処理容器、13…溶媒、14…ターゲット、L…レーザー光、B…処理容器の底部、21…集光レンズ、W…窓。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中のターゲットに対してレーザー光を照射して液相中でレーザーアブレーションを行うために用いる液相レーザーアブレーション装置であって、
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、
前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、
前記処理容器内の底部上に配置させたターゲットと、
を備え、且つ、前記処理容器が、前記ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光が照射されるように配置されていることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項2】
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させたターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記ターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において粒子を形成することを特徴とする液相レーザーアブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−161379(P2011−161379A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27490(P2010−27490)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】