溶融亜鉛系メッキ方法及び亜鉛系メッキ被覆物
【課題】厚みが均一で美観に優れるメッキ皮膜を形成可能なメッキ方法を提供する。
【解決手段】溶融亜鉛系メッキ方法は、メッキ前処理として、塩化第二鉄溶液で鉄系被メッキ体を処理する工程を含む。鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理し、次いでフラックス処理を行った後、溶融亜鉛系メッキを行ってもよい。前記メッキ方法では、鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理した後、酸洗し、フラックス処理してもよい。また、鉄系被メッキ体をショットブラスト処理した後、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。前記方法では、転造加工、切削加工、又はショットブラスト加工により成形された鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。鉄系被メッキ体は、ネジ類又はバネ類であってもよい。溶融亜鉛系メッキは、溶融亜鉛メッキ、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、又は溶融亜鉛−スズ合金メッキであってもよい。
【解決手段】溶融亜鉛系メッキ方法は、メッキ前処理として、塩化第二鉄溶液で鉄系被メッキ体を処理する工程を含む。鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理し、次いでフラックス処理を行った後、溶融亜鉛系メッキを行ってもよい。前記メッキ方法では、鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理した後、酸洗し、フラックス処理してもよい。また、鉄系被メッキ体をショットブラスト処理した後、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。前記方法では、転造加工、切削加工、又はショットブラスト加工により成形された鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。鉄系被メッキ体は、ネジ類又はバネ類であってもよい。溶融亜鉛系メッキは、溶融亜鉛メッキ、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、又は溶融亜鉛−スズ合金メッキであってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
メッキ皮膜鉄系被メッキ体(腐食性鉄鋼製品など)に、均一で美観に優れるメッキ皮膜を形成することができる溶融亜鉛系メッキ方法及び亜鉛系メッキ被覆物に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食性鉄鋼製品[例えば、建築用鉄鋼製品又は機械部品(例えば、ネジ、ボルト、ナットなどの接合用部品など)、配管用部品(例えば、水道管、ガス管などにおける接合用部品(配管用継手など)など)など]に耐食性を付与するため、溶融亜鉛メッキが汎用されている。
【0003】
上記のような鉄鋼製品、特に接合用部品などは、その使用目的から、特殊な形状を有しており、例えば、ネジなどの部品の転造や切削加工などの製造工程において、ケバ立ち(特に、ネジ山先端のケバ立ち)又は部品端部にバリ(ネジバリなど)などが生じる。また、腐食性鉄鋼製品の被メッキ体の種類によっては、除錆又は表面付着物の除去に、酸洗を十分に適用することができず、ショットブラストなどの機械的処理方法が多用されている。例えば、高張力ボルト、バネ材などでは、酸洗による除錆が適用できず、鋳物品や鍛造品などでは、酸洗だけでは除錆が不完全であるため、ショットブラストなどの機械的除錆方法が採用されている。このような機械的処理方法は、除錆又は表面付着物の除去にはある程度の効果が期待できるものの、被メッキ体表面に凹凸が生じる。そして、上記製造工程により得られた被メッキ体又は機械的処理方法により前処理した被メッキ体を用いて、従来の溶融亜鉛メッキを行うと、メッキ皮膜の厚みが大きくなるとともに、メッキ皮膜の厚み及び皮膜組織が不均一となり、製品の外観(美観)を損なう。また、メッキ皮膜の厚みが必要以上に大きくなるため、亜鉛の使用量が増大し、コスト的に不利である。さらに、ネジなどの接合用部品では、相手材に対する接合又は嵌合性が大きく低下する。
【0004】
なお、メッキ層の厚みを小さくするため、特開昭63−63626号公報(特許文献1)には、被メッキ物を500〜600℃の溶融亜鉛浴に浸漬した後、450℃以下の溶融アルミ亜鉛合金浴に浸漬するメッキ方法が開示されている。また、特開昭60−155659号公報(特許文献2)には、溶融亜鉛メッキの耐食性を改善するため、5%以上のアルミニウムを含有する亜鉛−アルミニウム合金を溶融したメッキ浴に鋼製品を浸漬し、引き上げた後、必要に応じて加熱しつつ、可逆回転方式で遠心分離するメッキ方法が開示され、特開平4−312207号公報(特許文献3)には、焼き戻し処理を施した後、亜鉛−スズ合金又は亜鉛−アルミニウム合金の溶融浴に浸漬した後、遠心振り切りを行うドリルねじのメッキ方法が開示されている。しかし、これらの方法でも、ショットブラスト処理された被メッキ体を溶融亜鉛メッキすると、鉄−亜鉛合金層の成長が大きいため、均一で厚みが小さなメッキ層(特に、20μm以下のメッキ層)を形成するのが困難である。
【特許文献1】特開昭63−63626号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭60−155659号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平4−312207号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、鉄系被メッキ体に対して、厚みが小さく、均一な亜鉛系メッキ皮膜を形成することができる溶融亜鉛系メッキ方法及び亜鉛系メッキ被覆物を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、酸洗処理が適用し難い鉄系被メッキ体、もしくはネジ類やバネ類などの複雑な形状を有する鉄系被メッキ体であっても、表面が滑らかで、美観に優れるとともに、嵌合又は接合性部品では嵌合性又は接合性を損なうことのない亜鉛系メッキ皮膜を形成できる溶融亜鉛系メッキ方法及び亜鉛系メッキ被覆物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、(i)被メッキ鉄鋼製品(被メッキ体)に、製造工程又はメッキの前処理工程などにおいて、転造、切削、又はショットブラストなどの機械的に大きな外力が作用する加工又は処理により、応力の不均一な分布(応力の歪み)が形成されること、(ii)さらに、この応力の歪みの存在により、溶融亜鉛メッキを施しても、メッキ層が異常に成長して被メッキ体に亜鉛が多量に付着し、メッキ皮膜の厚みが大きくなるとともに、メッキ皮膜の厚み及び皮膜組織が不均一となり、製品の外観(美観)を損なうこと、(iii)特に、ネジなどの接合用部品では、相手材に対する接合又は嵌合性が大きく低下すること、さらには、(iv)これらの不具合が、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液でエッチング処理することにより解消されることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の溶融亜鉛系メッキ方法は、鉄系被メッキ体に溶融亜鉛系メッキを行う方法であって、溶融亜鉛系メッキの前処理として、塩化第二鉄溶液で鉄系被メッキ体を処理する工程を含む。このようなメッキ方法では、鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理し、次いでフラックス処理を行った後、溶融亜鉛系メッキを行ってもよい。前記メッキ方法では、鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理した後、酸洗し、フラックス処理してもよい。また、鉄系被メッキ体をショットブラスト処理した後、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。
【0009】
前記方法では、転造加工、切削加工、又はショットブラスト加工により成形又は加工された鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。鉄系被メッキ体は、ネジ類又はバネ類であってもよい。溶融亜鉛系メッキは、溶融亜鉛メッキ、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、又は溶融亜鉛−スズ合金メッキであってもよい。
【0010】
本発明には、前記メッキ方法により得られる亜鉛系メッキ被覆物も含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、溶融亜鉛系メッキ処理に先だって、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液で、浸漬させることなどにより処理するので、厚みが小さく、均一な亜鉛系メッキ皮膜を形成することができる。なお、本発明の方法は、十分な酸洗を行うことができず、加工工程やメッキ前処理工程などにおいて、転造、切削、ショットブラストなどの機械的に大きな外力が作用する加工又は処理を施された鉄系被メッキ体に適用しても、亜鉛又は亜鉛系合金が被メッキ体に多量に付着するのを防止して、メッキ皮膜の厚みを小さくできるとともに、均一なメッキ皮膜を得ることができる。また、被メッキ体が、ネジ部やバネ部などの複雑な形状(特に、応力歪みが大きな部位又は形状)を有する場合であっても、表面が滑らかで、美観に優れる亜鉛系メッキ皮膜を形成できる。また、被メッキ体が、嵌合又は接合性部品(ネジ、ボルト、継手など)の場合であっても、薄く均一な皮膜を形成できるため、嵌合性又は接合性を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の溶融亜鉛系メッキ方法では、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液で処理した後、溶融亜鉛系メッキを行う。鉄系被メッキ体(基材)を、塩化第二鉄溶液で処理する(通常、溶液に浸漬させる)と、被メッキ体表面のエッチングにより、被メッキ体の成形又は加工工程、もしくはメッキ前処理工程などにおける機械的処理により被メッキ体表面に生じた応力の歪みを取り除くことができ、薄く、均一なメッキ皮膜を形成することができる。
【0013】
(鉄系被メッキ体)
鉄系被メッキ体としては、鉄成分を含み、かつ溶融亜鉛系メッキが可能なものであれば、特に制限されず、鉄、又は鉄合金で形成された種々の成形体が挙げられる。鉄合金としては、特殊鋼(ニッケル、クロム、タングステン、モリブデンなどの元素を含む鉄合金など)、炭素鋼(極軟鋼、軟鋼、半軟鋼、半硬鋼、硬鋼、最硬鋼など)、鋳鉄(黒心可鍛鋳鉄などの鉄系鋳物、鍛造物も含む)などが挙げられる。なお、特殊鋼としては、用途に応じて、構造用特殊鋼、特殊用特殊鋼、高速度鋼などの工具用特殊鋼なども使用できる。
【0014】
鉄系被メッキ体としては、通常、腐食性を有する鉄鋼製品を用いる場合が多く、例えば、板状形状(鋼板、板帯等)、線状形状(鋼線など)、筒状形状、立体形状(鋳物など)等の種々の形状を有する基材が使用でき、例えば、小型の鉄系基材[ボルト(ボルト;摩擦接合用高張力ボルトなどの高張力ボルト;高欄用アンカーボルトなどのアンカーボルトなど)、ナット、バネ、ボンベチェーン、瓦釘、伸縮継手、管継手(水道管、ガス管などの配管の継手など)、特装車用金具部品、ターンバックルパイプ、防霜ファン、送電金具など]などが挙げられる。また、比較的大型の鉄系被メッキ体、例えば、高欄、親柱、橋梁用防護柵、道路標識、道路用ガードフェンス、河川用フェンス、落石防止網などにも本発明のメッキ方法は適用できる。本発明では、被メッキ体上に厚みが薄く、均一なメッキ皮膜を形成できるため、ネジ類(特に、ボルト、ナット、配管継手などの接合部品又は嵌合部品など)、バネ類などの複雑な形状を有する被メッキ体に適用するのに有利である。
【0015】
被メッキ体は、種類又は用途などに応じて、慣用の成形又は加工方法により得ることができる。本発明では、塩化第二鉄によるエッチングにより、ケバ立ち(特に、ネジ山先端のケバ立ち)、部品端部のバリ(ネジバリなど)の他、応力の歪みが生じるような成形又は加工方法[転造加工(転造によるネジ切りなど)、切削加工(ネジ部、溝部などの切削など)、研磨加工、又はショットブラスト加工などの機械加工による成形又は加工方法など]により成形又は加工された被メッキ体であっても、ケバ立ち、バリ、応力歪みなどを効率よく取り除くことができ、皮膜特性に優れるメッキ皮膜を形成することができる。
【0016】
[メッキ前処理]
また、被メッキ体には、慣用のメッキ前処理、例えば、脱脂処理(有機溶剤、界面活性剤、アルカリなどによる脱脂処理(予備脱脂を含む)など)、機械的前処理(例えば、ショットブラスト処理などのブラスト処理など)、酸洗、フラックス処理を行ってもよい。また、必要により、適当な段階で(例えば、脱脂処理、機械的処理、酸洗などの後に)、水洗、アルカリを含有する洗浄液中での電解洗浄、乾燥、及び/又は冷却(温水冷却など)などを行ってもよい。
【0017】
また、本発明のメッキ方法では、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液で処理した後、必要により、慣用のメッキ前処理、例えば、酸洗及び/又はフラックス処理を行ってもよい。なお、鉄系被メッキ体では、酸洗による除錆を十分に行うことができない場合も多く、また、鋳物などを被メッキ体として用いると、表面の鋳物砂や炭素質物質などが通常の酸洗では効率よくできない場合もあるため、メッキの前処理段階で、酸洗に代えて、ショットブラスト処理などの機械的処理を行ってもよい。また、機械的処理の後、酸洗及び/又はフラックス処理を行ってもよい。
【0018】
本発明のメッキ方法では、塩化第二鉄溶液を用いるエッチングにより、被メッキ体表面の応力歪みを解消できるため、メッキ前処理として、応力歪みが生じる機械的前処理を利用する場合であっても、薄くて均一なメッキ皮膜を形成でき、有利である。
【0019】
(機械的処理(機械的前処理))
メッキ前処理としての機械的前処理としては、慣用の機械的メッキ前処理、例えば、研磨処理(研磨剤の他、ヤスリなどを用いる研磨処理など)、ブラスト処理(ショットブラスト処理など)などが利用できる。これらの処理のうち、通常、ショットブラスト処理などのブラスト処理を利用する場合が多い。
【0020】
ショットブラスト処理は、投射材(又は研掃材)を被メッキ体に衝突させることにより行うことができる。ショットブラスト処理としては、慣用の方法、例えば、機械力により投射材を投射する機械式(例えば、タンブラー式、インペラー式など)、圧縮空気により投射材を投射する空気式(例えば、吸引式、直圧式(例えば、投射材として砂を用いるサンドブラストなど)など)、湿式(水と投射材とを混合噴射する方式など)などのブラスト処理が挙げられる。これらのブラスト処理のうち、通常、機械式を利用する場合が多い。
【0021】
ショットブラスト処理で使用する投射材としては、慣用の投射材、例えば、金属、セラミックス(アルミナ、炭化ケイ素などの球形粒子又は微粉末など)、ガラス(ガラス粉末、ガラスビーズなど)、プラスチック(ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などの樹脂粒子など)、ゴム(冷却したゴム粒子など)、植物系材料(クルミ殻の粒子、木材チップなど)などが使用できる。なお、前記金属投射材としては、金属ワイヤ(スチールワイヤなど)を切断して角を丸めた球形粒子、アトマイズ法により作製された鋳鉄や鋳鋼の球形粒子(スチールショット、スチールビーズなど)、これらの球形粒子を砕いた非球形粒子のグリッド(スチールグリッドなど)などが挙げられる。また、前記金属投射材の材料としては、スチールなどの鉄又は鉄合金の他、アルミ、亜鉛又はこれらの合金なども利用できる。これらの投射材のうち、スチールショット、スチールグリッドなどの金属投射材が好ましい。金属投射材の硬度は、例えば、HRC硬度で、40〜70、好ましくは55〜65程度であってもよい。
【0022】
投射材の粒径(平均粒径)は、被メッキ体の種類に応じて適宜選択でき、例えば、200〜2000μm、好ましくは500〜1500μm、さらに好ましくは700〜1200μm程度であってもよい。
【0023】
また、投射材の投射量は、投射材及び/又は被メッキ体の種類などに応じて適宜選択できる。なお、金属投射材を用いる場合の投射量は、投射材及び/又は被メッキ体の種類などに応じて、被メッキ体の表面積1cm2当たり、例えば、1〜100g、好ましくは5〜50g、さらに好ましくは10〜30g程度である。
【0024】
投射材を投射する速度(投射速度)は、例えば、50〜150m/秒、好ましくは60〜120m/秒、さらに好ましくは80〜100m/秒程度である。
【0025】
(エッチング処理)
本発明では、塩化第二鉄溶液を用いたエッチング処理により、成形(又は加工)工程又は機械的前処理工程などにおいて形成されたケバ立ち(転造加工や切削加工に伴うケバ立ちなど)、バリ(転造加工に伴うネジバリ、加工に伴う端部のバリなど)、凹凸などを溶解除去して、表面粗さを小さくできるのみならず、応力の歪み(残留応力)を除去又は減少させる(すなわち、残留応力層を溶解除去する)ことができる。その結果、溶融亜鉛系メッキ工程において、メッキ皮膜を正常に形成することができ、皮膜特性に優れるメッキ皮膜を得ることができる。
【0026】
塩化第二鉄溶液としては、特に制限されず、水溶液、有機溶媒(アルコール、ケトンなど)溶液、水及び有機溶媒(エタノール、アセトンなどの水溶性有機溶媒など)の双方を溶媒として用いた溶液などのいずれであってもよいが、通常、水溶液を用いる場合が多い。なお、溶液には、必要により、酸(塩酸、硫酸などの無機酸(プロトン酸など);有機酸など)の他、慣用の添加剤を添加してもよい。
【0027】
溶液中の塩化第二鉄の濃度は、例えば、5〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは20〜50重量%程度である。
【0028】
塩化第二鉄溶液としては、市販の溶液を用いてもよく、このような市販の溶液としては、比重40〜47°Be’(ボーメ度)の溶液(例えば、40°Be’の溶液、42°Be’の溶液、47°Be’の溶液)などが挙げられ、42°Be’の溶液を用いる場合が多い。なお、ボーメ度は、通常、15℃の数値で表される場合が多い。
【0029】
エッチング処理に用いる塩化第二鉄溶液の温度は、特に制限されず、例えば、0〜100℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜60℃程度であってもよい。
【0030】
エッチング方法は、被メッキ体を少なくとも塩化第二鉄溶液で処理すればよく、溶液を被メッキ体にスプレーなどにより噴霧してもよいが、通常、溶液に被メッキ体を浸漬させる場合が多い。
【0031】
浸漬時間は、例えば、1秒〜30分、好ましくは5秒〜10分、さらに好ましくは10秒〜5分程度である。
【0032】
また、塩化第二鉄溶液によるエッチングの他に、必要により、慣用のエッチング剤、例えば、アルカリ系エッチング剤(水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩基など)、有機系エッチング剤(トリクロロエチレン、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤など)などを用いてエッチングを行ってもよい。このような慣用のエッチング処理は、塩化第二鉄溶液によるエッチングの前及び後のいずれに行ってもよい。
【0033】
(酸洗)
酸洗は、メッキ前処理として通常行われる酸洗方法を利用することができ、使用される酸としては、通常、プロトン酸、例えば、塩酸、フッ化水素酸などのハロゲン酸、硫酸、硝酸、リン酸、クロム酸などの無機酸;酢酸、シュウ酸、クエン酸などの有機酸などが挙げられる。これらの酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい酸は、ハロゲン酸などの無機酸である。
【0034】
酸洗には、通常、上記酸の溶液(特に水溶液)を用いる場合が多い。酸溶液の濃度は、例えば、1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは8〜20重量%程度である。
【0035】
酸洗は、被メッキ体を上記酸で処理することにより行うことができ、噴霧することにより行ってもよいが、通常、酸浴に浸漬することにより行う場合が多い。
【0036】
処理時間(浸漬時間)は、例えば、1秒〜30分程度であってもよいが、長時間処理(浸漬)を行うと、腐食する場合がある。処理時間は、好ましくは1秒〜10分(例えば、1秒〜5分)程度である。
【0037】
なお、被メッキ体の酸洗は、必ずしも行う必要はない。また、酸洗を行う場合には、塩化第二鉄溶液によるエッチングの後に、行う場合が多いが、必要により、前記エッチングの前に行ってもよい。
【0038】
(フラックス処理)
フラックス処理には、慣用の方法が利用できる。すなわち、被メッキ体を、フラックス(塩化アンモニウムを含む水溶液、塩化亜鉛及び塩化アンモニウムを含む水溶液(塩化亜鉛アンモニウム水溶液など)など)で処理することにより行うことができる。
【0039】
なお、フラックス処理は、必ずしも行う必要はないが、フラックス処理により、被メッキ体表面にフラックス皮膜が形成されるため、エッチング及び/又は酸洗により、錆が発生するのを防止できるとともに、鉄と亜鉛との合金反応を促進させることもできる点から、フラックス処理を行うのが好ましい。
【0040】
フラックス中の塩化亜鉛及び/又は塩化アンモニウムの濃度(例えば、塩化アンモニウム単独の濃度、又は塩化アンモニウムと塩化亜鉛との合計の濃度など)は、例えば、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜30重量%程度である。なお、塩化亜鉛及び塩化アンモニウムを含むフラックスでは、塩化亜鉛と塩化アンモニウムとの割合(モル比)は、例えば、前者/後者=1/1〜1/6、好ましくは1/2〜1/5、さらに好ましくは1/2.5〜1/4程度であってもよい。
【0041】
フラックス処理は、噴霧などによりフラックスを被メッキ体に適用することにより行ってもよいが、通常、フラックス浴に被メッキ体(例えば、エッチング後又は酸洗後の被メッキ体)を浸漬させる場合が多い。
【0042】
フラックス浴の温度は、例えば、20〜100℃、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは50〜80℃程度である。
【0043】
処理時間(浸漬時間)は、特に制限されず、例えば、1秒〜10分、好ましくは2秒〜10分、さらに好ましくは5秒〜5分程度であってもよい。
【0044】
(溶融亜鉛系メッキ)
溶融亜鉛系メッキは、被メッキ体を、溶融亜鉛系メッキ浴に浸漬することにより行うことができる。また、溶融亜鉛系メッキは、亜鉛(蒸留亜鉛、高純度亜鉛など)又は亜鉛合金を用いて行うことができる。
【0045】
亜鉛合金は、例えば、亜鉛と、スズ、マグネシウム、ニッケル、銅、チタン、ジルコニウム、ナトリウム、アルミニウムなどから選択された少なくとも一種の金属との合金(例えば、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−スズ合金、亜鉛−マグネシウム合金、亜鉛−ニッケル合金など)であってもよい。亜鉛合金中における亜鉛以外の金属の割合は、特に制限されず、例えば、0.01〜50重量%、好ましくは0.05〜30重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%程度である。溶融亜鉛合金メッキのうち、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、溶融亜鉛−スズ合金メッキなどが好ましい。なお、亜鉛や亜鉛合金は、鉄、カドミウムなどの不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0046】
メッキ浴の温度は、430〜500℃程度の範囲から選択できるが、通常、440〜480℃、好ましくは450〜470℃、特に450〜460℃程度である。浸漬時間は、通常、60秒以上(例えば、60〜180秒)程度の範囲から選択でき、例えば、100秒以上(例えば、100〜150秒、特に100〜130秒)程度である。
【0047】
メッキ浴に被メッキ体を浸漬した後、慣用の方法、例えば、空気中又は不活性ガス雰囲気中で、亜鉛又は亜鉛合金の融点以上の温度で遠心力や振動などを作用させることにより、被メッキ体に付着した過剰な亜鉛又は亜鉛合金を除去してもよい。また、必要により、得られるメッキ被覆物を加熱又は焼成してもよい。
【0048】
メッキ被覆物は、慣用の冷却方法、例えば、空気中での徐冷、水冷などにより冷却してもよい。水冷する場合、冷媒としての水には、種々の成分、例えば、防錆剤、腐蝕抑制剤、消泡剤、防腐剤、アルコール類、有機酸(シュウ酸など)、塩や緩衝剤(ホウ酸塩など)、塩基類(アミンなど)、界面活性剤などを含有させてもよい。
【0049】
なお、界面活性剤を含む水溶液(冷却水溶液)は、例えば、防錆剤、腐蝕抑制剤、消泡剤、防腐剤、アルコール類(エタノールやイソプロピルアルコールなどのモノアルコール、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)グリセリンなどの水溶性多価アルコールなど)、有機酸(シュウ酸など)、塩や緩衝剤(ホウ酸塩など)、塩基類(アミンなど)などを含んでいてもよい。
【0050】
(亜鉛系メッキ被覆物)
上記のメッキ方法により得られる亜鉛系メッキ被覆物は、塩化第二鉄溶液によるエッチング処理を行うため、鉄系被メッキ体上に形成された薄く均一なメッキ皮膜を有している。
【0051】
メッキ皮膜の厚みは、例えば、10〜200μm、好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは50〜120μm(特に、60〜100μm)程度である。
【0052】
メッキ皮膜は、鉄系被メッキ体の表面に形成され、かつ鉄の含量が多い鉄と亜鉛(又は亜鉛合金)との合金で構成されたδ1層と、このδ1層の上に形成され、δ1層よりも鉄含量が少ない鉄と亜鉛(又は亜鉛合金)との合金で構成されたζ層と、このζ層の上に形成された亜鉛又は亜鉛合金で構成されたη層とを有している。しかし、塩化第二鉄溶液による処理を行わない場合には、鉄−亜鉛(亜鉛合金)合金で構成されたδ1層及びζ層組織が正常に形成されず、両層が入り乱れ、不均一なメッキ組織となり、部分的に厚みが非常に大きな部分が生じる。さらに、表面のη層にまで、鉄−亜鉛(亜鉛合金)合金層が突出して、表面の平滑性を損なう。それに対して、本発明のメッキ被覆物では、塩化第二鉄溶液で被メッキ体をエッチング処理することにより、得られるメッキ皮膜では、δ1層とζ層とが整然と積層された状態となり、表面のη層の組成及び組成も均一で、平滑な皮膜組織を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のメッキ方法は、腐食性鉄鋼製品に、耐腐食性を付与するとともに、均一で美観に優れるメッキ皮膜を形成するのに有用である。特に、複雑な形状を有する被メッキ体に対しても、薄く、均一なメッキ皮膜を形成できるため、バネ類や、ネジ類などの接合又は嵌合部品のメッキに適している。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
実施例1及び比較例1(F−8T摩擦接合用高張力ボルト及びナットのメッキ処理)
(1)メッキ処理
F−8T摩擦接合用高張力ボルトM20×70及びナットM20に、タンブラータイプのショット機を用いて、ショットブラスト処理(投射材:スチールグリッド70番;投射時間:20分間)を行った後、塩化第二鉄溶液(39重量%濃度)に5分間浸漬した。次いで、酸洗(塩酸,濃度10重量%)を15秒行い、さらに、フラックス処理の後、溶融亜鉛メッキ(メッキ浴温度:460℃、浸漬時間110秒)を行った。さらに、メッキ後、遠心分離によりたれきりを行い、水冷し、メッキ被覆物を得た。
【0056】
また、比較として、ショットブラスト処理後、塩化第二鉄溶液への浸漬を行うことなく酸洗する以外は、上記実施例と同様に処理を行い、メッキ被覆物を得た(比較例1)。
【0057】
(2)評価
(i)メッキ皮膜の付着量
メッキ皮膜の付着量は、JIS H 0401「溶融亜鉛めっき試験方法」付着量試験方法に従って測定した。
【0058】
(ii)メッキ皮膜の膜厚
JIS H 0401「溶融亜鉛めっき試験方法」参考膜厚試験方法に従って、電磁式膜厚計を用いて測定した。
【0059】
(iii)メッキ皮膜の外観
メッキ皮膜の外観を、下記の基準にて目視で評価した
○:皮膜が平滑で、光沢がある
△:部分的に凹凸が激しいところがあり、光沢も弱い。
【0060】
(iv)ネジの嵌合性
メッキ処理したボルトとナットとを嵌合させ、嵌合の難易、及び嵌合の状態を下記の基準で評価した。
【0061】
○:ボルトとナットとの嵌合わせにおいて、引っかかりもなく、スムーズに動く。その際、特に力を必要としない
△:多少の引っかかりを感じ、力を加えなければ動かない場合がある。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
また、比較例1及び実施例1で使用した被メッキ体(高張力ボルト)の概略側面図を図1に示すとともに、比較例1(処理なし)及び実施例1(処理あり)で用いた被メッキ体のメッキ前の拡大写真を図2及び図3に示す。また、比較例1(処理なし)及び実施例1(処理あり)においてメッキした高張力ボルトの全体写真を図4に、拡大写真を図5に、メッキ組織の断面写真を図6〜9に示す。
【0065】
図1に示すように、被メッキ体である高張力ボルト1は、側面にネジ山を有するネジ部4と、このネジ部と隣接し、かつネジ山を有しない側面を有する胴部3と、この胴部に隣接し、胴部及びネジ部よりも径が拡大された頭部2とを備えている。
【0066】
図2は、高張力ボルトの胴部の一部を示す拡大写真であり、図3は、高張力ボルトのネジ部の一部を示す拡大写真である。図2及び図3から明らかなように、塩化第二鉄溶液による処理を行った実施例1の被メッキ体(図2B,図3B)では、塩化第二鉄溶液による処理を行っていない比較例1の被メッキ体(図2A,図3A)に比べ、表面全体が平滑になっている。
【0067】
また、図4では、塩化第二鉄溶液により処理を行わない比較例1に比べ、塩化第二鉄溶液による処理を行った実施例1のメッキ皮膜の方が、メッキ面の平滑度が改善され、光沢が増していることが観察できる。
【0068】
図5は、メッキ後の高張力ボルト(メッキ被覆物)のネジ部の一部を示す拡大写真である。塩化第二鉄溶液による処理を行わない比較例1のメッキ被覆物(図5A)では、メッキ前の段階で、至る所に凹凸が見られ、実施例1のメッキ被覆物(図5B)では、比較例1のメッキ被覆物に比べて滑らかで、凹凸が小さく目立たなくなっている。
【0069】
図6は、メッキした高張力ボルトのネジ部のネジ山の断面を示す写真である。塩化第二鉄処理なしの比較例1(図6A)では、メッキ皮膜が全体的に厚く、さらに部分的に不均一に厚みが大きな部分が目立ち、表面の凹凸が顕著である。それに対し、塩化第二鉄処理ありの実施例1(図6B)では、全体的にメッキ皮膜の厚みが均一で、表面の凹凸も少なく滑らかである。また、比較例1のメッキ皮膜に比べて、メッキ皮膜の厚みも薄い。
【0070】
図7は、高張力ボルトの頭部上面におけるメッキ皮膜組織の断面を示す写真であり、比較例1のメッキ皮膜断面及び実施例1のメッキ皮膜断面の写真は、それぞれ図7A及び図7Bである。図8は、高張力ボルトの胴部におけるメッキ皮膜組織の断面を示す写真である(比較例1:図8A,実施例1:図8B)。図9は、ネジ部のネジ山先端におけるメッキ皮膜組織の断面を示す写真であり(比較例1:図9A,実施例1:図9B)、図6をさらに拡大したものである。図7〜9から明らかなように、比較例1のメッキ皮膜は、δ1層とζ層とが入り混じった合金層になっており、さらにη層中にも合金層が入り乱れ、凹凸のある乱れたメッキ組織を有している。それに比べ、実施例1はδ1層の上にζ層が整然と重なり、η層も均一に層をなし平滑な皮膜組織を示している。
【0071】
実施例2及び比較例2(マレーブル鋳物継手)
通常の酸洗では除去が困難である鋳物砂が強固に付着したマレーブル継手に、タンブラータイプのショット機を用いて、ショットブラスト処理(投射材:スチールグリッド100番;投射時間:20分間)を施し、塩化第二鉄溶液(39重量%濃度)に2分間浸漬した。次いで、酸洗(塩酸及びフッ酸の混酸,濃度10重量%)を5分間行い、フラックス処理の後、溶融亜鉛メッキ(メッキ浴温度:457±2℃、浸漬時間91秒)を施した。
【0072】
また、比較として、ショットブラスト処理後、塩化第二鉄溶液への浸漬を行うことなく酸洗する以外は、上記実施例と同様に処理を行い、メッキ被覆物を得た。
【0073】
得られたメッキ被覆物について、実施例1及び比較例1と同様に、付着量、メッキ膜厚を測定するとともに、外観を評価した。結果を表2に示す。また、実施例2(処理あり)及び比較例2(処理なし)のメッキ被覆物の全体を示す写真を図10に示すとともに、図11にはメッキ被覆物の皮膜組織の断面を示す写真を示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表から明らかなように、実施例では、比較例に比べて、メッキ皮膜の付着量が格段に少なく、メッキ膜厚も薄く、そして、外観も滑らかであった。
【0076】
また、図10に示すように、比較例2(処理なし,図10A)のメッキ被覆物の外観は、亜鉛が過剰に付着し、表面の凹凸が目立ち、製品マーク(刻印)が不明瞭になっている。このような外観不良は、ショットブラスト処理を行った鋳物品のメッキに特有である。これに対して、実施例2(処理あり,図10B)では、不規則な凹凸はほとんど見られず、製品のマークも鮮明に見え、すっきりした外観になっている。また、図11から明らかであるように、比較例2(処理なし,図11A)は、δ1層が異常発達し、その上にζ層が浮遊する状態で入り混る合金層になっている。さらにη層中にもζ層が入り乱れた組織を示し、そのため皮膜厚さもたいへん厚くなっている。それに比べ、実施例2(処理あり,図11B)では、δ1層の上にζ層が整然と重なり、η層も均一に層をなし、適度の厚みを持つ平滑な皮膜が形成されている。
【0077】
実施例3及び比較例3(SS400製特殊四角ボルトM16)
転造により形成されたSS400製特殊四角ボルトM16及びナットを、塩化第二鉄溶液(39重量%濃度)に5分間浸漬し、次いで、酸洗(塩酸,濃度10重量%)を30秒間行い、フラックス処理の後、溶融亜鉛メッキ(メッキ浴温度460℃,浸漬時間90秒)を行った。さらに、メッキ後、遠心分離によるたれきりを行い、水冷し、メッキ被覆物を得た。
【0078】
また、比較として、上記実施例と同様のボルトを、塩化第二鉄溶液に浸漬することなく、酸洗する以外は、上記実施例と同様に処理を行い、メッキ被覆物を得た(比較例3)。
【0079】
得られたメッキ被覆物について、実施例1及び比較例1と同様に、付着量、メッキ膜厚を測定するとともに、外観及びナットに対する嵌合性を評価した。結果を表3に示す。なお、実施例3(処理あり)及び比較例3(処理なし)のメッキ被覆物の全体を示す写真を図12に、ネジ部(ボルト足部の下段)の拡大写真を図13に示すとともに、図14及び図15にはメッキ被覆物の皮膜組織の断面写真を示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3から明らかなように、実施例では、比較例に比べて、メッキ皮膜の付着量が少なく、メッキ膜厚も小さかった。また、実施例では、表面の凹凸も少なく、滑らかであり、ナットに対してもスムーズに嵌合できた。なお、メッキ皮膜表面の状態は、図12〜図15からも確認できる。図12からは、比較例3(処理なし,図12A)に比べ、実施例3(処理あり,図12B)の方がメッキ面の平滑度が上がり、光沢が増していることが観察できる。図13(ネジ部の拡大写真)から明らかなように、比較例3(処理なし,図13A)では、ネジ山の頂部全体が、欠けており、欠けの程度も不均一でありとともに、ネジ部の溝にも光沢がないのに対し、実施例3(処理あり,図13B)では、ネジ山の欠けは目立たず、ネジ山の形状が均一であり、ネジ部の溝も均一である。また、実施例3では、ネジ山の頂部及びネジ部の溝のいずれにも光沢があり、表面が滑らかであることが判る。図14は、図12の比較例3及び実施例3のボルトの胴部のメッキ組織の断面写真であり、図15は、上記ボルトのネジ部のネジ山先端のメッキ組織の断面写真である。図14A(処理なし、比較例3)と図14B(処理あり、実施例3)とを比較すると、比較例3では、δ1層が発達し、その上にζ層が浮遊する状態で入り混る合金層になっている。さらにη層中にζ層が混入し、η層がごく薄く、全体の皮膜厚さも厚くなっている。それに比べ、実施例3はδ1層の上にζ層が整然と重なり、η層中へのζ層の混入も少なく、均一に層をなし、皮膜全体が適度の厚みを持つ平滑な皮膜である。また、ボルトの足部先端については、図15A(比較例3)では、部分的に素地の微細なケバ立ちに起因する合金層の異常発達により生じた不均一に厚い箇所が目立つ。それに比べ、図15B(実施例3)では素地の微細なケバ立ちが消失し、均一なメッキ皮膜になっている。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は実施例1及び比較例1の被メッキ体(高張力ボルト)の概略側面図である。
【図2】図2は実施例1及び比較例1において、メッキ前の被メッキ体の胴部の拡大写真である。
【図3】図3は実施例1及び比較例1において、メッキ前の被メッキ体のネジ部の拡大写真である。
【図4】図4は実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)の全体写真である。
【図5】図5は実施例及び比較例のメッキ被覆物(高張力ボルト)のネジ部の拡大写真である。
【図6】図6は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物のネジ部のネジ山の断面を示す写真である。
【図7】図7は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)の頭部上面のメッキ皮膜組織の断面を示す写真である。
【図8】図8は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)の胴部のメッキ皮膜組織の断面を示す写真である。
【図9】図9は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)のネジ部において、ネジ山先端のメッキ皮膜組織の断面を示す写真である。
【図10】図10は、実施例2及び比較例2のメッキ被覆物(継手)の全体写真である。
【図11】図11は、実施例2及び比較例2のメッキ被覆物におけるメッキ皮膜の断面を示す写真である。
【図12】図12は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)の全体写真である。
【図13】図13は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)のネジ部の拡大写真である。
【図14】図14は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)の胴部のメッキ皮膜の断面写真である。
【図15】図15は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)のネジ部のネジ山先端のメッキ皮膜の断面写真である。
【符号の説明】
【0083】
1…高張力ボルト
2…頭部
3…胴部
4…ネジ部
【技術分野】
【0001】
メッキ皮膜鉄系被メッキ体(腐食性鉄鋼製品など)に、均一で美観に優れるメッキ皮膜を形成することができる溶融亜鉛系メッキ方法及び亜鉛系メッキ被覆物に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食性鉄鋼製品[例えば、建築用鉄鋼製品又は機械部品(例えば、ネジ、ボルト、ナットなどの接合用部品など)、配管用部品(例えば、水道管、ガス管などにおける接合用部品(配管用継手など)など)など]に耐食性を付与するため、溶融亜鉛メッキが汎用されている。
【0003】
上記のような鉄鋼製品、特に接合用部品などは、その使用目的から、特殊な形状を有しており、例えば、ネジなどの部品の転造や切削加工などの製造工程において、ケバ立ち(特に、ネジ山先端のケバ立ち)又は部品端部にバリ(ネジバリなど)などが生じる。また、腐食性鉄鋼製品の被メッキ体の種類によっては、除錆又は表面付着物の除去に、酸洗を十分に適用することができず、ショットブラストなどの機械的処理方法が多用されている。例えば、高張力ボルト、バネ材などでは、酸洗による除錆が適用できず、鋳物品や鍛造品などでは、酸洗だけでは除錆が不完全であるため、ショットブラストなどの機械的除錆方法が採用されている。このような機械的処理方法は、除錆又は表面付着物の除去にはある程度の効果が期待できるものの、被メッキ体表面に凹凸が生じる。そして、上記製造工程により得られた被メッキ体又は機械的処理方法により前処理した被メッキ体を用いて、従来の溶融亜鉛メッキを行うと、メッキ皮膜の厚みが大きくなるとともに、メッキ皮膜の厚み及び皮膜組織が不均一となり、製品の外観(美観)を損なう。また、メッキ皮膜の厚みが必要以上に大きくなるため、亜鉛の使用量が増大し、コスト的に不利である。さらに、ネジなどの接合用部品では、相手材に対する接合又は嵌合性が大きく低下する。
【0004】
なお、メッキ層の厚みを小さくするため、特開昭63−63626号公報(特許文献1)には、被メッキ物を500〜600℃の溶融亜鉛浴に浸漬した後、450℃以下の溶融アルミ亜鉛合金浴に浸漬するメッキ方法が開示されている。また、特開昭60−155659号公報(特許文献2)には、溶融亜鉛メッキの耐食性を改善するため、5%以上のアルミニウムを含有する亜鉛−アルミニウム合金を溶融したメッキ浴に鋼製品を浸漬し、引き上げた後、必要に応じて加熱しつつ、可逆回転方式で遠心分離するメッキ方法が開示され、特開平4−312207号公報(特許文献3)には、焼き戻し処理を施した後、亜鉛−スズ合金又は亜鉛−アルミニウム合金の溶融浴に浸漬した後、遠心振り切りを行うドリルねじのメッキ方法が開示されている。しかし、これらの方法でも、ショットブラスト処理された被メッキ体を溶融亜鉛メッキすると、鉄−亜鉛合金層の成長が大きいため、均一で厚みが小さなメッキ層(特に、20μm以下のメッキ層)を形成するのが困難である。
【特許文献1】特開昭63−63626号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭60−155659号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平4−312207号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、鉄系被メッキ体に対して、厚みが小さく、均一な亜鉛系メッキ皮膜を形成することができる溶融亜鉛系メッキ方法及び亜鉛系メッキ被覆物を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、酸洗処理が適用し難い鉄系被メッキ体、もしくはネジ類やバネ類などの複雑な形状を有する鉄系被メッキ体であっても、表面が滑らかで、美観に優れるとともに、嵌合又は接合性部品では嵌合性又は接合性を損なうことのない亜鉛系メッキ皮膜を形成できる溶融亜鉛系メッキ方法及び亜鉛系メッキ被覆物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、(i)被メッキ鉄鋼製品(被メッキ体)に、製造工程又はメッキの前処理工程などにおいて、転造、切削、又はショットブラストなどの機械的に大きな外力が作用する加工又は処理により、応力の不均一な分布(応力の歪み)が形成されること、(ii)さらに、この応力の歪みの存在により、溶融亜鉛メッキを施しても、メッキ層が異常に成長して被メッキ体に亜鉛が多量に付着し、メッキ皮膜の厚みが大きくなるとともに、メッキ皮膜の厚み及び皮膜組織が不均一となり、製品の外観(美観)を損なうこと、(iii)特に、ネジなどの接合用部品では、相手材に対する接合又は嵌合性が大きく低下すること、さらには、(iv)これらの不具合が、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液でエッチング処理することにより解消されることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の溶融亜鉛系メッキ方法は、鉄系被メッキ体に溶融亜鉛系メッキを行う方法であって、溶融亜鉛系メッキの前処理として、塩化第二鉄溶液で鉄系被メッキ体を処理する工程を含む。このようなメッキ方法では、鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理し、次いでフラックス処理を行った後、溶融亜鉛系メッキを行ってもよい。前記メッキ方法では、鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理した後、酸洗し、フラックス処理してもよい。また、鉄系被メッキ体をショットブラスト処理した後、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。
【0009】
前記方法では、転造加工、切削加工、又はショットブラスト加工により成形又は加工された鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理してもよい。鉄系被メッキ体は、ネジ類又はバネ類であってもよい。溶融亜鉛系メッキは、溶融亜鉛メッキ、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、又は溶融亜鉛−スズ合金メッキであってもよい。
【0010】
本発明には、前記メッキ方法により得られる亜鉛系メッキ被覆物も含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、溶融亜鉛系メッキ処理に先だって、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液で、浸漬させることなどにより処理するので、厚みが小さく、均一な亜鉛系メッキ皮膜を形成することができる。なお、本発明の方法は、十分な酸洗を行うことができず、加工工程やメッキ前処理工程などにおいて、転造、切削、ショットブラストなどの機械的に大きな外力が作用する加工又は処理を施された鉄系被メッキ体に適用しても、亜鉛又は亜鉛系合金が被メッキ体に多量に付着するのを防止して、メッキ皮膜の厚みを小さくできるとともに、均一なメッキ皮膜を得ることができる。また、被メッキ体が、ネジ部やバネ部などの複雑な形状(特に、応力歪みが大きな部位又は形状)を有する場合であっても、表面が滑らかで、美観に優れる亜鉛系メッキ皮膜を形成できる。また、被メッキ体が、嵌合又は接合性部品(ネジ、ボルト、継手など)の場合であっても、薄く均一な皮膜を形成できるため、嵌合性又は接合性を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の溶融亜鉛系メッキ方法では、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液で処理した後、溶融亜鉛系メッキを行う。鉄系被メッキ体(基材)を、塩化第二鉄溶液で処理する(通常、溶液に浸漬させる)と、被メッキ体表面のエッチングにより、被メッキ体の成形又は加工工程、もしくはメッキ前処理工程などにおける機械的処理により被メッキ体表面に生じた応力の歪みを取り除くことができ、薄く、均一なメッキ皮膜を形成することができる。
【0013】
(鉄系被メッキ体)
鉄系被メッキ体としては、鉄成分を含み、かつ溶融亜鉛系メッキが可能なものであれば、特に制限されず、鉄、又は鉄合金で形成された種々の成形体が挙げられる。鉄合金としては、特殊鋼(ニッケル、クロム、タングステン、モリブデンなどの元素を含む鉄合金など)、炭素鋼(極軟鋼、軟鋼、半軟鋼、半硬鋼、硬鋼、最硬鋼など)、鋳鉄(黒心可鍛鋳鉄などの鉄系鋳物、鍛造物も含む)などが挙げられる。なお、特殊鋼としては、用途に応じて、構造用特殊鋼、特殊用特殊鋼、高速度鋼などの工具用特殊鋼なども使用できる。
【0014】
鉄系被メッキ体としては、通常、腐食性を有する鉄鋼製品を用いる場合が多く、例えば、板状形状(鋼板、板帯等)、線状形状(鋼線など)、筒状形状、立体形状(鋳物など)等の種々の形状を有する基材が使用でき、例えば、小型の鉄系基材[ボルト(ボルト;摩擦接合用高張力ボルトなどの高張力ボルト;高欄用アンカーボルトなどのアンカーボルトなど)、ナット、バネ、ボンベチェーン、瓦釘、伸縮継手、管継手(水道管、ガス管などの配管の継手など)、特装車用金具部品、ターンバックルパイプ、防霜ファン、送電金具など]などが挙げられる。また、比較的大型の鉄系被メッキ体、例えば、高欄、親柱、橋梁用防護柵、道路標識、道路用ガードフェンス、河川用フェンス、落石防止網などにも本発明のメッキ方法は適用できる。本発明では、被メッキ体上に厚みが薄く、均一なメッキ皮膜を形成できるため、ネジ類(特に、ボルト、ナット、配管継手などの接合部品又は嵌合部品など)、バネ類などの複雑な形状を有する被メッキ体に適用するのに有利である。
【0015】
被メッキ体は、種類又は用途などに応じて、慣用の成形又は加工方法により得ることができる。本発明では、塩化第二鉄によるエッチングにより、ケバ立ち(特に、ネジ山先端のケバ立ち)、部品端部のバリ(ネジバリなど)の他、応力の歪みが生じるような成形又は加工方法[転造加工(転造によるネジ切りなど)、切削加工(ネジ部、溝部などの切削など)、研磨加工、又はショットブラスト加工などの機械加工による成形又は加工方法など]により成形又は加工された被メッキ体であっても、ケバ立ち、バリ、応力歪みなどを効率よく取り除くことができ、皮膜特性に優れるメッキ皮膜を形成することができる。
【0016】
[メッキ前処理]
また、被メッキ体には、慣用のメッキ前処理、例えば、脱脂処理(有機溶剤、界面活性剤、アルカリなどによる脱脂処理(予備脱脂を含む)など)、機械的前処理(例えば、ショットブラスト処理などのブラスト処理など)、酸洗、フラックス処理を行ってもよい。また、必要により、適当な段階で(例えば、脱脂処理、機械的処理、酸洗などの後に)、水洗、アルカリを含有する洗浄液中での電解洗浄、乾燥、及び/又は冷却(温水冷却など)などを行ってもよい。
【0017】
また、本発明のメッキ方法では、鉄系被メッキ体を塩化第二鉄溶液で処理した後、必要により、慣用のメッキ前処理、例えば、酸洗及び/又はフラックス処理を行ってもよい。なお、鉄系被メッキ体では、酸洗による除錆を十分に行うことができない場合も多く、また、鋳物などを被メッキ体として用いると、表面の鋳物砂や炭素質物質などが通常の酸洗では効率よくできない場合もあるため、メッキの前処理段階で、酸洗に代えて、ショットブラスト処理などの機械的処理を行ってもよい。また、機械的処理の後、酸洗及び/又はフラックス処理を行ってもよい。
【0018】
本発明のメッキ方法では、塩化第二鉄溶液を用いるエッチングにより、被メッキ体表面の応力歪みを解消できるため、メッキ前処理として、応力歪みが生じる機械的前処理を利用する場合であっても、薄くて均一なメッキ皮膜を形成でき、有利である。
【0019】
(機械的処理(機械的前処理))
メッキ前処理としての機械的前処理としては、慣用の機械的メッキ前処理、例えば、研磨処理(研磨剤の他、ヤスリなどを用いる研磨処理など)、ブラスト処理(ショットブラスト処理など)などが利用できる。これらの処理のうち、通常、ショットブラスト処理などのブラスト処理を利用する場合が多い。
【0020】
ショットブラスト処理は、投射材(又は研掃材)を被メッキ体に衝突させることにより行うことができる。ショットブラスト処理としては、慣用の方法、例えば、機械力により投射材を投射する機械式(例えば、タンブラー式、インペラー式など)、圧縮空気により投射材を投射する空気式(例えば、吸引式、直圧式(例えば、投射材として砂を用いるサンドブラストなど)など)、湿式(水と投射材とを混合噴射する方式など)などのブラスト処理が挙げられる。これらのブラスト処理のうち、通常、機械式を利用する場合が多い。
【0021】
ショットブラスト処理で使用する投射材としては、慣用の投射材、例えば、金属、セラミックス(アルミナ、炭化ケイ素などの球形粒子又は微粉末など)、ガラス(ガラス粉末、ガラスビーズなど)、プラスチック(ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などの樹脂粒子など)、ゴム(冷却したゴム粒子など)、植物系材料(クルミ殻の粒子、木材チップなど)などが使用できる。なお、前記金属投射材としては、金属ワイヤ(スチールワイヤなど)を切断して角を丸めた球形粒子、アトマイズ法により作製された鋳鉄や鋳鋼の球形粒子(スチールショット、スチールビーズなど)、これらの球形粒子を砕いた非球形粒子のグリッド(スチールグリッドなど)などが挙げられる。また、前記金属投射材の材料としては、スチールなどの鉄又は鉄合金の他、アルミ、亜鉛又はこれらの合金なども利用できる。これらの投射材のうち、スチールショット、スチールグリッドなどの金属投射材が好ましい。金属投射材の硬度は、例えば、HRC硬度で、40〜70、好ましくは55〜65程度であってもよい。
【0022】
投射材の粒径(平均粒径)は、被メッキ体の種類に応じて適宜選択でき、例えば、200〜2000μm、好ましくは500〜1500μm、さらに好ましくは700〜1200μm程度であってもよい。
【0023】
また、投射材の投射量は、投射材及び/又は被メッキ体の種類などに応じて適宜選択できる。なお、金属投射材を用いる場合の投射量は、投射材及び/又は被メッキ体の種類などに応じて、被メッキ体の表面積1cm2当たり、例えば、1〜100g、好ましくは5〜50g、さらに好ましくは10〜30g程度である。
【0024】
投射材を投射する速度(投射速度)は、例えば、50〜150m/秒、好ましくは60〜120m/秒、さらに好ましくは80〜100m/秒程度である。
【0025】
(エッチング処理)
本発明では、塩化第二鉄溶液を用いたエッチング処理により、成形(又は加工)工程又は機械的前処理工程などにおいて形成されたケバ立ち(転造加工や切削加工に伴うケバ立ちなど)、バリ(転造加工に伴うネジバリ、加工に伴う端部のバリなど)、凹凸などを溶解除去して、表面粗さを小さくできるのみならず、応力の歪み(残留応力)を除去又は減少させる(すなわち、残留応力層を溶解除去する)ことができる。その結果、溶融亜鉛系メッキ工程において、メッキ皮膜を正常に形成することができ、皮膜特性に優れるメッキ皮膜を得ることができる。
【0026】
塩化第二鉄溶液としては、特に制限されず、水溶液、有機溶媒(アルコール、ケトンなど)溶液、水及び有機溶媒(エタノール、アセトンなどの水溶性有機溶媒など)の双方を溶媒として用いた溶液などのいずれであってもよいが、通常、水溶液を用いる場合が多い。なお、溶液には、必要により、酸(塩酸、硫酸などの無機酸(プロトン酸など);有機酸など)の他、慣用の添加剤を添加してもよい。
【0027】
溶液中の塩化第二鉄の濃度は、例えば、5〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは20〜50重量%程度である。
【0028】
塩化第二鉄溶液としては、市販の溶液を用いてもよく、このような市販の溶液としては、比重40〜47°Be’(ボーメ度)の溶液(例えば、40°Be’の溶液、42°Be’の溶液、47°Be’の溶液)などが挙げられ、42°Be’の溶液を用いる場合が多い。なお、ボーメ度は、通常、15℃の数値で表される場合が多い。
【0029】
エッチング処理に用いる塩化第二鉄溶液の温度は、特に制限されず、例えば、0〜100℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜60℃程度であってもよい。
【0030】
エッチング方法は、被メッキ体を少なくとも塩化第二鉄溶液で処理すればよく、溶液を被メッキ体にスプレーなどにより噴霧してもよいが、通常、溶液に被メッキ体を浸漬させる場合が多い。
【0031】
浸漬時間は、例えば、1秒〜30分、好ましくは5秒〜10分、さらに好ましくは10秒〜5分程度である。
【0032】
また、塩化第二鉄溶液によるエッチングの他に、必要により、慣用のエッチング剤、例えば、アルカリ系エッチング剤(水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩基など)、有機系エッチング剤(トリクロロエチレン、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤など)などを用いてエッチングを行ってもよい。このような慣用のエッチング処理は、塩化第二鉄溶液によるエッチングの前及び後のいずれに行ってもよい。
【0033】
(酸洗)
酸洗は、メッキ前処理として通常行われる酸洗方法を利用することができ、使用される酸としては、通常、プロトン酸、例えば、塩酸、フッ化水素酸などのハロゲン酸、硫酸、硝酸、リン酸、クロム酸などの無機酸;酢酸、シュウ酸、クエン酸などの有機酸などが挙げられる。これらの酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい酸は、ハロゲン酸などの無機酸である。
【0034】
酸洗には、通常、上記酸の溶液(特に水溶液)を用いる場合が多い。酸溶液の濃度は、例えば、1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは8〜20重量%程度である。
【0035】
酸洗は、被メッキ体を上記酸で処理することにより行うことができ、噴霧することにより行ってもよいが、通常、酸浴に浸漬することにより行う場合が多い。
【0036】
処理時間(浸漬時間)は、例えば、1秒〜30分程度であってもよいが、長時間処理(浸漬)を行うと、腐食する場合がある。処理時間は、好ましくは1秒〜10分(例えば、1秒〜5分)程度である。
【0037】
なお、被メッキ体の酸洗は、必ずしも行う必要はない。また、酸洗を行う場合には、塩化第二鉄溶液によるエッチングの後に、行う場合が多いが、必要により、前記エッチングの前に行ってもよい。
【0038】
(フラックス処理)
フラックス処理には、慣用の方法が利用できる。すなわち、被メッキ体を、フラックス(塩化アンモニウムを含む水溶液、塩化亜鉛及び塩化アンモニウムを含む水溶液(塩化亜鉛アンモニウム水溶液など)など)で処理することにより行うことができる。
【0039】
なお、フラックス処理は、必ずしも行う必要はないが、フラックス処理により、被メッキ体表面にフラックス皮膜が形成されるため、エッチング及び/又は酸洗により、錆が発生するのを防止できるとともに、鉄と亜鉛との合金反応を促進させることもできる点から、フラックス処理を行うのが好ましい。
【0040】
フラックス中の塩化亜鉛及び/又は塩化アンモニウムの濃度(例えば、塩化アンモニウム単独の濃度、又は塩化アンモニウムと塩化亜鉛との合計の濃度など)は、例えば、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜30重量%程度である。なお、塩化亜鉛及び塩化アンモニウムを含むフラックスでは、塩化亜鉛と塩化アンモニウムとの割合(モル比)は、例えば、前者/後者=1/1〜1/6、好ましくは1/2〜1/5、さらに好ましくは1/2.5〜1/4程度であってもよい。
【0041】
フラックス処理は、噴霧などによりフラックスを被メッキ体に適用することにより行ってもよいが、通常、フラックス浴に被メッキ体(例えば、エッチング後又は酸洗後の被メッキ体)を浸漬させる場合が多い。
【0042】
フラックス浴の温度は、例えば、20〜100℃、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは50〜80℃程度である。
【0043】
処理時間(浸漬時間)は、特に制限されず、例えば、1秒〜10分、好ましくは2秒〜10分、さらに好ましくは5秒〜5分程度であってもよい。
【0044】
(溶融亜鉛系メッキ)
溶融亜鉛系メッキは、被メッキ体を、溶融亜鉛系メッキ浴に浸漬することにより行うことができる。また、溶融亜鉛系メッキは、亜鉛(蒸留亜鉛、高純度亜鉛など)又は亜鉛合金を用いて行うことができる。
【0045】
亜鉛合金は、例えば、亜鉛と、スズ、マグネシウム、ニッケル、銅、チタン、ジルコニウム、ナトリウム、アルミニウムなどから選択された少なくとも一種の金属との合金(例えば、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−スズ合金、亜鉛−マグネシウム合金、亜鉛−ニッケル合金など)であってもよい。亜鉛合金中における亜鉛以外の金属の割合は、特に制限されず、例えば、0.01〜50重量%、好ましくは0.05〜30重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%程度である。溶融亜鉛合金メッキのうち、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、溶融亜鉛−スズ合金メッキなどが好ましい。なお、亜鉛や亜鉛合金は、鉄、カドミウムなどの不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0046】
メッキ浴の温度は、430〜500℃程度の範囲から選択できるが、通常、440〜480℃、好ましくは450〜470℃、特に450〜460℃程度である。浸漬時間は、通常、60秒以上(例えば、60〜180秒)程度の範囲から選択でき、例えば、100秒以上(例えば、100〜150秒、特に100〜130秒)程度である。
【0047】
メッキ浴に被メッキ体を浸漬した後、慣用の方法、例えば、空気中又は不活性ガス雰囲気中で、亜鉛又は亜鉛合金の融点以上の温度で遠心力や振動などを作用させることにより、被メッキ体に付着した過剰な亜鉛又は亜鉛合金を除去してもよい。また、必要により、得られるメッキ被覆物を加熱又は焼成してもよい。
【0048】
メッキ被覆物は、慣用の冷却方法、例えば、空気中での徐冷、水冷などにより冷却してもよい。水冷する場合、冷媒としての水には、種々の成分、例えば、防錆剤、腐蝕抑制剤、消泡剤、防腐剤、アルコール類、有機酸(シュウ酸など)、塩や緩衝剤(ホウ酸塩など)、塩基類(アミンなど)、界面活性剤などを含有させてもよい。
【0049】
なお、界面活性剤を含む水溶液(冷却水溶液)は、例えば、防錆剤、腐蝕抑制剤、消泡剤、防腐剤、アルコール類(エタノールやイソプロピルアルコールなどのモノアルコール、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)グリセリンなどの水溶性多価アルコールなど)、有機酸(シュウ酸など)、塩や緩衝剤(ホウ酸塩など)、塩基類(アミンなど)などを含んでいてもよい。
【0050】
(亜鉛系メッキ被覆物)
上記のメッキ方法により得られる亜鉛系メッキ被覆物は、塩化第二鉄溶液によるエッチング処理を行うため、鉄系被メッキ体上に形成された薄く均一なメッキ皮膜を有している。
【0051】
メッキ皮膜の厚みは、例えば、10〜200μm、好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは50〜120μm(特に、60〜100μm)程度である。
【0052】
メッキ皮膜は、鉄系被メッキ体の表面に形成され、かつ鉄の含量が多い鉄と亜鉛(又は亜鉛合金)との合金で構成されたδ1層と、このδ1層の上に形成され、δ1層よりも鉄含量が少ない鉄と亜鉛(又は亜鉛合金)との合金で構成されたζ層と、このζ層の上に形成された亜鉛又は亜鉛合金で構成されたη層とを有している。しかし、塩化第二鉄溶液による処理を行わない場合には、鉄−亜鉛(亜鉛合金)合金で構成されたδ1層及びζ層組織が正常に形成されず、両層が入り乱れ、不均一なメッキ組織となり、部分的に厚みが非常に大きな部分が生じる。さらに、表面のη層にまで、鉄−亜鉛(亜鉛合金)合金層が突出して、表面の平滑性を損なう。それに対して、本発明のメッキ被覆物では、塩化第二鉄溶液で被メッキ体をエッチング処理することにより、得られるメッキ皮膜では、δ1層とζ層とが整然と積層された状態となり、表面のη層の組成及び組成も均一で、平滑な皮膜組織を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のメッキ方法は、腐食性鉄鋼製品に、耐腐食性を付与するとともに、均一で美観に優れるメッキ皮膜を形成するのに有用である。特に、複雑な形状を有する被メッキ体に対しても、薄く、均一なメッキ皮膜を形成できるため、バネ類や、ネジ類などの接合又は嵌合部品のメッキに適している。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
実施例1及び比較例1(F−8T摩擦接合用高張力ボルト及びナットのメッキ処理)
(1)メッキ処理
F−8T摩擦接合用高張力ボルトM20×70及びナットM20に、タンブラータイプのショット機を用いて、ショットブラスト処理(投射材:スチールグリッド70番;投射時間:20分間)を行った後、塩化第二鉄溶液(39重量%濃度)に5分間浸漬した。次いで、酸洗(塩酸,濃度10重量%)を15秒行い、さらに、フラックス処理の後、溶融亜鉛メッキ(メッキ浴温度:460℃、浸漬時間110秒)を行った。さらに、メッキ後、遠心分離によりたれきりを行い、水冷し、メッキ被覆物を得た。
【0056】
また、比較として、ショットブラスト処理後、塩化第二鉄溶液への浸漬を行うことなく酸洗する以外は、上記実施例と同様に処理を行い、メッキ被覆物を得た(比較例1)。
【0057】
(2)評価
(i)メッキ皮膜の付着量
メッキ皮膜の付着量は、JIS H 0401「溶融亜鉛めっき試験方法」付着量試験方法に従って測定した。
【0058】
(ii)メッキ皮膜の膜厚
JIS H 0401「溶融亜鉛めっき試験方法」参考膜厚試験方法に従って、電磁式膜厚計を用いて測定した。
【0059】
(iii)メッキ皮膜の外観
メッキ皮膜の外観を、下記の基準にて目視で評価した
○:皮膜が平滑で、光沢がある
△:部分的に凹凸が激しいところがあり、光沢も弱い。
【0060】
(iv)ネジの嵌合性
メッキ処理したボルトとナットとを嵌合させ、嵌合の難易、及び嵌合の状態を下記の基準で評価した。
【0061】
○:ボルトとナットとの嵌合わせにおいて、引っかかりもなく、スムーズに動く。その際、特に力を必要としない
△:多少の引っかかりを感じ、力を加えなければ動かない場合がある。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
また、比較例1及び実施例1で使用した被メッキ体(高張力ボルト)の概略側面図を図1に示すとともに、比較例1(処理なし)及び実施例1(処理あり)で用いた被メッキ体のメッキ前の拡大写真を図2及び図3に示す。また、比較例1(処理なし)及び実施例1(処理あり)においてメッキした高張力ボルトの全体写真を図4に、拡大写真を図5に、メッキ組織の断面写真を図6〜9に示す。
【0065】
図1に示すように、被メッキ体である高張力ボルト1は、側面にネジ山を有するネジ部4と、このネジ部と隣接し、かつネジ山を有しない側面を有する胴部3と、この胴部に隣接し、胴部及びネジ部よりも径が拡大された頭部2とを備えている。
【0066】
図2は、高張力ボルトの胴部の一部を示す拡大写真であり、図3は、高張力ボルトのネジ部の一部を示す拡大写真である。図2及び図3から明らかなように、塩化第二鉄溶液による処理を行った実施例1の被メッキ体(図2B,図3B)では、塩化第二鉄溶液による処理を行っていない比較例1の被メッキ体(図2A,図3A)に比べ、表面全体が平滑になっている。
【0067】
また、図4では、塩化第二鉄溶液により処理を行わない比較例1に比べ、塩化第二鉄溶液による処理を行った実施例1のメッキ皮膜の方が、メッキ面の平滑度が改善され、光沢が増していることが観察できる。
【0068】
図5は、メッキ後の高張力ボルト(メッキ被覆物)のネジ部の一部を示す拡大写真である。塩化第二鉄溶液による処理を行わない比較例1のメッキ被覆物(図5A)では、メッキ前の段階で、至る所に凹凸が見られ、実施例1のメッキ被覆物(図5B)では、比較例1のメッキ被覆物に比べて滑らかで、凹凸が小さく目立たなくなっている。
【0069】
図6は、メッキした高張力ボルトのネジ部のネジ山の断面を示す写真である。塩化第二鉄処理なしの比較例1(図6A)では、メッキ皮膜が全体的に厚く、さらに部分的に不均一に厚みが大きな部分が目立ち、表面の凹凸が顕著である。それに対し、塩化第二鉄処理ありの実施例1(図6B)では、全体的にメッキ皮膜の厚みが均一で、表面の凹凸も少なく滑らかである。また、比較例1のメッキ皮膜に比べて、メッキ皮膜の厚みも薄い。
【0070】
図7は、高張力ボルトの頭部上面におけるメッキ皮膜組織の断面を示す写真であり、比較例1のメッキ皮膜断面及び実施例1のメッキ皮膜断面の写真は、それぞれ図7A及び図7Bである。図8は、高張力ボルトの胴部におけるメッキ皮膜組織の断面を示す写真である(比較例1:図8A,実施例1:図8B)。図9は、ネジ部のネジ山先端におけるメッキ皮膜組織の断面を示す写真であり(比較例1:図9A,実施例1:図9B)、図6をさらに拡大したものである。図7〜9から明らかなように、比較例1のメッキ皮膜は、δ1層とζ層とが入り混じった合金層になっており、さらにη層中にも合金層が入り乱れ、凹凸のある乱れたメッキ組織を有している。それに比べ、実施例1はδ1層の上にζ層が整然と重なり、η層も均一に層をなし平滑な皮膜組織を示している。
【0071】
実施例2及び比較例2(マレーブル鋳物継手)
通常の酸洗では除去が困難である鋳物砂が強固に付着したマレーブル継手に、タンブラータイプのショット機を用いて、ショットブラスト処理(投射材:スチールグリッド100番;投射時間:20分間)を施し、塩化第二鉄溶液(39重量%濃度)に2分間浸漬した。次いで、酸洗(塩酸及びフッ酸の混酸,濃度10重量%)を5分間行い、フラックス処理の後、溶融亜鉛メッキ(メッキ浴温度:457±2℃、浸漬時間91秒)を施した。
【0072】
また、比較として、ショットブラスト処理後、塩化第二鉄溶液への浸漬を行うことなく酸洗する以外は、上記実施例と同様に処理を行い、メッキ被覆物を得た。
【0073】
得られたメッキ被覆物について、実施例1及び比較例1と同様に、付着量、メッキ膜厚を測定するとともに、外観を評価した。結果を表2に示す。また、実施例2(処理あり)及び比較例2(処理なし)のメッキ被覆物の全体を示す写真を図10に示すとともに、図11にはメッキ被覆物の皮膜組織の断面を示す写真を示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表から明らかなように、実施例では、比較例に比べて、メッキ皮膜の付着量が格段に少なく、メッキ膜厚も薄く、そして、外観も滑らかであった。
【0076】
また、図10に示すように、比較例2(処理なし,図10A)のメッキ被覆物の外観は、亜鉛が過剰に付着し、表面の凹凸が目立ち、製品マーク(刻印)が不明瞭になっている。このような外観不良は、ショットブラスト処理を行った鋳物品のメッキに特有である。これに対して、実施例2(処理あり,図10B)では、不規則な凹凸はほとんど見られず、製品のマークも鮮明に見え、すっきりした外観になっている。また、図11から明らかであるように、比較例2(処理なし,図11A)は、δ1層が異常発達し、その上にζ層が浮遊する状態で入り混る合金層になっている。さらにη層中にもζ層が入り乱れた組織を示し、そのため皮膜厚さもたいへん厚くなっている。それに比べ、実施例2(処理あり,図11B)では、δ1層の上にζ層が整然と重なり、η層も均一に層をなし、適度の厚みを持つ平滑な皮膜が形成されている。
【0077】
実施例3及び比較例3(SS400製特殊四角ボルトM16)
転造により形成されたSS400製特殊四角ボルトM16及びナットを、塩化第二鉄溶液(39重量%濃度)に5分間浸漬し、次いで、酸洗(塩酸,濃度10重量%)を30秒間行い、フラックス処理の後、溶融亜鉛メッキ(メッキ浴温度460℃,浸漬時間90秒)を行った。さらに、メッキ後、遠心分離によるたれきりを行い、水冷し、メッキ被覆物を得た。
【0078】
また、比較として、上記実施例と同様のボルトを、塩化第二鉄溶液に浸漬することなく、酸洗する以外は、上記実施例と同様に処理を行い、メッキ被覆物を得た(比較例3)。
【0079】
得られたメッキ被覆物について、実施例1及び比較例1と同様に、付着量、メッキ膜厚を測定するとともに、外観及びナットに対する嵌合性を評価した。結果を表3に示す。なお、実施例3(処理あり)及び比較例3(処理なし)のメッキ被覆物の全体を示す写真を図12に、ネジ部(ボルト足部の下段)の拡大写真を図13に示すとともに、図14及び図15にはメッキ被覆物の皮膜組織の断面写真を示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3から明らかなように、実施例では、比較例に比べて、メッキ皮膜の付着量が少なく、メッキ膜厚も小さかった。また、実施例では、表面の凹凸も少なく、滑らかであり、ナットに対してもスムーズに嵌合できた。なお、メッキ皮膜表面の状態は、図12〜図15からも確認できる。図12からは、比較例3(処理なし,図12A)に比べ、実施例3(処理あり,図12B)の方がメッキ面の平滑度が上がり、光沢が増していることが観察できる。図13(ネジ部の拡大写真)から明らかなように、比較例3(処理なし,図13A)では、ネジ山の頂部全体が、欠けており、欠けの程度も不均一でありとともに、ネジ部の溝にも光沢がないのに対し、実施例3(処理あり,図13B)では、ネジ山の欠けは目立たず、ネジ山の形状が均一であり、ネジ部の溝も均一である。また、実施例3では、ネジ山の頂部及びネジ部の溝のいずれにも光沢があり、表面が滑らかであることが判る。図14は、図12の比較例3及び実施例3のボルトの胴部のメッキ組織の断面写真であり、図15は、上記ボルトのネジ部のネジ山先端のメッキ組織の断面写真である。図14A(処理なし、比較例3)と図14B(処理あり、実施例3)とを比較すると、比較例3では、δ1層が発達し、その上にζ層が浮遊する状態で入り混る合金層になっている。さらにη層中にζ層が混入し、η層がごく薄く、全体の皮膜厚さも厚くなっている。それに比べ、実施例3はδ1層の上にζ層が整然と重なり、η層中へのζ層の混入も少なく、均一に層をなし、皮膜全体が適度の厚みを持つ平滑な皮膜である。また、ボルトの足部先端については、図15A(比較例3)では、部分的に素地の微細なケバ立ちに起因する合金層の異常発達により生じた不均一に厚い箇所が目立つ。それに比べ、図15B(実施例3)では素地の微細なケバ立ちが消失し、均一なメッキ皮膜になっている。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は実施例1及び比較例1の被メッキ体(高張力ボルト)の概略側面図である。
【図2】図2は実施例1及び比較例1において、メッキ前の被メッキ体の胴部の拡大写真である。
【図3】図3は実施例1及び比較例1において、メッキ前の被メッキ体のネジ部の拡大写真である。
【図4】図4は実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)の全体写真である。
【図5】図5は実施例及び比較例のメッキ被覆物(高張力ボルト)のネジ部の拡大写真である。
【図6】図6は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物のネジ部のネジ山の断面を示す写真である。
【図7】図7は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)の頭部上面のメッキ皮膜組織の断面を示す写真である。
【図8】図8は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)の胴部のメッキ皮膜組織の断面を示す写真である。
【図9】図9は、実施例1及び比較例1のメッキ被覆物(高張力ボルト)のネジ部において、ネジ山先端のメッキ皮膜組織の断面を示す写真である。
【図10】図10は、実施例2及び比較例2のメッキ被覆物(継手)の全体写真である。
【図11】図11は、実施例2及び比較例2のメッキ被覆物におけるメッキ皮膜の断面を示す写真である。
【図12】図12は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)の全体写真である。
【図13】図13は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)のネジ部の拡大写真である。
【図14】図14は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)の胴部のメッキ皮膜の断面写真である。
【図15】図15は、実施例3及び比較例3のメッキ被覆物(ボルト)のネジ部のネジ山先端のメッキ皮膜の断面写真である。
【符号の説明】
【0083】
1…高張力ボルト
2…頭部
3…胴部
4…ネジ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系被メッキ体に溶融亜鉛系メッキを行う方法であって、溶融亜鉛系メッキの前処理として、塩化第二鉄溶液で鉄系被メッキ体を処理する工程を含む溶融亜鉛系メッキ方法。
【請求項2】
鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理し、次いでフラックス処理を行った後、溶融亜鉛系メッキを行う請求項1記載のメッキ方法。
【請求項3】
鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理した後、酸洗し、フラックス処理する請求項2記載のメッキ方法。
【請求項4】
鉄系被メッキ体をショットブラスト処理した後、塩化第二鉄溶液で処理する請求項1又は2記載のメッキ方法。
【請求項5】
転造加工、切削加工、又はショットブラスト加工により成形された鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理する請求項1又は2記載のメッキ方法。
【請求項6】
鉄系被メッキ体が、ネジ類又はバネ類である請求項1〜5のいずれかの項に記載のメッキ方法。
【請求項7】
溶融亜鉛系メッキが、溶融亜鉛メッキ、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、又は溶融亜鉛−スズ合金メッキである請求項1又は2記載のメッキ方法。
【請求項8】
請求項1記載のメッキ方法により得られる亜鉛系メッキ被覆物。
【請求項1】
鉄系被メッキ体に溶融亜鉛系メッキを行う方法であって、溶融亜鉛系メッキの前処理として、塩化第二鉄溶液で鉄系被メッキ体を処理する工程を含む溶融亜鉛系メッキ方法。
【請求項2】
鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理し、次いでフラックス処理を行った後、溶融亜鉛系メッキを行う請求項1記載のメッキ方法。
【請求項3】
鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理した後、酸洗し、フラックス処理する請求項2記載のメッキ方法。
【請求項4】
鉄系被メッキ体をショットブラスト処理した後、塩化第二鉄溶液で処理する請求項1又は2記載のメッキ方法。
【請求項5】
転造加工、切削加工、又はショットブラスト加工により成形された鉄系被メッキ体を、塩化第二鉄溶液で処理する請求項1又は2記載のメッキ方法。
【請求項6】
鉄系被メッキ体が、ネジ類又はバネ類である請求項1〜5のいずれかの項に記載のメッキ方法。
【請求項7】
溶融亜鉛系メッキが、溶融亜鉛メッキ、溶融亜鉛−アルミニウム合金メッキ、又は溶融亜鉛−スズ合金メッキである請求項1又は2記載のメッキ方法。
【請求項8】
請求項1記載のメッキ方法により得られる亜鉛系メッキ被覆物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−31519(P2008−31519A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206230(P2006−206230)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(591006520)株式会社興和工業所 (34)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(591006520)株式会社興和工業所 (34)
【Fターム(参考)】
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