説明

湿式二段排煙脱硫装置及び湿式二段排煙脱硫装置の運用方法

【課題】ボイラの低負荷運転時においても、排ガス中の煤塵や微量成分の除塵・吸収性能を高く維持でき、ベンチュリスクラバ後流側の脱硫吸収塔に飛散するミスト飛散量の増加を防ぐ湿式二段排煙脱硫装置の提供である。
【解決手段】燃焼装置から排出される排ガス中の硫黄酸化物を吸収する脱硫吸収塔2の排ガス流路の上流側に、排ガス中の煤塵を吸収除去して捕集するスロート部5と該スロート部5により捕集した煤塵を含むミストを除去するミストエリミネータ8とを有するベンチュリスクラバ1を設けた湿式二段排煙脱硫装置とし、ベンチュリスクラバ1を複数台並列に設置し、燃焼装置の運転負荷の低下時には排ガスを導入するベンチュリスクラバ1の運転台数を所定負荷時よりも減らす。ベンチュリスクラバ1を並列に複数設置すること、低負荷時にはその運転台数を減らすことで、低負荷時でもスロート部5の高ガス流速を保ち、高い除塵・吸収性能を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中の有害成分を除去する排ガス処理装置及び該排ガス処理装置の運用方法に係わり、特に、水銀やフッ素化合物などの微量成分を効率よく除去し、脱硫装置の動力を大幅に低減できるアドバンストベンチュリスクラバを備えた湿式二段排煙脱硫装置及び湿式二段排煙脱硫装置の運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染防止のため、排ガス中の硫黄酸化物の除去装置として、湿式排煙脱硫装置が広く実用化されている。そのなかでも、水銀やフッ素化合物などの微量成分を効率よく除去することを目的として、ベンチュリスクラバを脱硫吸収塔の上流側に設置した湿式二段排煙脱硫装置が用いられている。
【0003】
従来の湿式二段排煙脱硫装置の側面図を図3に模式的に示す。また、図4には、図3のB−B’線矢視断面図を示す。この湿式二段排煙脱硫装置は、主にベンチュリスクラバ1及び脱硫吸収塔2から構成されている。
【0004】
火力発電所などのボイラ等の燃焼装置から排出される硫黄酸化物を含む排ガスは脱硫ファン(図示せず)により矢印A方向に入口ダクト3を通ってベンチュリスクラバ1上部の入口4からベンチュリスクラバ1内に導入される。ベンチュリスクラバ1内には流路断面積を絞ったスロート部5が設けられており、排ガスはスロート部5を高流速で通過する。このときに、ベンチュリスクラバ1の内壁面に取り付けられたスプレノズル6から吸収液が噴霧され、排ガスと効率的に接触することにより、排ガス中の煤塵の除塵とともに水銀やフッ素化合物などの微量成分が吸収除去される。噴霧された吸収液は循環タンク9に落下して集積され、循環ポンプ10によってベンチュリスクラバ1のスプレノズル6に供給される。
【0005】
スプレノズル6からの噴射によって微粒化された吸収液の中で、液滴径の小さいもの(以下、ミストという)は排ガス流れに同伴される。このミストは排ガス中に含まれる水銀を含んでいるため、排ガス流路の後流側に設置された脱硫吸収塔2への流入を防ぐ必要がある。また、このミストは排ガス中の硫黄酸化物やフッ素を吸収して強い酸性となっているため、脱硫吸収塔2で使用されるアルカリ性の吸収液への混入を防ぐ必要がある。このため、ベンチュリスクラバ1下方の出口7から排出されたガスは、ベンチュリスクラバダクト17内に設けられたミストエリミネータ8によりミストを捕集除去された後、脱硫吸収塔入口16から脱硫吸収塔2へ導入される。ミストエリミネータ8は慣性集塵方式であるため、ガス流速が遅すぎても速すぎても、ミストの捕集効率が低下する。通常は、最適なガス流速4〜7m/sの範囲で使用される。
【0006】
脱硫吸収塔2では、脱硫吸収液循環ポンプ11から送られる炭酸カルシウムを含んだ吸収液がスプレノズル12から噴射され、吸収液と排ガスとの気液接触により、2酸化硫黄(SO2)が選択的に吸収、除去される。排ガス中のSO2を吸収した吸収液は、一旦循環タンク13に溜まり、循環タンク13内に供給される空気中の酸素により酸化され、硫酸カルシウム(石膏)を生成する。炭酸カルシウム及び石膏が共存する循環タンク13内の吸収液の一部は、吸収液循環ポンプ11によって再びスプレノズル12に送られて、一部は図示していない廃液処理・石膏回収系へと送られる。脱硫吸収塔2内でも、吸収液の噴霧によりミストが発生する。このミストは吸収したSO2を含んでいるため、脱硫吸収塔2上部の出口ダクト18に設けられたミストエリミネータ14によって捕集、除去される。
【0007】
この脱硫吸収塔2では、元々排ガス中のSO2だけでなく、水銀(特に塩化水銀などの分子状水銀)やフッ素化合物(特にフッ化水素)などの微量成分も吸収除去することが可能である。特に塩化水銀やフッ化水素などは水への吸収性が高いため、SO2と同等以上の除去率を得ることが可能である。しかし、諸外国における厳しい排出規制に対応するためには、水銀やフッ素化合物などの排ガス中の微量成分を95〜99.9%程度の高い除去で除くことが求められ、そのためにはSO2の除去に要する吸収液の循環液量以上の多大な循環液量が必要となり、排煙脱硫装置の動力を大幅に増加させることになる。
【0008】
この点を改善するために、高ガス流速のスロート部5を持つベンチュリスクラバ1を脱硫吸収塔2の排ガス流路の上流側に設置することにより、ベンチュリスクラバ1のスプレノズル6から噴射される吸収液と排ガスとの気液接触における慣性衝突による除塵だけでなく、水銀やフッ素化合物などの排ガス中の微量成分の吸収除去を可能としている。このようにベンチュリスクラバ1を設けることで、脱硫吸収塔2の吸収液の循環量を大幅に増加することを防止でき、吸収液循環ポンプ11の動力の増大を最小限に抑えることが可能となる。
【0009】
下記特許文献1には、脱炭吹錬用転炉排ガス処理設備において、脱燐操業時には2次集塵器の複数基設けられた可変スロート型ベンチュリスクラバである炉内ダンパの少なくとも一基の炉内ダンパを閉止して、閉止されていない炉内ダンパを制御することで転炉からのガスを未燃焼のまま回収したり、脱炭吹錬時には2基のダンパを同一開度にして炉内圧を制御する技術が開示されている。
【0010】
そして、下記特許文献2には、流動触媒分解システムの再生部において生成する混合ガスから固体粒状物を除去する場合にも、COボイラー(COをCO2に変える炉のような燃焼域)と脱硫装置(充填塔)との間にベンチュリスクラバを設置して、ベンチュリスクラバにおける洗浄液のpHをコントロールする技術が開示されている。
【0011】
また、ベンチュリスクラバによる微量成分の吸収除去性能をより高めるために、ベンチュリスクラバを排ガス流路に2段連続的に(直列に)配置して、それぞれ1次ベンチュリスクラバ、2次ベンチュリスクラバとし、2次ベンチュリスクラバで使用された洗浄水を1次ベンチュリスクラバに供給する洗浄水として利用する方法が下記特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開2003−328028号公報
【特許文献2】特開昭61−164625号公報
【特許文献3】特開昭60−48114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記従来技術によれば、ベンチュリスクラバ1のスロート部5におけるガス流速を速く保つことにより、高い除塵・吸収性能が維持される。しかし、例えば夜間など、ボイラ側が低負荷運転を行っている場合は排ガス量が減少するため、スロート部5におけるガス流速が低下し、ベンチュリスクラバ1における除塵・吸収性能が低下するという問題があった。この問題に対し、ベンチュリスクラバ1内に可動式の仕切り板等を設けて、スロート部5の流路断面積を負荷に応じて増減させるという解決策が考えられる。
【0013】
例えば、特許文献1によれば、各ベンチュリスクラバのスロート部にダンパを設けて当該ダンパの開度を個別に制御する構成が記載されている。しかし、吸収液は前述のように強い酸性となっているため、ベンチュリスクラバ1内部や仕切り板、仕切り板の可動装置などの材料の腐食が激しくなる。このような腐食防止のためには吸収液のpHを高くすることが考えられるが、吸収液のpHを上昇させると吸収液から水銀が再放出してしまうため、吸収液の中和を行うこともできない。また、上記可動式のような複雑な構造はコストがかかったり、スロート部5の流路断面積を調整、制御するのも簡単ではなく、あまり良い解決方法とは言えない。また、スロート部5においては、ベンチュリスクラバ1の内壁面に設置されたスプレノズル6から吸収液を液滴として噴霧するが、スロート部5の中央部に液滴密度の低い領域が生じやすく、排ガスの吹き抜けが起こることにより、排ガス中の微量成分の除去性能が低下するという問題もあった。
【0014】
更に、ボイラの負荷低下により排ガス量が減少すると、ベンチュリスクラバ出口7における排ガスの流速も遅くなる。このように排ガスの流速が遅くなると、慣性集塵方式のミストエリミネータ8によるミストの捕集効率が低下し、水銀を含む強酸性ミストは排ガス流路の後流側の脱硫吸収塔2に飛散して、飛散量が増加することも大きな問題である。
【0015】
また、特許文献2に記載された、ベンチュリスクラバを2台直列に接続した構成でも、ボイラの負荷低下により排ガス量が減少すると、ベンチュリスクラバ出口における排ガス流速が遅くなるという上記問題は解決されない。
【0016】
本発明の課題は、ボイラなどの燃焼装置の低負荷運転時においてもベンチュリスクラバのスロート部におけるガス流速を高速に保ち、かつ液滴密度の低い領域をなくすことにより、排ガス中の煤塵や微量成分など除塵・吸収性能を高く維持でき、更にベンチュリスクラバの後流側の脱硫吸収塔に飛散するミストの飛散量の増加を防ぐ湿式二段排煙脱硫装置とその運用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記本発明の課題は、排ガス中のフッ素化合物、水銀、硫酸ミストなどの微量成分を除去するために、ガスの吸収除去と慣性衝突除去の機能を併せ持つベンチュリスクラバを脱硫吸収塔の排ガス流路の上流側に複数台並列に設置し、ボイラなどの燃焼装置の運転負荷に応じて排ガスを導入するベンチュリスクラバの運転台数を増減させることにより、各ベンチュリスクラバのスロート部のガス流速を高速に保つことで達成される。具体的には以下の方法により達成される。
【0018】
請求項1記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入し、該排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより、前記排ガス中に含まれる硫黄酸化物を吸収、除去する脱硫吸収塔と、該脱硫吸収塔の排ガス流路の上流側に設けられ、排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより排ガス中の煤塵を吸収除去して捕集するスロート部と該スロート部により捕集した煤塵を含むミストを除去するミストエリミネータとを有するベンチュリスクラバとを備えた湿式二段排煙脱硫装置において、前記ベンチュリスクラバを排ガスの流れ方向に対して複数台並列に設置し、各ベンチュリスクラバの排ガス流路上流側にそれぞれダンパを設け、燃焼装置の運転負荷が所定負荷よりも低下した負荷低下時に前記ダンパを操作して排ガスを導入するベンチュリスクラバの運転台数を前記所定負荷時よりも減らすとともに排ガスを導入しないベンチュリスクラバの吸収液噴霧を停止する制御をする制御装置を設けた湿式二段排煙脱硫装置である。
【0019】
請求項2記載の発明は、前記複数のベンチュリスクラバから脱硫吸収塔に導入される排ガスの導入方向が複数方向になるように互いに独立させて脱硫吸収塔の排ガス導入口に接続し、更に燃焼装置から排出される排ガスを分岐して各々のベンチュリスクラバへ導入する複数のダクトと、該各ダクトの排ガスの分岐点と各ベンチュリスクラバの排ガス導入口との間にそれぞれ前記ダンパとを設けた湿式二段排煙脱硫装置であって、前記制御装置は燃焼装置が100%の負荷で運転中の場合は全てのダンパを開け、負荷の低下に伴い任意のダンパを順次閉止するように制御する請求項1記載の湿式二段排煙脱硫装置である。
【0020】
請求項3記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入し、該排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより、前記排ガス中に含まれる硫黄酸化物を吸収、除去する脱硫吸収塔と、該脱硫吸収塔の排ガス流路の上流側に設けられ、排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより排ガス中の煤塵を吸収除去して捕集するスロート部と該スロート部により捕集した煤塵を含むミストを除去するミストエリミネータとを有するベンチュリスクラバとを備え、前記ベンチュリスクラバを排ガスの流れ方向に対して複数台並列に設置した湿式二段排煙脱硫装置の運用方法であって、燃焼装置の運転負荷が所定負荷よりも低下した負荷低下時に排ガスを導入するベンチュリスクラバの運転台数を前記所定負荷時よりも減らすとともに排ガスを導入しないベンチュリスクラバの吸収液噴霧を停止する湿式二段排煙脱硫装置の運用方法である。
【0021】
請求項4記載の発明は、前記複数のベンチュリスクラバから脱硫吸収塔に導入される排ガスの導入方向が複数方向になるように互いに独立させて脱硫吸収塔の排ガス導入口に接続し、更に燃焼装置から排出される排ガスを分岐して各々のベンチュリスクラバへ導入する複数のダクトと、該各ダクトの排ガスの分岐点と各ベンチュリスクラバの排ガス導入口との間にそれぞれダンパとを設けた湿式二段排煙脱硫装置の運用方法であって、燃焼装置が100%の負荷で運転中は全てのダンパを開け、負荷の低下に伴い任意のダンパを順次閉止する請求項3記載の湿式二段排煙脱硫装置の運用方法である。
【0022】
(作用)
本発明によると、ボイラなどの燃焼装置の低負荷運転時でも、各ベンチュリスクラバのスロート部のガス流速を高速に保ち、排ガス中の煤塵や、フッ素化合物、水銀、硫酸ミストなどの微量成分の高い除塵・吸収性能を維持することができる。また、排ガスを導入しないベンチュリスクラバにおいては吸収液の噴霧が不要となり、吸収液の使用量の低減や廃液量の低減などが可能となる。
【0023】
具体的には、請求項1及び請求項3記載の発明によれば、排ガスの流れ方向に対してベンチュリスクラバを複数台並列に設置することで、一度に効率的に排ガス中の微量成分の除塵・吸収が可能となり、排ガス中の微量成分の除塵・吸収効率が向上する。そして、燃焼装置の負荷低下時にはベンチュリスクラバの運転台数をダンパの操作のみで所定負荷時よりも容易に減らすことができる。このように燃焼装置の負荷低下時にはベンチュリスクラバの運転台数を減らすことで、所定負荷時と比べても運転中のベンチュリスクラバのスロート部のガス流速を高速に保つことができる。また、排ガスを導入しないベンチュリスクラバの吸収液噴霧を停止することで、更なるベンチュリスクラバにおける吸収液の使用量、廃液量の低減が図れる。
【0024】
排ガスの流れ方向に対してベンチュリスクラバを複数台並列に配置することにより、個々のベンチュリスクラバを従来のベンチュリスクラバを直列に配置する場合に比べて小型化して一塔当たりのサイズを従来のベンチュリスクラバよりも全体的に小さくするので、各ベンチュリスクラバ内に設けられたスロート部の流路断面積が狭くなるため、排ガスの吹き抜けが防止されて、更に排ガス中の微量成分の除塵・吸収効率が向上する。そして、燃焼装置の低負荷時でもスロート部を通過する排ガスの流速を高速に保てるため、ミストエリミネータに適したガス流速を維持できる。
【0025】
そして、ベンチュリスクラバに設けられる吸収液噴霧用の、例えばスプレノズルなどのサイズも必然的に小さくなるため、スプレノズル1本あたりの噴霧動力が低減されて、ベンチュリスクラバの設置台数が増えた分の噴霧動力の増加をカバーすることができる。すなわち、ベンチュリスクラバの設置台数が増えても、噴霧動力の増加には繋がらない。
【0026】
また、各ベンチュリスクラバ出口の断面積も小さくなるためベンチュリスクラバ出口のガス流速も低下せず、ミストエリミネータの捕集効率も維持でき、ベンチュリスクラバの排ガス流路の後流側に設けられた脱硫吸収塔に水銀含有強酸性ミストが飛散することを抑制できる。
【0027】
また、各ベンチュリスクラバのサイズを従来のものよりも小さくすると、ベンチュリスクラバの塔高が全体的に低くなるので、ベンチュリスクラバ内のスプレノズルなどの噴霧動力の低減につながる。したがって、燃焼装置の運転におけるランニングコストの削減を図ることができる。
【0028】
また、請求項2及び請求項4記載記載の発明によれば、上記請求項1及び請求項3記載の発明の上記作用に加えて、各ベンチュリスクラバからの脱硫吸収塔の排ガス導入部を複数設け、排ガスの導入方向を複数方向にすることで、燃焼装置の負荷が高い場合に脱硫吸収塔内における排ガスの偏流が減少し、脱硫吸収塔内での脱硫性能が向上する。
【発明の効果】
【0029】
請求項1及び請求項3記載の発明によれば、ベンチュリスクラバを脱硫吸収塔の排ガス流路の上流側に排ガスの流れ方向に対して複数台並列に設置することで、一度に効率的に排ガス中の微量成分の除塵・吸収が可能となる。そして、燃焼装置の負荷に応じて排ガスを導入するベンチュリスクラバの運転台数を増減させることにより、燃焼装置の低負荷時においても、運転中のベンチュリスクラバ内に設けられたスロート部のガス流速を高速に保ち、排ガス中の煤塵や、フッ素化合物、水銀、硫酸ミストなどの微量成分の高い除塵・吸収性能を維持することができる。また、排ガスを導入しないベンチュリスクラバの吸収液噴霧を停止することで、吸収液の使用量や廃液量の低減が図れる。
【0030】
また、請求項2及び請求項4記載の発明によれば、上記請求項1及び請求項3記載の発明の効果に加えて、各ベンチュリスクラバからの脱硫吸収塔の排ガス導入部を複数設け、排ガスの導入方向を複数方向にすることで、燃焼装置の負荷が高い場合に脱硫吸収塔内における排ガスの偏流が減少するため、脱硫吸収塔内での脱硫性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1には、本発明の一実施形態である湿式二段排煙脱硫装置の側面を模式的に示した図を示し、図2には図1のA−A’線矢視断面図を示す。なお、図1の湿式二段排煙脱硫装置において、図3の湿式二段排煙脱硫装置と同じ符号の部材の説明は一部省略している。なお、図1は、脱硫吸収塔の排ガス流路の上流両側に従来のベンチュリスクラバの50%容量のベンチュリスクラバを1台づつ並列に設置した例である。
【0032】
本実施形態では、二塔の小型ベンチュリスクラバ1a,1bを用いており、脱硫吸収塔2の両側に一塔づつ設置している。なお、図1中、向かって左側のベンチュリスクラバをa塔1a、右側のベンチュリスクラバをb塔1bと言う。これらベンチュリスクラバa塔1a,ベンチュリスクラバb塔1bの吸収液の循環タンク9a,9b、循環ポンプ10a,10bは各塔用に専用のものを設置する。
【0033】
ボイラからの排ガスは、各ベンチュリスクラバa塔1a,b塔1bに導入される前の排ガス流路において分割された後、各入口ダクト3a,3bからベンチュリスクラバa塔1a、ベンチュリスクラバb塔1bの両方のベンチュリスクラバ1a,1bへ導入される。ベンチュリスクラバ1a,1bの入口4a,4b付近には各々排ガスダンパ15a,15bを設置し、必要に応じて開閉することで流入する排ガスを通過又は遮断できるようになっている。
【0034】
各ベンチュリスクラバa塔1a,b塔1bのスロート部の断面積は、合計すると従来の100%容量のベンチュリスクラバ一塔分のスロート部の断面積と同等であり、従来のものと同量の排ガスを十分処理可能であり、ボイラの状態に応じて種々の使用方法が可能となる。
【0035】
そして、各ベンチュリスクラバa塔1a,b塔1bの出口7a,7bから脱硫吸収塔2の入口16a,16bまでのダクト17a,17b内にミストエリミネータ8a,8bを設置する。
【0036】
ボイラが100%負荷で運転中の場合は各ベンチュリスクラバ1a,1bの排ガスダンパ15a,15bをともに開け、両ベンチュリスクラバ1a,1bのスプレノズル6a,6bに吸収液を供給するが、夜間などのボイラの運転負荷が半減するような場合には、ベンチュリスクラバ1a,1bのうち片方のベンチュリスクラバ1a(1b)の排ガスダンパ15a(15b)を閉止する。
【0037】
例えば図示しない制御装置により、ベンチュリスクラバb塔1bの排ガスダンパ15bを閉止してベンチュリスクラバb塔1bに流入する排ガスを遮断すると同時にベンチュリスクラバb塔1bのスプレノズル6bへ吸収液を供給しているb塔循環ポンプ10bを停止する制御を行う。排ガスダンパ15a(15b)の制御は単に開放又は閉止するのみであり、上述したスロート部における可動式の仕切り板などの制御に比べれば精密な制御を必要としないため簡単、便利であり、複雑な構造とはならない。
【0038】
そして、このような湿式二段排煙脱硫装置の運用により、ボイラの負荷低下に伴ってボイラから発生する排ガス量が減少しても、従来の一塔分のベンチュリスクラバに流入する排ガス量に比べてベンチュリスクラバa塔1aに流入する排ガス量は減少しないため、すなわちボイラが100%負荷で運転中の場合と比べても、ベンチュリスクラバa塔1aのスロート部5aのガス流速は高速状態に保たれ、排ガス中のフッ素化合物、水銀、硫酸ミストなどの微量成分の除塵性能・吸収性能を高い状態に維持することができる。したがって、脱硫吸収塔2へ流入する水銀量を少なくできるため、ベンチュリスクラバa塔1aの排ガス流路の後流側の脱硫吸収塔2における水銀の再放出量低減にも寄与できる。
【0039】
また、このようにベンチュリスクラバa塔1aに流入する排ガス量は減少しないのでベンチュリスクラバa塔出口7aの排ガス流速も低下しないため、ミストエリミネータ8aによる液滴の捕集効率が高い状態で維持される。したがって、ベンチュリスクラバa塔1aの排ガス流路の後流側の脱硫吸収塔2へ飛散するミストの飛散量が増加することを抑制できる。更に、ボイラの低負荷運転時に必要な台数のみのベンチュリスクラバ1a,1bの循環ポンプ10a,10bなどを稼動させることから、循環ポンプ10a,10bが稼動していないベンチュリスクラバ1a,1bにおける吸収液の噴霧が不要となり、吸収液の使用量の低減や廃液量の低減、及び循環ポンプ10a,10bの動力の低減などが可能となる。したがって、ボイラの運転におけるランニングコストの削減を図ることができる。
【0040】
また、一塔あたりのサイズが前述の従来のベンチュリスクラバより小さい小型のベンチュリスクラバ1a,1bを用いることの利点として、各ベンチュリスクラバ1a,1bのスロート部5a,5bの流路断面積が狭くなるため、スプレノズル6a,6bから噴射される吸収液の液滴密度を各ベンチュリスクラバ1a,1bのスロート部5a,5b全体で高くすることができる。したがって、スロート部5a,5bを通過する排ガスの吹き抜けが防止され、排ガス中の微量成分の除塵・吸収効率が向上する。
【0041】
また、従来のものと比べて小型のベンチュリスクラバ1a,1bでは、設置されるスプレノズル6a,6bも従来のものと比べて小さくなるため、スプレノズル6a,6b1本あたりの噴霧動力が低減されて、ベンチュリスクラバ1a,1bの設置台数が増えた分の噴霧動力の増加をカバーすることができる。すなわち、ベンチュリスクラバ1a,1bの設置台数が増えても、噴霧動力の増加には繋がらない。
【0042】
また、ベンチュリスクラバ1a,1bの塔高が低くなることも、ベンチュリスクラバ1a,1b内における吸収液の噴霧動力の低減につながる。更に、ベンチュリスクラバ出口7a,7bのダクト17a,17bの断面積も小さくなることから、ボイラの低負荷運転時でもミストエリミネータ8a,8bに適したガス流速を維持できる。更に、ベンチュリスクラバ出口7a,7bのダクト17a,17bの上下方向の幅が狭くなることから、その分、脱硫吸収塔2の塔高も低くできる。したがって、脱硫吸収塔2の吸収液の噴霧動力の低減にもつながる。
【0043】
更に、ボイラの低負荷運転時にベンチュリスクラバa塔1a、b塔1bのどちらを停止するかを任意に決めることができるため、ボイラの低負荷運転時に停止している側のベンチュリスクラバ1a(1b)について、排ガス中の酸性成分を含んだ酸性吸収液による腐食等に対応した部品の交換など、ボイラ側の通常運転を妨げることなくメンテナンスを実施することができる。
【0044】
なお、ボイラの運転負荷の低下率が小さい場合は、ボイラから排出される排ガス量はボイラの運転負荷に応じて減少し、排ガス量に対する噴霧吸収液量の割合が増加するため、排ガスダンパ15a,15bを閉じずにベンチュリスクラバ1a,1bを二塔とも稼動(運転)させても排ガス中の微量成分の除塵・吸収性能の低下は回避できる。
【0045】
また、二塔のベンチュリスクラバ1a,1bの容量比率は、1:1に限定されることはなく、ボイラ側で通常実施される負荷の低下率に合わせて、比率を変更してもよい。また、ベンチュリスクラバ1a,1bの設置台数は二塔に限定されることはなく、三塔以上とし、各ベンチュリスクラバ1a,1b,…の入口4a,4b,…に排ガスダンパ15a,15b,…を設け、ボイラの運転負荷に応じて稼動(運転)させるベンチュリスクラバ1a,1b,…の数を変化させてもよい。
【0046】
例えば、制御装置によって、ボイラが100%の負荷で運転中の場合は全ての排ガスダンパ15a,15b,…を開けて、ボイラ負荷の低下に伴い任意の排ガスダンパ15a,15b,…を順次閉止するように制御しても良い。
【0047】
ベンチュリスクラバ1a,1bを複数用いることは、脱硫吸収塔2の性能向上にも貢献する。すなわち、脱硫吸収塔2に導入される排ガスの入口部が複数になることにより、排ガスの導入方向を複数方向にすることができ、ボイラの運転負荷が高い場合に脱硫吸収塔2内において排ガスの偏流が減少するため、排ガスの脱硫性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
湿式排煙脱硫装置などの排ガスの除塵、吸収を高める技術として利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態である湿式二段排煙脱硫装置の側面を模式的に示した図である。
【図2】図1のA−A’線矢視断面図である。
【図3】従来の湿式二段排煙脱硫装置の側面を模式的に示した図である。
【図4】図3のB−B’線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 ベンチュリスクラバ
2 脱硫吸収塔
3 ベンチュリスクラバ入口ダクト
4 ベンチュリスクラバ入口
5 ベンチュリスクラバスロート部
6 ベンチュリスクラバスプレノズル
7 ベンチュリスクラバ出口
8 ミストエリミネータ
9 ベンチュリスクラバ循環タンク
10 ベンチュリスクラバ循環ポンプ
11 脱硫吸収塔循環ポンプ
12 脱硫吸収塔スプレノズル
13 脱硫吸収塔循環タンク
14 脱硫吸収塔ミストエリミネータ
15a,15b ベンチュリスクラバ排ガスダンパ
16 脱硫吸収塔の入口
17 ベンチュリスクラバダクト
18 脱硫吸収塔出口ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入し、該排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより、前記排ガス中に含まれる硫黄酸化物を吸収、除去する脱硫吸収塔と、該脱硫吸収塔の排ガス流路の上流側に設けられ、排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより排ガス中の煤塵を吸収除去して捕集するスロート部と該スロート部により捕集した煤塵を含むミストを除去するミストエリミネータとを有するベンチュリスクラバとを備えた湿式二段排煙脱硫装置において、
前記ベンチュリスクラバを排ガスの流れ方向に対して複数台並列に設置し、各ベンチュリスクラバの排ガス流路上流側にそれぞれダンパを設け、燃焼装置の運転負荷が所定負荷よりも低下した負荷低下時に前記ダンパを操作して排ガスを導入するベンチュリスクラバの運転台数を前記所定負荷時よりも減らすとともに排ガスを導入しないベンチュリスクラバの吸収液噴霧を停止する制御をする制御装置を設けたことを特徴とする湿式二段排煙脱硫装置。
【請求項2】
前記複数のベンチュリスクラバから脱硫吸収塔に導入される排ガスの導入方向が複数方向になるように互いに独立させて脱硫吸収塔の排ガス導入口に接続し、更に燃焼装置から排出される排ガスを分岐して各々のベンチュリスクラバへ導入する複数のダクトと、該各ダクトの排ガスの分岐点と各ベンチュリスクラバの排ガス導入口との間にそれぞれ前記ダンパとを設けた湿式二段排煙脱硫装置であって、
前記制御装置は燃焼装置が100%の負荷で運転中の場合は全てのダンパを開け、負荷の低下に伴い任意のダンパを順次閉止するように制御することを特徴とする請求項1記載の湿式二段排煙脱硫装置。
【請求項3】
ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入し、該排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより、前記排ガス中に含まれる硫黄酸化物を吸収、除去する脱硫吸収塔と、該脱硫吸収塔の排ガス流路の上流側に設けられ、排ガスに吸収液を噴霧して気液接触させることにより排ガス中の煤塵を吸収除去して捕集するスロート部と該スロート部により捕集した煤塵を含むミストを除去するミストエリミネータとを有するベンチュリスクラバとを備え、前記ベンチュリスクラバを排ガスの流れ方向に対して複数台並列に設置した湿式二段排煙脱硫装置の運用方法であって、
燃焼装置の運転負荷が所定負荷よりも低下した負荷低下時に排ガスを導入するベンチュリスクラバの運転台数を前記所定負荷時よりも減らすとともに排ガスを導入しないベンチュリスクラバの吸収液噴霧を停止することを特徴とする湿式二段排煙脱硫装置の運用方法。
【請求項4】
前記複数のベンチュリスクラバから脱硫吸収塔に導入される排ガスの導入方向が複数方向になるように互いに独立させて脱硫吸収塔の排ガス導入口に接続し、更に燃焼装置から排出される排ガスを分岐して各々のベンチュリスクラバへ導入する複数のダクトと、該各ダクトの排ガスの分岐点と各ベンチュリスクラバの排ガス導入口との間にそれぞれダンパとを設けた湿式二段排煙脱硫装置の運用方法であって、
燃焼装置が100%の負荷で運転中は全てのダンパを開け、負荷の低下に伴い任意のダンパを順次閉止することを特徴とする請求項3記載の湿式二段排煙脱硫装置の運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−240908(P2009−240908A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90023(P2008−90023)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】