説明

溶液製膜設備及び方法

【課題】カワバリの発生を抑えて、異物故障の発生が少ないフイルムを製造する。
【解決手段】ドープ貯留装置21はドープ貯留タンク45と溶媒ガス供給部46とを備える。溶媒ガス供給部46は、溶液64を蒸発させて、溶媒ガス64aを生成する。ドープ38がドープ貯留タンク45から流延ダイに供給されると、溶媒ガス64aがドープ貯留タンク45内に供給される。このとき、溶媒ガス64aの供給速度はドープ38の供給速度以上とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜設備及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル、特に58.0〜62.0%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下に「TAC」という)から形成されるTACフイルムは、その強靭性と難燃性から写真感光材料のフイルム用支持体として利用されている。また、TACフイルムは光学等方性に優れていることから、近年市場が拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フイルムなどに用いられている。
【0003】
TACフイルムの製造方法である溶液製膜方法は、溶融製膜方法など他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性に優れたフイルムを製造することができる。溶液製膜方法では、まず、ジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒にポリマーを溶解した高分子溶液(以下に「ドープ」という)を調製する。そして、ドープを流延ダイから支持体上に流延して、流延膜を形成する。流延膜は支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、支持体から湿潤フイルムとして剥ぎ取られる。剥ぎ取られた湿潤フイルムは、複数のローラが設けられた渡り部にて乾燥された後に、テンター装置により幅方向への延伸と乾燥が行われる。テンター装置を経た後に、フイルムは再び乾燥されて、巻取装置で巻き取られる。
【0004】
流延ダイから流延する前のドープは、ストックタンクで一時的に貯留される。製膜時にはこのストックタンク内からドープを供給する。このドープ供給によりストックタンク内のドープの液面は低下する。この液面の低下に伴い、ストックタンクの内壁に付着したドープの乾燥が進み、ドープ中の溶質が析出してカワバリとなる。このカワバリは、異物故障の原因となる。特に、高濃度ドープを保管している場合には、溶質が略飽和状態で溶解しているため、溶媒の蒸発によりカワバリが発生し易くなる。
【0005】
これまで、以上の問題を解決するために、ストックタンク内において上下方向に移動可能な蓋を設け、ドープの流出に従って、その蓋をドープの液面及びストックタンク内の壁面と密着するようにして移動させることで、ストックタンク内を液相部のみとし、カワバリの発生を防止するものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−263297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のストックタンクについては、ストックタンク内を上下方向に移動可能であり、かつ、ドープの液面及びストックタンク内の壁面との密着性が高い蓋が別途必要となるため、余分なコストがかかってしまう。
【0007】
また、ストックタンクの下流に設置された濾過装置のフィルターの孔径を細かくすることで、カワバリなどの異物除去の効果を高める試みがなされているが、根本的な解決には至っていない。
【0008】
本発明は、ドープを貯留するタンクにおけるカワバリの発生を抑えて、異物故障の発生が少ないフイルムを製造する溶液製膜設備及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、ポリマと溶媒とを含むドープを貯留するドープタンクから前記ドープを流延ダイに供給し、走行する支持体上に前記ドープを流延して流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から剥がして乾燥しフイルムを得る溶液製膜設備において、前記ドープタンクからのドープの供給に応じて、前記ドープタンク内に前記溶媒を含む溶媒ガスを供給する溶媒ガス供給装置と、前記ドープの供給速度以上の供給速度で前記溶媒ガスを供給するように、前記溶媒ガス供給装置を制御する制御装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
前記ドープの供給速度は10L/分以上70L/分以下であり、前記溶媒ガスの供給速度は10L/分以上80L/分以下であることが好ましい。前記溶媒ガス供給装置は、前記溶媒を含む溶液が収納される溶液収納部と、前記溶液収納部内の溶液を一定温度に保持する温度保持部と、前記溶液が蒸発した溶媒ガスを前記ドープタンク内に送る供給部とを備えることが好ましい。
【0011】
前記溶液収納部における気液界面面積は25000cm以上50000cm以下であることが好ましい。前記温度保持部は、前記溶液を30℃以上36℃以下に保持することが好ましい。前記溶液におけるメチレンクロライド比率は75%以上95%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明は、ポリマと溶媒とを含むドープを貯留するドープタンクから前記ドープを流延ダイに供給し、走行する支持体上に前記ドープを流延して流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から剥がして乾燥しフイルムを得る溶液製膜方法において、前記ドープタンクからのドープの供給に応じて、前記ドープタンク内に前記溶媒を含む溶媒ガスを溶媒ガス供給装置により供給し、前記ドープの供給速度以上の供給速度で前記溶媒ガスを供給するように、前記溶媒ガス供給装置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ドープを貯留するタンクにおけるカワバリの発生を抑えて、異物故障の発生が少ないフイルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
フイルムの原料となるドープの溶質と溶媒とについて以下に示す。
【0015】
[溶質]
ドープの溶質としてセルロースエステルを用いると、透明度の高いフイルムを得ることができるので好ましい。セルロースエステルとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアシレートブチレート等のセルロースの低級脂肪酸エステルが挙げられる。中でも、透明度の高さから、セルロースアシレートを用いることが好ましく、トリアセチルセルロース(TAC)を用いることが特に好ましい。なお、本実施形態で用いるドープは、ポリマーとしてトリアセチルセルロース(TAC)を含むものとする。このようにTACを用いる場合には、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。
【0016】
上記のセルロースアシレートとしては、より透明度の高いフイルムを得るためにも、セルロースの水酸基へのアシル基への置換度が下記式(a)〜(c)の全てを満足するものが好ましい。下記式中のA、Bは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表しており、具体的には、Aはアセチル基の置換度であり、Bは炭素数が3〜22のアシル基の置換度である。
(a) 2.5≦A+B≦3.0
(b) 0≦A≦3.0
(c) 0≦B≦2.9
【0017】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を炭素数が2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位、及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合を意味する。なお、100%のエステル化の場合を置換度1とする。
【0018】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合である。
【0019】
セルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、2種類以上のアシル基が用いられていても良い。なお、2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0020】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。更に、DSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、33%以上であることが特に好ましい。更に、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましい。このようなセルロースアシレートを用いると、非常に溶解性に優れたドープを調製することができる。
【0021】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿、パルプ綿のどちらから得られたものでも良い。
【0022】
セルロースアシレートの炭素数が2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられる。更に、それぞれが置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0023】
なお、本発明で用いることができるセルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0024】
[溶媒]
ドープの溶媒は、用いられるポリマーを溶解することができる有機化合物を用いることが好ましい。ただし、本発明においてドープとは、ポリマーを溶剤に溶解又は分散させることで得られる混合物を意味するため、ポリマーとの溶解性が低いような溶剤も用いることができる。好適に用いることができる溶剤としては、例えば、ベンゼンやトルエン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタンやクロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、メタノールやエタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等のアルコール、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン、酢酸メチルや酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル、テトラヒドロフランやメチルセロソルブ等のエーテル等が挙げられる。これらの溶剤の中から2種類以上の溶剤を選択し、混合した混合溶剤を用いても良い。中でもジクロロメタンを用いると溶解度に優れるドープを得ることが出来ると共に、短時間のうちに流延膜中の溶剤を揮発させてフィルムとすることができるので好ましい。
【0025】
上記のハロゲン化炭化水素としては、炭素原子数1〜7のものが好ましく用いられる。更に、ポリマーとの相溶性や、支持体から剥ぎ取る流延膜の剥ぎ取る易さの指標である剥ぎ取り性、フィルムの機械強度、光学特性等の観点から、ジクロロメタンに炭素数が1〜5のアルコールを1種ないしは、数種類混合させたものを用いることが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、中でも、メタノール、エタノール、n−ブタノール、或いはこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0026】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶剤組成も提案されている。この目的に対しては、炭素数が4〜12のエーテル、炭素数が3〜12のケトン、炭素数が3〜12のエステルを適宜混合して用いてもよい。これらの化合物は環状構造を有していても良いし、エーテル、ケトン及びエステルの官能基、すなわち、−O−、−CO−、及び−COO−のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。その他にも、溶剤は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していても良い。なお、2種類以上の官能基を有する場合には、その炭素数がいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
【0027】
ドープには、目的に応じて可塑剤、紫外線吸収剤(UV剤)、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等の公知である各種添加剤を添加させても良い。例えば、可塑剤としては、トリフェニルフィスフェート、ビフェニルジフェニルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤や、ジエチルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、及びポリエステルポリウレタンエラストマー等の公知の各種可塑剤を用いることができる。
【0028】
また、ドープには、フィルム同士の接着を防止したり、屈折率を調整したりする目的で微粒子を添加させることが好ましい。この微粒子としては、例えば二酸化ケイ素誘導体が用いられる。本発明における二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素や、三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。このような二酸化ケイ素誘導体は、その表面がアルキル化処理されたものを用いることが好ましい。アルキル化処理のような疎水化処理が施されている微粒子は、溶剤に対する分散性に優れるため、微粒子同士が凝集することなくドープを調製し、更には、フィルムを製造することができるので、面状欠陥が少なく、透明度の高いフィルムを製造することが可能となる。
【0029】
上記の様に、表面にアルキル化処理された微粒子としては、例えば、表面にオクチル基が導入された二酸化ケイ素誘導体として市販されているアエロジルR805(日本アエロジル(株)製)等を用いることができる。なお、微粒子を添加させる効果を確保しつつ、透明度の高いフィルムを得るために、ドープの固形分に対する微粒子の含有量は0.2%以下となるようにすることが好ましい。更に、微粒子が光の通過を阻害させないように、その平均粒径は1.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは、0.4〜0.8μmである。
【0030】
先に説明した通り、本発明では、透明度の高いポリマーフィルムを得るためにもポリマーとしてTACを利用してドープを調製することが好ましい。この場合、溶剤や添加剤等を混合した後のドープの全量に対して、TACを含有する割合が5〜40重量%であることが好ましい。より好ましくは、TACを含有する割合が15〜30重量%であり、特に好ましくは17〜25重量%である。また、添加剤(主に可塑剤)を含有させる割合は、ドープ中に含まれるポリマーやその他添加剤等を含めた固形分全体に対して、1〜20重量%とすることが好ましい。
【0031】
なお、溶剤、可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、剥離剤等の各種添加剤及び微粒子については、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、TACを利用したドープの製造方法であり、例えば、素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡等についても同様に、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0032】
[ドープ製造方法]
図1に示すように、ドープ製造ライン10は、溶媒タンク11と、溶解タンク12と、ホッパ13と、添加剤タンク14と、加熱装置15と、冷却装置16と、濾過装置17と、フラッシュ装置18と、回収装置19と、再生装置20と、ドープ貯留装置21とを有する。このドープ製造ライン10では、ドープ調製工程、濾過工程、濃縮工程を経て、ドープがドープ貯留装置21により貯留される。ドープ製造ライン21に貯留されたドープは、後述するフイルム製造ライン22に送られる。
【0033】
ドープ調製工程では、上述した原料を混合してドープを製造する。まず、始めに、バルブ18が開かれて、溶媒が溶媒タンク11から溶解タンク12に送られる。次に、ホッパ13に入れられているTACが、計量されながら溶解タンク12に送り込まれる。また、バルブ26が開かれて、必要量の添加剤溶液が添加剤タンク14から溶解タンク12に送り込まれる。
【0034】
なお、添加剤が常温で液体の場合には、溶液としてではなく、そのままの液体の状態で溶解タンク12に送り込むことが可能である。また、添加剤が常温で固体の場合には、ホッパなどを用いて、溶解タンク12に送り込むことも可能である。また、複数の種類の添加剤を添加する場合には、予め複数の種類の添加剤を溶解させておくことも可能である。また、複数の添加剤タンクを設置し、各添加剤タンクに取り付けられた配管を介して、添加剤溶液を溶解タンクに送り込んでもよい。
【0035】
溶解タンク12には、溶媒、TAC、添加剤の順番で送り込むことが好ましいが、この順番に限定する必要はない。例えば、TACを計量しながら溶解タンク12に送り込んだ後に、溶媒を送り込むこともできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク12に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物に混合させることもできる。
【0036】
溶解タンク12は、その外面を包み込むジャケット28と、モータ29により回転する第1攪拌機30とを備えている。さらに、溶解タンク12には、モータ32により回転する第2攪拌機33が取り付けられている。溶解タンク12は、ジャケット28の内部に流される伝熱媒体(図示省略)により、所定の温度に調節されている。前記第1及び第2攪拌機30,33のタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液35が調製される。なお、第1攪拌機30はアンカー翼が備えられたものが、第2攪拌機33はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0037】
溶解タンク12内で調製された膨潤液35は、ポンプ37により加熱装置15に送られる。加熱装置15は膨潤液35を加熱して、その膨潤液35の温度を40℃以上120℃以下にする。これにより、膨潤液35中の固形分が溶解し、ドープ38(図2参照)が調製される。冷却装置16はドープ38を冷却し、そのドープ38の温度を−35℃以上120℃以下にする。
【0038】
濾過工程では、ドープ38内の不純物を濾過装置17により除去する。濾過装置17はフィルタを有し、このフィルタによりドープ38内の不純物が除去される。前記フイルタの平均孔径は、1μm以上20μm以下であることが好ましい。また、この濾過装置38の濾過流量は、1L/時以上15L/時以下であることが好ましい。また、この濾過装置38の濾過1次圧は0.5MPa以上5MPa以下であることが好ましく、その濾過2次圧は1MPa以上10MPa以下であることが好ましい。また、濾過工程の後のドープ38に対しては、水酸基を含む貧溶媒を加えることが好ましい。本発明における貧溶媒とは、ドープ調製用の溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低く、ポリマーを溶解させないものである。濾過工程を経たドープ38は、バルブ40を介して、フラッシュ装置18またはドープ貯留装置21に送られる。
【0039】
上述のように、膨潤液35を製造してからドープ38を調製する方法においては、より高い濃度のドープを調製しようとする場合には、調製に多くの時間がかかってしまう。調製に要する時間が長くなることは、製造コストの増大を引き起こす要因の一つとなる。そこで、濃縮工程において、前述のドープ調製工程にて所望の濃度よりも低濃度のドープを調製した後に、フラッシュ装置18によりその低濃度のドープを濃縮して所望の濃度のドープにする。
【0040】
濃縮工程におけるフラッシュ装置18は、バルブ40を介して送られてきたドープ38から溶媒の一部を蒸発させる。この蒸発でドープ38から溶媒成分が減少することにより、ドープ38の濃度が高められる。フラッシュ装置18により、ドープ38の濃度を20質量%以上30質量%以下の範囲にすることが好ましい。また、ドープ38の温度を60℃以上110℃以下の範囲にすることが好ましい。蒸発した溶媒は、回収装置19により回収される。その回収された溶媒は再生装置20により再生され、溶媒タンク11に送られる。一方、濃縮されたドープ38は、ポンプ42によりフラッシュ装置18から抜き出される。抜き出されたドープ38は、濾過装置43により濾過されてドープ貯留装置21に送られる。なお、フラッシュ装置18からドープ38を抜き出す際に、ドープ38に発生した気泡を抜く泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法があり、例えば超音波照射法が用いられる。
【0041】
図2に示すように、濾過工程又は濃縮工程を経たドープ38は、ドープ貯留装置21により一時的に貯留される。ドープ貯留装置21は、ドープ貯留タンク45と、溶媒ガス供給部46と、バルブ47と、ポンプ48と、濾過部49と、コントローラ50とを備えている。
【0042】
ドープ貯留タンク45は、ドープ38を貯留するタンク本体52と、このタンク本体52に取り付けられたジャケット53と、溶媒ガス供給部46からの溶媒ガス64aをタンク本体52内に吹き出す吹出ノズル54とを備えている。タンク本体52には、ドープ38を流入する流入口と、ドープ38を流出する流出口とが設けられている(いずれも図示省略)。流入口は配管56によりバルブ40または濾過装置43と接続され、流出口は配管57によりフイルム製造ライン22のフィードブロック80(図6参照)と接続されている。ジャケット53の内部には流路(図示省略)が形成されており、その流路内に伝熱媒体(図示省略)が流れている。この伝熱媒体の熱により、タンク本体52内のドープ38の温度は所定の温度に保持されている。
【0043】
溶媒ガス供給部46は、貯留タンク60と、この貯留タンク60内を加熱する加熱器61と、吸気ノズル62とを備えている。貯留タンク60には、揮発性溶媒を含む溶液64が貯留されている。この溶液64の揮発性溶媒はドープ38の溶媒と同様であることが好ましく、また、その成分濃度はドープ38の溶媒と同じ成分濃度が好ましい。例えば、揮発性溶媒であるメチレンクロライドが溶液64に75質量%以上95質量%以下の比率で含有していることが好ましい。加熱器61は、貯留タンク60内の溶液64を30℃以上36℃以下の範囲の温度で加熱する。この加熱により、溶液64から溶媒ガス64aが発生する。吸気ノズル62は配管66によりドープ貯留タンク45の吹出ノズル54と接続しており、吸気した溶媒ガス64aをその配管66に供給する。
【0044】
なお、上記溶媒ガス供給部46を用いて溶媒ガス64aを発生させたが、後述するフイルム製造ライン22内の流延室70、渡り部71、ピンテンタ72、クリップテンタ73、乾燥装置76内(いずれも図6参照)で発生する溶媒ガスを、ドープ貯留タンク45内に送り込んでもよい。
【0045】
バルブ47は配管66に設置されており、このバルブ66は、ドライバ(図示省略)を介して、コントローラ50により開閉制御される。ポンプ48は配管57に設置されており、このポンプ48は、ドライバ(図示省略)を介して、コントローラ50により制御される。濾過部49はポンプ48の下流に設けられ、ドープ貯留タンク45から送られてくるドープ38内の不純物を除去する。
【0046】
ドープ38をドープ貯留タンク45からフィードブロック80に供給する際には、コントローラ50に対して、ドープ38の供給速度を入力する。本実施形態におけるドープ38の供給速度は、10L/分以上70L/分以下とされる。コントローラ50は、入力されたドープ38の供給速度に基づいて、ポンプ48の回転数を算出する。そして、コントローラ50は、その回転数に基づいて、ポンプ48の回転駆動を制御する。これにより、所定量のドープ38がドープ貯留タンク45から流出する。このドープ38の流出により、図3に示すように、ドープ貯留タンク45内におけるドープ38の液面が低下し、そのタンク本体52内の壁面52aはドープ38で濡れた状態となる。
【0047】
一方、コントローラ50は、入力されたドープ38の供給速度に基づいて、溶媒ガス64aの供給速度を算出する。ここで、溶媒ガス64aの供給速度はドープ38の供給速度以上とされ、例えば、10L/分以上80L/分以下とされる。コントローラ50は、算出された溶媒ガス64aの供給速度に基づいて、バルブ47の開閉度を算出する。そして、コントローラ50は、算出されたバルブ47の開閉度に基づいて、バルブ47の開閉を制御する。これにより、所定量の溶媒ガス64aがタンク本体52内に供給される。なお、溶媒ガス64aをドープ貯留タンク45に供給するタイミングは、できる限りほぼ同時であることが好ましいが、これに限る必要はなく、壁面52aにカワバリができ始める前までに溶媒ガス64aを供給すればよい。
【0048】
以上のように、溶媒ガス64aの供給速度をドープ38の供給速度以上とすることで、ドープ38の流出によりできたタンク本体52内の空間52bをその溶媒ガス64aで埋め合わせることができる。これにより、その空間52bに対応する部分の壁面52aに付着したドープ38の揮発が抑制され、カワバリの発生を防止することができる。
【0049】
なお、溶媒ガス供給部64において、溶媒ガス64aを10L/分以上80L/分以下で供給するためには、以下のような条件が必要となる。例えば、貯留タンク60内の溶液64の温度が35℃であって、その溶液64にメチレンクロライド、メタノール及びブタノールが79:20:1の比率で含まれている場合には、1分あたり1Lの溶媒(メチレンクロライド)が蒸発する溶液64の気液界面の面積が462cmとなる。したがって、溶媒ガス64aを1分当たり10L以上80L以下発生させるためには、貯留タンク60の気液界面の面積が25000cm以上50000cm以下であることが必要となる。例えば、1分当たり70Lの溶媒ガス64aを供給する場合には、貯留タンク60の気液界面の面積は32340cm必要となる。
【0050】
また、溶液64のメチレンクロライド比率は75%以上95%以下の範囲にすることが好ましい。メチレンクロライド比率を前記範囲にすることで、後述する流延膜83の支持体が流延ドラム81(図6参照)の場合だけでなく、金属製の流延バンドの場合にも、高品質でフイルム95を製造することができる。また、貯留タンク60の気液界面の面積が25000cm未満である場合には溶剤ガス64aがほとんど発生せず、一方50000cmを超える場合には大きい貯留タンク60が必要になりコストがかかってしまう。
【0051】
なお、溶媒ガス供給部46に代えて、図4に示す溶媒ガス供給部110を用いてもよい。溶媒ガス供給部110は、ガスタンク111と、溶液64を貯留する溶液貯留タンク112と、ガスタンク111の高さ方向に複数設けられた溶液貯留器113と、溶液貯留器113内の流路に熱媒体を循環させる熱媒体循環装置114とを備えている。ここで、溶液貯留タンク112内の溶液64は、貯留タンク60内の溶液64と同様とされる。
【0052】
溶液貯留タンク112内の溶液64は、ポンプ116により各溶液貯留器113に送液される。溶液貯留器113内の溶液64は、熱媒体循環装置114の熱媒体の循環により、30℃以上36℃以下の範囲の温度に加熱される。この加熱により溶液64は蒸発し、溶媒ガス64aがガスタンク111内に充満する。ガスタンク111内の溶媒ガス64aは、配管66を介して、ドープ貯留タンク45に送られる。以上のように、溶液貯留器113をガスタンク111の高さ方向に複数設けることで、設置スペースを大幅にとることなく、所望の気液界面の面積を確保することが可能となる。なお、図4では、図が複雑になるのを避けるために、溶液貯留器、溶媒ガスのうち一部のみに符号をふしてある。
【0053】
また、上記溶媒ガス供給部46に代えて、図5に示す溶媒ガス供給部120を用いてもよい。溶媒ガス供給部120は、ガスタンク121と、ガスタンク121の高さ方向に複数設けられた配管122と、ガスタンク121の幅方向に対して所定の間隔で各配管122に複数取り付けられたノズル123と、溶液を貯留する溶液貯留タンク124と、溶液貯留タンク124内の溶液を加熱する加熱器125を備える。ここで、溶液貯留タンク124内の溶液は、貯留タンク60内の溶液64と同様とされる。
【0054】
溶液貯留タンク124内の溶液は、加熱器125により30℃以上36℃以下の範囲の温度に加熱される。加熱された溶液は、ポンプ127により所定の圧力で配管122に送液される。配管122からの溶液は、ノズル123から噴射される。噴射された溶液は気化して溶媒ガス64aとなり、ガスタンク121内に充満する。ガスタンク121内の溶媒ガス64aは、配管66を介して、ドープ貯留タンク45に送られる。以上のように、溶液噴射用のノズル123を備えた配管をガスタンク121の高さ方向に複数設けることで、設置スペースを大幅にとることなく、所望の量の溶媒ガス64aを発生させることができる。なお、図5では、図が複雑になるのを避けるために、配管、ノズルのうち一部のみに符号を付してある。
【0055】
なお、本実施形態では、コントローラに入力されたドープの供給速度に基づいて溶媒ガスの供給速度を求めたが、これに代えて、タンク本体内の充填ガス圧力を圧力センサで検出し、この圧力変動を無くして常に一定圧力となるように、溶媒ガスを供給してもよい。また、タンク本体内の圧力検出に代えて、タンク本体内のドープ液面レベルを検出し、この検出液面レベルの変動に基づき溶媒ガスを供給し、タンク本体内の充填ガス圧力が略一定になるようにして、カワバリの発生を抑えるようにしてもよい。
【0056】
[溶液製膜方法]
図6に示すように、フイルム製造ライン22には、流延室70と、渡り部71と、ピンテンタ72と、クリップテンタ73と、耳切装置74,75と、乾燥装置76と、冷却装置77と、巻取装置78とが備えられている。
【0057】
流延室70には、ドープ製造ライン10からのドープ38が送り込まれるフィードブロック80と、支持体としての流延ドラム81と、ドープ38を流延ドラム81に流延する流延ダイ82と、流延ドラム81上の流延膜83を湿潤フイルム84として剥ぎ取る剥取ローラ85と、流延膜83から蒸発した溶媒ガスを凝縮液化する凝縮器(コンデンサ)86と、液化した溶媒を回収する回収装置87とが備えられている。また、流延ドラム81には伝熱媒体供給装置(図示省略)が接続されており、この伝熱媒体供給装置の内部に伝熱媒体を供給することで、流延ドラム81の表面温度を所望の温度に調整している。また、流延室70には、その内部温度を調整するための温調装置88が取り付けられている。
【0058】
フィードブロック80の内部にはドープ38の流路が形成されている。この流路の配置を調整することにより、所望の構造の流延膜83を形成することができる。このフィードブロック80は、流延ダイ82に取り付けられている。流延ダイ82には減圧チャンバ90が取り付けられており、この減圧チャンバ90は、流延ダイ82の吐出口から流延ドラム81に到達するまでのドープ38の流れ(以下「ビード」とする)の後方を減圧し、流延ドラム81に対するドープ38の接触を安定させる。減圧チャンバ90にはジャケット(図示省略)が取り付けられている。
【0059】
流延ドラム81は連続回転が可能なステンレス製のドラムから構成される。また、流延ドラム81の表面には研磨加工等が施されている。これにより、流延ドラム81上には平面性に優れる流延膜83が形成される。なお、支持体として流延ドラム81を使用するが、支持体の形態は特に限定されるものではない。例えば、1対のローラに巻き掛けられ、無端で走行する流延バンドを支持体として用いてもよい。また、支持体の寸法は、ドープの流延幅に対して1.1〜2.0倍程度の幅を有するものが好ましい。また、支持体の材質は耐腐食性や高強度を有するもの、例えばステンレスであることが好ましい。
【0060】
流延ダイ82の形状、材質、大きさ等は特に限定されるものではないが、コートハンガー型のものを用いるとドープ38の流延幅を略均一に保持することができるので好ましい。また、ドープ38の流延幅に対して1.1〜2.0倍程度の吐出口を有するものが好ましい。材質は耐久性、耐熱性等の観点から、析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましく、ジクロロメタン、メタノール、水の混合溶液に3ヶ月浸漬させても気液界面に孔開きを生じることがないような耐腐食性を有するものが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と同等の耐腐食性を有するものも好適に用いることができる。なお、耐熱性の観点からは、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下のものを用いることが好ましい。
【0061】
また、流延ダイ82の吐出口の先端には、耐摩耗性向上等を目的として硬化膜が形成されていることが好ましい。硬化膜の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、セラミックスコーティング、ハードクロムめっき、窒化処理等が挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、その硬化膜は、研削加工が可能であること、気孔率が高いこと、更には、脆弱性及び耐腐食性に優れること、流延ダイ82に対する密着度は高いが、ドープ38に対する密着度が低いこと等の条件を満たしていることが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Cr等が挙げられるが、その中でも、WCを用いることが好ましい。なお、WCのコーティングは公知の溶射法により行うことができる。
【0062】
また、平面性に優れる流延膜83を形成するために、流延ダイ82におけるドープ38の接触面は、研磨される等して平滑化されていることが好ましい。また、流延ダイ82のエッジ部に吸引装置(図示省略)を取り付けて、エッジ吸引風量を1〜100L/分としながら吸引することが好ましい。これにより、ビードの表面に凹凸を形成する原因となる風の流れを低減することができる。
【0063】
渡り部71には多数のローラ92が設置されており、これらローラ92は、湿潤フイルム84をピンテンタ72まで案内する。また、湿潤フイルム84の搬送路の上方には送風器93が設けられており、この送風器93は湿潤フイルム84に対して乾燥風を吹き付けて、湿潤フイルム84の乾燥を促進している。
【0064】
ピンテンタ72は、ピンの差し込みにより湿潤フイルム84の両側端部(以下「耳部」という)を担持して搬送する。その搬送中には、湿潤フイルム84をその幅方向に所定の拡幅率で延伸するとともに、乾燥風を用いて乾燥を行う。
【0065】
クリップテンタ73はピンテンタ72の下流に設けられ、湿潤フイルム84の耳部をクリップにより把持して搬送するとともに、乾燥を行う。これにより、フイルム95が得られる。耳切装置74はピンテンタ72とクリップテンタ73との間に設けられ、ピンテンタ72を出た湿潤フイルム84の耳部を切断する。また、耳切装置75はクリップテンタ73と乾燥装置76との間に設けられ、クリップテンタ76を出たフイルム95の耳部を切断する。また、耳切装置74,75にはクラッシャ97が接続されており、このクラッシャ97は耳部を粉砕してチップにする。耳部が切断されたフイルム95は、乾燥装置76に送られる。乾燥装置76の内部には多数のローラ98が備えられており、フイルム95はローラ98により搬送されながら乾燥される。乾燥装置76を出たフイルム95は冷却装置77に送られ、この冷却装置77内で略室温まで冷却される。
【0066】
上述の渡り部71、ピンテンタ72、クリップテンタ73、及び乾燥装置76は、それらの外側に設けられた吸着回収装置100と接続している。この吸着回収装置100は、渡り部71、ピンテンタ72、クリップテンタ73、及び乾燥装置76内で発生する溶媒ガスを吸着回収する。吸着回収された溶剤は、原料として再利用される。
【0067】
巻取装置78は巻芯101を備え、この巻芯101によりフイルム95は巻き取られる。また、巻取装置78はプレスローラ102を備え、このプレスローラ102は巻芯101に巻き取られるフイルム95の張力を制御する。
【0068】
以上の工程を経て、平面性に優れるフイルム95が高速かつ安定して製造される。この製造後のフイルム95の幅は1400mm以上2500mm以下であることが好ましい。なお、フイルム95の幅が2500mmを超える場合であっても、本発明の効果を得ることができる。また、製造後のフイルム95の厚みは、20μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上80μm以下であることがより好ましく、30μm以上80μm以下であることが最も好ましい。
【0069】
なお、上記実施形態では、1種類のドープを用いて単層のフイルムを製造する場合について説明したが、本発明は複層構造の流延膜を形成する場合にも効果を発揮する。この場合には、所望の数のドープを同時或いは逐次に流延する等の公知の方法を用いればよく、特に限定されない。また、流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶剤回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載に係る発明も本発明に適用することができる。また、完成したフイルムの性能や、カールの度合い、厚み、及びこれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載に係る発明も本発明に適用することができる。
【0070】
完成したフイルムの少なくとも一方の面に表面処理を施すと、偏光板等の光学部材との接着度を高めることができるので好ましい。表面処理としては、例えば、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理等が挙げられ、これらの中から少なくとも1つの処理を行うことが好ましい。
【0071】
完成したフイルムをベースとし、その両面あるいは一方の面に所望の機能層を設けると、各種機能性フイルムとして用いることができる。機能層としては、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層等が挙げられる。例えば、反射防止層を設けると、光の反射を防止して高画質を提供することができる反射防止フイルムが得られる。上記の機能層や形成方法等に関しては、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細に記載されており、これらの記載に係る発明も本発明に適用することができる。また、ポリマーフイルムの具体的用途に関しては、例えば、特開2005−104148号公報の[1088]段落から[1265]段落に記載される、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型等の液晶表示装置への利用等が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[原料]
実施例で使用した原料の質量部は下記の通りである。なお、ドープ調製用の溶媒としては、予め、塩化メチレン(第1溶媒)とメタノール(第2溶媒)とn−ブタノール(第3溶媒)とを混合した混合溶媒を調製後、溶媒タンク11に貯留したものを用いた。
TAC(置換度2.86、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
塩化メチレン(第1溶媒) 400質量部
メタノール(第2溶媒) 77質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 5質量部
可塑剤A:(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B:(ジフェニルフォスフェート) 3.5質量部
【0074】
なお、ここで使用したTACは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が5ppm、Mg含有量が42ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンが15ppm含むものであった。また、アセトン抽出分は8質量%、重量平均分子量/数平均分子量比は2.7であった。イエローインデックスは6.0であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。このTACは、パルプから採取したセルロースを原料としてセルローストリアセテートを合成した。
【0075】
[ドープ製造方法]
図1に示すドープ製造ライン10により、流延用のドープ38を調製した。まず、第1攪拌機及び第2攪拌機30,33を有する4000Lのステンレス製の溶解タンク12に、溶媒タンク11から第1〜第3溶媒を混合した混合溶媒を送液した。ホッパ13からTACを溶解タンク12へと送り込み、溶解タンク12全体が2000kgになるように調整した。このとき、溶媒は全てその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。溶解タンク12の内部をディゾルバータイプの攪拌機を備えた第2攪拌機33により攪拌剪断速度が最初は5m/秒(剪断応力5×10×9.8N/m/秒)の周速で攪拌した。次に、中心軸にアンカー翼を備えた第1攪拌機30により、周速1m/秒(剪断応力1×10×9.8N/m/秒)の条件下で30分間分散した。なお、分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。そして、分散終了後に、高速攪拌を停止させて、第1攪拌機30の周速を0.5m/秒として、さらに100分間攪拌してから、TACを膨潤させて膨潤液35を得た。なお、膨潤終了までは、窒素ガスで溶解タンク12の内部を0.12MPaになるように加圧し、溶解タンク12の内部の酸素濃度を2体積%未満として、防爆上で問題のない状態を保った。また、膨潤液35中の水分量は0.3質量%であった。
【0076】
加熱装置15により膨潤液35内の固形分を完全に溶解させてドープ38を調製した。この時の加熱装置35の温度は100℃で、ドープ38の温度は90℃で、ドープ38の固形分濃度は19質量%であった。このドープ38を冷却装置16により冷却した。この時の冷却装置16の温度は−15℃で、冷却されたドープ38の温度は−8℃であった。また、濾過装置17によりドープ38内の不純物を除去した。濾過装置17のフィルタの公称孔径は10μmで、濾過1次圧は3MPaで、2次圧は1.6MPaであった。
【0077】
濃縮前のドープ38を120℃で常圧に調整されているフラッシュ装置18内でフラッシュさせて、蒸発した溶媒を凝縮器(図示省略)で液化して回収装置19で回収分離した。フラッシュ後、すなわち濃縮後のドープ38の固形分濃度は、23.0質量%となった。なお、回収された溶媒は、再生装置20により再生される。フラッシュ装置18内のフラッシュタンクには中心軸にアンカー翼が取り付けられており、このアンカー翼により周速0.5m/秒で攪拌して、脱泡を行った。フラッシュ装置18内のドープ38の温度は25℃であり、その装置内における平均滞留時間は50分であった。このドープ38を採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(秒−4)で450(Pa・s)であった。
【0078】
次に、濃縮後のドープ38に、弱い超音波照射することにより泡抜きを実施した。その後、ポンプ42により1.5MPaに加圧した状態で濾過装置43に送液した。濾過装置43では、最初に公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させたドープ38を、同じく10μmの焼結繊維フィルタに通過させた。それぞれの1次圧は1.5MPa、1.2MPaであり、2次圧は1.0MPa、0.8MPaであった。
【0079】
図2に示すように、バルブ40または濾過装置43を経たドープ38を、ドープ貯留装置21により一時的に貯留した。ドープ38を、供給速度60L/分でドープ貯留タンク45からフイルム製造ライン22のフィードブロック80に供給した。このドープ38の供給に応じて、溶媒ガス64aを供給速度60L/分で溶媒ガス供給部46からドープ貯留タンク45内に供給した。溶媒ガス64aは、貯留タンク64内の溶液64を加熱器61の加熱により蒸発させたガスとした。この加熱器61の加熱により、溶液64の温度を35℃とした。溶液64には、メチレンクロライドを79質量%の比率で含有させた。貯留タンク64の気液界面の面積は28000cmであった。以上の条件でドープ38を貯留することで、タンク本体52内の壁面52aに形成されるカワバリの発生を防止することができた。
【0080】
ドープ貯留タンク内におけるドープ38中の異物の混入状態について、本発明によるカワバリ防止のための対策(以下「カワバリ防止対策」とする)を行った場合と、そのカワバリ防止対策を行わなかった場合との比較を行った。その結果、カワバリ防止対策を行った場合はドープ100L当たり1.5個の異物が混入していたのに対して、カワバリ防止対策を行わなかった場合にはドープ100L当たり2.8個の異物が混入していた。ここで、ドープ38中の異物の混入状態の確認は目視で行った。異物にはカワバリが含まれていた。このように、本発明によるカワバリ防止対策を行うことにより、異物の量を半減することができる。
【0081】
[フイルム製造方法]
図6に示すフイルム製造ライン22においてフイルムを製造した。適量のドープ38をドープ製造ライン10からフィードブロック80を介して流延ダイ82に送り、この流延ダイ82から連続回転する流延ドラム81上にドープ38を流延し、流延膜83を形成した。ドープ38の吐出量は乾燥後のフイルムの厚みが80μmとなるように調整した。流延ダイ82の吐出口を、幅が1.8mのスリットとした。流延時のドープ38の温度を36℃とした。フィードブロック80の内部温度を36℃とした。減圧チャンバ90の圧力を600Paとしてビードの後方を減圧した。
【0082】
流延ドラム81は、回転数の制御が可能なステンレス製ドラムを用いた。伝熱媒体供給装置から冷媒を流延ドラム81の内部に供給することにより、流延ドラム81の表面温度を−10℃とした。温調装置88を用いて流延室70の内部温度を常時35℃とした。
【0083】
流延膜83を冷却ゲル化させ、自己支持性を有するようになったときに、剥取ローラ85により流延膜83を湿潤フイルム84として剥ぎ取った。この湿潤フイルム84を渡り部71に送り、渡り部71に設けられた複数のローラ92で支持しながら搬送する間に、送風器93から40℃に調整した乾燥風を供給して湿潤フイルム84を乾燥した。
【0084】
ピンテンタ72に送られた湿潤フイルム84の耳部にピンを差し込み、湿潤フイルム84を搬送した。また、搬送中には、湿潤フイルム84をその幅方向に延伸するとともに、乾燥風の吹き付けにより乾燥を行った。
【0085】
ピンテンタ72を経た湿潤フイルム84をクリップテンタ73に送った。クリップテンタ73において、湿潤フイルム84の耳部をクリップにより把持しながら搬送し、その搬送中に湿潤フイルム84の乾燥を行った。これにより、フイルム95が得られた。耳切装置74,75を用いて、湿潤フイルム84又はフイルム95の耳部を切断した。切断した耳部を、カッターブロア(図示省略)を介して、クラッシャ97に送り、平均80mm程度のチップに粉砕した。
【0086】
耳切装置75と乾燥装置76との間に予備乾燥室(図示省略)を設けて100℃の乾燥風を供給することによりフイルム95を予備加熱した後、乾燥装置76に送った。乾燥装置76では、フイルム95を複数のローラ98に巻き掛けながら搬送し、その搬送中に乾燥を行った。乾燥装置76の内部温度は、フイルム95の膜面温度が140℃となるように調整された。乾燥装置76におけるフイルム95の乾燥時間を10分とした。フイルム95の膜面温度は、フイルム95の搬送路の真上かつ表面近傍に設けた温度計(図示省略)を用いて測定した。
【0087】
吸着回収装置100を渡り部71、ピンテンタ72、クリップテンタ73、及び乾燥装置76に接続した。この吸着回収装置100は、活性炭からなる吸着剤と、乾燥窒素からなる脱着剤(いずれも図示省略)とを有し、それら渡り部71、ピンテンタ72、クリップテンタ73、及び乾燥装置76内で発生した溶媒ガスを回収した後、水分量が0.3重量%以下になるまで溶媒ガスの水分を除去した。
【0088】
乾燥装置76と冷却装置77との間に調湿室(図示省略)を設けて、フイルム95に対して、温度50℃、露点20℃のエアを供給した後、直接的に90℃、湿度70%のエアを吹き付けて調湿し、フイルム95に発生しているカールを矯正した。次に、フイルム95を冷却装置77に送り、30℃以下になるまでフイルム95を徐々に冷却させた。
【0089】
フイルム95を巻取装置78に送り、プレスローラ102によりフイルム95に対して50N/mの押し圧を付与しながらφ169mmの巻芯101で巻き取った。巻取り時には、フイルム95の巻き始めの張力を300N/mとし、巻き終わりの張力を200N/mとした。以上により、ロール状のフイルム95を得た。
【0090】
完成したフイルム95は膜厚が80μmであった。なお、全製膜工程を通じて、流延膜83、湿潤フイルム84、及びフイルム95の平均乾燥速度を20重量%/分とした。
【0091】
[気液界面の面積の算出]
上記実施形態で示した、1分あたり1Lの溶媒が蒸発する溶液64(図2参照)の気液界面の面積が462cmであることを、溶媒の蒸発量の測定により算出した。溶媒の蒸発量の測定に際しては、図7に示すように、溶液64を入れるガラス製のシャーレ130と、一定温度を保持することができる床面131とを用いた。シャーレ121の開口131aの面積(溶液64の気液界面の面積)を73.9cm(97φ×15mm)とした。床面131の温度を34〜35.5℃の範囲で一定に保持した。なお、測定は室温30℃の下で行った。また、溶液64には、メチレンクロライド、メタノール及びブタノールを79:20:1の比率で含めた。
【0092】
溶媒の蒸発量の測定では、溶液64を55.3g入れたシャーレ(以下「シャーレ1」という)と、溶液64を60.5g入れたシャーレ(以下「シャーレ2」という)の二つを用意し、各シャーレを床面131に置いて、溶媒を蒸発させた。そして、測定開始から5分ごとにシャーレ全体の重量を測定し、70分経過した時点で測定を終了した。そして、以下の式により、測定開始から測定終了までの溶媒の蒸発量を5分単位で求めた。
(溶媒の蒸発量(5分単位))=
(シャーレ全体の重量(5分単位))−(シャーレのみの重量)
なお、溶液が入っていないシャーレ1のみの重量は61.1gであり、溶液が入っていないシャーレ2のみの重量は62.4gであった。
【0093】
表1では、シャーレ1及び2から蒸発した溶媒の蒸発量(蒸発量)を、測定開始から測定終了までの5分単位で示している。また、図8のグラフは測定開始から測定終了までの溶媒の蒸発量の経時的変化を表したものであり、「◆」は表1のシャーレ1の溶媒の蒸発量に、「■」は表1のシャーレ2の溶媒の蒸発量に対応している。
【表1】

【0094】
上記表1及び図8から、5分間で約3gの溶媒が蒸発することが分かる。即ち、シャーレの気液界面の面積は73.9cmであることから、5分間で約3gの溶媒が蒸発する溶液64の気液界面の面積は73.9cmとなることが分かる。これを「g」から「L」に換算すると、溶媒(メチレンクロライド)3gは約0.035molであり、1molは22.4Lであることから、5分間で約0.8Lの溶媒が蒸発する溶液64の気液界面の面積は73.9cmとなる。これを「5分」から「1分」に、また「0.8L」から「1L」に換算すると、1分あたり1Lの溶媒が蒸発する溶液64の気液界面の面積は462cmとなる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】ドープ製造ラインの概略図である。
【図2】本発明を適用したドープ貯留装置の概略図である。
【図3】本発明を適用したドープ貯留装置におけるドープ流出時の状態を示す概略図である。
【図4】溶媒ガス供給部の別の実施形態を示す概略図である。
【図5】溶媒ガス供給部の別の実施形態を示す概略図である。
【図6】フイルム製造ラインの概略図である。
【図7】溶媒の蒸発量の測定に用いるシャーレを示す概略図である。
【図8】溶媒の蒸発量の経時的変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0096】
10 ドープ製造ライン
21 ドープ貯留装置
22 フイルム製造ライン
38 ドープ
45 ドープ貯留タンク
46,110,120 溶媒ガス供給部
47 バルブ
50 コントローラ
52 タンク本体
60 貯留タンク
61 加熱器
62 吸気ノズル
64 溶液
64a 溶媒ガス
66 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマと溶媒とを含むドープを貯留するドープタンクから前記ドープを流延ダイに供給し、走行する支持体上に前記ドープを流延して流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から剥がして乾燥しフイルムを得る溶液製膜設備において、
前記ドープタンクからのドープの供給に応じて、前記ドープタンク内に前記溶媒を含む溶媒ガスを供給する溶媒ガス供給装置と、
前記ドープの供給速度以上の供給速度で前記溶媒ガスを供給するように、前記溶媒ガス供給装置を制御する制御装置とを備えることを特徴とする溶液製膜設備。
【請求項2】
前記ドープの供給速度は10L/分以上70L/分以下であり、前記溶媒ガスの供給速度は10L/分以上80L/分以下であることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜設備。
【請求項3】
前記溶媒ガス供給装置は、
前記溶媒を含む溶液が収納される溶液収納部と、
前記溶液収納部内の溶液を一定温度に保持する温度保持部と、
前記溶液が蒸発した溶媒ガスを前記ドープタンク内に送る供給部とを備えることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜設備。
【請求項4】
前記溶液収納部における気液界面面積は25000cm以上50000cm以下であることを特徴とする請求項3記載の溶液製膜設備。
【請求項5】
前記温度保持部は、前記溶液を30℃以上36℃以下に保持することを特徴とする請求項3または4記載の溶液製膜設備。
【請求項6】
前記溶液におけるメチレンクロライド比率は75%以上95%以下であることを特徴とする請求項3ないし5いずれか1項記載の溶液製膜設備。
【請求項7】
ポリマと溶媒とを含むドープを貯留するドープタンクから前記ドープを流延ダイに供給し、走行する支持体上に前記ドープを流延して流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から剥がして乾燥しフイルムを得る溶液製膜方法において、
前記ドープタンクからのドープの供給に応じて、前記ドープタンク内に前記溶媒を含む溶媒ガスを溶媒ガス供給装置により供給し、
前記ドープの供給速度以上の供給速度で前記溶媒ガスを供給するように、前記溶媒ガス供給装置を制御することを特徴とする溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−208396(P2009−208396A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55199(P2008−55199)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】