説明

湿気硬化型接着性組成物とスピーカの組み立て方法

【課題】作業性が良く作業環境に優しいスピーカ用の接着剤を提供する。
【解決手段】加水分解性珪素官能基を末端に有する、一般式(A)に示されるポリエーテル重合体を100質量部と、芳香族エーテル化合物及び/又は炭素数6〜8のアルコール1〜50質量部とを含有してなる湿気硬化型接着性組成物であり、それを用いるスピーカの組み立て方法である。
一般式(A)
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、R2は炭素数1〜6の1価の炭化水素基であり、nは0〜2の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿気硬化型接着剤組成物とそれを用いるスピーカの組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音響機器に用いられるスピーカは、図1に示したように、1 ボトムプレート、2マグネット、3トッププレート、4フレーム、6コーン、8ボイスコイル、9ダンパー、10ダストキャップ等の部材から構成され、これらの各部材は接合部10等において適宜に接着剤で接合されてスピーカに組み立てられている。
【0003】
前記の各接合部10等の接合に使用される接着剤としては、従来、クロロプレンゴム系接着剤が広く使用されていたが、このクロロプレンゴム系接着剤は、トルエン等の揮発性の高いすなわち引火点の低い溶剤を含有する溶剤型接着剤であるために、溶剤が揮発するのみで接着力を発揮するため、充分な接着強度が得られるまでに長期間を要する(固着時間が長い)、更に多量の溶剤が揮発するので大気汚染や作業者の健康上に問題があった。
【0004】
これらの問題点を解決するために、ホットメルト型接着剤を利用したもの(特許文献1)、二液型アクリル系接着剤を利用したもの(特許文献2)等の提案がある。
【特許文献1】特開昭53−133019号公報
【特許文献2】特公昭59−042519号公報
【0005】
しかし、ホットメルト型接着剤を利用したものは特別な溶融、塗布設備を必要とするため作業性に問題があり、二液型アクリル系接着剤を利用したものは二液混合操作を必要とするため混合の管理を行う欠点があった。
【0006】
更に従来の湿気硬化型接着剤を利用したもの(特許文献3)は、粘度を低下させるため適量な溶剤を含有することによって適度の粘度を有し塗布作業性が良好になり、かつ溶剤の揮発により初期の硬化性に優れているが、トルエン等の引火点の低い溶剤の揮発に対して特に配慮する必要があり、大気汚染や屋内作業環境の悪化する欠点があった。
【特許文献3】特公平7−103358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来のスピーカ組み立て用接着剤はそれぞれ一長一短があり、いずれも充分に満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有する湿気硬化型接着剤が本発明の目的を達成することができるとの知見を得て、本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、加水分解性珪素官能基を末端に有する、一般式(A)に示されるポリエーテル重合体を100質量部に、芳香族エーテル化合物及び/又は炭素数6〜8のアルコール1〜50質量部を含有してなる湿気硬化型接着性組成物であり、それを用いるスピーカの組み立て方法である。
一般式(A)
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の1価の炭化水素基であり、nは0〜2の整数である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物は、接着剤組成物に含有する溶剤が揮発することによる大気汚染や作業環境の悪化を防止するとともに、従来のものに比べて低粘度であるため塗布作業性に優れ、特にスピーカのダンパーなどの繊維状材料や多孔質材料へのしみこみ性が良好になることで、各接合部において高い接着力を得ることが可能になる。
【0011】
そして、本発明の接着剤組成物をスピーカの接合部に接着剤として塗布することで、接着信頼性と耐久性の高いスピーカを組み立てることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、加水分解性珪素官能基を末端に有する、一般式(A)で示されるポリエーテル重合体としては、主鎖が−R−O−(式中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基である。)で示される繰返し単位からなるものであって、その主鎖の少なくとも一端に一般式(A)で示される基を有するポリエーテル重合体が選択される。
一般式(A)
【化2】


(式中、Rは炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の1価の炭化水素基であり、nは0〜2の整数である。)
【0013】
前記ポリエーテル重合体としては、たとえば、イソシアネート末端ポリエーテルウレタンプレポリマーと、γ−アミノプロピルトリメトキシシランやγ−アミノプロピルトリエトキシシランやγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランとの反応生成物などが挙げられる。
【0014】
本発明に於いては、前記の特定なポリエーテル重合体に、芳香族エーテル化合物、炭素数6〜8のアルコール、及びパラフィン系炭化水素溶剤からなる群から選ばれる1種以上を特定量含有させることにより、スピーカの組み立てに例示される繊維状や多孔質材料の接着に好ましく適用できる湿気硬化型接着性組成物が提供できる。
【0015】
本発明において、芳香族エーテル化合物としては、例えばジベンジルエーテル、ジフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル等が挙げられ、このうちジベンジルエーテル、ブチルフェニルエーテルが湿気硬化型接着性組成物の粘度をより低下させ繊維状及び多孔質材料へのしみこみ性が改良されるため好ましい。
【0016】
炭素数6〜8のアルコールとしては、1−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、2−オクタノール、2−へプチルアルコール等が挙げられ、このうち2−エチルヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノールが、湿気硬化型接着性組成物の粘度をより低下させ繊維状及び多孔質材料へのしみこみ性が改良されるため好ましい。
【0017】
本発明の目的を達成する上では、芳香族エーテル化合物と炭素数6〜8のアルコールのなかでは、芳香族エーテル化合物が好ましく、ことにジベンジルエーテルが接着剤の粘度を効率よく低下させ、更に引火点が61℃以上であるため、本発明の湿気硬化型接着性組成物は火気に対して安定に取り扱えるようになり、「危険物船舶運送及び貯蔵規則」及び「航空法」に基づく特別な梱包かつ温度の管理なしに輸送が可能であるからなお好ましく、更に接着強度に優るために特に好ましい。
【0018】
本発明において、成分(1)と成分(2)との配合割合は、成分(1)100質量部に対して、成分(2)の合計量が1.0〜50質量部、好ましくは5〜30質量部である。成分(2)の配合割合が1.0質量部以上で湿気硬化型接着性組成物の粘度が十分に低く塗布作業性が良いし、更に繊維状及び多孔質材料へのしみこみ性も良い。50質量部以下であれば、湿気硬化型接着性組成物の粘度が低下し過ぎて、塗布作業が安定してできないということもない。
【0019】
本発明に用いる接着剤組成物には、架橋剤であると同時に接着性付与剤としての働きもする、一般式(B)に示されるオルガノシランを使用できる。
一般式(B)
【化3】


(式中、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4の1価の炭化水素基であり、Yは置換基または置換原子を含みうる1価の炭化水素基であり、a及びbはそれぞれ0〜2の整数であり、かつaとbの和は0〜2である。)
【0020】
本発明における一般式(B)で示されるオルガノシランとしては、たとえばジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、アミノメチルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)メチルトリブトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノイソブチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、{〔N−β(アミノエチル)〕N−β(アミノエチル)}γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3、4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらのオルガノシランは1種を用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。これらのうち、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが接着性の付与効果が高く、更に速硬化であることから好ましく選択される。
【0021】
本発明における前記オルガノシランの配合割合は、成分(1)100質量部に対して、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部である。0.5質量部以上であれば架橋剤として有効に作用するために、湿気硬化型接着性組成物は速硬化であるし、15質量部以下で接着性の付与効果も大きく、更に速硬化である。
【0022】
本発明に於いて、シラノール化合物の縮合触媒として、たとえば有機珪素チタン酸塩、オクチル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ビスアセチルアセテートなどのカルボン酸の金属塩やジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドなどの有機錫酸化物、更にジブチルアミン−2−エチルヘキソエートなどのアミノ塩等の公知のシラノール縮合触媒を使用できる。
【0023】
本発明におけるシラノール化合物の縮合触媒の使用量は、成分(1)100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲が好ましい。0.5質量部以上で有効な縮合触媒として作用するために湿気硬化型接着性組成物は速硬化であり、5質量部以下で更に速硬化である。
【0024】
本発明の接着性組成物には、前記の各成分の他に、その接着性能等を著しく損なわない範囲内において充填剤、可塑剤、着色剤、老化防止剤、紫外線吸収剤及びタレ止め剤等を配合することができる。
【0025】
本発明の接着性組成物は、前記特定な組成を有するが故に、空気中において例えばスピーカ部材同士の接合すべき部分に塗布して接着を行なわせると、接着性組成物を構成する成分(1)の(OR)基及び架橋剤のオルガノシランの(OR)基が空気中の水分や被着体の水分によって直ちに加水分解を起して−OH基を生成し、その生成した−OH基同士が縮合触媒の作用によって直ちに縮合反応を起して三次元網状結合を形成して硬化することになる。
【0026】
そして、その際同時に、オルガノシランの置換基や前記のようにして水分と反応して生成した−OH基の一部が金属や紙等の被着体に対して強力な接着力を示すことになる。
【0027】
また、本発明の接着性組成物は、従来のものに比べて低粘度であるため塗布作業性に優れ、特にスピーカのダンパーなどの繊維状及び多孔質材料へのしみこみ性が良好なので、各接合部において高い接着力を得ることが可能になる。更に、引火点の低い溶剤を含有しないので大気汚染や屋内作業環境が悪化することがないことから、本発明のスピーカの組み立て方法は、著しく能率よく、高い接着信頼性を持ったスピーカを組み立てることができるという効果を発揮する。
【実施例】
【0028】
(実施例1、2、比較例1〜4)
実施例、比較例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、各使用材料の使用量の単位は質量部で示す。また、各使用材料については、次のような略号を使用する。
【0029】
(使用材料)
ポリエーテル重合体:メチルジメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド(鐘渕化学工業株式会社 商品名 サイリルSAT200)
芳香族エーテル化合物:ジベンジルエーテル(市販品 引火点135℃)
炭素数6〜8のアルコール:2−エチルヘキサノール(市販品 引火点79℃)
プロピレングリコール:分子量3000のもの(市販品 引火点61℃以上)
トルエン:市販品
オルガノシラン:ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社 商品名KMB1003及びN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社 商品名KMB603)及びγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社 KBM403)
充填剤:脂肪酸処理炭酸カルシウム(白石工業株式会社 白艶化CCR)
シラノール化合物の縮合触媒:ジブチル錫ジラウレート(市販品)
SPCC:市販品、SPCC−Dブラスト処理鋼板
綿:市販品、綿帆布、セルロース
【0030】
物性については、次のようにして測定した。
【0031】
[綿/SPCC剥離強度]
JIS K−6854に従い、試験片(70mm×25mm×0.3mm、SPCC−Dサンドブラスト処理)に接着剤を塗布して、直ちにもう片方の試験片(JISL−3102並綿帆布1209番の9号:70mm×25mm×0.7mm、無処理)を重ね合わせて貼り合わせた後、温度23℃、湿度50%の環境下において7日間養生したものを試料とした。試料の剥離強度(180°剥離強度、単位:kN/m)は、温度23℃、湿度50%の環境下において、引っ張り速度50mm/分で測定した。
【0032】
[粘度]
JIS K−7117に従い、接着剤を500mlずつ取り、25℃の恒温槽に24時間放置したものを試料とした。粘度の測定は、25℃で単一円筒型回転粘度計で2分間連続して測定した。
【0033】
[スピーカダンパー部接着強度]
23℃、湿度50%の条件下で試験した。図1に示すスピーカを組み立てた。ダンパー9(外径60mm×内径20mm×厚さ0.25mm)の材料として綿を用いた。これらの材料にフェノール系熱硬化性樹脂組成物を含浸させて、図1に示すダンパー9の形状に加熱成形した。なお、フレーム4の材料としては表面をクロメートメッキ処理した鉄を用いた。スピーカ3点部として、得られたダンパー9と、図2に示す紙テープ11及びコイル12を巻き付けたボイスコイル8(アルミニウム製)とを、ボイスコイルの接合部が紙である箇所(図2の丸印で示した箇所)を介して接着した。また、スピーカダンパー部として、ダンパー9とフレーム5を同様に当該接着剤で接着することにより、図3に示すスピーカ(紙テープ11及び接着剤組成物13は図示していない)を作成して強度測定用試料とした。接着方法としては、各接合部(図2の丸印で示した箇所)に、接着剤を塗布し、温度23℃、湿度50%の環境下において7日間養生して、接着させる方法を用いた。スピーカダンパー部接着強度(単位:kg)は、温度23℃、湿度50%の環境下で測定した。ボイスコイル8の中央部にボイスコイル引っ張り治具15を挿入し、フレームの周縁部5をフレーム固定治具14の周縁部(図3の丸印で示した箇所)と固定した。ボイスコイル引っ張り治具15を矢印方向に引っ張り速度100mm/分で引っ張り、スピーカダンパー部の接着強度を測定した。
【0034】
[接着剤の臭気]
23℃、湿度50%の条件下で試験した。接着剤を500ml容量のポリエチレン製容器に100gずつ取り、その臭気を確認した。
【0035】
表1の組成で各使用材料を混合して、接着剤組成物を調製し、測定結果を表1に併記した。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の接着性組成物は、含有する溶剤が揮発することによる大気汚染や作業環境の悪化を防止できるとともに、低粘度なので塗布作業性に優れ、かつ繊維状或いは多孔質材料へのしみこみ性が良好であり、例えばスピーカのダンパー部等の接合部において高い接着力を得ることが可能になるために、接着信頼性と耐久性の高いスピーカを組み立てることが可能であり、その産業上の利用可能性は極めて大きい。
【0038】
本発明のスピーカの組み立て方法は、前記特徴のある接着性組成物を用いているので、塗布作業性に優れると共に、接着信頼性と耐久性の高いスピーカを組み立てることが可能であり、その産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】スピーカの断面図。
【図2】スピーカ3点部の構造を示す断面図。
【図3】スピーカ3点部を含むスピーカダンパー部の接着強度の測定方法を示す模式図。
【符号の説明】
【0040】
1 ボトムプレート
2 マグネット
3 トッププレート
4 フレーム
5 フレームの周縁部
6 コーン
7 コーンの周縁部(コーンエッジ)
8 ボイスコイル
9 ダンパー
10 ダストキャップ
11 紙テープ
12 コイル
13 接合部及び接着剤組成物
14 フレーム固定治具
15 ボイスコイル引張治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)加水分解性珪素官能基を末端に有する、一般式(A)に示されるポリエーテル重合体を100質量部、
(2)芳香族エーテル化合物、及び/又は炭素数6〜8のアルコールを1〜50質量部、
を含有する湿気硬化型接着性組成物。
一般式(A)
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の1価の炭化水素基であり、nは0〜2の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の湿気硬化型接着性組成物を用いることを特徴とするスピーカの組み立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−308589(P2007−308589A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138907(P2006−138907)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】