説明

湿式分散または粉砕方法及びこれに用いる湿式媒体分散機

【課題】処理材料(ミルベース)と分散媒体(ビーズ)をベッセル内で攪拌して固体粒子を分散、粉砕する装置を用いて、固体粒子を微粒子化するようにした装置において、分散時間を短縮できるようにする。
【解決手段】ベッセル2内には、処理材料と分散媒体を攪拌するためのローター4がある。このベッセルには分散媒体と処理材料を分離して処理材料のみを通過させための媒体分離機構が設けられている。この媒体分離機構と処理材料の出口の間には、媒体分離機構に向けて超音波振動子を設けられている。上記ローターは周速1〜20m/sec、好ましくは12〜15m/secで回転される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機顔料、無機顔料等の固体粒子が液中に懸濁している固/液スラリー溶液等を、超音波照射装置を備えた湿式媒体分散機により微粒子化できるようにした湿式分散または粉砕方法及びこれに用いる湿式媒体分散機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗料その他の各種製品の製造を行う化学工業において、有機顔料、無機顔料等の固体粒子が液中に懸濁している固/液スラリー溶液等の処理材料を湿式分散または粉砕するには、前処理(プレミキシング)で攪拌した処理材料を湿式媒体分散機に供給して分散または粉砕している。この装置はローターを回転して分散媒体(ビーズ)とともに処理材料を攪拌し、固体粒子を微粒子化して液中に分散または粉砕する処理を行う。この処理の際、通常の装置では、所望粒度に微粒子化するまでの分散時間が長くかかり、ビーズやローター等の部材の摩耗によるコンタミで製品品質の低下が見られ、固/液スラリー溶液が安定しないこともあった。また、湿式媒体分散機内にはセラミックビーズ等の分散媒体を処理材料から分離するためのスクリーン等の媒体分離装置が設けられているが、この分離スクリーンが目詰まりし易く、作業能率低下の原因の一つとなっていた。メジア(ビーズ)を用いたメジアミル(湿式媒体分散機)と超音波照射を組み合わせた顔料分散装置も知られている(例えば特許文献1参照)。この装置は、メディアミルと容器を管で連結して分散処理された固体顔料と液媒体の混合物を循環させ、この容器内を減圧するとともに超音波発振機構を設けて容器内の混合物に超音波照射をしている。しかし、そのような装置、方法で用いる超音波発振機構はメディアミルによって分散された分散液の沈降防止の目的で超音波を照射しているのであり、分散パス回数を減らして分散時間を短縮する目的で超音波発振機構を用いているのではない。
【特許文献1】特開2000−351916号公報(請求項7、〔0029〕、〔0049〕図面)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の解決課題は、上記のように有機顔料、無機顔料等の固体粒子を含む固/液スラリー溶液等の処理材料を分散処理等するに際し、処理時間を従来の処理方法・装置より短縮し、処理材料が分散機を通過する間に湿式粉砕された材料の新界面の濡れを促進して安定した固/液スラリー溶液等にすることができ、また分散媒体分離機構に使用している分離スクリーン等の目詰まりをなくし、作業効率のよい湿式分散または粉砕方法及びこれに用いる湿式媒体分散機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、ベッセル内に設けたローターを回転して固体粒子を液体中に混合した処理材料を分散媒体とともに攪拌し、上記固体粒子を微粉砕し液体中に分散する湿式媒体分散機において、上記ローターの周速を1〜20m/secとするとともに分散媒体が接触しない位置に設けた超音波振動子から処理材料に超音波を照射することを特徴とする湿式分散または粉砕方法が提供され、さらに好ましくは上記ローターの周速が12〜15m/secである上記湿式分散または粉砕方法が提供され、上記課題が解決される。なお、本発明において、上記ローターとは、略円筒体型、ディスク型、ピン型、これらの組み合わせ型等の処理材料と分散媒体を攪拌するための種々の回転体を含むものである。
【0005】
また、本発明によれば、上記湿式分散または粉砕方法に使用する湿式媒体分散機であって、処理材料の入口と分散媒体を処理媒体から分離する媒体分離機構と処理材料の出口を有し、超音波振動子は上記媒体分離機構と出口の間に設けられ、好ましくは上記超音波振動子は媒体分離機構に向けて設けられ、合金又はセラミック材料で形成されている湿式媒体分散機が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上記のように構成され、固体粒子を液体中に混合した処理材料をベッセル内に供給し、ローターを回転して分散媒体とともに攪拌し、上記固体粒子を微粉砕し液体中に分散する湿式媒体分散機において、分散媒体が接触しない位置に設けた超音波振動子から攪拌中に超音波を照射して処理材料を湿式分散または粉砕するようにしたから、湿式分散された材料の新界面の濡れは、せん断(ズリ)作用受けない超音波照射による細かい気泡(キャビテーション)の破壊時の衝撃波で効率よく促進され、再凝縮を防ぐことができ、湿式媒体分散機による分散時間が短縮され、貯蔵安定性が良くなる。さらに、超音波振動子を分離スクリーン側に向けて取付けることで、媒体分離機構が分離スクリーンである場合には分離スクリーンの目詰まりをなくし、ギャップセパレーション構造の場合にも目詰まりを防止することができる。また、超音波振動子が分散媒体に接しないから、分散媒体による超音波振動子の摩耗が防止され、コンタミを少なくすることができる。
【0007】
また、ローターの周速を1〜20m/secとしたから、処理効率が向上し、μmオーダーの一般的な粒径の粉体や粒体を効率よく分散、粉砕することができ、分散パス回数を減らし、分散時間を短縮できる。特に、ローターの周速12〜15m/secの付近は、分散性と処理材料温度制限の変曲点であるから、このようなローター周速にすると、分散性に優れ、処理材料の発熱も制限温度以下に抑えることができ、一層好ましく、生産性をアップすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は種々の湿式媒体分散機(ビーズミル、メディアミル、ビーズ分散機等)に適用することができるが、図1は実施例の一例を示している。湿式媒体分散機1はベッセル2と、該ベッセル2内で駆動軸3により回転されるローター4を有し、該ベッセル2内にはビーズ供給口5から供給された所定量の分散媒体(ビーズ)が収納され、固体粒子と液体の混合物である処理材料(ミルベース、スラリー)がミルベース供給口6からベッセル2内に供給される。
【0009】
上記ローター4は略筒状に形成され、表面は実質的に平滑面に形成してあるが、分散媒体に運動を与えるよう適宜形状の突起、例えば特公平4−70050号公報に示されているようなベッセル内で処理材料を前進させたり、後退させたりしてほぼ栓流状(プラグフロー状)に流動させることができるような案内メンバーを設けてもよい。なお、ローターには、内面から外面に分散媒体が循環運動するようローター開口7が適所に設けられている。
【0010】
上記ローター4の内面にはステーター8が形成され、該ステーター8の適宜位置には分散媒体を分離して処理材料のみを流出させるようスクリーン9等の媒体分離機構を有するステーター開口10が形成され、該ステーター開口10はミルベース出口11に通じている。そして供給口6から入ったスラリーは略栓流状に流動しながら分散処理され、媒体分離機構9を通って出口11から流出する。
【0011】
スラリーが媒体分離機構のスクリーン(隙間)を通過し出口へ出る前の溜まりのスペース12中には、超音波振動子13が設けられている。この超音波振動子13は、スペースの大きさに応じて複数個設けることができ、好ましくは上記媒体分離機構のスクリーンに向けて配置されている。また、合金又はセラミック材料等で形成することが好ましく、特にコンタミを嫌う処理材料のときはセラミックが望ましい。超音波振動子の振動数は15KHz〜30KHz、好ましくは約20KHzとし、その振幅は5μm〜50μmとするのがよい。
【0012】
超音波振動子は、湿式媒体分散機の構造に応じて適宜の位置に設けることができる。例えば、実開平2−8534号公報や特開2006−346643号に記載されているような横型の媒体分散機の場合にはギャップ形式の媒体分離機構を出た吐出口部分(この吐出口はベッセルの左右いずれ側にも形成可能である)に設けることができるし、ベッセルの内壁に凹部を形成しその内部に処理材料のみが流入するようにして超音波振動子を設けてもよい。
【0013】
分散媒体(ビーズ)としては、直径約0.3mm〜2.5mmの範囲のガラスビーズやアルミナビーズ、チタニアビーズ、ジルコニアビーズ等の各種セラミックビーズ、スチールビーズが好適に使用される。
【0014】
上記の構成により、先ず、スクリーン通過前のベッセル内でローターにより処理材料をビーズとともに高速回転すると、ビーズによるせん断力によって固体粒子が微粉砕され、微粒子化された処理材料はスクリーンを通過し、出口へ出る前の溜まりスペース12中に設けられた超音波振動子から超音波が照射され、その後出口から吐出される。
【0015】
以下本発明に係る実施例を詳細に説明する。ただし、これらの実施例によって必ずしも本発明が限定されるわけではない。
【実施例】
【0016】
図1に示す装置を用い、溶剤型の自動車用塗料、赤での分散事例であって、分散媒体(ビーズ)として直径約1.0mmの低アルカリガラスビーズをベッセル内に80%充填し、自動車用塗料4.0Lが5.0μm以下になるまでの実験をした。その結果、
1.図1の装置を使用し、ローターの周速15m/secで処理したところ、処理時間は35分であった。
2.図1の装置の超音波振動子を用いず、ローターの周速10m/secで処理したところ、処理時間は45分であった。
3.図1の装置の超音波振動子を用いず、ローターの周速15m/secで処理したところ、処理時間は40分であった。
【0017】
上記実験結果から明らかなように、本発明によれば、上記1.に示すように分散時間が短縮され、分散パス回数も少なくでき、また、湿式粉砕された材料の新界面の濡れが超音波照射により促進され、再凝集を防ぐことができ、色相、透明性にすぐれた塗料が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の湿式媒体分散機の一実施例を示す断面図。
【符号の説明】
【0019】
1 湿式媒体分散機
2 ベッセル
3 駆動軸
4 ローター
5 ビーズ供給口
6 ミルベース供給口
7 ローター開口
8 ステーター
9 スクリーン
10 ステーター開口
11 ミルベース出口
12 スペース
13 超音波振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッセル内に設けたローターを回転して固体粒子を液体中に混合した処理材料を分散媒体とともに攪拌し、上記固体粒子を微粉砕し液体中に分散する湿式媒体分散機において、上記ローターの周速を1〜20m/secとするとともに分散媒体が接触しない位置に設けた超音波振動子から処理材料に超音波を照射することを特徴とする湿式分散または粉砕方法。
【請求項2】
上記ローターの周速が12〜15m/secである請求項1に記載の湿式分散または粉砕方法。
【請求項3】
上記請求項1又は2に使用する湿式媒体分散機であって、処理材料の入口と分散媒体から処理材料を分離する媒体分離機構と処理材料の出口を有し、超音波振動子は上記媒体分離機構と出口の間に設けられていることを特徴とする湿式媒体分散機。
【請求項4】
上記超音波振動子は媒体分離機構に向けて設けられている請求項3に記載の湿式媒体分散機。
【請求項5】
上記超音波振動子は合金又はセラミック材料で形成されている請求項3または請求項4に記載の湿式媒体分散機。

【図1】
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【公開番号】特開2010−5540(P2010−5540A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168105(P2008−168105)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000139883)株式会社井上製作所 (24)
【Fターム(参考)】