説明

混練方法

【課題】混練材料に十分大きなせん断力を加えることができ、かつ均一な混練物を得ることができる混練方法を提供することを目的とする。
【解決手段】混練材料を収容する混練槽と、該混練槽に収容された混練材料を混練する並列した1対の軸を有するブレードと、を備えた混練装置を用いる混練方法であって、前記混練材料は、粉末、樹脂、溶媒を含み、前記混練方法は、粉末を溶媒で濡らす湿潤工程を含み、しかる後に粉末を樹脂および溶媒で練り合わせる混練工程をふくみ、前記湿潤工程から前記混練工程にかけて前記混練材料の温度範囲が−10℃〜15℃になるように行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体を樹脂および溶媒で混練する混練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体、樹脂、溶媒を混練して混練物を得る、また、この混練物を溶媒でさらに希釈し、分散して塗料化して、支持体上に塗布することにより様々な用途の製品が製造される。例えば、粉体にカーボンブラック、樹脂にゴムを用いると様々なゴム加工製品が得られる。粉体に磁性粉末、顔料、透明性粉末、導電性粉末を用いることにより、磁気記録媒体、塗料、インク、反射防止フィルム、導電性フィルムなどを製造することができる。これらの製品の製造の前工程として、混練工程は製品の品質を決定する重要な工程である。
粉体、樹脂、溶媒を含む混練材料を中、高粘度から超高粘度の状態で、混練、捏和処理を行うには、混練槽(ステータ)内に混練材料を入れ、混練槽内に並列に設置され、強力に反対方向に回転するブレ−ド(ロータ)を備えた混練装置で行われる。通常、混練装置では粉体に大きなせん断力を加えるため、混練材料は高温になるために、混練槽およびブレードは、冷却水等を通して冷却可能に設計されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献2では、連続式2軸混練機を用いて磁性塗料を混練する混練工程を含む磁性塗料の製造方法において、上記混練機の混練部に加熱・冷却可能な装置を装備し、該混練部の温度を20〜50℃に制御することが開示されている。
【0004】
特許文献3では、混練工程の一連の温度変化に対応するように設定温度を決定した後、混練物の温度を前記設定温度に追従させるように、該混練物の物性に直接関係する制御要素を制御しながら混練することを特徴とする密閉型混練装置の混練制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−62532号公報
【特許文献2】特開平9−12932号公報
【特許文献3】特開平11−57445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に紹介されているような混練装置を用いて、特許文献2に開示されている条件で混練を行い、必要に応じて、特許文献3にあるような、制御方法を用いて混練工程の一連の温度変化に対応することは可能である。
【0007】
しかし、これらの従来技術は、混練工程における過大な発熱の制御に主眼が置かれ、必ずしも積極的に、十分良好な混練条件を提供しているは言えなかった。
【0008】
本発明は、混練材料に十分大きなせん断力を加えることができ、かつ均一な混練物を得ることができる混練方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、混練方法について鋭意検討した結果、混練方法を下記の構成にすれば、上記目的を達成できることを見出し本発明をなすに到った。
すなわち、混練材料を収容する混練槽と、該混練槽に収容された混練材料を混練する並列した1対の軸を有するブレードと、を備えた混練装置を用いる混練方法であって、前記混練材料は、粉末、樹脂、溶媒を含み、前記混練方法は、粉末を溶媒で濡らす湿潤工程を含み、しかる後に粉末を樹脂および溶媒で練り合わせる混練工程をふくみ、前記湿潤工程から前記混練工程にかけて前記混練材料の温度範囲が−10℃〜15℃になるように行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、湿潤工程を行って粉末表面を良好に溶媒で湿潤させた後、湿潤工程から前記混練工程にかけて混練材料の温度範囲が−10℃〜15℃になるように行っているので、樹脂液の粘度が高くなり、粉体に大きな剪断力を加えて混練することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】混練強度を変えた場合の混練時の負荷電流の変化を示すチャート図である。
【図2】本発明の混練方法を行った時の混練時の負荷電流の変化を示すチャート図である。
【図3(a)】実施例1より得られた磁気シートの磁性層の表面写真である。
【図3(b)】比較例1より得られた磁気シートの磁性層の表面写真である。
【図3(c)】比較例3より得られた磁気シートの磁性層の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によれば、粉末、樹脂、溶媒を含む混練材料に大きなせん断力を加えて粉末を樹脂液中に均一に分散することができる。また、得られた高粘度の混練物を効率よく希釈して低粘度の希釈物に希釈することができる。
【0013】
ここでいう粉末とは、有機、無機、金属などから構成させる粉末状の材料で、溶剤に不溶のものをいう。
【0014】
本発明の混練方法を実施するための混練装置には特に制限なく、従来公知の混練装置を使用することができる。例えば、特許文献1に開示されている混練装置を使用することができる。
【0015】
本発明の混練方法は、湿潤工程と混練工程とを含む。湿潤工程とは、粉末材料を溶媒または樹脂溶液で粉末材料の表面を濡らす工程をいう。湿潤工程において、粉末材料の表面は、空気から溶媒または樹脂溶液に置換される。
【0016】
湿潤工程においては、粉末材料と、溶媒または樹脂液が混練槽内で回転するブレード混合される。湿潤工程においては、上記材料が一体にならず、さらさらとした粉末状態で混合されることが必要である。それ故に、湿潤工程においては、混練装置のブレードの負荷電流値は通常低く保たれている。
【0017】
湿潤工程は5〜120分間行うことが好ましい。この範囲が好ましいのは、5分未満では、粉末材料の表面が十分に濡れない場合があり、120分を超えると、濡れ状態が飽和に達している場合があるからである。
【0018】
湿潤工程における混練材料の温度は20〜60℃が好ましい。この範囲が好ましいのは、20℃未満では、粉末材料の表面が十分に濡れない場合があり、60℃を超えると、溶媒が蒸発し易くなったり、樹脂が熱劣化する場合があるからである。
【0019】
湿潤工程における混練材料の温度制御に当たっては、混練槽やブレードに設けられた、ジャケットに流す水の温度、流量を制御して行うことができる。
【0020】
湿潤工程における、溶媒の添加量(樹脂液の場合は、樹脂液に含まれる溶媒量)は、粉末材料の種類により異なるが、通常粉末材料100質量部に対して、3〜30質量部であることが好ましい。
【0021】
所定の時間、湿潤工程を行った後、混練工程を行う。混練工程においては、混練材料の温度範囲が−10℃〜15℃になるように制御することが好ましい。温度範囲の下限は特に限定されないが、−10℃未満にしようとすると冷却用チラーや冷却媒体の選定が困難になったり、冷却効果も飽和に達するので、実用的には−10℃以上が好ましい。また、15℃を超えると、混練槽内の樹脂液の粘度が高くならずに混練材料に大きなせん断力を加えることができなくなる場合があるからである。
【0022】
混練工程は、10〜240分間行うことが好ましい。この範囲が好ましいのは、10分未満では、粉末材料が十分混練できない場合があり、240分を超えると、混練状態が飽和に達している場合があるからである。
【0023】
湿潤工程において、樹脂液を用いなかった場合は、混練工程において樹脂液を配合することができる。また、混練工程に入る前に、溶媒、樹脂液を追加配合することができる。混練工程においては、混練材料中の樹脂により粉末材料に大きなせん断力が加わり、樹脂中に粉末材料が分散される。
【0024】
混練工程における、溶媒の添加量(樹脂液の場合は、樹脂液に含まれる溶媒量)は、粉末材料の種類により異なるが、通常粉末材料100質量部に対して、15〜60質量部であることが好ましい。
【0025】
湿潤工程から混練工程に入る過程においては、混練材料がさらさらした状態から一体の混練物に変化する。この際、さらさらした状態から少しずつ小さな固まりができ始め、ブレード負荷電流が急速に上昇し混練材料に大きな負荷が掛る。その後、小さな固まりが、大きな固まりに変化しやがて一体化した混練物に変化する。こうなると、ブレードの負荷電流はピークを経て少し下がるが湿潤時よりは大きな値で推移する。
【0026】
一般的に、混練材料を混練装置にて混練する場合には樹脂中に粉末材料を均一に分散させるために、大きなせん断力を加えることが要求される。そのために、ブレードに大きなトルク(負荷電流)を掛けることが要求される。
【0027】
混練時におけるブレードの負荷電流(トルク)の大きさは、粉体と樹脂液の配合割合により決定される。樹脂液中の樹脂の配合量は製品の仕様で決められているので、実際には溶媒の配合量(固形分濃度)で制御される。図1に、溶媒の配合量を変化させて混練強度(負荷電流)を変えた場合の混練時の負荷電流の変化を示す。図から分かるように、溶媒の配合量が多いと混練時の負荷電流は小さくなって混練材料に大きな負荷を掛けることができなくなる。逆に、溶媒量が少ないと混練時の負荷電流は大きくなるが、少なすぎると、湿潤工程から混練工程に移行できなかったり、移行時の負荷電流が大きくなりすぎで、ブレードがロックする場合があるので、混練時の溶媒の配合量(固形分濃度)をうまく制御する必要がある。また、高固形分濃度で混練した場合には、混練物が固すぎて、混練工程後、さらに溶媒を配合してスラリー化する希釈工程において、均一なスラリーを得るのが困難になる場合がある。
【0028】
本発明の混練方法では、混練材料の温度範囲が−10℃〜15℃になるように制御して、樹脂液の粘度を高くして混練するので、固形分濃度は従来の好ましい範囲より少し高い値に設定することができる。また樹脂液の粘度が高いので混練物自身が固くなり、混練物に高い剪断力を掛けることができるので、樹脂と粉末の吸着を促進することができ、その後の分散などの工程で分散を容易にすることができる。
【0029】
更に、温度制御により負荷電流を制御することが可能となるので、混練の途中であっても固形分濃度を変えずに負荷電流を制御することができる。
また、希釈工程時には温度を室温に戻すことにより混練物の粘度を下げることができるので、スムーズに均一な希釈が可能となる。
【0030】
図2に一例の本発明の混練方法を行った場合の、混練時の負荷電流の変化を示す。図から分かるように、本発明の混練方法では、湿潤工程から混練工程への移行により、冷却と共に負荷電流が上がり混練材料が好ましい温度範囲に達すると大きなせん断力が掛ってくることが分かる。また、希釈工程では冷却を弱くすることにより、混練物の粘度が下がるので、均一な希釈が可能となる。
【0031】
なお、上記のように、バッチ式の混練装置の場合について本発明の混練方法を説明したが、本発明の混練方法は、連続式の混練装置にも適用することができる。連続式の混練装置では、材料の投入口から取り出し口までブレードの軸方向に湿潤工程部分、混練工程部分、希釈工程部分と各工程部分を設定することができるので、この各部分の温度を制御することにより、本発明の混練方法を実施することができる。
【0032】
混練材料の温度範囲が−10℃〜15℃になるように制御するためには、ジャケットに流す冷却媒体の温度、量を制御する必要があるが、特に0℃以下に制御する場合には、0℃以下でも凍らない、エチレングリコール、プロピレングリコールやシリコンオイルなどの冷却媒体を必要に応じて使用することが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。文中の「部」は、特に断りのない限り質量基準である。また、実施例および比較例中の平均粒子径は、数平均粒子径である。
【0034】
実施例1
(1)湿潤工程成分
・バリウムフェライト磁性粉末 (平均粒子径20nm) 100.0部
・塩化ビニル系共重合体 25.6部
(日本ゼオン社製MR−555)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 7.7部
(含有−SO3Na基:1.0×10−4当量/g)
・フェニルホスホン酸 4.6部
・トルエン 6部
・シクロヘキサノン 6部
(2)混練工程成分
・トルエン 12部
・シクロヘキサノン 12部
(3)希釈工程成分
・トルエン 129部
・シクロヘキサノン 129部
【0035】
(1)の湿潤工程成分を混練槽内に温度センサーを有するバッチ式混練装置(混練容量5L)にて30分湿潤した。この時は、特に混練槽の冷却は行わず、槽内の混練材料の温度は30℃であった。その後、(2)の混練成分を加え、混練時の固形分濃度を79.2質量%として、チラーにより−10℃に冷却した冷却媒体(エチレングリコール)にて混練槽およびブレードを冷却して、槽内の混練材料の温度は0℃に保持した。これにより、混練材料は、湿潤工程から混練工程に入った。混練工程を60分行った後、さらに希釈工程成分(3)を3回に分けて加えて希釈をして磁性塗料を得た。この磁性塗料をPETフイルム上に簡易アプリケータで塗布し、乾燥するまで異極対向磁石で塗布面に垂直な400KA/mの磁場を印加して評価用磁気シートを作製した。
【0036】
実施例2
冷却媒体の温度を−20℃にして、混練材料の温度を−10℃に保持した以外は、実施例1と同様にして、評価用磁気シートを作製した。
【0037】
実施例3
冷却媒体を水に変更し、水の温度を5℃にして、混練材料の温度を15℃に保持した以外は、実施例1と同様にして、評価用磁気シートを作製した。
【0038】
比較例1
水の温度を5℃にして、混練材料の温度を20℃に保持した以外は、実施例3と同様にして、評価用磁気シートを作製した。
【0039】
比較例2
冷却媒体の流量を制御して混練材料の温度を40℃に保持した以外は、比較例2と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0040】
比較例3
(2)の混練工程成分のトルエンを4.5部、シクロヘキサノンを4.5部に変更し、混練時の固形分濃度を86.8質量%として混練工程を行い、(3)の希釈工程成分をトルエンを136.5部、シクロヘキサノンを136.5部に変更した以外は、比較例2と同様にして評価用磁気シートを作製した。
【0041】
得られた磁気シートは下記の方法で評価し、その結果を表1に示した。
〈磁性層の表面写真〉
偏光顕微鏡を用いて、倍率200倍で撮影した。
【0042】
〈磁気層の表面粗さRa〉
評価用磁気シートの磁性層をZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmで測定した。測定視野は、350μm×260μmである。磁性層の中心線平均表面粗さをRaとして求めた。
【0043】
〈磁気特性〉
評価用の磁気シートに、外部磁場0.8MA/m(10kOe)をかけ、常法に従って、塗布面に垂直な方向の磁気特性(角型比(Br/Bm))を測定した。測定には、東英工業製の試料振動型磁束計VSM−P7を用いた。
【0044】
【表1】

【0045】
表及び図3から明らかなように、実施例では混練材料の温度を−10度から15度の範囲に保持したため、高い磁気特性(角形比)と平滑な表面粗さRaを示すことが分かる。また実施例1で作製した磁気シートの磁性層表面写真は、図3(a)に示すように凝集物が少なくなっている。
【0046】
一方混練材料の温度が−10度から15度の範囲から外れた比較例では、磁気特性(角形比)は低く表面粗さRaは低い結果となった。また比較例1、比較例3で作製した磁気シートの磁性層表面写真は各々図3(b)、図3(c)に示すように、全面に渡って凝集物が存在した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、混練工程における温度を低く調節することで、混練物に高い剪断力を掛ける混練方法を提供できる。その結果表面粗さや磁気特性に優れた磁気シートを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練材料を収容する混練槽と、該混練槽に収容された混練材料を混練する並列した1対の軸を有するブレードと、を備えた混練装置を用いる混練方法であって、
前記混練材料は、粉末、樹脂、溶媒を含み、
前記混練方法は、粉末を溶媒で濡らす湿潤工程を含み、
しかる後に粉末を樹脂および溶媒で練り合わせる混練工程を含み、
前記湿潤工程から前記混練工程にかけて前記混練材料の温度範囲が−10℃〜15℃になるように行うことを特徴とする混練方法。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【公開番号】特開2012−106380(P2012−106380A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256095(P2010−256095)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】