説明

温度分布均一化構造をもつ透明導電膜フィルムヒーター

【課題】液晶ディスプレィを持つ機器、恒温下で化学反応を観察する機器等の温度制御のために使用されるヒーター部品として、良好な透明性と広い観察面積および構造的なフレキシビリティが維持され、温度分布の均一性が高くかつコストの安い透明導電膜フィルムヒーターを提供する。
【解決手段】透明導電膜上に設けられた金属ペーストを用いた印刷手段で製造された一対の平行な電極において、その一対の電極の片方について絶縁体を介して上下二層とし、電力が供給される電源接続端子から最も遠い端部付近に上下二層電極の電気的な接続点を設けた構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明でフレキシブルなフィルムヒーターに関し、さらに詳しくはヒーター面の温度分布を均一にするための電極構造と透明導電膜の形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜フィルムヒーターは、液晶ディスプレイを動作温度に保持すること、あるいはボトル内の化学反応を観察しながら温度制御することなど、被観測物を適正な温度に保つために広く利用されている。この透明導電膜フィルムヒーターのフレキシビリティは、被観察物の形状に自由に合わせられることや繰り返し使用を可能にする耐久性のために重要な特性である。
【0003】
従来、透明導電膜フィルムヒーターは、フィルム状のPETやPENなどの高分子基材の上に、ITOや酸化錫等の酸化金属系導電性素材からなる透明導電膜をスパッタリングなどで成膜し、適宜透明導電膜の両端に電力供給用の一対の電極を付与して形成されていた。電極には、ヒーターのフレキシビリティを維持するため、またコスト低減のために、印刷手段により、銀などの金属フィラーを混合した金属ペーストが用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−077879
【特許文献2】特開2005−302553
【特許文献3】特開平8−138841
【特許文献4】特開平7−153559
【発明の概要】

【発明が解決しようという課題】
【0005】
透明導電膜フィルムヒーターに用いられている金属ペーストは電気導電率のきわめて低い有機樹脂を含むため金属単体よりも固有抵抗値が高く、透明導電膜の面積抵抗が低い場合には電極での電圧降下が発生し、被観測物を均一に加温できない不具合が生じていた。本発明はこの不具合を是正し、ヒーター面の温度分布の均一性が損なわれることを防ぐ手段を開示している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、ヒーター面の温度分布の均一性を保つために5つの手段を講じるものである。
【0007】
第一の手段として、金属ペーストが印刷された一対の電極の片方に絶縁層を介して上下2層の電極となし、その電極の電源接続端子より遠い端部で上下2層の接続点を有する構造とする。
【0008】
第二の手段として、上記第一の手段に加え、透明導電膜において、電極の長手方向と垂直に導電膜を一部除去したスリット状の導電膜除去溝を等間隔または不等間隔に設け、透明導電膜に流れる電流の方向を電極長手方向と垂直になるように規制する構造とする。
【0009】
第三の手段として、一対の電極の両方において絶縁層を介して上下2層の電極となし、電極のほぼ中央に上下2層の接続点を設ける構造とする。
【0010】
第四の手段として、第三の手段に加え、透明導電膜において電極長手方向と垂直にスリット状の導電膜除去溝を設け、その溝幅を場所によって変える構造とする。
【0011】
第五の手段として、第四手段をさらに改良し、接続点から離れるに従い、導電膜除去溝を含めた隣あう単位幅当たり電極間距離の透明導電膜の抵抗値の差が、電極長手方向の単位長さ当たりの抵抗値に等しくなるような導電膜除去溝の構造とする。
【0012】
第六の手段として、第三、四、五手段に加え、上下2層の電極の接続点の形状を長方形とし、その電極幅方向の辺は電極幅と同じ長さを持ち、電極長手方向の辺は電極幅の1/5以下とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明導電膜フィルムヒーターは次のような効果を有する。
(1) 最大限のフレキシビリティを保持しつつ、ヒーターの単位面積当たりの電流量 が均一になり、温度分布のばらつきがきわめて少ない。
(2) 電極を上下2層にすることにより、ディスプレイの観察面積を最大限確保でき る。
(3) 電極の形成には印刷手段を用いており、フレキシビリティが維持され、かつそ の手段の設備投資額が少ないため製造コストが安い。
(4) 透明導電膜に導電膜除去溝を設けることにより、さらに温度分布の均一性を高 めることができる。
(5) 一対の電極の両方とも二層構造にすることにより、観測物に巻きつけやすい構 造となる。
(6) 上下2層の電極の接続点を電極の中央に位置させることにより、電極の抵抗値 の上昇を最小限とし、接続点での電圧分布のバランスを良くすることができ、 電極における電力ロスも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来技術の説明図
【図2】電極の片方を上下2層にした実施例1の説明図
【図3】図2におけるA−A´断面図
【図4】実施例1で透明導電膜形状のアスペクト比が大きくなった場合の説明図
【図5】透明導電膜に等間隔の導電膜除去溝を設けた実施例2の説明図
【図6】図5におけるB−B´断面図
【図7】接続点を上下の電極の中央に設けた実施例3の説明図
【図8】図7におけるC−C´断面図
【図9】透明導電膜に設けた導電膜除去溝の幅が場所により異なる実施例4の説明図
【図10】図9におけるD−D´断面図
【図11】実施例5を説明するための従来技術の説明図
【図12】図11のE−E´断面図
【図13】接続点の幅方向の辺W4と電極長手方向の辺L3の関係の説明図
【図14】図13におけるL3と接続点縁部の下層電極抵抗の説明図
【図15】接続点の形状に関する実施例5の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで技術内容を詳しく説明する。図1に、従来使われてきた透明導電膜フィルムヒーターの平面図を示す。ITOや酸化錫などの透明導電膜30がスパッタリング等の薄膜形成技術により成膜されている高分子基材40のフィルム上に、一対の平行な電極10、11が銀粒子などからなる金属ペーストを用いて印刷手段により形成される。電極の端部には電力を供給するための電源接続端子20が設けられている。透明導電膜は電極印刷の前に、形状が高分子基材より適宜小さめに成形され不要部分は除去されている。なお、図1においては電極と導電膜が接している領域では上下対称な形状となっている。
【0016】
この構造の透明導電膜フィルムヒーターにおいて、透明導電膜の面積抵抗が低い場合(20Ω/□以下)やアスペクト比が高い(形状が横に長い形、あるいは上下の電極間距離が小さい形状)場合は、透明導電膜の抵抗値に比べ、電極の抵抗値が相対的に大きくなり、電極の電源接続端子から他方の端部にかけて電圧降下が発生する。結果として、図1における点線の丸で示す高温領域50が発生し、電源接続端子から遠い領域の温度が上昇せず、ヒーター面全体で温度分布の不均一が起きる。
【0017】
このような温度分布の不均一が起きた場合、透明導電膜フィルムヒーターに接触している被観測物の温度にも不均一が生じ、温度を一定に保つことが難しくなっていた。あるいは、化学反応を起こさせるボトルの場合には、温度のばらつきが多くなり、精度の高い実験が不可能になっていた。
【0018】
このような温度分布の不均一を防ぐために、これまで、電極の一部あるいは全体を単体の金属で形成する方法が提案されてきた。すなわち、金属単体を電子ビーム蒸着、スパッタリング、電解メッキ、無電解メッキなどを用いて電極を成膜する方法である。この方法では、電極の導電率は大きく上がるものの、透明ヒーターの重要な特性であるフレキシビリティが失われ、使用時の耐久性が悪くなり、さらに成膜手段として高価な設備が必要であった。
【0019】
本発明においては、電極の製法には金属ペーストの印刷手段を用い、低コストながら、高分子基材のフレキシビリティを十分に保持し、被観測物の観察面積を最大限にしつつ温度の不均一を防止した透明導電膜フィルムヒーターを提供するものである。
【0020】
まず、温度分布の不均一を防ぐために、一対の電極の片側について絶縁層を介して上下2層とし、電源接続端子より最も遠い端部に上下の電極の電気的な接続点を設ける構造とする。このような構造にすることにより、電源接続端子20から見た、単位幅当たり電極間距離の透明導電膜の抵抗と電極の抵抗の和は一定となる。したがって、流れる電流値は場所によらず一定になり均一な温度分布が得られる。加えて、被観測物の観察面積は、電極を2層にしても変わることはなく最大限確保できる。
【0021】
このような構造にしても、導電膜の面積抵抗がさらに下がった場合やアスペクト比が高くなった場合には、電極の上下2層接続点から他の側の電源接続端子に向かって斜めに電流路が形成される(図4)。当然、ヒーター面における温度の不均一が生じる。これを防止するため、透明導電膜フィルムヒーターに導電膜の一部を除去したスリット状の溝を設け、電流の流れを電極長手方向と垂直になるように規制する構造とする。
【0022】
さらに一対の電極(図1の構造では電極11と10)の両方とも上下2層とし、2層の接続点を導電膜30と接する電極の中央に配置する構造とすることである。電極長さが電極間距離(導電膜の縦方向の幅)に比べ大きくない場合にはこれだけでかなりの温度分布の均一性が達成される。さらに、図1のような形状においては一対の電極の両方の厚みが等しくなるので、ボトル等にきちんと巻きつけることができる。また、電極の片側だけの2層構造より、電極の実行長さが平均的に4分の1程度減少するので、電極の抵抗による電力ロスも半減する。
【0023】
このように一対の電極の両方を上下2層とし、接続点を中央にした場合でも、透明導電膜の面積抵抗が低い場合やアスペクト比が高くなった場合には、導電膜端部の温度が低くなる現象が生じる。さらにこれを防止するために、上述したような電極長手方向に垂直に導電膜を除去した導電膜除去溝を等間隔あるいは不等間隔に設ける構造とする。ただし、この場合には導電膜除去溝の溝幅を場所により異なることを特徴とする。具体的には接続点のある中央付近の溝幅を大きくすることにより、電源接続端子から見た電極と単位幅当たりの導電膜の抵抗値の和を略々一定とし、電流の流れを均一化することができる。
【0024】
さらに温度の均一性を向上させるには、中央に設けた一対の電極の接続点中央を結んだ中心線から離れるに従い、隣り合う透明導電膜除去溝で仕切られる導電膜の抵抗値の差が、透明電極除去溝のピッチ当たりの電極の抵抗値に一致している構造とする。このように透明導電膜除去溝で仕切られる抵抗値が中心線から離れるに従い漸次減少していくことにより、導電膜端部にも電流が流れるようになり、より正確に導電膜面の温度分布の均一化を図ることができる。
【0025】
接続点の位置が電極の中央にある構造では、接続点の電極幅方向の長さをw、接続点の電極長手方向の長さをLとすると、wは電極の幅と等しく、L<(1/5)・wである形状がよい。この関係は、この接続点を通って電流が下層電極の左右に流れ、いずれの方向にも同じ電圧で電流が供給される条件として求められる。したがって、Lが大きくなれば(L>w)電極における左右の電圧バランスが崩れ、温度分布に不均一性が現れる。なお、電極を片側だけ上下2層として接続点が電源接続端子の最も遠い端部にある構造においては、この限りではない。
【実施例1】
【0026】
一対の電極の片方を二層とし、電極の接続点を電源接続端子20から遠い位置に配置した実施例1を図2に示す。図3は図2のA−A´断面図である。図2においては、上側に配置した電極を2層とし、その電極を図3において上層電極11下層電極12としている。図3では電極をレジストでできた絶縁層70を介して二層となす構造に加え、接続点60の構造も示す。すなわち、上下2層電極の接続点60を経由して下層電極12に電流が供給される。本実施例においては、単位幅当たり電極間距離の透明導電膜の抵抗と電極の抵抗の和(電源接続端子20から見た抵抗値)は、透明導電膜内のどの位置においても一定となる。したがって、透明導電膜中の面積当たりの電流値が一定となり、温度分布も均一になる。
【0027】
他方、片方の電極が二層になっても被観測物を目視するための観察面積は従来と変わらず最大限の大きさを確保できる。なお、一対の電極の上下のどちらを2層にしてもこれまで説明してきた効果が変わることはない。
【実施例2】
【0028】
実施例1においては、従来技術に比べ均一な温度分布が得られ優れた透明導電膜フィルムヒーターとなるが、さらにアスペクト比が大きくなり、相対的に電極の抵抗が大きくなると図4に示すような斜め電流路80が発生する。このために、この電流路以外の場所の電流が減少し、図4に示す右下側低温領域S1と左上側低温領域S2が生じる。これを防ぐために、電流路を電極の長手方向に垂直になるよう流れ方を規制することが重要となる。
【0029】
この考えを具現化し、電流路を規制した実施例2が図5であり、そのB−B´断面図が図6である。図5においては、溝幅w1、溝長さL1のスリット状の導電膜除去溝90が等間隔で配置されている。このように、電流を電極長手方向と垂直に流れるように規制すると、図4にあるような温度分布の不均一を防ぐことができる。図5においては導電膜除去溝の間隔を等間隔としているが、不等間隔であっても、電流が電極長手方向に対して略々垂直であれば目的を達成するものである。溝幅についても必ずしも同じある必要はない。
【0030】
実施例2で示した導電膜除去溝90は幅100μm、ピッチ10mm程度で配置されるが、導電膜は透明であるため、この溝は目視で確認することが難しい。したがって、この導電膜除去溝により被観測物の観察時における不都合が生じることはない。
【0031】
なお、図5においては、導電膜除去溝と電極の間に上部連続部S3と下部連続部S4の透明導電膜の連続した部分を設けたが、これは必ずしも必要ではなく、溝が直接電極に接している構造であっても効果に変わりはない。
【実施例3】
【0032】
実施例1の図2の上側にある電極11、12と下側の電極10では厚みが異なり、ボトルなどに重ねて巻きつける場合には不具合を生じる。実施例2の図5においても同様である。また、両実施例とも電力を供給する電極の長さが従来例に比べ長くなっており、その分電力ロスも発生する。当然、電極の長さを少しでも減らし、余分な電力ロスの低減が必要となる。
【0033】
この考えから上側の電極も下側の電極も絶縁層を介して二層とし、接続点を電極の中央に持ってくることによりこれらの不具合を解消することができる。この考察の実施例3を図7に示す。図7のC−C´断面図を図8に示す。図7、8において、上側接続点61、下側接続点62の接続点中心を結ぶ中心線64より右側の上層電極は電気回路的にはダミーであり、機械的な厚みを左右同一にするために設けたものである。この電極厚みの均一化により、ボトルに巻く場合に、きちんと巻けるうえ繰り返し使用のための耐久性も向上する。
【0034】
一方本実施例では、実施例1や2に比べ平均的に電極長さは3/4に短縮され、その分電極による電力ロスは略々半減する。この電力ロスの半減は透明導電膜に対する電極の場所による電圧の不均一の低減につながり、温度分布の不均一が緩和される。さらに、従来技術の図1の電源接続端子側から右側の端までの電圧降下に比べ、図7の中心線64から両端までの電圧降下は半減しているので、温度分布の不均一は一段と緩和される。
【実機例4】
【0035】
実施例3においては、透明導電膜の面積抵抗が下がってきた場合(20Ω/□以下)や、アスペクト比が大きくなった場合には、透明導電膜の左右の端部における電流量が低下し、図7の透明導電膜30の端部に温度分布の不均一が生じる。これを防止するために、電極の長手方向の抵抗を含めた合計の抵抗値が等しくなるよう導電膜除去溝の幅を場所によって変えることを考える。この考えの実施例4を図9に示す。図9のD−D´断面図を図10に示す。基本的な考え方は、中心線64付近の導電膜除去溝の幅を端部の溝幅より大きくすることである。
【0036】
さらに精度を上げて考察すれば、透明導電膜に設ける複数の導電膜除去溝90において、中心線64上の溝を1番目とし、それから左右にn番目の導電膜除去溝の幅をWn、n+1番目の導電膜除去溝の幅をWn+1とする。導電膜除去溝の長さをL2とする。L2は電極間距離とほぼ等しくしなる。導電膜除去溝の並びピッチをW0として、ピッチ当たり電極間距離の透明導電膜の抵抗値をR0、ピッチ幅に相当する下層電極の長手方向の抵抗値をRp、n番目とn+1番目の導電膜除去溝に接する透明導電膜のピッチ幅当たりの電極間距離の抵抗値をRn、Rn+1とすると、次の式が成り立つようにWn、Wn+1を決めることができる。先ず、次の関係式が成り立つ。
【数1】

ここで、W0≪Wn、W0≪Wn+1 であることを考慮すれば、次の式を得る。
【数2】

この数2式を満たすように導電膜除去溝の幅を透明導電膜30に成形すれば、電極による電圧降下を補正し、膜全体に均一な電流密度が維持され、均一な温度分布が得られる。なお、nやn+1は中心線を対称線として、各々2個ずつ存在する。
【0037】
ここで、数2式の内容の具体例を示す。透明導電膜の面積抵抗値は、低めの典型的な値として20Ω/□、銀ペースト電極の面積抵抗値は0.02Ω/□である。電極幅を0.5cm(5mm)とすると、ピッチW0=1cm(10mm)としてRp=0.04Ωとなる。透明導電膜の電極間距離を4cm(40mm)とすると、透明導電膜のピッチ当たりの抵抗値はR0=80Ωとなる。さらにこれらの値を代入して数2式を計算する。
【数3】

【0038】
すなわち、図9の中心線64の位置から導電膜除去溝が離れるに従い、1ピッチ当たり5μmずつ溝の幅を減少させるような導電膜構造をとれば、電流を均一に流すことができる。必然的に、温度分布も均一になる。
【0039】
導電膜除去溝の形成精度が5μmに及ばない場合には、ピッチを全導電膜内で一定として溝の数を形成精度まで増す毎に幅を増減させれば、目的を達成することができる。たとえば形成精度が、50μmの場合、導電膜除去溝を10本進むごとに、溝の幅を50μm減らすことを意味する。
なお、透明導電膜上の導電膜除去溝の幅が視認可能な0.3mm以上になった場合でも、もともと透明であるため、導電膜除去溝が被観測物を観察する上で障害になることはない。
【実施例5】
【0040】
図11は拡大した接続点63に関する実施例5を説明するための従来技術の説明図であり、図12は、図11のE−E´線の断面図である。
【0041】
図7の実施例3や、図9の実施例4に示されている接続点は、図11に示すように長方形をしている。その電極幅方向の辺の長さをW4とし、電極長手方向の辺の長さをL3で表すと、図11ではW4はW3より狭く、L3はW4とほぼ等しいかそれ以上の寸法となっている。
【0042】
実施例3、4に示したように接続点が電極の中央にある場合、図11のようにL3を大きくとった構造(L3がW3の寸法と同程度)では、接続点での電圧降下が発生し、電極の電圧が図11において左右非対称となり、電源から遠い側(右側)への電流量の減少が起きる。結果として、電流の不均一、温度分布の不均一が生まれる。
【0043】
この不均一を防止するため、接続点での電圧降下の少ない形状を考察する。まず、電極の接続点での電流路の抵抗値Rwを計算する。接続点の電流路長さはL3に等しい。接続点電流路では電極の厚みを1層のtとする領域と、上下2層になっている厚み2tの領域がある。厚みが1層の領域の抵抗値をRw1、2層になっている領域の抵抗値をRw2、電極の固有抵抗をρ0とすると次の式を得る。
【数4】

【0044】
一方、上層電極から下層電極へ電流が流れ込むときの抵抗RLは、下層電極の抵抗値計算の幅を図11、12に示すように ΔL(およそ1/100cmのオーダー)として表すと次の式を得る。
【数5】

【0045】
接続点で電圧降下が発生しない条件として、RLがRwに等しいかまたは小さいことである(RL≦Rw)。ここで、電極の材料である金属ペーストの厚みを0.0025cm、電極幅W3=0.5cm、印刷精度を考慮してΔL=0.02cmとおいて、接続点の電極幅方向の辺の長さW4を変えながらRw=RLとなるL3の値を求める。
【0046】
図13にW4を0.005cmから0.5cmまで変えた時のL3の値を示す。この図13から、RwとRLが等しいときのL3の値はW4が増えるとともに小さくなり、最大の幅W4=W3で最小のL3の値として約0.02cmとなる。この時の下層電極12の接続点の電極電流路の抵抗値Rw(=RL)はどのように変化しているかを図14に示した。図14から、L3と同様にW4=W3で最小値になり、約0.0004Ωとなる。
【0047】
図13、14から分かる通り、電極の接続点での左右の電圧降下を少なくし、均一な温度分布を得るためには、接続点の幅方向の辺の長さW4を電極の幅W3と等しくし、接続点の電極方向の辺の長さL3は極力小さくし、W3に比べ1/10以下とした方がよいことが分かる。 ここで、下層電極の接続点の抵抗値計算の幅ΔLとして印刷精度0.02cmを設定しているので、 その幅の分を誤差として加え、 接続点の電極長手方向の辺の長さL3は、0.02+2・ΔL=0.06cmとなる。結論として、電極幅0.5cmに比べ略々1/5以下にすることが望ましい。図15に実施例5におけるおおよその接続点の最適な平面形状を示す。
【0048】
実施例3、4のように、上側の電極と下側の電極の中央に接続点がある場合には、本考察の結果のような縦長の長方形の接続点形状とした方がよいが、実施例1、2のように、接続点が中央ではない場合にはこの限りではない。ただし、いずれの実施例においても、接続点の幅方向の辺の長さW4と電極の幅W3は誤差の範囲で一致している方がよい。
【産業上の利用の可能性】
【0049】
恒温下で使う計測機のディスプレイの温度制御装置、カメラやビデオ機器および携帯電話における液晶ディスプレイの温度制御装置、新薬開発での加温水溶液内での錠剤溶解過程の観察装置や治療における点滴の加温装置等に適応の可能性がある。
【符号の説明】
【0050】
10 電極
11 上層電極
12 下層電極
20 電源接続端子
30 透明導電膜
40 高分子基材
50 高温領域
60 接続点
61 上側接続点
62 下側接続点
63 拡大した接続点
64 中心線
70 絶縁層(レジスト)
71 第5の実施例の絶縁層
80 斜め電流路
90 導電膜除去溝
【0051】
S1 右下側低温領域
S2 左上側低温領域
S3 上部連続部
S4 下部連続部
L 電極長手方向の接続点の長さ
L1 溝長さ
L2 導電膜除去溝の長さ
L3 接続点の電極長手方向の辺の長さ
ΔL 接続点の下層電極の抵抗値計算の幅
ρ0 電極の固有抵抗
R0 透明導電膜のピッチ幅での電極間距離の抵抗値
RL 接続点縁部の下層電極に電流が流れ込む抵抗
Rn n番目の導電膜除去溝に接するピッチ幅当り電極間距離の透明導電膜の抵抗値
Rn+1 n+1番目の導電膜除去溝に接するピッチ幅当り電極間距離の透明導電膜の抵抗値
Rp 電極の長手方向のピッチ長さの抵抗値
Rw 接続点の電極電流路の抵抗値
Rw1 接続点の電極電流路の1層だけの抵抗値(幅:W3−W4)
Rw2 接続点の電極電流路の2層の抵抗値(幅:W4)
t 電極の厚み
W 接続点の幅
W0 導電膜除去溝の並びピッチ
W1 溝幅
W3 電極の幅
W4 接続点の幅
Wn n番目の導電膜除去溝の幅
Wn+1 n+1番目の導電膜除去溝の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明でフレキシブルな高分子基材上に、ヒーターとなる透明導電膜を形成し、その上に電力を供給するための金属ペーストからなる一対の電極を設けた構造において、その電極の片方を、絶縁層を介して上下2層となし、電力を供給する端子から最も遠い端部付近に上下2層の電気的導通を可能にする接続点を有することを特徴とする透明導電膜フィルムヒーター。
【請求項2】
透明導電膜に、一対の電極の長手方向に垂直に、幅が製作精度より広く長さが一対の電極間距離にほぼ等しいスリット状の導電膜除去溝を等間隔あるいは不等間隔に設けたことを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜フィルムヒーター。
【請求項3】
透明でフレキシブルな高分子基材上に、ヒーターとなる透明導電膜を形成し、その上に電力を供給するための金属ペーストからなる一対の電極を設けた構造において、一対の電極の両方とも絶縁層を介して上下2層となし、その電極のほぼ中央にそれぞれ電気的導通を可能にする接続点を設けたことを特徴とする透明導電膜フィルムヒーター。
【請求項4】
一対の電極の中央に設けられた接続点の中心を結ぶ直線を中心線とし、その中心線から離れるに従い溝幅が順次狭くなり、溝と溝の幅が等間隔あるいは不等間隔で、電極の長手方向と垂直な導電膜除去溝を設けたことを特徴とする請求項3に記載の透明導電膜フィルムヒーター。
【請求項5】
上下に延びる中心線上にある導電膜除去溝を1番目とし、中心線から離れるに従い左右に順番に溝の番号を付け、n番目の溝の溝幅をWn、n+1番目の溝の溝幅をWn+1とし、1ピッチの幅をW0、一層の電極の長手方向のピッチ長さの抵抗値をRp、ピッチ幅で電極間距離の透明導電膜の抵抗値をR0とすると、
Wn−Wn+1=W0・Rp/R0
なる関係が成り立つような導電膜除去溝の溝幅の構造であることを特徴とする請求項4に記載の透明導電膜フィルムヒーター。
【請求項6】
一対の電極の幅をW3とし、電極の中央に設けられた長方形の接続点の電極幅方向の辺の長さをW4、 電極長手方向の辺の長さをL3とすると、略々 W4=W3 であり、L3≦(1/5)・W3 であることを特徴とする請求項3、4、5に記載の透明導電膜フィルムヒーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−222461(P2011−222461A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98269(P2010−98269)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(510112176)株式会社三興ネーム (3)
【Fターム(参考)】