説明

溶液中の電気化学的輸送による選択的カチオン抽出のための方法、装置およびその方法の使用法

【課題】溶液中での電気化学的輸送による第1電解液(E1)から第2電解液(E2)への選択的なカチオン(Mn+)の抽出法を提供する。
【解決手段】電解質分離壁としてモリブデンクラスターとのカルコゲニドであるMon+2又はMMon+2で作成された輸送壁を用い且つ、第1電解液の側の輸送壁で複数のカチオンの交互配置、輸送壁の中で複数のカチオンの分散、そして第2電解液中でのそれらの交互配置解除を生じさせるために第1電解液(E1)中の電極A1と第2電解液(E2)中の電極C2又は前記輸送壁(2)との間に電位差(ΔE)を発生させることによって前記輸送壁を通るカチオンの輸送を確保することを特徴とする、前記抽出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中での電気化学的輸送による選択的カチオン抽出のための方法および装置、そして、輸送、脱塩、濃縮等によって得られる生成物のための例えば分離、再生利用、汚染除去、直接的あるいは間接的な価値付加処理のための本発明の方法の様々な使用法に関する。
より正確には、本発明は、適応壁によって同じ電荷又は異なる電荷の1種以上のイオンを含有する第1電解質溶液から第2電解質溶液に、複数のイオン、特に複数のカチオンの輸送を確実にする電解型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の方法は、既に分離壁としてイオン交換樹脂又は膜を用いるものが知られている。
合成膜を用いる分離および濃縮方法は多く、且つその使用法は非常に多様化している。
イオン交換膜の役割は、もし可能であれば選択的なバリアとして2つの溶液の間で作用することである。電位の傾斜によって一般に発生される輸送力の影響の下で、そのような膜は、膜が隔てている2つの媒体間で特定の化学種の通過又は閉塞を可能とする。膜は、均一又は不均一、対称構造あるいは非対称構造のものであり得る。媒体は、鉱物又は有機物源のガス状、液状、あるいは固形であり得る。それは、中性又は正あるいは負であり得る電荷を運び得る。それは、多孔質又は高密度であり得る。
【0003】
イオン交換膜を使用中の基本的な方法は、電界の影響の下でのこの膜を通過するイオンの輸送に相当する電気透析である。イオン交換膜は、荷電種の移動による通過そして電荷の符号による選択的な方法で、カチオン交換膜の場合にはカチオン輸送を、アニオン交換膜の場合にはアニオン輸送を可能とする。荷電種の選択的輸送は、溶液のイオンと膜によって通過させられる対イオンとの間のサイト間のイオン交換メカニズムによって行われる。選択性のメカニズムは、膜を構成している物質の化学的性質に関係している。
【0004】
電気透析は全く分離手法であり、荷電種は、電界の影響の下で移動しそして用いられる選択膜のおかげで装置の特定の区画内に保たれていることになる。また、電気透析は電気分解法と併用され得て、次に槽の区画内の膜のいずれの側にもそれぞれ設置された両電極での反応が用いられそして反応した化学種が電界の影響下に膜を通って移動する。
イオン交換膜を用いる方法は、例えば海水の脱塩、金属製品の表面処理中に用いられた洗浄水の再生利用、酸洗槽水の再生、超高純度水の取得、又は再度、重金属を閉じ込めるために用いられる。
【0005】
イオン交換膜の不都合な点は、それが同じ電荷を持つ複数のイオンの分離をなし得ないということである。それゆえ、同じ電荷を持つ他のBX+に対して金属カチオンAX+を選択的に抽出することが不可能である。また、輸送選択性が種類に適用されると、カチオンおよびアニオンのいずれも拮抗イオンに適用されない。また、電界にイオン交換膜が提供されないと、電界の存在下で保持されているイオンに関して全ての選択性を失い、それゆえ密閉する特性を失うことは留意すべきである。また、従来の膜法は、例えば含水/非水性の性質の異なる2つの媒体の場合には用いることが出来ない。これらのイオン交換膜の他の負利益の中では、コストと、時間とともに限定される抵抗に留意し得る。
【0006】
さらに、一般式Mo(式中、Xは特にS、Se、Teであり得る。)を有するモリブデンクラスター相又はシェブレル相もまた知られている。モリブデン三元カルコゲニドは様々な物理的および電気化学的特性、例えば次の:
- 大きいカチオンを有する相の低温での超電伝導特性、
- 超電導磁気特性、
- この物質が可逆の交互配置/交互配置解除のトポタクチック反応の拠点であることを可能とする小さいカチオンを有する相の混合イオンおよび電子伝導性、
を有している。
これらの物質は、一方ではその電子、触媒又は熱電特性のため、他方ではその電気エネルギーの貯蔵および返還能力のため価値付加し得る新規な物質のソフトケミカル合成に関する研究がなされてきた。これに由来する使用法は、再充電可能なリチウム電池の製造である。また、その水素化脱硫触媒活性によって、不均一触媒作用に対するシェブレル相に関心が示されてきた。
【0007】
米国特許第4917871号および同第5041347号明細書にリチウム電池におけるシェブレル相の陽極としての調製および使用が記載されている。フランス特許第2765811号公報は耐熱性金属酸化物にシェブレル分散相を形成して得られる水素化処理触媒に関するものである。国際特開第01−09959号公報はガラス繊維とシェブレル相に基づく太陽電池モジュールを記載している。国際特開第02−05366号公報はエネルギー産出用熱電物質のような物質注入原子を含有するシェブレル相に基づく物質を記載している。米国特開第2005−0220699号明細書は超電導又は触媒物質製造用にシェブレル相物質を作製するための改良された方法を記載している。特開2005−317289号公報は燃料電池において白金を含まない又は白金の比率が低い触媒としてのシェブレル相の使用を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のイオン交換膜を用いることによりもたらされる問題を解決することである。本発明の目的は、特に水性又は非水性媒体、例えば産業排出液(使用済み電気めっき浴、洗浄水、酸洗槽水、鉄鋼プラントの集塵浸出水、使わなくなった携帯電話の浸出水、特に焼却設備からのスラグ、冶金産業からの鋳物砂および他の固形廃棄物)から輸送された金属の直接的又は間接的な価値付加が可能な他の電解媒体への、金属イオンの選択的輸送の改善を可能とすることである。さらに、本発明の目的は、通常水性および/又は非水性の電解相間でのカチオンの抽出および選択的輸送を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目標を念頭に置いて、本発明は、溶液中で第1電解液から第2電解液への電気化学的輸送による選択的カチオンの抽出法であって、電解液分離壁としてモリブデンクラスターとのカルコゲニド、特にシェブレル相と呼ばれるMo相で作成された輸送壁を用い且つ、第1電解液の側の輸送壁で複数のカチオンの交互配置、輸送壁の中で複数のカチオンの分散、そして第2電解液中でのそれらの交互配置解除を生じさせるために一方の第1電解液と他方の第2電解液又は輸送壁との間に電位差を発生させるにより前記輸送壁を通るカチオンの輸送を確保することを特徴とする、前記抽出法を主題とするものである。
【0010】
本発明において、モリブデンクラスターとのカルコゲニドとは、モリブデンクラスターMoとカルコゲニドネットワークに指定されたX(XはS(硫黄)、Se(セレン)又はTe(テルル)である)とから構造化された一般化学量論的な、二元配合に対するMon+2又はMoそして三元カルコゲニドに対するMMon+2若しくはMMo配合(式中、Mは金属である。)による二元あるいは三元物質として理解されねばならない。
【0011】
それゆえ、本発明は、いくつかのカチオン、特に異なる電荷のカチオンを含有する第1電解液から回収および/又は価値付加電解液への、1種の又は一組のカチオンの、前記輸送壁からなる鉱物接点による輸送又は選択的輸送を確実にする電解法である。
【0012】
本発明の方法の原理は、水性又は有機媒体に接触している不溶性および化学的に安定な固形マトリクスに適用されたある電流の電位又は密度の下でのカチオンの交互配置反応に基づいている。第1の電解液の側からのシェブレル相マトリクスでの包括的なカチオンの交互配置現象の進行、このマトリクス内での分散、次いで第2電解液の側での交互配置解除が、1つの媒体から他の媒体への予め決めた移動種、この場合はカチオンの輸送を可能とする。本発明による方法は、本発明による方法が、同時にそして2つの電解液間の全体的電解法を用いることに起因する電気化学的手段により進行する交互配置と交互配置解除反応法の進行に基づいているという事実によって膜分離法と特に区別される。
【0013】
シェブレル相は、すでにその特徴のいくつかに関して詳細な研究論文が提出されそして従来技術の説明における上述のように特定の用途が考慮されてきたが、電気化学的制御の下で、第1電解液又は汚染源電解液から第2電解液あるいは価値付加若しくは汚染物質カチオンの回収電解液へのカチオンの輸送のためにこの種の反応を用いることについての研究は全くなされていない。
イオン交換膜を用いる分離方法とは異なり、本発明による方法は同じ電荷で異なる性質のイオン間の選択的分離を可能とする。また、本発明による方法は、水性であろうとなかろうと第1媒体から第2媒体への複数のイオンの選択的輸送を可能とし、この場合これら2つの媒体が同じ種類であろうと異なる種類であろうと問題なく、例えば第1媒体が水性でそして第2媒体が有機であり得る。
【0014】
本発明の他の利点は、輸送壁を作製するために必要な生成物を除けば、本発明の方法には反応剤が全く含まれず、且つ廃棄物は全く形成されないことである。
本発明によって処理され得る、すなわち交互配置−交互配置解除の反応を必要とし得るカチオンは、硫黄、セレン又はテルルのシェブレル相(Mo、MoSe又はMoTe)に対して、最も「工業用」金属であり、多くの廃水および固形廃棄物の管理問題で含まれるFe、Mn、Co、Ni、Cr、Cu、Zn、Cdとアルカリおよびアルカル土類金属のLi、Na、Mgである。
【0015】
本発明は、実際、存在するイオンの酸化−還元特性によるシェブレル相のそのカチオン選択的輸送能力に関する特定の特性を新しく使用することに基づいている。鉱物母材中のシェブレル相のMo単位に構築される典型的には0.1nm未満のイオン半径を有する小さいカチオンの優れた可動性が次式
Mo+xMn++xne⇔MMo
の可逆のレドックス系を規定する。
これらのレドックス系は、カチオンMn+、カルコゲンXおよび三元の化学量論xの性質によって多様化する。
【0016】
シェブレル相(例えば、硫黄、セレン、テルル)の所定のマトリックスにおけるカチオンMの交互配置は、カチオン、マトリックスおよび処理される電解液の化学的パラメーターの種類に特有の潜在的な領域で進展する。同じことが交互配置解除に当てはまる。2つのカチオンMおよびM’の間の交互配置選択性に対して、適用される電流は、カチオンM’の追加的な交互配置が起り得る領域で流れることを避けてカチオンMの交互配置領域に設置される実行電位(レドックス系のE=f(i)の関係式による)を課さねばならない。第2のカチオンの交互配置領域での実行電位をかける電流に対して、多かれ少なかれ選択性の全体的喪失を伴って2つのカチオンの輸送が起り得る。例えば、第1電解質中のCd−Zn混合物そしてMoの輸送壁を用いた場合、第1電解液と輸送壁との間の界面の電位が第1電解液に設置したKCl飽和カロメル電極(ECS)で−0.450〜−0.700Vの範囲の電位に保たれると、カドミウムの選択的輸送が起り得る。より大きい負の電位に対しては、輸送が2つのカチオンに影響を及ぼし得る。MoSe接点に対して、選択性領域は−0.300〜−0.600V/ECSの範囲内であり得る。他の例によれば、Mo接点に対してそしてNi−Co混合物の場合は、コバルトの選択的輸送は電位が−0.400〜−0.600V/ECSの範囲内に保持されれば確保され得る。
【0017】
また、カチオン輸送中の選択特性により基本的に有益ではあるが、本発明は、例えば廃水又は滞留池の浄化処理のための電気化学的輸送による抽出に相当する、選択性要件のない輸送による交互配置性金属の全体的減少を可能とする。また、本発明は、選択的な方法であろうとなかろうと、目指した濃度結果を得るために第1電解液と比べて減少した量の第2電解液への第1電解液を含む希釈された溶液の輸送による、処理されるカチオンの濃縮を可能とする。
【0018】
本発明の特定の実施によれば、輸送壁は、前記壁と各電解液内に各々設置された参照電極との間の電位測定装置に電気的に接続されている。この配置は、実際に輸送工程が正しくなされそして電解電流を適用することにより前記電解液間に適用された電位が適合して調整され得ることを確かにするために行われる検査を可能とする。
他の追加的な配置によれば、電着により輸送されたカチオンの金属状態での直接的回収が第2電解液に設置した電極で確保され得る。次いで、第2の非水性電解液の使用は、例えば水性媒体では達成不可能な金属の電着により輸送されたカチオンの適合した価値付加を可能とする。
【0019】
変形によれば、電位差が第1電解液と前記輸送壁との間で生じ、そして第2電解液側での交互配置解除は第2電解液内の化学的酸化剤による化学的交互配置解除となる。
輸送選択性を向上させるために、一連のカチオン輸送は、また例えばMoと他のMoSe又はMoTeで作成された1つの異なった種類のものであり得る様々な輸送壁間の1つ以上の中間電解液を有する端の2つの電解液間に縦列で連続的に設置された本発明による輸送壁を介して確保され得る。
また、輸送壁と第1電解液との間の界面の操作のための陰極と陽極とのパルスを含み得るパルス電流電解は、2つの電解液間で所定のカチオンのための交互配置反応の選択性を改善することを確実にし得る。
【0020】
また、本発明の主題は、各々が1つの電解液を含有して配置されそして密封壁で隔てられた少なくとも2つの区画を備えた1つの槽を含む、溶液中での電気化学的輸送による選択的カチオン抽出のための装置であって、前記密封壁が少なくとも一部がモリブデンクラスターとのカルコゲニド、特にMo(式中XはS、Se又はTeである。)類のシェブレル相族の鉱物化合物で作成された少なくとも1つの輸送壁からなることを特徴とする、前記装置である。
【0021】
好適な配置によれば、前記輸送壁は粉末状のMo又はMMoの反応性加熱プレスにより圧縮された円板からなる。
特定の配置によれば、本発明における輸送壁は、三元のMMoの合成、次いでカチオンM、例えば銅の電気化学的手段による交互配置解除により得られたMoから作製される。
他の配置によれば、輸送壁は、反応性加熱プレスによって直接的に得られたMoSe又はMoTeから作製される。
他の特定の配置によれば、円板は約0.1mm又はそれ未満の、数mm以下の、例えば3〜5mmの厚さを有し得て、恐らく厚さが小さいほど良好な輸送速度を得るために好適であり得る。
【0022】
さらに他の特定の配置によれば、装置は、区画の第1に設置された陽極と第2の区画に設置された陰極の間に接続された調整可能なDC発生手段を含む。
また、輸送壁は、各々の区画内に各々設置された参照電極に接続された電位測定装置に電気的に接続され得て、そして電流源は測定された電位によって拘束され得る。
追加的および/又は他の配置によれば、区画分離壁は複数の輸送壁を含む。
槽は、同一の又は異なる輸送壁によって分離された連続して隣接するいくつかの区画に分けられる。
第1の区画は陽極を含みそして定電流源はこの陽極と輸送壁との間に接続される。
本発明の他の特長および利点は、本発明に従った装置およびその変形およびいくつかの実施例についての以下の記述を読めば明らかになり得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下、図面を参照して説明する。
【図1】図1は、本発明の装置の概略図である。
【図2】図2は、電気接続図である。
【図3】図3は、本発明における輸送壁を含む円板の入った装置の概略図である。
【図4】図4は、輸送壁の電位の制御機器を備えた改良型の態様の図である。
【図5】図5は、槽の区画分離壁内に割り振られたいくつかの円板を有する態様の状態を示している。
【図6】図6は、順番にいくつかの区画と輸送壁とを用いた配置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1の図形は、電解液を提供するために適応されそして壁の中に封じ込める方法で設置された円板2からなり輸送壁が配置された分離壁13によって分離された2つの区画11および12を含む槽1を示す。
また、装置は、第1区画11に配置された陽極A1と第2区画12に配置された陰極C2とを含む。電位差ΔEは、例えば電位差計31および制御電流計32を経由して2つの電極A1およびC2を提供するDC源3を示す図2の電気的接続図により陽極A1と陰極C2との間に適用され得る。
【0025】
円板2は、モリブデンカルコゲニド、例えばMo、MoSe又はMoTeで形成されている。
閉じ込められた円板は、必要とされる物質の化学量論に適した組成粉末を混ぜたものから反応性加熱プレスによる合成の原則に基づいて形成される。
900〜1200℃の温度に加熱の間に、粉末は、例えば同様に黒鉛製のダイに導かれた約25mmの直径を有する2つの黒鉛ピストン間に20〜40MPaの圧力を課すことによって圧縮される。反応性加熱プレスは、一般に70%より大でそして電解液に対しての全体的封止を確実にしながら分散によるカチオンの移動を可能とするために少なくとも適応している輸送壁を形成する円板の緊密さをもたらさねばならない。
【0026】
製造工程はMo、MoSe又はMoTeのどれが用いられるかで異なり、
a)Moに対してはそしてこの化合物が反応性加熱プレスに必要な温度では不安定であるため、この二元物質の合成は、元素MoおよびSから直接にはなし得ずそして加熱プレスに必要な温度で安定である三元のMMo(式中、Mは例えば銅である。)の合成を経て、次いで後に電気化学的又は化学的手段によるカチオンCu2+の交互配置解除による。
【0027】
粉末成分を混ぜたものが均質化され、次いで黒鉛ダイに設置される。アルゴン雰囲気下で1000℃の温度まで加熱が適用され、3時間保持され、次いで室温まで戻る。加熱そして温度保持の期間中は常に30MPaの圧力が適用される。
この場合、反応性加熱プレス中の合成反応は、
3Cu+FMoS+2Mo→CuMo
である。
それゆえ、典型的には次表の特性を有するこの三元物質からなる円板が得られる。
【0028】
【表1】

【0029】
次いで、この円板を装置に設置し得る。次いで、Moを得るためにCu2+カチオンの交互配置解除がプロセスの実施のための装置の効果的使用の前に、装置の事前の利用による電気化学的手段によってなされる。
【0030】
b)MoSeに対しては、この二元化合物が加熱されるときに安定であり、合成はMoSeとMo元素から直接に二元化合物になされる。
次いで、反応性加熱プレス中の合成反応は、
4MoSe+2Mo→MoSe
である。
アルゴン雰囲気下、1200℃の温度まで加熱が適用され、3時間保持され、次いで室温まで戻る。加熱そして温度保持の期間中は常に30MPaの圧力が適用されている。
典型的には次表の特性を有する円板が得られる。
【0031】
【表2】

【0032】
特定の態様の方法において、Mo又はMoSe円板は、図3に示すように装置内に、区画11と12とに各々関連する2つのフランジ41、42の間にO−リング43によって密閉が確保されていて、ねじ45によって互いに締め付けられて設置されている。バネ式可動接触系44が、円板2との電気的接続を確保し、そして図4に示されるように、槽の各区画内に各々設置された参照電極33、34と関連して円板の界面電位Ei1、Ei2を測定するために特に適用された制御機器に円板が接続されていることを可能とする。
【0033】
装置の使用法は典型的には次の通りである。
区画11と12とが必要とされる、例えばそして少しも制限的でない方法で、第1区画11に第1電解液E1として0.5〜1M濃度のNaSO100mL+0.1〜1M濃度のM(i)SOおよび0〜1M濃度の任意のHSO、第2区画12に第2電解液E2として0.5〜1M濃度のNaSO100mL+0〜1M濃度の任意のHSO(前記式中M(i)は分離される1つ以上の金属カチオンである。)の電解液で満たされている。陽極A1は第1区画11にそして陰極C2は第2区画12に配置されそして円板の接点44は電解液E1およびE2に浸漬した参照電極33、34に接続した電位差制御手段と接続されている。それゆえ、界面電位は、検査され得てそして、輸送壁又は並列して配置された全輸送壁の操作表面積に関係する例えば0.2〜20mA/cmに含まれる電流密度を得るために電位差計31の調整を制御することによって陽極A1と陰極C2との間に適用される包括的電位ΔEを適合させるために調節される。
【0034】
陽極A1と陰極C2との間に包括的な内包静的状態が確立される。2つの区画の包括的な電気化学的操作において、電解液E1は異なる複数の金属のカチオンおよび同一の又は異なる電荷、例えばM’n+、M’n+、M”n’+を混ぜたものを含有する処理される初期溶液であり、そして電解液E2は金属Mの価値付加溶液であって、図1に示されるように以下:
- 次のようなMMo/電解液E1接触面でカチオンMn+の交互配置:
Mo+xMn++xne⇒MMo
- MMo/電解液E2(試料に対するMn+の価値付与溶液)接触面でこの同じカチオンの交互配置解除が逆に次のようになされる:
- MMo⇒Mo+xne+xMn+
が起る。
【0035】
それゆえ、シェブレル相での金属カチオンの可動性は、区画のどちらか一方から任意の他の化学種を輸送しないで1つの媒体から他の媒体に、溶解したカチオンMn+の輸送を可能とする。
反応が水酸化物イオンOHを生成する傾向があるときには、カチオンが沈殿し得る。この不利益を避けるために、カチオンを溶解した状態に保つために電解液E1およびE2に硫酸を加え得る。
【0036】
本発明によって処理され得る、すなわち交互配置−交互配置解除の反応の関与し得るカチオンは、硫黄、セレンおよびテルル相(Mo、MoSeおよびMoTe)に対しては、多くの廃水および固形廃棄物処理問題、特に電池と蓄電池産業に含まれ得るほとんどの金属であるFe、Mn、Co、Ni、Cr、Cu、Zn、Cd、およびアルカリとアルカリ土類金属のLi、Na、Mgである。
【0037】
本発明者等は、有利にはそして輸送壁の多結晶特性にも拘らず、輸送ファラデー収量が交互配置−交互配置解除のレドックス対の操作に関連し(カチオンM2+の輸送に対して2電子)そして1〜10mA/cmの範囲での電流密度に対して100%近いことを観察することが可能であった。
【実施例】
【0038】
2つの当モルカチオン(0.1M)を混ぜたものから行った以下の実施例において、輸送の選択性は、〔カチオンMn+〕/〔区画12に輸送されたカチオンの合計である輸送されたカチオンMn+の量ΣMin+〕の比率により示されるカチオンMn+の輸送選択率、例えばCo2++Ni2+の混ぜたものに対してCo/(Co+Ni)、により表わされる。
それゆえ、この比率は選択性が増すと1に近づく。
【0039】
実施例1
〔Co2+〕=〔Ni2+〕=0.1MであるCo/Ni混合=1
a)HO媒体、電解液NaSO中、
2.5mAの電流を課し、0.72mA/cmの電流密度、6時間である。
区画11:Co/Ni 0.1M
区画12:NaSO 0.1M
陽極A1:白金めっきチタニウム
陰極C2:ステンレス鋼
輸送壁:Mo円板、厚さ4.4mm、直径24.3mm、円板の表面積4.63cmで電解液との「活性」接触面積3.46cm
緊密さ:98.5%
室温にてそして区画12の溶液を攪拌する。
操作の間、各々、区画11と円板との間、区画12と円板との間、そして区画11と区画12との間で、3つの電位が記録され、これで電気的輸送パラメーターの制御が可能となる。
この混ぜたものに対して、コバルトの輸送選択比99%および2つのカチオンの合計のファラデー収率97%の結果が得られた。
【0040】
b)電解液NaSOを0.1MのHSO中に置き換えて同様の実験を水媒体中で行った。
酸性媒体中で混ぜたものおよび課した0.72mA/cmの電流密度に対して、輸送選択比99.1%およびファラデー収率98.2%の結果が得られた。
2.16mA/cmの電流密度を課すことにより、輸送選択比98.7%およびファラデー収率97.4%の結果である。
【0041】
実施例2
〔Cd2+〕=〔Zn2+〕=0.1MであるCo/Ni混合=1
a)HO媒体、電解液NaSO中、
2.5mAの電流を課して、これは0.72mA/cmの電流密度を6時間である。
区画11:Cd/Zn 0.1M
区画12:NaSO 0.1M
陽極A1:白金めっきチタニウム
陰極C2:ステンレス鋼
輸送壁:Mo円板、厚さ4.4mm、直径24.3mm、緊密さ:98.5%
室温にてそして区画12の溶液を攪拌する。
この混ぜたものに対して、カドミウムの輸送選択比97.6%およびファラデー収率99%の結果が得られた。
【0042】
b)電解液NaSOを0.1MのHSO中に置き換えて同様の実験を水媒体中で行った。
この混ぜたものに対して以下の結果が得られ。
0.72mA/cmの電流密度に対して、輸送選択比97.8%およびファラデー収率98.1%の結果が得られた。
2.16mA/cmの電流密度に対して、輸送選択比98.2%およびファラデー収率98.9%の結果が得られた。
【0043】
実施例3
水媒体中、0.1MであるCd/Ni混合
2.5mAの電流を課して、これは0.72mA/cmの電流密度を6時間である。
区画11:Cd/Ni=1、そして〔Cd2+〕=〔Ni2+〕=0.1M
区画12:NaSO 0.1M
陽極A1:白金めっきチタニウム
陰極C2:ステンレス鋼
a)輸送壁:Mo円板、厚さ4.4mm、直径24.3mm、緊密さ:98.5%
室温にてそして区画12の溶液を攪拌する。
この混ぜたものおよび円板Mo円板に対して、カドミウムの輸送選択比70%およびファラデー収率98%の結果が得られた。
【0044】
b)輸送壁:MoSe円板、厚さ3.4mm、直径24.3mm、緊密さ:99%
室温にてそして区画12の溶液を攪拌する。
この混ぜたものおよび円板MoSeに対して、カドミウムの輸送選択比90%およびファラデー収率97%の結果が得られた。
【0045】
以上の結果から、本発明の方法は、非常に優れたカチオン輸送選択率が得られることを可能とし且つこれを非常に高いファラデー収率で可能とするこが理解される。
また、本発明の方法は、図5および図6に示したものを含めて様々な変形に用いられ得る。
変形の図5において、槽は、U字側面壁21、22および保持して組み立てられた横壁23、24、25、およびそれらの間に配置されたシール26の組立て体からなる。横壁23および25は、槽の端壁を構成している。中間の壁24は、槽の2つの区画の分離壁を構成していて且つ本発明による輸送壁を形成する複数の円板2を支えている。このような装置は、効果的な輸送表面積、そしてそれゆえ包括的な輸送速度の向上を可能とする。
【0046】
変形の図6において、槽は、3つの区画を含んでいる。2つの末端区画11’、12’は図1に示す例である区画11および12と同等である。電解液E3を含む追加の区画15は、2つの区画11’と12’との間に設置され、そして本発明による輸送壁を形成する1つ以上の円板2’、2”の各々を含む分離壁13’、13”によってこれらから分離されている。これらの円板は、区画11’から区画12’への輸送選択率をたやすく高めるために同じ性質であり得る。また、これらは異なる性質のものであり得てそして例えば異なるカチオンの分離を確かにするために様々な区画間の詳細な電位の測定により別々に管理され得る。例えば、2つの種類のカチオンが区画11’から区画15に、そして単一の種類が区画15から区画12’に輸送され得る。それゆえ、様々な円板および輸送パラメーターの組み合わせが必要とされる分離と様々な処理をなすために用いられ得る。輸送は2つの円板の2’、2”を通る電流を用いて3つの区画に同時になされ得る。他の方法において、輸送は、例えば電極A1およびC2の配置の適用により第1の15そして12’次いで11’そして15と、2つの区画での連続的操作による手順で行われ得る。
【0047】
また、一般的な方法では、陽極A1および陰極C2を含む2つの区画11、12内に配置される電解液は、特に塩の性質、酸性レベル、複合液の存在、溶媒の種類、特に非水性有機又は鉱物溶媒(DMSO、DMF、イオン性液体、固体電解質等)が異なり得ることを見出すことができる。それゆえ、例えば、イオンの輸送が硫酸塩媒体から塩化物媒体へ前記媒体の分散を伴うことなくなし得る。
また、図6の変形に関して、中間の1つの電解液又は複数の電解液E3は2つの電解液E1又はE2と同一か又は異なり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中での電気化学的輸送による第1電解液(E1)から第2電解液(E2)への選択的なカチオン(Mn+)の抽出法であって、
電解液分離壁としてモリブデンクラスターとのカルコゲニドであるMon+2、Mo、MMon+2又はMMoで作成された輸送壁を用い且つ、第1電解液の側の輸送壁で複数のカチオンの交互配置、輸送壁の中でそれらの分散、次いで第2電解液中でのそれらの交互配置解除を生じさせるために一方の第1電解液(E1)と他方の第2電解液(E2)又は前記輸送壁との間に電位差(ΔE)を発生させることによって前記輸送壁を通るカチオンの輸送を確保することを特徴とする、前記抽出方法。
【請求項2】
前記モリブデンクラスターとのカルコゲニドが、二元のMon+2、Mo化合物又は三元のMMon+2、MMo化合物
(式中、XはS(硫黄)、Se(セレン)、Te(テルル)からなる群から選択され、Mは金属である。)
である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解液(E1、E2)が異なる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電解液(E1、E2)の少なくとも1つが非水性である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電解液(E1、E2)の少なくとも1つが酸、例えば硫酸を含有している請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記輸送壁(2)が該壁と各電解液(E1、E2)内に各々設置された参照電極(33、34)との間の電位測定装置に電気的に接続されそして前記電解液に適用される電位が適合するために調整される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電位差(ΔE)が第1電解液(E1)と輸送壁(2)との間で発生されそして第2電解液(E2)の側でのカチオンの交互配置解除が第2電解液での化学的酸化剤による化学的交互配置解除である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
一連のカチオン輸送が、端の電解液(E1、E2)間に連続して配置された輸送壁(2)を通りそして様々な輸送壁間の1つ以上の中間の電解液(E3)を用いて確保される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各々が1つの電解液(E1、E2)を含有して配置されそして密封壁(13)によって隔てられた少なくとも2つの区画(11、12)を備えた1つの槽を含む、溶液中での電気化学的輸送による選択的カチオン抽出のための装置であって、前記密封壁がモルブデンクラスターとのカルコゲニドで作成された少なくとも1つの輸送壁(2)から少なくとも一部がなることを特徴とする、前記装置。
【請求項10】
前記輸送壁(2)が、二元のMo化合物又は三元のMMo元化合物
(式中、XはS、Se又はTeであり、Mは金属である。)
で作成されてなる請求項9に記載の抽出装置。
【請求項11】
第1区画(11)に設置された陽極(A1)と第2区画(12)に設置された陰極(C2)との間に接続された調整可能な電流発生手段(3)を含むことを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項12】
前記輸送壁(2)が、各々の区画(11、12)に各々設置された参照電極(33、34)に接続された電位測定装置に電気的に接続されていることを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項13】
前記区画の分離隔壁(13)が、複数の輸送壁(2)を含むことを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項14】
前記槽が、同一の又は異なる輸送壁(2’、2”)によって分離されているいくつかの連続して隣接した区画(11、12、15)に分離されていることを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項15】
前記第1区画が陽極(A1)を含みそして前記電流発電機(3)がこの陽極および輸送壁(2)間に接続されていることを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項16】
次の金属:Fe、Mn、Co、Ni、Cr、Cu、Zn、Cd、Li、Na、Mgの1つ以上を含有する溶液の処理のための請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法の使用法。
【請求項17】
第2電解液に輸送された金属又は複数の金属の価値付加のための請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項18】
第1電解液の精製のための請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項19】
第1電解液を含有する希釈溶液から第1電解液の低減した量を有する第2電解液へのカチオンの輸送によるカチオン溶液の濃縮のための請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項20】
第2電解液(E2)に設置された電極(C2)での電着により輸送されたカチオンの金属状態での直接回収のための請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2010−532818(P2010−532818A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514062(P2010−514062)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051149
【国際公開番号】WO2009/007598
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(510000998)ユニベルシテ ポール ベルレーヌ (1)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】