説明

温度補償型水晶発振器、温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板、及び温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器

【課題】 正確かつ安定的に発振周波数の変動を補償することのできる温度補償型水晶発振器、温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板、及び温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器を提供することを課題とする。
【解決手段】 水晶振動子を含む発振回路と、前記発振回路に直列に挿入される可変容量素子と、前記水晶振動子に蒸着され、前記水晶振動子の温度に応じて抵抗値が変化する感温回路素子と、前記感温回路素子に対し通電を行った際の電流値に基づき、前記可変容量素子の容量を補正する補正回路とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
通信機器、又は情報機器等の電子機器に用いられる温度補償型水晶発振器、温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板、及び温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
温度補償型水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated Xtal Oscillator)は、通信機器又は情報機器等の様々な電子機器に用いられている。
【0003】
図1は、従来の温度補償型水晶発振器の断面構造を示す図である。従来の温度補償型水晶発振器は、筐体1の内部に配設される水晶振動子2及びIC(Integrated Circuit:集積回路)3を含む。この水晶振動子2は、図1に示されるように、水晶片21と、該水晶片21に接続される一対の励振電極22、23を有する。
【0004】
また、筐体1は、蓋部1Aを有するセラミック製の筐体であり、水晶振動子2及びIC3が内部に配設されて乾燥窒素が充填された状態で密封されている。
【0005】
また、水晶振動子2の水晶片21は、筐体1の内部空間の略中心部に位置するように、筐体1の内壁1Bに接続されている。水晶片21は、例えば、ATカットにより所望の固有振動数が得られる厚さに成形されており、一対の励振電極22、23が形成されている。励振電極22、23としては、金(Au)製の薄膜電極を用いる。
【0006】
IC3は、筐体1の内部空間の底部に配設されている。
【0007】
このIC3の上面又は内部には、温度センサ4が配設されている。温度センサ4は、IC3の温度に応じて例えば抵抗値が変化する感温素子であり、例えば、ニクロム線を用いることができる。温度センサ4は、IC3の温度変化に応じて抵抗値が変化するため、温度に応じた値の電流が出力される。
【0008】
図2は、図1で示した従来の温度補償型水晶発振器の回路を示す図である。
【0009】
IC3は、可変容量コンデンサ31、インバータ32、出力バッファ回路33、補正回路34、及びメモリ35を含む。
【0010】
可変容量コンデンサ31及びインバータ32は、水晶振動子の励振電極22、23に接続され、水晶振動子2ループ状の発振回路を形成している。
【0011】
また、出力バッファ回路33は、発振回路で得られた発振信号をクロック信号に変換して外部に出力する回路である。出力バッファ回路33は、実際には複数のインバータを含むことが多いが、説明の便宜上、図2では一つのインバータとして示す。
【0012】
可変容量コンデンサ31は、静電容量を変更可能な可変容量素子であり、ループ状の発振回路の静電容量値を変更可能にするために、発振回路に直列に挿入されているものである。本明細書に記載する可変容量コンデンサ31は、バリキャップダイオード(varicap diode)などの可変容量ダイオードで形成したものであり、補正回路34からの印加電圧に応じて、その静電容量が可変されるものである。
【0013】
また、メモリ35は、IC3に内蔵されるメモリであり、温度信号を表す電流値を補正回路34が可変容量コンデンサ31へ印加する電圧値に変換する際に用いる該水晶振動子2の周波数温度特性の逆特性を表すデータを格納しており、補正回路34は、このメモリ35を参照して温度センサ4で検出される温度を表す温度信号(電流値)に応じた前記可変容量コンデンサ31への電圧を印加するものである。この補正回路34は、たとえば特開2008−300978(特に図3)に示すような回路構成となっている。
【0014】
以上の構成により、温度センサ4で検出される温度が変化すると、可変容量コンデンサ31の静電容量が調節されるため、発振周波数は、温度変化に対して安定するように制御される。
【0015】
このような温度補償型水晶発振器の出力バッファ回路33から出力されるクロック信号は、例えば、電子機器に含まれるCPU(Central Processing Unit:中央演算装置)又は通信部等で用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−300978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
電子機器の小型化に伴い、温度補償型水晶発振器が用いられる電子機器では実装の高密度化が進んでいる。特に、携帯電話、カーナビゲーションシステム等では、スペースの制約が大きいため、高密度化が顕著である。
【0018】
このような高密度実装を実現するためには、電子機器の内部における設計の自由度は大幅に制約される。
【0019】
ところで、電子機器の内部には、たとえば、携帯電話の送信アンプのように高熱源となる電子部品が含まれる。この電子部品は、温度補償型水晶発振器とともにプリント基板に実装される。このため、電子部品等の配置を変更することによって熱源から温度補償型水晶発振器への熱伝導を低減することは困難になってきている。
【0020】
また、設計の自由度が制約される一方で、電子機器の高性能化に伴い、温度補償型水晶発振器には更なる高精度化が必要とされている。
【0021】
以上の理由により、温度補償型水晶発振器には、温度が変動する環境下において、発振周波数を高精度に補償することが求められている。
【0022】
しかしながら、上記従来の温度補償型水晶発振器のように、水晶片21とは離間して配設されるIC3に温度センサ4が取り付けられる場合には、水晶片21よりもIC3の方がプリント基板に実装される熱源に近いので、熱伝導の遅れにより、温度センサ4で測定する温度と水晶片21の実際の温度に差が生じる場合があった。熱伝導の遅れによる温度差は、熱源に急激な温度上昇が生じたときほど大きくなる傾向があった。
【0023】
そして、このような熱伝導の遅れによる温度差は、発振周波数の変動を補償する際の制御誤差になるため、発振周波数の変動の補償を適切に行うことができない場合があった。
【0024】
また、補正回路又はメモリをICとは別にしたディスクリート型の従来の温度補償型水晶発振器においても、温度センサは水晶振動子から離間した位置に配設されていた。このため、熱伝導の遅れによる温度差は、補正回路とメモリをIC内で一体化した温度補償型水晶発振器と同様に生じており、発振周波数の変動の補償を適切に行うことができない場合があった。
【0025】
ここで、熱伝導の遅れによって生じる制御誤差を少なくするために、ニクロム線等の温度センサを水晶振動子に直接取り付けることが考えられるが、水晶振動子は、所望の発振周波数が得られるように、励振電極の質量及び取付位置等が設計されているため、ニクロム線等の温度センサを直に取り付けることは困難であった。
【0026】
そこで、本実施の形態に基づく発明では、正確かつ安定的に発振周波数の変動を補償することのできる温度補償型水晶発振器、温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板、及び温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の実施の形態の一観点の温度補償型水晶発振器は、水晶振動子を含む発振回路と、前記発振回路に直列に挿入される可変容量素子と、前記水晶振動子に蒸着され、前記水晶振動子の温度に応じて抵抗値が変化する感温回路素子と、前記感温回路素子に対し通電を行った際の電流値に基づき、前記可変容量素子の容量を補正する補正回路とを有する。
【発明の効果】
【0028】
水晶振動子に蒸着させた感温素子の出力を利用して測定するため、水晶振動子の温度をより直接的に反映させた温度補正を行うことが可能となり、間接的に検出を行っていた従来技術に比べてより正確に温度補償を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の温度補償型水晶発振器の断面構造を示す図である
【図2】従来の温度補償型水晶発振器の回路を示す図である。
【図3】実施の形態1の温度補償型水晶発振器100の断面構造を示す図である。
【図4】実施の形態1の温度補償型水晶発振器100の回路を示す図である。
【図5】実施の形態1の温度補償型水晶発振器100の回路を示す図である。
【図6】実施の形態1の温度補償型水晶発振器100を含む携帯電話機(a)と、実施の形態1の温度補償型水晶発振器100が実装されたプリント基板(b)を示す図である。
【図7】実施の形態2の温度補償型水晶発振器200の回路を示す図である。
【図8】実施の形態2の温度補償型水晶発振器200の回路を示す図である。
【図9】実施の形態3の温度補償型水晶発振器300の回路を示す図である。
【図10】実施の形態3の温度補償型水晶発振器300の回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の温度補償型水晶発振器、温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板、及び温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器を適用した実施の形態について説明する。
【0031】
[実施の形態1]
図3は、実施の形態1の温度補償型水晶発振器100の断面構造を示す図である。
【0032】
なお、従来の温度補償型水晶発振器と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0033】
実施の形態1の温度補償型水晶発振器100は、筐体1と、筐体1の内部に配設される水晶振動子102及びIC3とを含む。水晶振動子102は、水晶片21、励振電極22、及び兼用電極110を有する。
【0034】
兼用電極110は、水晶片21の温度を検出するための温度センサ(感温回路素子)と、水晶振動子102の励振電極のうちの一方とを兼用する電極である。この兼用電極110としては、本実施の形態においては、水晶片21の表面にニクロム(Ni−Cr:ニッケルとクロムを含む合金)薄膜形成している。この兼用電極110は、蒸着法又はスパッタリング法等により、水晶片21の表面に形成することができる。
【0035】
また、上記したように兼用電極110は、水晶振動子102の励振電極の一方であるため、兼用電極110の質量及び取付位置は、水晶振動子102の固有振動数に影響が生じないように水晶片の中央付近に形成することが望ましい。
【0036】
また、本実施の形態では、兼用電極110と対をなす他方の励振電極22として金の薄膜を用いる形態について説明するが、励振電極22の材質は金に限られず、銀(Ag)又はアルミニウム(Al)等を用いてもよい。
【0037】
なお、水晶片21は、所定の固有振動数で振動するように、例えば、ATカットにより結晶の切断方位と寸法が設定される。この水晶片21の寸法は、本実施の形態では、長さ(図中横方向)3.2mm、幅(図面を貫く方向)2.5mm、厚さ1mmとする。また、兼用電極110は、例えば、厚さが0.1μm程度のニクロム薄膜とする。
【0038】
水晶片21の下面(基板搭載側面)とIC3の上面(水晶片21の下面との対向面)との間隔は、例えば、0.3mm程度である。ただし、これらの数値は一例に過ぎず、水晶片21の寸法、又は、水晶片21の下面とIC3の上面との間隔は、発振周波数及びその他の設計事項に応じて設定される。
【0039】
図4及び図5は、実施の形態1の温度補償型水晶発振器100の回路を示す図である。
【0040】
図4(a)では水晶片21、励振電極22、及び兼用電極110を斜視で示し、図4(b)では水晶片21、励振電極22、及び兼用電極110を断面で示す。また、図5では、励振電極22及び兼用電極110を回路記号で示す。
【0041】
なお、図示の便宜上、図4(a)に示す水晶片21は、図3及び図4(b)に示す水晶片21とは天地逆に明記している。このため、図4(a)では上側に示される面が水晶片21の下面であり、下側に示される面が水晶片21の上面となる。
【0042】
この図4(a)に示すように、励振電極22は、平板状の水晶片21の下面側に配設され、兼用電極110は、平板状の水晶片21の上面側に配設される。
【0043】
この励振電極22は、水晶片21の下面の略中心に配設されており、平面視で楕円形の電極部22aの長軸上にストライプ状の延伸部22bが接続された形状である。
【0044】
また兼用電極110は、水晶片21の上面の略中心(即ち、励振電極の対向位置)に配設されており、平面視で楕円形の電極部110aの長軸上に一対の延伸部110b、110cが接続された形状である。
【0045】
兼用電極110の延伸部110b及び110cは、交流遮断用のコイル111を介して補正回路34と温度検出用の閉回路を形成するように接続されている。
【0046】
また、兼用電極110の延伸部110bは、可変容量コンデンサ31の入力端に接続されており、励振電極22の延伸部22bは、インバータ32の出力端に接続されている。これにより、兼用電極110は、励振電極の一方として、励振電極22と対をなし、インバータ32から供給される励振電流を水晶片21に供給できるようにされている。
【0047】
また、可変容量コンデンサ31、インバータ32、及び、水晶振動子102により、ループ状の発振回路を形成する。
【0048】
なお、インバータ32の出力側には、発振回路で得られる発振信号をクロック信号に変換して外部に出力するための出力回路である出力バッファ回路33が接続され、補正回路34には、水晶振動子102の周波数温度特性の逆特性を表すデータを格納するメモリ35が接続されており、補正回路34は、交流遮断用のコイル111を介して、可変容量コンデンサ31を流れる電流の直流成分を検出し、メモリ35を参照して兼用電極の直流電流値に応じた前記可変容量コンデンサ31への電圧を印加する。
【0049】
また、インバータ32から励振電極22、23に励振電流が供給されると、水晶振動子102の水晶片21が発振し、発振回路で発振信号が得られる。発振信号は、出力バッファ回路33を介してクロック信号として出力される。
【0050】
可変容量コンデンサ31は、静電容量を変更可能な可変容量素子であり、水晶振動子102を含むループ状の発振回路の静電容量値を変更可能にするために配設されている。
【0051】
可変容量コンデンサ31は、例えば、バリキャップダイオードなどの可変容量ダイオードを使用して形成される。
【0052】
兼用電極110で検出される水晶片21の温度の変化に応じて可変容量コンデンサ31に印加する電圧値を変えることにより、発振回路の発振周波数を調節することができる。
また、メモリ35は、IC3に内蔵されるメモリであり、兼用電極110の直流電流値を可変容量コンデンサ31へ印加する電圧値に変換する際に用いる該水晶振動子2の周波数温度特性の逆特性を表すデータを格納しており、補正回路34は、このメモリ35を参照して兼用電極110の直流電流値に応じた前記可変容量コンデンサ31への電圧を印加するものである。この補正回路34は、たとえば特開2008−300978(特に図3)に示すような回路構成となっている。
【0053】
以上の構成により、兼用電極110で検出される温度が変化すると、温度変化を表す温度信号が補正回路34に入力され、補正回路34は、メモリ35に格納された周波数温度特性の逆特性を表すデータを参照し、可変容量コンデンサ31に対し、対応する印加電圧を印加し、結果として、発振回路の発振周波数の補正が行われ温度変化に対して安定した周波数の出力が行われるようになる。
【0054】
図4(b)及び図5では、説明の便宜上、励振電極22の延伸部22b、兼用電極110の延伸部110b及び110cを省略して示す。特に、図4(b)では、水晶片21に対する励振電極22と兼用電極110の厚さ方向のスケールを拡大して示す。
【0055】
図4(b)及び図5に示すように、兼用電極110は、励振電極の一方として励振電極22と対をなす。このため、インバータ32に駆動電力が供給され、兼用電極110と励振電極22を介して水晶片21の内部に励振電流が流れると、水晶片21が発振する。
【0056】
ここで、兼用電極110で検出される温度が変化すると、温度変化を表す温度信号が補正回路34に入力され、補正回路34は、メモリ35に格納された周波数温度特性の逆特性を表すデータを参照し、温度信号に応じた印加電圧を出力する。補正回路34から出力された印加電圧により、可変容量コンデンサ31の静電容量が変化し、その結果、水晶振動子102の発振周波数が調整されるため、発振回路の発振周波数は、温度変化に対して安定する。
【0057】
以上、実施の形態1の温度補償型水晶発振器100によれば、水晶片21の表面に感温回路素子と励振電極の一方とを兼用する金属薄膜製の兼用電極110を形成したので、水晶片21の温度変化にもかかわらず、安定した発振周波数にて発振することができる。
【0058】
このように、実施の形態1の温度補償型水晶発振器100は、水晶片21に配設された兼用電極110により、水晶片自体の温度変化に対応して発振周波数の補正を行うので、急激な温度上昇に迅速に対応できるようになり、特に、パワーアンプ等や送信ユニットのように、急激な温度上昇が伴う電子素子の近傍に設置しても、安定したクロック信号を出力することができるようになる。
【0059】
図6は、実施の形態1の温度補償型水晶発振器100を含む携帯電話機(a)と、実施の形態1の温度補償型水晶発振器が実装されたプリント基板(b)を示す図である。
【0060】
図6(a)は、上記してきた温度補償型水晶発信器100を搭載した携帯電話機50を示している。この携帯電話機は、通信用の回路等が実装されたプリント基板60を含み、プリント基60には、通信回路61と温度補償型水晶発振器100が実装されている。
【0061】
携帯電話機50は、小型化や多機能化に伴い内部のスペースが限られている機器の代表例であり、温度補償型水晶発振器100が熱源の近くに配設される場合もあり得る。典型的な熱源としては、パワーアンプが挙げられる。パワーアンプは、携帯電話機50が通信を行っていない場合には殆ど発熱しないが、通信が開始されると急激に温度が上昇するため、温度補償型水晶発振器100が急激な熱伝導を受けて温度が急激に上昇することがある。
【0062】
しかしながら、このような場合でも、実施の形態1の温度補償型水晶発振器100では、発振周波数の変動を正確に補償することができる。
【0063】
特に、携帯電話機50の基準クロック信号、又は、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)端末機の基準クロック信号等には、非常に高い精度が要求されるため、本実施の形態の温度補償型水晶発振器100を使用すると、非常に有効的である。
【0064】
なお、図6には、温度補償型水晶発振器100を搭載した電子機器の一例として携帯電話機50を示したが、温度補償型水晶発振器100を搭載可能な電子機器は、携帯電話機50に限られるものではない。
【0065】
[実施の形態2]
図7及び図8は、実施の形態2の温度補償型水晶発振器200の回路を示す図である。
【0066】
実施の形態2の温度補償型水晶発振器200の水晶振動子202は、水晶片21、励振電極22、及び積層電極210を含む。実施の形態2は、感温回路素子の構造が実施の形態1と異なる。
【0067】
なお、図7では水晶片21、励振電極22、及び積層電極210を断面で示し、図8では、励振電極22、及び積層電極210を回路記号で示す。
【0068】
図7に示すように、積層電極210は、水晶片21の温度を検出するための検温用電極211、絶縁層212、及び、励振電極213が積層された積層電極である。検温用電極211と励振電極213とは絶縁層212によって絶縁されている。
【0069】
検温用電極211は、水晶片21の温度を検出できる感温回路素子であればよく、例えば、ニクロム薄膜を用いることができる。絶縁層212は、検温用電極211と励振電極213を電気的に絶縁できる薄膜層であればよく、例えば、シリコン酸化層を用いることができる。励振電極213は、励振電極22と対をなして水晶片21に励振電流を供給できる薄膜電極であればよく、例えば、金(Au)製の薄膜を用いることができる。なお、励振電極22としては、例えば、金(Au)製の薄膜電極を用いることができる。
【0070】
積層電極210は、例えば、水晶片21の表面上に検温用電極211(ニクロム薄膜)、絶縁層212(シリコン酸化層)、励振電極213(金薄膜)を蒸着法又はスパッタリング法で積層することにより、作製することができる。
【0071】
なお、検温用電極211、絶縁層212、及び励振電極213の材質及び作製方法は、上述ものに限定されるものではない。
【0072】
検温用電極211は、補正回路34と温度検出用の閉回路を形成するように接続されている。補正回路34は、検温用電極211に電圧を印加し、検温用電極211から温度に応じた電流(温度信号)を検出することにより、水晶片21の温度を検出する。検出した温度信号は、発振周波数を補正するための制御に用いられる。
【0073】
また、積層電極210の励振電極213は、可変容量コンデンサ31の入力端に接続されており、励振電極22は、インバータ32の出力端に接続されている。これにより、積層電極210の励振電極213は、励振電極の一方として、励振電極22と対をなし、水晶片21に励振電流を供給できるようにされている。
【0074】
また、可変容量コンデンサ31及びインバータ32は、水晶振動子202の発振に基づく発振信号を得るためのループ状の発振回路を形成する。なお、発振信号の発振周波数は、水晶振動子202の固有振動数によって決まる。
【0075】
なお、インバータ32の出力側には、発振回路で得られる発振信号をクロック信号に変換して外部に出力するための出力回路である出力バッファ回路33が接続され、補正回路34には、水晶振動子202の周波数温度特性の逆特性を表すデータを格納するメモリ35が接続されている。
【0076】
なお、上述のように、検温用電極211と励振電極213とは絶縁層212によって絶縁されており、温度検出用の閉回路と、発振回路とは電気的に絶縁分離されているため、実施の形態1のように交流遮断用のコイルを配設する必要はない。
【0077】
また、積層電極210の質量及び取付位置は、実施の形態1と同様に、水晶片21の固有振動数に影響を与えないように設定されている。
【0078】
このような構造の温度補償型水晶発振器200の積層電極210及び励振電極22を回路記号で示すと、図8に示す通りとなる。積層電極210の検温用電極211と励振電極213は絶縁分離されているため、補正回路34を含む温度検出用の閉回路と、可変容量コンデンサ31及びインバータ32を含む発振回路とは、完全に絶縁分離されている。
【0079】
補正回路34が積層電極210の検温用電極211に電圧を印加すると、補正回路34には、検温用電極211で検出される水晶片21の温度を表す温度信号(電流値)が入力される。補正回路34は、メモリ35内のデータを参照することにより検温用電極211から入力される水晶片21の温度を表す温度信号に応じた値の電圧(補償電圧)を出力する。補正回路34から出力される補償電圧は、水晶片21の温度変化による発振周波数の変動を相殺するように可変容量素子31の静電容量を補正するための電圧値に設定され、可変容量コンデンサ31に供給される。これにより、可変容量コンデンサ31の静電容量が制御される。
【0080】
このため、積層電極210の検温用電極211で検出される温度が変化すると、温度変化を表す温度信号が補正回路34に入力される。補正回路34は、温度信号に応じた補償電圧を出力し、これにより、可変容量コンデンサ31の静電容量が調節され、水晶振動子202の発振周波数は、温度変化に対して安定するように制御される。
【0081】
すなわち、可変容量コンデンサ31の静電容量は、積層電極210の検温用電極211から出力される温度信号に基づいてフィードバック制御され、環境温度が変動しても、水晶振動子202の発振周波数が安定するように発振周波数の変動が補償される。これにより、出力バッファ回路33から出力されるクロック信号の周波数は、一定の範囲内に保たれる。
【0082】
以上、実施の形態2によれば、水晶片21の表面に、検温用電極211と励振電極213とを積層した積層電極210を形成したので、水晶片21の固有振動数に影響を与えることなく、水晶振動子202を発振させることができる。
【0083】
また、水晶片21の表面に形成した積層電極210の検温用電極211で水晶片21の温度を検出できるので、従来のように熱伝導の遅れが殆ど生じず、水晶片21の温度を正確に表す温度信号(温度を表す電流値)が得られる。
【0084】
このため、実施の形態2の温度補償型水晶発振器200では、積層電極210で正確に検出された温度信号に基づいて可変容量コンデンサ31の静電容量を正確に制御することができ、発振信号の発振周波数の変動を正確かつ安定的に補償することができる。
【0085】
このように、実施の形態2の温度補償型水晶発振器200は、水晶片21に配設された積層電極210により、急激な温度上昇に迅速に対応できるので、特に、パワーアンプ等のように、急激な温度上昇が伴う電子素子の近傍に設置しても、正確かつ安定したクロック信号を出力することができる。
【0086】
このため、特に、携帯電話、カーナビゲーションシステム等のように、設計の自由度が大幅に制約され、高密度実装される電子機器に実装しても、発振周波数を高精度に補償することができる。
【0087】
[実施の形態3]
図9及び図10は、実施の形態3の温度補償型水晶発振器300の回路を示す図である。
【0088】
実施の形態3の温度補償型水晶発振器300の水晶振動子302は、水晶片21、励振電極22、23、及び温度センサ310を含む。実施の形態3は、水晶振動子302に含まれる感温回路素子(温度センサ310)の構造が実施の形態1と異なる。
【0089】
なお、図9では水晶片21、励振電極22、23、及び温度センサ310を斜視で示し、図10では、水晶片21、励振電極22、23、及び温度センサ310を回路記号で示す。
【0090】
実施の形態3の温度補償型水晶発振器300は、水晶片21に一対の励振電極22、23が配設されるとともに、励振電極23が配設されている面側に、水晶片21の温度を検出する感温回路素子としての温度センサ310が配設される点が実施の形態1と異なる。
【0091】
励振電極22は、水晶片21の下面の略中心に配設されており、平面視で楕円形の電極部22aにストライプ状の延伸部22bが接続された形状である。
【0092】
また、励振電極23は、水晶片21の上面の略中心に配設されており、平面視で楕円形の電極部23aにストライプ状の延伸部23bが接続された形状である。
【0093】
このように、励振電極22と23の構造は、同一であり、励振電極22、23としては、例えば、金(Au)製の薄膜電極を用いることができる。
【0094】
温度センサ310は、水晶片21の上面(励振電極23が配設される面)において、励振電極23とは離間して絶縁分離された状態で、水晶片21の上面の端部に沿って形成された平面視コの字型の温度センサである。
【0095】
温度センサ310は、水晶片21の温度を検出できる感温回路素子であればよく、例えば、ニクロム薄膜を用いることができる。このようなニクロム薄膜は、スパッタリング法又は蒸着法によって作製することができるが、材質及び作製方法は、ここに示すものに限られず、他の材質又は作製方法を用いてもよい。
【0096】
なお、図9には、水晶片21の上面(励振電極23が配設される面)の端部に沿って平面視でコの字型に作製された温度センサ310を示すが、温度センサ310の形状は、平面視でコの字型のものに限られず、他の形状であってもよい。また、温度センサ310が配設される位置は、水晶片21のいずれかの表面上であればよく、図9に示す位置に限られない。ただし、水晶片21の固有振動数に影響を与えないようにする必要があるため、温度センサ310の質量及び取付位置は、励振電極22、23との関係を考慮した上で、固有振動数を考慮して決定すればよい。
【0097】
励振電極22の延伸部22bはインバータ32の出力端に接続され、励振電極23の延伸部23bは可変容量コンデンサ31の入力端に接続される。これにより、励振電極22、23は、対をなして、水晶片21に励振電流を供給するようにされている。
【0098】
また、可変容量コンデンサ31及びインバータ32は、水晶振動子302の発振に基づく発振信号を得るためのループ状の発振回路を形成する。なお、発振信号の発振周波数は、水晶振動子302の固有振動数によって決まる。
【0099】
なお、インバータ32の出力側には、発振回路で得られる発振信号をクロック信号に変換して外部に出力するための出力回路である出力バッファ回路33が接続され、補正回路34には、水晶振動子302の周波数温度特性の逆特性を表すデータを格納するメモリ35が接続されている。
【0100】
なお、図9に示すように、温度検出用の閉回路と、ループ状の発振回路とは電気的に絶縁分離されているため、実施の形態1のように交流遮断用のコイルを配設する必要はない。
【0101】
このような構造の温度補償型水晶発振器300の温度センサ310と励振電極22及び23を回路記号で示すと、図10に示す通りとなる。励振電極23と温度センサ310は絶縁分離されているため、補正回路34を含む温度検出用の閉回路と、可変容量コンデンサ31及びインバータ32を含むループ状の発振回路とは、完全に絶縁分離されている。
【0102】
補正回路34が温度センサ310に電圧を印加すると、補正回路34には、温度センサ310で検出される水晶片21の温度を表す温度信号(電流値)が入力される。補正回路34は、メモリ35内のデータを参照することにより温度センサ310から入力される水晶片21の温度を表す温度信号に応じた値の電圧(補償電圧)を出力する。補正回路34から出力される補償電圧は、水晶片21の温度変化による発振周波数の変動を相殺するように可変容量素子31の静電容量を補正するための電圧値に設定され、可変容量コンデンサ31のpn接合に供給される。これにより、可変容量コンデンサ31の静電容量が制御される。
【0103】
このため、温度センサ310で検出される温度が変化すると、温度変化を表す温度信号が補正回路34に入力される。補正回路34は、温度信号に応じた補償電圧を出力し、これにより、可変容量コンデンサ31の静電容量が調節され、水晶振動子302の発振周波数は、温度変化に対して安定するように制御される。
【0104】
すなわち、可変容量コンデンサ31の静電容量は、温度センサ310から出力される温度信号に基づいてフィードバック制御され、環境温度が変動しても、水晶振動子302の発振周波数が安定するように発振周波数の変動が補償される。これにより、出力バッファ回路33から出力されるクロック信号の周波数は、一定の範囲内に保たれる。
【0105】
以上、実施の形態3によれば、水晶片21の表面に、水晶片21の固有振動数に影響を与えないように、励振電極22、23とは絶縁分離された温度センサ310を形成したので、所望の固有振動数で水晶振動子302を発振させることができる。
【0106】
また、水晶片21の表面に形成した温度センサ310で水晶片21の温度を検出できるので、従来のように熱伝導の遅れによる影響が含まれず、水晶片21の温度を正確に表す温度信号(温度を表す電流値)が得られる。
【0107】
このため、実施の形態3の温度補償型水晶発振器300では、温度センサ310で正確に検出された温度信号に基づいて可変容量コンデンサ31の静電容量を正確に制御することができ、発振信号の発振周波数の変動を正確かつ安定的に補償することができる。
【0108】
このように、実施の形態3の温度補償型水晶発振器300は、水晶片21に配設された温度センサ310により、急激な温度上昇に迅速に対応できるので、特に、パワーアンプ等のように、急激な温度上昇が伴う電子素子の近傍に設置しても、正確かつ安定したクロック信号を出力することができる。
【0109】
このため、特に、携帯電話、カーナビゲーションシステム等のように、設計の自由度が大幅に制約され、高密度実装される電子機器に実装しても、発振周波数を高精度に補償することができる。
【0110】
なお、実施の形態3では、一つの温度センサ310が水晶片21に取り付けられている形態について説明したが、温度センサ310は、複数取り付けられていてもよい。
【0111】
また、実施の形態3では、励振電極22と23が同一構造の形態について説明したが、水晶片21の発振周波数を調整するために、励振電極22と23の構造が異なるようにしてもよい。例えば、温度センサ310が形成される面側の励振電極23が励振電極22よりも質量が軽く、又は面積が小さくなるようにしてもよい。
【0112】
以上、本発明の例示的な実施の形態の温度補償型水晶発振器、温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板、及び温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0113】
以上の実施の形態1乃至3に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)水晶振動子を含む発振回路と、
前記発振回路に直列に挿入される可変容量素子と、
前記水晶振動子に蒸着され、前記水晶振動子の温度に応じて抵抗値が変化する感温回路素子と、
前記感温回路素子に対し通電を行った際の電流値に基づき、前記可変容量素子の容量を補正する補正回路と
を有する、温度補償型水晶発振器。
(付記2)前記感温回路素子は、前記水晶振動子の励振電極の一方と兼用である、付記1に記載の温度補償型水晶発振器。
(付記3)前記感温回路素子には、絶縁層を介して、前記水晶振動子の励振電極の一方が積層される、付記1に記載の温度補償型水晶発振器。
(付記4)
前記感温回路素子は、前記水晶振動子の励振電極とは離間した離間領域に蒸着される、付記1に記載の温度補償型水晶発振器。
(付記5)前記感温回路素子は、前記水晶片の一対の励振電極のうちの一方が配設される面と同一の面に取り付けられる、付記5に記載の温度補償型水晶発振器。
(付記6) 前記感温回路素子はニクロム薄膜である、付記1乃至5のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器。
(付記7)付記1乃至6のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板。
(付記8)付記1乃至6のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器。
【符号の説明】
【0114】
1 筐体
1A 蓋部
3 IC
21 水晶片
22、23 励振電極
22a、23a 電極部
22b、23b 延伸部
31 可変容量コンデンサ
32 インバータ
33 出力バッファ回路
34 補正回路
35 メモリ
50 携帯電話機
60 プリント基板
61 通信回路
100、200、300 温度補償型水晶発振器
102、202、302 水晶振動子
110 兼用電極
110a 電極部
110b、110c 延伸部
111 コイル
210 積層電極
211 検温用電極
212 絶縁層
213 印加用電極
310 温度センサ
310a、310b 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子を含む発振回路と、
前記発振回路に直列に挿入される可変容量素子と、
前記水晶振動子に蒸着され、前記水晶振動子の温度に応じて抵抗値が変化する感温回路素子と、
前記感温回路素子に対し通電を行った際の電流値に基づき、前記可変容量素子の容量を補正する補正回路と
を有する、温度補償型水晶発振器。
【請求項2】
前記感温回路素子は、前記水晶振動子の励振電極の一方と兼用である、請求項1に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項3】
前記感温回路素子には、絶縁層を介して、前記水晶振動子の励振電極の一方が積層される、請求項1に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項4】
前記感温回路素子は、前記水晶振動子の励振電極とは離間した離間領域に蒸着される、請求項1に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器を実装したプリント基板。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器を搭載した電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−258601(P2010−258601A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104326(P2009−104326)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】