説明

溝型誘導加熱装置の流路閉塞防止方法

【課題】 溝型の流路を有する溝型誘導加熱装置を用いて溶銑を加熱するに当たり、溶銑中に巻き込まれた炉内スラグや炉内で生成した酸化物などの異物が流路に付着しても、付着した異物を効果的に除去することが可能であり、異物の付着による流路の縮小及び閉塞を防止することのできる流路閉塞防止方法を提供する。
【解決手段】 溝型の流路10を有する誘導加熱装置6を用いて該誘導加熱装置を備えた貯銑炉に貯えられた溶銑を誘導加熱するに際し、前記流路の内径よりも小さい径の鋼球12を溶銑の流れに乗せて流路を通過させ、鋼球の通過によって流路の内壁に付着した異物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉から出銑された溶銑を転炉で精錬する前に一旦貯蔵するための貯銑炉に設置される、溝型の流路を有する誘導加熱装置の流路の閉塞防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑は、トーピードカーや溶銑鍋などの溶銑搬送容器で受銑され、必要に応じて脱硫処理、脱燐処理などの予備処理が施された後に転炉へ輸送され、転炉で脱炭精錬が行われている。このとき、高炉からの出銑タイミングや転炉における処理量の変動などによって生ずる溶銑の過不足を調整するために、転炉で脱炭精錬する前に溶銑を一旦貯銑炉に貯蔵する場合がある。貯銑炉内の溶銑は、出銑口などの開口部からの放熱及び耐火物からの抜熱によって温度低下を招くため、溶銑の加熱が必要になっている。
【0003】
この溶銑の加熱は、溝型の流路を有する誘導加熱装置(「溝型誘導加熱装置」ともいう)を貯銑炉に設け、この溝型誘導加熱装置によって行われている。貯銑炉に溝型誘導加熱装置を設置した例を図6に示し、溝型誘導加熱装置の例を図7に示す。図6に示すように、複数基の溝型誘導加熱装置6Aを貯銑炉1Aの側面に取り付けて溶銑13を加熱する。溝型誘導加熱装置6Aは、図7に示すように、溶銑13が通る流路10を形成する耐火物製の箱体7に、誘導コイル9の巻かれた鉄心8を配置した構成であり、流路10は貯銑炉1Aの内部と連通している。誘導コイル9に交流電流を流すことにより、ループ状の流路10と鎖交する交流磁束を生じさせ、この交流磁束によってループ状の溶銑流路内の溶銑13に誘導電流を発生させ、この誘導電流によるジュール熱によって溶銑13を加熱するという装置である。また、この誘導電流と誘導コイル9による交流磁束とによって流路内の溶銑13にはローレンツ力(電磁気力)が働き、溶銑13は流路10の内部を移動し、それにより流路10の流入口10Aから流出口10Bに向かう流れを形成する。図6における符号2は鉄皮、3は耐火物、4は受銑口、5は出銑口、14はスラグである。
【0004】
一般に、流路内の溶銑中に生ずる誘導電流により、流路内の溶銑には流路の断面を収縮させる方向のローレンツ力が作用する。この作用は、一般にピンチ力と称され、このピンチ作用によって流路内の溶銑が収縮し、ピンチ力が大きい場合には流路内の溶銑が切断される状態になる。ピンチ作用によって流路内の溶銑が収縮し、更に収縮によって流路内の溶銑が切断される現象をピンチ現象と称している。このようなピンチ現象が発生すると、鉄心に巻いた誘導コイルに流れる電流の変動が激しくなり、溶銑の加熱に必要な電力を安定して供給することができなくなるとともに、時には電源がトリップすることもある。
【0005】
また、溶銑中に巻き込まれた炉内のスラグや炉内で生成した酸化物が異物として流路の内壁に付着することから、流路の縮小や、時には流路の閉塞が発生する。これにより、流路の断面積が狭くなるため、断面積当たりの溶銑に流れる誘導電流が増加し、ピンチ現象がより一層発生しやすくなるという問題が生ずる。異物の付着は、誘導コイル9に近いほど誘導電流密度が高く電磁気力が大きくなることから、流路10のうちで2つの誘導コイル9に挟まれ且つ誘導コイル9と対向している部分の内壁面、つまり図7中に符合16で示す内壁面で生じやすい。
【0006】
この対策として、例えば特許文献1には、鉄心に巻いた誘導コイルに、高出力の通電と低出力の通電とを交互に供給し、これによって異物による流路の閉塞を抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−218038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された方法には以下の問題点がある。即ち、特許文献1の方法は、液体である溶銑の流速の強度を変更して異物を洗い流すという方法であるため、比較的付着力の弱い異物しか洗い流すことができず、流路の閉塞を十分には抑制することができないという問題点がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溝型の流路を有する溝型誘導加熱装置を用いて溶銑を加熱するに当たり、溶銑中に巻き込まれた炉内スラグや炉内で生成した酸化物などの異物が流路に付着しても、付着した異物を効果的に除去することが可能であり、異物の付着による流路の縮小及び閉塞を防止することのできる流路閉塞防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明に係る溝型誘導加熱装置の流路閉塞防止方法は、溝型の流路を有する誘導加熱装置を用いて該誘導加熱装置を備えた貯銑炉に貯えられた溶銑を誘導加熱するに際し、前記流路の内径よりも小さい径の鋼球を溶銑の流れに乗せて流路を通過させ、鋼球の通過によって流路の内壁に付着した異物を除去することを特徴とするものである。
【0010】
第2の発明に係る溝型誘導加熱装置の流路閉塞防止方法は、第1の発明において、前記誘導加熱装置の誘導コイルと対向する流路内壁面の方向を鉛直方向と一致させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋼球を溶銑の流れに乗せて溝型誘導加熱装置の流路を通過させるので、通過する鋼球によって本来流路であるはずの位置に付着した異物は除去され、流路の閉塞を防止して正常な状態に維持することができ、ピンチ現象を抑制することが可能となる。その結果、電流のハンチングに起因する電源設備のトラブルを回避することができる、及び、溶銑の加熱効率が向上するなど安定した昇熱操業が達成され、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態を示す図であって、溝型誘導加熱装置を備えた加熱式貯銑炉の概略平面図、図2は、図1のX−X’矢視による概略断面図、図3は、図1に示す溝型誘導加熱装置の概略断面図、図4は、図3のY−Y’矢視による概略断面図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、円筒状の貯銑炉1は、外殻を鉄皮2とし、この鉄皮2の内側に耐火物3が施工されていて、溶銑鍋やトーピードカーなどの溶銑搬送容器(図示せず)から溶銑13を受銑するための受銑口4、及び、貯蔵した溶銑13を装入鍋などの溶銑保持容器(図示せず)に排出するための出銑口5が、貯銑炉1の側壁に設置されている。また、貯銑炉1の側壁下部には、4基の溝型誘導加熱装置6が配置され、それぞれの溝型誘導加熱装置6の鉛直方向上方側の側壁には鋼球投入口11が設置されている。鋼球投入口11には蓋11Aが設置されており、蓋11Aを開放して鋼球12を貯銑炉1の内部に投入するとき以外は、溶銑13からの熱放散を防止するために、鋼球投入口11は蓋11Aで閉鎖されている。貯銑炉1からの出銑時は貯銑炉1を傾動し、出銑口5から溶銑13を出銑する。
【0014】
溝型誘導加熱装置6は、図3及び図4に示すように、溶銑13が通るための径路となる流路10を形成する耐火物製の箱体7に、誘導コイル9の巻かれた鉄心8を配置した構成であり、流路10は貯銑炉1の内部と連通している。誘導コイル9に交流電流を流すことによって、ループ状の流路10と鎖交する交流磁束を生じさせ、ループ状の流路10の内部の溶銑13に誘導電流を発生させ、この誘導電流により発生するジュール熱によって溶銑13を加熱する。また、この誘導電流と、誘導コイル9による交流磁束とによって流路10の内部の溶銑13にはローレンツ力が働き、溶銑13は流路10の内部を移動し、それにより流路10の流入口10Aから流出口10Bに向かう流れが形成される。つまり、加熱された溶銑13は流出口10Bから排出され、代わって貯銑炉1の内部の溶銑13が流入口10Aから溝型誘導加熱装置6に流入して、溶銑13は順次加熱される。尚、図3における流路内の矢印は溶銑13の流れの方向を示している。
【0015】
このように構成される貯銑炉1を用い、以下のようにして本発明を実施する。
【0016】
即ち、高炉から出銑された溶銑13を、必要に応じて脱硫処理、脱燐処理などの溶銑予備処理を施した後、受銑口4から貯銑炉1に装入し、溝型誘導加熱装置6で加熱しながら貯蔵する。この溶銑13の加熱中、鋼球投入口11から、流路10の内径よりも直径の小さい鋼球12を溶銑13に投下する。投下した鋼球12は溶銑中を沈降し、溝型誘導加熱装置6の近傍に到達する。鋼球12は溶銑13の流れにのって、流入口10Aから溝型誘導加熱装置6の流路10に流入する。投下した鋼球12の全てが流路10に流入するとは限らないが、複数個の鋼球12を投下し、そのうちの幾つかが流路10に流入すればよい。流路10に入った鋼球12は溶銑13の流れによって流路10の内部を順次通過していく。流路10の内径が場所によって異なる場合には、流路10の最も小さい内径よりも鋼球12の直径を小さくすることとする。
【0017】
溝型誘導加熱装置6によって溶銑13を加熱する際には、溶銑13に巻き込まれたスラグ14や貯銑炉1の内部で生成した酸化物などが流路10の内壁に付着堆積して異物15を形成し、流路10が縮小したり、時には閉塞したりする場合もあるが、このような異物15が流路10に形成されても、鋼球12が通過することで異物15は強制的に押し出され、流路10の内壁から剥離して流出口10Bから排出する。
【0018】
異物15の付着は、誘導電流密度が高く電磁気力が大きくなることから、2つの誘導コイル9に挟まれた流路10の誘導コイル9と対向する内壁面16で発生しやすい。そこで、鋼球12を投入する際には、貯銑炉1を傾動させるなどして、図5に示すように誘導コイル9と対向する内壁面16の方向を鉛直方向と一致させることが好ましい。このようにすることで、重力の作用により鋼球12が内壁面16に接触しやすくなり、異物15の除去効果を増大させることができる。尚、図5は、貯銑炉1を傾動させて異物15の付着しやすい内壁面16の方向を鉛直方向に一致させた状態を示す図である。
【0019】
異物15の付着力が強く、鋼球12が通過できない場合には、鋼球12は一旦そこに留まることになるが、溶銑13に含有される炭素が鋼球12に浸炭し、鋼球12の表面の融点が低下することから、鋼球12は溶銑13によって徐々に溶解する。そして、鋼球12の径が小さくなると再び通過できるようになり、流路10に詰まったままになることはない。この場合には、異物15は除去されないが、複数個の鋼球12を通過させて繰り返し異物15に力を加えることにより、最終的には異物15を除去することが可能となる。
【0020】
流路10を通過した鋼球12は貯銑炉1に戻るが、鋼球12はその主成分が鉄であるので、溶銑13によって徐々に溶解されて溶銑13の一部となるので、使用後に回収する必要がない。また、鋼球12はその主成分が「鋼」であるので、溶銑13よりも融点が高く、溶銑中に埋没させても直ちに溶解することはなく、異物15の除去機能を十分に備えている。
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、鋼球12を溶銑13の流れに乗せて溝型誘導加熱装置6の流路10を通過させるので、通過する鋼球12によって本来流路10であるはずの位置に付着した異物15は除去され、流路10の閉塞を防止して正常な状態に維持することができ、ピンチ現象を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態を示す図であって、溝型誘導加熱装置を備えた加熱式貯銑炉の概略平面図である。
【図2】図1のX−X’矢視による概略断面図である。
【図3】図1に示す溝型誘導加熱装置の概略断面図である。
【図4】図3のY−Y’矢視による概略断面図である。
【図5】貯銑炉を傾動させて異物の付着しやすい内壁面の方向を鉛直方向に一致させた状態を示す側面断面図である。
【図6】貯銑炉に溝型誘導加熱装置を設置した従来例を示す側面断面図である。
【図7】図6における溝型誘導加熱装置を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 貯銑炉
2 鉄皮
3 耐火物
4 受銑口
5 出銑口
6 溝型誘導加熱装置
7 箱体
8 鉄心
9 誘導コイル
10 流路
11 鋼球投入口
12 鋼球
13 溶銑
14 スラグ
15 異物
16 内壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝型の流路を有する誘導加熱装置を用いて該誘導加熱装置を備えた貯銑炉に貯えられた溶銑を誘導加熱するに際し、前記流路の内径よりも小さい径の鋼球を溶銑の流れに乗せて流路を通過させ、鋼球の通過によって流路の内壁に付着した異物を除去することを特徴とする、溝型誘導加熱装置の流路閉塞防止方法。
【請求項2】
前記誘導加熱装置の誘導コイルと対向する流路内壁面の方向を鉛直方向と一致させることを特徴とする、請求項1に記載の溝型誘導加熱装置の流路閉塞防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−70726(P2007−70726A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200793(P2006−200793)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】