説明

温度制御システム、加熱炉、温度制御方法、及びコンピュータプログラム

【課題】 炉内の被加熱物体の温度をシミュレーションするための計算パラメータを適切に修正することにより、被加熱物体の温度を所望の温度にするための炉の燃焼制御を従来よりも高精度に行うことができるようにする。
【解決手段】 バーナー火炎や燃焼ガスに基づく迷光雑音輝度を実用上無視しえる程度に低減すると共に、予熱帯12の天井面12aからの外乱光に基づく迷光雑音輝度の影響を見積もって、スラブ21自体より発せられる自発光輝度Ib(Ts)を求め、求めた自発光輝度Ib(Ts)に基づいて、スラブ21の表面温度Tsを算出する。そして、数値シミュレーションモデル(熱伝導方程式)における「スラブ21の表面温度に関連するパラメータ(総括熱吸収率φCG)」を、算出したスラブ21の表面温度Tsを用いて修正して、加熱炉10の燃焼制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御システム、加熱炉、温度制御方法、及びコンピュータプログラムに関し、特に、被測定物体の加熱温度を制御するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延を行って薄板鋼板を製造する場合には、熱間圧延を行う前にスラブ等の鋼材を、加熱炉にて加熱するようにしている。その際に、適切なヒートパターンで鋼材を加熱することは、熱間圧延における加工精度の向上や、加熱炉における省エネルギー化や、薄板鋼板の生産効率の向上等を実現するために重要である。
このような加熱炉の燃焼制御を行うために、鋼材の温度を数値シミュレーションにより把握することが行われている。数値シミュレーションを適切に行えば、鋼材の様々な部位の温度を、その履歴を含めて把握することが可能となり、材質や表面品位の均質化を図るために有益な情報を提供することができる。
【0003】
このような数値シミュレーションモデルでは、種々のパラメータが導入されている。これらのパラメータは、熱電対が埋設された鋼材を加熱炉で加熱して行う実験結果に基づいて決定することが多い。しかしながら、このようにして決定したパラメータは普遍性に乏しい。すなわち、鋼材の装入温度、抽出温度、寸法等が変化したり、前後の材料との間に加熱条件の差がある等の外乱要因があったりすると、決定したパラメータの信頼性が低下してしまう。このようにパラメータの信頼性が低下すると、数値シミュレーションにより得られた鋼材の温度の予測結果の信頼性も低下してしまい、加熱炉の燃焼制御を適切に行うことができなくなってしまう。
【0004】
そこで、数値シミュレーションにおけるパラメータを補正する技術が、特許文献1で提案されている。この技術では、鋼材の表面温度を時系列的に測定するために離隔して配設された2つの表面温度計から得られた昇温値と、加熱炉内の加熱状況から計算モデルを用いて計算した昇温値との差に基づいて、計算モデル中の、炉内加熱状況により変化するパラメータを補正するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−161121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、加熱炉の天井面に取り付けられた表面温度計の計測値を、鋼材の表面温度としているに過ぎない。したがって、鋼材の表面温度を精度良く測温することができなかった。また、特許文献1に記載の技術では、2つの表面温度計により時系列的に得られた2つ測温値の差(昇温値)によって、パラメータを補正するようにしている。したがって、2回の測温値の一方の誤差が過大側にずれ、他方の誤差が過小側にずれた場合、2つ測温値の差の誤差が非常に大きくなってしまう。しかも、特許文献1に記載の技術では、この誤差が生じていることを知るすべがない。このため、計算モデル中の、炉内加熱状況により変化するパラメータを精度良く補正することができなかった。よって、鋼材を過剰に加熱してしまうことにより、燃料原単位が悪化する虞があった。更に、鋼材の加熱が不足することにより、圧延ラインの能率の低下や材質不良が生じる虞もあった。
【0007】
以上のように従来の技術では、加熱炉内の被加熱物体の温度をシミュレーションするための計算パラメータを適切に修正することが困難であるという問題点があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、炉内の被加熱物体の温度をシミュレーションするための計算パラメータを適切に修正することにより、被加熱物体の温度を所望の温度にするための炉の燃焼制御を従来よりも高精度に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温度測定システムは、被測定物体の加熱温度を制御する温度制御システムであって、前記被測定物体の表面に入射する外乱光を発生する領域の温度を測定する複数の温度測定手段と、前記被測定物体から発光される光の発光輝度を測定する発光輝度測定手段と、前記被測定物体の表面で前記発光輝度測定手段へ反射した迷光雑音輝度を、前記複数の温度測定手段により測定された温度を用いて計算する迷光雑音計算手段と、前記発光輝度測定手段により測定される発光輝度のうち、前記被測定物体自体から発生している自発光輝度を、前記迷光雑音計算手段により計算された迷光雑音輝度と、前記発光輝度測定手段により測定された発光輝度とを用いて計算する自発光輝度計算手段と、前記自発光輝度計算手段により計算された自発光輝度を用いて、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度を計算する第1の温度計算手段と、前記被測定物体の温度を、数値シミュレーションモデルを用いて計算する第2の温度計算手段と、前記第1の温度計算手段により計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記数値シミュレーションモデルにおける、前記被測定物体の温度に関連する計算パラメータを修正するパラメータ修正手段と、前記第2の温度計算手段により計算された被測定物体の温度に基づいて、前記被測定物体を加熱する加熱手段を制御する制御手段とを有し、前記第2の温度計算手段は、前記パラメータ修正手段により、前記計算パラメータが修正されると、その修正された計算パラメータを前記数値シミュレーションモデルに適用して、前記被測定物体の温度を計算することを特徴とする。
本発明の加熱炉は、前記温度制御システムを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の温度測定方法は、被測定物体の加熱温度を制御する温度制御方法であって、前記被測定物体の表面に入射する外乱光を発生する領域の温度を、複数の温度測定手段を用いて測定する温度測定ステップと、前記被測定物体から発光される光の発光輝度を、発光輝度測定手段により測定する発光輝度測定ステップと、前記被測定物体の表面で前記発光輝度測定手段へ反射した迷光雑音輝度を、前記温度測定ステップにより測定された温度を用いて計算する迷光雑音計算ステップと、前記発光輝度測定ステップにより測定される発光輝度のうち、前記被測定物体自体から発生している自発光輝度を、前記迷光雑音計算ステップにより計算された迷光雑音輝度と、前記発光輝度測定ステップにより測定された発光輝度とを用いて計算する自発光輝度計算ステップと、前記自発光輝度計算ステップにより計算された自発光輝度を用いて、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度を計算する第1の温度計算ステップと、前記被測定物体の温度を、数値シミュレーションモデルを用いて計算する第2の温度計算ステップと、前記第1の温度計算ステップにより計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記数値シミュレーションモデルにおける、前記被測定物体の温度に関連する計算パラメータを修正するパラメータ修正ステップと、前記第2の温度計算ステップにより計算された被測定物体の温度に基づいて、前記被測定物体を加熱する加熱手段を制御する制御ステップとを有し、前記第2の温度計算ステップは、前記パラメータ修正ステップにより、前記計算パラメータが修正されると、その修正された計算パラメータを前記数値シミュレーションモデルに適用して、前記被測定物体の温度を計算することを特徴とする。
【0010】
本発明のコンピュータプログラムは、被測定物体から発光される光の発光輝度を測定する発光輝度測定手段と、前記被測定物体の表面に入射する外乱光を発生する領域の温度を測定する複数の温度測定手段と、における測定値を用いて、被測定物体の加熱温度を制御することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記被測定物体の表面で前記発光輝度測定手段へ反射した迷光雑音輝度を、前記複数の温度測定手段により測定された温度を用いて計算する迷光雑音計算ステップと、前記発光輝度測定手段により測定される発光輝度のうち、前記被測定物体自体から発生している自発光輝度を、前記迷光雑音計算ステップにより計算された迷光雑音輝度と、前記発光輝度測定手段により測定された発光輝度とを用いて計算する自発光輝度計算ステップと、前記自発光輝度計算ステップにより計算された自発光輝度を用いて、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度を計算する第1の温度計算ステップと、前記被測定物体の温度を、数値シミュレーションモデルを用いて計算する第2の温度計算ステップと、前記第1の温度計算ステップにより計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記数値シミュレーションモデルにおける、前記被測定物体の温度に関連する計算パラメータを修正するパラメータ修正ステップと、前記第2の温度計算ステップにより計算された被測定物体の温度に基づいて、前記被測定物体を加熱する加熱手段を制御する制御ステップとをコンピュータに実行させ、前記第2の温度計算ステップは、前記パラメータ修正ステップにより、前記計算パラメータが修正されると、その修正された計算パラメータを前記数値シミュレーションモデルに適用して、前記被測定物体の温度を計算することを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明では、前記被測定物体自体から発生している光を自発光と称し、その輝度を自発光輝度と称する。前記被測定物体の表面に外部から入射する光を外乱光と称し、その輝度を外乱光輝度と称する。前記被測定物体の表面で反射した光のうち、発光輝度測定手段に入光する光を迷光雑音と称し、その輝度を迷光雑音輝度と称する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発光輝度測定手段により測定される発光輝度から迷光雑音輝度を除去して、被測定物体自体から発生している自発光輝度を求め、求めた自発光輝度を用いて、発光輝度測定手段の測定領域における被測定物体の表面温度を計算することにより、発光輝度測定手段の測定領域における被測定物体の温度の計算精度を向上させるようにした。そして、この発光輝度測定手段の測定領域における被測定物体の表面温度を用いて、被測定物体の表面温度を計算するための数値シミュレーションモデルにおける計算パラメータを修正するようにした。したがって、数値シミュレーションモデルによる被測定物体の温度の計算精度を向上させることができる。よって、数値シミュレーションモデルによる被測定物体の温度の計算結果に基づいて行われる炉の燃焼制御を従来よりも高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の温度制御システムの適用対象の一例である多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉の概略構成の一例を示す図である。尚、図1は、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉10を側方から見た図である。また、以下の説明では、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉10を、加熱炉10と略称する。
図1において、加熱炉10は、非燃焼帯11と、予熱帯12と、加熱帯13と、均熱帯14とを、被測定物体の一例であるスラブ21が順番に通過するようにして、スラブ21を加熱するためのものである。尚、図1では、15個のスラブ21が、加熱炉10内にある場合を例に挙げて示している。
【0014】
本実施形態では、加熱炉10に装入されるスラブ21の長さを6[m]〜12[m]、幅を0.6[m]〜2.2[m]、厚みを0.25[m]とした。また、加熱炉10に装入されるスラブ21の温度を、常温〜700[℃]程度とし、加熱炉10から抽出されるスラブ21の温度を、1100[℃]〜1250[℃]程度の温度とした。更に、加熱炉10内におけるスラブ21の在炉時間を、140[分]〜220[分]とした。以上のような操業条件に従って、非燃焼帯11、予熱帯12、加熱帯13、及び均熱帯14の順でスラブ21を搬送し、加熱炉10から抽出するようにしている。
【0015】
予熱帯12と加熱帯13とには、軸流バーナー15a、15bが夫々複数(例えば8本)ずつ設置されている。均熱帯14には、ルーフバーナー16が複数(例えば20本)設置されている。更に、予熱帯12、加熱帯13、及び均熱帯14には、それぞれサイドバーナー17が複数(例えば、予熱帯12及び加熱帯13には夫々8本、均熱帯14には10本)設置されている。サイドバーナー17は、予熱帯12と加熱帯13の両側部に夫々設けられており、スラブ21の両側方向から火炎バーナーを発する。
尚、本実施形態では、軸流バーナー15、ルーフバーナー16、及びサイドバーナー17からバーナー火炎を発生させるための燃料として、例えばLNGを用い、支燃剤として空気又は酸素富化空気を用いている。尚、各バーナー15〜17に送られる支燃剤は、400[℃]〜600[℃]程度に予熱されている。
【0016】
非燃焼帯11、予熱帯12、加熱帯13、及び均熱帯14には、スラブ21を支持する固定スキッドビームと、スラブ21を搬送方向(図1の矢印の方向)に搬送するためのウォーキングビームとを備えた搬送装置が設けられている。加熱炉10に装入されたスラブ21は、搬送装置によって間欠的に搬送方向に搬送され、非燃焼帯11、予熱帯12、加熱帯13、及び均熱帯14を順次通過して、加熱炉10から抽出される。加熱炉10から抽出されたスラブ21は、熱間圧延ラインに搬送される。
【0017】
また、加熱炉10の炉壁には、熱電対700が取り付けられている。この熱電対700は、操業時の温度を把握する等の目的で従来から設けられているものである。尚、図1では、予熱帯12の炉壁に熱電対700が取り付けられている場合を例に挙げて示しているが、熱電対700の設置箇所は、図1に示したものに限定されない。すなわち、予熱帯12における熱電対700の設置箇所は、図1に示したものに限定されない。また、予熱帯12の炉壁以外にも、熱電対700が取り付けられている。尚、以下の説明では、後述する熱電対200(図2を参照)と区別するために、熱電対700を、必要に応じて既存熱電対700と称する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の温度制御システムは、放射温度計100と、複数の熱電対200(図2を参照)と、測温計算装置500と、数値シミュレーション装置600と、バーナー制御装置400とを備えて構成される。本実施形態では、予熱帯12に、温度制御システムの構成の一部である放射温度計100と、複数の熱電対200(図2を参照)とを設けるようにしている。測温計算装置500と、数値シミュレーション装置600とは、有線又は無線による通信が可能である。また、数値シミュレーション装置600と、バーナー制御装置400も、有線又は無線による通信が可能である。
【0019】
放射温度計100は、予熱帯12の上方から、予熱帯12の天井の一部に形成された孔12bを通して、予熱帯12内を搬送されるスラブ21の表面を望む位置に設置されている。このように、放射温度計100は、その入光面(検出面)が、予熱帯12内を搬送されるスラブ21の表面と、予め設定された間隔を有して正対する位置に設置されている。尚、本実施形態では、表面温度が900[℃]前後となっているスラブ21に対して放射温度計100が測温できるように、予熱帯12の天井のうち、加熱帯13に近い領域に孔12bを形成するようにしている。
【0020】
本実施形態の放射温度計100は、その入光面に入光される光のうち、略3.9[μm]を中心とする狭帯域の波長を有する光のみを検出し、その光の分光発光輝度(放射強度)Ib(Tm)[W・m-2・sr-1・μm-1]を求める。ここで、放射温度計100が検出する光の波長を、略3.9[μm]の波長としたのは、次の理由による。すなわち、本願発明者らは、加熱炉10(予熱帯12)内のバーナー火炎や燃焼ガスに対する放射と吸収とが他よりも低くなる特定波長が、3.9[μm]であるという従来からの知見に基づき、この特定波長が測温誤差への影響をほとんど生じさせないという知見を実験的に得たからである。
【0021】
したがって、本実施形態では、加熱炉10(予熱帯12)内のバーナー火炎や燃焼ガス等、加熱に寄与しているガスに対する放射と吸収とが著しく小さい特定波長として略3.9[μm](例えば中心波長3.9[μm]で半値幅が0.4[μm]以下、好ましくは中心波長3.9[μm]で半値幅が0.2[μm]以下)の光のみを放射温度計100が検出するようにしている。これにより、放射温度計100で求められる発光輝度に含まれる「バーナー火炎や燃焼ガスに基づく迷光雑音の輝度(放射強度)」を低減することができる。尚、以下の説明では、迷光雑音の輝度を、必要に応じて迷光雑音輝度と称する。
以上のように本実施形態では、例えば、放射温度計100を用いて、発光輝度測定手段が実現される。
【0022】
熱電対200は、予熱帯12の天井面に取り付けられている。図2は、予熱帯12に取り付けられている熱電対200a〜200lの様子の概略を示す図である。具体的に、図2(a)は、予熱帯12における、熱電対200a〜200lが取り付けられている部分を斜め上方から見た斜視図であり、図2(b)は、図2(a)のI−I´方向から見た断面図である。尚、図1は、図2(a)のII−II´方向から見た断面図であるので、図1には、熱電対200a〜200lが現れない。
図2に示すように、本実施形態では、12個の熱電対200a〜200lを、予熱帯12の天井面12aに取り付けている。具体的に本実施形態では、12個の熱電対200a〜200iを、概ね、1[m]間隔で点在させている。
【0023】
図3は、12個の熱電対200a〜200lが取り付けられる範囲の一例を説明する図である。
図3に示すように、本実施形態では、スラブ21表面上の点であって、放射温度計100の入光面100aの中心100bと正対する位置にある点21aから、放射温度計100の方向に広がる天頂角θが45[°](広がり角が90[°])の仮想の円錐41があると見なした場合に、その仮想の円錐41の内部に入るように、12個の熱電対200a〜200lが、予熱帯12の天井面12aに取り付けられるようにしている。
【0024】
より具体的に説明すると、放射温度計100の入光面100aの中心100bと正対する位置にある点21aを頂点とし、天頂角θを45[°](広がり角が90[°])とする円錐であって、予熱帯12の天井面12aに底面41aを有する仮想の円錐41があると見なした場合に、その仮想の円錐41の底面41aの内部に、12個の熱電対200a〜200jが取り付けられるようにしている。尚、以下の説明では、スラブ21表面上の点であって、放射温度計100の入光面100aの中心100bと正対する位置にある点21aを、必要に応じて、温度測定中心点21aと称する。
【0025】
このようにして、仮想の円錐41の内部に入るように、12個の熱電対200a〜200lが、予熱帯12の天井面12aに取り付けられるようにするのは、本願発明者らによって得られた次の知見を理由とするものである。
本願発明者らは、加熱炉10による加熱によって表面が酸化したスラブ21の放射率εsは、温度によらず概ね0.85で一定となるという知見を得た。したがって、予熱帯12の天井面12aから発せられる「波長が3.9[μm]の光」の二方向性反射率ρ´´(θ)の天井面12a全体における積分値は、温度によらず概ね0.15(1−0.85)になる。ここで、二方向性反射率ρ´´(θ)とは、例えば、予熱帯12の天井面12aの点(例えば、熱電対200hの中心位置である点12c)から、スラブ21の被測定領域に入射した光のうち、放射温度計100の入光面100aの方向(法線方向)に反射する光がどの位あるのかを示すものである。尚、スラブ21の被測定領域とは、温度測定中心点21aを中心とする領域であって、放射温度計100の入光面100aと正対する領域である。
【0026】
そして、本願発明者らは、波長が3.9[μm]の光の入射角(天頂角)θと、その光の二方向性反射率ρ´´(θ)の相対値との関係を、実験的に調べた。その結果を図4に示す。
更に、本願発明者らは、図4に示すグラフ51を表す関数を積分した結果(図4に示したグラフ51の面積)が0.15となるように、グラフ51の縦軸の値を相対値から実際の値に変更する計算をコンピュータに行わせた。その結果、本願発明者らは、波長が3.9[μm]の光の入射角(天頂角)θと、二方向性反射率ρ´´(θ)の実際の値との関係を示す二方向性反射率ρ´´(θ)の関数を得た。
そして、本願発明者らは、コンピュータを用いて、次の(1)式の演算を行った。
【0027】
【数1】

【0028】
(1)式において、φは、方位角[°]を表す。(1)式から明らかなように、予熱帯12の天井面12aから発せられる光のうち、スラブ21の被測定領域で反射して放射温度計100に入光する光の約70[%]は、図3に示した仮想の円錐41の内部の領域から発せられる光となる。言い換えると、予熱帯12の天井面12aから発せられる光のうち、スラブ21の被測定領域で反射して放射温度計100の入光面100aに入光する光の約30[%]は、図3に示した仮想の円錐41の内部の領域外から発せられる光となる。
【0029】
更に、本願発明者らは、仮想の円錐41の領域外の温度が実際の温度と100[℃]異なったとしても、放射温度計100で求められる発光輝度の誤差は、20[%]程度であることを確認した。
以上のことから、本願発明者らは、予熱帯12の天井面12a全体から発せられる光の全てではなく、仮想の円錐41の内部の領域から発せられる光に基づいて、予熱帯12の天井面12aから発せられる外乱光に基づく迷光雑音輝度を求めたとしても、その迷光雑音輝度の誤差は、以下の(2)式に示すように、1[%]未満となるという知見を得た。
0.3×0.15×0.2×100=0.9[%] ・・・(2)
【0030】
この0.9[%]の誤差を、温度の誤差に換算すると、約5[℃]となる。したがって、仮想の円錐41の内部の領域から発せられる光に基づいて、予熱帯12の天井面12aから発せられる外乱光に基づく迷光雑音輝度を求めたとしても、そのことによるスラブ21の表面温度の誤差は、5[℃]程度となり、実用上十分な精度を確保できる。
【0031】
以上のことから本実施形態では、図3に示した仮想の円錐41の内部の領域に、12個の熱電対200a〜200lを、その仮想の円錐41の底面の形状に合わせて点在させて、その領域における温度を出来るだけ正確に測定すると共に、その領域外の温度を、例えば、12個の熱電対200a〜200lの測定結果等から大まかに推定するようにしている。このようにすることによって、予熱帯12の天井面12a全体に熱電対200を配置しなくても、スラブ21の表面温度を、実用上十分な精度で求めることができる。
【0032】
更に、本実施形態では、熱電対200の設置位置に基づいて定められる「熱電対200の温度測定対象領域210」を分割して、熱電対200の設置数と同数のゾーンを定義する。図2に示す例では、12個の熱電対200a〜200lの設置位置に基づいて定まる十字状の領域を「熱電対200の温度測定対象領域210」として定義し、この熱電対200の温度測定対象領域210を12個に分割して12個のゾーンA〜Lを定義している。
【0033】
より具体的に説明すると、本実施形態では、各熱電対200a〜200lの設置位置を中心位置とする矩形状の12個のゾーンA〜Lを定義している。そして、各ゾーンA〜Lの大きさを、温度が均一と見なせる大きさとしている。すなわち、本実施形態では、温度が均一と見なせる大きさのゾーンA〜Lを定義している。
【0034】
ここで、温度が均一と見なせるか否かは、後述するようにして行われるスラブ21の表面温度の測定誤差が、実用上要求される精度の範囲内となるか否かによって定められる。後述するように、本実施形態では、予熱帯12の天井面12aから発せられる外乱光に基づく迷光雑音輝度を、ゾーンA〜L毎に計算するようにしている。そして、ゾーンA〜Lの大きさが大きくなればなる程、そのゾーンA〜L内の温度の最高値と最低値との差が大きくなる。よって、前述したようにして迷光雑音輝度をゾーンA〜L毎に計算した場合、ゾーンA〜Lの大きさが大きくなればなる程、そのゾーンA〜Lから発せられる外乱光に基づく迷光雑音輝度の算出精度が低下し、スラブ21の表面温度の測定誤差が大きくなる。
【0035】
そこで、本実施形態では、スラブ21の表面温度の測定誤差が実用上要求される精度の範囲内となるになるように、温度が均一であると見なせる範囲で、各ゾーンA〜Lの大きさを定義している。このように本実施形態では、スラブ21の表面温度の測定誤差が実用上要求される精度の範囲内となるように、ゾーンA〜Lの大きさを定義すればよい。したがって、本実施形態では、スラブ21の表面温度の測定誤差が実用上要求される精度の範囲内であれば、ゾーンA〜Lの温度は、ある程度の温度範囲を有していても、均一と見なせることになる。
【0036】
尚、本実施形態では、以上のようにして定義される12個のゾーンA〜Lは、夫々同じ大きさを有しているものとしている。また、ゾーンA〜Lの境界を、熱電対200a〜200lの中間位置としている。
以上のように本実施形態では、例えば、12個の熱電対200a〜200lを用いて複数の温度測定手段が実現される。
【0037】
図1に説明を戻し、測温計算装置500は、放射温度計100で求められた発光輝度と、熱電対200で測定された「予熱帯12の天井面12aの温度」とを用いて、スラブ21の表面温度Tsを計算する。尚、以下の説明では、スラブ21の表面温度Tsを、必要に応じて、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsと称する。
【0038】
数値シミュレーション装置600は、既存熱電対700で測定された炉壁の温度等を使って、熱伝導方程式を用いた数値シミュレーションを行い、加熱炉10内における「スラブ21の現時刻及び加熱終了時の温度」を計算する。そして、数値シミュレーション装置600は、計算した結果に応じて、加熱炉10の設定温度を求め、求めた加熱炉10の設定温度を、バーナー制御装置400に送信する。尚、以下の説明では、スラブ21の現時刻及び加熱終了時の温度を、必要に応じて、スラブシミュレーション温度と称する。
【0039】
数値シミュレーション装置600は、このようにして数値シミュレーションを行うに際し、測温計算装置500からパラメータ修正用スラブ表面温度Tsが送信されると、そのパラメータ修正用スラブ表面温度Tsと、数値シミュレーションにより得られるスラブ21の表面温度とが、互いに対応する位置において、一致、又はそれらの差が所定の範囲内になるように、後述する(13)式で与えられる総括熱吸収率φCGを修正する。そして、修正した総括熱吸収率φCGを適用して熱伝導方程式による数値シミュレーションを行って、スラブシミュレーション温度を計算する。ここで、総括熱吸収率φCGは、加熱炉10からの熱エネルギーが被測定物体(スラブ21)の表面に伝達される際の熱輻射特性を示すものである。すなわち、総括熱吸収率φCGは、後述する(13)式(熱伝導方程式の境界条件)において、被測定物体(スラブ21)の温度に関連する計算パラメータ(本発明の計算パラメータの一例)として与えられるものである。
【0040】
バーナー制御装置400は、数値シミュレーション装置600から送信された「加熱炉10の設定温度」になるように、軸流バーナー15、ルーフバーナー16、及びサイドバーナー17の少なくとも何れか1つの燃焼量を制御する。これにより、加熱炉10の排出口における「スラブ21の表面温度」を所望の温度にすることができる。尚、バーナー15〜17による燃焼量は、例えば、バーナー15〜17への燃料の供給量や、燃焼空気の流量等によって定められるものである。
以上のように本実施形態では、例えば、軸流バーナー15、ルーフバーナー16、サイドバーナー17、及びバーナー制御装置400を用いて加熱手段が実現される。
【0041】
バーナー制御装置400、測温計算装置500、及び数値シミュレーション装置600のハードウェアは、パーソナルコンピュータ等、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、画像入出力ボード、各種インターフェース、及びインターフェースコントローラ等を備えた情報処理装置を用いて実現することができる。
【0042】
図5は、測温計算装置500の機能構成の一例を示すブロック図である。尚、特に断りのない限り、図5に示す各ブロックは、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行することにより実現される。そして、例えば、図5に示す各ブロック間で、信号のやり取りを行うことにより、以下の処理が実現される。
【0043】
発光輝度取得部301は、放射温度計100で求められた発光輝度Ib(Tm)の信号を入力してRAMに記憶させるためのものである。
ゾーン迷光雑音輝度計算部317は、各ゾーンA〜Lにおける迷光雑音輝度を計算するためのものであり、外乱光輝度計算部315と、迷光雑音パラメータ計算部316と、ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313とを有している。
外乱光輝度計算部315は、外乱光輝度を計算するためのものであり、熱電対温度取得部302、熱電対位置記憶部303、及び第1の発光輝度算出部308を備えている。
熱電対温度取得部302は、12個の熱電対200a〜200lで測定された温度の信号を入力してRAMに記憶させるためのものである。このとき熱電対温度取得部302は、どの熱電対200a〜200lが測定した温度であるのかを識別できるようにして、その温度をRAMに記憶させる。
【0044】
熱電対位置記憶部303は、予熱帯12の天井面12aに取り付けられている12個の熱電対200a〜200lの設置位置を記憶するためのものである。本実施形態では、熱電対位置記憶部303は、12個の熱電対200a〜200lと、熱電対200a〜200lが属するゾーンA〜Lと、ゾーンA〜Lの位置とが互いに対応付けられたテーブルを有している。熱電対位置記憶部303は、例えば、ハードディスクやROMを用いて構成することができる。
【0045】
第1の発光輝度算出部308は、熱電対温度取得部302により取得された温度Tijに基づいて、各ゾーンA〜Lから発光される外乱光の輝度Ib(Tij)を、以下の(3)式を用いて計算する。尚、以下の説明では、外乱光の輝度を、必要に応じて外乱光輝度と称する。
【0046】
【数2】

【0047】
λ:放射温度計100で検出される光の波長(本実施形態では、3.9[μm])
1、C2:物理定数(C1=3.7419×10-16[wm2]、C2=1.4388×10-2[mK])
ij:各ゾーンA〜Lの代表点の温度[K]
【0048】
迷光雑音パラメータ計算部316は、迷光雑音輝度等を求めるためのパラメータを計算して記憶するためのものであり、放射率記憶部304、二方向性反射率導出部305、パラメータ算出部306、及びパラメータ記憶部307を備えている。
放射率記憶部304は、ユーザによるユーザインターフェース(キーボードやマウス)等の操作に基づいて、加熱炉10による加熱によって表面が酸化されたスラブ21の放射率εsのデータを外部から取得して記憶するためのものである。尚、以下の説明では、必要に応じて、加熱炉10による加熱によって表面が酸化されたスラブ21の放射率εsを、必要に応じて、スラブ21の放射率εs又は単に放射率εsと略称する。
【0049】
前述したように、本願発明者らは、スラブ21の放射率εsは概ね0.85で一定となるという知見を得た。したがって、本実施形態では、放射率記憶部304は、スラブ21の放射率εsとして0.85を外部から取得して記憶している。このように、本実施形態では、スラブ21の放射率εsを、スラブ21の表面温度を測定する前に、オフラインでコンピュータにより求めて放射率記憶部304に記憶させるようにしている。放射率記憶部304は、例えば、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行し、放射率εsをハードディスクやROMに記憶することにより実現することができる。
【0050】
二方向性反射率導出部305は、ユーザによるユーザインターフェース(キーボードやマウス)等の操作に基づいて、波長が3.9[μm]の光の二方向性反射率ρ´´(θ)の測定データを外部から取得する。そして、二方向性反射率導出部305は、その波長が3.9[μm]の二方向性反射率ρ´´(θ)の測定データに基づいて、波長が3.9[μm]の光の入射角(天頂角)θと、その光の二方向性反射率ρ´´(θ)の相対値との関係を表す関数を求める。すなわち、二方向性反射率導出部305は、例えば図4に示したようなグラフ51を表す関数を求める。そして、二方向性反射率導出部305は、求めた関数を積分した結果(図4に示したグラフ51の面積)が、「1」から「放射率記憶部304により記憶された放射率εs」を減算した値となるように、グラフ51の縦軸の値を相対値から実際の値に変更し、縦軸の値を変更したグラフ51に基づく二方向性反射率ρ´´(θ)の関数を求める。本実施形態では、スラブ21の放射率εsとして0.85が、放射率記憶部304により記憶されているので、求めた関数を積分した結果(図4に示したグラフ51の面積)が、0.15(=1−0.85)となるように、グラフ51の縦軸の値を相対値から実際の値に変更することになる。
【0051】
パラメータ算出部306は、各ゾーンA〜Lの代表点と、スラブ21における温度測定中心点21aとの幾何学的関係から定まる「温度測定中心点21aから各ゾーンA〜Lの代表点を見る立体角」と、二方向性反射率導出部305で求められた二方向性反射率ρ´´(θ)とに基づいて、ゾーン内迷光雑音パラメータを算出する。
具体的にパラメータ算出部306は、各ゾーンA〜Lの代表点の位置と、温度測定中心点21aの位置と、各ゾーンA〜Lの面積Aijとを、立体角のデータとしてユーザインターフェースから入力する。すると、パラメータ算出部306は、ゾーンA〜Lの代表点(例えば図2の点12c)と温度測定中心点21aとを結ぶ直線の長さlijを、各ゾーンA〜Lについて算出する。また、パラメータ算出部306は、ゾーンA〜Lの代表点と温度測定中心点21aとを結ぶ直線と、温度測定中心点21aと放射温度計100の入光面100aの中心100bとを結ぶ直線とがなす角度θijを、各ゾーンA〜Lについて算出する(図2を参照)。そして、各ゾーンA〜Lについて、以下の(4)式を用いて、ゾーン内迷光雑音パラメータを各ゾーンA〜Lについて計算する。尚、前記において、添字ijは、ゾーンA〜Lを識別するための変数である。
【0052】
【数3】

【0053】
θij:ゾーンA〜Lの代表点と温度測定中心点21aとを結ぶ直線と、温度測定中心点21aと放射温度計100の入光面100aの中心100bとを結ぶ直線とがなす角度[°]
ij:各ゾーンA〜Lの面積[m2
ρ´´(θij):二方向性反射率
尚、本実施形態では、(4)式において、(cosθij・Aij/lij2)が、温度測定中心点21aから各ゾーンA〜Lの代表点を見る立体角である。
【0054】
更に、パラメータ算出部306は、以上のようにして計算したゾーン内迷光雑音パラメータを用いて、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の迷光雑音パラメータ(ゾーン外迷光雑音パラメータ)を計算する。ここで、仮に、天井面12a全体に亘ってゾーンを定義した場合、各ゾーンにおけるゾーン内迷光雑音パラメータ((4)式の右辺)を加算した値は「1−εs」になる。したがって、ゾーン外迷光雑音パラメータは、「1−εs」から、各ゾーンA〜Lにおけるゾーン内迷光雑音パラメータの加算値を減算したものとなる。すなわち、パラメータ算出部306は、以下の(5)式を用いて、ゾーン外迷光雑音パラメータを計算する。
【0055】
【数4】

【0056】
θij:ゾーンA〜Lの代表点と温度測定中心点21aとを結ぶ直線と、温度測定中心点21aと放射温度計100の入光面100aの中心100bとを結ぶ直線とがなす角度[°]
ij:各ゾーンA〜Lの面積[m2
ρ´´(θij):二方向性反射率
【0057】
パラメータ記憶部307は、パラメータ算出部306で計算された迷光雑音パラメータ(ゾーン内迷光雑音パラメータ及びゾーン外迷光雑音パラメータ)を記憶するテーブルを有する。図6は、パラメータ記憶部307の記憶内容の一例を示す図である。
パラメータ記憶部307は、例えば、ハードディスクやROMを用いて構成することができる。
【0058】
ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313は、外乱光輝度計算部315で得られた外乱光輝度Ib(Tij)と、迷光雑音パラメータ計算部316で得られたゾーン内迷光雑音パラメータとを乗算して、ゾーン毎の迷光雑音輝度を計算する。具体的にゾーン単位迷光雑音輝度計算部313は、以下の(6)式を用いて、ゾーン毎の迷光雑音輝度を計算する。
【0059】
【数5】

【0060】
加算部314は、ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313が、ゾーン毎の迷光雑音輝度を、全てのゾーンA〜Lについて計算すると、それら全てのゾーンA〜Lにおける「ゾーン毎の迷光雑音輝度」を加算して、全てのゾーンA〜Lにおける迷光雑音輝度(全ゾーン迷光雑音輝度)を計算する。具体的に加算部314は、以下の(7)式を用いて、全ゾーン迷光雑音輝度を計算する。
【0061】
【数6】

【0062】
尚、(7)式において、添字ijは、ゾーンA〜Lを識別するための変数である。
第2の発光輝度算出部309は、12個の熱電対200a〜200lのうち、外側にある熱電対200a、200d、200e、200h〜200lの温度を、熱電対温度取得部302から入力する。そして、第2の発光輝度算出部309は、入力した温度の平均値を、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の温度Toとして計算する。そして、第2の発光輝度算出部309は、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」から発光された光に基づく外乱光輝度Io(To)を、以下の(8)式を用いて計算する。
【0063】
【数7】

【0064】
λ:放射温度計100で検出される光の波長(本実施形態では、3.9[μm])
1、C2:物理定数(C1=3.7419×10-16[wm2]、C2=1.4388×10-2[mK])
o:ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の温度[K]
【0065】
尚、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の温度Toは、前述した方法以外にも種々の方法により求めることができる。例えば、加熱炉10には、熱電対200以外にも、操業に必要な既存熱電対700が設けられているので、その既存の熱電対の値を用いて、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の温度Toを求めるようにしてもよい。
【0066】
第3の発光輝度算出部310は、パラメータ記憶部307に記憶されたゾーン外迷光雑音パラメータ((5)式を参照)と、第2の発光輝度算出部309により計算された「ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」から発光された光に基づく外乱光輝度Io(To)」とを読み出して乗算して、「ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」から発光された光に基づく迷光雑音輝度」(ゾーン外迷光雑音輝度)を算出する。具体的に第3の発光輝度算出部310は、以下の(9)式の計算を行う。
【0067】
【数8】

【0068】
そして、第3の発光輝度算出部310は、発光輝度取得部301により取得された「放射温度計100の測定値(発光輝度Ib(Tm))」と、放射率記憶部304に記憶された「スラブ21の放射率εs」と、加算部314により計算された「全ゾーン迷光雑音輝度」と、前述したようにして計算した「ゾーン外迷光雑音輝度」とを、以下の(10)式に代入する。(10)式は、以下の(11)式のように変形できる。そこで、第3の発光輝度算出部310は、(11)式により、スラブ21自体より発せられる自発光の輝度Ib(Ts)を算出する。尚、以下の説明では、スラブ21自体より発せられる自発光の輝度を、必要に応じてスラブ21自体より発せられる自発光輝度、又は単に自発光輝度と称する。
【0069】
【数9】

【0070】
εs:スラブ21の放射率
b(Tm):放射温度計100で求められた発光輝度[W・m-2・sr-1・μm-1
b(Tij):各ゾーンA〜Lから発光される外乱光輝度[W・m-2・sr-1・μm-1
o(To):ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」から発光された光に基づく外乱光輝度Io(To)[W・m-2・sr-1・μm-1
θij:ゾーンA〜Lの代表点と温度測定中心点21aとを結ぶ直線と、温度測定中心点21aと放射温度計100の入光面100aの中心100bとを結ぶ直線とがなす角度[°]
ij:各ゾーンA〜Lの面積[m2
ρ´´(θij):二方向性反射率
ij:各ゾーンA〜Lの代表点の温度[K]
o:ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の温度[K]
【0071】
尚、(10)式において、右辺第1項が自発光輝度であり、右辺第2項がゾーンA〜L内からの迷光雑音による寄与分(全ゾーン迷光雑音輝度)であり、右辺第3項がゾーンA〜L外からの迷光雑音による寄与分(ゾーン外迷光雑音輝度)であり、これらを加算したものが左辺(放射温度計100で得られる発光輝度)となる。
【0072】
以上のように本実施形態では、例えば、ゾーン迷光雑音輝度計算部317、加算部314、第2の発光輝度算出部309、及び第3の発光輝度算出部310を用いて、迷光雑音計算手段が実現され、第3の発光輝度算出部310を用いて、自発光輝度計算手段が実現される。
【0073】
表面温度算出部311は、第3の発光輝度算出部310により計算された「スラブ21自体より発せられる自発光輝度Ib(Ts)」と、放射率記憶部304に記憶された「スラブ21の放射率εs」とを、以下の(12)式に代入して、スラブ21の被測定領域の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Ts[K]を絶対温度で計算する。そして、表面温度算出部311は、計算したパラメータ修正用スラブ表面温度Tsを、数値シミュレーション装置600に送信する。
【0074】
【数10】

【0075】
λ:放射温度計100で検出される光の波長(本実施形態では、3.9[μm])
1、C2:物理定数
εsb(Ts):スラブ21自体より発せられる自発光輝度[W・m-2・sr-1・μm-1
以上のように本実施形態では、例えば、表面温度算出部311を用いて、第1の温度計算手段が実現される。
【0076】
図7は、以上のようにして得られるパラメータ修正用スラブ表面温度Ts(算出したスラブの表面温度)と、スラブ21の表面に取り付けられた熱電対で計測された「スラブ21の表面温度」(熱電対で計測したスラブの表面温度)との関係の一例を示す図である。図7では、比較例として、予熱帯12の天井面12aの温度が一様であるとして、(10)式〜(12)式の計算を行うことにより得られた「スラブ21の被測定領域の表面温度」も併せて示している。
【0077】
図7において、測温計算装置500により得られるパラメータ修正用スラブ表面温度Ts(◆)と、スラブ21の表面に取り付けられた熱電対で測定された「スラブ21の表面温度」を表すグラフ1101との差は、絶対値で10[℃]以下であった。このことから、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsは、実用上十分な精度を有していることが分かる。
【0078】
これに対して、「予熱帯12の天井面12aの温度が、炉温制御用に既設の炉温計1点の値で一様であるとして得られたスラブ21の表面温度」(×)と、スラブ21の表面に取り付けられた熱電対で測定された「スラブ21の被測定領域の表面温度」を表すグラフ1101との差は、絶対値で30[℃]〜50[℃]程度あった。このことから、迷光雑音の原因となる予熱帯12の天井面12aの温度を一定としてスラブ21の表面温度を計算する手法では、実用上要求される精度を得ることが困難であるということが分かる。
【0079】
図8は、数値シミュレーション装置600及びバーナー制御装置400の機能構成の一例を示すブロック図である。尚、図8に示す各ブロックは、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行することにより実現される。そして、例えば、図8に示す各ブロック間で、信号のやり取りを行うことにより、以下の処理が実現される。
【0080】
計算パラメータ修正部821は、測温計算装置500から、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsが送信されると、そのパラメータ修正用スラブ表面温度TsをRAMに一時的に記憶する。そして、計算パラメータ修正部821は、数値シミュレーション部822が後述するようにして算出した「放射温度計100の測定領域におけるスラブ21の表面温度」と、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsとが、一致、又はそれらの差が所定の範囲内になるように、総括熱吸収率φCGを修正する。
【0081】
計算パラメータ修正部821は、測温計算装置500から送信されたパラメータ修正用スラブ表面温度Tsを、熱伝導方程式の境界条件式である(13)式の「スラブ表面温度Tst」に代入する。更に、放射温度計100の測定領域における鋼材熱流束qと、予熱帯12の炉壁の温度TGと、シュテファンボルツマン定数σとを(13)式に代入する。これにより、総括熱吸収率φCGが算出される。この算出値が、総括熱吸収率φCGの修正値となる。ただし、総括熱吸収率φCGを修正する方法は、このようなものに限定されない。
【0082】
q=φCG×σ×(TG4−Tst4) ・・・(13)
q:鋼材熱流束[W/m2
φCG:総括熱吸収率
σ:シュテファンボルツマン定数[W/(m2・K4)]
G:炉壁の温度[K]
st:スラブ表面温度[K]
【0083】
以上のように本実施形態では、総括熱吸収率φCGが、被測定物体の温度に関連する計算パラメータ(被測定物体の温度に影響を受ける計算パラメータ)として用いられる。そして、例えば、計算パラメータ修正部821を用いて、パラメータ修正手段が実現される。
【0084】
数値シミュレーション部822は、計算パラメータ修正部821により総括熱吸収率φCGが修正されるまでは、ROMに予め記憶されている総括熱吸収率φCGと、既存熱電対700で測定された炉壁の温度TGとを用いて、(13)式の計算を行って、各解析時間における鋼材熱流束qを算出する。
【0085】
一方、計算パラメータ修正部821により総括熱吸収率φCGが修正された場合、数値シミュレーション部822は、その修正された総括熱吸収率φCGを用いて、(13)式の計算を行って、鋼材熱流束qを算出する。
【0086】
そして、数値シミュレーション部822は、算出した鋼材熱流束qを境界条件として熱伝導方程式を解いて、スラブシミュレーション温度(スラブ21の現時刻及び加熱終了時の温度)を導出する。
以上のように本実施形態では、例えば、数値シミュレーション部822を用いて、第2の温度計算手段が実現される。
【0087】
炉温設定部823は、数値シミュレーション部822で導出したスラブシミュレーション温度に基づいて、加熱炉10の設定温度を求め、求めた加熱炉10の設定温度を、バーナー制御装置400に送信する。例えば、炉温設定部823は、加熱炉10で加熱中のスラブ21の残加熱時間で、そのスラブ21が所望の加熱温度に達するように、加熱炉10の設定温度を求める。
【0088】
バーナー制御装置400の燃焼制御部824は、数値シミュレーション装置600(炉温設定部823)から、加熱炉10の設定温度が送信されると、その加熱炉10の設定温度をRAMに一時的に記憶する。そして、燃焼制御部824は、加熱炉10の設定温度に合わせて、軸流バーナー15、ルーフバーナー16、及びサイドバーナー17の少なくとも何れか1つの燃焼量を制御する。
【0089】
次に、図9のフローチャートを参照しながら、測温計算装置500における処理動作の一例を説明する。
まず、ステップS1において、発光輝度取得部301は、放射温度計100で求められた発光輝度Ib(Tm)の信号を取得するまで待機する。そして、放射温度計100で求められた発光輝度Ib(Tm)の信号を取得すると、ステップS2に進む。ステップS2に進むと、発光輝度取得部301は、放射温度計100で求められた発光輝度Ib(Tm)をRAMに記憶させる。
【0090】
次に、ステップS3において、熱電対温度取得部302は、12個の熱電対200a〜200lで測定された温度Tijの信号を取得するまで待機する。そして、12個の熱電対200a〜200lで測定された温度Tijの信号を取得すると、ステップS4に進む。ステップS4に進むと、熱電対温度取得部302は、12個の熱電対200a〜200lで測定された温度TijをRAMに記憶させる。このとき熱電対温度取得部302は、どの熱電対200a〜200lが測定した温度であるのかを識別できるようにして、その温度をRAMに記憶させる。
【0091】
次に、ステップS5において、第1の発光輝度算出部308は、熱電対温度取得部302により取得された温度Tijに基づいて、各ゾーンA〜Lから発光される外乱光輝度Ib(Tij)を、(3)式を用いて算出する。
【0092】
次に、ステップS6において、ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313は、ゾーンA〜Lを識別するための変数ijを「1」に設定する。尚、ここでは、変数ijとして「1」〜「12」が設定されると、夫々ゾーンA〜Lが指定されるようにしている。
次に、ステップS7において、ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313は、変数ijで指定されるゾーンのゾーン内迷光雑音パラメータを、パラメータ記憶部307から読み出す。
次に、ステップS8において、ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313は、変数ijで指定されるゾーンから発光される外乱光輝度Ib(Tij)を、ステップS5で第1の発光輝度算出部308により算出された外乱光輝度Ib(Tij)の中から取得する。そして、ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313は、ステップS7で読み出したゾーン内迷光雑音パラメータと、第1の発光輝度算出部308から取得した外乱光輝度Ib(Tij)とを乗算して((6)式を参照)、計算対象のゾーンから発光される光に基づく迷光雑音輝度(ゾーン毎の迷光雑音輝度)を算出する。
【0093】
次に、ステップS9において、ゾーン単位迷光雑音輝度計算部313は、変数ijが「12」であるか否かを判定する。この判定の結果、変数ijが「12」でない場合には、全てのゾーンA〜Lについて迷光雑音輝度を算出していないので、ステップS10に進み、変数ijに「1」を加算する。そして、次のゾーンに対してステップS7〜S9の処理を行う。
【0094】
一方、変数ijが「12」である場合には、全てのゾーンA〜Lについて迷光雑音輝度を算出したと判定し、ステップS11に進む。ステップS11に進むと、加算部314は、ステップS8で算出された「各ゾーンA〜Lの迷光雑音輝度」(ゾーン毎の迷光雑音輝度)を加算して、全てのゾーンA〜Lにおける迷光雑音輝度(全ゾーン迷光雑音輝度)を計算する((7)式を参照)。
【0095】
次に、ステップS12において、第2の発光輝度算出部309は、熱電対200a、200d、200e、200h〜200lの温度の平均値を、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の温度Toとして算出する。そして、第2の発光輝度算出部309は、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」から発光された光に基づく外乱光輝度Io(To)を、(8)式を用いて算出する。
【0096】
次に、ステップS13において、第3の発光輝度算出部310は、パラメータ記憶部307に記憶されたゾーン外迷光雑音パラメータを読み出す((5)式を参照)。そして、第3の発光輝度算出部310は、読み出したゾーン外迷光雑音パラメータと、ステップS12で算出された「ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」から発光された光に基づく外乱光輝度Io(To)」とを乗算して、「ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」から発光された光に基づく迷光雑音輝度」(ゾーン外迷光雑音輝度)を算出する。これにより、(9)式が算出される。
【0097】
次に、ステップS14において、第3の発光輝度算出部310は、放射率記憶部304に記憶された「スラブ21の放射率εs」を読み出す。
次に、ステップS15において、第3の発光輝度算出部310は、ステップS11で算出された全ゾーン迷光雑音輝度((10)式の右辺第2項)と、ステップS13で算出されたゾーン外迷光雑音輝度((10)式の右辺第3項))と、ステップS14で読み出された「スラブ21の放射率εs」と、ステップS2で記憶された「放射温度計100で求められた発光輝度Ib(Tm)」とを、(10)式(又は(11)式)に代入して、スラブ21自体より発せられる自発光輝度εsb(Ts)を算出する。
【0098】
次に、ステップS16において、表面温度算出部311は、ステップS15で算出された「スラブ21自体より発せられる自発光輝度εsb(Ts)」と、ステップS14で読み出された「スラブ21の放射率εs」とを、(12)式に代入して、スラブ21の被測定領域の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Tsを絶対温度で算出する。
次に、ステップS17において、表面温度算出部311は、ステップS16で算出された「スラブ21の被測定領域の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Ts」を、数値シミュレーション装置600に出力する。尚、このステップS17で算出された「スラブ21の被測定領域の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Ts」を、測温計算装置500が備える表示装置(例えば液晶ディスプレイ)に表示して、ユーザに報知するようにしてもよい。
【0099】
ここで、本実施形態では、表面温度が、700[℃]以上、好ましくは900[℃]以上となっているスラブ21からの光を、放射温度計100で検出するようにしている。このようにするのは、本願発明者らによって得られた次の知見を理由とするものである。
【0100】
前述したように、加熱炉10による加熱によって表面が酸化したスラブ21の放射率εsは概ね0.85で一定となるという知見を得た。しかしながら、この放射率εsは、完全に一定の値を有するというものではなく、ある程度バラつくものであり、この放射率εsの真の値を知ることはできない。そして、本願発明者らは、この放射率εsが0.85±0.02程度バラつくという知見を得た。
【0101】
そこで、本願発明者らは、放射率の変動による測温誤差を計算によって調査した。まず、放射率を0.85と仮定し、次に、実際の放射率が0.83あるいは0.87であったときに生じる測温誤差を、プランクの黒体放射理論式に基づき計算した。なお、この計算においては、天井面12aの温度分布は1200[℃]で均一であるとした。図10は、スラブ21の表面温度の算出値と真値との差(すなわち、測温誤差)を絶対値で表したものと、スラブ21の表面温度の真値との関係の一例を示す図である。
【0102】
図10において、グラフ91は、実際の放射率εsが0.87であったときの、スラブ21の表面温度Tsの算出値と真値との誤差を示すグラフであり、グラフ92は、実際の放射率εsが0.83であったときの、表面温度Tsの算出値と真値との誤差を示すグラフである。これらのグラフ91、92から明らかなように、スラブの表面温度が700[℃]以上であれば、放射率εsがバラつくことにより生じる「スラブ21の表面温度の算出値と真値との誤差」を20[℃]以下にすることができ、実用上十分な精度で、スラブ21の表面温度Tsを算出することができる。更に、スラブの表面温度が900[℃]以上であれば、放射率εsがバラつくことにより生じる「スラブ21の表面温度の算出値と真値との誤差」を10[℃]以下にすることができ、より高い精度で、スラブ21の表面温度Tsを算出することができる。
【0103】
以上のような理由から、本実施形態では、表面温度が、700[℃]以上、好ましくは900[℃]以上となっているスラブ21からの光を、放射温度計100が検出するようにしている。前述したように、本実施形態の加熱炉10では、予熱帯12の出口側(加熱帯13側)にあるスラブ21の表面温度は、900[℃]前後となっている。したがって、図1に示すようにして放射温度計100を設ければ、表面温度が、700[℃]以上(好ましくは900[℃]以上)となっているスラブ21からの光を、放射温度計100が検出することができる。尚、本実施形態では、放射温度計100が検出する表面温度の範囲を、700[℃]以上(好ましくは900[℃]以上)、1100[℃]以下としている。
【0104】
次に、図11のフローチャートを参照しながら、数値シミュレーション装置600における処理動作の一例を説明する。
まず、ステップS21において、計算パラメータ修正部821は、測温計算装置500から、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsを受信したか否かを判定する。この判定の結果、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsを受信していない場合には、総括熱吸収率φCGを修正しないので、ステップS22を省略して、後述するステップS23に進む。
【0105】
一方、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsを受信した場合には、ステップS22に進む。ステップS22に進むと、計算パラメータ修正部821は、前述したようにして、総括熱吸収率φCGを修正する。
次に、ステップS23において、数値シミュレーション部822は、(13)式の計算を行って、鋼材熱流束qを算出し、導出した鋼材熱流束qを境界条件として熱伝導方程式を解いて、スラブシミュレーション温度(スラブ21の現時刻及び加熱終了時の温度)を求める。
【0106】
次に、ステップS24において、炉温設定部823は、ステップS23で求められたスラブシミュレーション温度に基づいて、加熱炉10の設定温度を求め、求めた加熱炉10の設定温度を、バーナー制御装置400に送信する。そして、ステップS25に進んで、その他の処理が行われた後、図11のフローチャートによる処理を終了する。
【0107】
次に、図12のフローチャートを参照しながら、バーナー制御装置400における処理動作の一例を説明する。
まず、ステップS31において、燃焼制御部824は、数値シミュレーション装置600(炉温設定部823)から、加熱炉10の設定温度を受信したか否かを判定する。この判定の結果、加熱炉10の設定温度を受信していない場合には、ステップS32を省略して、ステップS33に進み、その他の処理が行われた後、図12のフローチャートによる処理を終了する。
【0108】
一方、加熱炉10の設定温度を受信した場合には、ステップS32に進む。ステップS32に進むと、燃焼制御部824は、加熱炉10の設定温度に合わせて、軸流バーナー15、ルーフバーナー16、及びサイドバーナー17の少なくとも何れか1つの燃焼量を制御して、加熱炉10の燃焼制御を行う。そして、ステップS33に進んで、その他の処理が行われた後、図12のフローチャートによる処理を終了する。
【0109】
以上のように本実施形態では、バーナー火炎や燃焼ガスに基づく迷光雑音輝度を実用上無視しえる程度に低減すると共に、予熱帯12の天井面12aからの外乱光に基づく迷光雑音輝度の影響を見積もって、スラブ21自体より発せられる自発光輝度εsb(Ts)を求め、求めた自発光輝度εsb(Ts)に基づいて、スラブ21の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Tsを算出する。そして、数値シミュレーションモデル(熱伝導方程式)における計算パラメータ(総括熱吸収率φCG)を、算出したスラブ21の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Tsを用いて修正する。
【0110】
したがって、信頼性の高い「スラブ21の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Ts」を用いて総括熱吸収率φCGを修正することができる。よって、数値シミュレーションを行って算出(予測)する「スラブシミュレーション温度(スラブ21の現時刻及び加熱終了時の温度)」の精度を、従来よりも向上させることができる。したがって、無駄な加熱を行うことによる燃焼消費を抑制することができると共に、加熱炉10における加熱時間(在炉時間)を短縮することができる。更に、加熱炉10における加熱工程の後工程である圧延工程における圧延条件の設定精度を向上させることができ、圧延工程における操業を安定して行うことができる。よって、圧延鋼板の歩留まりが低下してしまうことを抑制でき、圧延鋼板の生産性を向上させることができる。
【0111】
また、本実施形態では、放射温度計100に入光される迷光雑音の70[%]程度に寄与している領域(熱電対200の温度測定対象領域210)については、温度が均一であると見なせるゾーン毎に迷光雑音輝度を求めて、出来るだけ正確に迷光雑音輝度を求める。一方、それ以外の領域については、経験上妥当な範囲で適当に(大まかに)温度を設定して迷光雑音を求める。このようにすることによって、予熱帯12の天井面12a全体に熱電対200を配置しなくても、スラブ21の表面温度を、実用上十分な精度で求めることができる。また、ゾーン毎に迷光雑音輝度を求めるので、測温計算装置500における計算負荷をより一層軽減することができる。
【0112】
また、本実施形態では、温度測定中心点21aから、放射温度計100の方向に広がる天頂角θが45[°]の仮想の円錐41があると見なした場合の、その仮想の円錐41の内部の領域内に、「熱電対200の温度測定対象領域210」が存在するように、12個の熱電対200a〜200lを、加熱帯13の天井面13aに概ね格子状に点在させるようにした。したがって、放射温度計100に入光される迷光雑音の70[%]程度に寄与している領域の温度分布を正確に求めることができる。よって、スラブ21の被測定領域の表面温度Tsを、従来よりも高精度に且つ大きな計算負荷をかけることなく容易に求めることができる。
【0113】
また、本実施形態では、スラブ21の表面温度を測定する前に(オフラインで)、スラブ21の放射率εsと、波長が3.9[μm]の光の二方向性反射率ρ´´(θ)とを得るようにした。そして、波長が3.9[μm]の光の二方向性反射率ρ´´(θ)については、スラブ21の放射率εsが一定値となるという知見を利用して、相対値ではなく、実際の値で得るようにした。したがって、スラブ21の放射率εs、及び二方向性反射率ρ´´(θ)を可及的に正確な値とすることができる。よって、スラブ21の表面温度の算出精度をより向上させることができる。
【0114】
また、本実施形態では、表面温度が、700[℃]以上、好ましくは900[℃]以上となっているスラブ21からの光を、放射温度計100を検出するようにした。したがって、放射率εsがバラつくことにより生じる測温誤差を、より低減することができる。よって、スラブ21の表面温度の算出精度をより向上させることができる。
【0115】
尚、本実施形態では、バーナー15〜17による燃焼量を自動的に変更(制御)するようにしたが、オペレータの変更指示に基づいて、バーナー15〜17による燃焼量を変更(制御)するようにしてもよい。
また、本実施形態では、軸流バーナー15、ルーフバーナー16、及びサイドバーナー17による燃焼量を変更(制御)するようにしたが、燃焼量を変更(制御)する対象は、これらのバーナー15〜17に限定されるものではない。
【0116】
また、本実施形態では、温度制御システムの適用対象の一例として、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉10を例に挙げて説明した。しかしながら、本実施形態の温度制御システムの適用対象は、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉10に限定されない。例えば、真空炉やラジアントチューブ炉等、加熱されている被測定物体が存在する炉であれば、ガス焚き加熱炉以外にも本実施形態の温度制御システムを適用することができる。ガス焚き加熱炉でない真空炉やラジアントチューブ炉に本実施形態の温度制御システムを適用した場合、「バーナー火炎や燃焼ガスに基づく迷光雑音輝度」の影響は無視できるほど小さい(又は存在しない)。したがって、ガス焚き加熱炉でない真空炉やラジアントチューブ炉等に本実施形態の温度制御システムを適用する場合には、3.9[μm]以外の波長を放射温度計100が検出するようにしてもよい。
【0117】
また、本実施形態では、予熱帯12の天井面12aに熱電対200を取り付けるようにしたが、予熱帯12の天井面12aの温度を直接的又は間接的に測定することができれば、必ずしもこのようにしなくてもよい。例えば、予熱帯12の天井に熱電対を埋め込むようにしてもよい。また、温度を測定するための手段として、必ずしも熱電対を用いる必要はない。
【0118】
また、本実施形態のように、仮想の円錐41の内部に入るように、12個の熱電対200a〜200lを、予熱帯12の天井面12aに概ね格子状に点在させるようにすれば(熱電対200の温度測定対象領域210を設定するようにすれば)、熱電対200を広範囲に設置する等の大掛かりな作業を行わずに、実用上十分な精度で、スラブ21の被測定領域の表面温度Tsを求めることができ好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、スラブ21の被測定領域の表面温度Tsの算出精度をより一層向上させる必要がある場合には、(1)の右辺の値を0.7よりも大きくする必要がある。この場合には、天頂角θが45[°]よりも大きな円錐の内部に入るように、加熱帯13の天井面13aに熱電対200を点在させるようにすることができる。
【0119】
また、本実施形態では、ゾーンA〜Lの境界を、熱電対200a〜200lの中間位置としたが、必ずしもこのようにする必要はない。
更に、本実施形態では、ゾーンA〜Lの中心(重心)に熱電対200a〜200lが設置されるようにしたが、必ずしもこのようにする必要はない。このようにした場合、熱電対200a〜200lの温度を外挿したり、熱電対200a〜200lの温度に基づいて補間を行って必要な位置の温度を求めたりする等して、ゾーンA〜Lの代表点(例えば中心位置又は重心位置)の温度を求めるようにしてもよい。
【0120】
また、本実施形態のように、ゾーンA〜Lの形状を矩形とすれば、ゾーンA〜Lの面積Aijの計算が簡便になるが、ゾーンA〜Lの形状は、矩形に限定されず、矩形以外の多角形、円形、扇形等とすることができる。
また、本実施形態では、熱電対200を1[m]間隔で規則的に設置するようにしたが、炉壁温度に分布が見られる位置に熱電対200を設置していれば、必ずしも熱電対200を規則的に設置する必要はない。例えば、温度分布の差が大きい領域については、熱電対200の設置間隔を短くし、温度分布の差が小さい領域については、熱電対200の設置間隔を長くすることができる。更に、熱電対200の数、ゾーンA〜Lの数は、「12」に限定されるものではない。
【0121】
また、本実施形態では、仮想の円錐41の頂点を、温度測定中心点21aとしたが、仮想の円錐41の頂点を、スラブ21の被測定領域内の任意の点、又はスラブ21の被測定領域そのものとしてもよい。
【0122】
また、本実施形態のように、ゾーンA〜L以外の天井面13aの領域については、熱電対200a、200d、200e、200h〜200lの温度の平均値を、ゾーンA〜L以外の「天井面12aの領域」の温度Toとして用いて、迷光雑音を一括して算出するようにすれば、加熱帯13の天井面13a全体に熱電対200を配置しなくても、スラブ21の表面温度を、実用上十分な精度で求めることができ、好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、加熱帯13の天井面13a全体を、「熱電対200の温度測定対象領域210」として定義し、加熱帯13の天井面13a全体に熱電対200を点在させてもよい。また、加熱炉10の操業条件によって、仮想の円錐41の内部以外にも、迷光雑音の要因となる領域がある場合には、仮想の円錐41の内部だけでなく、その迷光雑音の要因となる領域にも熱電対200の温度測定対象領域210を定義してもよい。
【0123】
また、本実施形態のように、表面温度が、700[℃]以上、好ましくは900[℃]以上となっているスラブ21からの光を、放射温度計100を検出するようにすれば、スラブ21の表面温度の算出精度をより向上させることができるので好ましい。しかしながら、スラブ21の表面温度は、必ずしも、700[℃]以上でなくてもよい。
【0124】
また、本実施形態では、放射温度計100を用いて、自発光輝度を求める場合を例に挙げて説明したが、発光輝度を求めることができれば、必ずしも放射温度計を用いなくてもよい。例えば、分光輝度計を用いることができる。
また、本実施形態では、12個の熱電対200a〜200lの設置位置として、熱電対200a〜200lが属するゾーンA〜Lの位置を記憶するようにしたが、孔12bの中心を原点とするxy座標を、12個の熱電対200a〜200lの設置位置として記憶してもよい。
【0125】
また、本実施形態では、放射温度計100で発光輝度を求めるようにしたが、必ずしもこのようにする必要はなく、測温計算装置500が、放射温度計100で求められた温度から、プランクの法則に基づいて、発光輝度を算出するようにしてもよい。このようにした場合には、発光輝度測定手段が測温計算装置500内に設けられることになる。
また、本実施形態では、サイドバーナー17を、スラブ21よりも下側に設けた場合を例に挙げて説明したが、サイドバーナー17を、スラブ21よりも上側に設けてもよい。
【0126】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態では、放射温度計100と、複数の熱電対200との組みを、予熱帯12に1組み設け、1つの被測定領域における表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Tsを求める場合について説明した。これに対し、本実施形態では、放射温度計と、12個の熱電対との組みを、予熱帯12と加熱帯13とに夫々1組みずつ設け、情報処理装置において、スラブ21の略同一の領域におけるパラメータ修正用スラブ表面温度Tsを2回求めるようにする。そして、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsが求められる度に、スラブ21の表面温度に関連する計算パラメータ(総括熱吸収率φCG)を修正する。このように前述した第1の実施形態と、本実施形態とは、放射温度計と、12個の熱電対との組み数及び設置箇所と、測温計算装置500及び数値シミュレーション装置600の機能の一部とが主として異なる。従って、本実施形態の説明において、前述した第1の実施形態と同一の部分については、例えば、図1〜図12に付した符号と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0127】
図13は、本実施形態の温度制御システムの適用対象の一例である多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉の概略構成の一例を示す図である。尚、図13は、加熱炉10を側方から見た図である。
図13に示すように、本実施形態の温度制御システムは、放射温度計100、110と、複数の熱電対200(図2を参照)と、測温計算装置501と、数値シミュレーション装置601と、バーナー制御装置400とを備えて構成される。尚、本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、図2に示したようにして、予熱帯12の天井面12aに熱電対200が取り付けられているようにしている。更に、本実施形態では、加熱帯13の天井面13aにも、図2に示したようにして、熱電対200が取り付けられているようにしている。すなわち、本実施形態では、各放射温度計100、110に対して、図2に示したような12個の熱電対200a〜200lが夫々設けられている。したがって、図13には、熱電対200が現れない。
【0128】
第1の実施形態で説明したように、放射温度計100は、予熱帯12の上方から、予熱帯12の天井面12aの一部に形成された孔12bを通して、予熱帯12内を搬送されるスラブ21の表面を望む位置に設置されている。
放射温度計110は、第1の実施形態で説明した放射温度計100と同じ構成を有している。放射温度計110は、加熱帯13の上方から、加熱帯13の天井面13aの一部に形成された孔13bを通して、加熱帯13内を搬送されるスラブ21の表面を望む位置に設置されている。
【0129】
また、第1の実施形態で説明したように、放射温度計100、110の入光面100a、110aの中心100b、110bと正対する位置にある点21a1、21a2から、放射温度計100、110の方向に広がる天頂角θが45[°]の仮想の円錐があると見なした場合に、その仮想の円錐の内部に入るように、12個の熱電対200a〜200iが、予熱帯12の天井面12aに取り付けられるようにしている。
【0130】
本実施形態では、ウォーキングビームは、スラブ21の表面における略同一の領域が、2つの放射温度計100、110における入光面100a、110aの中心100b、110bと正対するように、スラブ21を搬送させるようにする。例えば、図13において、スラブ21表面上の点21a1を、放射温度計100における入光面100aの中心100bと正対させる場合には、その点21a1と略同じ位置が、放射温度計110における入光面110aの中心110bと正対するように、ウォーキングビームの動作を制御する。
【0131】
測温計算装置501は、このようなウォーキングビームの動作を示す搬送動作情報を予め取得して記憶しておく。そして、測温計算装置501は、スラブ21の搬送が開始することを示す情報を搬送装置から入力した後、記憶しておいた搬送動作情報に従う所定のタイミングになると、そのタイミングで測定された発光輝度を取得する。これにより、スラブ21の表面における略同一の領域に対して放射温度計100、110が測定した発光輝度が得られる。また、測温計算装置501は、そのタイミングで熱電対200が測定した温度を取得する。
【0132】
次に、測温計算装置501は、取得した発光輝度と温度とを用いて、前述した第1の実施形態と同様にして、スラブ21の略同一の被測定領域における表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Ts[K]を2回算出する。
そして、数値シミュレーション装置601は、測温計算装置501でパラメータ修正用スラブ表面温度Tsが算出される度に、前述した第1の実施形態と同様にして、総括熱吸収率φCGを修正する。そして、数値シミュレーション装置601は、修正した総括熱吸収率φCGを適用した熱伝導方程式による数値シミュレーションを行って、スラブシミュレーション温度(スラブ21の現時刻及び加熱終了時の温度)を計算し、計算した結果に基づいて加熱炉10の設定温度を求める。
【0133】
以上のように本実施形態では、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsを、予熱帯12と加熱帯13とで2回算出し、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsが算出される度に総括熱吸収率φCGを修正するようにした。したがって、前述した第1の実施形態で説明した効果に加えて、総括熱吸収率φCGの精度をより向上させることができる。
【0134】
尚、本実施形態では、放射温度計と、12個の熱電対との組みを、予熱帯12と加熱帯13とに設けるようにしたが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、予熱帯12と加熱帯13とに加え、均熱帯14にも、放射温度計と、12個の熱電対との組みを設けるようにしてもよい。また、加熱帯13と均熱帯14、又は予熱帯12と均熱帯14に、放射温度計と、12個の熱電対との組みを設けるようにしてもよい。更に、予熱帯12と加熱帯13の間や、加熱帯13と均熱帯14の間に、放射温度計と、12個の熱電対との組みを設けるようにしてもよい。
また、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採ることができる。
【0135】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態では、1つの帯(予熱帯12)に、放射温度計100と、複数の熱電対200との組みを、1組み設け、1つのパラメータ修正用スラブ表面温度Tsを求める場合について説明した。これに対し本実施形態では、放射温度計と、12個の熱電対との組みを、スラブ21の長手方向(加熱炉10の幅方向)に2組み設け、2つのパラメータ修正用スラブ表面温度Tsを求めるようにする。このように前述した第1の実施形態と、本実施形態とは、放射温度計と、12個の熱電対との組みの設置位置と、測温計算装置500及び数値シミュレーション装置600の機能の一部とが主として異なる。従って、本実施形態の説明において、前述した第1の実施形態と同一の部分については、例えば、図1〜図12に付した符号と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0136】
図14は、本実施形態の温度制御システムの適用対象の一例である多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉の概略構成の一例を示す図である。尚、図14は、加熱炉10の非燃焼帯11側から予熱帯12を見た図である。また、図14では、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉のうち、予熱帯12の一部分のみを示している。その他の部分の構成は、図1に示したものと同じである。
【0137】
図14に示すように、本実施形態の温度制御システムは、放射温度計120、130と、複数の熱電対200(図2を参照)と、測温計算装置502と、数値シミュレーション装置602と、バーナー制御装置400とを備えて構成される。尚、本実施形態では、各放射温度計120、130に対して、図2に示したような12個の熱電対200a〜200lが夫々設けられている。また、本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、図2に示したようにして、予熱帯12の天井面12aに熱電対200が取り付けられているようにしている。したがって、図14には、熱電対200が現れない。
【0138】
放射温度計120、130は、夫々、第1の実施形態で説明した放射温度計100と同じ構成を有している。放射温度計120、130は、スラブ21の長手方向(搬送方向に対して垂直方向)に並べられている。放射温度計120、130は、夫々、予熱帯12の上方から、予熱帯12の天井面12aの一部に形成された孔12b1〜12b2を通して、予熱帯12内を搬送されるスラブ21の表面を望む位置に設置されている。
【0139】
また、本実施形態でも、第1の実施形態で説明したように、放射温度計120、130の入光面120a、130aの中心120b、120bと正対する位置にある点21a3、21a4から、放射温度計120、130の方向に広がる天頂角θが45[°]の仮想の円錐があると見なした場合に、その仮想の円錐の内部に入るように、12個の熱電対200が、予熱帯12の天井面12aに2組取り付けられるようにしている。
【0140】
測温計算装置502は、2つの放射温度計120、130で略同じタイミングで測定された発光輝度と、熱電対200で測定された温度とを取得する。そして、取得した発光輝度と温度とを用いて、前述した第1の実施形態と同様にして、2つの被測定領域の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Ts1、Ts2[K]を算出する。尚、パラメータ修正用スラブ表面温度Ts1は、放射温度計120の測定値を用いて得られた温度であり、スラブ21の先端側の表面温度を表すものである。また、パラメータ修正用スラブ表面温度Ts2は、放射温度計130の測定値を用いて得られた温度であり、スラブ21の尾端側の表面温度を表すものである。
【0141】
数値シミュレーション装置602は、測温計算装置502で算出された2つのパラメータ修正用スラブ表面温度Ts1、Ts2を用いて、総括熱吸収率φCGを修正する。そして、数値シミュレーション装置602は、修正した総括熱吸収率φCGを適用した熱伝導方程式による数値シミュレーションを行って、加熱炉10の抽出口における「先端側のスラブシミュレーション温度」と、「尾端側のスラブシミュレーション温度」とを計算し、計算した結果に応じて、加熱炉10の設定温度を求める。
【0142】
以上のように本実施形態では、スラブ21の先端側及び尾端側における略同時刻のパラメータ修正用スラブ表面温度Ts1、Ts2を算出し、算出したパラメータ修正用スラブ表面温度Ts1、Ts2を用いて、総括熱吸収率φCGを修正するようにした。したがって、前述した第1の実施形態で説明した効果に加え、スラブ21の先端側及び尾端側におけるパラメータ修正用スラブ表面温度Ts1、Ts2を、加熱炉10の設定温度に反映させることができる。これにより、スラブ21の先端側及び尾端側の燃焼量を独立して制御することをより適切に行うことが可能になり、スラブ21の長手方向における表面温度の偏差をより小さくすることができる。
【0143】
尚、本実施形態では、放射温度計と、12個の熱電対との組みを、スラブ21の長手方向に2組み設けた場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、放射温度計と、12個の熱電対との組みを、スラブ21の幅方向(搬送方向)に2組設けるようにしてもよい。また、放射温度計と、熱電対200との組数は、2つに限定されない。また、第2の実施形態と第3の実施形態とを組み合わせるようにしてもよい。
更に、本実施形態においても、前述した第1及び第2の実施形態で説明した種々の変形例を採ることができる。
【0144】
図15は、以上の第1〜第3の実施形態で説明したようにして総括熱吸収率φCGを修正して加熱炉10の燃焼制御を行った場合と、総括熱吸収率φCGを修正せずに加熱炉10の燃焼制御を行った場合の操業結果の比較例を示す図である。
尚、図15において、抽出温度誤差は、スラブ21に埋め込まれた熱電対の「加熱終了時間における温度」と、前述したようにして数値シミュレーション装置601〜602で計算された「加熱終了予定時間におけるスラブシミュレーション温度」との差を示すものである。
【0145】
図15から明らかなように、前述したようにして総括熱吸収率φCGを修正して加熱炉10の燃焼制御を行うと、在炉時間、燃料原単位、能率、歩留落ちの何れもが改善されることが分かる。特に、第2の実施形態のように、総括熱吸収率φCGを2回修正すると、より一層高い効果が得られることが分かる。
【0146】
また、在炉時間、燃料原単位、及び能率の点では、第3の実施形態と第1の実施形態とは同様の結果が得られた。しかしながら、第3の実施形態では、先端側と尾端側との夫々のスラブシミュレーション温度1、Tst2を精度良く求めることができるので、スラブ21の先端部と尾端部の夫々のサーマルランダウン量の予測精度を高めることができ、予測したサーマルランダウン量を補償する加速圧延を適切に実施することが可能になるため、第1の実施形態よりも歩留落ちを改善することができた。
【0147】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。前述した第1〜第3の実施形態では、スラブ21の温度に関連する計算パラメータとして、総括熱吸収率φCGを修正する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、鋼材熱流束qが、炉内のガスの温度(又はその分布)と、炉壁温度(又はその分布)と、炉内のガスの放射とを考慮した形態係数で評価される場合について説明する。このように本実施形態と、前述した第1〜第3の実施形態とでは、鋼材熱流束qの算出方法だけが異なる。したがって、前述した第1〜第3の実施形態と同一の部分についての説明を省略する。
【0148】
前述したように、本実施形態では、鋼材熱流束qを形態係数で評価するようにしている。このような場合、数値シミュレーション部822は、前述した(13)式の代わりに、以下の(14)式を用いて、鋼材熱流束qを算出する。
【0149】
【数11】

【0150】
q:鋼材熱流束[W/m2
sw、Fsg:形態係数(添え字sはスラブ表面、添え字wは炉壁面、gは炉内のガスを表す)
κ:放射吸収係数
σ:シュテファンボルツマン定数[W/(m2・K4)]
w:炉壁の温度[K]
g:炉内のガスの温度[K]
st:スラブ表面温度[K]
尚、炉内のガスの温度Tgは、例えば、既存熱電対700で測定された炉壁の温度を、経験的に求められている演算式に代入することにより決定することができる。
【0151】
また、計算パラメータ修正部821は、測温計算装置500〜502から、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsが送信されると、そのパラメータ修正用スラブ表面温度Tsを、(14)式のスラブ表面温度Tstに代入する。更に、放射温度計100の測定領域における鋼材熱流束qと、予熱帯12の炉壁の温度Twと、予熱帯12内のガスの温度Tgと、シュテファンボルツマン定数σとを(14)式に代入する。これにより、放射吸収係数κが算出される。この算出値が、放射吸収係数κの修正値となる。ただし、放射吸収係数κを修正する方法は、このようなものに限定されない。
【0152】
以上のように、鋼材熱流束qを形態係数で評価する場合には、スラブ21の温度に関連する計算パラメータとして、放射吸収係数κを用いることにより、第1〜第3の実施形態で説明したのと同様の効果を得ることができる。
尚、数値シミュレーションモデルにおいて、スラブ21の温度に関連する計算パラメータは、(13)式に示した総括熱吸収率φCGや、(14)式に示した放射吸収係数κに限定されるものではない。例えば、Discrete Ordinate法等の放射強度を用いた評価方法でも放射吸収係数が使用されるので、Discrete Ordinate法等の放射強度を用いた評価方法では、この放射吸収係数を修正することになる。
【0153】
(第1の変形例)
次に、本発明の実施形態の第1の変形例について説明する。前述した各実施形態では、パラメータ修正用スラブ表面温度Tsを求めるために設定するゾーンA〜Lの数と、熱電対200の設置数とが同じである場合を例に挙げて説明した(図2を参照)。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。
【0154】
本変形例では、熱電対200の設置数よりも多い数のゾーンを定義する。具体的に説明すると、例えば、図2に示した12個のゾーンA〜Lを、熱電対200の設置位置を共有する4つの矩形のゾーンに更に分割して、総計48個の矩形状のゾーンを定義する。
【0155】
このようにした場合、各ゾーンの代表点(例えば中心点)の温度Tijとして、熱電対200a〜200lの温度をそのまま用いると、スラブ21の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Tsの算出精度が低下する。そこで、熱電対200a〜200lの温度をそのまま用いずに、熱電対200a〜200lの温度に基づいて、各ゾーンの代表点の温度Tijを計算し、計算した温度Tijを用いて、ゾーン毎の迷光雑音輝度を算出する。
【0156】
以上のように、温度測定対象領域210内に、熱電対200の設置数よりも多い数のゾーンを定義し、それらゾーン毎に迷光雑音輝度を求めるようにすれば、ゾーン毎の迷光雑音輝度の算出精度をより向上させることが可能になる。
尚、熱電対200の設置数よりも多い数のゾーンを、温度測定対象領域210内に定義していれば、ゾーンの分け方や数は、前述したものに限定されない。
【0157】
(第2の変形例)
次に、本発明の実施形態の第2の変形例について説明する。
本変形例では、温度測定対象領域210内だけでなく、温度測定対象領域210外にもゾーンを定義する。具体的に説明すると、例えば、図2に示した温度測定対象領域210内に定義されているゾーンA〜Lのうち、外側にあるゾーンA、D、E、H〜Lと隣接する位置に、ゾーンA〜Lと同じ大きさの矩形状の12個のゾーンを更に定義する。
【0158】
このようにした場合、温度測定対象領域210内に定義されているゾーンA〜Lの代表点(例えば中心点)の温度Tijについては、熱電対200a〜200lの温度をそのまま用いることができる。これに対し、温度測定対象領域210外に定義されているゾーンの代表点(例えば中心点)の温度Tijについては、熱電対200a〜200lの温度をそのまま用いると、スラブ21の表面温度(パラメータ修正用スラブ表面温度)Tsの算出精度が低下する。そこで、温度測定対象領域210外に定義されているゾーンについては、熱電対200a〜200lの温度に基づいて、各ゾーンの代表点の温度Tijを計算し、計算した温度Tijを用いて、ゾーン毎の迷光雑音輝度を算出する。
【0159】
尚、この他に、ゾーンA〜Lを設定せずに、熱電対200や既存熱電対700の測定温度に基づいて、迷光雑音の発生原因となる炉壁の温度分布を求め、求めた温度分布を用いて、迷光雑音の発生原因となる炉壁全体における積分計算を行って、迷光雑音輝度を算出するようにしてもよい。
【0160】
以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施形態として適用することができる。また、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。上記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の第1の実施形態を示し、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉の概略構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示し、加熱帯に取り付けられている熱電対の様子の概略を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示し、12個の熱電対が取り付けられる範囲の一例を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示し、波長が3.9[μm]の光の入射角(天頂角)と、その光の二方向性反射率の相対値との関係の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を示し、測温計算装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施形態を示し、パラメータ記憶部の記憶内容の一例を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態を示し、パラメータ修正用スラブ表面温度と、熱電対で計測したスラブの表面温度との関係の一例を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態を示し、数値シミュレーション装置及びバーナー制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図9】本発明の第1の実施形態を示し、測温計算装置における処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図10】本発明の第1の実施形態を示し、スラブの表面温度の算出値と真値との差を絶対値で表したものと、スラブの表面温度の真値との関係の一例を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態を示し、数値シミュレーション装置における処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図12】本発明の第1の実施形態を示し、バーナー制御装置における処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図13】本発明の第2の実施形態を示し、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉の概略構成の一例を示す図である。
【図14】本発明の第3の実施形態を示し、多帯式ウォーキングビーム式連続加熱炉の概略構成の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施形態を示し、総括熱吸収率を修正して加熱炉の燃焼制御を行った場合と、総括熱吸収率を修正せずに加熱炉の燃焼制御を行った場合の操業結果の比較例を示す図である。
【符号の説明】
【0162】
10 加熱炉
11 非燃焼帯
12 予熱帯
12a 天井面
12b 天井面に形成された孔
12c 天井面の任意の点
13 加熱帯
13a 天井面
13b 天井面に形成された孔
14 均熱帯
15 軸流バーナー
16 ルーフバーナー
17 サイドバーナー
21 スラブ
21a 温度測定中心点
41 仮想の円錐
91 実際の放射率が0.87であったときの、スラブの表面温度の算出値と真値との誤差を示すグラフ
92 実際の放射率が0.83であったときの、スラブの表面温度の算出値と真値との誤差を示すグラフ
100、110、120、130 放射温度計
100a、110a、120a、130a 放射温度計の入光面
100b、110b、120b、130b 放射温度計の入光面の中心
200 熱電対
301 発光輝度取得部
302 熱電対温度取得部
303 熱電対位置記憶部
304 放射率記憶部
305 二方向性反射率導出部
306 パラメータ算出部
307 パラメータ記憶部
308 第1の発光輝度算出部
309 第2の発光輝度算出部
310 第3の発光輝度算出部
311 表面温度算出部
312 表面温度表示部
400 バーナー制御装置
500〜502 測温計算装置
600〜602 数値シミュレーション装置
700 既存熱電対
821 計算パラメータ修正部
822 数値シミュレーション部
823 炉温設定部
824 燃焼制御部
θ 仮想の円錐の天頂角
φCG 総括熱吸収率
κ 放射吸収係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物体の加熱温度を制御する温度制御システムであって、
前記被測定物体の表面に入射する外乱光を発生する領域の温度を測定する複数の温度測定手段と、
前記被測定物体から発光される光の発光輝度を測定する発光輝度測定手段と、
前記被測定物体の表面で前記発光輝度測定手段へ反射した迷光雑音輝度を、前記複数の温度測定手段により測定された温度を用いて計算する迷光雑音計算手段と、
前記発光輝度測定手段により測定される発光輝度のうち、前記被測定物体自体から発生している自発光輝度を、前記迷光雑音計算手段により計算された迷光雑音輝度と、前記発光輝度測定手段により測定された発光輝度とを用いて計算する自発光輝度計算手段と、
前記自発光輝度計算手段により計算された自発光輝度を用いて、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度を計算する第1の温度計算手段と、
前記被測定物体の温度を、数値シミュレーションモデルを用いて計算する第2の温度計算手段と、
前記第1の温度計算手段により計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記数値シミュレーションモデルにおける、前記被測定物体の温度に関連する計算パラメータを修正するパラメータ修正手段と、
前記第2の温度計算手段により計算された被測定物体の温度に基づいて、前記被測定物体を加熱する加熱手段を制御する制御手段とを有し、
前記第2の温度計算手段は、前記パラメータ修正手段により、前記計算パラメータが修正されると、その修正された計算パラメータを前記数値シミュレーションモデルに適用して、前記被測定物体の温度を計算することを特徴とする温度制御システム。
【請求項2】
前記パラメータ修正手段は、前記第2の温度計算手段により計算された、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度と、前記第1の温度計算手段により計算された被測定物体の表面温度とが、一致する又はそれらの差が所定の範囲内に収まるように、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項1に記載の温度制御システム。
【請求項3】
前記被測定物体は、炉内で加熱され、
前記発光輝度測定手段と前記複数の温度測定手段とが、前記炉の長手方向及び幅方向の何れか又は両方にn(nは2以上の自然数)組み設けられ、
前記第1の温度計算手段は、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度をn回計算し、
前記計算パラメータ修正手段は、前記第1の温度計算手段によりn回計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項1又は2に記載の温度制御システム。
【請求項4】
前記炉の長手方向に前記被測定物体を搬送する搬送手段を有し、
前記発光輝度測定手段と前記複数の温度測定手段とが、前記炉の長手方向にn(nは2以上の整数)組み設けられ、
前記第1の温度計算手段は、前記発光輝度測定手段の測定領域に搬送された被測定物体の略同一の領域の表面温度をn回計算し、
前記計算パラメータ修正手段は、前記第1の温度計算手段によりn回計算された被測定物体の略同一の領域の表面温度を用いて、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項3に記載の温度制御システム。
【請求項5】
前記発光輝度測定手段と前記複数の温度測定手段とが、前記炉の長手方向又は幅方向にn(nは2以上の整数)組み設けられ、
前記第1の温度計算手段は、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体のn箇所の領域における略同時刻の表面温度を計算し、
前記計算パラメータ修正手段は、前記第1の温度計算手段により計算された、前記被測定物体のn箇所の領域における略同時刻の表面温度を用いて、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項3に記載の温度制御システム。
【請求項6】
前記複数の温度測定手段により測定された温度に基づいて、前記被測定物体に入射する外乱光を発生する領域の温度分布を計算する温度分布計算手段を有し、
前記迷光雑音計算手段は、前記発光輝度測定手段により測定される発光輝度のうち、前記被測定物体の表面で反射した迷光雑音輝度を、前記温度分布計算手段により計算された温度分布を用いて計算することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の温度制御システム。
【請求項7】
前記迷光雑音計算手段は、前記複数の温度測定手段による温度測定対象領域を含む領域を複数に分割したゾーン毎に、前記被測定物体の表面で反射した迷光雑音輝度を計算するゾーン迷光雑音計算手段を有し、
前記ゾーン迷光雑音計算手段により計算されたゾーン毎の迷光雑音輝度を加算した値を用いて、前記被測定物体の表面で反射した迷光雑音輝度を計算することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の温度制御システム。
【請求項8】
前記発光輝度測定手段の測定領域内の点から、前記発光輝度測定手段の方向に広がる天頂角が45[°]の円錐があると見なした場合のその円錐の内部の領域内に、前記複数の温度測定手段の温度測定対象領域が存在するように、前記複数の温度測定手段を点在させるようにしたことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の温度制御システム。
【請求項9】
前記被測定物体は、ガス焚き加熱炉内で加熱されている鋼材であり、
前記発光輝度測定手段は、その光の検出面が、前記加熱炉の上方から、加熱炉の天井に開けられた孔を通して、前記加熱炉内にある被測定物体を望む位置に設けられ、
前記複数の温度測定手段は、前記加熱炉の天井の炉壁に設けられ、
前記発光輝度測定手段により測定する特定波長は、略3.9[μm]であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の温度制御システム。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の温度制御システムを有することを特徴とする加熱炉。
【請求項11】
被測定物体の加熱温度を制御する温度制御方法であって、
前記被測定物体の表面に入射する外乱光を発生する領域の温度を、複数の温度測定手段を用いて測定する温度測定ステップと、
前記被測定物体から発光される光の発光輝度を、発光輝度測定手段により測定する発光輝度測定ステップと、
前記被測定物体の表面で前記発光輝度測定手段へ反射した迷光雑音輝度を、前記温度測定ステップにより測定された温度を用いて計算する迷光雑音計算ステップと、
前記発光輝度測定ステップにより測定される発光輝度のうち、前記被測定物体自体から発生している自発光輝度を、前記迷光雑音計算ステップにより計算された迷光雑音輝度と、前記発光輝度測定ステップにより測定された発光輝度とを用いて計算する自発光輝度計算ステップと、
前記自発光輝度計算ステップにより計算された自発光輝度を用いて、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度を計算する第1の温度計算ステップと、
前記被測定物体の温度を、数値シミュレーションモデルを用いて計算する第2の温度計算ステップと、
前記第1の温度計算ステップにより計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記数値シミュレーションモデルにおける、前記被測定物体の温度に関連する計算パラメータを修正するパラメータ修正ステップと、
前記第2の温度計算ステップにより計算された被測定物体の温度に基づいて、前記被測定物体を加熱する加熱手段を制御する制御ステップとを有し、
前記第2の温度計算ステップは、前記パラメータ修正ステップにより、前記計算パラメータが修正されると、その修正された計算パラメータを前記数値シミュレーションモデルに適用して、前記被測定物体の温度を計算することを特徴とする温度制御方法。
【請求項12】
前記パラメータ修正ステップは、前記第2の温度計算ステップにより計算された、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度と、前記第1の温度計算ステップにより計算された被測定物体の表面温度とが、一致する又はそれらの差が所定の範囲内に収まるように、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項11に記載の温度制御方法。
【請求項13】
前記被測定物体は、炉内で加熱され、
前記発光輝度測定手段と前記複数の温度測定手段とが、前記炉の長手方向及び幅方向の何れか又は両方にn(nは2以上の自然数)組み設けられ、
前記第1の温度計算ステップは、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度をn回計算し、
前記計算パラメータ修正ステップは、前記第1の温度計算ステップによりn回計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項11又は12に記載の温度制御方法。
【請求項14】
前記炉の長手方向に前記被測定物体を搬送する搬送ステップを有し、
前記発光輝度測定手段と前記複数の温度測定手段とが、前記炉の長手方向にn(nは2以上の整数)組み設けられ、
前記第1の温度計算ステップは、前記発光輝度測定手段の測定領域に搬送された被測定物体の略同一の領域の表面温度をn回計算し、
前記計算パラメータ修正ステップは、前記第1の温度計算ステップによりn回計算された被測定物体の略同一の領域の表面温度を用いて、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項13に記載の温度制御方法。
【請求項15】
前記発光輝度測定手段と前記複数の温度測定手段とが、前記炉の長手方向又は幅方向にn(nは2以上の整数)組み設けられ、
前記第1の温度計算ステップは、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体のn箇所の領域における略同時刻の表面温度を計算し、
前記計算パラメータ修正ステップは、前記第1の温度計算ステップにより計算された、前記被測定物体のn箇所の領域における略同時刻の表面温度を用いて、前記計算パラメータを修正することを特徴とする請求項13に記載の温度制御方法。
【請求項16】
前記発光輝度測定ステップは、700[℃]以上、1100[℃]以下に加熱されている被測定物体から入射する光を検出することを特徴とする請求項11〜15の何れか1項に記載の温度制御方法。
【請求項17】
前記複数の温度測定手段により測定された温度に基づいて、前記被測定物体に入射する外乱光を発生する領域の温度分布を計算する温度分布計算ステップを有し、
前記迷光雑音計算ステップは、前記発光輝度測定手段により測定される発光輝度のうち、前記被測定物体の表面で反射した迷光雑音輝度を、前記温度分布計算ステップにより計算された温度分布を用いて計算することを特徴とする請求項11〜16の何れか1項に記載の温度制御方法。
【請求項18】
前記迷光雑音計算ステップは、前記複数の温度測定手段による温度測定対象領域を含む領域を複数に分割したゾーン毎に、前記被測定物体の表面で反射した迷光雑音輝度を計算するゾーン迷光雑音計算ステップを有し、
前記ゾーン迷光雑音計算ステップにより計算されたゾーン毎の迷光雑音輝度を加算した値を用いて、前記被測定物体の表面で反射した迷光雑音輝度を計算することを特徴とする請求項11〜17の何れか1項に記載の温度制御方法。
【請求項19】
前記発光輝度測定手段の測定領域内の点から、前記発光輝度測定手段の方向に広がる天頂角が45[°]の円錐があると見なした場合のその円錐の内部の領域内に、前記複数の温度測定手段の温度測定対象領域が存在するように、前記複数の温度測定手段を点在させるようにしたことを特徴とする請求項11〜18の何れか1項に記載の温度制御方法。
【請求項20】
前記被測定物体は、ガス焚き加熱炉内で加熱されている鋼材であり、
前記発光輝度測定手段は、その光の検出面が、前記加熱炉の上方から、加熱炉の天井に開けられた孔を通して、前記加熱炉内にある被測定物体を望む位置に設けられ、
前記複数の温度測定手段は、前記加熱炉の天井の炉壁に設けられ、
前記発光輝度測定手段により測定する特定波長は、略3.9[μm]であることを特徴とする請求項11〜19の何れか1項に記載の温度制御方法。
【請求項21】
被測定物体から発光される光の発光輝度を測定する発光輝度測定手段と、
前記被測定物体の表面に入射する外乱光を発生する領域の温度を測定する複数の温度測定手段と、における測定値を用いて、被測定物体の加熱温度を制御することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記被測定物体の表面で前記発光輝度測定手段へ反射した迷光雑音輝度を、前記複数の温度測定手段により測定された温度を用いて計算する迷光雑音計算ステップと、
前記発光輝度測定手段により測定される発光輝度のうち、前記被測定物体自体から発生している自発光輝度を、前記迷光雑音計算ステップにより計算された迷光雑音輝度と、前記発光輝度測定手段により測定された発光輝度とを用いて計算する自発光輝度計算ステップと、
前記自発光輝度計算ステップにより計算された自発光輝度を用いて、前記発光輝度測定手段の測定領域における前記被測定物体の表面温度を計算する第1の温度計算ステップと、
前記被測定物体の温度を、数値シミュレーションモデルを用いて計算する第2の温度計算ステップと、
前記第1の温度計算ステップにより計算された被測定物体の表面温度を用いて、前記数値シミュレーションモデルにおける、前記被測定物体の温度に関連する計算パラメータを修正するパラメータ修正ステップと、
前記第2の温度計算ステップにより計算された被測定物体の温度に基づいて、前記被測定物体を加熱する加熱手段を制御する制御ステップとをコンピュータに実行させ、
前記第2の温度計算ステップは、前記パラメータ修正ステップにより、前記計算パラメータが修正されると、その修正された計算パラメータを前記数値シミュレーションモデルに適用して、前記被測定物体の温度を計算することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−275463(P2008−275463A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119670(P2007−119670)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】