説明

溶接状態の異常判別装置

【課題】 溶接の途中におけるスパッタ発生時や異物の付着時においても、溶接状態の判別が正確にできる新規な溶接状態の異常判別装置を提供する。
【解決手段】 溶接中に発生した弾性波(AE)を検出してAE信号を出力するAEセンサ6と、このAEセンサ6からのAE信号を取り込んでA/D変換するA/D変換器11と、このA/D変換器11に接続されたCPU12と、上記AE信号が所定の振幅を超えたか否かを判別するための超過振幅基準値(Vu)及び持続時間基準値(Tk)がそれぞれ記憶されたメモリ13と、上記CPU12及びメモリ13を関連的に制御する制御ポログラム16と、を備え、上記CPU12は、上記メモリ13に記憶された超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)以下であると判別した場合には、溶接以外の異常により発生したAE信号であると判別する溶接状態の異常判別装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接状態の異常判別装置に関し、特に、AEセンサによりワークの溶接状態を監視して溶接の異常を検出するとともに、検出された溶接異常の内容を判別する溶接状態の異常判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス溶接、アーク溶接、レーザ溶接等による各種ワークの溶接において、該ワークの溶接部の溶け込み量が多い場合には溶接ビード面に凹凸が生じやすいとともに、溶け込み深さが過大になり溶接部にアンダーカットが生じ易く、逆に溶け込み量が少ない場合には溶け込み深さが浅く溶接力が低下する問題がある。これらを防止するために、例えば、レーザ溶接を行う場合に、レーザ溶接時に発生するアコースティックエミッション(弾性波:AE)をAEセンサにより検出し、このAE信号を予め記憶された基準データと比較して、実際のAE信号が前記基準データ以上或いは以下の場合には、さらにそのAE信号を予め記憶された各種非適切溶接条件のAE信号パターンと比較し、AE信号が上記AE信号パターンのいずれかに類似すると判断された場合には、そのパターンに該当する溶接条件を自動的に補正する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−155056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、溶接部の溶接状態を監視する場合において、例えば、レーザ溶接においては、溶接開始直後におけるレーザビームのワークに対する初期衝突時又は溶接途中におけるスパッタ発生時や異物の付着時においては、溶接により発生するアコースティックエミッション(AE)のほかに、溶接には貢献しない大きなAEを含む場合があることから、これらを除外したAE信号を基にして溶接異常の判別をしなければならない。しかしながら、上記特許文献1に開示された装置では、溶接開始直後における初期衝突時において発生する異常なAE信号は除外することができるが、溶接途中におけるスパッタ発生時や異物の付着時の異常なAE信号は除外することができない。このスパッタ発生時や異物の付着時に発生するAE信号は、正常な溶接状態のAE信号よりも高い値で発生するにもかかわらず溶接には貢献しない。したがって、上記特許文献1に係る装置では、溶接途中においてスパッタ発生時や異物の付着時により発生する異常なAE信号を含めた誤った溶接状態として判別されるので、その溶接異常の判別結果は、信頼性が低く、この信頼性が低い結果により溶接装置を自動的に又は手作業により補正するとすれば、本来適正な溶接条件を変更するという事態となりなりかねない。
【0005】
そこで、本発明は、上述した従来の技術による溶接状態の異常判別装置が有する課題を解決するために提案されたものであって、溶接の開始直後における初期衝突時ばかりでなく、溶接の途中におけるスパッタ発生時や異物の付着時においても、溶接状態の判別が正確にできる新規な溶接状態の異常判別装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、第1の発明(請求項1記載の発明)は溶接状態の異常判別装置に係るものであって、溶接装置により溶接されるワークに発生したアコースティックエミッション(弾性波:AE)を検出してAE信号を出力するAEセンサと、このAEセンサからのAE信号を取り込んで該AE信号をA/D変換するA/D変換器と、このA/D変換器に接続された中央演算処理装置と、この中央演算処理装置に接続され、溶接中に出力されたAE信号が所定の振幅を超えたか否かを判別するための超過振幅基準値(Vu)及び持続時間基準値(Tk)がそれぞれ記憶された記憶手段と、上記中央演算処理装置及び記憶手段を関連的に制御する制御手段と、を備え、上記中央演算処理装置は、溶接中に出力されたAE信号が所定の振幅を超えたか否かを、上記記憶手段に記憶された超過振幅基準値(Vu)と比較するとともに、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)を超えたか否かを判別し、上記実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)以下であると判別した場合には、溶接以外の異常により発生したAE信号であると判別することを特徴とするものである。
【0007】
この第1の発明によれば、溶接中に出力されたAE信号が上記超過振幅基準値(Vu)を超えた場合において、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が、上記持続時間基準値(Tk)よりも短いか又は等しい持続時間であれば溶接以外の異常によるAE信号であると判別し、又は、上記持続時間基準値(Tk)よりも長い持続時間であれば溶接の異常によるAE信号であると判別することができる。したがって、この発明では、溶接中に出力されたAE信号が上記超過振幅基準値(Vu)を超えた場合であっても、溶接以外の異常であると判別された際には、そのAE信号がスパッタの発生や異物の付着等による溶接には貢献しないAE信号、すなわち、スパッタの発生や異物が付着した部位を溶接することにより発生したAE信号をも取り込んだ状態で溶け込み量が正常な溶接か或いは異常な溶接であるかが判断されてしまう危険性を防止することができる。換言すれば、従来の装置では、上述したスパッタの発生や異物の付着等によるAE信号(溶接に貢献しないAE信号)であるか否かが判断されないことから、これらの溶接には貢献しないAE信号も含めた結果、本来溶接不良であると判断すべきところ正常な溶接であると判断されたり、逆に正常な溶接であると判断すべきところ異常な溶接であると判断されたりしまうことを、この発明では回避することができる。
【0008】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)は、前記第1の発明において、前記記憶手段には、溶接により発生するエネルギー値(E)の正常領域の上限側基準値であるエネルギー上限基準値(Ek)、上記エネルギー値(E)の正常領域の下限側基準値であるエネルギー下限基準値(Ek)がそれぞれ記憶され、前記中央演算処理装置は、前記AE信号から溶接により発生した実際の上記エネルギー値(E)を算出するとともに、該エネルギー値(E)を、上記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)と比較し、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)を超えた場合には、溶接状態が溶け込み量過多であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー下限基準値(Ek)に満たない場合には、溶接状態が溶け込み量過少であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)以下であり且つ上記エネルギー下限基準値(Ek)以上である場合には、正常な溶接であるとそれぞれ判別することを特徴とするものである。
【0009】
この第2の発明によれば、前記エネルギー値(E)と前記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)とに基づき、前記エネルギー値(E)が上限側基準値であるエネルギー上限基準値(Ek)を超えた場合には、溶け込み量(深さ)過多の異常であると判別することができる。また、前記エネルギー値(E)が下限側基準値であるエネルギー下限基準値(Ek)に満たない場合には、溶け込み量過少の異常であると判別することができる。また、前記エネルギー値(E)が上限側基準値であるエネルギー上限基準値(Ek)以下であり、且つ下限側基準値であるエネルギー下限基準値(Ek)以上である場合には、溶け込み量正常であると判別することができる。したがって、溶接状態が異常であるか正常であるかの判別のみならず、それぞれの判別原因の内容が明らかになることから、各判別原因に基づく後処理への対応が容易にできる。すなわち、この発明では、溶接状態が溶け込み量過多である場合と、溶接状態が溶け込み量過少である場合との種類をそれぞれ溶接異常とし、それ以外は正常な溶接であると判別するとともに、これら溶接異常であるか、正常な溶接であるかの判別は、上記実際のエネルギー値(E)が上記上限基準値(Ek)と下限基準値(Ek)とを基にそれぞれ判別するものであることから、より一層精度の高い溶接状態の判別を行うことができる。なお、前記溶け込み量過多の異常又は溶け込み量過少の異常であると判別された場合には、ブザーを設けてその警告音により作業者に警告をするようにしても良いし、表示手段を設けて表示することにより作業者が監視できるようにしても良い。また、異常であると判別された場合には、自動的に溶接装置を停止するようにしても良い。
【0010】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)は、前記第1の発明において、前記記憶手段には、溶接により発生するエネルギー値(E)の正常領域の上限側基準値であるエネルギー上限基準値(Ek)、上記エネルギー値(E)の正常領域の下限側基準値であるエネルギー下限基準値(Ek)がそれぞれ記憶され、前記中央演算処理装置は、溶接中に出力されたAE信号が所定の振幅を超えたか否かを、上記記憶手段に記憶された超過振幅基準値(Vu)と比較するとともに、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)を超えたか否かを判別し、上記実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)以下であると判別した場合には、溶接以外の異常により発生したAE信号であると判別するとともに、上記超過振幅基準値(Vu)を超えた異常エネルギー値(Ev)を算出し、その後、上記AE信号から溶接により発生した実際の上記エネルギー値(Eg)を算出するとともに、該エネルギー値(Eg)から上記異常エネルギー値(Ev)を減算し、この減算されたエネルギー値(E)を、上記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)と比較し、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)を超えた場合には、溶接状態が溶け込み量過多であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー下限基準値(Ek)に満たない場合には、溶接状態が溶け込み量過少であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)以下であり且つ上記エネルギー下限基準値(Ek)以上である場合には、正常な溶接であるとそれぞれ判別することを特徴とするものである。
【0011】
この第3の発明によれば、溶接中に出力されたAE信号が前記超過振幅基準値(Vu)を超えた場合において、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が、前記持続時間基準値(Tk)よりも短いか又は等しい持続時間であれば溶接以外の異常によるAE信号であると判別して、上記超過振幅基準値(Vu)を超えた異常エネルギー値(Ev)を算出し、その後、上記AE信号から溶接により発生した実際の上記エネルギー値(Eg)を算出するとともに、該エネルギー値(Eg)から上記異常エネルギー値(Ev)を減算し、この減算されたエネルギー値(E)を、上記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)と比較して、溶接状態が溶け込み量過多、溶け込み量過少又は溶け込み量正常であるとそれぞれ判別することができる。したがって、溶接中に出力されたAE信号が溶接以外の異常によるAE信号であると判別されても、その時点で良否の判別はせず、実質的に溶接に貢献するエネルギー値(E)が算出され、このエネルギー値(E)により溶接状態が溶け込み量過多、溶け込み量過少又は溶け込み量正常であるかを判別することができる。すなわち、スパッタの発生や異物が付着した部位を溶接することにより発生したAE信号をも取り込んだ状態で溶け込み量が正常な溶接か或いは異常な溶接であるかが判断されてしまう危険性を防止することができる。
【0012】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)は、上記第1の発明において、前記中央演算処理装置にはディスプレイが接続され、このディスプレイには、前記持続時間(Tt)と前記持続時間基準値(Tk)とに基づき前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号が溶接以外の異常によると判別された場合の判別結果が表示されるようにしたことを特徴とするものである。
【0013】
この第4の発明によれば、前記ディスプレイには、前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号が溶接以外の異常によると判別された場合の判別結果が表示されることから、スパッタや異物がワークに付着又は落下することのないように対策を施すための端緒として利用することができる。
【0014】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)は、上記第2又は3の発明において、前記中央演算処理装置にはディスプレイが接続され、このディスプレイには、前記エネルギー値(E)と前記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)とに基づき溶け込み量過多、溶け込み量過少又は溶け込み量正常と判別された判別結果がそれぞれ表示されるようにしたことを特徴とするものである。
【0015】
この第5の発明によれば、前記ディスプレイには、溶け込み量過多、溶け込み量過少又は溶け込み量正常と判別された判別結果がそれぞれ表示されることから、溶接状態を把握できない作業者は、前記ディスプレイの視認により溶接状態を把握することができる。また、それぞれの判別原因の内容が明らかになることから、溶け込み量過多又は溶け込み量過少の異常と判別された場合には、これらの異常状態を改善すべく対策を施すことができる。
【発明の効果】
【0016】
上記第1の発明(請求項1記載の発明)に係る溶接状態の異常判別装置では、従来の装置では、上述したスパッタの発生や異物の付着等によるAE信号(溶接に貢献しないAE信号)であるか否かが判断されないことから、これらの溶接には貢献しないAE信号も含めた結果、本来溶接不良であると判断すべきところ正常な溶接であると判断されたり、逆に正常な溶接であると判断すべきところ異常な溶接であると判断されたりしまうことを、この発明では回避することができる。その結果、溶接部にスパッタが発生した場合や異物が付着した部位を溶接することによりAE信号が発生した場合であっても、精度の高い溶接状態の判別を行うことができるので、品質の向上及び製造原価の低減を図ることができる。
【0017】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)では、溶接状態が溶け込み量過多である場合と、溶接状態が溶け込み量過少である場合との種類をそれぞれ溶接異常とし、それ以外は正常な溶接であると判別するとともに、これら溶接異常であるか、正常な溶接であるかの判別は、上記実際のエネルギー値(E)が上記上限基準値(Ek)と下限基準値(Ek)とを基にそれぞれ判別するものであることから、より一層精度の高い溶接状態の判別を行うことができる。その結果、品質の向上及び製造原価の低減を図ることができる。
【0018】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)では、溶接中に出力されたAE信号が溶接以外の異常によるAE信号であると判別されても、その時点で良否の判別はせず、実質的に溶接に貢献するエネルギー値(E)が算出され、このエネルギー値(E)により溶接状態が溶け込み量過多、溶け込み量過少又は溶け込み量正常であるかを判別することができる。すなわち、スパッタの発生や異物が付着した部位を溶接することにより発生したAE信号をも取り込んだ状態で溶け込み量が正常な溶接か或いは異常な溶接であるかが判断されてしまう危険性を防止することできるので、品質の向上及び製造原価の低減を図ることができる。
【0019】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)では、前記ディスプレイには、前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号が溶接以外の異常によると判別された場合の判別結果が表示されることから、スパッタや異物がワークに付着又は落下することのないように対策を施すための端緒として利用することができる。その結果、品質の向上及び製造原価の低減を図ることができる。
【0020】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)では、前記ディスプレイには、溶け込み量過多、溶け込み量過少又は溶け込み量正常と判別された判別結果がそれぞれ表示されることから、溶接状態を把握できない作業者は、前記ディスプレイの視認により溶接状態を把握することができる。また、それぞれの判別原因の内容が明らかになることから、溶け込み量過多又は溶け込み量過少の異常と判別された場合には、これらの異常状態を改善すべく対策を施すことができる。その結果、作業者の疲労軽減、品質の向上及び製造原価の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る溶接状態の異常判別装置の実施の形態を模式的に示すブロック図である。
【図2】レーザ溶接時におけるAE信号の波形例を示し、(a)は通常の波形例、(b)は溶接途中にスパッタが発生した場合の波形例、(c)はワークに異物が付着していた場合の波形例を示す。
【図3】溶接状態の異常を判別する動作を示すフローチャートである。
【図4】他の実施の形態にかかる溶接状態の異常を判別する動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための溶接状態の異常判別装置に係る形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
この実施の形態に係る溶接状態の異常判別装置1は、図1に示すレーザ溶接装置2によりワークWに溶接加工された際に溶接部に異常が発生したか否かを判別する装置であって、ワークWに固定されたAEセンサ6を構成要素としている。このAEセンサ6は、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)などの圧電素子を構成要素とし、ワークWの溶接部に発生する局部的な変形や破壊が生ずるときに発生するとともに、ワークW内を伝播するアコースティックエミッション(AE:弾性波)を検出してAE信号を出力するものである。このAEセンサ6にはプリアンプ7が接続され、このプリアンプ7により、上記AEセンサ6から伝送されたAE信号は微弱であるため、該プリアンプ7の予め設定された増幅条件により上記AE信号が増幅される。なお、このプリアンプ7は、上記AEセンサ6に内蔵されていても良く、該プリアンプ7がAEセンサ6内に内蔵されることによって高感度で低雑音な特性を得ることができる。
【0024】
また、このプリアンプ7にはフィルタ8が接続され、このフィルタ8は、必要な範囲の周波数のみを通し、他の周波数は通さない(減衰させる)という機能を有するバンドパスフィルタである。このフィルタ8により、上記プリアンプ7から伝送されたAE信号のうち、溶接部の溶け込みに関係した特定の周波数成分をもつAE信号のみが予め設定された弁別条件(周波数帯の閾値)により弁別されて通過することができる。このフィルタ8にはメインアンプ9が接続され、このメインアンプ9により、上記フィルタ8から伝送されたAE信号は予め設定された増幅条件により増幅される。このメインアンプ9にはA/D変換器11が接続され、このA/D変換器11により、上記メインアンプ9から伝送されたAE信号はデジタル化され、該A/D変換器11に接続されたCPU(中央演算処理装置)12に伝送される。
【0025】
このCPU12にはメモリ13が接続され、このメモリ13は、メインメモリ13aとサブメモリ13bとから構成されている。このメモリ13が接続されたCPU12では、前記A/D変換器11からデジタル化されたAE信号が該CPU12に取り込まれると、後述するサブメモリ13bに記憶された各基準値やプログラムがメインメモリ13aにそれぞれ読み出され、該CPU12によりAE信号の持続時間や、後述する実際のエネルギー値(E)を算出するとともに、後述する溶接異常の判別がされる。そして、上記メモリ13のうちサブメモリ13bには、後述するようにCPU12が異常有無を判別するための各基準値や、該CPU12が後述する動作を行うためのプログラムがそれぞれ記憶されている。また、このサブメモリ13bには、後述する「溶接以外の異常」を表示する第1の表示情報と、「溶け込み量過多」を表示する第2の表示情報と、「溶け込み量過小」を表示する第3の表示情報と、「溶け込み量正常」を表示する第4の表示情報が記憶されている。一方、上記メインメモリ13aは、上記CPU12により、上記サブメモリ13bから適宜読み出した情報を記憶し、また、前記AEセンサ6を介して取り込まれA/D変換器11によりデジタル化されたAE信号、このAE信号が所定の振幅を超えた持続時間、上記AE信号から計算されたエネルギー値(E)等がそれぞれ記憶されるものである。
【0026】
そして、前記サブメモリ13bには、溶接中に出力されたAE信号が所定の振幅を超えたか否かを判別するための超過振幅基準値(Vu)、この超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)と比較して該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号が溶接の異常により発生したか、又は溶接以外の異常により発生したかを判別するための所定の持続時間基準値(Tk)、溶接により発生するエネルギー値(E)の正常領域の上限側基準値であるエネルギー上限基準値(Ek)及び前記エネルギー値(E)の正常領域の下限側基準値であるエネルギー下限基準値(Ek)がそれぞれ予め記憶されている。
【0027】
ここで、前記持続時間基準値(Tk)は、前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の持続時間(Tt)が、該持続時間基準値(Tk)を超えたと判別された場合には、溶接の異常によるAE信号であると判断し、該持続時間基準値(Tk)以下であると判別された場合には、溶接以外の異常によるAE信号であると前記CPU12が判別するためのものである。すなわち、上記超過振幅基準値(Vu)よりも大きな振幅であるが上記持続時間基準値(Tk)以下の持続時間(Tt)に発生したAE信号であると前記CPU12が判別した場合には、溶接には貢献しない突発的なAE信号であって、スパッタの発生時や異物の付着時に発生するAE信号であることが明らかであることから、後述するように、溶接以外の異常によるAE信号であると判断される。これに対して、上記超過振幅基準値(Vu)よりも大きな振幅であるとともに、上記持続時間基準値(Tk)を超えた持続時間(Tt)のAE信号があると前記CPU12が判別した場合は、突発的なAE信号ではなく、溶け込み量過多の可能性があるAE信号であることから、さらに、前記エネルギー値(E)がエネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)の範囲内であるか否かの判別を経て溶接異常であるか、又は正常であるかが後述するように判別される。
【0028】
また、このサブメモリ13bには、前記各基準値のほかに、後述するレーザ溶接装置2がレーザビームの照射を開始してからAE信号を取込み開始するまでの取込み待機時間(Ts)と、前記エネルギー値(E)を算出するためにAE信号を取込む所定の時間である取込み時間(Tc)とがそれぞれ予め記憶されている。これらのうち前者の取込み待機時間(Ts)は、後述するレーザ溶接装置2からレーザビームが照射された溶接開始の直後においては、溶接により発生するAEのほかに、レーザビームの初期衝突により溶接には貢献しない大きなAEを含む場合があることから(図2(a)参照)、これらを除外したAE信号を基にして溶接異常の判別をするための待機時間である。また、後者の取込み時間(Tc)は、1溶接部の開始から終了までの間に前記エネルギー値(E)を算出する回数に対応して設定される。そして、上記エネルギー値(E)は、上記取込み時間(Tc)内に取込まれたAE信号の面積を前記CPU12により積分して算出される。さらに、このサブメモリ13bには、後にフローチャートを用いて説明する動作を行うためのプログラムが記憶されている。
【0029】
また、前記CPU12には、図1に示すディスプレイ(モニタ)14が接続され、このディスプレイ14の図示しない表示部には、前記CPU12により溶接以外の異常と判別された場合は、前記サブメモリ13bに記憶された第1の表示情報「溶接以外の異常」を意味する情報が表示され、溶け込み量過多と判別された場合は、前記サブメモリ13bに記憶された第2の表示情報「溶け込み量過多」を意味する情報が表示され、溶け込み量過小と判別された場合は、前記サブメモリ13bに記憶された第3の表示情報「溶け込み量過小」を意味する情報が表示され、溶け込み量正常と判別された場合は、前記サブメモリ13bに記憶された第4の表示情報「溶け込み量正常」を意味する情報がそれぞれ選択的に表示され、判別の内容が識別できるようになっている。また、上記CPU12により溶け込み量過多又は溶け込み量過小と判別された場合には、前記ディスプレイ14に異常内容がそれぞれ表示されるとともに、上記CPU12から後述するレーザ照射装置21にレーザビームの照射を中断する照射信号(符号は省略する)が伝送される。
【0030】
また、前記CPU12には、キーボード15が接続され、このキーボード15により、上述した超過振幅基準値(Vu)、持続時間基準値(Tk)、エネルギー上限基準値(Ek)、エネルギー下限基準値(Ek)、取込み待機時間(Ts)及び取込み時間(Tc)が入力され、これらの各入力値が前記メモリ13のサブメモリ13bにそれぞれ記憶される。また、このキーボード15により、上述したプリアンプ7の増幅条件、フィルタ8の弁別条件、メインアンプ9の増幅条件及びA/D変換器11のサンプリング周波数(単位時間当たりに標本を採る頻度)が入力されて、前記サブメモリ13bに記憶され、前記CPU12から前記プリアンプ7、フィルタ8、メインアンプ9及びA/D変換器11に図1に示す条件設定信号(符号は省略する)としてそれぞれ伝送される。なお、前記CPU12には、図示しないブザーを接続することにより、前記CPU12により溶け込み量過多と判別された場合は、上記ブザーから警告音を発するとともに前記第2の表示情報「溶け込み量過多」表示し、溶け込み量過小と判別された場合は、上記ブザーから警告音を発するとともに第3の表示情報「溶け込み量過小」表示するようにしても良い。
【0031】
また、図1に示すAEセンサ6は、ワークWに直接固定されている場合を示すものであるが、例えば、後述する取付け治具24や図示しないワークWのチャッキング装置などに固定してもAEを検出することができる。この取付け治具24等にAEセンサ6を固定する場合には、ワークWが取り替えられる度に該AEセンサ6を着脱する煩雑さはないが、ワークWの溶接部に発生するAEが取付け治具24を介して間接的に検出されることから、ワークWに直接固定されている場合に比べ、AEの検出精度がやや劣る。
【0032】
次に、ワークWに溶接をするためのレーザ溶接装置2は、図1に示すように、レーザビームを発振して照射するレーザ照射装置21と、このレーザ照射装置21により発振されたレーザビームを伝送する光路構造体22と、この光路構造体22により伝送されたレーザビームをワークWの溶接部に照射するレーザ照射ヘッド23とにより構成されている。また、このレーザ溶接装置2により溶接されるワークWは、取付け治具24により固定され、この取付け治具24は、床面に設置された溶接台25上に固定されている。なお、前記レーザ溶接装置2により照射されるレーザビームの照射開始、照射終了又は照射中断をさせる指令は、図1に示す前記CPU12からの照射信号(符号は省略する)により指令される。
【0033】
次に、この溶接状態の異常判別装置1によりワークWの溶接部に異常が発生したか否かを判別する手順及び作用効果について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。この溶接部の異常を判別する前の準備段階において、上述したプリアンプ7の増幅条件、フィルタ8の弁別条件、及びメインアンプ9の増幅条件は、予めそれぞれ設定されている。また、上述した超過振幅基準値(Vu)、持続時間基準値(Tk)、エネルギー上限基準値(Ek)、エネルギー下限基準値(Ek)、取込み待機時間(Ts)及び取込み時間(Tc)は、予めサブメモリ13bにそれぞれ記憶されている。
【0034】
最初のステップSt1において、上記CPU12により、ワークWにレーザビームの照射が開始されたか否かが判別され、照射が開始されていると判別された場合には次のステップSt2に進み、開始されていないと判別された場合には、ステップSt1に戻って繰り返される。次のステップSt2に進んだ場合には、上記CPU12により、レーサビームの照射を開始してから取込み待機時間(Ts)だけ待機させた後(図2(a)参照)、次のステップSt3に進む。このステップSt3では、AEセンサ6から取込み時間(Tc)の間に伝送されたAE信号をCPU12が取込むとともに、この取込まれたAE信号を上記CPU12がメモリ13に一時記憶させた後、次のステップSt4に進む。なお、上記ステップSt2における取込み待機時間(Ts)は、上述したように、レーザビームが照射された溶接開始の直後においては、溶接により発生するAEのほかに、レーザビームの初期衝突により溶接には貢献しない大きなAEを含む場合があることから(図2(a)参照)、これらを除外したAE信号を基にして溶接異常の判別をするための待機時間である。
【0035】
そして、次のステップSt4では、前記取込み時間(Tc)の間に取込まれたAE信号には、超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号を含むか否かが上記CPU12により判別され(図2(b)、又は同図(c)参照)、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号を含むと判別された場合にはステップSt5に進み、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号は含まないと判別された場合には後述するステップSt8に進む。一方のステップSt5に進んだ場合には、上記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)を上記CPU12が計測(図2(b)、又は同図(c)参照)し、次のステップSt6に進む。この次のステップSt6では、上記持続時間(Tt)は持続時間基準値(Tk)以下であるか否かが上記CPU12により判別され、該持続時間(Tt)が持続時間基準値(Tk)以下であると判別された場合にはステップSt7に進み、該持続時間(Tt)が持続時間基準値(Tk)を超えたと判別された場合には後述するステップSt8に進む。
【0036】
このステップSt6における上記CPU12の判別は、前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号が、異常な溶接により発生したAEによるものであるか否かを判別するものであって、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の持続時間(Tt)が前記持続時間基準値(Tk)を超えたか否かにより判別される。すなわち、上記超過振幅基準値(Vu)よりも大きな振幅であるが上記持続時間基準値(Tk)以下の持続時間(Tt)で発生したAE信号は、溶接には貢献しない突発的なAE信号であって、図2(b)又は同図(c)に示すスパッタの発生時や異物の付着時に発生するAE信号であることが明らかであることから、溶接以外の異常によるAE信号であると判断することができる。これに対して、上記超過振幅基準値(Vu)よりも大きな振幅であるとともに、上記持続時間基準値(Tk)を超えた持続時間(Tt)のAE信号は、突発的なAE信号ではなく、溶け込み量過多の原因となる場合があることから、さらに、後述するステップSt8において算出したエネルギー値(E)が、エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)の範囲内であるか否かの判別(ステップSt9,11)を経て溶接異常であるか、又は正常であるかの判別をしなければならない。
【0037】
そして、前記ステップSt6から一方のステップSt7に進んだ場合には、前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号は、前記持続時間(Tt)が持続時間基準値(Tk)以下であると上記CPU12により判別され、スパッタの発生時や異物の付着時に発生する溶接異常以外のAE信号によるものであるから、このステップSt7において、図1に示すディスプレイ14の図示しない表示部に、上記サブメモリ13bに予め記憶されている第1の表示情報「溶接以外の異常」を表示させて、次のステップSt14に進む。このステップSt14においては、レーザビームの照射を中断してワークWの溶接部に異常が発生したか否かを判別する動作が終了される(溶接作業が中断される)。
【0038】
また、前記ステップSt4において、前記取込み時間(Tc)の間に取込まれたAE信号には、前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号を含まないと上記CPU12により判別された場合、又は、該持続時間(Tt)が持続時間基準値(Tk)を超えたと判別された場合には、ステップSt8に進み、このステップSt8において、上記CPU12によりエネルギー値(E)が算出され、次のステップSt9に進む。なお、エネルギー値(E)は、上述したように、前記取込み時間(Tc)内に取込まれたAE信号の面積を前記CPU12により積分して算出される。次のステップSt9においては、エネルギー値(E)は正常領域のエネルギー上限基準値(Ek)を超えたか否かが上記CPU12により判別され、エネルギー値(E)がエネルギー上限基準値(Ek)を超えたと判別された場合には、ステップSt10に進み、エネルギー値(E)がエネルギー上限基準値(Ek)を超えていないと判別された場合にはステップSt11に進む。
【0039】
一方のステップSt10に進んだ場合には、エネルギー値(E)がエネルギー上限基準値(Ek)を超えたと上記CPU12により判別され、溶接状態が溶け込み量過多であることから、このステップSt10において、図1に示すディスプレイ14の図示しない表示部に、上記サブメモリ13bに予め記憶されている第2の表示情報「溶け込み量過多」を表示させて、次のステップSt14に進む。なお、上記CPU12に図示しないブザーを接続した場合には、前記「溶け込み量過多」の表示とともに警告音を発することができる。次のステップSt14において、レーザビームの照射を中断してワークWの溶接部に異常が発生したか否かを判別する動作が終了される(溶接作業が中断される)。この際、作業者は、この中断の間に前記エネルギー値(E)をエネルギー上限基準値(Ek)以下に補正すべく、前記キーボード15により、レーザビームの照射を所定の出力だけ減少させることができる。
【0040】
また、前記ステップSt9から他方のステップSt11に進んだ場合には、エネルギー値(E)は正常領域のエネルギー下限基準値(Ek)に満たないか否かが上記CPU12により判別され、エネルギー値(E)がエネルギー下限基準値(Ek)に満たないと判別された場合には、ステップSt12に進み、エネルギー値(E)がエネルギー下限基準値(Ek)を満たしたと判別された場合にはステップSt13に進む。
【0041】
このステップSt11から一方のステップSt12に進んだ場合には、エネルギー値(E)はエネルギー下限基準値(Ek)に満たないと上記CPU12により判別され、溶接状態が溶け込み量過少であることから、このステップSt12において、図1に示すディスプレイ14の図示しない表示部に、上記サブメモリ13bに予め記憶された第2の表示情報「溶け込み量過少」を表示させて、次のステップSt14に進む。なお、上記CPU12に図示しないブザーを接続した場合には、前記「溶け込み量過少」の表示とともに警告音を発することができる。次のステップSt14においては、前記ステップSt10に進んだ場合と同様に、上記CPU12によりレーザビームの照射を中断して溶接作業が中断される。この際、作業者は、この中断の間に前記エネルギー値(E)をエネルギー下限基準値(Ek)以上に補正すべく、前記キーボード15により、レーザビームの照射を所定の出力だけ増加させることができる。
【0042】
また、前記ステップSt11から他方のステップSt13に進んだ場合には、エネルギー値(E)はエネルギー下限基準値(Ek)を満たしたと上記CPU12により判別されたとともに、前記ステップSt9においてエネルギー上限基準値(Ek)を超えていないと判別され、溶接状態が溶け込み量正常であることから、このステップSt13において、図1に示すディスプレイ14の図示しない表示部に上記サブメモリ13bに記憶された第4の表示情報「溶け込み量正常」が表示され、次のステップSt15に進む。このステップSt15においては、溶接の形態は連続溶接であるか否かが上記CPU12により判別され、連続溶接であると判別された場合には、次のステップSt16に進み、連続溶接ではないと(スポット溶接であると)判別された場合には、ワークWの溶接部に異常が発生したか否かを判別する1溶接部の動作が終了される。このステップSt15から次のステップSt16に進んだ場合には、このステップSt16において、レーザビームは照射を継続しているか否かが上記CPU12により判別され、レーザビームの照射が継続していると判別された場合には、ステップSt3に戻り、上述した異常が発生したか否かを判別する動作が繰り返される。また、このステップSt16において、レーザビームの照射が継続していないと上記CPU12により判別された場合には、ワークWの溶接部に異常が発生したか否かを判別する1溶接部の動作が終了される。
【0043】
以上のように、溶接中に出力されたAE信号が前記超過振幅基準値(Vu)を超えた場合であっても、前記ステップSt6において、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が前記持続時間基準値(Tk)以下であるか否かが判別され、該持続時間基準値(Tk)以下であれば溶接以外の異常によるAE信号であると判別されるので、溶接以外の異常であると判別された際には、そのAE信号がスパッタの発生や異物の付着等による溶接には貢献しないAE信号、すなわち、スパッタの発生や異物の付着等により発生したAE信号をも取り込んだ状態で溶け込み量が正常な溶接か或いは異常な溶接であるかが判断されてしまう危険性を防止することができる。
【0044】
次に、上述した溶接状態の異常判別装置1の他の実施の形態について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。なお、この他の実施の形態に係る溶接状態の異常判別装置1の構成は、上述した実施の形態と同様であるため説明を省略する。また、図4に示すステップSt1からステップSt6までについても、上述した実施の形態の図3に示すフローチャートと同一であるため説明を省略する。
【0045】
そして、ステップSt1からステップSt6まで進み、このステップSt6において、前記持続時間(Tt)が持続時間基準値(Tk)以下であると判別された場合にはステップSt7aに進む。このステップSt7aでは、前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号により発生した異常エネルギー値(Ev)を算出して次のステップSt7bに進む。このステップSt7bでは、溶接により発生した上記異常エネルギー値(Ev)を含むエネルギー値(Eg)を算出して次のステップSt7cに進む。このステップSt7cでは、上記エネルギー値(Eg)から異常エネルギー値(Ev)を減算して次のステップSt9に進む。
【0046】
そして、次のステップSt9においては、エネルギー値(E)は正常領域のエネルギー上限基準値(Ek)を超えたか否かが上記CPU12により判別され、エネルギー値(E)がエネルギー上限基準値(Ek)を超えたと判別された場合には、ステップSt10に進み、エネルギー値(E)がエネルギー上限基準値(Ek)を超えていないと判別された場合にはステップSt11に進む。以下は、上述した実施の形態の図3に示すフローチャートと同一であるため説明を省略する。
【0047】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、例えば、溶接状態の異常判別装置1は、溶け込み量過多の異常又は溶け込み量過少の異常であると判別された場合には、ブザーの警告音により作業者に異常を警告するとともに、ディスプレイ14に異常の内容を表示することにより作業者が溶接状態を監視できる形態により説明したが、自動的に補正をするようにしても良い。例えば、溶け込み量過多又は溶け込み量過少の異常と判断された場合には、前記ステップSt10,12(図3参照)の次に補正を指令するステップを設けるとともに、CPU12にレーザ出力制御プログラムを接続して、CPU12からレーザ照射装置21にレーザビームの照射を所定の出力だけ減少又は増加させる自動補正をするようにすることができる。また、ワークWを溶接する装置はレーザ溶接装置2により説明したが、例えば、ガス溶接装置やアーク溶接装置により溶接された溶接状態の異常判別も上記と同様に実施することができる。
【0048】
また、前述した装置では、AEセンサからのAE信号を取り込んで該AE信号をA/D変換するA/D変換器と、中央演算処理装置とを接続し、各種の信号を制御手段により制御したものを説明したが、例えば、上記実施の形態に係るメインアンプ9に図示しない積分回路を接続し、この積分回路にてAE信号に基づくエネルギー値(E)を算出し、この積分回路に、前記基準値である超過振幅基準値(Vu)が記憶された第1の比較回路を接続し、この第1の比較回路にて、上記超過振幅基準値(Vu)とAE信号に基づく振幅値とを比較するとともに、上記第1の比較回路に接続され持続時間基準値(Tk)が記憶された第2の比較回路にて、上記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)を超えたか否かを判別し、この第2の比較回路において、上記実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)以下であると判別した場合には、溶接以外の異常により発生したAE信号であると判別するものであっても良い。
【符号の説明】
【0049】
1 溶接状態の異常判別装置
2 レーザ溶接装置
6 AEセンサ
8 フィルタ
11 A/D変換器
12 CPU
13 メモリ
14 ディスプレイ
16 制御プログラム
21 レーザ照射装置
23 レーザ照射ヘッド
24 取付け治具
25 溶接台
W ワーク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接装置により溶接されるワークに発生したアコースティックエミッション(弾性波:AE)を検出してAE信号を出力するAEセンサと、
このAEセンサからのAE信号を取り込んで該AE信号をA/D変換するA/D変換器と、
このA/D変換器に接続された中央演算処理装置と、
この中央演算処理装置に接続され、溶接中に出力されたAE信号が所定の振幅を超えたか否かを判別するための超過振幅基準値(Vu)及び持続時間基準値(Tk)がそれぞれ記憶された記憶手段と、
上記中央演算処理装置及び記憶手段を関連的に制御する制御手段と、
を備え、
上記中央演算処理装置は、溶接中に出力されたAE信号が所定の振幅を超えたか否かを、上記記憶手段に記憶された超過振幅基準値(Vu)と比較するとともに、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)を超えたか否かを判別し、上記実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)以下であると判別した場合には、溶接以外の異常により発生したAE信号であると判別することを特徴とする溶接状態の異常判別装置。
【請求項2】
前記記憶手段には、溶接により発生するエネルギー値(E)の正常領域の上限側基準値であるエネルギー上限基準値(Ek)、上記エネルギー値(E)の正常領域の下限側基準値であるエネルギー下限基準値(Ek)がそれぞれ記憶され、
前記中央演算処理装置は、前記AE信号から溶接により発生した実際の上記エネルギー値(E)を算出するとともに、該エネルギー値(E)を、上記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)と比較し、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)を超えた場合には、溶接状態が溶け込み量過多であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー下限基準値(Ek)に満たない場合には、溶接状態が溶け込み量過少であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)以下であり且つ上記エネルギー下限基準値(Ek)以上である場合には、正常な溶接であるとそれぞれ判別することを特徴とする請求項1記載の溶接状態の異常判別装置。
【請求項3】
前記記憶手段には、溶接により発生するエネルギー値(E)の正常領域の上限側基準値であるエネルギー上限基準値(Ek)、上記エネルギー値(E)の正常領域の下限側基準値であるエネルギー下限基準値(Ek)がそれぞれ記憶され、
前記中央演算処理装置は、溶接中に出力されたAE信号が所定の振幅を超えたか否かを、上記記憶手段に記憶された超過振幅基準値(Vu)と比較するとともに、該超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号の実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)を超えたか否かを判別し、上記実際の持続時間(Tt)が上記持続時間基準値(Tk)以下であると判別した場合には、溶接以外の異常により発生したAE信号であると判別するとともに、上記超過振幅基準値(Vu)を超えた異常エネルギー値(Ev)を算出し、その後、上記AE信号から溶接により発生した実際の上記エネルギー値(Eg)を算出するとともに、該エネルギー値(Eg)から上記異常エネルギー値(Ev)を減算し、この減算されたエネルギー値(E)を、上記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)と比較し、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)を超えた場合には、溶接状態が溶け込み量過多であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー下限基準値(Ek)に満たない場合には、溶接状態が溶け込み量過少であると判別して溶接異常とし、該エネルギー値(E)が上記エネルギー上限基準値(Ek)以下であり且つ上記エネルギー下限基準値(Ek)以上である場合には、正常な溶接であるとそれぞれ判別することを特徴とする請求項1記載の溶接状態の異常判別装置。
【請求項4】
前記中央演算処理装置にはディスプレイが接続され、
このディスプレイには、前記持続時間(Tt)と前記持続時間基準値(Tk)とに基づき前記超過振幅基準値(Vu)を超えたAE信号が溶接以外の異常によると判別された場合の判別結果が表示されるようにしたことを特徴とする請求項1記載の溶接状態の異常判別装置。
【請求項5】
前記中央演算処理装置にはディスプレイが接続され、
このディスプレイには、前記エネルギー値(E)と前記エネルギー上限基準値(Ek)及びエネルギー下限基準値(Ek)とに基づき溶け込み量過多、溶け込み量過少又は溶け込み量正常と判別された判別結果がそれぞれ表示されるようにしたことを特徴とする請求項2又は3記載の何れかの溶接状態の異常判別装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−266404(P2010−266404A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120115(P2009−120115)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(594078685)日本フィジカルアコースティクス株式会社 (8)
【出願人】(591072411)西進商事株式会社 (10)
【Fターム(参考)】