説明

溶融金属の誘導加熱昇温方法

【課題】チャンネル型誘導加熱装置において、保熱操業から加熱操業に移行する際に一時的に発生する湯漏れ誤検知を防止することが可能な溶融金属の誘導加熱昇温方法を提供する。
【解決手段】溶融金属の流路13を形成する耐火物18、19を被覆する外装ケース17及びブッシング20に水冷管が付設され、耐火物18、19中に湯漏れ検知アンテナ25が埋設された誘導加熱装置11を用いた溶融金属の誘導加熱昇温方法であって、誘導加熱装置11一基当たりについて、誘導加熱装置11の最大出力の20%以下の出力を8時間以上継続した後、誘導加熱装置11の最大出力の70〜100%に出力を上昇させる操作を、任意の20分間における出力の上昇速度の平均値が0.1MW/分以下となるように実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導炉に設置されているチャンネル型誘導加熱装置を用いた溶融金属の誘導加熱昇温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑した溶融金属はトピードカー(混銑車)や溶銑鍋等を介して転炉(精錬炉)へ供給される。その際、高炉から出銑される溶融金属(以下では、「溶湯」と呼ぶこともある。)の量や転炉での溶鋼生産量の変動により転炉への溶湯供給条件が変動するため、誘導炉に溶湯を一旦貯蔵している。この誘導炉は、貯蔵されている溶湯の保熱及び加熱を行う誘導加熱装置を備えている。
【0003】
誘導加熱装置には、ループ状の溶湯流路が形成されている。ループ状の溶湯流路(以下では、「湯道」と呼ぶこともある。)で囲まれた領域の中央部には、誘導加熱コイルが巻かれた鉄心が配置されている。誘導加熱コイルを1次回路、湯道を流れる溶湯を2次回路として変圧器回路を構成することにより溶湯の加熱が行われる。
【0004】
チャンネル型(溝型)の湯道が形成されたチャンネル型(溝型)誘導加熱装置では、電力効率を上げるため、湯道に面する耐火物の厚みを必要最小限の厚みとし、誘導加熱コイルと湯道を可能な限り接近させている。その結果、湯道に面する耐火物の溶損又は亀裂等によって湯漏れが発生した場合、誘導加熱装置を覆う外装ケースや誘導加熱コイルが損傷し、さらに亀裂が成長して誘導加熱装置に付設されている水冷管に到達すると、冷却水と溶湯が反応して水蒸気爆発を誘発する危険性がある。
そのため、湯道に面する耐火物中に湯漏れ検知アンテナを埋め込んでおき、この湯漏れ検知アンテナと溶湯との間に電圧を印加して、耐火物を介して溶湯と湯漏れ検知アンテナとの間に流れる電流を監視することにより、湯漏れ(溶湯の漏洩)を検知することが行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
湯漏れ検知システムの電気回路の場合、平常時は電気抵抗が大きいため、電流は殆ど流れていないが、湯漏れが発生すると、湯漏れ検知アンテナと湯道が短絡して回路が閉じることにより電流が流れ、湯漏れが検知される。このため、例えば湯漏れ検知アンテナから延出するリード線が破損切断等して湯漏れ検知システムに設備的な異常が発生した場合、これに気付かない危険性が高い。そこで、特許文献4では、湯漏れ検知アンテナ1基について2本以上のリード線を引き出しておくことにより、これらのリード線間で電流を導通させてリード線の断線の有無を判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭53−48231号公報
【特許文献2】特開平9−133601号公報
【特許文献3】特開2008−267758号公報
【特許文献4】特開2008−170062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、湯漏れ検知システムは、耐火物中に埋め込まれた湯漏れ検知アンテナと溶湯との間に電圧を印加することにより、耐火物を介して溶湯と湯漏れ検知アンテナの間に流れる電流を監視し、その電流値の挙動によって湯漏れを判定する。つまり、誘導炉内の溶湯と湯漏れ検知アンテナの間の電気抵抗値が、ある基準値を下回った場合に、湯漏れが発生したと判断するものである。
しかし、この電気抵抗値が低下する要因は湯漏れだけではなく、他の要因によって電気抵抗値が低下し、湯漏れが発生したと誤認する(湯漏れ誤検知)場合がある。具体的には、チャンネル型誘導加熱装置の印加電力を低出力状態(保熱操業)、即ちスクラップや型銑等の冷鉄源を溶解せず、溶湯を維持するのみの最低限の電力のみを印加している状態から高出力状態(加熱操業)、即ち誘導加熱装置の定格出力を用いて最大限の冷鉄源を溶解する状態に移行する際に、一時的に湯漏れ誤検知が起きることがある。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、チャンネル型誘導加熱装置において、保熱操業から加熱操業に移行する際に一時的に発生する湯漏れ誤検知を防止することが可能な溶融金属の誘導加熱昇温方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、保熱操業から加熱操業に移行する際に一時的に発生する湯漏れ誤検知が、誘導加熱装置内に存在する水分に起因していることを発見した。
誘導加熱装置内には、電力効率を上げるため、必要最小限の厚みとした耐火物を湯道に面して配置し、誘導加熱コイルと湯道を可能な限り接近させている。このため、湯道を構成する耐火物として、ドライスタンプ材(乾式ラミング材とも言う)と呼ばれる、水を添加しない粉粒状の不定形耐火物が適用されることが多い。ドライスタンプ材を適用すると、高温に曝される湯道の稼働面近傍が焼き固まって焼結体となり湯道壁面が形成される。一方、その背面はドライで未焼結な粉粒圧密体の状態が維持される。これにより、焼結体に亀裂が入り当該亀裂に溶湯が浸入(湯漏れの開始)しても、その溶湯の熱によって背面の粉粒圧密体が焼結し、それ以上の湯漏れの進展が阻止される。その結果、外装ケースに達するような湯漏れが回避される。
しかし、ドライスタンプ材を適用する場合でも、誘導加熱装置を構成する耐火物には微量の自由水や結晶水が含まれている。また、誘導加熱装置内には、誘導加熱装置の施工時に大気中に含まれていた水分が閉じ込められている。本発明者等は、これらの水分が湯道近傍の高温部で蒸発し、水冷構造とされている外装ケースやブッシング(湯道を形成する耐火物と誘導加熱コイルとの間に設けられる隔壁。湯漏れ検知アンテナの機能を兼用する場合が多い。)の近傍で結露することにより、外装ケースと湯漏れ検知アンテナとの間の電気抵抗値が低下することを発見した。
【0010】
チャンネル型誘導加熱装置は出力(印加電力)が大きいため、外装ケース及びブッシングを水冷構造とし、誘導発熱から外装ケース及びブッシングを保護する場合が多い。一方、湯漏れ検知アンテナは、耐火物の背面近傍、即ち、外装ケース及びブッシングの近傍に埋設される場合が多い。従って、チャンネル型誘導加熱装置が稼働中でも、湯漏れ検知アンテナの近傍は比較的低温が維持されている。そのため、チャンネル型誘導加熱装置の湯道を構成する耐火物の稼働面近傍から脱離した水蒸気が湯漏れ検知アンテナの近傍で結露し、外装ケースと湯漏れ検知アンテナとの間の電気抵抗値を低下させる。
【0011】
一般に、溶湯排出口の耐火物稼働面から炉体鉄皮にかけて架橋するように付着する地金が存在し、該地金によって外装ケースと誘導炉内の溶湯との間に電気的な導通が存在する場合が多い。このため、外装ケースと湯漏れ検知アンテナとの間の電気抵抗値の低下と、溶湯と湯漏れ検知アンテナとの間の電気抵抗値の低下とが区別できず、湯漏れ誤検知が発生する。
特に、誘導炉を待機状態(保熱操業状態)からスクラップ溶解状態(加熱操業状態)へ移行させる過渡期においては、チャンネル型誘導加熱装置の印加電力が低出力状態から高出力状態へ移行し、チャンネル型誘導加熱装置の湯道を構成する耐火物の稼働面近傍の温度が大きく上昇する。これに伴って、湯道近傍の高温部から発生した水蒸気が湯漏れ検知アンテナの近傍で結露することにより、湯漏れ誤検知が発生する。但し、チャンネル型誘導加熱装置が高出力状態になると、外装ケースの温度も印加電力による発熱等によって上昇するため、概ね1〜6時間後には結露がなくなり、湯漏れ誤検知は解消される。
【0012】
要するに、保熱操業から加熱操業に移行する際に一時的に発生する湯漏れ誤検知の原因は、チャンネル型誘導加熱装置が低出力状態から高出力状態へ移行して湯道温度が上昇するのに伴って、湯道稼働面近傍から蒸発した水分が、まだ温度上昇していない外装ケースの近傍で結露することによるものである。また、高出力状態が続くと、外装ケースの温度も徐々に上昇するため、外装ケースの近傍で結露した水分が再び蒸発することにより、湯漏れ誤検知が解消される。
【0013】
上記メカニズムによる湯漏れ誤検知を防止するため、本発明では、チャンネル型誘導加熱装置を用いた溶融金属の誘導加熱昇温方法を改善することにより、保熱操業から加熱操業に移行する際に一時的に発生する湯漏れ誤検知を防止する。
即ち、本発明は、溶融金属の流路を形成する耐火物を被覆する外装ケース及びブッシングに水冷管が付設され、前記耐火物中に湯漏れ検知アンテナが埋設された誘導加熱装置を用いた溶融金属の誘導加熱昇温方法であって、前記誘導加熱装置1基当たりについて、該誘導加熱装置の最大出力の20%以下の出力を8時間以上継続した後、該誘導加熱装置の最大出力の70〜100%に前記出力を上昇させる操作を、任意の20分間における前記出力の上昇速度の平均値が0.1MW/分以下となるように実施することを特徴としている。
【0014】
本発明では、保熱操業から加熱操業に移行する際に、外装ケースの近傍温度が露点より高くなるように、誘導加熱装置の出力(印加電力)の上昇速度を緩やかにすることにより、外装ケースの近傍における結露の発生を抑制する。
【0015】
ここで、「誘導加熱装置の最大出力の20%以下の出力を8時間以上継続」とは、最小出力操業(保熱操業)を意味する。本発明では、保熱操業から加熱操業に移行することを前提としているため、如何なる操業を行うと保熱操業となるのか明確にしたものである。
一方、「最大出力の70〜100%に前記出力を上昇させる」とは、誘導加熱装置を保熱操業から加熱操業へ移行させることを指す。なお、最大出力の70%以上としたのは、実操業では、最大出力の70%以上で加熱操業が実施されるからである。
【0016】
また、「任意の20分間における前記出力の上昇速度の平均値が0.1MW/分以下となるように実施する」としたのは、誘導加熱装置の出力を上昇させる際、通常、階段状に出力を上昇させる(例えば5分毎に1MWずつ上昇させる。)ため、平均値表記としたものである。
なお、0.1MW/分超の割合で出力を上昇させると、湯漏れ検知アンテナと外装ケースとの間の電気抵抗値が低下して湯漏れ誤検知が発生する場合があった。一方、0.1MW/分以下の割合で出力を上昇させると、湯漏れ誤検知は発生しなかった。出力の上昇速度の下限値としては、ゼロ超であれば理論的によいことになるが、あまり低くし過ぎると操業効率が低下することになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る溶融金属の誘導加熱昇温方法では、保熱操業から加熱操業に移行する際に、誘導加熱装置1基当たりについて、最大出力の20%以下の出力を8時間以上継続した後、最大出力の70〜100%に出力を上昇させる操作を、任意の20分間における出力の上昇速度の平均値が0.1MW/分以下となるように実施するので、外装ケースの近傍における結露の発生が抑制され、湯漏れ誤検知を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】誘導炉の模式図である。
【図2】(A)は本発明の一実施の形態に係る溶融金属の誘導加熱昇温方法が適用されるチャンネル型誘導加熱装置の平断面図、(B)はA−A矢視断面図である。
【図3】誘導加熱装置の外装ケース近傍における耐火物温度及び露点の温度分布を操業状態ごとに示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態に付き説明し、本発明の理解に供する。
【0020】
溶湯(溶融金属)を貯蔵する誘導炉10は、図1に示すように、両端面が封止された円筒形状とされ、炉体の中心軸が水平となるように支持台26上に設置されている。誘導炉10は鉄皮で覆われており、鉄皮の内側には耐火物層が形成されている。
誘導炉10の両側面下部には、誘導炉10の中心軸方向に間隔をあけてチャンネル型誘導加熱装置11(以下では、単に「誘導加熱装置」と呼ぶ。)が複数設置されている(本実施の形態では、片側3基、計6基設置されている。)。また、誘導炉10の一方の側面には、スクラップを装入するためのスクラップ装入口12が、他方の側面には、溶湯を投入するための受銑口(図示省略)と溶湯を排出するための出銑口(図示省略)が設けられている。
【0021】
各誘導加熱装置11は扁平な角柱状とされ(図2(B)参照)、誘導炉10の側面から外方に向けて突出するように設置されている。誘導加熱装置11は、溶湯が流れる流路13と、流路13に面して配置された耐火物18、19と、誘導加熱装置11を覆う鉄製の外装ケース17と、溶湯を加熱するための誘導加熱手段とを備え(図2(A)参照)、誘導炉10に貯蔵された溶湯の保熱及び加熱を行う。
【0022】
流路13は平面視して略「山」の字状とされ、誘導加熱装置11の中心軸に沿って形成された中央流路14と、中央流路14を挟んで両側部に形成された一対の側部流路15と、中央流路14及び一対の側部流路15と連通する、誘導加熱装置11の先端部に形成された端部流路16とから構成されている。誘導炉10に貯蔵された溶湯は、中央流路14から誘導加熱装置11内に流入し、端部流路16で左右に分岐した後、一対の側部流路15から誘導炉10へ向けて流出するループ状の湯道とされている。
【0023】
中央流路14と側部流路15との間に配置された耐火物19は平面視して「ロ」の字状とされ、耐火物19の内周面には銅製のブッシング20が内張りされている(図2(A)参照)。また、ブッシング20で画成された空洞部21の中央には、溶湯を加熱するための誘導加熱手段である誘導加熱コイル22が巻かれた鉄心23が配置されている。各空洞部21に配置された鉄心23は横架材24によって連結され、立面視して「ロ」の字状のヨークを構成している(図2(B)参照)。
誘導加熱コイル22に交流電流を流すことにより、鉄心23に磁束が発生する。この磁束が、流路13内を流れる溶湯からなる溶湯電路と鎖交することにより、溶湯電路内に誘導電流が発生し、この誘導電流によるジュール熱により溶湯が加熱される。一般に、1ターンの溶湯電路に発生する誘導電流は大電流となる。
【0024】
耐火物18、19の溶損又は亀裂等による湯漏れ(溶湯の漏洩)を検知するため、外装ケース17に接する耐火物18には外装ケース17に沿って、またブッシング20に接する耐火物19にはブッシング20に沿って、それぞれ湯漏れ検知アンテナ25が埋設されている。流路13と外装ケース17及びブッシング20との距離、則ち耐火物18、19の厚さは各々100mm〜400mm程度である。
また、外装ケース17とブッシング20には、各々を冷却するための水冷管(図示省略)が付設されている。誘導加熱装置11に付設される水冷設備は、誘導加熱装置11の定格出力に見合った冷却能力を発揮するように設計されるため、低出力状態では冷却過剰となっている。
【0025】
次に、本発明の一実施の形態に係る溶融金属の誘導加熱昇温方法について説明する。
耐火物18、19はドライスタンプ材あるいは乾式ラミング材と呼ばれる粉粒状の不定形耐火物で構成されており、耐火物18、19には微量の自由水や結晶水が含まれている。また、スタンプ材はランマーで打ち込み施工されるため、誘導加熱装置11の施工に伴って、大気中に含まれる水分が誘導加熱装置11内に閉じ込められることになる。大気中に含まれる水分は施工時季によって変化するため、誘導加熱装置11内に閉じ込められる水分量も施工時季によって変化するが、夏の室温・湿度と冬の室温・湿度の間、概ね温度5〜35℃、湿度40〜70%の大気に含まれる水分量と考えてよい。
【0026】
上述したように、誘導加熱装置11内には必ず水分が存在しており、この不可避的に存在する水分が湯漏れ誤検知を誘発する。則ち、保熱操業から加熱操業に移行する際に、流路13の近傍から蒸発した水分が、まだ温度上昇していない外装ケース17の近傍で結露する。その結果、外装ケース17と湯漏れ検知アンテナ25との間の電気抵抗値が低下して湯漏れ誤検知が発生する。
【0027】
そこで、本実施の形態に係る溶融金属の誘導加熱昇温方法では、誘導加熱装置11一基当たりについて、誘導加熱装置11の最大出力の20%以下の出力を8時間以上継続した後、誘導加熱装置11の最大出力の70〜100%に出力を上昇させる操作を、任意の20分間における出力の上昇速度の平均値が0.1MW/分以下となるように実施する。
【0028】
図3は、誘導加熱装置11の外装ケース17近傍における耐火物温度及び露点を耐火物の厚み方向の位置を横軸にして表したグラフであるが、耐火物温度と露点は操業状態によって異なる分布を示す。図中、Aの線は保熱操業時の耐火物温度を、Bの線は加熱操業時の耐火物温度を表している。また、C1及びC2の線は保熱操業から加熱操業に移行する過渡期の耐火物温度であって、C1は出力の上昇速度を0.1MW/分超とした場合、C2は出力の上昇速度を0.1MW/分以下とした場合をそれぞれ表している。
一方、A0の線は保熱操業時の露点を、B0は加熱操業時の露点を表している。また、C0は保熱操業から加熱操業に移行する過渡期の露点を表している。
【0029】
なお、上記シミュレーションにおける耐火物厚さは100〜400mm、溶湯温度は1300〜1500℃とし、実際に操業に使用されている範囲とした。また、炉体の放散熱量は温度によらず一定とした。
【0030】
図3のグラフから以下のことがわかる。
(a)外装ケース17が冷却されているため、外装ケース17に近づくほど耐火物温度が低くなっており、保熱操業時における外装ケース17(耐火物厚み0mm)の温度は30℃、加熱操業時における外装ケース17の温度は40℃である。保熱操業から加熱操業に移行すると、誘導加熱される流路13の溶湯温度が上昇し、タイムラグを伴って外装ケース17の温度も上昇を開始する。出力の上昇速度が0.1MW/分以下の場合、流路13の溶湯温度が緩やかに上昇するため、外装ケース17内面から14mm程度までの耐火物温度は全体的に徐々に上昇する。一方、出力の上昇速度が0.1MW/分超の場合は、流路13の溶湯温度が速やかに上昇するため、外装ケース17内面から5mm程度までの耐火物温度はほぼ変動せず、外装ケース17から5〜14mmの部位の耐火物温度が上昇する。
(b)耐火物温度が100℃以上の領域では、耐火物中の吸着水が蒸発し、水分量が減少する。逆に、耐火物温度が100℃未満の領域は水分量が多い(露点が高い)。但し、耐火物は通気性を有しているため、水分量に大きな偏りは無いものと考えられる。
(c)加熱操業時は、保熱操業時に比べて100℃未満の領域が減少するため、100℃未満の領域の水分量(露点)が上昇する。則ち、保熱操業から加熱操業への移行に伴って、外装ケース17の近傍では露点が上昇する。
【0031】
(d)耐火物温度が露点より低い場合、結露する可能性が高い。結露が発生すると、湯漏れ検知アンテナ25と外装ケース17との間の電気抵抗値が低下し、湯漏れ誤検知の原因となる。保熱操業時はA>A0、加熱操業時はB>B0となり、共に耐火物温度が露点より高いため、結露が発生することはない。
(e)保熱操業から加熱操業への移行(出力の上昇)が急なC1(出力の上昇速度が0.1MW/分超)の場合は、耐火物温度<露点(C1<C0)の関係が成り立つ時間が長い(概ね1〜6時間)領域があり、結露が発生しやすい。これに対して、保熱操業から加熱操業への移行(出力の上昇)が緩やかなC2(出力の上昇速度が0.1MW/分以下)の場合は、耐火物温度<露点(C2<C0)の関係が成り立つ時間がC1に比べて非常に短いか、若しくは成り立つ領域が無いため、結露が発生しない。
【0032】
以上より、保熱操業から加熱操業への移行が緩やかなC2(出力の上昇速度が0.1MW/分以下)の場合が望ましいことがわかる。
【0033】
表1は、誘導加熱装置11の最大出力の20%の出力を8時間以上継続した後、誘導加熱装置11の最大出力の70%に出力を上昇させる操作について、出力の上昇速度と湯漏れ誤検知の回数との相関性を示したものである。ここでは、電気抵抗値の低下回数を湯漏れ誤検知の発生回数とみなし、各上昇速度について100回実施した際の湯漏れ誤検知回数を示している。
【0034】
【表1】

【0035】
同表より、出力の上昇速度を低下させると、湯漏れ誤検知の発生回数が減少し、特に出力の上昇速度を0.10MW/分とすると、湯漏れ誤検知が発生しなかったことがわかる。
なお、誘導加熱装置11の出力を最大出力の70%超に上昇させた場合においても上記と同様の結果であった。一方、誘導加熱装置11の出力を最大出力の60%台に上昇させた場合は、出力の上昇速度にかかわらず湯漏れ誤検知が発生しなかった。
【0036】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【符号の説明】
【0037】
10:誘導炉、11:チャンネル型誘導加熱装置(誘導加熱装置)、12:スクラップ装入口、13:流路、14:中央流路、15:側部流路、16:端部流路、17:外装ケース、18、19:耐火物、20:ブッシング、21:空洞部、22:誘導加熱コイル、23:鉄心、24:横架材、25:湯漏れ検知アンテナ、26:支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の流路を形成する耐火物を被覆する外装ケース及びブッシングに水冷管が付設され、前記耐火物中に湯漏れ検知アンテナが埋設された誘導加熱装置を用いた溶融金属の誘導加熱昇温方法であって、
前記誘導加熱装置1基当たりについて、該誘導加熱装置の最大出力の20%以下の出力を8時間以上継続した後、該誘導加熱装置の最大出力の70〜100%に前記出力を上昇させる操作を、任意の20分間における前記出力の上昇速度の平均値が0.1MW/分以下となるように実施することを特徴とする溶融金属の誘導加熱昇温方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−180572(P2012−180572A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45381(P2011−45381)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】