説明

溶融メッキ鋼板の製造方法,前処理洗浄装置,及び溶融メッキライン設備

【課題】鋼板をNiプレメッキするための前処理として,鋼板表面に付着した防錆剤を必要十分かつ効率的に洗浄・除去することが可能な溶融メッキ鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の溶融メッキ鋼板の製造方法は,鋼板を焼鈍する焼鈍工程と;焼鈍された鋼板に対して,水溶性の防錆剤を塗布する防錆剤塗布工程と;防錆剤が塗布された鋼板を,電解洗浄を行わずに,アルカリ液を用いて洗浄する洗浄工程と;洗浄された鋼板を,電気NiメッキするNiプレメッキ工程と;Niプレメッキ後の鋼板を,溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬して溶融メッキする溶融メッキ工程と;を含むことを特徴とする。上記洗浄工程では,電解洗浄工程を行わなくても,鋼板に付着している水溶性の防錆剤を,Niプレメッキを行うに際して必要十分に除去できるとともに,洗浄処理を効率化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,溶融メッキ鋼板の製造方法,前処理洗浄装置,溶融メッキライン設備に関し,特に,Niプレメッキの前処理として好適な洗浄を行う溶融メッキ鋼板の製造方法,前処理洗浄装置,及び溶融メッキライン設備に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融メッキ鋼板の製造ラインにおいては,溶融メッキされる鋼板の濡れ性を向上させるため,焼鈍された鋼板に対して電気Niメッキによるプレメッキ(以下,「Niプレメッキ」という。)を施した後に,メッキ浴で溶融亜鉛メッキするプロセスが知られている。このようなプロセスにおいては,これらのメッキ処理を施す前に,焼鈍後の鋼板を一時的に保管する必要がある場合がある。この保管の目的としては,定期修理,保守作業等により焼鈍装置が停止する場合でも,溶融メッキラインに鋼板を継続的に供給する目的や,溶融メッキラインにおける通板効率の向上のため,通板前に鋼板サイズを選択調整する目的,などが挙げられる。
【0003】
ところが,焼鈍したままの鋼板は酸化して錆やすいという問題がある。一説では,鋼板を酸化させないためには,鋼板を焼鈍してから例えば8時間以内程度で,溶融メッキラインに通板することが適切であるとされている。しかし,焼鈍された鋼板を短期間だけ保管して,溶融メッキラインに通板させるのは,製造スケジュール上,困難である場合が多く,焼鈍後の鋼板をある程度長期間にわたり保管することが要求される。
【0004】
そこで,従来では,焼鈍後の鋼板を所定期間保管して電気メッキラインに通板させる場合には,焼鈍後に調質圧延を行い,この際に用いる調質圧延液中に防錆剤を含ませたり,或いは,調質圧延後の鋼板に防錆剤を塗布したりすることによって,保管される鋼板の酸化を防止することが行われていた。
【0005】
しかし,従来から,電気亜鉛メッキ鋼板を製造する際に,上記のように焼鈍後に鋼板表面に塗布された防錆剤が残留していると,電気亜鉛メッキ時にメッキ付着にムラが生じてしまうことが知られている(特許文献1参照)。このため,従来の電気メッキラインでは,メッキ前処理として,アルカリ液のスプレー,電解脱脂槽,ブラシスクラバーなどを用いて,鋼板表面に付着した防錆剤を洗浄・除去する処理が行われていた。特に,特許文献1には,電気亜鉛メッキ前の洗浄処理として,電解洗浄工程において,アルカリ液中で鋼板の極性を切り替えつつ,最後にカソードになるように電解して,洗浄効果を向上させる方法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−2373号公報
【特許文献2】特開2004−124187号公報
【特許文献3】特公昭46−19282号公報
【特許文献4】特許第2725537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,溶融メッキラインにおいて,Niプレメッキを行う場合,その機能を発揮するためには,一般的な電気メッキのメッキ付着量(電気亜鉛メッキの場合には,例えば約30g/m)と比べて,Niメッキ付着量を少なくしなければならない(例えば約0.2g〜0.8g/m)。従って,Niプレメッキでは,従来の電気メッキに比べて,メッキ付着量を厳密に管理する必要があり,このためには,メッキ処理前に,鋼板表面に付着した防錆剤を好適に洗浄しておく必要がある。
【0008】
しかしながら,従来では,電気亜鉛メッキ前の洗浄方法については,上述したようにある程度の知見はあったが,Niプレメッキ前の洗浄方法については,如何にすれば鋼板に付着した防錆剤を効率的かつ必要十分に洗浄できるかについて,十分な知見がなかった。
【0009】
例えば,特許文献2には,[0043]段落に,アルカリ水溶液等による洗浄後に,鋼板表面にNiメッキして溶融亜鉛メッキすることが記載されているが,[実施例]では,Niメッキ後にNaOH水溶液で洗浄するとも記載されており,Niプレメッキの前処理として適した洗浄方法については開示されていない。
【0010】
また,特許文献3には,実施例1に,焼鈍鋼板をソーダ溶液による電解,水洗,酸洗によって洗浄する前処理を行った後に,鋼板表面にNiを析出させることが記載されているが,実施例2には,実施例1の前処理をしなくても同じ効果を示したことが記載されており,洗浄処理の効果が定かではない。
【0011】
さらに,特許文献4には,[0019],[実施例]に,焼鈍工程前に鋼板を通常のアルカリ脱脂により洗浄することが記載されているが,防錆剤除去との関連については何ら記載されていない。
【0012】
以上のように,従来では,溶融メッキのためのNiプレメッキ前に,鋼板から防錆剤を洗浄・除去する手法に関して,十分な知見はなかった。上述したように,防錆剤の洗浄・除去が不十分であると,付着量の少ないNiメッキにムラが生じるという問題があり,一方,必要以上に洗浄し過ぎると,洗浄設備がオーバースペックになって設備コスト,製造コストが高価となり,非効率的であるという問題がある。従って,Niプレメッキ前の洗浄処理において,鋼板表面に付着している防錆剤を必要十分かつ効率的に洗浄・除去できる手法が希求されていた。
【0013】
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,鋼板をNiプレメッキするための前処理として,鋼板表面に付着した防錆剤を必要十分かつ効率的に洗浄・除去することが可能な,新規かつ改良された溶融メッキ鋼板の製造方法,前処理洗浄装置,及び溶融メッキライン設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するべく,本願発明者らは,溶融メッキ前にNiプレメッキを行う場合の前処理洗浄工程の洗浄効果について,鋭意研究した。
【0015】
この結果,水溶性の防錆剤を使用すれば,Niプレメッキの前処理洗浄工程において,従来から電気メッキラインの洗浄に用いられている電解洗浄工程を省略できることを見出した。即ち,水溶性の防錆剤を使用して,調質圧延率を調整すれば,電解洗浄を行わずともアルカリ液を用いて洗浄するだけで,鋼板表面に付着した水溶性の防錆剤を,Niプレメッキ時にムラが生じない程度まで必要十分に除去できることを見出した。これは,Niは析出過電圧が高いため,Niプレメッキ時には,鋼板表面においてNiが析出すると同時に水素の発生も起こりやすいので,この水素ガス発生が,鋼板表面に残存している防錆剤の除去作用を発揮することに起因すると考えられる。
【0016】
さらに,従来の前処理洗浄で用いられている電解洗浄を行うと,洗浄液中に例えばFe−OHが溶け出したり,他の金属不純物が混入したりして,金属不純物イオンが表面に付着・析出してしまうことがあり,却って,Niプレメッキに悪影響を及ぼすことがあることも判明した。即ち,Niプレメッキは,付着量が例えば0.2〜0.8mg/cmと非常に少なく,かつ,均一にメッキされる必要があるので,上記のような金属不純物イオンの付着・析出は,極力避ける必要がある。このような観点からも,洗浄工程で,金属不純物イオンが鋼板表面に付着・析出しないようにするために,電解洗浄を省略することが好適であるという結論に達した。そこで,このような知見を基に,本願発明者らは,以下のような発明に想到した。
【0017】
即ち,上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,鋼板を焼鈍する焼鈍工程と;焼鈍された鋼板に対して,水溶性の防錆剤を塗布する防錆剤塗布工程と;防錆剤が塗布された鋼板を,電解洗浄を行わずに,アルカリ液を用いて洗浄する洗浄工程と;洗浄された鋼板を,電気NiメッキするNiプレメッキ工程と;Niプレメッキ後の鋼板を,溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬して溶融メッキする溶融メッキ工程と;を含むことを特徴とする,溶融メッキ鋼板の製造方法が提供される。
【0018】
かかる製造方法によれば,焼鈍後の鋼板をNiプレメッキした上で溶融メッキして溶融メッキ鋼板を製造するに際し,焼鈍後でメッキ処理前の鋼板の保管中に錆が生じることを防止するため,焼鈍後の鋼板に水溶性の防錆剤を塗布するとともに,Niプレメッキ工程の前処理として,当該防錆剤が付着した鋼板を,電解洗浄を行うことなくアルカリ洗浄することを特徴としている。このようにアルカリ洗浄された鋼板は,水溶性の防錆剤が好適に除去されるので,電解洗浄を行った場合と同程度の濡れ性を発揮でき,Niプレメッキ時のムラの発生を防止できる。さらに,洗浄後の鋼板表面に残留した防錆剤は,電気Niメッキを行うNiプレメッキ工程において,Ni析出と同時に発生した水素ガスによって,鋼板表面から剥離されて除去される。このように,Niプレメッキを行う場合には,従来の電気亜鉛メッキを行う場合と比べて,鋼板表面に防錆剤が多少残存していたとしても,Niメッキ時に,水素ガスの作用により防錆剤を除去することが可能である。よって,上記のような電解洗浄を行わない洗浄手方法であっても,Niプレメッキ前の前処理洗浄として必要十分かつ効率的に,鋼板表面の防錆剤を洗浄・除去できる。
【0019】
また,電解洗浄を省略できるので,電解洗浄設備が不要であり,設備コスト,製造コストの低減にも寄与する。さらに,電解洗浄を行うことにより鋼板表面に金属不純物イオンが付着・析出してしまうことを防止できるので,厳密なメッキ付着量が要求されるNiメッキにおける,ムラの発生をさらに抑制できる。
【0020】
また,上記洗浄工程は,防錆剤が塗布された鋼板を,アルカリ液のスプレー噴射により洗浄するスプレー洗浄工程と;スプレー洗浄後の鋼板を,アルカリ液を供給しながらブラシを用いて洗浄するブラシ洗浄工程と;を含むようにしてもよい。このように,スプレー洗浄とブラシ洗浄を行うことにより,電解洗浄を行わなくても,鋼板表面に付着した水溶性の防錆剤を必要十分に除去して,鋼板表面の濡れ性を向上させ,Niプレメッキ時のムラの発生を防止できる。
【0021】
また,上記洗浄工程では,電解洗浄によって金属不純物イオンが鋼板表面に付着・析出することを防止するために,電解洗浄を行わないようにしてもよい。これにより,Niプレメッキ時におけるムラの発生を防止できる。
【0022】
また,上記洗浄工程では,鋼板表面における防錆剤の残留量が20μg/m以下となるように洗浄してもよい。これによって,Niプレメッキ工程において,鋼板表面に残留した防錆剤によってムラが生じない程度にまで,防錆剤を洗浄・除去できる。
【0023】
また,上記焼鈍工程後に,調質圧延液を用いて焼鈍された鋼板を調質圧延する調質圧延工程を含み,防錆剤塗布工程は,調質圧延工程において,調質圧延液に水溶性の防錆剤を含ませることにより実行されてもよい。これにより,焼鈍後の鋼板に対して,調質圧延工程中に防錆剤を塗布することができ,防錆剤塗布工程を別途に設ける必要がないので,製造工程が効率的となる。
【0024】
また,調質圧延工程における調質圧延率は,0%以上,0.4%以下であるようにしてもよい。これにより,洗浄工程で,鋼板表面の防錆剤を好適に除去できるようになる。つまり,本願発明者らは,鋭意研究して,防錆剤を含む水性の調質圧延液を用いて調質圧延すると,調質圧延中に防錆剤が鋼板表面の微細な凹凸に押し込まれて取れ難くなってしまい,この結果,Niプレメッキ前の洗浄工程において,防錆剤の均一除去が困難になる場合があることを見出した。そこで,かかる問題を解決する手法として,調質圧延工程における調質圧延率を0.4%以下に制限する手法に想到した。これにより,調質圧延時に防錆剤が鋼板表面に押し込まれることを抑制できるので,洗浄工程において,防錆剤を容易かつ均一に除去することができるようになる。
【0025】
また,上記水溶性の防錆剤を含まない調質圧延液を用いて,焼鈍された鋼板を調質圧延する調質圧延工程をさらに含み,上記防錆剤塗布工程では,調質圧延後の鋼板に対して,水溶性の防錆剤を塗布するようにしてもよい。これにより,調質圧延工程とは別途に,防錆剤塗布専用の工程で,水溶性の防錆剤を塗布するので,上述したように調質圧延により防錆剤が鋼板表面に押し込まれてしまうという問題がない。従って,洗浄工程において,防錆剤を容易かつ均一に除去することができる。
【0026】
また,上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,焼鈍後に水溶性の防錆剤が塗布された鋼板に対して,電気NiメッキによるNiプレメッキ,及び溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬する溶融メッキを施すための前処理として,防錆剤が塗布された鋼板を洗浄する前処理洗浄装置が提供される。この前処理洗浄装置は,防錆剤が塗布された鋼板を,電解洗浄を行わずに,アルカリ液を用いて洗浄することを特徴とする。
【0027】
かかる構成の前処理洗浄装置は,上記溶融メッキ鋼板の製造方法の洗浄工程に,好適に適用可能である。この前処理洗浄装置は,電解洗浄を行わなくても,Niプレメッキの前処理洗浄としては必要十分に防錆剤を除去できるので,洗浄処理を効率化できる。さらに,電解洗浄装置を設置しなくて済むので,オーバースペックを回避でき,設備コストを安価にすることができる。
【0028】
また,上記前処理洗浄装置は,防錆剤が塗布された鋼板を,アルカリ液のスプレー噴射により洗浄するスプレー洗浄装置と;スプレー洗浄後の鋼板を,アルカリ液を供給しながらブラシを用いて洗浄するブラシ洗浄装置と;を備えるようにしてもよい。このようにスプレー洗浄とブラシ洗浄を行うことにより,電解洗浄を行わなくても,鋼板表面に付着した水溶性の防錆剤を必要十分に除去して,鋼板表面の濡れ性を向上させ,Niプレメッキ時のムラの発生を防止できる。
【0029】
また,上記電解洗浄によって金属不純物イオンが鋼板表面に付着・析出することを防止するために,電解洗浄を行わないようにしてもよい。これにより,Niプレメッキ時におけるムラの発生を防止できる。
【0030】
また,鋼板表面における防錆剤の残留量が20μg/m以下となるように洗浄するようにしてもよい。これによって,Niプレメッキ工程において,残留した防錆剤によってムラが生じない程度にまで,防錆剤を洗浄・除去できる。
【0031】
また,上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,上述した前処理洗浄装置と;前処理洗浄装置によって洗浄された鋼板を電気NiメッキするNiプレメッキ装置と;Niプレメッキされた鋼板を,溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬して溶融メッキする溶融メッキ装置と;を備えることを特徴とする,溶融メッキライン設備が提供される。かかる構成の溶融メッキライン設備は,上述したような溶融メッキ鋼板の製造方法に好適に適用可能である。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように本発明によれば,鋼板をNiプレメッキするための前処理として,鋼板表面に付着した防錆剤を必要十分かつ効率的に洗浄・除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0034】
(第1の実施形態)
以下に,本発明の第1の実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造方法,およびこれに用いる溶融メッキ鋼板の製造設備について説明する。
【0035】
まず,図1に基づいて,本実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造設備1について説明する。なお,図1は,本実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造設備1の概略を示す模式図である。
【0036】
溶融メッキ鋼板の製造設備1は,例えば,冷延・焼鈍棟10と,第1精整棟11と,第2精整棟12と,倉庫13と,溶融メッキ棟14を備えている。冷延・焼鈍棟10,第1精整棟11,第2精整棟12及び倉庫13は,X方向正方向(図1の右方向)に向けて順に直線状に設置されている。溶融メッキ棟14は,第2精整棟12のY方向正方向(図1の下方向)側に設置されている。第2精整棟12と溶融メッキ棟14は,搬送通路15によって接続されている。
【0037】
冷延・焼鈍棟10には,鋼帯状の鋼板の冷延と焼鈍を連続的に行う冷延・焼鈍ライン設備20が形成されている。冷延・焼鈍ライン設備20は,X方向負方向側(図1の左方向側)から第1精整棟11側に向けて鋼板が移送されるように形成されている。冷延・焼鈍ライン設備20の出側は,例えば第1精整棟11内に設置されている。
【0038】
例えば第1精整棟11から第2精整棟12にかけて,コイル状の鋼板を移送する中継ラインAが形成されている。中継ラインAは,例えばローラコンベアにより構成されている。中継ラインAの入側は,第1精整棟11内の冷延・焼鈍ライン設備20の出側に並設されている。中継ラインAは,冷延・焼鈍ライン設備20の出側の鋼板を,X方向正方向側に向けて第2精整棟12内まで移送できる。
【0039】
例えば第2精整棟12から倉庫13にかけて,コイル状の鋼板を搬送し梱包する梱包ライン設備21が形成されている。梱包ライン設備21の入側は,第2精整棟12内に設置され,中継ラインAの出側に接続されている。梱包ライン設備21は,例えばローラコンベアにより形成され,コイル状の鋼板をX方向正方向側に向かって移送でき,倉庫13内の梱包ライン設備21上の梱包機(図示せず。)により鋼板を梱包できる。
【0040】
溶融メッキ棟14には,鋼帯状の鋼板にメッキ処理を施す溶融メッキライン設備22が形成されている。溶融メッキライン設備22は,例えば長手方向がX方向に向くように形成されている。つまり溶融メッキライン設備22は,冷延・焼鈍ライン設備20と梱包ライン設備21に平行に形成されている。
【0041】
例えば第1精整棟11には,冷延・焼鈍ライン設備20の出側と中継ラインAの入側の上方をY方向に移動可能な搬送装置であるクレーン30が設けられている。このクレーン30により,冷延・焼鈍ライン設備20において冷延・焼鈍が終了した鋼板のコイルを中継ラインAの入側に搬送できる。
【0042】
第2精整棟12には,コイル状の複数の鋼板を一時的に収容して保管できる保管部31が設けられている。保管部31は,例えば梱包ライン設備21及び中継ラインAと,搬送通路15との間に配置されている。第2精整棟12内には,例えば梱包ライン設備21,中継ラインA及び保管部31の上方をY方向に移動可能な搬送装置であるクレーン32が設けられている。このクレーン32によって,中継ラインA上の鋼板を保管部31に搬送して保管できる。また,クレーン32によって,保管部31の鋼板を梱包ライン設備21上に搬送できる。なお,梱包ライン設備21と中継ラインAとの連結部には,中継ラインAとクレーン32との間と,梱包ライン設備21とクレーン32との間の鋼板の移送を行う移載機が設けられていてもよい。
【0043】
例えば搬送通路15には,保管部31の上方から搬送通路15内にわたりY方向に移動可能な搬送装置であるクレーン33が設けられている。また,搬送通路15には,コイル状の鋼板を搬送する搬送装置である複数の台車34が設けられている。第2精整棟12の保管部31の鋼板をクレーン33によって搬送通路15内に搬送し,その搬送通路15の鋼板を台車34によって溶融メッキ棟14の溶融メッキライン設備22の入側まで搬送できる。また,溶融メッキライン設備22の出側の鋼板を台車34により搬送通路15内に搬送し,当該鋼板をクレーン33により保管部31まで搬送できる。
【0044】
このように,例えばクレーン30,中継ラインA,クレーン32,33及び台車34によって,冷延・焼鈍ライン設備20の出側から溶融メッキライン設備22に鋼板を搬送する。また,台車34及びクレーン33,32によって,溶融メッキライン設備22から梱包ライン設備21に鋼板を搬送する。
【0045】
また,第2精整棟12から第1精整棟11にわたり,例えば鋼板の幅方向の長さを調整する精整ライン36が配置されている。この精整ライン36は,例えば入側がクレーン32の移動範囲内に設けられており,出側がクレーン30の移動範囲内に設けられている。したがって,例えば溶融メッキ処理が終了した鋼板をクレーン32によって精整ライン36に搬送し,精整ライン36で調整された鋼板をクレーン30によって中継ラインAの入側に戻すことができる。なお,精整ライン36は,鋼板の欠陥部除去やトリムを行う機能をさらに有するものであってもよい。
【0046】
以上のような構成により,冷延・焼鈍ライン設備20で冷間圧延及び焼鈍した鋼板を,溶融メッキライン設備22に搬送して,メッキ処理を施した上で,当該メッキ処理後の鋼板を梱包ライン設備21に搬送して梱包することができる。この冷延・焼鈍ライン設備20から溶融メッキライン設備22に搬送する途中で,保管部31に複数の鋼板を一時的にストックしておくことにより,溶融メッキライン設備22への鋼板供給を調整することができる。これにより,冷延・焼鈍ライン設備20がメンテナンスのため停止する場合であっても,溶融メッキライン設備22に鋼板を継続的に供給して,生産性を向上させることができる。また,精整ライン36によって鋼板の幅等のサイズを調整することにより,溶融メッキライン設備22における鋼板の通板効率を向上させることができる。
【0047】
このような保管部31における鋼板の一時保管時や,精整ライン36による鋼板のサイズ調整時に,鋼板が錆びないようにするために,例えば冷延・焼鈍ライン設備20において,焼鈍後の鋼板表面に防錆剤が塗布される。
【0048】
次に,図2に基づいて,本実施形態にかかる冷延・焼鈍ライン設備20について詳細に説明する。なお,図2は,本実施形態にかかる冷延・焼鈍ライン設備20の概略を示す模式図である。
【0049】
図2に示すように,冷延・焼鈍ライン設備20は,例えば,鋼帯状の鋼板Hを冷間圧延する冷間圧延装置40と,冷間圧延された鋼板Hを焼鈍する焼鈍装置50とが連続形成された構成である。
【0050】
冷間圧延装置40は,搬入装置としての巻戻し機41と,溶接機42と,テンションブライドル43と,鋼板を酸洗する酸洗漕44と,デスケルーパ45と,入側ルーパ46と,鋼板Hを冷間圧延する冷間圧延機47と,中間溶接機48と,電解洗浄装置を含んだ洗浄ライン49とを,上流側から下流側に向けて順に備えている。このような冷間圧延装置40によって,冷間圧延された鋼板Hは,連続的に焼鈍装置50に供給される。
【0051】
焼鈍装置50は,例えば,水平方向に伸縮する横型ルーパであるセンタールーパ51と,鋼板Hを焼鈍する焼鈍炉52と,焼鈍された鋼板を酸洗する後処理装置53と,水平方向に伸縮する横型ルーパである出側ルーパ53と,焼鈍後の鋼板Hを調質圧延する調質圧延機(スキンパスミル)55と,トリマー及びシャーなどの出側装置56と,搬出装置としての巻取り機57とを,上流側から下流側に向けて順に備えている。
【0052】
焼鈍炉52は,鋼板Hを焼鈍する,即ち,鋼板Hを加熱して所定の温度(例えば810℃,400℃)で均熱処理を行い,その後,炉中で一定の冷却速度で冷却する。かかる焼鈍処理により,加工硬化による鋼板H内部の歪みを取り除き,組織を軟化させ,展延性を向上させるようにして,鋼板Hの材質を調整できる。
【0053】
調質圧延機55は,上記焼鈍後の鋼板Hに対して潤滑水等の調質圧延液を供給しながら所定の調質圧延率で調質圧延して,鋼板Hの厚さを調節する。本実施形態では,この調質圧延時に用いられる調質圧延液に,水溶性の防錆剤が含まれている。これにより,調質圧延工程と同時に,鋼板H表面に水溶性の防錆剤を塗布して(防錆剤塗布工程),焼鈍後の鋼板Hが酸化して錆が発生することを防止できる。
【0054】
この防錆剤としては,水溶性の防錆剤,例えば,フェノキシアルキルカルボン酸塩化合物(特公昭59−31594号公報を参照),1ヒドロキシベンゾトリアゾール化合物又はその塩(特公昭53−27694号公報を参照)などを使用できる。より具体的には,例えば,1ヒドロキシベンゾトリアゾールのNa塩を主体とし,その濃度が0.5%程度の防錆剤を使用できる。
【0055】
また,本実施形態では,このような防錆剤を含有する水溶液を,調質圧延液として利用する。このような水溶性の調質圧延液は,油溶性の調質圧延液に比べて,鋼板Hの汚染発生が少ないという利点がある(非特許文献「わが国における最近のコールドストリップ設備および製造技術の進歩」,第160頁を参照)。また,防錆剤として,油溶性の防錆剤ではなく,上記のような水溶性の防錆剤を使用することによって,後述する溶融メッキライン設備22の前処理洗浄装置で,当該防錆剤を容易に洗浄・除去できるようになる。
【0056】
また,後工程での防錆剤の洗浄・除去処理を容易ならしめるという観点からは,上記調質圧延機55による調質圧延時の調質圧延率を,例えば0%以上0.4%以下とすることが好適であるが,詳細については後述する。
【0057】
以上のような構成の冷延・焼鈍ライン設備20により,鋼板Hは,冷間圧延及び焼鈍された後に,調質圧延と同時に防錆剤が塗布される。この防錆剤が塗布された鋼板Hは,上記図1に示したような保管部31に保管された後,或いは,精整ライン36によりサイズ調整された後に,溶融メッキライン設備22に搬送される。
【0058】
なお,上述したように,本実施形態にかかる冷延・焼鈍ライン設備20は,冷間圧延装置40と焼鈍装置50とが連続した設備構成であるが,本発明は,かかる例に限定されない。例えば,冷間圧延装置と焼鈍装置とを別個独立した装置として構成し,冷間圧延装置による冷間圧延後の鋼板Hを,焼鈍装置まで搬送して焼鈍する設備構成であってもよい。
【0059】
次に,図3に基づいて,本実施形態にかかる溶融メッキライン設備22について説明する。図3は,本実施形態にかかる溶融メッキライン設備22の概略を示す模式図である。
【0060】
図3に示すように,溶融メッキライン設備22には,搬入装置としての巻戻し機60と,搬出装置としての巻取り機61とが同じ高さで近接して設けられている。巻戻し機60と巻取り機61は,例えば,建物内で上述の冷延・焼鈍ライン設備20,梱包ライン設備21と同一の高さの階に設けられており,鋼板Hを容易に搬出入できるようになっている。
【0061】
巻戻し機60から巻取り機61までのライン上には,シャーや溶接機などの入側装置62と,入側ルーパ63と,鋼板Hを前処理洗浄する前処理洗浄装置64と,前処理洗浄された鋼板Hを電気Niメッキするプレメッキ装置65と,Niプレメッキされた鋼板Hを溶融メッキ直前に加熱する加熱装置66と,加熱された鋼板Hを溶融メッキする溶融メッキ装置67と,溶融メッキされた鋼板Hの合金化処理を行う合金化炉設備68と,鋼板Hを調質圧延して鋼板Hの厚みを調節する調質圧延機69と,鋼板Hの表面処理などを行う後処理装置70と,出側ルーパ71と,トリマー,オイラー及びシャーなどの出側装置72とが,上流側から下流側に向けて順に設けられている。この溶融メッキライン設備22は,略鉛直面内において略環状に形成されている。
【0062】
例えば入側ルーパ63は,水平方向に伸縮する横型ルーパであり,巻戻し機60と巻取り機61の上方に配置されている。出側ルーパ71も,横型ルーパであり,入側ルーパ63のさらに上方に配置されている。このように入側ルーパ63と出側ルーパ71は,巻戻し機60と巻取り機61の上方に積層されて配置されている。なお,本実施形態においては,例えば,入側ルーパ63と出側ルーパ71の間を階の境界とし,入側ルーパ63側を下階,出側ルーパ71側を上階とする。
【0063】
入側ルーパ63の出側にある前処理洗浄装置64,プレメッキ装置65,加熱装置66及び溶融メッキ装置67は,巻戻し機60と同じ下階の同程度の高さに設けられている。また,これらの巻戻し機60,前処理洗浄装置64,プレメッキ装置65,加熱装置66及び溶融メッキ装置67は,平面から見て直線状に配置されている。溶融メッキ装置67は,入側ルーパ63から水平方向の距離で最も遠くなる位置に配置され,巻戻し機60から溶融メッキ装置67までが略環状の溶融メッキライン設備22の往路になっている。
【0064】
前処理洗浄装置64は,鋼板Hに対してNiプレメッキ及び溶融亜鉛メッキを施すための前処理として,上記焼鈍後に水溶性の防錆剤が塗布された鋼板Hを洗浄し,防錆剤等の不要物を除去する。具体的には,前処理洗浄装置64は,鋼板Hに対して,アルカリ液を用いたスプレー洗浄,ブラシ洗浄,アルカリリンス,乾燥等の各種の処理を施す。この前処理洗浄装置64は,本実施形態にかかる溶融メッキライン設備22における特徴的構成要素であり,詳細については後述する。
【0065】
プレメッキ装置65は,溶融メッキ工程のプレ工程として,上記前処理洗浄装置64によって洗浄された鋼板Hに対して電気Niメッキを施すNiプレメッキを行い,鋼板H表面を活性化させる。このプレメッキ装置65は,メッキ液(Niイオンを含む水溶液)内を通る鋼板Hの両側に電極(陽極)を配置した状態で,整流器からの電流を印可して,メッキ金属であるNiを鋼板Hの表面(陰極)に付着させる。これによって,鋼板Hが電気Niメッキされて,鋼板Hの両表面にNi薄膜が形成される。このNiプレメッキにおけるNiメッキ付着量は,例えば約0.2〜0.8g/mであり,溶融メッキの付着量と比べて非常に少ない。
【0066】
なお,このプレメッキ装置65は,Niプレメッキを行う前の鋼板Hに対して,例えば,プレ洗浄処理,横型酸洗によるピックリング処理,ピックルリンス処理などを施して,鋼板Hに付着しているアルカリ液を中和する設備を具備してもよい。
【0067】
加熱装置66は,例えば,変圧器効果型通電加熱法の加熱方式により,上記Niプレメッキ後の鋼板Hに高電流を流して発熱させることにより,当該鋼板Hを溶融メッキ直前に加熱する。
【0068】
溶融メッキ装置67は,上記Niプレメッキ後に加熱された鋼板Hを,溶融メッキ槽67a内に貯留されている溶融メッキ金属に浸漬することによって,鋼板H表面にメッキ金属を付着させて溶融メッキする。ここで,溶融メッキ金属は,例えば,溶融亜鉛であってもよいし,或いは,溶融亜鉛にアルミニウム,マグネシウム等の他の金属を添加したものであってもよい。また,この溶融メッキにおけるメッキ付着量は,例えば約30g/mである。
【0069】
合金化炉設備68は,例えば,溶融メッキ装置67の上方に配置されており,鋼板Hに溶融メッキされた金属を合金化する。この合金化炉設備68は,例えば,IH方式の加熱炉と,熱風又は冷風切替可能な保温炉と,気水冷却方式の冷却装置などを備える。
【0070】
調質圧延機69と後処理装置70は,合金化炉設備68の出側に配置され,例えば溶融メッキ装置67までの往路の上方に並設されて,同程度の高さの出側ルーパ71に通じている。調質圧延機69は,材質調整および表面調整のために,所定の調質圧延率で鋼板Hを調質圧延する。また,後処理装置70は,溶融メッキ鋼板の種類に応じて,鋼板Hに適当な後処理,例えば,クロメート処理,L処理,Coメッキ処理などを施す。
【0071】
出側ルーパ71の出側は,後処理装置70の反対側に設けられ,下方の出側装置72に通じている。出側装置72は,巻取り機61と同じ上階の同程度の高さに設置されている。
【0072】
以上のような構成の溶融メッキライン設備22は,搬入された鋼板Hを前処理洗浄して防錆剤等の不要物を除去した上で,Niプレメッキ及び溶融亜鉛メッキを施して,溶融メッキ鋼板を製造することができる。このように製造される溶融メッキ鋼板は,Niプレメッキを施したものであれば,例えば,GI(溶融亜鉛メッキ鋼板),GA(合金化処理溶融亜鉛メッキ鋼板)だけでなく,Zn−0.5%Mg−0.2%Al鋼板,Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si鋼板,Zn−5%Al−0.1%Mg鋼板(溶融亜鉛−5%アルミニウム合金メッキ鋼板),ガルバリウム鋼板(溶融亜鉛−55%アルミニウム合金メッキ鋼板)など,任意の溶融メッキ鋼板であってよい。
【0073】
次に,上記のような溶融メッキライン設備22における前処理洗浄装置64について詳細に説明する。本願発明者らは,Niプレメッキ前の前処理洗浄処理において,鋼板H表面の防錆剤を必要十分かつ効率的に洗浄するためには如何にすればよいかについて,鋭意研究して実験を行った。この結果,下記の実験結果に示すように,Niプレメッキの前処理洗浄として,水溶性の防錆剤を洗浄・除去するためには,アルカリ液を用いたスプレー洗浄とブラシ洗浄とで十分であり,従来の電解洗浄を省略できることに想到した。以下に,かかる実験結果と,本実施形態にかかる前処理洗浄装置64の構成について説明する。
【0074】
まず,前処理洗浄装置64の効率的な設備仕様を決定するために,防錆剤付き鋼板Hの試験体を洗浄して,その洗浄効果を評価した洗浄評価実験について説明する。この洗浄実験における供試条件は以下の通りである。
【0075】
試験材料:焼鈍後に,調質圧延率0.4%で調質圧延をしながら,水溶性の防錆剤(1ヒドロキシベンゾトリアゾールのNa塩を主体としたもの)を塗布した鋼板。
洗浄に用いたアルカリ液の条件:5質量%のNaOH溶液,温度60℃
洗浄時の通板速度:120m/分
【0076】
また,本洗浄実験においては,次の表1に示すように,5種類の洗浄方式を多様に組み合わせた4種類のテスト条件で,鋼板を洗浄した。例えば,テスト条件1では,「電解ディップ」と「アルカリブラシ」の2つの洗浄方式で,鋼板を洗浄したことを表している。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示す各洗浄方式の詳細は以下の通りである。
電解ディップ :鋼板をアルカリ液内に浸漬して電解洗浄する洗浄方式
プレスプレー :鋼板表面にアルカリ液をスプレー噴射して洗浄する洗浄方式
電解スプレー :鋼板表面にアルカリ液をスプレー噴射しながら電解洗浄する洗浄方式
アルカリブラシ:鋼板表面にアルカリ液を供給しながら,砥粒入りナイロンブラシで洗浄する洗浄方式
温水ブラシ :鋼板表面に温水を噴射しながら砥粒入りナイロンブラシで洗浄する洗浄方式
【0079】
なお,「電解ディップ」および「電解スプレー」における電解洗浄の電流密度は,それぞれ,33A/dm,67A/dmとした。また,「アルカリブラシ」,「温水ブラシ」におけるブラシ回転数は,900rpmとした。
【0080】
このような4種類のテスト条件で鋼板を洗浄し,洗浄後の鋼板表面のL値と水濡れ性を評価する実験を行った。この実験結果を,図4に示す。なお,図4における原板とは,未洗浄の鋼板を意味する。また,L値は,鋼板表面の明度であり,鋼板が好適に洗浄されているほど高い数値を示す。
【0081】
図4(a)に示すように,「原板」のL値は,85であるのに対し,テスト条件1〜4による洗浄後の鋼板のL値は,いずれも90であった。また,図4(b)に示すように,「原板」の水濡れ性は,0であるのに対し,テスト条件1〜4による洗浄後の鋼板のL値は,いずれも100であった。
【0082】
このような実験結果によれば,上記テスト条件1〜4による洗浄により,鋼板表面に付着している不要物(防錆剤や,圧延液,圧延時に発生した鉄粉,大気中の塵など)が,好適に洗浄・除去されていることが分かる。さらに,各テスト条件1〜4による洗浄効果(L値,水濡れ性)は,洗浄方式が異なるにも関わらず,同程度であることが分かる。
【0083】
従って,同程度の洗浄効果であるならば,設備コスト及び維持コストの低減,洗浄効率の向上といった観点からは,テスト条件4の「プレスプレー」と「アルカリ洗浄」を組み合わせた洗浄方式を採用することが好ましいといえる。即ち,このテスト条件4の洗浄方式は,「電解ディップ」,「電解ブラシ」等の電解洗浄を行わず,かつ,洗浄工程数が少ないので,電解洗浄装置に要する設備コスト及び維持コストを削減できるとともに,鋼板を効率的に洗浄できるからである。
【0084】
そこで,本実施形態にかかる溶融メッキライン設備22の前処理洗浄装置64は,上記テスト条件4の例に従い,「プレスプレー」と「アルカリブラシ」を組み合わせた洗浄方式を採用している。
【0085】
ここで,図5に基づいて,本実施形態にかかる溶融メッキライン設備22の前処理洗浄装置64の構成について詳細に説明する。図5は,本実施形態にかかる溶融メッキライン設備22の前処理洗浄装置64の概略を示す模式図である。
【0086】
本実施形態にかかる前処理洗浄装置64は,上記入側ルーパ63からの鋼板Hを,所定の送り速度(例えば120m/分)で移送しながら,アルカリスプレー洗浄及びアルカリブラシ洗浄して,上記プレメッキ装置65に送出する。
【0087】
具体的には,図5に示すように,前処理洗浄装置64は,鋼板Hをアルカリ液でスプレー洗浄するスプレー洗浄装置80と,スプレー洗浄後の鋼板Hを,アルカリ液を供給しながらブラシ洗浄するブラシ洗浄装置81と,ブラシ洗浄された鋼板Hにリンス液を噴射してリンスするリンス装置82と,リンス後の鋼板Hを乾燥させるドライヤ83と,乾燥された鋼板Hを酸洗する酸洗装置84と,スプレー洗浄装置80及びブラシ洗浄装置81で使用されるアルカリ液(例えば,5%NaOH溶液,液温60℃)を貯留するアルカリ液循環タンク85と,リンス装置82で使用されるリンス液(例えば水)を貯留するリンス液循環タンク86と,を備える。
【0088】
スプレー洗浄装置80は,鋼板Hの送り方向に回転して鋼板Hを下流側に移送する上下一対の送りロール91と,鋼板Hの表面に対して上方及び下方からアルカリ液をスプレー噴射する複数(図5の例では上下3対で合計6つ)の噴射ノズル92と,を備える。
【0089】
スプレー洗浄装置80の各噴射ノズル92には,上記アルカリ液循環タンク85からポンプ87によって送出されたアルカリ液が連続供給され,各噴射ノズル92は,このアルカリ液を例えば1.3m/分の流量で,鋼板Hの表面に上下からスプレー噴射する。このときのスプレー時間(ウェット時間)は例えば約0.3秒以上であり,スプレー長は例えば1.4mである。なお,噴射されたアルカリ液は,スプレー洗浄装置80で回収され,アルカリ液循環タンク85に戻されて再利用される。
【0090】
かかる構成のスプレー洗浄装置80は,鋼板H表面に残存している調質圧延液,水溶性の防錆剤等を,アルカリ液に馴染ませて洗浄・除去するとともに,鋼板Hを昇温することができる。
【0091】
ブラシ洗浄装置81は,例えばブラシスクラバーで構成される。このブラシ洗浄装置81は,鋼板Hの送り方向に沿って上下交互に等間隔で配置された複数(図5の例では上下交互に2つずつ,合計4つ)のブラシロール93と,各ブラシロール93と対になるように対向配置される複数(図5の例では上下交互に2つずつ,合計4つ)のバックアップロール94と,鋼板Hの表面に対して上方及び下方から交互にアルカリ液をスプレー噴射する複数(図5の例では合計6つ)の噴射ノズル95と,鋼板Hの送り方向に回転して鋼板Hを下流側に移送する上下一対の送りロール96と,を備える。
【0092】
ブラシロール93は,例えば,砥粒入りのナイロンブラシ等で構成され,鋼板Hの送り方向とは逆方向に回転(例えば1200rpm)する。一方,バックアップロール94は,当該ブラシロール93と上下一対となるように配設されており,鋼板Hの送り方向順方向に回転する。このバックアップロール94は,鋼板Hを移送する機能と,洗浄時にブラシロール93の押圧力によって鋼板Hが撓まないように,ブラシロール93の反対側から鋼板Hを支持する機能を有する。
【0093】
また,各噴射ノズル95には,上記アルカリ液循環タンク85からポンプ87によって送出されたアルカリ液が連続供給され,各噴射ノズル95は,このアルカリ液を例えば0.6m/分の流量で,鋼板Hの表面にスプレー噴射する。なお,噴射されたアルカリ液は,ブラシ洗浄装置81で回収され,アルカリ液循環タンク85に戻されて再利用される。
【0094】
かかるブラシ洗浄装置81は,アルカリ液を供給しながら,鋼板H表面に上記ブラシロール93を擦りつけることによって,鋼板H表面を,機械的及び化学的にブラシ洗浄することができる。これにより,鋼板Hを仕上げ洗浄して,スプレー洗浄装置80による粗洗浄では除去しきれなかった防錆剤等を,洗浄・除去することができる。
【0095】
リンス装置82は,鋼板Hの送り方向に回転して鋼板Hを下流側に移送する上下二対の送りロール97と,鋼板Hの表面に対して上方及び下方からリンス液(例えば温水)をスプレー噴射する複数(図5の例では上下6対で合計12つ)の噴射ノズル98とを備える。
【0096】
リンス装置82の各噴射ノズル98には,上記リンス液循環タンク86からポンプ88によって送出されたリンス液が連続供給され,各噴射ノズル98は,このリンス液を例えば1.0m/分の流量で,鋼板Hの表面に上下からスプレー噴射する。なお,噴射されたリンス液は,リンス装置82で回収され,リンス液循環タンク86に戻されて再利用される。
【0097】
かかるリンス装置82は,上記スプレー洗浄装置80及びブラシ洗浄装置81により鋼板Hに付着されたアルカリ液を,リンス液の噴射によって除去する機能を有する。
【0098】
ドライヤ83は,上記のように洗浄及びリンスされて濡れた鋼板Hを,例えば蒸気熱交換方式により乾燥させる。また,酸洗装置84は,上記ドライヤ83による乾燥後の鋼板Hを,硫酸,塩酸等により洗浄する。このように酸洗された鋼板Hは,上記プレメッキ装置65に移送されて,電気Niメッキされる。
【0099】
以上のように,本実施形態にかかる前処理洗浄装置64は,洗浄手段としては,スプレー洗浄装置80及びブラシ洗浄装置81を具備するのみであり,電解洗浄装置を具備しておらず,洗浄手段が簡易であり設置数も少ない。これにより,電解洗浄装置に要する設備コスト及び維持コストを削減できるとともに,Niプレメッキ前の鋼板Hにとって必要十分な洗浄処理のみを施して,効率的に洗浄することができる。
【0100】
次に,上記前処理洗浄装置64による洗浄効果を高めるため,上記焼鈍後の鋼板Hを調質圧延する際の好適な調質圧延率について検討を行った結果について説明する。
【0101】
上述したように,本実施形態にかかる冷延・焼鈍ライン設備20の調質圧延機55では,焼鈍後の鋼板Hに対して調質圧延を行うが,この際用いられる調質圧延液に水溶性の防錆剤を含ませることによって,調質圧延と同時に防錆剤塗布を行っている。ところが,本願発明者らが鋭意研究したところ,かかる調質圧延時の調質圧延率が大きすぎると,調質圧延中に防錆剤が鋼板H表面にある微少な凹凸の凹部に押し込まれてしまい,この結果,Niプレメッキ前の前処理洗浄時に,防錆剤の均一な除去が困難になることが判明した。そこで,本願発明者らは,適切な調質圧延率を見出すため,鋼板Hの調質圧延率と,その後の鋼板H表面における防錆剤の洗浄効果との相関について実験を行った。
【0102】
この実験では,調質圧延率を複数段階(0%,0.2%,0.4%,0.6%,0.8%の5段階)で変えて鋼板Hの調質圧延を行い,各調質圧延率で調質圧延された鋼板Hの表面を,エタノール及びイオン交換水で洗浄し,洗浄液を濃縮して,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって,鋼板H表面における防錆剤の残存量を定量した。防錆剤としては,ヒドロキシベンゾトリアゾール(HBT)水溶液を用いた。図6は,かかる実験結果を表すグラフであり,横軸は,洗浄時間(脱脂時間)であり,縦軸は,残存HTBイオン量(防錆剤の残存量)である。
【0103】
図6に示すように,調質圧延率が小さい鋼板Hほど,洗浄後の鋼板H表面における防錆剤の残存量が少なく,洗浄効果が高いことが分かる。一般に,Niプレメッキ時には,鋼板H表面の防錆剤の残存量が,20μg/mであれば,ムラ無く好適にNiプレメッキできるとされている。従って,図6によれば,この目標レベルである20μg/m以下とするためには,調質圧延率を0〜0.4%にする必要があることが分かる。
【0104】
かかる実験結果に基づき,上記本実施形態にかかる冷延・焼鈍ライン設備20の調質圧延機55では,鋼板Hの調質圧延率が0%以上,0.4%以下となるように調節されている。このように調質圧延率を0.4%以下に制限することにより,調質圧延時に鋼板H表面の凹部に防錆剤が押し込まれることを抑制できるので,前処理洗浄装置46による洗浄時に,防錆剤を容易かつ均一に除去することができるようになる。従って,防錆剤が好適に除去された鋼板Hに対して,Niプレメッキをムラ無く好適に行うことができる。なお,上述した他の水溶性防錆剤をも用いても,同様の結果を得ることができる。
【0105】
以上,本実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造設備1の構成について詳細に説明した。次に,図7に基づき,この溶融メッキ鋼板の製造設備1を用いた溶融メッキ鋼板の製造方法について説明する。図7は,本実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造方法を示すフローチャートである。
【0106】
図7に示すように,まず,冷延・焼鈍ライン設備20において,鋼板Hが冷間圧延機47によって冷間圧延された後に,焼鈍炉52によって焼鈍される(ステップS10:冷延・焼鈍工程)。
【0107】
次いで,上記焼鈍後の鋼板Hが,調質圧延機55によって,水溶性の防錆剤を含む調質圧延液を用いて調質圧延されるとともに,当該防錆剤が鋼板H表面に塗布される(ステップS12:調質圧延工程及び防錆剤塗布工程)。この調質圧延時の調質圧延率は,0〜0.4%となるように調整されており,鋼板H表面に対して防錆剤が押入されないようになっている。なお,調質圧延率が0%である場合には,調質圧延機55に鋼板Hを通しても圧下を行わないことになる。
【0108】
このように本実施形態では,調質圧延液に防錆剤を含ませることによって,調質圧延工程と防錆剤塗布工程を同時に行い,製造効率を向上させている。しかし,本発明は,かかる例に限定されず,例えば,調質圧延工程と防錆剤塗布工程を別工程にしてもよい。具体的には,例えば,水溶性の防錆剤を含む液体をスプレー噴射する防錆剤塗布装置(図示せず。)などを設置して,当該防錆剤塗布装置により,調質圧延後の鋼板Hに対して防錆剤を塗布してもよい。また,調質圧延工程を省略し,焼鈍後の鋼板Hに対して,調質圧延を行わずに水溶性の防錆剤を塗布するようにしてもよい。これらによっても,防錆剤が鋼板H表面に押入されないようにでき,後工程で防錆剤を容易かつ均一に洗浄できるようになる。
【0109】
その後,上記のように防錆剤が塗布された鋼板Hが,例えば,第2精整棟12の保管部31に所定期間保管される(ステップS14)。具体的には,冷延・焼鈍ライン設備20の出側におけるコイル状の鋼板Hは,中継ラインAにより,第1精整棟11から第2精整棟12に搬送され,クレーン32により例えば中継ラインAの出側から保管部31に搬送されて,保管部31に保管される。なお,必要に応じて,保管部31の鋼板Hをクレーン32によって精整ライン36に搬送し,精整ライン36において鋼板Hの幅などをサイズ調整してもよい。その後,保管部31に保管されている鋼板Hは,クレーン33によって搬送通路15内に搬送され,台車34によって溶融メッキ棟14内に搬送される。こうして,鋼板Hは,図2に示す溶融メッキライン設備22の巻戻し機60に設置される。
【0110】
次いで,上記防錆剤が塗布された鋼板Hが,前処理洗浄機64によって,電解洗浄を行わずに,アルカリ液を用いて洗浄される(ステップS16:前処理洗浄工程)。具体的には,上記溶融メッキライン設備22の巻戻し機60に設置された鋼板Hは,入側装置62を通過し,上方の入側ルーパ63に送られ,その後,前処理洗浄装置64に搬送される。前処理洗浄装置64では,搬送された鋼板Hが,上記スプレー洗浄装置81によってアルカリ液のスプレー噴射により粗洗浄され,次いで,ブラシ洗浄装置82によってアルカリ液を供給しながらブラシロール93を用いて仕上げ洗浄され,さらに,リンス装置82によるリンス処理,ドライヤ83による乾燥処理,酸洗装置84による酸洗処理を経て,前処理洗浄が完了する。
【0111】
その後,上記洗浄された鋼板Hが,プレメッキ装置65によって,電気Niメッキされる(ステップS18:Niプレメッキ工程)。かかるNiプレメッキ工程では,Ni析出とともに水素ガスが発生するため,この水素ガスが,鋼板Hにわずかに残存している防錆剤を除去する作用を奏する。これによって,Niメッキのムラ発生を抑制できる。
【0112】
さらに,上記Niプレメッキ後の鋼板Hが,加熱装置66によって通電により急速低温加熱され,連続して溶融メッキ装置67によって,溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬されて溶融メッキされる(ステップS20:溶融メッキ工程)。その後,溶融メッキされた鋼板Hは,合金化炉設備68,調質圧延機69,後処理装置70を通過し,出側ルーパ71に送られる。その後,鋼板Hは,出側装置72を通過し,巻取り機61に巻き取られる。
【0113】
次いで,巻取り機61で巻き取られたコイル状の鋼板Hは,例えば図1に示したように台車34により搬送通路15内に搬送され,クレーン33により第2精整棟12の保管部31に収容される。その後,鋼板Hは,クレーン32により梱包ライン設備21上に搬送される。梱包ライン設備21に戻された鋼板Hは,梱包ライン設備21によって倉庫13側に搬送され,梱包される(ステップS22:梱包工程)。
【0114】
以上のように,本実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造方法では,焼鈍後の鋼板Hに対して水溶性の防錆剤を塗布して保管時の防錆をおこなうとともに,この防錆剤が塗布された鋼板HをNiプレメッキする前に,電解洗浄を行うことなく,アルカリ洗浄して,当該防錆剤を必要十分に除去することができる。
【0115】
上述したように,従来の前処理洗浄で用いられている電解洗浄を行うと,洗浄液中に例えばFe−OHが溶け出したり,他の金属不純物が混入したりして,金属不純物イオンが鋼板Hの表面に付着・析出することもある。Niプレメッキでは,付着量が例えば0.2〜0.8mg/cmと非常に少なく,かつ,均一にメッキされる必要があるので,上記のような金属不純物イオンの付着・析出は,極力防止する必要がある。このために,本実施形態にかかる前処理洗浄工程では,洗浄中に,金属不純物イオンの付着・析出が起こらないようにするために,電解洗浄を省略することを特徴としている。
【0116】
また,従来の電解洗浄装置は,主に,鉱油や,牛脂,パーム油などの油脂系の圧延油を除去するために用いられてきた。しかし,上述した本実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造設備1のように,焼鈍後の調質圧延率を制限し,水溶性の防錆剤を用いた場合には,電解洗浄装置は不要であり,これにより,設備コストおよび維持コストの大幅な削減が可能である。
【0117】
次に,上記のようなNiプレメッキの前処理洗浄工程S16において,従来の電気亜鉛メッキの前処理では必要とされていた電解洗浄を行わなくても,Niプレメッキの前処理としては必要十分に防錆剤を洗浄・除去できる理由について説明する。
【0118】
上記図4の洗浄評価実験結果では,電解洗浄の有無に関わらず,洗浄後の鋼板のL値及び水濡れ性は同等であった。この結果から,Niプレメッキ前の前処理洗浄装置64では,電解洗浄を省略してもよいという結論が導かれる。また,上記図6の調質圧延率の実験で説明したように,Niプレメッキ時における防錆剤の残存量は,20μg/m以下であれば好適である。これらの結果から,防錆剤の残存量が20μg/m以下であれば,鋼板Hの水濡れ性は良好であり,Niプレメッキを好適に実行可能となる。
【0119】
これに対して,一般的な電気亜鉛メッキでは,上記特許文献1に記載されているように,1原子層でも防錆剤が残存していれば,メッキムラが生じる場合があるので,どうしても電解洗浄が必要だった。
【0120】
以上のことを総合して考慮すると,Niプレメッキの場合では,電解洗浄を行わなくても,防錆剤の残存量が20μg/m以下であれば,メッキ可能であるが,電気亜鉛メッキでは,電解洗浄も必要である。よって,電解亜鉛メッキで要求される防錆剤の残存量レベルは,20μg/mよりも更に低いと考えられる。
【0121】
従って,Niプレメッキの場合に電解洗浄を省略できる理由は,Niプレメッキ時に要求される防錆剤の残存量レベル(20μg/m以下)が,電気亜鉛メッキで要求されるレベルよりも緩いからであり,さらに,この残存量レベルが緩い理由は,Niプレメッキ時においては,電気亜鉛メッキ時と比べて,鋼板H表面から防錆剤が取れやすいからと考えられる。
【0122】
即ち,イオン化傾向でいえば,Zn,Fe,Niの順にイオン化しにくくなるので,NiはFeに置換メッキする(Feが溶け出して,電気を流さなくてもメッキが付く)が,ZnはFeに置換メッキしない(Znが先に溶けだす。亜鉛メッキの犠牲防食の原理)。そして,一般に,Niは析出過電圧が高く,水素発生も同時に起こりやすい。このため,Niプレメッキ時には,この水素ガス発生が,鋼板Hの表面の汚れ除去作用も発揮すると考えられる。従って,Niプレメッキ時には,鋼板H表面に防錆剤が多少残存していても,上記水素ガスの汚れ除去作用により防錆剤が取れやすいため,好適に電気Niメッキ可能であると思われる。
【0123】
ここで,Niプレメッキ時に鋼板Hから防錆剤が取れやすい原理を説明するため,鋼板H表面に対する防錆剤の吸着機構について説明する。
【0124】
防錆剤の鋼板H表面への吸着機構には,物理吸着と化学吸着とがあるが,いずれの吸着機構であっても,図8に示すように,防錆剤の単分子膜層の防錆被膜を形成して,鋼板Hの表面を防錆するようになっている。この防錆剤の分子は,鋼板Hと強固な結合をしているのではなく,鋼板H表面についたり離れたりしているもので,離れた際にすぐに吸着すべき待機分子が必要となる。また,鋼板Hの表面に吸着する原子団は,水に溶解しやすく(親水基),鋼板H表面の水被膜中に入り込んで吸着する。このような吸着能力をもつ原子としては窒素N,酸素O,リンP,イオウS等があるが,水溶性の防錆剤として実際に使用されているのは,主に窒素原子Nを有する化合物でその代表がアミンである。
【0125】
また,水溶性の防錆剤が鋼板Hの表面に1原子層程度付着している場合には,図8に示すように,鋼板H側にマイナス基が,鋼板Hとは反対側にプラス基が並ぶようにして,防錆剤が配向していると考えられる。また,このとき,鋼板H表面に存在する他の吸着物質としては,水等の吸着層(水被膜),大気中のCO2,汚れ等がある。
【0126】
このようにして,水溶性の防錆剤分子が鋼板Hの表面に付着している状態で,Niプレメッキを行うと,上記のように水素ガスが発生し,この水素ガスが防錆剤を鋼板H表面から剥離して除去する作用を奏する。このとき,水溶性の防錆剤分子が上記のように電気的に配向しているので,当該発生した水素ガスにより剥離しやすい。なお,油性の防錆剤を用いた場合には,高分子である油性の防錆剤が鋼板Hの表面に強固に付着するので,電解洗浄を行わないと除去が困難であると思われる。
【0127】
以上説明したような理由から,油性の防錆剤に比べて比較的付着力の小さい水溶性の防錆剤を用いれば,Niプレメッキ前の前処理洗浄において,従来の電気亜鉛メッキの前処理洗浄で行われていた電解洗浄を行わなくても,本実施形態にかかる前処理洗浄装置64のようなスプレー洗浄及びブラシ洗浄だけで,鋼板Hの表面から,当該水溶性の防錆剤を適度に洗浄・除去でき,均一なNiプレメッキを実現可能であるといえる。よって,電解洗浄装置を省略して,設備コスト及び維持コストを大幅に低減できるとともに,洗浄工程を効率化することが可能となる。
【0128】
さらに,電解洗浄を行うと金属不純物イオンが鋼板Hの表面に付着・析出することもあり,却って,Niプレメッキに悪影響を及ぼす場合がある。従って,かかる観点からも,電解洗浄を行わない方が好ましいが,本実施形態では,電解洗浄を行わないので,上記のような金属不純物イオンの付着・析出を防止でき,Niプレメッキをムラなく均一に実行できる。
【0129】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造設備の概略を示す模式図である。
【図2】同実施形態にかかる冷延・焼鈍ライン設備の概略を示す模式図である。
【図3】同実施形態にかかる溶融メッキライン設備の概略を示す模式図である。
【図4】複数種類の洗浄方式による洗浄評価実験の結果を示すグラフ図である。
【図5】同実施形態にかかる溶融メッキライン設備の前処理洗浄装置の概略を示す模式図である。
【図6】鋼板の調質圧延率と防錆剤の洗浄効果との相関についての実験結果を示すグラフ図である。
【図7】同実施形態にかかる溶融メッキ鋼板の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】防錆剤の鋼板表面への吸着機構を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0131】
1 溶融メッキ鋼板の製造設備
20 冷延・焼鈍ライン設備
21 梱包ライン設備
22 溶融メッキライン設備
40 冷間圧延装置
47 冷間圧延機
50 焼鈍装置
52 焼鈍炉
55 調質圧延機
64 前処理洗浄装置
65 プレメッキ装置
66 加熱装置
67 溶融メッキ装置
68 合金化炉設備
80 スプレー洗浄装置
81 ブラシ洗浄装置
82 リンス装置
83 ドライヤ
84 酸洗装置
85 アルカリ液循環タンク
86 リンス液循環タンク
91 送りロール
92 噴射ノズル
93 ブラシロール
94 バックアップロール
95 噴射ノズル
96 送りロール
H 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を焼鈍する焼鈍工程と;
前記焼鈍された鋼板に対して,水溶性の防錆剤を塗布する防錆剤塗布工程と;
前記防錆剤が塗布された鋼板を,電解洗浄を行わずに,アルカリ液を用いて洗浄する洗浄工程と;
前記洗浄された鋼板を,電気NiメッキするNiプレメッキ工程と;
前記Niプレメッキ後の鋼板を,溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬して溶融メッキする溶融メッキ工程と;
を含むことを特徴とする,溶融メッキ鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程は,
前記防錆剤が塗布された鋼板を,アルカリ液のスプレー噴射により洗浄するスプレー洗浄工程と;
前記スプレー洗浄後の鋼板を,アルカリ液を供給しながらブラシを用いて洗浄するブラシ洗浄工程と;
を含むことを特徴とする,請求項1に記載の溶融メッキ鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程では,前記電解洗浄によって金属不純物イオンが鋼板表面に付着・析出することを防止するために,前記電解洗浄を行わないことを特徴とする,請求項1または2に記載の溶融メッキ鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程では,鋼板表面における前記防錆剤の残留量が20μg/m以下となるように洗浄することを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載の溶融メッキ鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記焼鈍工程後に,調質圧延液を用いて前記焼鈍された鋼板を調質圧延する調質圧延工程を含み,
前記防錆剤塗布工程は,前記調質圧延工程において,前記調質圧延液に前記水溶性の防錆剤を含ませることにより実行されることを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載の溶融メッキ鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記調質圧延工程における調質圧延率は,0%以上,0.4%以下であることを特徴とする,請求項5に記載の溶融メッキ鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性の防錆剤を含まない調質圧延液を用いて,前記焼鈍された鋼板を調質圧延する調質圧延工程をさらに含み,
前記防錆剤塗布工程では,前記調質圧延後の鋼板に対して,前記水溶性の防錆剤を塗布することを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載の溶融メッキ鋼板の製造方法。
【請求項8】
焼鈍後に水溶性の防錆剤が塗布された鋼板に対して,電気NiメッキによるNiプレメッキ,及び溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬する溶融メッキを施すための前処理として,前記防錆剤が塗布された鋼板を洗浄する前処理洗浄装置であって:
前記防錆剤が塗布された鋼板を,電解洗浄を行わずに,アルカリ液を用いて洗浄することを特徴とする,前処理洗浄装置。
【請求項9】
前記防錆剤が塗布された鋼板を,アルカリ液のスプレー噴射により洗浄するスプレー洗浄装置と;
前記スプレー洗浄後の鋼板を,アルカリ液を供給しながらブラシを用いて洗浄するブラシ洗浄装置と;
を備えることを特徴とする,請求項8に記載の前処理洗浄装置。
【請求項10】
前記電解洗浄によって金属不純物イオンが鋼板表面に付着・析出することを防止するために,前記電解洗浄を行わないことを特徴とする,請求項8または9に記載の前処理洗浄装置。
【請求項11】
鋼板表面における前記防錆剤の残留量が20μg/m以下となるように洗浄することを特徴とする,請求項8〜10のいずれかに記載の前処理洗浄装置。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の前処理洗浄装置と;
前記前処理洗浄装置によって洗浄された鋼板を,電気Niメッキするプレメッキ装置と;
前記Niプレメッキされた鋼板を,溶融Znを含む溶融メッキ金属中に浸漬して溶融メッキする溶融メッキ装置と;
を備えることを特徴とする,溶融メッキライン設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−39759(P2007−39759A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226758(P2005−226758)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】