説明

溶融めっきラインの制御装置、方法及びプログラム

【課題】噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御する際に、両操作量を適切な組み合わせで決定できるようにする。
【解決手段】溶融めっき金属に浸漬させたストリップ1の表面にガスを噴射する表側ノズル4f及び裏面にガスを噴射する裏側ノズル4bを備えた溶融めっきラインにおいて、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの噴射ガスの圧力及びストリップ1とのギャップを制御する制御装置100は、溶融めっき金属の付着量が少ないときはギャップ制御の分担の割合を大きくし、溶融めっき金属の付着量が多いときは圧力制御の分担の割合を大きくするように圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定し、その決定した圧力制御及びギャップ制御の分担の割合に基づいて、圧力設定値及びギャップ設定値を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき金属に浸漬させた金属ストリップ(以下では単にストリップと記す)の表面にガスを噴射する表側ノズル及び裏面にガスを噴射する裏側ノズルを備えた溶融めっきラインの制御装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼業における鋼板の溶融亜鉛めっきラインのような溶融めっきラインでは、溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板に付着した溶融めっき金属に、鋼板の表裏の面にそれぞれ対向して設置した噴射ノズルから高圧ガスを噴射させ、その噴射ガス圧、及び鋼板と噴射ノズルのギャップ(間隔)を操作量としてめっき付着量を制御することが行われている(例えば特許文献1、2を参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2900969号公報
【特許文献2】特開平7−48663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋼板の表裏における噴射ガス圧、及び鋼板と噴射ノズルのギャップを操作量とする場合に、その2つの操作量をどのような組み合わせで決定するかは重要である。例えば特許文献1では、噴射ガス圧の変更を主体として、鋼板の表裏における噴射ガス圧の設定偏差が所定値となったときには、表裏における噴射ガス圧が等しくなる鋼板と噴射ノズルのギャップを算出し、算出された当該ギャップと噴射ガス圧を同時に設定することが開示されている。
【0005】
ところで、噴射ガスの圧力を変更する場合、めっき品質は安定しているが、ガス圧を操作しても実際に噴射ガス圧が所望の圧力になる時間応答性が低い。その一方で、ギャップを変更する場合、噴射ノズルの位置を変える駆動系の時間応答性が比較的優れているが、経験上、特に溶融めっき金属の付着量が多いときには、鋼板の表面に凹凸ができる等めっき品質が劣ってしまうことがある。
【0006】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、鋼板の表裏のめっき付着量を所望の値に制御するのに際して、表裏の噴射ノズルの噴射ガスの圧力、及び鋼板面と噴射ノズルのギャップの、両操作量を適切な組み合わせで決定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶融めっきラインの制御装置は、溶融めっき金属に浸漬させたストリップの表面にガスを噴射する表側ノズル及び裏面にガスを噴射する裏側ノズルを備えた溶融めっきラインにおいて、前記表側ノズル及び前記裏側ノズルの噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御する制御装置であって、溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する決定手段と、前記決定手段により決定した圧力制御及びギャップ制御の分担の割合に基づいて、圧力設定値及びギャップ設定値を設定する設定手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の溶融めっきラインの制御方法は、溶融めっき金属に浸漬させたストリップの表面にガスを噴射する表側ノズル及び裏面にガスを噴射する裏側ノズルを備えた溶融めっきラインにおいて、前記表側ノズル及び前記裏側ノズルの噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御する制御方法であって、溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する手順と、前記決定した圧力制御及びギャップ制御の分担の割合に基づいて、圧力設定値及びギャップ設定値を設定する手順とを有することを特徴とする。
本発明のプログラムは、溶融めっき金属に浸漬させたストリップの表面にガスを噴射する表側ノズル及び裏面にガスを噴射する裏側ノズルを備えた溶融めっきラインにおいて、前記表側ノズル及び前記裏側ノズルの噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御するためのプログラムであって、溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する処理と、前記決定した圧力制御及びギャップ制御の分担の割合に基づいて、圧力設定値及びギャップ設定値を設定する処理とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定するようにしたので、めっき品質をできるだけ維持しつつ、必要なときには応答性に優れた組み合わせで噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る溶融めっきライン及びその制御装置100の構成を示す図である。
【0010】
溶融めっきラインは、焼鈍炉(不図示)から所定のライン速度で搬送されるストリップ(鋼板)1をめっきする設備であり(搬送方向矢印X)、溶融亜鉛や溶融アルミニウム等の溶融めっき金属が満たされている溶融めっき金属ポット2と、溶融めっき金属ポット2の上下流側に配設されたストリップ搬送用のロール(不図示)と、ストリップ1を溶融めっき金属ポット2内に引き込んで浸漬させるシンクロール3とを備える。
【0011】
また、溶融めっき金属ポット2の下流側には、ストリップ1の表側及び裏側にワイピングノズル4f及びワイピングノズル4b(以下、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bと称する)が配設される。表側ノズル4f及び裏側ノズル4bは、互いのガス噴出部が対向するように配置されている。これら表側ノズル4f及び裏側ノズル4bは、溶融めっき金属ポット2から引き上げられたストリップ1の表面及び裏面に付着した余分な溶融めっき金属を取り除くために、ストリップ1の表面及び裏面に窒素ガス等の不活性ガスを噴出する。
【0012】
さらに、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの下流側には、表側付着量計5f及び裏側付着量計5bが配設される。これら表側付着量計5f及び裏側付着量計5bは、ストリップ1の表面及び裏面に付着した溶融めっき金属の付着量Zf及びZbを計測する。
【0013】
制御装置100には、操業条件として、表裏の目標付着量ZF及びZB、ストリップ1の板厚th、ライン速度Vaが入力される。また、制御装置100には、圧力制御装置6f及び6bから表裏の圧力実績値Pa、ノズル駆動装置7f及び7bから表裏のギャップ(ストリップ1との間隔)実績値Df及びDb、表側付着量計5f及び裏側付着量計5bで計測された表裏の付着量Zf及びZbが入力される。表裏のギャップ実績値Df及びDbは、ストリップ1との間隔を実測するセンサ類(距離計等)を用いるのではなく、ノズル駆動装置7f及び7bが備えるPLG(パルスジェネレータ)により測定されるノズル駆動量に基づいた値としている。
【0014】
制御装置100は、圧力制御装置6f及び6bに表裏の圧力設定値Pを出力して表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの噴射ガスの圧力を制御し、また、ノズル駆動装置7f及び7bに表裏のギャップ設定値DF及びDBを出力して表側ノズル4f及び裏側ノズル4bのギャップを制御する。その場合に、後述するように、溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する。すなわち、ストリップ1の表裏のめっき付着量を制御する際に、圧力制御で受け持つ割合と、ギャップ制御で受け持つ割合とを決定する。
【0015】
ここで、本実施形態では、溶融めっき金属の付着量を表裏独立して捉えるのではなく、表裏トータルで捉えるようにしている。すなわち、表裏のトータル付着量を、噴射ガスの圧力、表裏のトータルギャップ、ライン速度の関数として、
表裏のトータル付着量=F(圧力、表裏のトータルギャップ、ライン速度)
なるモデル式として取り扱う。
【0016】
表側ノズル4f及び裏側ノズル4b間を通過するストリップ1のパスラインは、実際には必ずしも一定とは限らず、表側ノズル4f及び裏側ノズル4b間で揺れ動いている。そのため、溶融めっき金属の表裏の付着量を表裏それぞれの噴射ガスの圧力やギャップで捉えようとすると、誤差が大きく出てしまうことがある。それに対して、本実施形態のように、溶融めっき金属の付着量を表裏トータルで捉えるモデル式として取り扱うことにより、ストリップ1の揺れ等による影響を抑えることができる。
【0017】
また、溶融めっき金属の付着量を表裏トータルで捉えるモデル式として取り扱うことにより、表裏同一の圧力設定が可能になる。表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの噴射ガスの圧力に差があると、スプラッシュ(溶融めっき金属の飛散)が発生する要因ともなるが、表裏同一の圧力設定が可能であるので、スプラッシュの発生を抑えることができる。
【0018】
その上で、差厚めっき時(表裏で目標付着量が異なる)や、差厚めっき時或いは等厚めっき時に表裏の付着量バランスがくずれた時は、表裏のギャップ設定で調整する構成となっている。
【0019】
以下、制御装置100による表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの圧力制御及びギャップ制御について詳細に説明する。
【0020】
制御装置100において、制御方法判定部101は、第1のフィードフォワード制御部102(以下、第1のFF制御部102と称する)、第2のフィードフォワード制御部103(以下、第2のFF制御部103と称する)、フィードバック制御部104(以下、FB制御部104と称する)を起動させ、それぞれの制御を開始させる。
【0021】
図2は、制御方法判定部101の処理動作を示すフローチャートである。制御方法判定部101は、図2のフローチャートに示す処理を一定周期(例えば5秒ごと)で実行する。
【0022】
まずステップS101において、コイル替わりの有無を判定する。
【0023】
ステップS101でコイル替わりがあった場合、ステップS102に進み、第1のFF制御部102を起動させる。第1のFF制御部102の処理動作については、図3を参照して後述する。第1のFF制御部102を起動させた後、ステップS103に進み、コイル進行長さXを初期化してから(X=X0)、本処理を抜ける。ここで、初期長さX0は、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの位置から表側付着量計5f及び裏側付着量計5bの位置までの距離に応じて設定されている。
【0024】
一方、ステップS101でコイル替わりがなかった場合、ステップS104に進み、現在設定されている初期長さX0から実際の進行長さΔXの減算処理を行い、ステップS105において、コイルが初期長さX0だけ進行したか否かを判定する。これは、第1のFF制御部102によるFF制御、第2のFF制御部103によるFF制御、又はFB制御部104によるFB制御を実行した場合、その結果が現れてから(その結果が表側付着量計5f及び裏側付着量計5bで計測されてから)、FB制御部104によるFB制御を開始させるためである。
【0025】
ステップS105でコイルが初期長さX0だけ進行した場合、ステップS106に進み、FB制御部104を起動させる。FB制御部104の処理動作については、図4を参照して後述する。FB制御部104を起動させた後、ステップS107に進み、コイル進行長さXを初期化してから(X=X0)、本処理を抜ける。
【0026】
一方、ステップS105でコイルが初期長さX0だけ進行していない場合、ステップS108に進み、ライン速度の変更の有無を判定する。
【0027】
ステップS105でライン速度の変更があった場合、ステップS109に進み、第2のFF制御部103を起動させる。第1のFF制御部102の処理動作については、図5を参照して後述する。第2のFF制御部103を起動させた後、ステップS110に進み、コイル進行長さXを初期化してから(X=X0)、本処理を抜ける。なお、ステップS108でライン速度の変更がなかった場合は、本処理を抜ける。
【0028】
図3は、第1のFF制御部102の処理動作を示すフローチャートである。第1のFF制御部102は、上記ステップS102で起動すると(すなわち、コイル替わりがあると)、図3のフローチャートに示す処理を実行する。
【0029】
まずステップS201において、コイルデータとして、表裏の目標付着量ZF及びZB、ストリップ1の板厚thを取得する。
【0030】
次にステップS202において、実績データとして、表裏の付着量Zf及びZb、表裏のギャップDf及びDb、噴射ガスの圧力Pa、ライン速度Vaを取得する。
【0031】
次にステップS203において、トータル目標付着量ZT(=ZF+ZB)、トータルギャップDa(=Df+Db-th)、トータル付着量Za(=Zf+Zb)を計算する。
【0032】
次にステップS204において、圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する。図6に示すように、制御装置100には、溶融めっき金属の付着量と圧力制御の重みα及びギャップ制御の重みβとの関係が予め設定、保持されており、この関係に基づいて重みα、βを決定する。重みα、βは、ストリップ1の表裏のめっき付着量を制御する際に、圧力制御で受け持つ割合と、ギャップ制御で受け持つ割合とを決定する値であり、α+β=1の関係にある。付着量が少ないときはギャップ制御の分担の割合を大きくし、付着量が多いときは圧力制御の分担の割合を大きくする関係となっている。なお、ここでいう溶融めっき金属の付着量は、トータル目標付着量ZTでもよいし、トータル付着量Zaでもよいし、それらから計算した付着量Z´(例えばZ´=(ZT+Za)/2)でもよい。
【0033】
次にステップS205において、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの圧力変更量ΔPを計算する。上述したように、表裏のトータル付着量を、噴射ガスの圧力、表裏のトータルギャップ、ライン速度の関数で取り扱うので、表裏の圧力変更量ΔPは、トータル目標付着量ZT、トータル付着量Za、ライン速度Va、トータルギャップDa、圧力Paの関数として、
ΔP=f(ZT,Za,Va,Da,Pa)
なるモデル式で表現される。具体的に、表裏の圧力変更量ΔPは、ステップS204で決定した重みαを用いて下式(1)により求めることができる。(∂P/∂Z)は、圧力変更により発生する、溶融めっき金属の付着量に与える影響の度合いを示す影響係数の逆数である。
ΔP=(∂P/∂Z)*α*ΔZ・・・(1)
ΔZ=ZT−Za
【0034】
次にステップS206において、ステップS205で求めた表裏の圧力変更量ΔPを用いて、表裏の圧力設定値Pを計算する。表裏の圧力設定値Pは下式(2)により求めることができる。
P=Pa+ΔP・・・(2)
【0035】
また、ステップS207において、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bのギャップ変更量ΔDF及びΔDBを計算する。上述したように、表裏のトータル付着量を、噴射ガスの圧力、表裏のトータルギャップ、ライン速度の関数で取り扱うので、表裏のギャップ変更量ΔDF及びΔDBは、表裏の目標付着量ZF及びZB、トータルギャップDa、圧力Pa、ライン速度Vaの関数として、
ΔDF=g1(ZF,ZB,Da,Pa,Va)
ΔDB=g2(ZF,ZB,Da,Pa,Va)
なるモデル式で表現される。
【0036】
具体的に、表のギャップ変更量ΔDFは、ステップS204で決定した重みβを用いて下式(3)により、また、裏のギャップ変更量ΔDBは、ステップS204で決定した重みβを用いて下式(4)により求めることができる。(∂D/∂Z)は、ギャップ変更により発生する、溶融めっき金属の付着量に与える影響の度合いを示す影響係数の逆数である。
ΔDF=(∂D/∂Z)*(1/2)*ΔZFB
+(∂D/∂Z)*(1/2)*β*ΔZ
+(1/2)*Δth ・・・(3)
ΔDB=(∂D/∂Z)*(−1/2)*ΔZFB
+(∂D/∂Z)*(1/2)*β*ΔZ
+(1/2)*Δth ・・・(4)
ΔZFB=(ZF−Zf)−(ZB−Zb)
Δth=th(次コイル)−th(現コイル)
【0037】
ここで、式(3)、(4)の右辺第1項は、表側の付着量の変更分(ZF−Zf)と裏側の付着量の変更分(ZB−Zb)とに差がある場合(差厚めっき時や、差厚めっき時或いは等厚めっき時に表裏の付着量バランスがくずれた時)、その差を、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bのギャップに差を持たせることにより実現することを意味する。逆に言えば、表側の付着量の変更分(ZF−Zf)と裏側の付着量の変更分(ZB−Zb)とに差がなければ、右辺第1項によるギャップ変更量は発生しない。また、式(3)、(4)の右辺第2項は、重みβで定まるギャップ制御の分担量を表側ノズル4f及び裏側ノズル4で半分ずつ受け持つことを意味する。さらに、式(3)、(4)の右辺第3項は、ストリップ1の板厚thの変化に応じたギャップ変更量を表側ノズル4f及び裏側ノズル4で半分ずつ受け持つことを意味する。
【0038】
次にステップS208において、ステップS207で求めた表裏のギャップ変更量ΔDF及びΔDBを用いて、表裏のギャップ設定値DF及びDBを計算する。表のギャップ設定値DFは下式(5)により、裏のギャップ設定値DBは下式(6)により求めることができる。
DF=Df+ΔDF・・・(5)
DB=Db+ΔDB・・・(6)
【0039】
そして、ステップS209において、ステップS206で求めた表裏の圧力設定値Pを圧力制御装置6f及び6bに設定出力し、また、ステップS208で求めた表裏のギャップ設定値DF及びDBをノズル駆動装置7f及び7bにそれぞれ設定出力する。
【0040】
図4は、FB制御部104の処理動作を示すフローチャートである。FB制御部104は、上記ステップS106で起動すると(すなわち、コイルが初期長さX0だけ進行すると)、図4のフローチャートに示す処理を実行する。
【0041】
まずステップS301において、実績データとして、表裏の付着量Zf及びZb、表裏のギャップDf及びDb、噴射ガスの圧力Pa、ライン速度Vaを取得する。
【0042】
次にステップS302において、トータル目標付着量ZT(=ZF+ZB)、トータルギャップDa(=Df+Db-th)、トータル付着量Za(=Zf+Zb)を計算する。
【0043】
次にステップS303において、図6に示した関係に基づいて、圧力制御及びギャップ制御の分担の割合(重みα、β)を決定する。
【0044】
次にステップS304において、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの圧力変更量ΔPを計算する。表裏の圧力変更量ΔPは、トータル目標付着量ZT、トータル付着量Za、ライン速度Va、トータルギャップDa、圧力Paの関数として、
ΔP=f(ZT,Za,Va,Da,Pa)
なるモデル式で表現される。具体的に、表裏の圧力変更量ΔPは、ステップS303において決定した重みαを用いて下式(7)により求めることができる。(∂P/∂Z)は、圧力変更により発生する、溶融めっき金属の付着量に与える影響の度合いを示す影響係数の逆数である。
ΔP=(∂P/∂Z)*α*ΔZ・・・(7)
ΔZ=ZT−Za
【0045】
次にステップS305において、ステップS304で求めた表裏の圧力変更量ΔPを用いて、表裏の圧力設定値Pを計算する。表裏の圧力設定値Pは下式(8)により求めることができる。
P=Pa+ΔP・・・(8)
【0046】
また、ステップS306において、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bのギャップ変更量ΔDF及びΔDBを計算する。表裏のギャップ変更量ΔDF及びΔDBは、表裏の目標付着量ZF及びZB、トータルギャップDa、圧力Pa、ライン速度Vaの関数として、
ΔDF=g1(ZF,ZB,Da,Pa,Va)
ΔDB=g2(ZF,ZB,Da,Pa,Va)
なるモデル式で表現される。
【0047】
具体的に、表のギャップ変更量ΔDFは、ステップS303で決定した重みβを用いて下式(9)により、また、裏のギャップ変更量ΔDBは、ステップS303で決定した重みβを用いて下式(10)により求めることができる。(∂D/∂Z)は、ギャップ変更により発生する、溶融めっき金属の付着量に与える影響の度合いを示す影響係数の逆数である。
ΔDF=(∂D/∂Z)*(1/2)*ΔZFB
+(∂D/∂Z)*(1/2)*β*ΔZ・・・(9)
ΔDB=(∂D/∂Z)*(−1/2)*ΔZFB
+(∂D/∂Z)*(1/2)*β*ΔZ・・・(10)
【0048】
次にステップS307において、ステップS306で求めた表裏のギャップ変更量ΔDF及びΔDBを用いて、表裏のギャップ設定値DF及びDBを計算する。表のギャップ設定値DFは下式(11)により、裏のギャップ設定値DBは下式(12)により求めることができる。
DF=Df+ΔDF・・・(11)
DB=Db+ΔDB・・・(12)
【0049】
そして、ステップS308において、ステップS305で求めた表裏の圧力設定値Pを圧力制御装置6f及び6bに設定出力し、また、ステップS307で求めた表裏のギャップ設定値DF及びDBをノズル駆動装置7f及び7bにそれぞれ設定出力する。
【0050】
図5は、第2のFF制御部103の処理動作を示すフローチャートである。第2のFF制御部103は、上記ステップS109で起動すると(すなわち、ライン速度に変更があると)、図5のフローチャートに示す処理を実行する。
【0051】
まずステップS401において、実績データとして、表裏の付着量Zf及びZb、表裏のギャップDf及びDb、噴射ガスの圧力Pa、ライン速度Vaを取得する。
【0052】
次にステップS402において、トータル目標付着量ZT(=ZF+ZB)、トータルギャップDa(=Df+Db-th)、トータル付着量Za(=Zf+Zb)、速度変化量ΔVa(=現在のライン速度−1サンプリング前のライン速度)を計算する。
【0053】
次にステップS403において、図6に示した関係に基づいて、圧力制御及びギャップ制御の分担の割合(重みα、β)を決定する。
【0054】
次にステップS404において、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bの圧力変更量ΔPを計算する。表裏の圧力変更量ΔPは、トータル目標付着量ZT、トータル付着量Za、ライン速度Va、トータルギャップDa、圧力Pa、速度変化量ΔVaの関数として、
ΔP=f(ZT,Za,Va,Da,Pa,ΔVa)
なるモデル式で表現される。具体的に、表裏の圧力変更量ΔPは、ステップS403において決定した重みαを用いて下式(13)により求めることができる。(∂P/∂V)は、ライン速度の変更が圧力に与える影響の度合いを示す影響係数である。
ΔP=(∂P/∂V)*α*ΔVa・・・(13)
【0055】
次にステップS405において、ステップS404で求めた表裏の圧力変更量ΔPを用いて、表裏の圧力設定値Pを計算する。表裏の圧力設定値Pは下式(14)により求めることができる。
P=Pa+ΔP・・・(14)
【0056】
また、ステップS406において、表側ノズル4f及び裏側ノズル4bのギャップ変更量ΔDF及びΔDBを計算する。表裏のギャップ変更量ΔDF及びΔDBは、表裏の目標付着量ZF及びZB、トータルギャップDa、圧力Pa、ライン速度Vaの関数として、
ΔDF=g1(ZF,ZB,Da,Pa,Va)
ΔDB=g2(ZF,ZB,Da,Pa,Va)
なるモデル式で表現される。
【0057】
具体的に、表のギャップ変更量ΔDFは、ステップS403で決定した重みβを用いて下式(15)により、また、裏のギャップ変更量ΔDBは、ステップS403で決定した重みβを用いて下式(16)により求めることができる。(∂D/∂V)は、ライン速度の変更がギャップに与える影響の度合いを示す影響係数である。
ΔDF=(∂D/∂V)*(1/2)*β*ΔVa・・・(15)
ΔDB=(∂D/∂V)*(1/2)*β*ΔVa・・・(16)
【0058】
次にステップS407において、ステップS406で求めた表裏のギャップ変更量ΔDF及びΔDBを用いて、表裏のギャップ設定値DF及びDBを計算する。表のギャップ設定値DFは下式(17)により、裏のギャップ設定値DBは下式(18)により求めることができる。
DF=Df+ΔDF・・・(17)
DB=Db+ΔDB・・・(18)
【0059】
そして、ステップS408において、ステップS405で求めた表裏の圧力設定値Pを圧力制御装置6f及び6bに設定出力し、また、ステップS407で求めた表裏のギャップ設定値DF及びDBをノズル駆動装置7f及び7bにそれぞれ設定出力する。
【0060】
以上述べたように、溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定するようにしたので、めっき品質をできるだけ維持しつつ、必要なときには応答性に優れた組み合わせで噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御することができる。
【0061】
例えばGA(合金化溶融亜鉛めっき鋼板)では80g/m2以下の付着量となることが多いが、その場合、ギャップを変更してもめっき品質が悪くなりにくい。したがって、この場合は、ギャップ制御の分担の割合を比較的大きくして(重みβを比較的大きくして)、応答性を確保する。
【0062】
それに対して、例えばGI(溶融亜鉛めっき鋼板)では80g/m2を超える付着量となることが多いが、その場合、ギャップを変更すると、鋼板の表面に凹凸ができる等めっき品質が劣ってしまうことがある。したがって、この場合は、圧力制御の分担の割合を比較的大きくして(重みαを比較的大きくして)、めっき品質を確保するようにする。
【0063】
なお、本実施形態では、制御装置100に、図6に示したように溶融めっき金属の付着量と圧力制御の重みα及びギャップ制御の重みβとの特性線が予め設定、保持されている例を説明したが、それに限定されるものではない。付着量が少ないときはギャップ制御の分担の割合を大きくし、付着量が多いときは圧力制御の分担の割合を大きくして圧力設定値及びギャップ設定値を設定できる態様であればよく、例えば重みα、βをテーブルのかたちで設定、保持してもよい。
【0064】
本発明を適用した溶融めっきラインの制御装置は、具体的にはCPU、各種メモリを備えたコンピュータ装置により実現可能であり、一つの機器により構成されてもよいし、複数の機器により構成されてもよい。
【0065】
また、本発明の目的は、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給することによっても達成される。この場合、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。
【0066】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、プログラムコード自体及びそのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態に係る溶融めっきライン及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態における制御方法判定部の処理動作を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態における第1のFF制御部の処理動作を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態におけるFB制御部の処理動作を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態における第2のFF制御部の処理動作を示すフローチャートである。
【図6】溶融めっき金属の付着量と圧力制御の重み及びギャップ制御の重みとの関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0068】
1 ストリップ
2 溶融めっき金属ポット
3 シンクロール
4f 表側ノズル
4b 裏側ノズル
5f 表側付着量計
5b 裏側付着量計
6f 圧力制御装置
6b 圧力制御装置
7f ノズル駆動装置
7b ノズル駆動装置
100 制御装置
101 制御方法判定部
102 第1のFF制御部
103 第2のFF制御部
104 FB制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき金属に浸漬させたストリップの表面にガスを噴射する表側ノズル及び裏面にガスを噴射する裏側ノズルを備えた溶融めっきラインにおいて、前記表側ノズル及び前記裏側ノズルの噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御する制御装置であって、
溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定した圧力制御及びギャップ制御の分担の割合に基づいて、圧力設定値及びギャップ設定値を設定する設定手段とを備えたことを特徴とする溶融めっきラインの制御装置。
【請求項2】
前記決定手段は、溶融めっき金属の付着量が少ないときはギャップ制御の分担の割合を大きくし、溶融めっき金属の付着量が多いときは圧力制御の分担の割合を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の溶融めっきラインの制御装置。
【請求項3】
表裏のトータル付着量を、噴射ガスの圧力、表裏のトータルギャップ、ライン速度の関数からなるモデル式として取り扱い、
前記表側ノズル及び前記裏側ノズルの噴射ガスの圧力を同一の圧力設定とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融めっきラインの制御装置。
【請求項4】
コイル替わりがあったときに実行するフィードフォワード制御、ライン速度に変更があったときに実行するフィードフォワード制御、及び所定の間隔で実行するフィードバック制御の際に、前記決定手段により圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定し、前記設定手段により圧力設定値及びギャップ設定値を設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶融めっきラインの制御装置。
【請求項5】
溶融めっき金属に浸漬させたストリップの表面にガスを噴射する表側ノズル及び裏面にガスを噴射する裏側ノズルを備えた溶融めっきラインにおいて、前記表側ノズル及び前記裏側ノズルの噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御する制御方法であって、
溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する手順と、
前記決定した圧力制御及びギャップ制御の分担の割合に基づいて、圧力設定値及びギャップ設定値を設定する手順とを有することを特徴とする溶融めっきラインの制御方法。
【請求項6】
溶融めっき金属に浸漬させたストリップの表面にガスを噴射する表側ノズル及び裏面にガスを噴射する裏側ノズルを備えた溶融めっきラインにおいて、前記表側ノズル及び前記裏側ノズルの噴射ガスの圧力及びストリップとのギャップを制御するためのプログラムであって、
溶融めっき金属の付着量に応じて圧力制御及びギャップ制御の分担の割合を決定する処理と、
前記決定した圧力制御及びギャップ制御の分担の割合に基づいて、圧力設定値及びギャップ設定値を設定する処理とをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−228119(P2009−228119A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78761(P2008−78761)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】