説明

溶接材料および溶接ロータ

【課題】鉄鋼材料とNi基合金のような異材継手の溶接に適したNi−Fe基合金と、それを用いて製造される蒸気タービン用のロータを提供する。
【解決手段】質量で、Cr:14〜18%,Al:1.0〜2.5,Mo+W:2.5〜5.0%,C:0.01〜0.10%,B:0.001〜0.03%,Fe:15〜20%を含み、残部が不可避的不純物とNiとからなることを特徴とするNi−Fe基合金を溶接金属として使用した。その結果、異材溶接の場合に生じる延性,靭性の低下を抑制し、強度・延性に優れた蒸気タービン用のロータを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材の溶接に好適な溶接材料と、それを用いた蒸気タービン用の溶接ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ガスタービンや航空機用ジェットエンジン等の高温部材には、耐熱性のよいNi基合金が利用されている。Ni基耐熱合金は、W,Mo,Coなどの固溶強化元素、またAl,Ti,Nb,Taなどの析出強化元素を多く含有し、優れた高温強度を有している。主要な強化相であるγ′相(Ni3Al,Ni3Ti)は、温度上昇に伴って強度も上昇する性質があり、高温における強度特性の向上に極めて効果的である。これまで、Ni基合金では、γ′相をいかに多く析出させるかに主眼を置いて耐熱合金の開発がなされている。
【0003】
一方、石炭火力発電に利用される蒸気タービン部材では、従来、高Crフェライト系耐熱鋼が利用されてきた。フェライト系耐熱鋼は、一般的にNi基合金よりも製造性に優れており、タービンロータのような20トンを超える大型鍛造材の製造が可能である。
【0004】
火力発電プラントより排出されるCO2の削減,省資源などの観点から、より高効率な発電を実現するために蒸気タービンの蒸気温度を上昇させることが要求されている。現在実用されているフェライト系耐熱鋼の耐用温度は600℃程度であるが、さらに蒸気温度を上昇させるためには、より耐用温度の高いNi基耐熱合金を使用する必要がある。しかしながら、Ni基合金では、現在の製造技術によってフェライト系耐熱鋼と同等の大型材を製造することは困難である。
【0005】
そこで、蒸気流入側の動翼やロータなど、最も高温になり、材料として過酷な条件に曝される部分のみをNi基合金とし、他の部分は従来のフェライト系耐熱鋼として蒸気タービンの蒸気温度の上昇に対応することが検討されている。
【0006】
このようなNi基合金とフェライト系耐熱鋼を組み合わせた構造では、Ni基合金部分とフェライト系耐熱鋼部分を溶接などの手法で接合する必要がある。また、Ni基合金とフェライト系耐熱鋼の特性の相違に起因する問題が懸念されている。
【0007】
例えば、特開平9−157779号公報(特許文献1),特開2000−256770号公報(特許文献2)には、Ni基合金とフェライト系耐熱鋼の熱膨張係数差に起因する熱応力の緩和を目的として、熱膨張係数の低いNi基合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−157779号公報
【特許文献2】特開2000−256770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
Ni基合金と鉄鋼材料とを溶接により一体化した蒸気タービンでは、これらの間に溶接金属部を設けることとなる。本発明は、蒸気タービン溶接ロータの溶接、特に鉄鋼材料とNi基合金のような異材溶接継手に好適な溶接材料と、それを用いた信頼性の高い溶接ロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
蒸気タービンに適用されるNi基合金と鉄鋼材料とでは、熱膨張係数のみならず、強度,合金組織,熱処理条件なども異なっている。両者の強度,冶金学的な組織の安定性,熱処理条件の差異を、両者の境界部に相当する境界部に設ける溶接金属部や、それを形成する溶接材料で解消されていることが好ましい。このような蒸気タービンのNi基合金とフェライト系耐熱鋼との異材溶接に適した溶接材料として、本発明者らはNi−Fe基合金の開発に至った。本発明の溶接材料は、質量で、Cr:14〜18%,Al:1.0〜2.5,Mo+W:2.5〜5.0%,C:0.01〜0.10%,B:0.001〜0.03%,Fe:15〜20%を含み、残部が不可避的不純物とNiとからなるNi−Fe基合金よりなる。
【0011】
もしくは、必要に応じて、上記のNi−Fe基合金よりなる溶接材料には、Co,Ti,Nb,Si,Mnを添加してもよい。その場合、これらの含有量は、質量で、Co:0.1〜5.0%,Ti:0.1〜0.5%,Nb:0.1〜2.0%,Si:0.01〜0.3%,Mn:0.01〜0.3%の範囲とすることが好ましい。
【0012】
他の本発明は、上記の溶接材料を使用した溶接金属部を有する蒸気タービン用部材である。特に、Ni基合金と、鉄基合金とを組み合わせた異材溶接部を有する高温部材に好適である。特に、少なくとも一部の動翼をNi基合金とし、ロータシャフトを鉄基合金とした溶接ロータや、ロータの蒸気流入側(前段側)をNi基合金とし、蒸気流出側(後段側)を鉄基合金とした溶接ロータに好適である。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、Ni基合金と鉄鋼材料の溶接に好適な溶接材料を提供できる。また、信頼性の高い溶接ロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来溶接材料と本発明の比較。
【図2】クリープひずみ曲線。
【図3】実施例合金のクリープ破断時間を示す図である。
【図4】実施例合金のクリープ破断伸びを示す図である。
【図5】本発明の溶接材料を用いた蒸気タービンロータ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
鉄鋼材料とNi基合金、または鉄鋼材料とNi−Fe基合金など、異材を溶接した蒸気タービン用ロータの溶接材料として、本願の発明者らは、強度評価や熱力学計算等のNi基耐熱合金に関する研究を行い、溶接性に優れたNi−Fe基合金を開発した。
【0016】
図1に、従来の溶接材料で異材の溶接を行った場合について図で説明する。Ni基合金と耐熱鋼とを従来のNi基の合金を溶接材料として溶接した場合には、いくつかの問題が生じる場合があった。例えば、図1(a)は、Ti,Nbを多く含む従来材Aによる溶接を示す図である。この場合、Ni基合金と溶接材料とが混合される部分に、Ni基合金との金属間化合物層が多く生じた。Ni基合金の溶接材に含まれるTi,Nbと、Ni基側の基材によりη相などの金属間化合物が生じ、延性,靭性を低下させた。また、図1(b)はCrを多く含む従来材Bによる溶接を示す図である。この場合、鉄基合金と溶接材料の混じる部分に、Ni基合金の溶接材に含まれるCrと、鉄基側の基材により、σ相が生じ、溶接継手部材を脆化させる問題が生じた。
【0017】
図1(c)は、本発明の溶接金属を使用した溶接継手を示す図である。本発明の合金は、Nb,Ti量を抑え、また、Cr量を低減するとともに、Al量を多く添加した合金であり、溶接性に優れていた。このような合金を採用することで、上記のような有害相による溶接割れや高温条件下での特性の劣化が生じにくくなる。以下に、開発合金に含まれる各元素の効果と、合金組成の限定理由を述べる。
【0018】
Crは、表面にCr23からなる緻密な酸化皮膜を形成して耐酸化性,高温耐食性を向上させる元素である。本発明で対象とする高温部材に利用するためには少なくとも14%を含有することが必要である。しかし18%以上添加すると、σ相が析出して材料の延性,破壊靭性が悪化するため18%を超えない範囲とする。特に好適な範囲は13〜17%である。
【0019】
Alはγ′相(Ni3Al,Ni3Ti)を形成する元素であり、γ′相強化型のNi基合金の強化には不可欠な元素である。Al量はγ′相の固溶温度,析出量を支配する主要な因子であり、不足の場合には時効によるγ′相析出量が少なく、十分な強度が得られない。本発明の合金は、後述のように他の強化元素であるTi,Nb量が少ないため、十分な強度を得るためには少なくとも1.0%のAl量が必要であるが、2.5%を超えると溶接性と組織安定性が悪化する。好ましい範囲は2.4〜3.5%である。
【0020】
Mo,Wは固溶強化によって母相を強化する効果がある。本発明の合金は、通常のNi基耐熱合金で強化元素として添加されるTi,Nb,Taといった元素を含まないため、Mo,Wは比較的多量に添加している。十分な強化が得られるためには、5.0%以上の添加が必要であるが、10%を超えると、硬質で脆い金属間化合物相の生成を助長したり、高温鍛造性の悪化を招いたりする。より好ましい範囲は、6〜9%である。
【0021】
Cは母相に固溶して高温での引張強さを向上させると共に、MC,M236などの炭化物を形成することで粒界強度を向上させる。これらの効果は0.01%程度から顕著になるが、過剰なCの添加は粗大な共晶炭化物の原因となり、靭性の低下を招くため0.15%を上限とする。0.05〜0.12%の添加量が好ましい。
【0022】
Bは微量の添加で粒界を強化し、クリープ強度を改善する効果を有する。しかし、過剰な添加は有害相の析出や融点の低下による部分溶融の原因となることから、その適正範囲はB:0.001〜0.03とした。
【0023】
Coは、Niと置換して母相に固溶して高温強度を向上させる効果があり、高温耐食性にも寄与する。本発明の合金組成範囲では、これらの効果が顕著に認められるのは12%以上であるが、過剰な添加はσ相やμ相といった有害相の析出を助長するため、上限は25%とした。好ましい範囲は15〜20%である。
【0024】
本発明により、高温強度と延性のバランスが良好で、またNi基超合金と鉄鋼材料の溶接部で有害相を形成しない組織安定性に優れる溶接材料が得られ、溶接棒,溶接ワイヤ,溶接粉末などの形態で溶接部に供給される。また、この溶接材料により接合した溶接ロータは高い強度信頼性が得られる。
【実施例】
【0025】
表1に、実験に供した実施例合金と、比較合金の化学組成を示す。No.1〜10が本発明であり、No.11,14が比較合金である。これらの組成の合金10kgを高周波誘導加熱により溶解した後に、丸棒形状に熱間鍛造し、機械加工により試験材とした。
【0026】
【表1】

【0027】
図2はクリープ試験結果の時間−ひずみ曲線を示した。クリープ試験条件は、700℃,333MPaである。本発明合金の組成範囲ではAl量が多くなり、γ′相析出量が増加するにしたがってクリープ破断時間が長くなり、強度が上昇するが、延性を示す破断伸びはおよそ50%と良好で、Alが増えてもほとんど変化しないことが見て取れる。一方、Ti量を増加した比較合金では、破断時間は長くなるものの、伸びが半減しており、延性の観点で望ましくない。Nbを増やして強度を向上させた場合についても同様に延性の低下が見られた。図3,図4に各合金のクリープ試験(700℃,333MPa)のクリープ破断時間とクリープ破断伸びの結果を示す。実施例合金では、いずれも10時間以上のクリープ破断時間と30%以上のクリープ破断伸びが得られている。比較合金1,2では、Ti,Nbの添加により延性の低下が起こる。比較合金3では、強化元素(Al,Mo,W)の量が過剰であるため、有害相の析出が起こり、やはり延性が低下する。比較合金4は、延性に優れるが強化元素の添加量が不足しており、クリープ破断時間が極端に短い。
【0028】
従って、本発明の溶接合金は、Al量を増やしγ′相析出量を増加させて強度を上昇させた場合にも、延性の低下が生じにくい。また、η相,σ相の発生が少ないため、蒸気タービンの溶接部、特に異材継手の製造に好適である。
【0029】
図5に、本実施例の溶接材料を用いた蒸気タービン用溶接ロータの構造を示す。図5(A)に示す溶接ロータでは、Ni基合金よりなる部材と、耐熱鋼よりなる部材を有し、これらが本発明の溶接材料により直接溶接されている。また、図5(B)に示す溶接ロータでは、Ni基合金よりなる部材と、耐熱鋼よりなる部材を有し、これらの部材をNi基合金よりなる中間リングを介して溶接されている。いずれの場合においても、本発明の溶接材を好適に採用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量で、Cr:14〜18%,Al:1.0〜2.5,Mo+W:2.5〜5.0%,C:0.01〜0.10%,B:0.001〜0.03%,Fe:15〜20%を含み、残部が不可避的不純物とNiとからなることを特徴とするNi−Fe基合金。
【請求項2】
質量で、Cr:14〜18%,Al:1.0〜2.5,Mo+W:2.5〜5.0%,C:0.01〜0.10%,B:0.001〜0.03%,Fe:15〜20%を含み、Co,Ti,Nb,Si,Mnの少なくともいずれかを含有し、前記Co,Ti,Nb,Si,Mnを含む場合の含有量がCo:0.1〜5.0%,Ti:0.1〜0.5%,Nb:0.1〜2.0%,Si:0.01〜0.3%,Mn:0.01〜0.3%、であり、残部が不可避的不純物とNiとからなることを特徴とするNi−Fe基合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたNi−Fe基合金よりなることを特徴とする溶接材料。
【請求項4】
請求項3に記載された溶接材料であって、溶接棒,溶接ワイヤ,溶接粉末のいずれかの形状で用いられることを特徴とする溶接材料。
【請求項5】
鉄基合金よりなる第一の部材と、Ni基合金よりなるもしくはNi−Fe基合金よりなる第二の部材とを接合されて構成された蒸気タービン用のタービンロータであって、前記第一及び第二の部材は請求項3または4に記載された溶接材料により接合されていることを特徴とするタービンロータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−234397(P2010−234397A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83988(P2009−83988)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】