説明

混銑車内の付着物の溶解方法

【課題】混銑車において予備処理を行いつつ付着物の除去(溶解)も行うことができるようにする。
【解決手段】本発明の混銑車内の付着物の溶解方法では、まず、混銑車の風袋重量が限界重量以上であれば、脱珪処理を行っていない溶銑2を高炉鋳床8にて受銑する。脱珪処理前の溶銑温度及び脱珪処理前のSi濃度とから脱珪処理後の溶銑温度が付着物10の溶解温度以上とするための気体酸素量を求めると共に脱珪処理後のSi濃度を推定する。推定Si濃度がスラグフォーミングを発生させる濃度であれば、スラグフォーミングを発生させない溶銑2のSi濃度を設定した後、設定した溶銑2のSi濃度及び脱珪処理前の溶銑温度とから、脱珪処理後の溶銑温度が付着物10の溶解温度以上とするための気体酸素量を再び求める。また、設定したSi濃度となるよう加珪処理を行うと共に再設定した気体酸素量を吹き込むことによって脱珪処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混銑車内の付着物の溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、混銑車(トピードカー)や転炉にて精錬を繰り返し行うと、混銑車内に付着する付着物が増加してしまうことが知られている。付着物が増加すると精錬において阻害となるため、出来るだけ付着物の増加を抑制したり、付着物を除去する様々な技術が開発されている。
特許文献1では、ブレーカなどの除去装置を用いて混銑車の開口部周りの付着物を打撃によって除去している。特許文献2では、混銑車に注入する溶銑に、予め転炉にて1450℃以上に昇温した溶銑、又は高炉から出銑させた1450℃以上の溶銑を使用すると共に、該溶銑に不活性ガスを吹き込み撹拌して溶解している。
【0003】
特許文献3では、混銑車の天井部に付着した付着物の最大厚みが混銑車の直胴部の内径の10%を超えないときには、酸素ガスを吹き込むノズル角度を鉛直下向き方向に対して20°未満とし、一方、付着物最大厚みが前記内径の10%を超えたときには、前記天井部のうち前記付着物の厚みが前記内径の10%を超えた部分に排ガスが到達するように、前記ノズル角度を鉛直下向き方向に対して計算されたθ1以上としている。
【0004】
特許文献4では、製鋼工場において溶銑を払い出した後の溶銑搬送容器(混銑車)内に残留する容器内残留物を排出するにあたり、この容器内残留物のうちの溶銑の量が排出基準値を下まわるときにのみ、該容器内残留物の排出を行っている。
一方、特許文献5では、転炉を用いて酸素吹錬で溶鋼を溶製するに際して、1チャージ又は数チャージの溶製が終了する毎に転炉内壁付着物厚みを測定し、その測定値と予め定めた目標値との差に応じ、次回チャージの溶製時に炉内で生成されるスラグ成分を基準に従い調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平04−014163号公報
【特許文献2】特開2002−105524号公報
【特許文献3】特許第4541521号公報
【特許文献4】特許第3747781号公報
【特許文献5】特開2004−277797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、混銑車の付着物を除去できるものの、付着物を除去するためにはブレーカなどの大掛かりな装置が必要であり、付着物の除去作業も多大な時間を要していた。
特許文献2では、特許文献1に示すように大掛かりな装置を用いなくても不活性ガスを吹き込むことによって付着物を除去できるものの、付着物を除去するための作業はオフラインで行わなければならず、生産性が低下する虞がある。
【0007】
また、特許文献3では、脱炭ガスの二次燃焼による発熱によって混銑車に付着する付着物の成長を抑制することができるものの、付着物を十分に除去することは難しいのが実情である。
特許文献4では、溶銑搬送容器における付着物を増加しないようにすることができるものの、積極的に付着物を除去する技術ではないため、付着物を十分に除去することは難しいのが実情である。
【0008】
さらに、特許文献5では、スラグの組成を調整することによって転炉に付着する付着物を抑制することができるものの、この技術は転炉に関するものであって混銑車に適用することができないのが実情である。
したがって、特許文献1〜5を用いたとしても、混銑車における予備処理等を用いて付着物の除去をすることが難しいのが実情である。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、混銑車において予備処理を行いつつ付着物の除去(溶解)も行うことができる混銑車内の付着物の溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、混銑車内の付着物の溶解方法において、下記の(1)〜(12)の工程を行うことで脱珪処理を行いながら混銑車内に付着した付着物を除去することを特徴とする。
(1)混銑車の風袋重量を測定する。
(2)混銑車の風袋重量の増加量が限界重量以上であるか否かを判断し、限界重量以上であれば工程(3)に進み、限界重量未満であれば工程(10)に進む。
(3)高炉鋳床で脱珪処理を行っていない溶銑を混銑車にて受銑する。
(4)脱珪処理前の溶銑温度を測定すると共に、脱珪処理前のSi濃度を測定する。
(5)脱珪処理前の溶銑温度及び脱珪処理前のSi濃度とから脱珪処理後の溶銑温度が付着物の溶解温度以上とするための気体酸素量を求めると共に、脱珪処理後のSi濃度を推定する。
(6)推定した推定Si濃度がスラグフォーミングを発生させる濃度であるか否かを判断し、スラグフォーミングを発生させる濃度であれば工程(7)に進み、フォーミングを発生させない濃度であれば工程(5)で求めた気体酸素量を吹き込むことによって脱珪処理を行い、工程(11)へ進む。
(7)スラグフォーミングを発生させない溶銑のSi濃度を設定する。
(8)工程(7)にて設定した溶銑のSi濃度及び脱珪処理前の溶銑温度とから、脱珪処理後の溶銑温度が付着物の溶解温度以上とするための気体酸素量を再び求める。
【0011】
(9)工程(7)で設定したSi濃度となるよう加珪処理を行うと共に、工程(8)で求めた気体酸素量を吹き込むことによって脱珪処理を行い、工程(11)へ進む。
(10)高炉鋳床で脱珪処理を行った溶銑を混銑車にて受銑する。
(11)次工程に進む。
前記工程(11)では、脱珪処理後のS濃度が転炉に装入するS濃度の目標値以上であるか否かを判断し、脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値以上であれば、スラグを除滓した後、混銑車内で脱硫処理を行い、脱硫処理後に溶銑を溶銑鍋に払い出し、脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値未満であれば、脱硫処理を行わずに脱珪処理後の溶銑を溶銑鍋に払い出すことが好ましい。
【0012】
或いは、前記工程(11)では、脱珪処理後のS濃度が転炉に装入するS濃度の目標値以上であるか否かを判断し、脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値以上であれば、溶銑を溶銑鍋に払い出すと共にスラグの除滓を行い、溶銑鍋内で脱硫処理を行う、脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値未満であれば、脱硫処理を行わずに脱珪処理後の溶銑を溶銑鍋に払い出すことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、混銑車において予備処理を行いつつ付着物の除去(溶解)も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】混銑車の全体図である。
【図2】混銑車の運行例を示す図である。
【図3】混銑車の運行の工程を示すフローチャートである。
【図4】脱珪処理後の溶銑温度と脱珪処理前後での風袋重量の変化との関係図である。
【図5】気体酸素の原単位と溶銑温度の温度上昇量との関係図である。
【図6】脱珪処理後におけるSi濃度とスラグフォーミングの発生有無との関係図である。
【図7】FeSiの原単位と溶銑温度の降下量との関係図である。
【図8】加珪量計算の繰り返し数と、加珪量及びFeSi原単位との関係図である。
【図9】混銑車の他の運行の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1及び図2に示すように、混銑車は、一般的に、高炉から出銑した溶銑を転炉などが設置された製鋼工場9に搬送するために用いられるものである。
混銑車1は、溶銑2を一時的に貯留するための容器3を備えている。この容器3は、外側を形成する鉄皮4と、この鉄皮4の内側に施工された耐火物5とから構成され、溶銑2を装入するための開口部6が形成されている。容器3は、傾動軸を介して傾動可能となっており、容器3を傾動して内部の溶銑2を外側へ払い出すことができるようになっている。
【0016】
図2に示すように、このような混銑車1では、まず、容器3内が空となっている状態で高炉(高炉鋳床)8へ移動し、高炉8にて容器3内に溶銑2を受銑し、溶銑2を受銑した後は製鋼工場9へと移動する。そして、製鋼工場9へ移動すると、容器3を傾動軸回りに傾動することによって溶銑2を溶銑鍋7に払い出し、溶銑2の払い出し後は、再び、溶銑2を受銑するために高炉8へ移動する。混銑車1が高炉8から製鋼工場9へ移動する間は、当該混銑車1を用いて珪素を除去する脱珪処理などの溶銑2の予備処理を行う。
【0017】
本発明では、混銑車1の運用を規定することによって、混銑車1にて脱珪処理(予備処理)を行いつつ付着物の除去(溶解)も行うことができる。
以下、各工程について順番に説明する。
図3に示すように、まず、工程(1)では、混銑車1の風袋重量を測定する。
詳しくは、まず、高炉8(高炉鋳床)で溶銑2を受銑する前に、混銑車1空の重量(風袋重量)を測定する。例えば、東洋精工製の「05B−MD−8582」のロードセルを用いて風袋重量を測定する。
【0018】
さて、高炉8での受銑と製鋼工場9での溶銑2の払い出しを繰り返し行った混銑車1では、その容器3内に付着する付着物10が増加する傾向にあり、付着物10の増加に伴って風袋重量が増加する。付着物10が多くなると、溶銑2を積載する積載量が低下して溶銑2の運搬効率の低下を招く可能性がある。そこで、工程(1)では、どの程度の付着物10が付着しているか確認するために、混銑車1の風袋重量を測定することとしている。
【0019】
なお、付着物10は、主にスラグや地金であり、炭素濃度は大凡2〜4質量%、融点は大凡1200〜1400℃である。
次に、工程(2)では、混銑車1の風袋重量の増加量が限界重量以上であるか否かを判断する。
限界重量とは、付着物10が混銑車1に付着することによって風袋重量が増加したときの許容できる重量であって、言い換えれば、付着物10が混銑車1に付着した状態で目標量の溶銑2を受銑できるかどうかの限界値である。
【0020】
例えば、付着物10が全く無い状態において混銑車1の溶銑2の最大積載量は320tonであり、混銑車1の目標量は、転炉への溶銑2の装入量である270tonと定められているとすると、最大積載量の320tonから目標量の270tonを差し引いた50tonが風袋重量の増加量の限界重量となる。つまり、この場合は、付着物10が全く無い状態から見て50tonまで付着物10による重量の増加が許されることになる。
【0021】
なお、混銑車1では、溶銑2の運搬時における溶銑2の揺れや予備処理を行ったときの溶銑2の吹きこぼれなどを考慮し、溶銑2を受銑した状況下でも溶銑2が装入されていないフリーの空間(フリーボード)が設定されており、最大積載量はフリーボードを除いた値とされている。即ち、混銑車1の容器3内においてフリーボードを除く部分に装入できる溶銑量が最大積載量となる。
【0022】
この工程(2)では、風袋重量の増加量(単に増加量ということがある)が限界重量以上であれば(工程2、YES)、工程(3)に進み、限界重量未満であれば(工程2、NO)、工程(10)に進む。増加量が限界重量を超えている状況下では、多くの付着物10が混銑車1に付着してしまい、十分な溶銑2を混銑車1に装入できない状況下にある。そのため、工程(2)では、増加量が限界重量を超えていると、付着物10を減少させることができる工程[工程(3)〜工程(9)]に進むこととしている。増加量が限界重量未満であれば、混銑車1において付着物10が付着する許容量があると考えられるため、付着物10を減少させる工程に進まず、別の工程(1)に進む。
【0023】
工程(3)では、脱珪処理を行っていない溶銑2を高炉鋳床にて受銑する。
例えば、出銑温度が1450〜1520℃であり、成分が、C:4.80〜4.9質量%、Si:0.20〜1.2質量%、Mn:0.25〜0.45質量%、P:0.10〜0.130質量%である溶銑2を受銑する。なお、受銑する溶銑2の温度及び成分値は、当業者常法通りであって特に限定されない。
【0024】
この工程(3)は、溶銑2の脱珪処理を行いつつ混銑車1の付着物10を減少させる精錬処理をするために、まず、混銑車1を高炉8(高炉鋳床)へと移動させて、脱珪処理を行っていない溶銑2を受銑することとしている。通常、高炉鋳床における脱珪処理は、固体酸素を供給して行われることが多く、高炉鋳床におて脱珪処理を行うと溶銑2の温度低下が著しい。このように高炉鋳床において脱珪処理を行った溶銑2を混銑車1で受銑してしまうと、付着物10の増加につながる。このようなことから、工程(3)では、脱珪処理を行っていない溶銑2を受銑することとしている。
【0025】
例えば、上述したように、混銑車1の風袋重量の増加量が55tonであって、その限界重量(増加量)が50ton以上である場合は、工程(3)における混銑車1の受銑量は265tonとなる。つまり、工程(3)では限界重量(50ton)を超えてしまった場合、増加量(55ton)から限界重量(50ton)を差し引いた5tonの溶銑2は受銑できなくなり、工程(3)における受銑量は、目標量−増加量−限界重量となる。
【0026】
次に、脱珪処理を行いつつ、付着物10の溶解を行うために脱珪処理及び付着物10の溶解に必要な気体酸素を求めることとしている。
具体的には、まず、気体酸素を求めるにあたって、工程(4)では、脱珪処理前の溶銑温度を測定すると共に脱珪処理前のSi濃度を測定することとしている。工程(4)では、例えば、熱電対を用いて脱珪処理前の溶銑温度を測定する。脱珪処理前の溶銑温度は1355℃であった。
【0027】
また、工程(4)では、脱珪処理前の溶銑2をサンプラー(例えば、リケン工業製の「HM−Sコンビネーションサンプラー」)で採取し、採取した溶銑2のSi濃度[Si]を蛍光X線分析法によって求める。蛍光X線分析法では、溶銑2のサンプルの鏡面にX線を照射して、[Si]のX線ピーク強度を測定した。予め標準試料を用いて作成しておいた[Si]とX線ピーク強度との関係からX線ピーク強度による[Si]の定量分析を行う。脱珪処理前のSi濃度は0.35質量%であった。
【0028】
上述したように、脱珪処理前の溶銑温度と、脱珪処理前のSi濃度とが分かると、工程(5)では、脱珪処理前の溶銑温度及び脱珪処理前のSi濃度から脱珪処理後の溶銑温度が付着物10の溶解温度以上となるための気体酸素量を求めることとしている。
工程(4)及び工程(5)についてさらに詳しく説明する。
図4は、脱珪処理後の溶銑温度と、脱珪処理前後での風袋重量の変化とをまとめたものである。図4に示すように、脱珪処理後の溶銑温度が1400℃以上となると風袋重量は減少(マイナス)となり付着物10が減少する傾向にある。そのため、工程(4)にて測定した脱珪処理前の溶銑温度が、その後、付着物10を減少させるための溶銑温度上昇の基準となる。
【0029】
図5は、気体酸素の原単位と、脱珪処理後の溶銑温度から脱珪処理前の溶銑温度を引いた値(溶銑温度の温度上昇量)との関係をまとめたものである。図5に示すように、気体酸素が多いほど溶銑温度の上昇温度量は高く、温度上昇量ΔT(℃)を求める回帰式は、
ΔT=−12.5+21×気体酸素原単位 ・・・(1)
となる。
【0030】
工程(5)では、上述したように脱珪処理前の溶銑温度が1355℃であって、脱珪処理後の溶銑温度を溶解温度以上、即ち、1400℃にする場合、その上昇温度量は45℃となるため、図5を用いると気体酸素の原単位を2.73Nm/tpにすればよい。
ここで、上述した回帰式と実績値とのバラツキ(標準偏差σ)は15℃となるため、必要とする温度上昇量ΔT(℃)から気体酸素の原単位を求めるにあたっては、
ΔT=−12.5+21×気体酸素原単位−2×σ ・・・(1)’
を採用することとした。式(1)’を用いた場合、1355℃から1400℃まで温度上昇させるためには、4.17Nm/tpの気体酸素が必要となる。つまり、4.17Nm/tpが脱珪処理及び付着物10の溶解に必要な気体酸素量となる。
【0031】
さらに、工程(5)では、求めた気体酸素を吹き付けた場合において、どの程度脱珪処理が行えるか、即ち、脱珪処理後のSi濃度はどのようになるかを推定する。脱珪処理後のSi濃度を求めるに際しては、まず、脱珪処理前のSi濃度と気体酸素の原単位とから脱珪処理したときの脱珪量を求める。
例えば、脱珪量ΔSi(質量%)は、
ΔSi=−0.08+0.481×脱珪処理前のSi濃度
+0.0155×気体原単位+2σ ・・・(2)
により求めることとした。
【0032】
なお、式(2)は、過去の実績から求めたもので、計算式と実績値とのバラツキ(標準偏差σ)は0.05質量%である。
上述したように、脱珪処理前のSi濃度が0.35質量%、付着物10を溶解するための気体酸素量が4.17Nm/tpである場合、式(2)により脱珪量ΔSiを求めると、0.253質量%となる。そして、脱珪処理後のSi濃度は、脱珪処理前のSi濃度から脱珪量ΔSiを差し引いた0.097質量%となる。つまり、工程(5)では、脱珪処理及び付着物10の溶解に必要な気体酸素量を吹き付けた場合での脱珪処理後のSi濃度は0.097質量%と推定することができる。以降、説明の便宜上、工程(5)で推定した脱珪処理後のSi濃度のことを推定Si濃度ということがある。
【0033】
さて、工程(4)及び工程(5)で求めた気体酸素量を吹き付けることによって、脱珪処理を行うと共に付着物10の溶解も行うことができると考えられるが、本発明では、脱珪処理におけるフォーミングの発生状況も考慮して、最終的な気体酸素量などを求めて脱珪処理を行うこととしている。スラグフォーミングが発生すると、混銑車1の容器3の開口部6からスラグ等が漏れ出てしまい、例えば、漏れ出たスラグが混銑車1を移動させるためのレールに固着して搬送の阻害をしてしまったり、様々な操業阻害を引き起こしてしまう。そのため、脱珪処理を行うにあたってはスラグフォーミングを発生させないことが必要である。なお、スラグフォーミングの発生の有無は、容器3の開口部6からスラグが漏れ出たか否かを目視によって判定することができる。
【0034】
そこで、工程(6)では、まず、推定Si濃度がスラグフォーミングを発生させる濃度であるか否かを判断する(工程6−1)。そして、スラグフォーミングを発生させる濃度であれば(工程6−1、YES)、工程(7)に進み、フォーミングを発生させない濃度であれば(工程6−1、NO)、工程(5)で求めた気体酸素量を吹き込むことによって脱珪処理を行い(工程6−2)、工程(11)へ進むこととしている。
【0035】
図6は、脱珪処理後におけるSi濃度と、スラグフォーミングの発生有無との関係を過去の実績によりまとめたものである。図6に示すように、脱珪処理後のSi濃度が0.21質量%以下になるとスラグフォーミングが発生してしまうことになる。そのため、工程(6)では、例えば、推定Si濃度が0.21質量%以下であるとスラグフォーミングを発生させると判断して工程(7)に進むこととし、推定Si濃度が0.21質量%超えているとスラグフォーミングを発生させないと判断し、脱珪処理を行うこととする。つまり、推定Si濃度がフォーミングを発生させない濃度(0.21質量%超)であれば工程(5)で求めた気体酸素量を吹き込むことによって脱珪処理を行う。なお、本発明の混銑車における脱珪処理は、脱珪剤を用いずに気体酸素を吹き込むことによって行う。気体酸素の吹き込みは当業者常法通りに行う。
【0036】
工程(7)では、スラグフォーミングを発生させない溶銑2のSi濃度を設定する。例えば、脱珪処理後のSi濃度(推定Si濃度)が0.097質量%である場合、図6に示すようにフォーミングが発生する可能性があるため、脱珪処理後のSi濃度をフォーミングが発生しない0.21質量%超に設定する。つまり、工程(7)では、工程(5)で推定した推定Si濃度となるように脱珪処理を行った場合、スラグフォーミングが発生するため、Si濃度をスラグフォーミングが発生しない濃度まで上昇させる加珪処理後でのSi濃度の設定を行っている。
【0037】
そして、工程(8)では、工程(7)にて設定した溶銑2のSi濃度及び脱珪処理前の溶銑温度とから脱珪処理後の溶銑温度が付着物10の溶解温度以上とするための気体酸素量を再び求める。通常、溶銑2の加珪処理はSiを含有するFeSiを溶銑2に供給することによっって行う。しかしながら、FeSiを溶銑2に供給すると、図7に示すように、溶銑2の温度が低下してしまい、加珪処理後にそのまま脱珪処理を行うと、場合によっては、工程(5)で求めた付着物10を溶解させるための温度まで溶銑温度を上昇できない可能性がある。
【0038】
そこで、まず、工程(8)では、加珪処理を行ったときの溶銑2の温度降下量を図7から求め、この温度降下量を考慮した上で、脱珪処理後の溶銑温度が付着物10の溶解温度以上とするための気体酸素量を再び求めることとしている。
例えば、工程(5)で推定した推定Si濃度が0.097質量%であって、工程(7)で設定した溶銑2のSi濃度を0.22質量%としたとき、加珪量は0.22質量%から0.097質量%を引いた0.123質量%となる。ここで、溶銑2に供給する加珪材に含まれるFeSiの濃度が72質量%とすると、加珪処理において溶銑2に供給するFeSi原単位は、1.71(kg/tp)となる。図7に示すように、加珪処理における温度降下量は、「温度降下量=1.65×FeSi原単位」であるため、1.65×1.71=2.83℃が温度降下量となる。上述したように、加珪処理を行う前の脱珪処理前の溶銑温度が1355℃である場合、加珪処理によって低下する溶銑温度は1352℃となる。この温度を脱珪処理前の溶銑温度とし、再び、工程(5)で示した方法と同じ方法で気体酸素の原単位を求めると、4.31Nm/tpとなる。
【0039】
ここで、工程(8)では、再び求めた気体酸素にて脱珪処理を行った場合の推定Si濃度を求める。例えば、脱珪処理前のSi濃度を0.35質量%とし、気体酸素の原単位を4.31Nm/tpの場合、脱珪量ΔSiは0.255質量%となり、推定Si濃度は0.218質量%となる。推定Si濃度が0.218質量%であるとフォーミングが発生する可能性があるため、このような場合は、工程(7)及び工程(8)を繰り返し行う。
【0040】
例えば、上述したように1回目の計算では、工程(7)において溶銑2のSi濃度を0.22質量%としていたが、2回目の計算では、溶銑2のSi濃度を0.25質量%とする。この場合、加珪量は0.25質量%から0.097質量%を引いた0.153質量%となり、同様にFeSiの濃度が72質量%とすると、加珪処理において溶銑2に供給するFeSi原単位は、2.13(kg/tp)となる。また、2回目の場合の加珪処理における温度降下量は3.5℃となり、気体酸素の原単位を4.33Nm/tpとなる。脱珪量ΔSiは0.255質量%となり、推定Si濃度は0.248質量%となり、0.21質量%を超えることになる。
【0041】
図8に示すように、加珪量の決定やFeSiの原単位の決定を繰り返し計算することによって、フォーミングが発生しない気体酸素の原単位を求めることができる。
工程(9)では、まず、工程(7)で設定したSi濃度となるよう加珪処理を行う(工程9−1)。そして、工程(8)で求めた気体酸素量を吹き込んで脱珪処理を行い(工程9−2)、工程(11)へ進む。即ち、上述した計算に基づいて工程(9)では、加珪処理と脱珪処理とを行う。
【0042】
加珪処理は、例えば、特開58−064310号公報に開示されているように、FeSi粉(例えば、Si:72質量%、Fe:15質量%)を、インジェクションランスを用いて溶銑2内に吹き込むことによって当業者常法通りに行う。
脱珪処理は、特開昭63−303006号公報や特開2000−73114号公報等に示されているように上吹きランスを混銑車1の開口部6へ挿入して、この上吹きランスから溶銑2上に気体酸素(例えば、O:100質量%)を吹き付ける。
【0043】
工程(9)において加珪処理や脱珪処理が終了すると、脱珪処理を終えた溶銑2を製鋼工場9まで搬送する。また、工程(2)に示したように、混銑車1の風袋重量の増加量が限界重量以上とならなかった場合は、工程(10)にて、高炉鋳床で脱珪処理を行った溶銑2を受銑して、脱珪処理を行った溶銑2を製鋼工場9へ搬送する。高炉鋳床で行う脱珪処理は当業者常法通りであり、例えば、鋳床脱珪は特開平1−071608号公報に示すように、鋳床を流れる溶銑2に脱珪剤と投入することによって行う。鋳床脱珪の場合は、特開昭57−123912号公報、特開昭62−290812号公報、特開平01−065224号公報に開示されたようなものを用いても良いし、その他の脱珪剤を用いてもよい。
【0044】
本発明によれば、繰り返し混銑車1を使用することによって、徐々に混銑車1に付着する付着物10が増加していくが、工程(1)〜工程(9)に示すように処理を行うことによって、混銑車1に多くの付着物10が付着して混銑車1の風袋重量が限界となった場合であっても、直ちに混銑車1を修理(補修)しなくても、脱珪処理を行いながら混銑車1内に付着した付着物10を溶解することができる。特に、本発明では、脱珪処理と付着物10の除去とを同時に行うことができることから混銑車1の運行(処理)の効率が非常によく、付着物10が増加したとしても、運行(処理)を続けることが可能である。
【0045】
さて、脱珪処理が終了して混銑車1が製鋼工場9に移動すると、工程(11)では、まず、脱珪処理後の溶銑2中のS濃度[S]が、転炉に装入する[S]の目標値以上であるか否かを判断する(工程11−1)。転炉に装入する[S]は予め定められており、この[S]が目標値以上であれば(工程11−1、YES)、混銑車1の傾動させてスラグ(脱珪スラグ)を除滓する(工程11−2)。
【0046】
例えば、脱珪処理後の[S]が0.015質量%で、目標値が0.005質量%であった場合、[S]が目標値を超えているため、スラグドラッガーなどによって脱珪スラグを除滓した。
さらに、工程(11)では、脱珪スラグの除滓後、混銑車1内で脱硫処理を行う(工程11−2)。脱硫処理は、インジェクションランスを用いてカルシウムカーバイド系脱硫剤(例えば、CaC:75質量%以上、f−CaO:18.5質量%以下)を溶銑2中に吹き込むことで行う。例えば、上述した脱珪処理後の[S]が0.015質量%である場合、脱硫剤原単位を3.3kg/tpとし、[S]が0.002質量%、即ち、目標値の0.005質量%以下になるまで脱硫処理を行う。なお、脱硫処理は、特開2001−158907号公報等に示すように当業者常法通りである。また、脱硫剤は、特公平57−002242号公報、特公昭58−056722号公報、特公昭61−043407等に開示されているようなものである。
【0047】
脱硫処理によって溶銑2中の[S]を目標値以下にした後は、混銑車1を傾動させることによって溶銑2を溶銑鍋7に払い出し(工程11−3)、この溶銑鍋7を混銑車1とは別の搬送手段(例えば、クレーン)によって転炉まで移動させて、溶銑鍋7内の溶銑2を転炉に装入する。このように、脱硫処理を行うことによって、確実に製品規格を満たす鋼材等を製造することができる。一方で、この段階で脱硫処理を行わない場合は、その後の処理で[S]が十分に低減できない可能性があり、成分外れ(不良品)を発生させてしまうことがある。
【0048】
溶銑2中のS濃度[S]が転炉に装入する[S]の目標値未満である場合(工程11−1、No)は、この段階で脱硫処理を行う必要がない。そのため、脱珪処理後に、混銑車1を傾動させて脱珪処理後の溶銑2を溶銑鍋7に払い出し(工程11−4)、この溶銑鍋7をクレーンなどの搬送手段によって転炉まで移動させ、溶銑鍋7内の溶銑2を転炉に装入する。
【0049】
さて、上述した脱硫処理は、混銑車1内で行うこととしていたが溶銑鍋7内で行ってもよい。図9は、溶銑鍋7内で脱硫処理を行った場合の混銑車1の運行を示している。なお、工程(1)〜工程(10)は、図3と同じであるため説明を省略する。
図9に示すように、脱珪処理が終了して混銑車1が製鋼工場9に移動すると、工程(11)では、まず、脱珪処理後の溶銑2中のS濃度[S]が転炉に装入する[S]の目標値以上であるか否かを判断する(工程11−1)。脱珪処理後の[S]が目標値以上であれば(工程11−1、YES)、混銑車1内の溶銑2を溶銑鍋7に払い出し(工程11−2)、その後、溶銑鍋7を、製鋼工場9内に設置した除滓ステーションに移動させる。除滓ステーションでは、スラグドラッガーなどの除滓装置を用いて脱珪処理後の溶銑2上に浮かぶスラグを掻き出してスラグを除滓する(工程11−2)。そして、スラグを除滓した後は溶銑鍋7に脱硫剤を供給して、脱硫処理を行う(工程11−3)。
【0050】
一方、脱珪処理後の溶銑2中のS濃度[S]が目標値未満である場合(工程11−1、NO)は、溶銑2を溶銑鍋7に払い出し、この溶銑鍋7をクレーンなどの搬送手段によって転炉まで移動させ、溶銑鍋7内の溶銑2を転炉に装入する。つまり、脱硫処理を行わずに脱珪処理後の溶銑2を転炉に搬送する。
以上、本発明によれば、混銑車1において予備処理(脱珪処理)を行いつつ付着物10の除去(溶解)も行うことができ、混銑車1内の付着物10の増加によって発生する工程阻害を防止することができる。特に、スラグフォーミングを発生させることなく付着物10の溶解と脱珪処理が行えるため、処理が一時的にストップすることもなく連続して処理を行うことができる。また、付着物10を溶解(除去)するための装置(設備)を用いなくても、付着物10の溶解を行うことができ、簡単に混銑車1内の付着物10を溶解することが可能となった。
【0051】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0052】
1 混銑車
2 溶銑
3 容器
4 鉄皮
5 耐火物
6 開口部
7 溶銑鍋
8 高炉
9 製鋼工場
10 付着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(12)の工程を行うことで脱珪処理を行いながら混銑車内に付着した付着物を除去することを特徴とする混銑車内の付着物の溶解方法。
(1)混銑車の風袋重量を測定する。
(2)混銑車の風袋重量の増加量が限界重量以上であるか否かを判断し、限界重量以上であれば工程(3)に進み、限界重量未満であれば工程(10)に進む。
(3)高炉鋳床で脱珪処理を行っていない溶銑を混銑車にて受銑する。
(4)脱珪処理前の溶銑温度を測定すると共に、脱珪処理前のSi濃度を測定する。
(5)脱珪処理前の溶銑温度及び脱珪処理前のSi濃度とから脱珪処理後の溶銑温度が付着物の溶解温度以上とするための気体酸素量を求めると共に、脱珪処理後のSi濃度を推定する。
(6)推定した推定Si濃度がスラグフォーミングを発生させる濃度であるか否かを判断し、スラグフォーミングを発生させる濃度であれば工程(7)に進み、フォーミングを発生させない濃度であれば工程(5)で求めた気体酸素量を吹き込むことによって脱珪処理を行い、工程(11)へ進む。
(7)スラグフォーミングを発生させない溶銑のSi濃度を設定する。
(8)工程(7)にて設定した溶銑のSi濃度及び脱珪処理前の溶銑温度とから、脱珪処理後の溶銑温度が付着物の溶解温度以上とするための気体酸素量を再び求める。
(9)工程(7)で設定したSi濃度となるよう加珪処理を行うと共に、工程(8)で求めた気体酸素量を吹き込むことによって脱珪処理を行い、工程(11)へ進む。
(10)高炉鋳床で脱珪処理を行った溶銑を混銑車にて受銑する。
(11)次工程に進む。
【請求項2】
前記工程(11)では、
脱珪処理後のS濃度が転炉に装入するS濃度の目標値以上であるか否かを判断し、脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値以上であれば、スラグを除滓した後、混銑車内で脱硫処理を行い、脱硫処理後に溶銑を溶銑鍋に払い出し、
脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値未満であれば、脱硫処理を行わずに脱珪処理後の溶銑を溶銑鍋に払い出す
ことを特徴とする請求項1に記載の混銑車内の付着物の溶解方法。
【請求項3】
前記工程(11)では、
脱珪処理後のS濃度が転炉に装入するS濃度の目標値以上であるか否かを判断し、脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値以上であれば、溶銑を溶銑鍋に払い出すと共にスラグの除滓を行い、溶銑鍋内で脱硫処理を行い、
脱珪処理後のS濃度がS濃度の目標値未満であれば、脱硫処理を行わずに脱珪処理後の溶銑を溶銑鍋に払い出す
ことを特徴とする請求項1に記載の混銑車内の付着物の溶解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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