説明

湾曲型ホームドア

【課題】プラットホームに容易に設置可能なプラットホームドア装置を提供することを課題とする。
【解決手段】プラットホームに設けられ、鉄道車両の乗降口に対応して出入口を形設するプラットホームドア装置であって、プラットホームの側縁部に沿って並設され、前記側縁部よりも外側において上下方向に開閉する複数のドアと、を備え、前記各ドアは、線路側に向けて凸となる湾曲形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラットホームに設けられ、鉄道車両の乗降口に対応して出入口を形設するプラットホームドア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでプラットホームに設置するドア装置としては、横開きスライド式のものが多く開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、横開きスライド式のドア装置の場合、ドア格納部として固定設置部分が必要となることや、予め開閉位置が決まってしまうため、車両の停止位置のずれや乗車口位置の異なる車両の入線等に対応しづらいという問題がある。この問題に対処したものとして、複数のレールを備えてドアを選択的に動かし、間口をフレキシブルに形成する横開きスライド式のドア装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2に記載のドア装置では、既設のプラットホームに設置するに際してプラットホームの改造コストが高くなりやすい。
【0003】
一方、横開き式ではなく、ドアを上下方向に開閉させるタイプのドア装置が特許文献3に記載されている。このドア装置でも、ドアを選択的に開くことで間口をフレキシブルに形成できる。
【特許文献1】特開平6−239223号公報
【特許文献2】特開2004−196040号公報
【特許文献3】特開2004−268634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3に記載のドア装置は、ドアをプラットホームに形成した凹部に格納させる構造であり、やはり、ドア装置を設置するに際してプラットホームの改造コストが高くなりやすいという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解消するために創作されたものであり、プラットホームに容易に設置可能なプラットホームドア装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、プラットホームに設けられ、鉄道車両の乗降口に対応して出入口を形設するプラットホームドア装置であって、プラットホームの側縁部に沿って並設され、前記側縁部よりも外側において上下方向に開閉する複数のドアと、を備え、前記各ドアは、線路側に向けて凸となる湾曲形状に形成されていることを特徴としている。
【0007】
この構成によれば、本発明に係るホームドアは、湾曲しているため、前記したホームの端から一定程度の距離のところに設置しなければならないというプラットホームに求められる構造上の決まりに反せず、プラットホームの端に設置できるためプラットホームの幅員を確保するとともに、既存プラットホーム上にホームドアを収納するための凹部を形成する等の抜本的改造を必要としない。
【0008】
前記したホームドアは、上昇したときにおいて、その上端がプラットホームの側縁部よりもホーム内側に位置するように構成することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、ホームドアが上昇し、プラットホーム上の安全柵となる閉状態において、乗客がホームドアに接触した際、乗客の足元のスペースを確保しつつ、上体のみ接触することになり、躓いて線路側へ転倒する危険を回避することができる。また、湾曲した形状によって高い位置ほど列車とホームドアとの間隙が広がり、空気の流れを上方に向けられるため、停車しない列車が高速で駅を通過する際に、直立したホームドアと比較して、ホームドアに負荷される風圧を緩和することができる。
【0010】
前記したホームドアは、このホームドアの湾曲形状に沿って回転開閉するように構成することができる。
【0011】
この構成によれば、例えば、ホームドアの湾曲形状が一定の曲率を有するときに、この曲率に合わせてホームドアを上下に回転させることによって、上下移動の際に、移動経路ために占有する厚み方向のスペースを少なくすることができる。さらに、ホームドア回転の回転中心をプラットホーム上面とほぼ同じ高さとすることで、ホームドアがプラットホームの線路側端部近傍を通過する移動経路を超えて列車に近づかないため、ホームドアの移動経路の占有するスペースを確保できる範囲で、プラットホームと列車との間隙を狭くすることができ、プラットホームの抜本的改造を必要としない。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上下開閉式専用の湾曲したホームドアを適用することによって、大規模なホームの改修工事を必要としないフレキシブルホームドアを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1、図2はそれぞれ本発明に係るプラットホームドア装置を線路側から見た場合とプラットホーム側から見た場合の外観斜視図であり、各(a)はドアが全て閉じた状態、各(b)は一部のドアが開いた状態を示している。
【0014】
プラットホームドア装置1は、鉄道車両の乗降口に対応して出入口を形設するものであって、プラットホームPHの側縁部Sに沿って並設され、側縁部Sよりも外側(線路側)において上下方向に開閉する複数のドア2と、ドア2毎に設けられ、プラットホームPHの側縁部Sよりも外側(線路側)において開閉するドア通過用のステップ3と、を有する。ドア2は、上下方向に長尺の矩形状部材であり、ステップ3が上方に回転すると同時に、側縁部Sよりも外側において上下に昇降する構造である。ドア2が上昇して閉じた際、ドア2の上端は概ね成人男子の胸辺りの高さ程度に位置する。開いた状態ではドア2全体が側縁部Sの下方に格納される。符号4は各ドア2の駆動機構(図示せず)等を覆うカバーであり、同機構等の防水、防塵機能等を有するほか、対向プラットホーム上からの視線に対して意匠板としての機能も担う。
【0015】
通常時、ドア2は図1(a)や図2(a)のように全て閉じており、車両が進入してきて停車すると、車両の乗降口に対向したドア2が開く。本実施形態では、1つの乗降口に対し複数のドア2が開く構成である。ドア2の幅寸法は適宜に決められるが、例としては間口寸法1.5メートルの車両の乗降口に対し、4枚程度開いて対応できる寸法とする。
【0016】
図3は車両の乗降口に対応して複数のドア2を開けた場合を示す平面図であり、(a)は車両が正規な位置に停車した場合を示し、このとき4枚のドア2a〜2dが開く。同じ車両が正規な位置から若干ずれて停車し、ドア2a〜2dで対応しきれない場合には、(b)に示すように乗降口に対向する5枚のドア2a〜2eを開くようにする。ドア2の幅寸法(ピッチ)を小さくするほど、乗降口の位置や間口寸法の異なる全ての車両に対し、ドア2の出入り口の間口寸法を乗降口の間口寸法に合わせることができる。
【0017】
本実施形態において、ドア2は線路側に向けて凸となる湾曲形状に形成されている。湾曲形状例としては、経済性や意匠性を考慮して、上端から下端までにわたり一定の曲率半径を有する形状とする。曲率半径の中心位置は、例えばプラットホームPHの面上、或いは面近傍とする。ドア2を湾曲形状とした場合、開閉動作としては直線移動ではなく、湾曲形状に沿って回転開閉する構成とすることが望ましい。つまり、ドア2を一定の曲率半径の形状とした場合には、ドア2をその曲率中心回りに回転開閉させる。これにより、ドア2の移動に要するスペースも小さくて済み、動的意匠も美しいものになる。
【0018】
図4に一定の曲率半径を有したドア2が、その曲率半径で回転開閉する一例を示す。
ドア2は、プラットホームPHの面近傍を中心CPとした一定の曲率半径Rを有している。中心CPの高さ位置は、プラットホームPHの先端の側縁部Sの厚さの範囲にあることが好ましい。また、曲率半径Rは、ドア2がプラットホームPHの側縁部S及びステップ3(図5参照)がせり出した部分に接触しないように、ドア2の厚みも考慮して設定される。
【0019】
そして、図4に示すように、ドア2はこの曲率半径Rを回転半径として中心CP周りを回転し、上下開閉することが好ましい。このように構成することで、ドア2が回転したとき、側縁部Sとドア2の外径部分との距離EXの最大値が小さくなり、ドア2の移動に要するスペースも小さくて済む。こうすることで、ホームドアの移動経路が占有するスペースを確保できる範囲で、プラットホームと列車との間隙を狭くすることができ、プラットホームの抜本的改造を必要としなくなる。
【0020】
図5はドア2が閉じた状態の側面説明図である。ドア2は、最も上昇したときにおいて、その上端がプラットホームPHの側縁部Sよりもホーム内側に位置している。図5には、ドア2の上端と側縁部Sとのホーム幅方向における距離を符号Lで示している。このように、ドア2が上昇したときにおいて、その上端を側縁部Sよりもホーム内側に位置させるレイアウトとすれば、上半身がドア2の上端部で規制されることにより、上半身の側縁部Sから線路側へのはみ出しが防止される。しかも、足元のスペースは側縁部Sまで使えるため、混雑時等において足元が窮屈になることもない。
【0021】
ドア2の一構造例について図6を参照して説明する。なお、以降、ドア2の両面に関してプラットホーム側に臨む面を内面といい、線路側に臨む面を外面という。図6において、(a)は内面側から見たドア2の正面図、(b)は側断面図である。
【0022】
ドア2は、型材から構成される矩形状の枠組み11に、内面パネル12および外面パネル13を取り付けた構造からなる。枠組み11を構成する型材としては、アルミニウム合金の押出し型材が好適である。ドア2の大きさに合わせて枠組み11には適宜に補強用の梁14、15が設けられる。枠組み11に対する内面パネル12、外面パネル13の取り付け態様としては、図6に示すように、枠組み11に形成された溝にパネル縁部を嵌め込む方法の他、ねじ止めや接着剤を用いる方式などが挙げられる。内面パネル12、外面パネル13は、意匠面を構成するものであって、合成樹脂板やガラス板、金属板等から構成され、特に合成樹脂板とする場合にはアクリル樹脂板が好適である。また、無色透明、有色透明の合成樹脂板やガラス板を使用した場合には、線路側に対する視界を確保できる。図6(b)に示すように、外面パネル13はドア2の上端から下端までにわたって取り付けられ、内面パネル12はプラットホーム上に臨む部位にだけ取り付けられる。
【0023】
以上のように、ドア2を、一定形状を呈する板状構造体から構成することで、蛇腹式等の形状が可変するドア構造に比して、製作コストの低減や組み付けの簡略化等が図れ、経済的なプラットホームドア装置1となる。
【0024】
本実施形態において、ドア2は内面パネル12と外面パネル13とで構成された二重構造としている。二重構造でかつ適当な材料を選択することによって、例えば、乗降客がプラットホームPH側からドア2側に倒れこんだ場合であっても、内面パネル12が割れることによって衝撃を吸収し、外面パネル13で乗客が線路に落下することを防止するフェイルセーフ機構を備えることもできる。
また、パネルの外表面に光触媒などの処理をすることによって、常に清浄な状態を維持することも可能となる。
それぞれのパネルは、枠組み11から取り外すことが可能であるため、交換、修理や清掃なども容易となる。
【0025】
図6(a)、(b)において、ドア2の下部における内面側左右には、それぞれ上下方向に延設するドア支持ブラケット19が取り付けられている。各ドア支持ブラケット19の上端周りと下端周りには、ドア2の幅方向を軸方向とする支軸20が形成され、この支軸20にローラ支持ブラケット21が回転可能に取り付けられている。各ローラ支持ブラケット21には、ドア2の幅方向を軸方向とする一対のローラ軸22が形成され、各ローラ軸22にガイドローラ23が回転可能に取り付けられている。つまり、一対のガイドローラ23は、ローラ支持ブラケット21を介して支軸20を中心に一体的に回転可能な構造となっている。
【0026】
図示しない駆動機構は、上下方向に直線移動する駆動スライダ(図示せず)とドア2とを連結し、駆動スライダの直線運動をドア2の回転運動に変換するカム機構(カムピン及びカム溝)とを備えている。そして、ドア2の下部に設けられた梁15の内面側には、ドア2の駆動機構を構成するカムピンを係合させるための長孔37を有する駆動伝達用のブラケット24が取り付けられている。
また、ガイドローラ23は、ドア2が所定の回転軌跡を描くように、ドア2の湾曲形状に対応して湾曲形成されてガイドレール(図示せず)を挟持することで、ドア2の回転開閉をガイドしている。
【0027】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。本発明は、図面に記載したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るプラットホームドア装置を線路側から見た場合の外観斜視図であり、(a)はドアが全て閉じた状態、(b)は一部のドアが開いた状態である。
【図2】本発明に係るプラットホームドア装置をプラットホーム側から見た場合の外観斜視図であり、(a)はドアが全て閉じた状態、(b)は一部のドアが開いた状態である。
【図3】車両の乗降口に対応して複数のドアを開けた場合を示す平面図である。
【図4】一定の曲率半径を有したドアが、その曲率半径で回転開閉する一例を示す側面説明図である。
【図5】ドアが閉じた状態の側面説明図である。
【図6】(a)は内面側から見たドアの正面図、(b)はドアの側断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 プラットホームドア装置
2 ドア
3 ステップ
4 カバー
23 ガイドローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホームに設けられ、鉄道車両の乗降口に対応して出入口を形設するプラットホームドア装置であって、
プラットホームの側縁部に沿って並設され、前記側縁部よりも外側において上下方向に開閉する複数のドアと、を備え、
前記各ドアは、線路側に向けて凸となる湾曲形状に形成されていることを特徴とするプラットホームドア装置。
【請求項2】
前記ドアは、上昇したときにおいて、その上端がプラットホームの側縁部よりもホーム内側に位置していることを特徴とする請求項1に記載のプラットホームドア装置。
【請求項3】
前記ドアは、このドアの湾曲形状に沿って回転開閉することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラットホームドア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−279967(P2008−279967A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127523(P2007−127523)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(390023917)八千代工業株式会社 (186)
【Fターム(参考)】