説明

溶液製膜方法

【課題】優れた引裂強度を有するフィルムを製造する。
【解決手段】流延ドラム32は軸32aを中心に回転する。流延ダイ30はドープ21を流延ドラム32の周面32b上に流延し、流延膜33を形成する。周面32b上の流延膜33は冷却ゲル化し、自己支持性を有する。剥取ローラ34は、流延膜33を流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フィルム38とする。湿潤フィルム38は、渡り部41、ピンテンタ13、収縮装置65、クリップテンタ14に順次案内され、湿潤フィルム38の乾燥は進行する。多量の溶媒を含み、ポリマー分子がMD方向に配向する湿潤フィルム38を乾燥しながら、MD方向及びTD方向の外力を湿潤フィルム38に付与し、湿潤フィルム38を強制的に収縮する収縮処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用支持体として利用されている。また、TACフィルムは、ポリマーフィルムの中でも光学等方性に優れていることから、液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などの光学フィルムとして用いられている。
【0003】
主なフィルムの製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フィルムの厚さの精度を調節することが難しく、また、フィルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学フィルムの製造方法に適していない。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとし、この湿潤フィルムを十分に乾燥して、フィルムとして巻き取る方法である。この溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、光学特性の等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフィルムを得ることができるため、フィルム、特に光学フィルムの製造方法として、溶液製膜方法が採用されている。
【0004】
溶液製膜方法において、流延膜に自己支持性を発現させる方法として、支持体上の流延膜を乾燥し、流延膜の残留溶媒量を所定の範囲になるまで低下させる方法(以下、乾燥法と称する)と、流延膜を冷却して、流延膜をゲル化させる方法(以下、冷却ゲル化法と称する)とが知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
近年の液晶表示装置等の需要の著しい増加に応えるため、生産効率の高い溶液製膜方法の確立が求められている。乾燥法を用いた溶液製膜方法にて、製膜速度が50m/分以上の高速流延を行う場合には、支持体の走行速度の高速化が必要になる。ここで、高速走行する支持体上の流延膜に自己支持性を発現させるためには、支持体の長大化や流延膜の乾燥の高速化が必要になる。しかしながら、支持体の長大化は、支持体の設置スペースを従前よりも確保しなければならなくなることや、乾燥条件等の均一化が困難になること等の弊害を生じさせる。一方、流延膜の乾燥の高速化は、フィルムの面状故障の原因である乾燥ムラを誘発するなどの弊害を生じさせる。したがって、高速流延を行う場合、乾燥法を用いた溶液製膜方法には限界がある。一方、冷却ゲル化法では、上述のような弊害が生じないため、高速流延に適している。したがって、溶液製膜方法における設備の設置スペースの低減化や生産効率の向上化の点より、流延膜に自己支持性を発現させる方法として、冷却ゲル化法が採用されることが多い。
【0006】
更に、フィルムの光学特性を調節するため、或いは、シワやタルミ等の発生を抑えるため、湿潤フィルムの乾燥を行うとともに、湿潤フィルムの幅方向両側端部(以下、耳部と称する)を保持し、幅方向に延伸するテンタ装置が知られている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−221833号公報
【特許文献2】特開2004−160831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、溶液製膜方法を行うと、湿潤フィルムの延伸工程やフィルムを巻き芯に巻き取る工程において、湿潤フィルムが裂ける故障(以下、裂け故障と称する)が多発する。また、延伸工程を行わない溶液製膜方法においても、巻取り工程や、フィルムの耳部を切断除去する工程においても、裂け故障が多発する。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、優れた引裂強度を有するフィルムを製造することができる溶液製膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に吐出し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成する流延膜形成工程と、自己支持性を有する前記流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取る剥取工程と、前記溶媒を含む前記湿潤フィルムの乾燥によりフィルムを得る乾燥工程とを有する溶液製膜方法において、前記乾燥工程は、残留溶媒量が乾量基準で30重量%に達するまでの前記湿潤フィルムを、前記湿潤フィルムの厚み方向に直交する2つの方向に収縮させる収縮工程を有することを特徴とする。
【0010】
残留溶媒量が乾量基準で200重量%に達した後の前記湿潤フィルムに前記収縮工程を行うことが好ましい。また、前記2つの方向における前記湿潤フィルムの収縮率が4%以上15%以下であることが好ましい。更に、前記湿潤フィルム中の前記ポリマーの分子が配向する方向に直交する方向が、前記2つの方向に含まれることが好ましい。
【0011】
前記乾燥工程が、前記収縮工程を経た前記湿潤フィルムを、前記厚み方向に直交する方向に延伸する延伸工程を有することが好ましい。また、残留溶媒量が乾量基準で0重量%より大きく30重量%未満の前記湿潤フィルムに前記延伸工程を行うことが好ましい。更に、前記湿潤フィルムの延伸率が、前記延伸方向において0%より大きく60%以下であることが好ましい。加えて、前記ポリマーの分子が配向する方向に前記湿潤フィルムを延伸することが好ましい。
【0012】
前記フィルムの厚さが20μm以上80μm以下であることが好ましい。また、前記流延膜を冷却し、ゲル化により前記流延膜に自己支持性を発現させることが好ましい。更に、前記ポリマーがセルロースアシレートを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、湿潤フィルムを乾燥する乾燥工程において、湿潤フィルムが収縮するように、湿潤フィルムの厚み方向に直交する2つの方向の外力を、残留溶媒量が乾量基準で30重量%以上の湿潤フィルムに加える収縮工程を行うため、フィルムの裂け故障の発生を抑えつつ、光学フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0015】
[溶液製膜方法]
図1に、本実施形態で用いる溶液製膜設備10の概略図を示す。溶液製膜設備10は、ストックタンク11と流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0016】
ストックタンク11は、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとを備える。ストックタンク11の内部には、フィルム20の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ21が貯留されている。ストックタンク11内のドープ21は、ジャケット11cにより温度が略一定(25〜35℃)となるように調整される。また、攪拌翼11bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ21を均一な品質に保持している。ストックタンク11の下流には、ギアポンプ25及び濾過装置26が設置されている。ギアポンプ25は、ストックタンク11に貯留するドープ21を、濾過装置26を介して流延ダイ30に送る。濾過装置26は、ドープ21中の不純物を取り除く。濾過されたドープ21は流延ダイ30に送られる。
【0017】
流延室12には、流延ダイ30、支持体としての流延ドラム32、剥取ローラ34、温調装置35,36、及び減圧チャンバ37が設置されている。流延ドラム32は図示を省略した駆動装置により軸32aを中心に、方向Z1へ回転する。この回転により、周面32bは、方向Z1へ一定速度で走行する。温調装置35は、流延室12の内部温度を、10〜57℃の範囲内で略一定となるように調整する。温調装置36が、流延ドラム32の周面32bの温度は所定の範囲内で略一定になるように調整されている。
【0018】
図1及び図2に示すように、流延ダイ30は、回転する流延ドラム32の周面32bに向けて、ドープ21を吐出する。その後、流延ドラム32の周面32b上のドープ21から流延膜33が形成される。そして、流延ドラム32が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜33に発現し、流延膜33は剥取ローラ34によって流延ドラム32から剥ぎ取られる。
【0019】
図1に示すように、減圧チャンバ37は、流延ダイ30に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ37内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム32の周面32bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム32の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ30と流延ドラム32との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜33を形成することができる。
【0020】
流延ダイ30の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0021】
流延ドラム32の周面32bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置36は、流延ドラム32の周面32bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム32内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム32の周面32bの温度が所望の温度に保持される。
【0022】
流延ドラム32の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム32の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム32の周面32bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0023】
また、流延室12内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)39と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40とが備えられている。凝縮器39で凝縮液化した溶媒は、回収装置40により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0024】
流延室12の下流には、渡り部41、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部41は、剥取ローラによって剥ぎ取られた湿潤フィルム38を搬送し、ピンテンタ13に導入する。
【0025】
ピンテンタ13では、無端走行するピンが湿潤フィルム38の両側縁部に貫通する。これにより、ピンテンタ13は、湿潤フィルム38を保持しながら搬送する。搬送される湿潤フィルム38には乾燥風が送られ、湿潤フィルム38に含まれる溶媒が蒸発する。
【0026】
クリップテンタ14は、湿潤フィルム38の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行する湿潤フィルム38に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム38には、幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0027】
クリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置43が設けられている。耳切装置43は湿潤フィルム38の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ44に送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0028】
乾燥室15には、多数のローラ47が設けられており、これらに湿潤フィルム38が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過により湿潤フィルム38の乾燥処理が行われる。湿潤フィルム38は、乾燥室15における乾燥処理によりフィルム20となる。乾燥室15には吸着回収装置48が接続されており、湿潤フィルム38から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0029】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフィルム20が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)49が設けられており、フィルム20が除電される。さらに、強制除電装置49下流側には、ナーリング付与ローラ50が設けられており、フィルム20の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、巻芯51aを回転させてフィルム20を巻芯51aに巻き取る巻取機51、プレスローラ52が設けられている。巻取室17に送られたフィルム20は、プレスローラ52で押圧されながら、巻芯51aに巻き取られる。
【0030】
巻取機51で巻き取られるフィルム20は、長手方向に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム20の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、フィルム20の厚みが20μm以上または80μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0031】
次に、渡り部41、収縮装置65、クリップテンタ14の詳細について説明する。図1及び図2に示すように、渡り部41には、搬送ローラ61、62が設けられる。搬送ローラ62は、搬送ローラ61よりも湿潤フィルム38の搬送方向(以下、MD方向と称する)下流側に設けられる。搬送ローラ61、62は、軸と軸を中心に回動自在に設けられるローラ本体とからなる。そして、搬送ローラ61、62のローラ本体は、図示しない駆動装置により、軸を中心に回転する。このとき、搬送ローラ62のローラ本体の周面の速度V2(以下、周速と称する)は、搬送ローラ61の周速V1に比べて、大きい。搬送ローラ61、62を用いて湿潤フィルム38を搬送すると、湿潤フィルム38にMD方向へテンションを付与することができる。これにより、湿潤フィルムのシワやタルミなどの発生を防止することができる。V2/V1が1.003以上1.05以下であることが好ましい。なお、渡り部41を通過する湿潤フィルム38に乾燥風を当てても良い。
【0032】
図1及び図3に示すように、ピンテンタ13とクリップテンタ14との間には、収縮装置65が設けられる。収縮装置65は、搬送ローラ66〜69とダクト71、72とを有する。搬送ローラ66〜69は、湿潤フィルム38のMD方向の上流側から下流側に向かって順次設けられる。各搬送ローラ66〜69は、湿潤フィルム38のMD方向に密に千鳥状に並べられる。このような搬送ローラ66〜69によって、湿潤フィルム38は、湿潤フィルム38の一の面及び他の面が交互に各搬送ローラ66〜69と接触しながら、MD方向に搬送される。収縮装置65における湿潤フィルム38のラップ角は、90°以上180°以下であることが好ましい。また、搬送ローラのうち最も上流側及び下流側に設けられる搬送ローラ66、69における湿潤フィルム38のラップ角を90°とし、その他の搬送ローラにおける湿潤フィルム38のラップ角を180°としてもよい。湿潤フィルム38のうち、一の搬送ローラと接触する部分と、一の搬送ローラと隣り合う他の搬送ローラと接触する部分との長手方向における間隔P1は、5mm以上20mm以下であることが好ましい。なお、収縮装置65に設けられる搬送ローラの数は、少なくとも2以上であればよく、5以上であっても良い。また、各搬送ローラの間にフリーローラを設けても良い。
【0033】
収縮装置65では、図示しない駆動部の制御の下、搬送ローラ66〜69は、上流側から下流側に向かって周速V6〜V9で回転する。このとき、V6>V7>V8>V9の関係を満たす。なお、隣り合う各搬送ローラの周速比V6/V7、V7/V8、V8/V9は、それぞれ1より大きく1.15以下であり、V6/V9は、1.04より大きく1.15以下となることが好ましい。周速比が所定の範囲内で略一定となるように調節された搬送ローラ66〜69により、湿潤フィルム38にはテンションが加えられ、収縮装置65を通過する湿潤フィルム38はMD方向に収縮する。また、ダクト71、72には送風口が設けられる。ダクト71、72は、この送風口を介して、収縮装置65中を搬送する湿潤フィルム38に、温度や湿度などが適宜調節された乾燥風をあてる。これにより、収縮装置65中の湿潤フィルム38の温度が20℃以上100℃以下の範囲内となるように調節する。こうして、収縮装置65では、ピンテンタ13から送り出された湿潤フィルム38に、乾燥処理と共にMD方向の収縮処理を施す。そして、搬送ローラ66〜69は湿潤フィルム38をクリップテンタ14へ送る。
【0034】
なお、ダクト71、72に代えて、収縮装置65に、空調機及び循環機を設けてもよい。収縮装置65内の空気の温度や湿度などを、独立に調節する。循環器は、収縮装置65内の空気を循環させて、収縮装置65内の雰囲気の条件を均一に保つ。こうして、収縮装置65を通過する湿潤フィルム38の乾燥の進行度と湿潤フィルム38の温度とを所望のものにすることができる。
【0035】
次に、クリップテンタ14の詳細について説明する。図4のように、クリップテンタ14には、収縮装置65を経た湿潤フィルム38を導入する入口14aと、クリップテンタ14を経た湿潤フィルム38を耳切装置43へ送る出口14bとを有する。クリップテンタ14には、仕切り部材などにより、温度などの乾燥条件が異なるゾーンに区画され、上流側から下流側に向かって第1ゾーン81〜第3ゾーン83が順次設けられる。第1ゾーン81〜第3ゾーン83には、図示しない空調機が設けられる。この空調機は収縮装置に設けられるものと同様であり、第1ゾーン81〜第3ゾーン83内の空気の温度や湿度などを、独立に調節する。
【0036】
第1ゾーン81には、把持開始部85と、入口14aから把持開始部85へ湿潤フィルム38を案内するローラ(図示しない)とが設けられ、第2ゾーン82と第3ゾーン83との境界には把持解除部86が設けられる。そして、第3ゾーン83には、把持解除部86を経た湿潤フィルム38を出口14bへ案内する搬送ローラ88が設けられる。
【0037】
また、クリップテンタ14には、テンタ本体90が設けられる。テンタ本体90は、1対のレール91と、1対のチェーン92と、1対のチェーンスプロケット93、94とを備える。1対のチェーンスプロケット93は把持開始部85に、1対のチェーンスプロケット94は把持解除部86に設けられる。1対のレール91は、把持開始部85及び把持解除部86の間に設けられる。1対のチェーン92は、チェーンスプロケット93、94に巻き掛けられる。また、1対のチェーン92には、湿潤フィルム38の両側縁部を把持するクリップ95が所定のピッチで設けられる。駆動部97が1対のチェーンスプロケット94を回転駆動すると、1対のチェーン92はレール91に沿って、第1〜第3ゾーンをエンドレスに走行する。
【0038】
把持開始部85を通過するクリップ95は、把持開始部85に案内された湿潤フィルム38の両側縁部を把持する。両側縁部が把持された湿潤フィルム38は、クリップ95の走行により、把持開始部85から把持解除部86へ案内される。把持解除部86を通過するクリップ95は、湿潤フィルム38の両側縁部の把持を解除する。両側縁部の把持が解除された湿潤フィルム38は、第3ゾーン83へ案内される。搬送ローラ88は、把持解除部86を経た湿潤フィルム38を、出口14bへ案内する。
【0039】
また、湿潤フィルム38の幅方向(以下、TD方向と称する)における一対のレール91の間隔をレール間隔とすると、第1ゾーン81でのレール間隔はMD方向に向かうに従い次第に狭くなるように、第2ゾーン82でのレール間隔はMD方向に向かうに従い次第に広くなるように、一対のレール91が、クリップテンタ14に配される。このレール間隔を調節することにより、TD方向において、所望の収縮率SStdの収縮処理、及び所望の延伸率EStdの延伸処理を、湿潤フィルム38に施すことができる。
【0040】
次に、図1を用いて、溶液製膜設備10によりフィルム20を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転によりドープ21の状態を均一化している。適宜適量のドープ21を、ギアポンプ25によりストックタンク11から濾過装置26に送り、濾過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。
【0041】
流延室12の内部温度は、温調装置35により10〜57℃の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が気化して浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0042】
流延ドラム32は、駆動装置により軸32aを中心に回転する。この回転により、周面32bは、方向Z1へ一定速度(50m/分以上200m/分以下)で走行する。流延ダイ30は、30℃以上35℃以下の範囲内で略一定に保持されるドープ21を、流延ドラム32の周面32b上に流延し、流延膜33を形成する。温調装置36により、流延ドラム32の周面32bの温度は−20以上0℃以下の範囲内で略一定になるように調整する。したがって、周面32b上の流延膜33は冷却し、この冷却により、流延膜33はゲル化し、自己支持性を有する。
【0043】
図2に示すように、剥取ローラ34は、流延膜33を流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フィルム38とする。その後、この湿潤フィルム38は、渡り部41、ピンテンタ13、収縮装置65、クリップテンタ14に順次案内される。これにより湿潤フィルム38の乾燥は進行する。
【0044】
クリップテンタ14を出た湿潤フィルム38は、耳切装置43によって両側縁部が裁断される。両側縁部が切断された湿潤フィルム38は、乾燥室15により乾燥処理を施され、フィルム20となる。その後フィルム20は、冷却室16を経て、巻取室17内の巻取機51によって巻き取られる。
【0045】
図2に示すように、剥取ローラ34は、残留溶媒量が乾量基準で250重量%以上300重量%以下の流延膜33を流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フィルム38とし、渡り部41へ送る。なお、本明細書では、流延膜33、湿潤フィルム38の乾燥の進行度の指標として、残留溶媒量を用いる。残留溶媒量の測定方法は、対象のフィルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0046】
渡り部41では、湿潤フィルム38は、搬送ローラ61、62によりMD方向にテンションを付与されながら、MD方向に案内される。ピンテンタ13よりも下流側で収縮処理を行う場合には、渡り部41では、ピンテンタ13のピンの貫通により湿潤フィルム38の保持が行える程度まで、具体的には、残留溶媒量が乾量基準で200重量%以上250重量%以下となるまで、湿潤フィルム38に乾燥処理を施す。その後、ピンテンタ13にて乾燥処理を湿潤フィルム38に施す。そして、収縮装置65では、乾燥処理と共にMD方向への収縮処理を湿潤フィルム38に施し、クリップテンタ14では、乾燥処理と共にTD方向への収縮処理を湿潤フィルム38に施した後、乾燥処理と共にTD方向への延伸処理を湿潤フィルム38に施す。
【0047】
流延ドラム32上に形成した流延膜33におけるポリマー分子は、膜厚方向に直交する面内にて配向するものの、その面内においては配向せず、面内におけるポリマー分子の向きは等方的である。なお、本明細書において、ポリマー分子の配向には、主鎖若しくは側鎖のうちいずれか一方、又は両方の配向を含む。
【0048】
このような流延膜33を剥ぎ取ってなる湿潤フィルム38におけるポリマー分子は、剥取ローラ41によるテンションの付与により、MD方向に配向する。更に、渡り部41を通過した湿潤フィルム38におけるポリマー分子は、搬送ローラ61、62によるテンションの付与により、MD方向に配向する。
【0049】
MD方向に搬送され、溶媒を多量に含む湿潤フィルム38に乾燥処理のみを施すと、搬送に起因するテンションによりMD方向にポリマー分子が配向し、乾燥に伴い厚み方向から面内方向へのポリマー分子の配向が進みやすい。したがって、渡り部41を経た湿潤フィルム38について、このまま乾燥処理のみを行ってしまうと、溶媒の除去に伴い、厚み方向から面内方向へのポリマー分子の配向が進むため、湿潤フィルム38は裂けやすくなり、特に搬送のためのテンションが付与されるMD方向に沿う裂け故障が発生しやすい。
【0050】
本発明では、未だ多量の溶媒を含み、ポリマー分子がMD方向に配向する湿潤フィルム38を乾燥しながら、MD方向及びTD方向に湿潤フィルム38を積極的に収縮させる収縮処理を行うため、搬送に起因するテンション及び溶媒の除去に起因する湿潤フィルム38におけるポリマー分子の配向の進行を抑えながら、湿潤フィルム38を乾燥することができる。したがって、収縮装置65により、湿潤フィルム38は、面内におけるポリマー分子の向きがほとんど維持された状態のまま、乾燥するため、裂け故障が起こりにくい湿潤フィルム38、フィルム20となる。
【0051】
また、MD方向及びTD方向の収縮処理を経た湿潤フィルム38は、延伸に起因して延伸方向及び厚み方向から面内方向にポリマー分子の配向が進行するものの、MD方向及びTDの収縮処理を施されていない湿潤フィルムに比べて裂けにくい。したがって、収縮処理及び延伸処理により、裂け故障の発生を抑えつつ、引き裂き強度が大きく、所望の光学特性を有するフィルムを製造することができる。
【0052】
収縮処理は、残留溶媒量が乾量基準で30重量%に達するまでの湿潤フィルム38に施すことが好ましい。ここで、「30重量%に達するまで」とは、30重量%を含む。また、収縮処理は、残留溶媒量が乾量基準で200重量%以下の湿潤フィルム38に施すことが好ましい。湿潤フィルム38の残留溶媒量が30重量%よりも小さい場合には、湿潤フィルム38がたるみ、搬送路近傍の部材などに接触する結果、湿潤フィルム38の表面に擦り傷が生じる、或いは湿潤フィルム38が波状に変形してしまうため好ましくない。湿潤フィルム38の残留溶媒量が200重量%よりも大きい場合には、収縮させながらの搬送に耐え得る自己支持性を確保できないため好ましくない。
【0053】
MD方向の長さがL0のサンプルフィルムを収縮装置65に送り、収縮装置65の出口におけるサンプルフィルムのMD方向の長さをL1とするときに、収縮率SSmdは、100×(L0−L1)/L1(%)で表される。MD方向の収縮処理における湿潤フィルム38の収縮率SSmdは、4%以上15%以下であることが好ましい。乾燥風の温度や搬送ローラの周速比V6/V7、V7/V8、V8/V9の調節により、収縮率SSmdを所望の範囲に調節することができる。また、把持開始部85における湿潤フィルム38の幅をW0とし、第1ゾーン81と第2ゾーン82との境界における湿潤フィルム38の幅をW1とするときに、TD方向の収縮率SStdは、100×(W0−W1)/W1(%)で表される。TD方向の収縮処理における湿潤フィルム38の収縮率SStdは、4%以上15%以下であることが好ましい。
【0054】
収縮処理の収縮方向として、ポリマー分子の配向方向、すなわち、湿潤フィルム38に付与された、またはこれから付与されるテンションの方向が含まれていることが好ましい。したがって、上記実施形態では、MD方向やTD方向を収縮処理の収縮方向とすることが好ましい。
【0055】
上記実施形態では、収縮処理の収縮方向をMD方向及びTD方向としたが、本発明はこれに限られず、湿潤フィルム38の厚み方向に直交する2つの方向であれば、いずれの方向でもよい。また、この収縮処理における2つの収縮方向は、互いに直交する方向でもよいし、鋭角に交差する方向でもよい。
【0056】
上記実施形態では、MD方向の収縮処理の後にTD方向の収縮処理を行ったが、本発明はこれに限られず、TD方向の収縮処理の後にMD方向の収縮処理を行っても良いし、MD方向の収縮処理及びTD方向の収縮処理を同時に行っても良い。MD方向の収縮処理及びTD方向の収縮処理を同時に行う場合には、例えば、同時2軸テンタ装置を用いてもよい。
【0057】
TD方向の収縮率SStdとMD方向の収縮率SSmdとは等しいことが好ましいが、本発明はこれに限られない。また、SStd+SSmdは、10%以上30%以下であることが好ましい。
【0058】
上記実施形態では、クリップテンタ14においてTD方向の収縮処理を行ったが、本発明はこれに限られず、ピンテンタ13においてTD方向の収縮処理を行ってもよい。
【0059】
上記実施形態では、搬送され、この搬送に起因するテンションが付与される湿潤フィルム38に収縮処理を行ったが、この搬送等に起因するテンションが湿潤フィルム38に付与されない場合には、湿潤フィルム38の自由収縮を目的として、湿潤フィルム38の乾燥を収縮処理として行ってもよい。
【0060】
TD方向の延伸処理は、残留溶媒量が乾量基準で0重量%より大きく30重量%未満の湿潤フィルム38に施すことが好ましい。残留溶媒量が乾量基準で30重量%以上の湿潤フィルム38に延伸処理を施すと、ポリマー分子が流動する結果、ポリマー分子の絡み合いが解かれてしまうおそれがあるため、好ましくない。そして、TD方向の延伸処理における延伸率EStdは、0%より大きく60%以下であることが好ましい。延伸率EStdは、把持解除部86における湿潤フィルム38の幅をW2とするときに、100×(W2−W1)/W1(%)で表される。
【0061】
上記実施形態では、MD方向の収縮処理及びTD方向の収縮処理の後の湿潤フィルム38に延伸処理を施したが、本発明はこれに限られず、延伸処理を省略してもよい。なお、クリップテンタ14において、TD方向の収縮処理、或いは、延伸処理の手前で、湿潤フィルム38の幅を一定に保持しながら湿潤フィルム38の温度を所定の範囲内となるように調節する予熱工程を行っても良い。
【0062】
上記実施形態では、延伸処理における湿潤フィルム38の延伸方向をTD方向としたが、本発明はこれに限られず、湿潤フィルム38の厚み方向に直交する方向において、湿潤フィルム38を延伸してもよい。したがって、延伸方向としては、MD方向、或いはMD方向に交差する方向でもよいし、湿潤フィルム38におけるポリマー分子の配向方向としてもよい。また、この延伸方向は、1つの方向に限られず、2つの方向としてもよい。この場合には、2つの方向に同時に延伸してもよいし、一方の方向に湿潤フィルムを延伸した後、他方の方向に湿潤フィルムを延伸してもよい。また、延伸方向が、2つの方向の場合には、互いに直交する方向でもよいし、鋭角に交差する方向でもよい。
【0063】
上記実施形態では、支持体として流延ドラム32を用いたが、エンドレスバンドを支持体として用いても良い。また、高速流延を行わない場合は、乾燥法を行う溶液製膜方法に本発明を適用することもできる。
【0064】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0065】
以下、本発明において用いられるドープ21を調製する際に使用するポリマー、溶媒について説明する。
【0066】
(原料)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0067】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0068】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは
0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0069】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0070】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0071】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0072】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0073】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0074】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0075】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0076】
また、ドープ21のTAC濃度は、5重量%〜40重量%であることが好ましく、15重量%以上30重量%以下であることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下であることが最も好ましい。また、添加剤(主には可塑剤である)の濃度は、ドープ中の固形分全体を100重量%とした場合に1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の実施例を説明する。各実験の説明は実験1で詳細に行い、実験2〜9については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0078】
(実験1)
次に、実験1について説明する。フィルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0079】
[ドープの調製]
ドープ21の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ21を調製した。なお、ドープ21のTAC濃度は略23重量%になるように調整した。ドープ21を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク11に入れた。
【0080】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が5ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、パルプから採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これをパルプ原料TACと称する。
【0081】
図1及び図2に示すように、溶液製膜設備10を用いてフィルム20を製造した。ギアポンプ25は、ストックタンク11内のドープ21を、濾過装置26を介して流延ダイ30へ送った。軸32aの駆動により、流延ドラム32を回転させた。周面32bの走行方向Z1における速度は、60m/分とした。温調装置36は、流延ドラム32の周面32bの温度を、−10℃に調節した。周面32bの幅方向中央部の表面温度は0℃であり、その両側縁の温度差は6℃以下であった。
【0082】
流延ダイ30は、ドープ21を周面32b上に流延し、周面32bに流延膜33を形成した。冷却により、流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34を用いて、流延ドラム32から流延膜33を湿潤フィルム38として剥ぎ取った。剥ぎ取り時において、湿潤フィルム38の残留溶媒量は275〜280重量%であり、湿潤フィルム38の温度は−7℃であった。
【0083】
剥取ローラ34は、湿潤フィルム38を渡り部41に案内した。搬送ローラ61、62は、乾燥風を湿潤フィルム38にあてながら、ピンテンタ13に案内した。搬送ローラ61、62の周速比V2/V1は1.01であった。
【0084】
ピンテンタ13は、上流側から下流側にかけて第1〜第3ゾーンに区画し、各ゾーンにおける雰囲気温度を40℃、75℃、100℃とした。更に、ピンテンタ13では、乾燥処理とともに、TD方向への収縮処理を施した。第1〜第3ゾーンの各出口における湿潤フィルム38の残留溶媒量は150重量%、100重量%、50重量%であった。TD方向への収縮処理開始時の湿潤フィルム38の残留溶媒量ZYstsは200重量%であり、TD方向への収縮処理終了時の湿潤フィルム38の残留溶媒量ZYstfは50重量%であった。
【0085】
湿潤フィルム38の残留溶媒量は、湿潤フィルム38から切り出され、寸法7mm×35mmのサンプルフィルムの残留溶媒量とした。サンプルフィルムの残留溶媒量の測定には、ガスクロマトグラフィ(GC−18A,島津製作所(株)製)を用いた。
【0086】
図3に示すように、収縮装置65では、ピンテンタ13から送られた湿潤フィルム38に、乾燥処理とともに、MD方向への収縮処理を施した。MD方向への収縮処理開始時の湿潤フィルム38の残留溶媒量ZYsmsは50重量%であり、MD方向への収縮処理終了時の湿潤フィルム38の残留溶媒量ZYsmfは30重量%であった。MD方向への収縮処理終了時における湿潤フィルム38の収縮率SSmdは5%であり、収縮率SStdは5%であった。クリップテンタ14では延伸処理を行わずに耳切装置43に送った。
【0087】
図1に示すように、湿潤フィルム38の両側縁部を、耳切装置43にて切断した。NT型カッターを用いて、幅が略50mmの両側縁部をカットし、カットされた側縁部はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ44に風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。
【0088】
耳切装置43を経た湿潤フィルム38を乾燥室15に送った。耳切装置43から送り出された湿潤フィルム38の残留溶媒量が略3重量%であった。乾燥室15では、フィルム20に温度が略180℃の乾燥風をあてて、フィルム20を乾燥した。
【0089】
そして、フィルム20を巻取室17に搬送した。巻取室17は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室17の内部には、フィルム20の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。最後に、プレスローラ52で所望のテンションを付与しつつ、フィルム20を巻取室17内の巻取機51で巻き取った。得られたフィルム20の膜厚THは80μmであった。
【0090】
(実験2〜9)
実験2〜9では、膜厚TH、収縮率SSmd、SStd、残留溶媒量ZYsms、ZYsmfを表1に示す条件としたこと以外は、実験1と同様にしてフィルム20を製造した。なお、実験3では、ピンテンタ13において、TD方向への収縮処理後、湿潤フィルム38をTD方向に延伸する延伸処理を行った。延伸処理開始時の湿潤フィルム38の残留溶媒量ZYetsは30重量%であり、延伸処理終了時の湿潤フィルム38の残留溶媒量ZYetfは1重量%であった。延伸率EStdは55%であった。また、実験9では、いずれの収縮処理も行わなかったこと以外は実験1と同様にしてフィルムを製造した。
【0091】
(引裂強度の評価)
実験1〜9で得られたフィルムについて、引裂強度の評価を行った。引裂強度の評価は、以下基準に基づき、測定されたフィルムの引裂強度Kmd、Ktdについてそれぞれ行った。
◎:引裂強度が13.0(g・cm/cm)以上。
○:引裂強度が6.0(g・cm/cm)以上13.0(g・cm/cm)未満。
△:引裂強度が3.0(g・cm/cm)以上6.0(g・cm/cm)未満。
×:引裂強度が3.0(g・cm/cm)未満。
【0092】
フィルムの引裂強度Kmd、Ktdの測定方法は次の通りである。フィルムを50mm×64mmに切断し、温度23℃, 湿度65%RHで2時間調湿し、軽荷重引裂強度試験器(東洋精機製作所)にてISO6383/2−1983に従って、TD方向及びMD方向について、それぞれ引裂に要する平均加重Ktd,Kmdを測定した。
【0093】
表1には、実験1〜9における膜厚TH、収縮率SSmd、SStd、残留溶媒量ZYsms、ZYsmf、ZYets、ZYetf、延伸率EStdとともに、引裂強度の評価結果を纏めて示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1からも明らかなように、収縮処理を行った実験1〜5で得られたフィルムは、十分な引裂強度を有するものであることがわかった。実験6では、湿潤フィルムのバタつきにより、湿潤フィルムの搬送が行えなかった。実験7では、収縮処理においてフィルムが弛み、フィルム表面に擦り傷が生じた。実験8では、搬送に十分な自己支持性がないため、湿潤フィルムの搬送が行えなかった。よって、実験6〜8では、引裂強度の評価を行うことができなかった。したがって、実験1〜5より、残留溶媒量が所定の範囲の湿潤フィルムに対し、所定の収縮率の収縮処理を行うことにより、フィルムを効率よく製造できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】剥取ローラを用いて、流延膜を流延ドラムから剥ぎ取る工程の概要を示す斜視図である。
【図3】本発明の収縮処理を行う収縮装置の概要を示す説明図である。
【図4】延伸処理と共に、本発明の収縮処理を行うクリップテンタの概要を示す平面図である。
【符号の説明】
【0097】
10 溶液製膜設備
14 クリップテンタ
20 フィルム
32 流延ドラム
33 流延膜
38 湿潤フィルム
65 収縮装置
61、62、66〜69 搬送ローラ
71、72 ダクト
81〜83 第1〜第3ゾーン
90 テンタ本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に吐出し、前記支持体上の前記ドープから流延膜を形成する流延膜形成工程と、自己支持性を有する前記流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取る剥取工程と、前記溶媒を含む前記湿潤フィルムの乾燥によりフィルムを得る乾燥工程とを有する溶液製膜方法において、
前記乾燥工程は、残留溶媒量が乾量基準で30重量%に達するまでの前記湿潤フィルムを、前記湿潤フィルムの厚み方向に直交する2つの方向に収縮させる収縮工程を有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
残留溶媒量が乾量基準で200重量%に達した後の前記湿潤フィルムに前記収縮工程を行うことを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記2つの方向における前記湿潤フィルムの収縮率が4%以上15%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記湿潤フィルム中の前記ポリマーの分子が配向する方向に直交する方向が、前記2つの方向に含まれることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記乾燥工程が、前記収縮工程を経た前記湿潤フィルムを、前記厚み方向に直交する方向に延伸する延伸工程を有することを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
残留溶媒量が乾量基準で0重量%より大きく30重量%未満の前記湿潤フィルムに前記延伸工程を行うことを特徴とする請求項5記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
前記湿潤フィルムの延伸率が、前記延伸方向において0%より大きく60%以下であることを特徴とする請求項5または6記載の溶液製膜方法。
【請求項8】
前記ポリマーの分子の配向方向に前記湿潤フィルムを延伸することを特徴とする請求項5ないし7のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項9】
前記フィルムの厚さが20μm以上80μm以下であることを特徴とする請求項1ないし8のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項10】
前記流延膜を冷却し、ゲル化により前記流延膜に自己支持性を発現させることを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項11】
前記ポリマーがセルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項1ないし10のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−58356(P2010−58356A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225480(P2008−225480)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】