説明

混合触媒系を使用するエポキシ化法

本発明は、パラジウムを含むチタンゼオライトおよびパラジウムを含まないチタンゼオライトの存在下、オレフィンを酸素および水素を用いてエポキシ化する方法である。この方法は、酸素および水素を用いたオレフィンのエポキシ化において良好な生産性および選択性を示す。驚くべきことに、この方法において、パラジウムを含むチタンゼオライトに加えて、パラジウムを含まないチタンゼオライトが存在すると、この方法のパラジウムの生産性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合触媒系を使用して、水素、酸素、およびオレフィンからエポキシドを生成するエポキシ化法に関する。この混合触媒系は、パラジウムを含むチタンゼオライトと、パラジウムを含まないチタンゼオライトとを含む。驚くべきことに、パラジウムを含むチタンゼオライトに加えて、パラジウムを含まないチタンゼオライトが存在すると、パラジウムの単位量当たりの生産性が向上する。
【背景技術】
【0002】
エポキシドを調製するための多くの異なる方法が開発されてきた。一般的に、エポキシドは、触媒の存在下、オレフィンと酸化剤の反応によって形成される。プロピレンと、エチルベンゼンヒドロペルオキシドや、tert−ブチルヒドロペルオキシドなどの有機ヒドロペルオキシド酸化剤からのプロピレンの生産は、商業的に実施されている技術である。この方法は、可溶化したモリブデン触媒(米国特許第3,351,635号参照)、またはシリカ触媒上の不均質チタニア(米国特許第4,367,342号参照)の存在下で行われる。過酸化水素が、エポキシドの調製に有用なもう1つの酸化剤である。過酸化水素およびチタンケイ酸塩ゼオライトを使用するオレフィンのエポキシ化は、米国特許第4,833,260号において実証されている。これら両方の方法の1つの欠点は、オレフィンと反応する前に酸化剤を予備成形する必要があることである。
【0003】
もう1つの商業的に実施されている技術は、銀触媒上で酸素と反応させることによるエチレンの酸化エチレンへの直接エポキシ化である。遺憾ながら、銀触媒は、高級オレフィンの商業的エポキシ化において有用でないことがわかっている。従って、現在の研究は、触媒の存在下、酸素および水素を用いる高級オレフィンの直接エポキシ化に焦点を合わせてきている。この方法においては、酸素と水素はin situで反応して酸化剤を形成するものと思われる。従って、効果的な方法(および触媒)を開発することによって、予備成形された酸化剤を使用している商業的技術に比べて費用のかからない技術が期待される。
【0004】
多くの異なる触媒が、高級オレフィンの直接エポキシ化用に提案されてきた。例えば、特開平4−352771号および米国特許第5,859,265号、6,008,388号、および6,281,369号は、パラジウムなどの貴金属を組み込んだチタンゼオライト触媒を使用する酸化プロピレンの生成について開示している。更に、開示された他の触媒には、酸化チタンに担持させた金(例えば、米国特許第5,623,090号参照)、およびチタノケイ酸塩に担持させた金(例えば、PCT国際出願公開WO98/00413号参照)が含まれる。
【0005】
水素および酸素を用いたオレフィンエポキシ化のための混合触媒系も開示されてきた。例えば、特開平4−352711号の実施例13は、プロピレンのエポキシ化に、チタノケイ酸塩とPd/Cの混合物を使用することを記述している。米国特許第6,498,259号は、チタンゼオライトと、炭素、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、およびニオビアにパラジウムを担持させたパラジウム担持複合体との触媒混合物について記述している。更に、米国特許第6,441,204号は、チタンゼオライトと、ニオブを含む担体上のパラジウムとの混合物について記述している。加えて、米国特許第6,307,073号は、チタンゼオライトと、ジルコニア、チタニア、およびチタニア−シリカなどの担体上に金を担持させた金含有担持触媒を含む、オレフィンのエポキシ化に有用な混合触媒系を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
記述したこれら直接触媒の1つの欠点は、これら全てが、選択性または生産性において最適でないことである。他の化学的プロセスの場合と同様に、直接エポキシ化の方法および触媒において、更なる改善を達成することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸素および水素を用いたオレフィンの直接エポキシ化に使用する、有効で好都合なエポキシ化触媒混合物を発見した。
【0008】
本発明は、パラジウムを含むチタンゼオライトと、パラジウムを含まないチタンゼオライトとの触媒混合物の存在下、オレフィン、酸素、および水素を反応させることを含む、オレフィンのエポキシ化方法である。本方法は、パラジウムを含むチタンゼオライトだけを使用する場合に比べて、エポキシ化のパラジウム生産性を驚くほど向上させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法は、パラジウムを含むチタンゼオライトと、パラジウムを含まないチタンゼオライトとの触媒混合物を使用する。パラジウムを含むチタンゼオライト触媒は、当技術分野においてよく知られており、例えば特開平4−352771号ならびに米国特許第5,859,265号、6,008,388号、および6,281,369号に記載されている。かかる触媒は、パラジウムおよびチタンゼオライトを含む。パラジウムを含むチタンゼオライトは、更に、貴金属、好ましくは白金、金、銀、イリジウム、レニウム、ルテニウム、またはオスミウム、最も好ましくは白金または金を含むこともできる。
【0010】
パラジウムを含むチタンゼオライトと、パラジウムを含まないチタンゼオライトは、いずれもチタンゼオライトを含む。チタンゼオライトは、モレキュラーシーブの格子骨格中のケイ素原子の一部がチタン原子で置換されたクラスのゼオライト物質を含む。このような物質は、当技術分野においてよく知られている。特に好ましいチタンゼオライトには、通常チタンシリカライトと呼ばれるクラスの触媒、特に「TS−1」(ZSM−5アルミノシリケートゼオライトのそれと類似のMFI型を有する)、「TS−2」(ZSM−11アルミノシリケートゼオライトのそれと類似のMFL型を有する)、および「TS−3」(ベルギー特許第1,001,038号に記載されている)が含まれる。ゼオライトベータ、モルデナイト、ZSM−48、ZSM−12、およびMCM−41と同形の骨格構造を有するチタン含有触媒も使用に適している。チタンゼオライトは、ホウ素、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、銅などが少量存在してもよいが、格子骨格中には、チタン、ケイ素、および酸素以外の元素を含んでいないことが好ましい。
【0011】
パラジウム含有チタンゼオライト中のパラジウムの量は、一般的に0.01〜20重量%の範囲であり、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.03〜5重量%であることが特に好ましい。パラジウムを触媒に組み込む方法は、特に重要であるとは考えられない。例えば、パラジウムは、含浸などでゼオライト上に担持させることができる。あるいは、ゼオライト中に、例えばPdテトラアミン塩化物とのイオン交換によって、パラジウムを組み込ませることもできる。
【0012】
パラジウム源として使用されるパラジウム化合物の選択に、特別な制限はない。例えば、適切な化合物には、パラジウムの硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物)、カルボン酸塩(例えば、酢酸塩)、およびアミン錯体が含まれる。パラジウムは、0〜+4のどの酸化状態でよく、またはかかる酸化状態の組合せであってもよい。所望の酸化状態または酸化状態の組合せを実現するために、パラジウム化合物を、触媒に加えた後で、全体的にまたは部分的に予備還元することもできる。しかしながら、いかなる予備還元無しでも、満足すべき触媒性能を達成することができる。パラジウムの活性状態を実現するために、パラジウムを含むチタンゼオライトに、窒素中、真空中、水素中、または空気中の熱処理などの前処理を施すことができる。
【0013】
パラジウムを含むチタンゼオライトが、更に白金、金、銀、イリジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウムなどの貴金属を含む場合、貴金属の量は一般的に0.001〜10重量%の範囲で、0.01〜5重量%であることが好ましい。追加の貴金属を触媒に組み込む方法は、特に重要であるとは考えられない。追加の貴金属は、パラジウムを組み込むのと同じ技術を使用して、チタンゼオライトに加えることができる。追加の貴金属は、パラジウムの組込みの前、途中、および終了後に加えることができる。
【0014】
本発明の方法は、パラジウムを含まないチタンゼオライトも使用する。「パラジウムを含まない」とは、チタンゼオライトに、パラジウムが加えられていないことを意味する。パラジウムを含まないチタンゼオライトは、パラジウムを含むチタンゼオライトの一部を構成するのと同じゼオライトでもよく、あるいは別のものでもよい。
【0015】
パラジウムを含むチタンゼオライトとパラジウムを含まないチタンゼオライトは、粉末の混合物としてまたはペレット状の混合物として、本エポキシ化方法に使用することができる。更に、パラジウムを含むチタンゼオライトとパラジウムを含まないチタンゼオライトは、エポキシ化に使用する前に、一緒にペレットにするかまたは一緒に押出物にしてもよい。一緒にペレットまたは押出物にする場合、触媒混合物は更にバインダーなどを含むこともでき、エポキシ化に使用する前に型成形し、スプレー乾燥し、所望の形に成形あるいは押出しすることもできる。パラジウムを含むチタンゼオライトとパラジウムを含まないチタンゼオライトの重量比は、特に重要ではない。ただし、パラジウムを含むチタンゼオライトとパラジウムを含まないチタンゼオライトの比(パラジウムを含まないチタンゼオライト(グラム)当たりのパラジウムを含むチタンゼオライト(グラム))は、0.01〜100であることが好ましく、0.1〜10であることが特に好ましい。
【0016】
パラジウムを含むチタンゼオライトとパラジウムを含まないチタンゼオライトとの混合物は、酸素および水素を用いたオレフィンのエポキシ化を触媒するのに有用である。このエポキシ化方法は、触媒混合物の存在下、オレフィン、酸素、および水素を接触させることを含む。適切なオレフィンには、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有し、一般的に2〜60個の炭素原子を含むどのオレフィンも含まれる。オレフィンは、2〜30個の炭素原子からなる非環式アルケンであることが好ましく、本発明の方法は、C2〜C6オレフィンのエポキシ化に特に適している。ジエンまたはトリエンのように、2個以上の二重結合が存在してもよい。オレフィンは、炭化水素(すなわち、炭素および水素原子だけを含む)でよく、あるいは、ハロゲン化物、カルボキシル、ヒドロキシル、エーテル、カルボニル、シアノ、またはニトロ基などの官能基を含んでもよい。本発明の方法は、とりわけプロピレンをプロピレンオキシドに転換するのに有用である。
【0017】
酸素および水素も、エポキシ化方法に必要である。どの酸素源および水素源も適しているが、分子状酸素および分子状水素が好ましい。
【0018】
本発明によるエポキシ化は、所望のオレフィンのエポキシ化が実現するのに有効な温度で実施され、0〜250℃の温度範囲が好ましく、20〜100℃がより好ましい。水素と酸素のモル比は、通常H2:O2=1:10〜5:1の範囲とすることができ、1:5〜2:1が特に好ましい。酸素とオレフィンのモル比は、通常2:1〜1:20であり、1:1〜1:10が好ましい。ある種のオレフィンでは、相対的に高い酸素とオレフィンのモル比(例えば、1:1〜1:3)が有利なことがある。キャリアガスをこのエポキシ化方法に使用することもできる。キャリアガスとして、所望のどんな不活性ガスも使用することができる。その場合、オレフィンとキャリアガスのモル比は、通常100:1〜1:10、とりわけ20:1〜1:10の範囲である。
【0019】
不活性ガスキャリアとしては、窒素および二酸化炭素に加えて、ヘリウム、ネオン、およびアルゴンなどの希ガスが適している。1〜8個、とりわけ1〜6個、好ましくは、例えばメタン、エタン、プロパン、n−ブタンなど、1〜4個の炭素原子を有する飽和炭化水素も適している。窒素および飽和C1〜C4炭化水素が、好ましい不活性キャリアガスである。上記に挙げた不活性キャリアガスの混合物も使用することができる。
【0020】
特にプロピレンのエポキシ化においては、適当な過剰キャリアガスの存在下、プロピレン、プロパン、水素、および酸素の混合物の爆発限界が安全に避けられ、かつ反応容器内または供給および排出管路に爆発性混合物が形成されないように、プロパンを供給することができる。
【0021】
パラジウムを含むチタンゼオライトとパラジウムを含まないチタンゼオライトとの使用量は、パラジウムを含むチタンゼオライト中のパラジウム量を含めて、多くの要因に従って変わり得る。触媒混合物の総量は、(パラジウムを含むチタンゼオライトおよびパラジウムを含まないチタンゼオライトに含まれる)チタンと、単位時間当たり供給されるオレフィンのモル比に基づいて決定することができる。一般的に、0.0001から0.1時間までのチタン/オレフィン供給比を提供するために、十分な触媒混合物が存在する。エポキシ化に必要な時間は、ガスの時間当たりの空間速度、すなわち、単位時間当たり、触媒の単位体積当たりのオレフィン、水素、酸素およびキャリアガスの全体積(GHSVと略称)に基づいて決定することができる。10〜10,000/時間-1の範囲のGHSVが、一般的に満足のいくものである。
【0022】
本発明によるエポキシ化は、反応させるべきオレフィンに応じて液相、気相、または超臨界相で実施することができる。液体反応媒体を使用する場合、触媒は懸濁物または固定床の形であることが好ましい。方法は、連続流、半バッチ式またバッチ式運転モードを使用して行うことができる。
【0023】
液体(または超臨界)相中でエポキシ化を実施する場合は、1〜100バールの圧力で、1種または複数の溶媒の存在下で反応させるのが有利である。適切な溶媒には、それだけには限らないが、アルコール、水、超臨界CO2、あるいはこれらの混合物が含まれる。適切なアルコールには、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノールなどのC1〜C4のアルコール、またはこれらの混合物が含まれる。フッ化アルコールを使用することもできる。前述のアルコールと、水の混合物を使用することが好ましい。
【0024】
エポキシ化を液相(または超臨界相)で実施する場合は、緩衝剤を使用するのが有利である。緩衝剤は、一般的に溶媒に加えられて緩衝溶液を生成する。緩衝溶液は、エポキシ化中にグリコール類の生成を抑制するために反応中に使用される。緩衝剤は、当技術分野においてよく知られている。
【0025】
本発明で有用な緩衝剤には、混合物中において、その溶液のpHが3〜10、好ましくは4〜9、より好ましくは5〜8となるような、性質および特性の、どんなオキシ酸の適切な塩も含まれる。オキシ酸の適切な塩は、アニオンおよびカチオンを含む。塩のアニオン部分には、リン酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、カルボン酸イオン(例えば、酢酸イオン、フタール酸イオンなど)、クエン酸イオン、ホウ酸イオン、水酸化物イオン、ケイ酸イオン、アルミノケイ酸イオンなどのアニオンが含まれ得る。塩のカチオン部分には、アンモニウム、アルキルアンモニウム(例えば、テトラアルキルアンモニウム、ピリジニウムなど)、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなどのカチオンが含まれてもよい。カチオンの例としては、NH4、NBu4、NMe4、Li、Na、K、Cs、Mg、およびCaカチオンが含まれる。より好ましい緩衝剤には、アルカリ金属リン酸塩およびリン酸アンモニウムの緩衝剤が含まれる。緩衝剤は1種を超える適切な塩の組合せを含むことが好ましいことがある。一般的に、溶媒中の緩衝剤の濃度は、約0.0001M〜約1M、好ましくは約0.001M〜約0.3Mである。本発明において有用な緩衝剤には、反応系へのアンモニアガスの添加も含まれ得る。
【0026】
エポキシド製品が、本発明の方法によって生成される。
【実施例】
【0027】
以下の実施例は、発明を例示するものにすぎない。当業者は、本発明の精神および特許請求の範囲に含まれる多くの変形を認識するであろう。
【0028】
実施例1 触媒の調製
触媒1A:スプレー乾燥したTS−1(112g、80%TS−1/20%シリカ、Tiを1.7重量%含む)を、空気中550℃で焼成して、丸底フラスコに入れ、次に脱イオン水(250ml)中でスラリーにする。このスラリーに、(1.3gを90g脱イオン水中に溶解した)Pd(NH34Cl2水溶液を加えて30分間混合する。スラリーを、30℃の水浴中、ロータリーエバポレータ(30rpm)で更に2時間混合する。固形分をろ過によって分離し、フィルタケーキを、脱イオン水(140ml)中で再スラリー化し、再度ろ過することで洗浄する。洗浄は4回行う。固形分を一夜風乾し、50℃の真空オーブン中で8時間乾燥する。元素分析によれば、乾燥した材料はPdを0.34重量%、チタンを1.67重量%含み、残留塩化物は20ppm未満であった。
【0029】
この乾燥した固形分を、オーブン中で110℃まで加熱(10℃/分)して110℃で4時間保持し、次に150℃まで加熱(2℃/分)して150℃で4時間保持することにより空気中で焼成する(calcine)。焼成した固形分を石英管に移し、50℃において4時間水素(窒素中5%、100mL/分)で処理し、続いて窒素だけで1時間処理し、その後室温に冷却し触媒1Aを分離する。
【0030】
触媒1B:触媒1Bは、Pd(NH34Cl2水溶液が、脱イオン水30g中にPd(NH34Cl2を0.45gしか含んでいない点以外は、触媒1Aと同じ手順に従って調製した。触媒1Bは、Pdを0.11重量%、チタンを1.7重量%含み、残留塩化物は20ppm未満であった。
【0031】
触媒1C:TS−1粉末(Ti含有量2.2重量%、空気中550℃で焼成)を、脱イオン水(100g)中でスラリーにする。(0.5gをアセトン50ml中に溶解した)酢酸パラジウム溶液を、窒素雰囲気中5分間かけてスラリーに添加し、次に混合物をロータリーエバポレータ(30rpm)で窒素雰囲気中、23℃で30分間、50℃で4時間回転させる。この液体の約1/2を真空中で除去し、次に固形物をろ過により分離し、50gの脱イオン水で2回洗浄し、110℃で4時間乾燥する。元素分析によれば、乾燥した材料はPdを0.4重量%、チタンを2.17重量%含む。
【0032】
固形分を石英管に移し、60℃で2時間水素(窒素中5%、100mL/分)で処理し、続いて窒素だけで1時間処理し、その後室温に冷却し触媒1Cを分離する。
【0033】
実施例2 緩衝剤の調製
緩衝剤2A 0.1モルpH6リン酸アンモニウム緩衝液:リン酸二水素アンモニウム(NH42PO4、11.5g)を脱イオン水(900g)中に溶解する。次に、水酸化アンモニウム水溶液(30%NH4OH)を、pHメータがpH6を示すまでこの溶液に添加する。次に、脱イオン水を加えることにより溶液の体積を1000mLに増量する。
【0034】
緩衝剤2B 0.2モルpH7リン酸アンモニウム緩衝液:アンモニウム二水素リン酸塩(23g)を脱イオン水(900g)中に溶解する。次に、水酸化アンモニウム水溶液(30%NH4OH)を、pHメータがpH7を示すまでこの溶液に添加する。次に、脱イオン水を加えることにより、溶液の体積を1000mLに増量する。
【0035】
実施例3:MEOH/水中でのプロピレンのエポキシ化
実施例3A:触媒1A(0.2g)、スプレー乾燥したTS−1(0.5g、80%TS−1/20%シリカ、Tiを1.7重量%含む)、緩衝剤2A(13g)、およびメタノール(100g)を、300ccのステンレス製反応器に充填する。次に、この反応器に、H22容量%、O24容量%、プロピレン5容量%、メタン0.5容量%、残りが窒素ガスからなる供給物を充填して、約21kg/cm2(300psig)にする。供給ガスを1600cc/分(21℃および1気圧で測定)で絶えず反応器に通しながら、反応器の圧力を背圧調整器により約21kg/cm2(300psig)に維持する。実験中に反応器中の溶媒レベルを一定に維持するために、酸素、窒素、およびプロピレンの供給物を、反応器の前に、まず1.5リットルのメタノールを入れた2リットルのステンレス製容器(飽和器)に通す。反応器を1500rpmで攪拌し、反応混合物を60℃に加熱する。気体排出物をオンラインGCで毎時分析し、液体を18時間の運転(run)後にオフラインGCで分析する。結果を表1に示す。
【0036】
比較例3B:比較例3Bは、0.7gの触媒1Bを唯一の触媒として使用する点以外は、実施例3Aの手順に従って行う。結果を表1に示す。
【0037】
実施例4:水中でのプロピレンのエポキシ化
実施例4A:触媒1C(12g)、TS−1粉末(12g、Ti含有量2.2重量%、空気中550℃で焼成)、および緩衝剤2B(376g)を、1リットル容のステンレス製反応器に充填する。次にこの反応器に、H24容量%、O24容量%、プロピレン27容量%、メタン0.5容量%、残りが窒素ガスで構成される供給物を充填して、約35kg/cm2(500psig)にする。供給ガスを405L/時間(21℃および1気圧で測定)で絶えず反応器に通しながら、反応器の圧力を背圧調整器によって約35kg/cm2(500psig)に維持する。反応器を500rpmで攪拌し、反応混合物を60℃に加熱する。ガス状排出物をオンラインGCで毎時分析し、液体を18時間の運転後にオフラインGCで分析する。結果を表1に示す。
【0038】
比較例4B:比較例4Bは、反応器に触媒1C(12g)と緩衝剤2B(388g)だけを充填する点以外は、実施例4Aの手順に従って行う。結果を表1に示す。
【0039】
結果は、触媒混合物(Pd/TS−1プラスTS−1)を使用すると、Pd/TS−1だけを使用する場合に比べて予期しない利点があることを示している。触媒混合物中のパラジウムは、Pd/TS−1触媒だけのパラジウムに比べて、より多くのエポキシドを生成する。例えば、実施例3のメタノールを使用した実験は17%高いパラジウムの生産性を示し、また実施例4の水を使用した実験は36%高いパラジウムの生産性を示している。高いパラジウムの生産性に加えて、触媒合成の点で経済的に有利なことがある。実施例3で実証されたように、(より多量のパラジウムが必要であるものの)総TS−1の極くわずかだけにパラジウムを組み込めばよく、パラジウムを含まないTS−1を加えても僅かに高い生産性をもたらすことができる。この知見から、パラジウム組込みにおいて処理する必要のあるTS−1が少なくなるため、経済的節約をもたらすことができる。また、触媒混合物を使用した場合、PO/POE選択性は影響を受けないかまたは若干改善される。「POE」とは、ポリエチレン酸化物(PO)、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)、1−メトキシ−2−プロパノール(PM−I)、2−メトキシ−1−プロパノール(PM−2)、およびアセトールを含むPO相当物を意味する。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムを含むチタンゼオライトとパラジウムを含まないチタンゼオライトとを含む触媒混合物の存在下、オレフィン、水素および酸素を反応させることを含むエポキシドの生成方法。
【請求項2】
前記パラジウムを含むチタンゼオライトが、パラジウムおよびチタンシリカライトを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チタンシリカライトが、TS−1である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラジウムを含むチタンゼオライトが、パラジウム、チタンゼオライト、ならびに白金、金、銀、イリジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される貴金属を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記貴金属が、白金、金およびこれらの混合物からなる群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パラジウムを含むチタンゼオライトが、約0.01重量%から約10重量%までのパラジウムを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記パラジウムを含まないチタンゼオライトが、チタンシリカライトである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記パラジウムを含まないチタンゼオライトが、TS−1である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記オレフィンがC2〜C6オレフィンである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記オレフィンがプロピレンである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
オレフィン、水素および酸素の反応が溶媒中で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒が、水、C1〜C4アルコール、超臨界CO2、およびこれらの混合物からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒が、緩衝剤を含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
パラジウムを含むチタンシリカライトとパラジウムを含まないTS−1とを含む触媒混合物の存在下、溶媒中でプロピレン、水素および酸素を反応させる方法であって、前記パラジウムを含むチタンシリカライトがパラジウムおよびチタンシリカライトを含む方法。
【請求項15】
前記チタンシリカライトがTS−1である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記パラジウムを含むチタンゼオライトが、白金、金、銀、イリジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される貴金属を更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒が、水、C1〜C4アルコール、超臨界CO2、およびこれらの混合物からなる群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒が、緩衝剤を含む請求項14に記載の方法。
【請求項19】
請求項1の方法によって生成される生成物。
【請求項20】
請求項14の方法によって生成される生成物。

【公表番号】特表2007−534666(P2007−534666A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551167(P2006−551167)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/001163
【国際公開番号】WO2005/077531
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(505341095)ライオンデル ケミカル テクノロジー、 エル.ピー. (61)
【氏名又は名称原語表記】LYONDELL CHEMICAL TECHNOLOGY, L.P.
【Fターム(参考)】