説明

湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物及びその製造方法、これを用いた湿式摩擦材。

【課題】含浸性並びに機械的強度に優れた湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物およびその製造方法、これを用いてなる湿式摩擦材を提供することである。
【解決手段】フェノール樹脂を衝突設備内において、300kg/cm2以上の圧力で、衝突分散処理することを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法であり、これにより得られる湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物は25℃における粘度が300mPa・s以下であり、これを繊維状基材に含浸し、硬化してなることを特徴とする湿式摩擦材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物及びその製造方法、これを用いた湿式摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、主に材料同士を結合させるバインダーとして広く用いられ、その用途は様々であり、特に近年、自動車、鉄道車両などにおける、フェノール樹脂をバインダーとして使用した摩擦材の使用量が増加している。加えて、摩擦材用フェノール樹脂に対する要求特性は年々高まっており、特に、基材との接着性や強度への要求が高まってきている。
通常、フェノール樹脂は、主に原料であるフェノール類(P)とアルデヒド類(F)の反応モル比(F/P)によってその分子量が決定する。反応モル比が高いほど分子量が増大し、強度等の機械的特性も向上する。しかしながら、分子量を高くすると基材へのフェノール樹脂の含浸性が悪くなるばかりでなく、樹脂が硬く、脆くなりすぎてしまい、結果として十分な接着力を得られない場合がある。
そこで、上記問題を解決する方法として、レゾール型フェノール樹脂の反応において、3級アミン及びアンモニアを触媒として併用し、高分子化反応を抑制し、含浸性を改善する試みが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−67420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、含浸性並びに機械的強度に優れた湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物およびその製造方法、これを用いてなる湿式摩擦材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、以下の本発明(1)〜(6)により達成される。
(1)湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法であって、フェノール樹脂を衝突設備内において、300kg/cm2以上の圧力で衝突分散処理することを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法。
(2)前記衝突分散処理は、前記フェノール樹脂を前記高圧衝突設備の壁面に衝突させて分散させる方法及び/又は前記フェノール樹脂同士を衝突させて分散させる方法によるものである(1)に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法。
(3)(1)又は(2)の製造方法によって得られ、且つ、25℃における粘度が300mPa・s以下であることを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(4)前記フェノール樹脂が、レゾール型フェノール樹脂を含むものである(3)に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(5)前記フェノール樹脂の含有量は前記樹脂組成物全体に対して、30〜80重量%である(3)又は(4)に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(6)(3)〜(5)のいずれかに記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物を繊維状基材に含浸し、硬化してなることを特徴とする湿式摩擦材。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によって得られる湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物を、湿式摩擦材に用いた場合、含浸性並びに機械的強度に優れた湿式摩擦材を得ることができる。
また、本発明の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の25℃における粘度が300mPa・s以下であることにより、これを用いてなる湿式摩擦材の含浸性を高める効果を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、液状フェノール樹脂を、300kg/cm2以上の圧力で衝突分散処理することを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある)であり、この製造方法によって得られる湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物であり、これを用いてなる湿式摩擦材である。
【0008】
まず、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法に用いられるフェノール樹脂は、通常形態が液状であるレゾール型フェノール樹脂を用いると衝突分散処理が容易であり、好ましい。
このレゾール型フェノール樹脂は、通常、フェノール類と、アルデヒド類とを塩基性触媒存在下で反応させて得られるものである。前記フェノール類としては、特に限定されないが、例えば例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類が挙げられる。また、キシレン・ホルムアルデヒド重縮合物やジシクロペンタジエン、パラキシリレンアルコール誘導体、桐油、トール油等を酸性条件下でフェノール類と反応させたものを用いてもよい。これらを単独または2種以上組み合わせて使用しても良い。この中でも高い機械的強度が得られやすいことから、フェノール、クレゾール類、ビスフェノールAが好ましく用いることができる。
【0009】
また、アルデヒド類としても特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。また、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。本発明のフェノール樹脂には、合成時の反応性が高いことから、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましく用いることができる。
【0010】
ここで塩基性触媒としては特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水、トリエチルアミンなどの第3級アミン、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミンなどのアルカリ性物質等を単独または2種類以上併用することができる。
【0011】
本発明の製造方法に用いられるフェノール樹脂において、フェノール類に対するアルデヒド類の反応モル比としては特に限定されないが、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類0.5〜3モルとすることが好ましい。さらに好ましくは、アルデヒド類0.7〜2.5モルである。これにより、好適な数平均分子量を有するフェノール樹脂を得ることができる。
【0012】
上記フェノール樹脂の分子量としては特に限定されないが、GPC測定による数平均分子量が、130〜500であることが好ましい。さらに好ましくは150〜450である。これにより、紙基材への含浸性を良好なものとすることができる。
なお、上記フェノール樹脂の分子量は、液体クロマトグラフィー法を用いて測定したものである。ここで液体クロマトグラフィー法は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いたものであり、テトラヒドロフランを溶出溶媒として使用し、流量1.0ml/分、カラム温度40℃の条件で、示差屈折計を検出器として測定し、分子量は標準ポリスチレンにより換算した。
装置は、
1)本体:TOSOH社製・「HLC−8120」
2)分析用カラム:TOSOH社製・「G1000HXL」1本、「G2000HXL」2本、「G3000HXL」1本、
を使用した。
【0013】
上記フェノール樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体に対して30〜80重量%が好ましく、特に35〜70重量%が好ましい。フェノール樹脂の含有量を上記範囲とすることで特に湿式摩擦材製造時に目的の樹脂付着量を得ることができる。
【0014】
上記フェノール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを前記塩基性触媒の存在下で加熱し反応させ、水あるいは有機溶剤を添加して液状のレゾール型フェノール樹脂を得ることができる。
【0015】
本発明の製造方法においては、フェノール樹脂を衝突設備内において、300kg/cm2以上の圧力で衝突分散処理することを特徴とする。上記衝突分散処理に用いる圧力は更に好ましくは500kg/cm2以上であり、特に好ましくは800kg/cm2以上である。このような高圧で衝突分散処理することにより、フェノール樹脂中の成分には高圧衝突による衝撃力や剪断力が作用し、分子間力、イオン結合、水素結合等で結合したフェノール樹脂中の成分を微細分化できると考えられる。この結果、基材の繊維間や紙繊維等の繊維内への含浸性が向上し、接着強度や硬化度等の硬化物特性が向上すると考えられる。
【0016】
このような高圧下において衝突分散処理できる衝突設備としては、特に限定されないが、300kg/cm2以上の加圧能力を有する設備であればよい。
【0017】
上記衝突分散処理方法としては、特に限定されないが、フェノール樹脂を衝突設備の配管等の壁面に衝突させて分散させる方法と、フェノール樹脂同士を衝突させて分散させる方法等を用いることができる。
上記壁面に衝突させて分散させる方法に用いることができる市販されている設備としては、例えば、最高圧力1500kg/cm2の米国APV GAULIN社製ゴーリン式高圧ホモジナイザー、最高圧力1750kg/cm2のみづほ工業社製マイクロフルイタイザーZ型ノズル等がある。また樹脂ワニス同士を衝突させて分散させる方法に用いることができる市販されている設備としては、例えば、最高圧力1750kg/cm2のみづほ工業社製マイクロフィルタイザーY型ノズル、最高圧力1500kg/cm2のフロイント産業社製ナノマイザー、最高圧力7000kg/cm2のスギノマシン社製アルテマイザー、最高圧力3500kg/cm2の日本ビーイーイー社製DeBEE等がある。
【0018】
なお、衝突分散処理によりフェノール樹脂が発熱し、樹脂の硬化進行等が懸念される場合は適宜冷却を行うことが好ましい。系内温度としては特に限定されないが、10〜70℃が好ましい。系内温度を上記範囲とすることで、特に樹脂の硬化進行を抑制することができる。
【0019】
次に、本発明の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ということがある)について説明する。
本発明の樹脂組成物は、上記本発明の製造方法により得られ、且つ、25℃における粘度が300mPa・s以下であることを特徴とする。更に、好ましくは250mPa・s以下である。上記粘度とすることで特に含浸性を高める効果を向上させることができる。このメカニズムは明確ではないが低粘度であることにより、繊維状基材の空隙及び基材そのものへの浸透性に優れ、結果として含浸性が向上するものと推測される。
【0020】
次に、本発明の湿式摩擦材について説明する。
本発明の湿式摩擦材は、上記本発明の樹脂組成物を繊維状基材に含浸し、硬化してなることを特徴とする。こうすることで、特に機械的強度に優れた湿式摩擦材を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ここで記載されている「部」は「重量部」を示す。
【0022】
1.液状フェノール樹脂の製造
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応器に、フェノール1000部、濃度37%のホルマリン1294部、濃度50%の水酸化ナトリウム水溶液10部を加え、80℃にて1時間反応させた。その後650mmHgの真空下で脱水を行いながら、系内の温度が70℃に達したところでメタノール480部を加えて冷却してフェノール樹脂2240部を得た。
【0023】
(実施例1)
得られたフェノール樹脂を、ゴーリン式高圧ホモジナイザーで圧力1000kg/cm2 で3回処理を行った。
【0024】
(実施例2)
得られたフェノール樹脂を、アルテマイザー(スギノマシン社製)で圧力2000kg/cm2 で3回処理を行った。
【0025】
(実施例3)
得られたフェノール樹脂を、マイクロフルイタイザーY型(みづほ工業社製)で圧力1000kg/cm2 で3回処理を行った。
【0026】
(実施例4)
得られたフェノール樹脂を、アルテマイザー(スギノマシン社製)で圧力2000kg/cm2 で3回処理を行った。
【0027】
(比較例1)
得られたフェノール樹脂を、ゴーリン式高圧ホモジナイザー(米国APV GAULIN社製)で圧力150kg/cm2で3回処理を行った。
【0028】
(比較例2)
得られたフェノール樹脂を未処理状態のままとした。
【0029】
2.含浸紙の評価
2.1 含浸紙の試験片の作製方法
実施例1〜4、比較例1で得られた衝突分散処理したフェノール樹脂、及び比較例2である未処理のフェノール樹脂の濃度をメタノールで30%に調整し、これに濾紙を30秒間浸した後、常温で30分間風乾、80℃で30分間乾燥後、200℃で30分間焼成し、それぞれの試験片を作製した。
【0030】
2.2 含浸紙の特性評価方法
(1)含浸性の評価
試験片の表層部0.1mm(厚み)、中心部0.1mm(厚み)を削り、それぞれ粉末試料を得た。これらを熱天秤により測定し、減量率の差により含浸性を評価した。
測定条件は次のとおりである。
空気流量:200ml/min
昇温速度:10℃/min
測定範囲:30〜600℃まで連続的に昇温し、200℃、300℃、400℃、500℃の各温度にて測定した。
試料重量:10mg
【0031】
(2)常態曲げ強度、及び、200℃4時間処理後の曲げ強度
JIS P 8113「紙及び板紙−引張特性の試験方法」に準拠して測定した。
上記含浸性の評価及び曲げ強度の結果を表1にまとめた。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1〜4はいずれも300kg/cm2以上の圧力で衝突分散処理して得られたフェノール樹脂を用いた本発明の樹脂組成物であり、未処理のフェノール樹脂から得られた比較例2の樹脂組成物と比べて、含浸紙の表層部と中心部との熱天秤の減量率の差が小さく、フェノール樹脂が含浸紙内部まで均一に含浸されていた。比較例1は衝突分散処理されているものの、処理圧力が低かったため、その効果はほとんど見られなかった。
また、実施例1〜4は比較例1、2に比較して常温での引張強度、及び200℃4時間の加熱処理後の引張強度が高く、機械的強度に優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法であって、フェノール樹脂を衝突設備内において、300kg/cm2以上の圧力で衝突分散処理することを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記衝突分散処理は、前記フェノール樹脂を前記高圧衝突設備の壁面に衝突させて分散させる方法及び/又は前記フェノール樹脂同士を衝突させて分散させる方法によるものである請求項1に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の製造方法によって得られ、且つ、25℃における粘度が300mPa・s以下であることを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記フェノール樹脂が、レゾール型フェノール樹脂を含むものである請求項3に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項5】
前記フェノール樹脂の含有量は前記樹脂組成物全体に対して、30〜80重量%である請求項3又は4に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物を繊維状基材に含浸し、硬化してなることを特徴とする湿式摩擦材。

【公開番号】特開2007−84682(P2007−84682A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274916(P2005−274916)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】