説明

減衰装置、免震構造物及び制振構造物

【課題】風等により構造物に生じる微小振幅の変形に減衰効果を発揮し、大きな揺れが生じた後も再使用が可能な減衰装置並びにこの減衰装置を用いた免震構造物及び制振構造物を提供する。
【解決手段】上部構造体11と下部構造体15の間に配置された粘弾性体16が、上部構造体11又は下部構造体15の少なくとも一方に設けられた保持手段24により保持される。そして、外乱により上部構造体11と下部構造体15が所定値以上相対移動したときに、損傷するようなせん断力を受けずに粘弾性体16が保持手段24から離脱する。これにより、構造体の微小変形時には、粘弾性体16により減衰効果を発揮し、中小変形及び大変形時にて離脱した粘弾性体16は、再び装着して再使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風等により構造物に生じる微小振幅の変形に減衰効果を発揮し、快適な居住性を確保する減衰装置、免震構造物及び制振構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に免震構造物は、地震の揺れに対する構造安全性の向上に効果的な構造物であるが、その反面、風等に対しても揺れやすいという欠点を持っている。超高層の免震構造物においては、この風に対する揺れの影響が顕著であり、特に、再現期間1年の風荷重に対しては、建物上階の揺れの加速度が大きくなってしまい、これによる体感的な居住性の悪化が問題となっている。
【0003】
免震構造物に用いられる減衰装置としては、金属ダンパーやオイルダンパーがある。金属ダンパーは、金属材料が降伏することにより振動エネルギーの吸収を図る減衰装置であるが、風等による構造物の2cm程度以下の微小変形(微小振幅の変形)では、金属材料が降伏点に達しないので減衰効果が得られない。また、オイルダンパーは、機構的なガタや内部摩擦等により、微小変形では減衰効果が小さい。
【0004】
図24は、構造物の1次固有振動数に対する構造物頂部の加速度を示すものであり、符号150、152は、日本建築学会の居住性指針に基づいた、揺れに対する居住性を評価する感覚曲線である。この感覚曲線は、揺れの加速度によって、人が感じる居住性をクラス分けした境界である。例えば、感覚曲線150と152は、異なるクラスの境界であるが、感覚曲線150と152の間の領域に加速度の値が入っている限りにおいては、人間は同程度の居住性を体感することになる。
【0005】
ここで、風等の外乱が構造物に作用したとき頂部の加速度が値Aとなる構造物に、弾性体の減衰装置を設置した場合、この減衰装置で使用する弾性体の弾性力を強くしていくと、構造物は硬くなり揺れにくくなる。値Aも矢印154のように多少下がるが、概ね感覚曲線150と平行な傾斜程度の下がり方しかできず、感覚曲線150よりも小さくならないので、人間の感覚として揺れが小さくなったと感じない。このように、弾性力を強くしていくだけでは、効果的な居住性改善効果は得られない。
【0006】
そこで、弾性体に替えて、粘弾性体の減衰装置を設置し、弾性力及び粘性力を強くしていくと、矢印156のように加速度が下がり、値Bのように感覚曲線150より小さくなって感覚曲線のクラスが1つ下がり、人間の感覚として揺れが小さくなったと感じることができる。
【0007】
このように、人間の感覚としての揺れを小さくするために、減衰装置に粘弾性体を用いることが効果的であることは、一般に知られていることである。
【0008】
減衰装置に粘弾性体を用いた従来技術としては、図25のような、粘弾性体等の減衰性能を有する材料からなる球体158が床スラブ160上に敷き並べられた減衰装置がある(特許文献1)。この球体158は圧縮変形して潰れた状態で、二重床材162を支持しているので、大きな地震力を受けたときには二重床材162が水平移動し、これに伴って球体158が転がる。球体158は、回転時に内部がせん断変形するので、減衰力を発揮し、さらに、床スラブ160及び二重床材162と、球体158との間の摩擦抵抗も加わり、高い減衰効果を発揮することができる。
【0009】
しかし、特許文献1は、長大ストロークの減衰装置であり、また、球体158は常に圧縮力を受けている。よって、長期間の使用においては材料が劣化し、所定の減衰力が得られなくなってしまうので、定期的に球体158を交換しなければならない。
【0010】
また、図26に示すように、大きな地震等による構造物の大振幅の変形に対して振動エネルギーを吸収する免震装置164が設けられた特許文献2の免震構造物165には、風等による微小変形において振動エネルギーを吸収する微小振幅用減衰装置166が併設されている。そして、微小振幅用減衰装置166は、微小振幅用ダンパー168と、微小振幅用ダンパー168と上部構造物172を連結する支持部170と、で構成され、この微小振幅用ダンパー168に粘弾性体が用いられている。支持部170は、意図的に弱く(断面が小さく)なっているので、微小振幅用ダンパー168の減衰力、又は変位量が許容量を越えるような大振幅のときには、支持部170が破断して微小振幅用ダンパー168への振動伝達を遮断し、微小振幅用ダンパー168が保護される。
【0011】
しかし、再び微小振幅用減衰装置166を使用するためには、支持部170の交換が必要になり、また、微小振幅用減衰装置166は複雑な機構を必要とするので、コストが高くなる。
【0012】
また、図27に示す、特許文献3の制振型免震建物の上部構造物174の下方には、免震装置176と、粘弾性体178を有する振動減衰装置180とが設けられている。風等による上部構造物174の小さな振動に対しては、粘弾性体178にせん断変形を生じさせて振動を減衰し、大きな地震等により上部構造物174が所定の水平変位量を越えると粘弾性体178が切断され、振動減衰装置180の減衰機能が解除される。よって、振動減衰装置180を大きな地震等に対応した長大ストロークの減衰装置にする必要はなく、小型化が図れる。
【0013】
しかし、特許文献2と同様に、再び振動減衰装置180を使用するためには、粘弾性体178の交換が必要になる。
【特許文献1】特開平10−184094号公報
【特許文献2】特開2004−232386号公報
【特許文献3】特開2004−60828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は係る事実を考慮し、風等により構造物に生じる微小振幅の変形に減衰効果を発揮し、大きな揺れが生じた後も再使用が可能な減衰装置並びにこの減衰装置を用いた免震構造物及び制振構造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、外乱により相対移動する上部構造体と下部構造体の間に配置され、減衰効果を発揮する減衰装置であって、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、粘弾性体を保持すると共に、該上部構造体と該下部構造体が所定値以上相対移動したとき前記粘弾性体を離脱させる保持手段を備え、前記粘弾性体は、前記保持手段から離脱すると前記上部構造体又は前記下部構造体から損傷するようなせん断力を受けない形状であることを特徴としている。
【0016】
請求項1に記載の発明では、上部構造体と下部構造体の間に粘弾性体が設けられている。また、上部構造体又は下部構造体の少なくとも一方には、粘弾性体を保持する保持手段が設けられている。外乱により上部構造体と下部構造体が相対移動すると、保持手段に保持された粘弾性体は、回転しながらせん断変形し、これにより減衰効果を発揮する。
【0017】
よって、再現期間1年程度の風等の外乱による、構造体の2cm程度以下の微小変形(微小振幅の変形)に対しても確実に減衰効果が得られるので、構造体の応答を抑えて快適な居住性を確保することができる。
【0018】
また、上部構造体と下部構造体の相対移動量がさらに大きくなると、粘弾性体の回転及びせん断変形が進行する。そして、上部構造体と下部構造体が所定値以上相対移動したときに、保持手段から粘弾性体が離脱する。また、粘弾性体は、このとき上部構造体又は下部構造体から損傷するようなせん断力を受けない形状になっている。粘弾性体は、通常、せん断歪みが200%程度以上になると、損傷する恐れがあるが、そのような歪みが生じる前に、保持手段が粘弾性体を離脱するので、粘弾性体が損傷することはない。
【0019】
よって、再現期間50年程度の中小地震や風等の外乱による構造体の10cm程度以下の中小変形(中小振幅の変形)、及び再現期間500年程度の大地震や風等の外乱による大変形(大振幅の変形)に対しては、粘弾性体が変形追随し、終には粘弾性体を損傷させることなく離脱できるので、この粘弾性体を再び装着し、再使用することが可能である。
【0020】
また、免震構造に本発明を適用した場合、免震構造の効果が重要となる中小変形及び大変形時には、粘弾性体は保持手段から離脱しているため、構造体の免震層の設計に影響を及ぼすことはない。
また、微小変形を対象とした単純な機構の減衰装置なので、小型化及び低コスト化が図れ、施工や、粘弾性体のメンテナンス時の取付け、取外しが容易である。また、粘弾性体が離脱したとき以外は、メンテナンスを殆ど必要としない。
このように、装置が小型かつ単純であり施工も容易であるので、竣工後に風揺れ等が問題になったときに、免震層の設計を変更することなく設置することができ、また、改修工事へも適用できる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記粘弾性体が、立断面で長辺と短辺を持つ長状体であり、
前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、前記粘弾性体の長辺の端部が長手方向に沿って係合する長溝であり、前記粘弾性体の短辺長が前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、ことを特徴としている。
【0022】
請求項2に記載の発明では、粘弾性体の立断面は、長辺と短辺を持つ形状である。また、粘弾性体は長状体である。上部構造体又は下部構造体の少なくとも一方には、この粘弾性体の長手方向に沿って長溝が設けられている。そして、長溝には、粘弾性体の長辺の端部が係合される。外乱により上部構造体と下部構造体が相対移動すると、長溝に係合された粘弾性体は、回転しながらせん断変形し、これにより減衰効果を発揮する。また、上部構造体又は下部構造体の長溝と、粘弾性体との係合面に発生する摩擦抵抗が、粘弾性体の回転を抑え、構造体の移動に対してせん断変形が受け持つ割合を大きくすることができるので、高い減衰効果を発揮することができる。
【0023】
また、上部構造体と下部構造体が所定値以上相対移動したときに、粘弾性体の係合が解かれて長溝から離脱する。このとき粘弾性体の短辺長は、上部構造体と下部構造体の隙間より短いので、上部構造体又は下部構造体から損傷するようなせん断力を受けることはない。よって、この粘弾性体を再び装着し、再使用することが可能である。
【0024】
また、長溝の深さを変えることにより、係合面の摩擦抵抗を変え、粘弾性体が離脱するタイミング及び減衰効果を調整することができる。
【0025】
また、粘弾性体は長状体であるので、長手方向に構造体が移動した場合、上部構造体又は下部構造体の長溝と、粘弾性体との係合面や、上部構造体又は下部構造体と、粘弾性体との接触面に発生する摩擦抵抗により、粘弾性体がせん断変形をし、これによって減衰効果を発揮する。また、粘弾性体の変形が大きくなると、静止摩擦力以上のせん断力を受けて滑るので、変形追随性を維持することができる。
【0026】
また、上部構造体又は下部構造体に溝を形成するだけなので施工が容易であり、粘弾性体の長辺の端部と同形状の溝を設ければよいので、さまざまな形状の粘弾性体への柔軟な対応が可能である。
【0027】
請求項3に記載の発明は、前記長溝に係合する前記粘弾性体の係合面には突起が設けられていることを特徴としている。
【0028】
請求項3に記載の発明では、上部構造体又は下部構造体の長溝と、粘弾性体との係合面に発生する摩擦抵抗が、係合面に設けられた突起により大きくなる。よって、粘弾性体の回転をさらに抑え、構造体の移動に対してせん断変形が受け持つ割合をさらに大きくすることができるので、より高い減衰効果を発揮することができる。
【0029】
請求項4に記載の発明は、前記長溝の縁部に沿って突壁を設けたことを特徴としている。
【0030】
請求項4に記載の発明では、長溝の縁部に沿って設けられた突壁に粘弾性体が引っ掛かり、この抵抗により、粘弾性体の回転をさらに抑え、構造体の移動に対してせん断変形が受け持つ割合をさらに大きくすることができるので、より高い減衰効果を発揮することができる。
【0031】
請求項5に記載の発明は、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方には、外側から前記粘弾性体を前記長溝へ挿入できる挿入溝が形成されていることを特徴としている。
【0032】
請求項5に記載の発明では、上部構造体又は下部構造体の少なくとも一方に挿入溝が設けられているので、粘弾性体をこの挿入溝から挿入することにより、粘弾性体の柔軟性を利用して長溝へ容易に装着することができる。
【0033】
請求項6に記載の発明は、前記粘弾性体の立断面形状が矩形であることを特徴としている。
【0034】
請求項6に記載の発明では、粘弾性体の立断面形状が矩形であるので、形状が単純であり、粘弾性体の製造及び長溝の形成が容易である。
【0035】
請求項7に記載の発明は、前記粘弾性体の立断面形状が楕円であることを特徴としている。
【0036】
請求項7に記載の発明では、粘弾性体の立断面形状が楕円であるので、長辺の端部が撓み易く、長溝に装着し易い。
【0037】
請求項8に記載の発明は、前記粘弾性体が、立断面で長辺と短辺を持つ長状体であり、前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方から突設し、前記粘弾性体の長辺の端部を挟持する突片であり、前記粘弾性体の短辺長が前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、ことを特徴としている。
【0038】
請求項8に記載の発明では、粘弾性体の立断面は、長辺と短辺を持つ形状である。また、粘弾性体は長状体であり、上部構造体又は下部構造体の少なくとも一方には、突片が粘弾性体の長辺の端部を挟み込むように設けられている。外乱により上部構造体と下部構造体が相対移動すると、突片に挟持された粘弾性体は、回転しながらせん断変形し、これにより減衰効果を発揮する。
【0039】
また、上部構造体又は下部構造体、及び突片と、粘弾性体との接触面に発生する摩擦抵抗が、粘弾性体の回転を抑え、構造体の移動に対してせん断変形が受け持つ割合を大きくすることができるので、高い減衰効果を発揮することができる。さらに、粘弾性体を挟持する突片間の距離を、粘弾性体の幅よりも狭くして粘弾性体を圧縮し、摩擦抵抗を大きくすることにより、粘弾性体の回転をさらに抑え、高い減衰効果を発揮することができる。
【0040】
また、突片を着脱することによって、粘弾性体の取付け及び取外しを容易に行なうことができる。
【0041】
また、上部構造体と下部構造体が所定値以上相対移動したときに、突片の挟持から粘弾性体が解かれて離脱する。このとき粘弾性体の短辺長は、上部構造体と下部構造体の隙間より短いので、上部構造体又は下部構造体から損傷するようなせん断力を受けることはない。よって、再びその粘弾性体を装着し、再使用することが可能である。
【0042】
また、突片の突出長さを変えることにより、接触面の摩擦抵抗を変え、粘弾性体が離脱するタイミング及び減衰効果を調整することができる。
【0043】
また、粘弾性体は長状体であるので、長手方向に構造体が移動した場合、上部構造体又は下部構造体、及び突片と、粘弾性体との接触面に発生する摩擦抵抗により、粘弾性体がせん断変形をし、これによって減衰効果を発揮する。また、粘弾性体の変形が大きくなると、静止摩擦力以上のせん断力を受けて滑るので、変形追随性を維持することができる。
【0044】
請求項9に記載の発明は、前記粘弾性体が、卵形状をしており、前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、前記粘弾性体の長辺の端部が係合する凹部であり、前記粘弾性体の短辺長が前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、ことを特徴としている。
【0045】
請求項9に記載の発明では、卵形状の粘弾性体が、上部構造体又は下部構造体の少なくとも一方に設けられた凹部に係合されている。よって、構造体のあらゆる水平方向の移動に対して、粘弾性体が同じ減衰効果を発揮する。
【0046】
また、構造体のあらゆる水平方向の所定値以上の移動に対して、粘弾性体が損傷することなく凹部から離脱することができる。
【0047】
請求項10に記載の発明は、前記粘弾性体が、中央にくびれが設けられたダンベル形状をしており、前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、前記粘弾性体の前記くびれに係合する突部であり、前記粘弾性体の前記くびれの両側の厚さは前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、ことを特徴としている。
【0048】
請求項10に記載の発明では、粘弾性体がダンベル形状である。そして、上部構造体又は下部構造体の少なくとも一方に突部が設けられ、この突部がダンベル形状の中央のくびれに係合している。上部構造体と下部構造体が相対移動すると、突部がダンベル形状のくびれの両側の膨らみ部分の片方に引っ掛かり粘弾性体を引っ張るので、粘弾性体がせん断変形し、これによって減衰効果を発揮する。
【0049】
また、上部構造体と下部構造体が所定値以上相対移動すると、突部がダンベル形状の両側の膨らみ部分の片方を乗り越えて離脱する。このとき粘弾性体のくびれの両側の厚さは上部構造体と下部構造体の隙間より短いので、上部構造体又は下部構造体から損傷するようなせん断力を受けることはない。
【0050】
よって、構造体の中小変形及び大変形に対しては、粘弾性体が変形追随し、終には粘弾性体を損傷させることなく離脱できるので、再びこの粘弾性体を装着し、再使用することが可能である。
【0051】
また、突部の突出量を変え、粘弾性体のくびれをこれに対応した形状とすることで、粘弾性体が離脱するタイミングを調整することができる。
【0052】
請求項11に記載の発明は、前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に対向する面に取り付けられた板材に設けられる、ことを特徴としている。
【0053】
請求項11に記載の発明では、保持手段が板材に設けられており、この板材が、上部構造体又は下部構造体の少なくとも一方に対向する面に取り付けられている。
よって、事前に保持手段を設けた板材を上部構造体又は下部構造体に取付けるだけの作業なので、容易に施工を行なうことができる。
【0054】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の減衰装置が、前記上部構造体と前記下部構造体の間に免震装置を配置した構造物の免震層に配設されたことを特徴としている。
【0055】
請求項12に記載の発明では、免震装置が配置された構造物の免震層に本発明の減衰装置を設けることにより、構造物の微小変形において減衰効果を発揮する免震構造物を構築することができる。
【0056】
請求項13に記載の発明は、請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の減衰装置が配設された制振構造物において、前記制振構造物の室内に設けられた間仕切壁又は外壁の上部、下部、又は中間に、前記減衰装置が配設されたことを特徴としている。
【0057】
請求項13に記載の発明では、制振構造物の微小変形に対しても確実に減衰効果が得られる。また、間仕切壁又は外壁の上部、下部、又は中間部に減衰装置を配設するので、減衰効果が最も得られる階層に減衰装置を配設することが可能であり、改修工事も容易に行なうことができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明は上記構成としたので、風等により構造物に生じる微小振幅の変形に減衰効果を発揮し、大きな揺れが生じた後も再使用が可能である。また、この減衰効果は、免震構造物や制振構造物においても発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
図面を参照しながら、本発明の減衰装置並びに本発明の減衰装置を適用した免震構造物及び制振構造物の例を説明する。なお、本実施形態は、あらゆる構造の新築及び改修建物への適用が可能である。
【0060】
まず、本発明の第1の実施形態に係る減衰装置10について説明する。図1、2には、本実施形態の減衰装置10が示されている。
【0061】
減衰装置10は、構造物を構成する上部躯体11の下面に固定される取付プレート12と下部躯体15の上面に固定される取付プレート14を備えている。取付プレート12と取付プレート14の間には粘弾性体16が配置される。粘弾性体16の立断面は、長辺18と短辺20を持つ矩形であり、図2に示すような長状体となっている。そして、取付プレート12と取付プレート14には、粘弾性体16の長手方向22に沿って保持手段となる長溝24が設けられ、粘弾性体16の長辺の端部16A、16Cと係合している。取付プレート12、14には、弾性体、木質材料、プラスチック材料、鉄、その他非鉄金属等を用いることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、取付プレート12、14に長溝24を形成して粘弾性体16を保持したが、上部躯体11、下部躯体15に直接長溝24を形成して粘弾性体16を保持してもよい。取付プレート12、14を用いた方が、施工をより容易に行なうことができる。
【0063】
次に、本発明の第1の実施形態に係る減衰装置10の作用及び効果について説明する。
第1の実施形態では、取付プレート12の水平移動に対する粘弾性体16の変形の様子を図3(A)から(F)の順に示したように、風等の外乱により取付プレート12が取付プレート14に対して水平方向へ相対移動すると、長溝24に係合された粘弾性体16は、回転しながらせん断変形し、これにより減衰効果を発揮する。また、取付プレート12、14の長溝24と、粘弾性体16の端部16A、16Cとの係合面に発生する摩擦抵抗が、粘弾性体16の回転を抑え、取付プレート12の相対移動に対してせん断変形が受け持つ割合を大きくすることができるので、高い減衰効果を発揮することができる。
【0064】
よって、再現期間1年程度の風等の外乱による、取付プレート12の2cm程度以下の微小変形(微小振幅の変形)に対しても確実に減衰効果が得られるので、構造物の応答を抑えて快適な居住性を確保することができる。また、この減衰効果は、風揺れに限らず、交通振動、小地震に対しても発揮することができる。
【0065】
また、取付プレート12の相対移動量がさらに大きくなると、粘弾性体16の回転及びせん断変形が進行する。そして、取付プレート12が所定値以上相対移動したときに、粘弾性体16の係合が解かれて長溝24から離脱する。このとき粘弾性体16の短辺20の長さは、取付プレート12と取付プレート14の隙間より短いので、取付プレート12又は取付プレート14から損傷するようなせん断力を受けることはない。粘弾性体16は、通常、せん断歪みが200%程度以上になると、損傷する恐れがあるが、そのような歪みが生じる前に、長溝24から粘弾性体16が離脱するので、粘弾性体16が損傷することはない。
よって、再現期間50年程度の中小地震や風等の外乱による取付プレート12の10cm程度以下の中小変形、及び再現期間500年程度の大地震や風等の外乱による大変形に対しては、粘弾性体16が変形追随し、終には粘弾性体16を損傷させることなく離脱できるので、再びこの粘弾性体16を装着し、再使用することが可能である。
また、長溝24の深さを変えることにより、粘弾性体が離脱するタイミング及び減衰効果を調整することができる。
【0066】
また、粘弾性体は長状体であるので、長手方向22に取付プレート12が移動した場合、長溝24と、粘弾性体16の端部16A、16Cとの係合面に発生する摩擦抵抗により、粘弾性体16がせん断変形をし、これによって減衰効果を発揮する。また、粘弾性体16の変形が大きくなると、静止摩擦力以上のせん断力を受けて滑るので、変形追随性を維持することができる。
【0067】
また、粘弾性体16の立断面形状が矩形であるので、形状が単純であり、粘弾性体16の製造及び長溝24の形成が容易である。
また、免震構造物に本発明を適用した場合、免震構造物の効果が重要となる中小変形及び大変形時には、粘弾性体16は長溝24から離脱するため、免震構造物の免震層の設計に影響を及ぼすことはない。
【0068】
また、微小変形を対象とした単純な機構の減衰装置10なので、小型化及び低コスト化が図れ、施工や、粘弾性体16のメンテナンス時の取付け、取外しが容易である。また、粘弾性体16が離脱したとき以外は、メンテナンスを殆ど必要としない。
このように、減衰装置10が小型かつ単純であり施工も容易であるので、竣工後に風揺れ等が問題になったときに、免震層の設計を変更することなく設置することができ、また、改修工事へも適用できる。
【0069】
図4〜7は、本実施形態の変形例を示したものである。
【0070】
図4は、粘弾性体16の立断面形状が楕円であるので、長辺の端部16A、16Cが撓み易く、長溝24に装着し易い。
【0071】
図5は、粘弾性体16の立断面形状が矩形であり、長溝24に係合する粘弾性体16の端部16A、16Cの係合面には突起26が設けられている。これにより、係合面に発生する摩擦抵抗がより大きくなる。よって、粘弾性体16の回転をさらに抑え、取付プレート12の相対移動に対してせん断変形が受け持つ割合をさらに大きくすることができるので、より高い減衰効果を発揮することができる。また、本実施形態では、突起26が、粘弾性体16側に設けられているが、長溝24側に設けてもよい。
【0072】
図6は、粘弾性体16の立断面形状が縦置きされたダンベル形状であり、長溝24に係合する粘弾性体16の端部16A、16Cの係合面には突起26が設けられている。これにより、図5と同様に、より高い減衰効果を発揮することができる。また、本実施形態では、突起26が、粘弾性体16側に設けられているが、長溝24側に設けてもよい。
【0073】
図7は、粘弾性体16の立断面形状が楕円であり、取付プレート12の長溝24の縁部に沿って突壁28が設けられている。この突壁28に粘弾性体16が引っ掛かり、この抵抗により、粘弾性体16の回転をさらに抑え、取付プレート12の移動に対してせん断変形が受け持つ割合をさらに大きくすることができるので、より高い減衰効果を発揮することができる。
【0074】
また、本実施形態では、突壁28が取付プレート12のみに設けられているが、取付プレート14のみに設けられても、両方の取付プレートに設けられてもよい。
【0075】
次に、本発明の第2の実施形態に係る減衰装置29、31について説明する。
【0076】
第2の実施形態は、第1の実施形態の粘弾性体16を長溝24へ装着するための構造の一例である。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図8、9には、本実施形態の減衰装置29、31が示されている。
【0077】
図8は、取付プレート12及び取付プレート14に、粘弾性体16を挿入するための挿入溝30が形成されている。挿入溝30は、長溝24へ斜め方向から連結されている。
【0078】
また、図9は、上部躯体12の一部を着脱可能な粘弾性体取替え用蓋材34としている。
蓋をした状態において蓋材34は、上部躯体11には固定されずに、取付プレート12と連結して一体化される。
【0079】
図8の挿入溝30、図9の蓋材34の設置場所及び設置数は、状況に応じて、適宜決めればよい。
【0080】
次に、本発明の第2の実施形態に係る減衰装置29、31の作用及び効果について説明する。
【0081】
図8の挿入溝30の挿入口32から粘弾性体16を挿入することにより、粘弾性体16の柔軟性を利用して長溝24へ容易に装着することができる。また、斜線部分については、別の挿入溝30から粘弾性体16が挿入される構成である。
【0082】
また、図9の蓋材34を外して、露出した下部躯体14の長溝24に沿って、粘弾性体16を挿入することにより、容易に装着することができる。
【0083】
次に、本発明の第3の実施形態に係る減衰装置35について説明する。
【0084】
第3の実施形態は、第1の実施形態の粘弾性体16を係合する長溝24の保持手段を、取付プレート12及び取付プレート14に設けたアングル材としたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図10には、本実施形態の減衰装置35が示されている。
【0085】
構造物に固定された取付プレート12と取付プレート14の間に粘弾性体16が設けられている。粘弾性体16は長状体であり、その立断面は、長辺18と短辺20を持つ矩形である。そして、取付プレート12と取付プレート14には、L字のアングル材36が粘弾性体16の長辺の端部16A、16Cを挟み込んでいる。また、取付プレート12又は取付プレート14と接するアングル材36の面には、長穴38が設けられている。さらに、取付プレート12と取付プレート14には、雌ネジ40が形成され、ボルト42が長穴38を介して雌ネジ40に螺合し、アングル材36を取付プレート12又は取付プレート14に固定している。
【0086】
粘弾性体16の取付け、取外しの際には、ボルト42を緩め、矢印44の方向にアングル材36をスライドすることで、容易に作業を行なうことができる。また、長穴38を単なる穴にし、ボルト42を完全に外して、アングル材36を着脱するようにしてもよい。また、アングル材36には、構造物の微小変形による弱い力しか作用しないので、ボルト42に替えて、ビス、接着剤、両面接着テープ等の簡易な固定方法を用いることができる。
【0087】
また、アングル材36は、粘弾性体16をしっかり挟持できる材料であればよく、軽量かつ錆びつかないアルミアングル材又はステンレスアングル材が適している。
【0088】
また、アングル材36の形状を工夫することにより、矩形以外の立断面形状を有する粘弾性体16に対応させることが可能である。
【0089】
次に、本発明の第3の実施形態に係る減衰装置35の作用及び効果について説明する。
【0090】
第3の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を得ることができ、また、風等の外乱により取付プレート12が取付プレート14に対して水平方向へ相対移動すると、アングル材36に挟持された粘弾性体16は、回転しながらせん断変形し、これにより減衰効果を発揮する。また、この減衰効果は、風揺れに限らず、交通振動、小地震に対しても発揮することができる。
【0091】
また、取付プレート12、取付プレート14、及びアングル材36と、粘弾性体16との接触面に発生する摩擦抵抗が、粘弾性体16の回転を抑え、取付プレート12の相対移動に対してせん断変形が受け持つ割合を大きくすることができるので、高い減衰効果を発揮することができる。さらに、粘弾性体16を挟持するアングル材36間の距離を、粘弾性体16の幅よりも狭くして粘弾性体16を圧縮し、摩擦抵抗を大きくすることにより、粘弾性体16の回転をさらに抑え、高い減衰効果を発揮することができる。
【0092】
また、取付プレート12が所定値以上相対移動したときに、アングル材36の挟持から粘弾性体16が解かれて離脱する。このとき粘弾性体16の短辺長20は、取付プレート12と取付プレート14の隙間より短いので、取付プレート12又は取付プレート14から損傷するようなせん断力を受けることはない。よって、再びその粘弾性体16を装着し、再使用することが可能である。また、アングル材36の突出長さを変えることにより、粘弾性体16がアングル材36から離脱するタイミング及び減衰効果を調整することができる。
【0093】
また、粘弾性体16は長状体であるので、長手方向に取付プレート12が移動した場合、取付プレート12、取付プレート14、及びアングル材36と、粘弾性体16との接触面に発生する摩擦抵抗により、粘弾性体16がせん断変形をし、これによって減衰効果を発揮する。また、粘弾性体16の変形が大きくなると、静止摩擦力以上のせん断力を受けて滑るので、変形追随性を維持することができる。
【0094】
次に、本発明の第4の実施形態に係る減衰装置45について説明する。
【0095】
第4の実施形態は、第1の実施形態の粘弾性体16を卵形状にしたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図11には、本実施形態の減衰装置45が示されている。
【0096】
卵形状の粘弾性体43が、取付プレート12と取付プレート14に設けられた凹部46に係合されている。また、粘弾性体43の短辺長が取付プレート12と取付プレート14の隙間より短くなっている。
【0097】
また、本実施形態では、粘弾性体43を卵形状としたが、円柱としてもよい。
【0098】
次に、本発明の第4の実施形態に係る減衰装置45の作用及び効果について説明する。
【0099】
第4の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を得ることができ、また、取付プレート14に対する、取付プレート12のあらゆる水平方向の相対移動に対して、粘弾性体43が同じ減衰効果を発揮することができ、取付プレート14に対する、取付プレート12のあらゆる水平方向の所定値以上の相対移動に対して、粘弾性体43が損傷することなく凹部46から離脱することができる。また、凹部46と粘弾性体43の両端部との係合深さを変えることにより、粘弾性体43が、凹部46から離脱するタイミング及び減衰効果を調整することができる。
【0100】
次に、本発明の第5の実施形態に係る減衰装置47について説明する。
【0101】
第5の実施形態は、第1の実施形態の粘弾性体16をダンベル形状にしたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。図12、13には、本実施形態の減衰装置47が示されている。
粘弾性体50は、略中央がくびれており、このくびれ50Aの両側に円形の膨らみ部50Bを有するダンベル形状であり、図13に示すように、粘弾性体50は長状体となっている。また、取付プレート12と取付プレート14に突部48が設けられ、この突部48がダンベル形状の中央のくびれ50Aに係合している。また、くびれ50Aの両側の膨らみ部50Bの厚さは取付プレート12と取付プレート14の隙間より短くなっている。
【0102】
次に、本発明の第5の実施形態に係る減衰装置47の作用及び効果について説明する。
第5の実施形態では、取付プレート14に対する、取付プレート12の水平方向の相対移動に対する粘弾性体50の変形の様子を図14(A)から(E)の順に示したように、風等の外乱によって取付プレート12が取付プレート14に対して、水平方向に相対移動すると、突部48がダンベル形状の両側の膨らみ部50Bの一方に引っ掛かり粘弾性体50を引っ張るので、粘弾性体50がせん断変形し、これによって減衰効果を発揮する。
よって、再現期間1年程度の風等の外乱による、取付プレート12の2cm程度以下の微小変形に対しても確実に減衰効果が得られるので、構造物の応答を抑えて快適な居住性を確保することができる。また、この減衰効果は、風揺れに限らず、交通振動、小地震に対しても発揮することができる。
【0103】
また、取付プレート12が所定値以上相対移動すると、突部48がダンベル形状の両側の膨らみ部50Bの一方を乗り越えて離脱する。このとき粘弾性体50のくびれ50Aの両側の膨らみ部50Bの厚さは取付プレート12と取付プレート14の隙間より短いので、取付プレート12又は取付プレート14から損傷するようなせん断力を受けることはない。粘弾性体50は、通常、せん断歪みが200%程度以上になると、損傷する恐れがあるが、そのような歪みが生じる前に、突部48から粘弾性体50が離脱するので、粘弾性体50が損傷することはない。
【0104】
よって、再現期間50年程度の中小地震や風等の外乱による取付プレート12の10cm程度以下の中小変形、及び再現期間500年程度の大地震や風等の外乱による大変形に対しては、粘弾性体50が変形追随し、終には粘弾性体50を損傷させることなく離脱できるので、再びこの粘弾性体50を装着し、再使用することが可能である。
【0105】
また、突部48の突出量を変え、粘弾性体50のくびれ50Aをこれに対応した形状とすることで、粘弾性体50が離脱するタイミングを調整することができる。
【0106】
また、粘弾性体50は長状体であるので、長手方向22に取付プレート12が移動した場合、取付プレート12及び取付プレート14と、粘弾性体50との接触面に発生する摩擦抵抗により、粘弾性体50がせん断変形をし、これによって減衰効果を発揮する。また、粘弾性体50の変形が大きくなると、静止摩擦力以上のせん断力を受けて滑るので、変形追随性を維持することができる。また、本実施形態は、取付プレート12又は取付プレート14と、粘弾性体50との接触面を大きくとることができるので、摩擦抵抗も大きく、取付プレート12の移動に対してせん断変形が受け持つ割合も大きいので、取付プレート12の長手方向22の移動に対しても、高い減衰効果を発揮することができる。
また、免震構造物に本実施形態を適用した場合、免震構造物の効果が重要となる中小変形及び大変形時には、粘弾性体50は突部48から離脱するので、免震構造物の免震層の設計に影響を及ぼすことはない。
【0107】
また、微小変形を対象とした単純な機構の減衰装置47なので、小型化及び低コスト化が図れ、施工や、粘弾性体50のメンテナンス時の取付け、取外しが容易である。また、粘弾性体50が離脱したとき以外は、メンテナンスを殆ど必要としない。
このように、減衰装置47が小型かつ単純であり施工も容易であるので、竣工後に風揺れ等が問題になったときに、免震層の設計を変更することなく設置することができ、また、改修工事へも適用できる。
【0108】
次に、本発明の第6の実施形態に係る免震構造物及び制振構造物とその作用及び効果について説明する。
【0109】
第6の実施形態は、第1の実施形態である図1の減衰装置10の適用例を示したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0110】
図15では、免震構造物の躯体54と、土留め等を目的とする擁壁56との間に、空間
58が形成されており、この空間58は、バルコニー、植栽帯、スロープ、車路等の犬走り60によって覆われている。そして、擁壁56と犬走り60との間には、隙間62が形成されており、この隙間62に減衰装置10が設けられている。
【0111】
躯体54と擁壁56は、地震等の揺れに対して免震機能を発揮するために、40〜60cm程度離されており、擁壁56と犬走り60の相対位置も変化するので、隙間62には、通常、止水ゴムやシール材が充填されている。しかし、これらの材料に替えて、減衰装置10を隙間62に設けることにより、免震機能を阻害することなく、従来の止水性を確保し、かつ微小変形に対する減衰効果を発揮することができる。
図16では、免震装置64が配置された建物66の中間層68を囲む外周壁70の間に減衰装置10が設けられている。よって、建物66の微小変形において減衰効果を発揮する免震構造物を構築することができる。
【0112】
図17では、制振建物72の室内空間73において、間仕切壁74の上部や、下部間仕切壁74Bと上部躯体76から垂らした上部間仕切壁74Aとの間に減衰装置10が設けられている。よって、制振建物72の微小変形に対しても確実に減衰効果が得られる制振構造物を構築することができる。
【0113】
減衰装置10は、上部躯体76から垂らした間仕切壁74の下部と下部躯体77との間に設けてもよい。また、減衰装置10は、あらゆる階層の間仕切壁74に容易に設けることができるので、減衰効果が最も得られる階層に減衰装置10を配設することが可能であり、改修工事も容易に行なうことができる。さらに、外壁79の上部、下部、又は中間に減衰装置10を配設することが可能である。
【0114】
図18では、上部躯体とエレベータピット躯体78の上部とが緊結しており、エレベータピット躯体78が上部躯体から吊り下げられた状態になっている。そして、このエレベータピット躯体78の底部と建物本体の底版80との間に減衰装置10が設けられている。上部躯体とエレベータピット躯体78とは緊結されているので、上部躯体が風等の外乱により変形するとそれに伴いエレベータピット躯体78も変形する。その際に、エレベータピット躯体78の底部と建物本体の底版80とが相対移動し、これにより減衰装置10がせん断変形して減衰効果を発揮する。
図19では、防振ゴム等の免震装置82を介して床84上に載置された機器86と、床84との間に減衰装置10が設けられている。
半導体製造装置のような、微振動を嫌う機器86等に対して減衰装置10が防振効果を発揮し、地震時には免震装置82によって機器86が壊れるのを防ぐことができる。
【0115】
第6の実施形態では、第1の実施形態である図1の減衰装置10の適用例を示したが、これまでに述べた第1〜第5の実施形態のすべての減衰装置10、29、31、35、45、47を第6の実施形態に適用することができる。
また、第1〜第6の実施形態において、粘弾性体16、43、50の材料は、微小変形に対して減衰効果を発揮するものであればよく、高減衰ゴム、亜鉛アルミ合金、鉛等の非鉄金属等を用いてもよい。
また、第1〜第5の実施形態においては、取付プレート12のみが水平方向に相対移動した例を示したが、小さな地震等で取付プレート14のみが水平方向に相対移動したり、取付プレート12及び取付プレート14の両方が水平方向に相対移動した場合にも、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0116】
図20は、本発明の第6の実施形態である図15の減衰装置10を適用した免震構造物の減衰係数Cに対する加速度応答を示し、図21〜23のモデルに対して数値解析を行った結果である。
【0117】
図21は、数値解析で用いた建物モデルであり、高さ約100mの超高層ビル88である。この超高層ビル88の地下に設けられた免震層90には、図22の平面図に示すレイアウトのように、免震装置92と、本発明の減衰装置10が配置されている。犬走り60と擁壁56の間に減衰装置10が周囲約120mに渡って設けられている。犬走り60と擁壁56の間の隙間62は2cmであり、この隙間62に、立断面が矩形で幅5cmの粘弾性体16が取付けられている。粘弾性体16の粘弾性体材料定数は、Geq=2.0kg/cm、heq=30%とした。なお、本数値解析は、粘弾性体の減衰効果を検証するためのものなので、粘弾性体16の立断面の幅は、犬走り60と擁壁56の間の隙間よりも短くなってはいない。
【0118】
図23は、免震装置92及び減衰装置10をモデル化した、Voigtモデル94である。並列に接続されたバネ98及びダンパー100からなる減衰装置10のモデルと、バネ96からなる免震装置92のモデルとが並列に接続されている。
【0119】
図20の符号102は、超高層ビル88の最上階の値、符号104は、中間階の値、符号106は、最下階の値が示されている。図23のバネ96のバネ定数194t/cmと、バネ98の0から10t/cmずつ順に増やしたバネ定数とから、減衰係数Cを求め、この減衰係数Cに対する、各階層の加速度応答値を算出した。
【0120】
図20に示されているように、各階ともに、減衰装置10が設けられていない状態に相当する減衰係数C=0ts/cmの加速度応答値に比べ、本発明の減衰装置10を適用した場合に相当する減衰係数C=0ts/cm以外の加速度応答値が小さくなっている。よって、本発明の減衰装置10の減衰効果が発揮されていることがわかる。
【0121】
また、体感的な居住性の悪化に最も影響を及ぼす、最上階の加速度応答(符号102)に注目すると、減衰係数C=11.49ts/cm(図20の値D)のときの加速度応答が3.01gal(図20の値E)と最も小さく、減衰係数C=0ts/cmのときの6割程度にまで加速度応答を抑えることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る減衰装置を示す側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る減衰装置を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る減衰装置の作用を示す側面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る減衰装置の変形例を示す側面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る減衰装置の変形例を示す側面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る減衰装置の変形例を示す側面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る減衰装置の変形例を示す側面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る減衰装置を示す斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る減衰装置を示す斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る減衰装置を示す側面図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る減衰装置を示す斜視図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る減衰装置を示す側面図である。
【図13】本発明の第5の実施形態に係る減衰装置を示す斜視図である。
【図14】本発明の第5の実施形態に係る減衰装置の作用を示す側面図である。
【図15】本発明の第6の実施形態に係る免震構造物の説明図である。
【図16】本発明の第6の実施形態に係る免震構造物の説明図である。
【図17】本発明の第6の実施形態に係る制振構造物の説明図である。
【図18】本発明の第6の実施形態に係る構造物の説明図である。
【図19】本発明の第6の実施形態に係る免震構造物の説明図である。
【図20】本発明の実施形態に係る免震構造物の減衰係数に対する加速度応答を示す線図である。
【図21】数値解析の建物モデルを示す説明図である。
【図22】数値解析の建物モデルの免震層の平面図である。
【図23】数値解析のVoigtモデルを示す説明図である。
【図24】従来の粘弾性体の減衰効果を示す説明図である。
【図25】従来の減衰装置を示す説明図である。
【図26】従来の減衰装置を示す説明図である。
【図27】従来の減衰装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0123】
10 減衰装置
11 上部躯体(上部構造体)
12 取付プレート(板材)
14 取付プレート(板材)
15 下部躯体(下部構造体)
16 粘弾性体
24 長溝、保持手段
26 突起
28 突壁
29 減衰装置
30 挿入溝
31 減衰装置
35 減衰装置
36 アングル材(突片、保持手段)
43 粘弾性体
45 減衰装置
46 凹部、保持手段
47 減衰装置
48 突部、保持手段
50 粘弾性体
50A くびれ
64 免震装置
66 建物(構造物)
72 制振建物(制振構造物)
74 間仕切壁
79 外壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外乱により相対移動する上部構造体と下部構造体の間に配置され、減衰効果を発揮する減衰装置であって、
前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、粘弾性体を保持すると共に、該上部構造体と該下部構造体が所定値以上相対移動したとき前記粘弾性体を離脱させる保持手段を備え、
前記粘弾性体は、前記保持手段から離脱すると前記上部構造体又は前記下部構造体から損傷するようなせん断力を受けない形状であることを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
前記粘弾性体が、立断面で長辺と短辺を持つ長状体であり、
前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、前記粘弾性体の長辺の端部が長手方向に沿って係合する長溝であり、
前記粘弾性体の短辺長が前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰装置。
【請求項3】
前記長溝に係合する前記粘弾性体の係合面には突起が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の減衰装置。
【請求項4】
前記長溝の縁部に沿って突壁を設けたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の減衰装置。
【請求項5】
前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方には、外側から前記粘弾性体を前記長溝へ挿入できる挿入溝が形成されていることを特徴とする請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の減衰装置。
【請求項6】
前記粘弾性体の立断面形状が矩形であることを特徴とする請求項2〜請求項5の何れか1項に記載の減衰装置。
【請求項7】
前記粘弾性体の立断面形状が楕円であることを特徴とする請求項2〜請求項5の何れか1項に記載の減衰装置。
【請求項8】
前記粘弾性体が、立断面で長辺と短辺を持つ長状体であり、
前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方から突設し、前記粘弾性体の長辺の端部を挟持する突片であり、
前記粘弾性体の短辺長が前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰装置。
【請求項9】
前記粘弾性体が、卵形状をしており、
前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、前記粘弾性体の長辺の端部が係合する凹部であり、
前記粘弾性体の短辺長が前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰装置。
【請求項10】
前記粘弾性体が、中央にくびれが設けられたダンベル形状をしており、
前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に設けられ、前記粘弾性体の前記くびれに係合する突部であり、
前記粘弾性体の前記くびれの両側の厚さは前記上部構造体と前記下部構造体の隙間より短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰装置。
【請求項11】
前記保持手段が、前記上部構造体又は前記下部構造体の少なくとも一方に対向する面に取り付けられた板材に設けられる、
ことを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか1項に記載の減衰装置。
【請求項12】
請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の減衰装置が、前記上部構造体と前記下部構造体の間に免震装置を配置した構造物の免震層に配設されたことを特徴とする免震構造物。
【請求項13】
請求項1〜請求項11の何れか1項に記載の減衰装置が配設された制振構造物において、
前記制振構造物の室内に設けられた間仕切壁又は外壁の上部、下部、又は中間に、前記減衰装置が配設されたことを特徴とする制振構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2007−126946(P2007−126946A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322767(P2005−322767)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】