説明

混合溶剤

【課題】発泡ポリスチレン等のプラスチック系廃棄物を劣化させることなく減容化し、容易に回収できるプラスチック廃棄物用の溶剤を提供する。
【解決手段】塩化メチレンと、比重0.79以上の脂肪族アルコールとからなる混合溶剤である。発泡ポリスチレン等のプラスチック廃棄物を混合溶剤に溶解することで、減容化したプラスチック廃棄物を混合溶剤上に浮遊させることができるので、浮遊物の回収により減容化したプラスチック廃棄物の回収を容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック廃棄物を減容化する混合溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、特に、ポリスチレンは、成形しやすく電気特性に優れているため、各種の道具、装置、調度品等の素材としての木材または金属の代替物として用いられるほかに、発泡ポリスチレンは断熱材、緩衝材、食品容器などとして多量に使用されている。ポリスチレンのこのように広い応用範囲に基づいて、使用後の処分されねばならない廃棄物の発生する割合も当然多くなっている。
【0003】
この発泡ポリスチレンを始めとするプラスチックは、自然の環境条件に対して極めて安定な化学的特性を有していて、水に不溶であり、空気中の酸素によって侵されず、しかも地上に棲息している微生物等によって他の物質に変換されず、分解されることもない。従って、大量に生産された発泡ポリスチレン等のプラスチック類は、廃棄処理上で大きな問題を惹起している。
【0004】
即ち、発泡ポリスチレンについていえば、発泡ポリスチレンは、その剛性、断熱性、軽量性との観点から魚介類の包装容器、即ちトロ箱として木箱に代わって大量に使用されている。通常、トロ箱として用いる発泡ポリスチレンは、50倍発泡と呼ばれ、原料のポリスチレンを空気や揮発性液体、発泡剤などにより50倍に発泡させたものが用いられている。その原料ポリスチレンは発泡体の高々2%程度であり、その容積が甚だ大容積であるために運送効率が非常に悪い。従って、使用済の発泡ポリスチレン製トロ箱はその使用後の処理に大変苦慮しており、通常、魚市場等の大量の廃棄物が発生する場所では、その場で加熱溶融し、ポリスチレンのインゴット状やペレット状とし、良質の再生品は玩具などの原料として再利用に回し、悪質なものは埋め立て処理している。しかし、この加熱溶融処理は、加熱することにより発生する悪臭と黒煙で二次公害を発生するばかりでなく、ポリスチレンの劣化を引き起こし、再利用に回す良品が得られ難い。
【0005】
また、加熱溶融処理以外に、発泡ポリスチレンを溶剤で溶解して減容化した後、回収する方法が提案されている。このための溶剤として、塩化メチレンと、炭素数1〜6の脂肪族アルコールとからなる混合溶剤を用いたプラスチック系廃棄物用の溶剤を用いることが提案されている(特許文献1参照)。この溶剤に溶解した発泡ポリスチレンの溶解物は溶剤中で沈殿するので、沈殿物を回収することにより溶解物の回収が容易に行われる。
【特許文献1】特開2001−220461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の溶剤では、沈殿物を溶剤の入った溶解槽の下部から回収するので、溶剤の上清を他の容器に移す必要があり、手間がかかるという難点があった。
【0007】
本発明の課題は、発泡ポリスチレン等のプラスチック系廃棄物を劣化させることなく減容化し、容易に回収できるプラスチック廃棄物用の溶剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、塩化メチレンと、比重0.79以上の脂肪族アルコールとからなることを特徴とする混合溶剤である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の混合溶剤であって、比重0.79以上の脂肪族アルコールが、メタノールまたはエタノールであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の混合溶剤であって、塩化メチレンと、比重0.79以上の脂肪族アルコールとを、1:1〜9:1の重量比で混合してなることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の混合溶剤であって、塩化メチレンと、比重0.79以上の脂肪族アルコールとを、3:1〜4:1の重量比で混合してなることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の混合溶剤であって、発泡ポリスチレンの減容化に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発泡ポリスチレン等のプラスチック廃棄物を混合溶剤に溶解することで、減容化したプラスチック廃棄物を混合溶剤上に浮遊させることができるので、浮遊物の回収により減容化したプラスチック廃棄物の回収を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に述べる。本発明の混合溶剤の一方の成分として用いるのは塩化メチレンである。塩化メチレン(ジクロロメタン)は、塩化メチルを塩素化するか、若しくはクロロホルムを亜鉛と酢酸で還元して製造される沸点40.2℃、比重1.3266の無色の液体である。
【0015】
また、本発明の混合溶剤の他方の成分として用いるのは常温で比重が0.79以上の脂肪族アルコールである。具体的には、比重0.7928のメタノール、比重0.7947のエタノール等を用いることができるが、他の比重が0.79以上の脂肪族アルコールも用いることができる。また、比重が0.79以上となるように複数種の脂肪族アルコールを混合して用いてもよい。
【0016】
塩化メチレンと比重が0.79以上の脂肪族アルコールとの混合比率は、重量比で1:1〜9:1である。塩化メチレンと比重が0.79以上の脂肪族アルコールとの混合比率が重量比で1:1〜9:1であると、減容化した後の浮遊物が溶剤上に浮かぶため、回収が容易となる。
【0017】
また、塩化メチレンと比重が0.79以上の脂肪族アルコールとの混合比率は、重量比で3:1〜4:1であることがより好ましい。塩化メチレンと比重が0.79以上の脂肪族アルコールとの混合比率が5:1以上であると、プラスチック系廃棄物を減容化した後の浮遊物の粘性が低く、溶剤上に広がって浮かぶが、塩化メチレンと比重が0.79以上の脂肪族アルコールとの混合比率が3:1〜4:1であるとプラスチック系廃棄物を減容化した後の浮遊物が溶剤上に固まった状態で浮かぶため、回収がさらに容易となる。
【0018】
本発明におけるプラスチック系廃棄物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のハロゲン化系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂などの廃棄物が挙げられる。それらの内でポリスチレン系樹脂、その中でも特に毎日大量に発生し、容積が大きく処理に苦慮している発泡ポリスチレン系樹脂が好ましく挙げられる。
【0019】
溶解は、通常の溶解槽、例えばステンレス鋼(SUS鋼)製の溶解槽、に混合溶剤を導入し、次いで、発泡ポリスチレン廃棄物をそのまま、若しくは砕いて、さらには粉砕して入れ、通気口を有する蓋をして溶解する。蓋は混合溶剤が蒸発飛散するのを防止するためのものである。発泡ポリスチレン廃棄物は溶解すると同時に発泡体中の空気、ガスが抜け、減容化した後に溶剤上に浮遊する。発泡体から抜けた空気、ガスは蓋に設けた通気口より飛散する。
溶解温度は、溶剤の融点以上沸点以下であれば如何なる温度であってもよいが、通常は室温(20℃前後)で行うのが好ましい。
【0020】
減容化後の浮遊物は溶解槽から取り出し、これを蒸留して溶剤を回収すると同時にスチレンペレットを回収する。
蒸留温度は溶剤の沸点温度以上140℃以下であり、好ましくは50℃以上120℃以下であり、更に好ましくは60℃以上110℃以下である。蒸留温度が沸点以下では溶媒を蒸留除去できず、また140℃以上ではスチレンペレットが熱劣化してしまい再生用に使用できなくなる。
溶剤を除去されたスチレンペレットは、再生用プラスチックとして用いられる。
【0021】
発泡スチロール廃材が大量に発生する魚市場等で廃棄物の発生場所に設置する場合は、大型の溶解槽を用い、減容化後の浮遊物を蒸留して溶剤を回収する装置も一緒に装備し、スチレンペレットを同時に回収するシステムとする。また、スーパーの荷物集配所、廃棄発泡ポリスチレン集荷所、デパートや結婚式場などの比較的少量の廃棄発泡ポリスチレンの発生場所には溶解装置を置き、減容化後の浮遊物だけを回収し、回収した浮遊物を一括して蒸留、ペレット化処理を行う。
【0022】
また、溶剤の回収は減容化後の浮遊物のみの蒸留を行えばよく、溶剤全部の蒸留に比較して容易に処理できる。また溶液の溶剤は主に塩化メチレンであり、比較的低温で蒸留できるので、回収ポリスチレンが高温により劣化することを回避できる。
【0023】
本発明における溶剤に発泡ポリスチレン廃棄物を溶解した場合に、溶解物が浮遊する理由は定かではないが、混合溶剤の比重に関連するものと思われる。
【0024】
以下、本発明を実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
発泡ポリスチレン廃棄物を、塩化メチレンとメタノール(比重0.7928)とを4:1で混合した混合溶剤を収容したステンレス鋼製の溶解槽中へ導入し、25℃の室温で溶解させたところ、発泡ポリスチレン廃棄物は減容化後、固まった状態で溶剤上に浮遊した。
【0026】
発泡ポリスチレン廃棄物を、塩化メチレンとメタノール(比重0.7928)とを5:1で混合した混合溶剤を収容したステンレス鋼製の溶解槽中へ導入し、25℃の室温で溶解させたところ、減容化後の発泡ポリスチレン廃棄物は粘性が低く、溶剤上に広がって浮遊した。
【0027】
比較として、塩化メチレンとイソプロピルアルコール(比重0.7846)とを2:1で混合した混合溶剤を収容したステンレス鋼製の溶解槽中へ導入し、25℃の室温で溶解させたところ、発泡ポリスチレン廃棄物は減容化後、溶解槽の底へ沈殿した。
【0028】
このように、発泡ポリスチレン等のプラスチック廃棄物を本発明の混合溶剤を用いて溶解すると、減容化したプラスチック廃棄物が溶剤上に浮遊するので、浮遊物の回収により減容化したプラスチック廃棄物の回収を容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化メチレンと、比重0.79以上の脂肪族アルコールとからなることを特徴とする混合溶剤。
【請求項2】
比重0.79以上の脂肪族アルコールが、メタノールまたはエタノールであることを特徴とする請求項1に記載の混合溶剤。
【請求項3】
塩化メチレンと、比重0.79以上の脂肪族アルコールとを、1:1〜9:1の重量比で混合してなることを特徴とする請求項1または2に記載の混合溶剤。
【請求項4】
塩化メチレンと、比重0.79以上の脂肪族アルコールとを、3:1〜4:1の重量比で混合してなることを特徴とする請求項1または2に記載の混合溶剤。
【請求項5】
発泡ポリスチレンの減容化に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の混合溶剤。

【公開番号】特開2007−137985(P2007−137985A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332456(P2005−332456)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(596060480)
【出願人】(505192800)
【Fターム(参考)】